少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
「それは本当ですの?」
「嘘ついてないでしょうね?」
「本当だってば!学年別トーナメントで優勝すれば、食堂のデザート1ヶ月分奢ってもらえるんだよ!?」
セシリアと鈴音は信じられない様子だったが、一組の女子たちは盛り上がっていた。
「それが本当なら、スイーツ天国だわ!!」
「織斑君、私たち頑張るから見ててよね!」
「おう、頑張ってくれ」
一夏は彼女たちを応援することにした。
「貴様も戦うんだぞ、馬鹿者」
千冬が出席簿アタックを放つ。
ゴンッ!!
「痛ってぇ!?」
一夏は自分の頭を手で押さえた。
シャルロットはそれをスルーして、挙手する。
「先生!優勝したら一夏がデザート奢ってくれるって、本当なんですか!?」
「何故それを私に聞く。本人に聞け」
一夏は眼を見開いたまま固まっていた。
「うん。本当だ。任せておけ!」
「本当にいいの!?やったあーっ!!」
クラス中が歓声を上げる。
「ちょっと待って!今の声は誰だ!?俺は何も喋ってない!」
その声は女子達の黄色い歓声にかき消された。その女子達は千冬の拳と出席簿によって沈黙した。
それから、授業が始まった。しかし、誰も集中できずにいた。皆、目が血走っている。
(何故だ。どうしてこうなった……)
一夏は頭を抱えた。
(な、何故このようなことに……)
箒も心の中で頭を抱えていた。
(私と一夏だけの約束だろうっ!どうしてクラス中に……)
箒は、自分が廊下で「優勝したら付き合ってくれ」と叫んだことを忘れていた。
(しかも、デザートってなんだ!?)
人から人へ伝言される度に『付き合う』から『デート』、『デート』から『デザート』へと変化したらしい。『付き合う』の『付き』は『月』にも変化したそうだ。
一時間目終了後。一組女子一同は打倒セシリアに向けて団結していた。
「まずは入試主席のオルコットさんを倒さなくちゃいけないわ!」
「あの金髪ドリルを凹ましてやるわ!」
「覚悟なさい!」
シャルロットもその輪に加わる。
「でも、どうやってセシリアを倒す?」
クラス代表である一夏の意見に耳を傾けようと、一夏を囲むように集まり出す。
「うーん……零落白夜なら一撃で終わりだけど……」
一夏は腕を組んで考えた。
「あ、そうだ。オルコットさんを倒して有頂天になった織斑君を、遠距離から狙撃するというのはどうかな?」
一人の生徒が意見を出すと、他の生徒達もそれに賛同する。
一撃必殺でセシリア戦に勝利し、慢心した一夏を、遠くから狙撃。確かに有効な作戦だが、問題がある。
「でも、それだと織斑君とオルコットさんが決勝で当たったらダメだよね」
「待て待て。俺、倒されたくないんだけど」
一夏の一言で、その場が凍りついた。
「いや、その反応はおかしいだろ」
すると、「はい!」と勢いよくシャルロットが立ち上がった。
「1試合に1機、ビットかライフルを壊すれば、決勝は楽勝じゃない?」
「待って、決勝前に当たった人は捨て駒なの!?」
クラスメイトはシャルロットに抗議する。
「優勝者が協力者にデザート1回分奢る。それでどう?」
シャルロットは笑顔でそう言った。
「それいいかも!ついでに他の専用機もやっちゃおう!」
こうして、学年別トーナメントの、穴だらけの必勝法が決まってしまった。
一夏は、ため息をつく。一組の女子達の結束力の高さを思い知ったのだった。
昼休み。学園の食堂。
ラウラは、黙々と箸を進めていた。
彼女の目の前には、天ぷら定食が置かれている。揚げたての海老天が食欲をそそる。
ラウラは食事の手を止め、考え事をしている様子だった。
そこへ、鈴音がやってきた。彼女はラーメンとチャーハンが載っているトレイを持っていた。
「隣いい?」
「構わない」
鈴音は椅子を引き、腰を下ろす。
すると、鈴音は唐突に語り始めた。
「あのね、あたし……昔、中国に住んでたことがあるの」
「今も住んでいるだろう?」
ラウラは首を傾げる。
「少し前は日本に居たのよ。1年くらい前までだけど」
鈴音は、どこか懐かしそうな表情を浮かべる。
「あたしさ、日本に来たばっかりの頃は日本語全然喋れなくて、周りに馴染めなかった。それで、いじめられてたのよ」
鈴音は日本に来て間もない頃、中国人ということで周囲から浮いていた。
それは当時の彼女にとって、とても辛いことだったらしい。
その辛さから逃れるために、鈴音はよく一人になることが多かった。
そこに、一人の少年が現れたのだ。
その少年の名は、織斑一夏。
一夏は鈴音に手を差し伸べ、彼女を孤独から救った。
「あいつは、あたしに色んなことを教えてくれた。学校のこと、友達のこと、家族のこと……いろんなことを教えてもらった」
一夏のおかげで、鈴音はクラスに馴染み、明るくなった。
