少し変わったインフィニット・ストラトス   作:みるほん

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第八話『ファインド・アウト・マイ・マインド?』

 トーナメント準決勝が始まる。

 鈴音とラウラがピットから出てくる。甲龍は両肩の龍咆が使用不能。シュヴァルツェア・レーゲンはレールカノンが使用不能、6本のワイヤーブレードは根元から切断されている。

 準決勝までの試合で執拗に攻撃され、1試合毎に武装が使用不可になる状態に追い込まれてきたからだ。

 

「アイツらなんなのよ! 特にシャルルと箒!」

 

 鈴音は忌々しげに叫んだ。

 一方、ラウラは平然としている。

 

「AICとプラズマ手刀があれば、勝てる」

 

 そこへ一夏とセシリアも現れる。

 

「背中が寂しいわね」

「うぅ……。本国から何と言われるか……」

 

 ブルー・ティアーズのビットは全機撃破されていた。

 ブルー・ティアーズが執拗に狙われていたため、白式のダメージは比較的少ない。

 

「ラウラ、約束通り勝ち残った。勝負だ」

 

 一夏はラウラへ告げた。

 

「……いいだろう。叩き潰してやる」

 

 ラウラは一夏を睨みつけた。

 試合が開始される。

 試合開始直後、一夏は瞬時加速でラウラとの距離を詰め、雪片弐型を振り下ろす。

 

「開幕直後の先制攻撃か。分かりやすいな」

 

 ラウラは右手を突き出すと、AICを発動させる。

 その瞬間、一夏の動きが止まる。

 

「そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」

 

 ラウラは両手を必死に伸ばすがプラズマ手刀は届かない。ラウラはゆっくりと歩き始めた。

 

「一対一ではAICを掻い潜れない。……だか、今回はタッグだ。セシリア、頼む!」

 

 しかし、援護射撃は来ない。

 

「今は無理ですわ!」

 

 ライフルだけでは鈴の相手で精一杯だ。

 

「当てが外れたな」

 

 ラウラは右のプラズマ手刀を一夏へと突き出した。

 

(一対一でラウラに勝つためには……)

 

 プラズマ手刀がヒットし、AICが解除された瞬間、一夏は前に加速する。

 零落白夜を発動させた雪片二型を横薙ぎに振るった。

 ラウラはシールドエネルギーを大きく削られるが、咄嗟に左のプラズマ手刀で逸らす。

 

「まだだ!」

 

 そのまま一夏は袈裟斬りを放つが、ラウラは後ろに下がってかわす。

 お互いのエネルギーは僅か。

 次の一撃が勝敗を決する。

 

「同じ手は使えないぞ?」

「そんなことはわかってるさ」

 

 二人は構え直す。

 一夏は雪片を上段に、ラウラは両腕を前に突きだす。

 二人の間に緊張が走る。

 

「一夏! 一騎討だ! 付き合え!!」

「上等だ! かかってこい!」

 

 そして、同時に飛び出した。

 

「行くぜ! うおおぉぉぉっ!」

「来い! おおおぉぉっ!」

 

 両者の渾身の一撃が交差する。

 一瞬の静寂の後、ラウラは両膝を着く。

 

「魂の一撃か……お前は強いな」

 

 ラウラは呟いた。

 

「俺は強くない。どうして停止結界を使わな──」

「えい」

 

 双天牙月が一夏の頭に振り下ろされた。

 

「え?」

 

 試合終了を告げるブザーが鳴った。

 

『試合終了! 勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ&鳳鈴音ペア!』

 

 アナウンスが流れる。

 

「いやー、ギリギリの勝利だったわね」

 

 鈴音は汗を拭いながら言う。

 

「あ、いや……」

「気にすることないわよ、ラウラ。アンタはよくやったわ。後は決勝ね」

 

 鈴音は満足げな表情で言った。

 その眼下では、一夏が頭を押さえて悶絶している。

 

「うぅ……。タッグ戦だからな……。でも、こんな負け方って……」

 

 一夏は涙目で呟く。

 彼らから少し離れた場所では、セシリアが半ばから折れたスターライトmkIIIを拾い上げている。

 

「ブルー・ティアーズ……また傷ついて……。本国になんと報告すれば良いのでしょう……」

 

 セシリアは自分の不甲斐無さに涙を流していた。

 その二人の様子を見たラウラは静かに微笑む。

 

「こんな……こんな虚しい勝利など……。強さとは、なんなのか……私にはもうわからない……」

 

 ラウラは地面に手をついて落ち込んだ。

 鈴音はラウラの肩に手を置いて語りかける。

 

「いいのよ、ラウラ。アンタは間違ってない。でも時には、力なき正義は無能な悪になるのよ」

「何の話をしているんだ?」

 

 セシリアも慰めるようにラウラの頭を撫でながら話す。

 

「ラウラさん、強く生きてくださいまし……」

「強く生きているつもりだったが、弱かったか……」

 

 ラウラの心にダメージを与えた。

 

「おい、なんか変な空気になってないか?」

 