「なんだ、急に昔話をして」
ラウラは不思議そうに訊く。
「なんとなくよ。ちょっと話したかっただけ」
鈴音は照れたように笑う。
そして、真剣な目で、ラウラを見つめた。
「ねえ、あんた……一夏が好き?」
「……なぜそんなことを訊く?」
「質問してるのはこっちよ」
鈴音は真剣な眼差しで見つめ続ける。
しばらく沈黙が続き、やがてラウラは答えた。
「私は奴が嫌いだ」
その一言に、鈴音は一瞬キョトンとした顔をした。
しかし、次の瞬間に吹き出す。
「ぷっ!あははははは!」
突然笑い出した鈴音を、ラウラは睨みつける。
「何がおかしい?」
「嫌いだって言う割には、結構気にかけてあげてるじゃない」
「別に気にかけたりなどしていない」
ラウラは、不機嫌そうに言った。
「嘘っぽいわね。ま、好きって言われても困るけど」
鈴音は、悪戯っぽく笑った。
ラウラはさらに眉間のシワを深くする。
「ふん」
ラウラは鼻を鳴らして食事に戻った。
鈴音も、ラーメンを食べ始める。
2人はそれ以上は何も言わず、ただ静かに食事をしていた。
その頃、一夏、箒、セシリア、そしてシャルロットは屋上に集まり、昼食をとっていた。
シャルロットが急に立ち上がって叫ぶ。
「一夏、危ない!!」
突然シャルロットは一夏に覆い被さった。
一瞬遅れて、一夏は何かが高速で飛来してきたことに気づいた。
それはセシリアの肩を掠め、フェンスに着地する。赤いインコだ。
インコは素早く、まるで弾丸のような速度で飛び回る。
シャルロットは一夏を守るように、一夏を抱きしめた。
インコはシャルロットの肩に止まった。一夏は驚いて声を上げる。
「ちょ、シャルル!?」
箒は箸を落とした。
セシリアは開いた口が塞がらない様子。
箒とセシリアの様子を見て、シャルロットは一夏を突飛ばし、慌てて弁解を始める。
「ち、違うよ!僕は別に一夏とそういう関係じゃなくて……!これは友達として!一夏を守るためであって!その……」
必死に言い訳をするシャルロットを、一夏は苦笑いしながら見ていた。
セシリアがハッとする。
「ああ、シャルルさんは女──」
セシリアが喋り終わる前に、一夏はセシリアの口を手で覆った。
一夏はそのままセシリアを引き寄せて、自分の胸に抱き寄せる。
箒は驚愕し、鈴音は羨ましそうな表情を浮かべ、セシリアは顔から湯気が出そうになるほど顔を赤くし、シャルロットは硬直した。
「しー……それ以上言うな、セシリア。秘密にしてくれ」
一夏は小声で注意した。セシリアはコクコクと何度も首を縦に振る。
箒が殺気立った目で睨みつけてきた。シャルロットはまだ固まっている。
一夏はそっとセシリアを解放した。
「悪い、セシリア。いきなりこんなことして」
「……ふぇ」
「へ?」
バタン。
セシリアは目を回し、倒れた。
一夏が呼びかけても返事がない。
「あれ?おい、セシリア!」
セシリアは気絶していた。
一夏は困惑しながらも、セシリアをお姫様抱っこして保健室に向かった。
残された女子2人は、複雑な表情をしていた。
箒は箸を拾い、弁当をかき込むようにして食べる。
シャルロットは箒をチラリとを見た後、購買の焼きそばパンの焼きそばをフォークで巻き取った。
インコは大空へ飛翔した。
放課後。保健室で目を覚ましたセシリアは、一夏が看病していることに気づき、また意識を失った。
その時、出入口の扉が開く。
「織斑くん!私とペア組もう!」
「あ、ずるい!織斑くん、私と組んで!」
「ちょっと!織斑くん、私と組むわよね?」
女子達が雪崩れ込み、一夏を取り囲んだ。
「何の話だよ?」
一夏はわけがわからず尋ねる。
「織斑くん、これ見て」
女子の一人が、一夏に『緊急告知』と書かれた紙を見せた。その内容は、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選で選ばれた生徒同士で組むものとする。』というものだった。
「つまり、学年別トーナメントに参加するには、まず誰かとタッグを組まなきゃいけないってことか?」
「うん、そう」
一夏の言葉に、一人の女子が答える。
「でも、なんで俺と……」
一夏は、自分に群がる理由が分からなかった。
「だって、専用機持ってるのって、今のところ5人だけでしょ?その一人と組めたら、ラッキーじゃない」
「ああ、そういう……」
一夏は納得した。確かに、この学年で専用機を持っているのは、一夏とセシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの5人だけである。
「しかも、更にレアな男子だしね」
別の女子が付け足すように言った。
「では、この中で1人を選ぶとしたら誰がいいですか!?」
司会役らしき女子がマイクを片手に叫ぶ。一夏は戸惑った。
(なんだこれは?)