 一夏は鈴音のほうを見る。しかし、彼女は何も言わずに、ただ笑顔を返してきた。

 

「なんだよその顔……何も考えてなさそうだな」

「んなわけないでしょ。人は常に何かを考えている生き物なのよ」

「いや、そんな一般論で話されても……」

 

 一夏は困ったような顔をした。

 

 すると、鈴音は一夏の腕を掴んで引っ張った。

 

「まぁ、細かいことはいいじゃない。とりあえず、ピットに戻ろう」

「ああ、うん」

「ほら、ラウラもセシリアも早く!」

 

 一夏は引きずられるようにアリーナを出ていった。

 それを見送った後、セシリアは気づく。

 

「あ、観客席に担当の方がいましたわ。報告の必要はないですわね」

 

 その後、セシリアは怒られてしまった。

 

 そして、決勝戦。

 

「うおぉぉぉっ! かかってこいやぁっ!」

 

 鈴音は青龍刀を構えて叫ぶ。気合いだけは十分だ。

 一方、ラウラは虚空を睨みつけて微動だにしない。何をしているのだろうか。

『さあ、やってまいりました、1年学年別トーナメント、優勝戦!! 実況は新聞部の黛薫子と──』

『ここは生徒立ち入り禁止だ』

『織斑先生! どうしてここに?』

『聞こえなかったのか? 早く出ていけ』

 

 アリーナのスピーカーから悲鳴が響いた。

 

「うわぁ。千冬さん、こわっ」

 

 鈴音が呟いた直後、試合開始のブザーが鳴った。

 瞬間、鈴音に集中砲火が浴びせられる。

 

「うわっ! ちょっと、いきなり撃ってくるなんて卑怯者!!」

 

 意識が逸れていた鈴音は避けきれず、あっという間にシールドエネルギーは尽きた。

 ラウラも虚空を眺めている間にやられた。途中、シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれたが、躊躇ない飽和射撃により瞬殺された。

 

『試合終了! 勝者、更識簪&布仏本音ペア!!』

 

 ブザーが鳴り響く。

 

「最後、シュヴァルツェア・レーゲンがおかしかった……電気みたいなの出して……」

「う〜ん。たぶん静電気だよ」

「静電気?」

「そ。だってほら、今日は乾燥してるでしょ?」

「ああ、なるほど」

 

 この日は六月としては珍しく、空気が乾いていた。彼女達の肌はそれを敏感に感じとり、少しかさついていた。

 

 

 

 

 

 

「ふー、ごちそうさま〜」

「くっ……。食べ過ぎだ……」

 

 満足そうな本音と対照的に、頭を抱える一夏。

 優勝祝いに食堂でデザートを奢っていたのだ。

 

「じゃ、またね〜」

 

 本音は一夏に手を振って去っていく。

 一夏も手を振り返すが、内心は穏やかではない。

 

「どうしよう……これが1ヶ月続くのか……」

「ドンマイ、一夏」

 

 シャルロットは一夏の肩に手を置いた。

 その手にはアイスクリームが握られている。

 

「あ、織斑君にデュノア君。ここにいましたか」

 

 山田真耶が現れた。

 

「朗報です。なんとですね! ついに今日から男子の大浴場が解禁されます!」

「おお! そうなんですか!」

 

 一夏とシャルルは喜び勇んで着替えを取りに行った。

 

(いや、待てよ。何かがおかしい……なんだ?)

 

 一夏は疑問を覚えた。

 

(そうか、大浴場が使えるのは来月からだったはず……)

 

 何か裏があるのではないか? 一夏はそう考え、山田先生のいるだろう職員室へ向かった。

 

「あれ?」

 

 だが、そこには誰もいなかった。狐の仕業だろうか。

 その時、背後で声がした。

 

「一夏、どうしたんだ?」

 

 振り向くと、そこには箒がいた。

 

「狸かもしれない」

「狸? 学園に紛れ込んだのか……あ、警備員さん!」

「はい、何かありましたか?」

 

 箒は偶然通りかかった警備員を呼び、事情を説明した。

 

「それは大変だ。急いで探します。……今夜は狸汁かな?」

 

 そして、警備員が確認すると、すぐに不審な人物が捕獲されたが、狸は見つからなかった。

 

「これで良かったのかもしれない。狸にとっては、人に捕まるより幸せかもしれないからな」

「そういえば箒。先月の約束だが、付き合ってもいいぞ」

「なっ!?」

 

 箒の顔が真っ赤に染まった。

 

「いいのか!?」

「買い物くらい」

 

 箒の頭から角が生え、赤鬼になった。比喩表現である。

 

「そんなことだろうと思ったわ!」

 

 箒の正拳突きが一夏を捉える。

 

「くっ」

 

 バックステップで衝撃を軽減し、体勢を立て直す一夏。

 一夏に箒の怒濤の攻撃が続く。

 

「お前はっ! どうしてっ! いつも! そうなんだっ!!」

「何がだよ!?」

 

 箒の猛攻を捌きながら、後退する一夏。

 

「この朴念仁がぁっ!」

 