すると、周りの女子達が詰め寄ってきた。
「お、俺は……うおっ」
一夏は女子達に飲み込まれ、身動きが取れなくなった。
そのまま一夏は胴上げされる。
「わっしょい!わっしょい!」
「ちょっ、やめろよ!?天井が近いって!」
一夏はもがくが、脱出できない。
(くそ、なんでこんなことに……)
一夏は必死に抵抗するが、結局されるがままになっていた。
その様子を、シャルロットは遠くから見ていた。
「大変そうだなぁ……。でも、楽しそうだなぁ……。僕も混ざろっかな……」
シャルロットは、羨ましそうに呟いた。
その隣にいたラウラは、腕を組んでいる。
「あの程度の包囲を抜けられぬとは、情けない奴だ」
「えー……あれじゃ無理だと思うけど……」
シャルロットは苦笑いした。
ラウラは、フンッと鼻を鳴らす。
「見本を示そう。確かと見よ、ドイツ軍人の力を」
ラウラはそう言って、女子達の群れに突っ込んでいった。
「お前達!どけ!邪魔だ!道を空けろ!」
女子達は一瞬、ラウラの威圧感に気圧されたが、すぐに気を取り直してラウラを取り囲む。
「はい!わっしょい!わっしょい!」
ラウラは、あっという間に女子達の中に消えていった。
数分後、息切れしながら出てきたラウラを見て、シャルロットは呆れた表情を浮かべた。
「見本になってないと思うんだけど……」
「自力で脱出したぞ」
ラウラはドヤ顔で言うが、シャルロットは乾いた笑い声をあげるだけだった。
(わたくしが気絶している間に一体何があったんですの!?)
セシリアはそっとベッドから抜け出し、出口へ向かう。
「あ!オルコットさんだ!」
しかし、セシリアはすぐさま見つかり、囲まれてしまった。
「あ、えーと……」
セシリアは、引きつった笑顔を返す。
だが、彼女達は気にせず喋り始めた。
「ねえ、ペア決まってる?」
「よかったら、私と組んでくれない?」
「私もお願い」
「いや、わたくしは……」
セシリアは困り果てる。
そして、セシリアも胴上げされた。
「わっしょい!わっしょい!」
セシリアは薄れゆく意識の中で思った。
(もう……好きにしてくださいまし……)
ラウラは再びドヤ顔を決めた。
「私は脱出できたぞ」
「うん。すごいね」
シャルロットは素直に賞賛する。
その後、ラウラはまたもや女子達に捕まり、胴上げされた。
「わっしょい!わっしょい!」
「いい加減にしろ貴様らァ!!」
ラウラは怒鳴るが、効果はなかった。
シャルロットはその様子を見て、ポツリと呟く。
「一方にやられている。やっぱり見本になってないよ」
シャルロットは呆れた様子でラウラを見つめていた。
この騒ぎはトーナメント当日まで続いた。
結局、専用機持ちは誰もペアを組むことが出来なかった。
一夏のペアは抽選によりセシリアと決まった。
「しかし、すごいなこりゃ……」
一夏は男子更衣室のモニターから観客席の様子を見ている。そこには各国政府関係者、研究所員、企業エージェントなどの姿もあった。
「三年生にはスカウト、二年生には一年間の成果の確認にそれぞれ来ていますから」
「なるほど……ん?」
一夏は、あることに気づく。
「なんでここにいるんだ!?男子更衣室だぞ!?」
「あら?そうでしたの?間違えてしまいましたわ」
セシリアはてへぺろといった感じで舌を出す。
「まあいいか……。いや、よくないな」
「そんな事より、そろそろ対戦表が発表される時間ですわね」
画面が切り替わり、トーナメント表が表示される。
(俺はAブロック、ラウラはBブロックか……。ラウラと戦うなら準決勝まで勝ち進まないと駄目だな……)
一夏は心の中でつぶやく。
(Aブロックの専用機持ちは俺達だけだが、油断はできない)
そう考えているうちに試合開始時刻となった。
一方、女子更衣室。
「なんでアンタがあたしのペアになってんのよ!」
鈴音は怒りの形相でラウラに詰め寄っていた。
ラウラは困惑した顔で答える。
「抽選で決まったことだ。早くペアを決めなかったお前が悪い」
「あたしは一夏と組みたかったのに、変な集団が邪魔してきたのよ!?逃げるので精一杯だったわよ!」
鈴音はギャーギャーと喚き散らす。「わっしょい!」の掛け声から逃げ回っているうちに申請が締め切りとなり、抽選でペアが決まってしまったのだ。
「私は逃げなかった」
「逃げられなかったの間違いでしょ!」
二人は言い争いながら、アリーナのピットへ向かう。
「不満があるなら隅で縮まっていろ。二対一でも私が勝つ」
「わかった。試合中は丸まって転がってるわ」
「戦え」
『次回予告』
「ついに今日から男子の大浴場が解禁されます!」
「それもそうだね」
「うわーん、良かったねー」
「私は今までずっと強さだけを求めてきた」
「じゃ、またね〜」
「へっ?そんなにショックなのか!?」
次回『ファインド・アウト・マイ・マインド?』
「魂の一撃か……お前は強いな」