 怒り狂う箒が溜めの姿勢になった瞬間、一夏は素早く窓から外へ飛び出した。

 

「逃がすかっ!」

 

 箒も飛び出し、空中で組み合う二人。

 一夏の右腕を掴んだ箒は、そのまま一夏を背負い投げし、地面に叩きつけた。

 一夏は受け身を取るも、ダメージは免れない。

 

「ぐうっ……」

「ふん」

 

 箒はそれで満足したのか、バク転で窓から廊下へ戻った。

 

「何だったんだ、あいつ……」

 

 呆気に取られる一夏。

 

「狸かもしれない」

 

 一夏は壁をよじ登って室内へ戻った。

 

 

 

 

「……一夏遅いな」

 

 一方、シャルロットは大浴場の湯船に浸かりながら一夏を待っていた。

 

「そうだね〜」

 

 シャルロットの隣には本音が座っている。

 

「ぎゃああああああっ!!」

 

 大浴場に絶叫が響き渡った。

 

「どうしたのかな〜?」

 

 本音は呑気そうに言う。

 

「こ、ここは男子浴場……」

 

 シャルロットは呟く。

 

「てへ……間違えちゃった」

 

 本音は頭をかきながら湯船を出る。

 シャルロットは顔を紅潮させ、涙目になっていた。

 

「完全に裸を見られた……。僕が女だってバレた……。あはは……はははははは……」

 

 シャルロットの口から乾いた笑い声が漏れる。

 

「ドンマイ」

 

 本音の励ましの言葉が虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 翌朝のホームルームには、シャルロットの姿はなかった。

 

「み、皆さん、おはようございます……」

 

 山田先生の声にも張りがない。過労に違いない。

 

(教職はブラックだって聞いたことがあるけど……大丈夫なのか?)

 

 心配になる一夏であった。

 

「今日は転校生を紹介します……」

 

 山田先生の言葉を聞き、教室中が色めき立つ。

 

「え? この時期に?」

 

 誰かが漏らす。一夏も同意見だ。

 

「じゃあ、入ってください」

「失礼します」

 

 その少女は堂々と入室し、教壇の横に立つ。

 

(シャルルがスカートを穿いている……)

 

 一夏は複雑な心境でシャルロットを見つめていたが、視線が合うとシャルロットはウインクをしてきた。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします」

 

 金髪碧眼の少女はどこか吹っ切れた笑顔で自己紹介をした。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした」

「女の子!?」

 

 一組の生徒達がざわめく。

 

「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけか!」

 

「でも、ちょっと待って。昨日って男子が大浴場使ってなかった?」

「ま、まさか二人で入ったの!?」

「許せん!」

「誤解だ! 俺は大浴場使ってない!」

 

 騒ぎが大きくなる。

 何故か一組の教室にいた鈴音は、机に突っ伏して眠りこけていた。昨夜、深夜アニメをリアルタイムで視聴していたため寝不足なのだ。

 

「あ、あの……皆さん、まだHRの途中ですよ~!」

 

 山田先生が慌てて鎮めようとするが、クラスメイト達は興奮冷めやらぬ様子で、誰も聞いていない。

 鈴音に至っては寝返りすらしている。

 

「皆様、冷静に。日本には混浴の温泉もありますし、一緒にお風呂に入るくらい問題ないでしょう」

「それもそうだね」

「いやいや! 問題大ありだからね!?」

 

 鈴音はガバッと起き上がり、突っ込みを入れた。

 

「鈴、起きたのか」

 

 一夏は鈴音に声をかける。

 

「うん、今さっきね。それより……」

 

 鈴音は一夏に耳打ちする。

 

「今、何の話してるの? なんか凄く騒いでいるんだけど」

「ああ、実は……」

 

 一夏は事情を説明しようとすると、ドアが開いた。クラスメイト達の注目が集まる。入ってきたのはラウラである。

 

「間に合ったか……」

「遅刻ですわよ」

 

 セシリアが注意する。

 

「申し訳ない。道に迷ってしまった。人生と言う名の迷宮でな」

「ほお。わたくし、日本語は堪能なつもりでしたが……今のお言葉をもう一度」

「私の世界は暗闇に閉ざされていた。光を探して彷徨い続けた果てに、ようやくこの教室へたどり着いたのだ」

 

 クラスメイト達は息を呑む。

 

「そうですか。ご愁傷さまです」

「貴様にはわかるまい。暗闇の中にいる孤独感が」

 

 ラウラの瞳は、どこか寂しげだった。

 

「何、この空気。重いんですけど。遅刻した言い訳、言っただけでしょ?」

 

 鈴音は戸惑う。

 

「しかし、そんな私に手を差し伸べてくれた人がいた。それが教官だ」

「織斑先生が?」

「私は誓った。必ず教官のような立派な軍人になると……」

 

 ラウラの顔に自嘲的な笑みが浮かぶ。

 

「いや、千冬姉は軍属じゃないぞ」

 

 一夏はボソッと呟く。

 

「なん……だと……」

 

 ラウラは目を見開く。

 

「私が間違っていたというのか……」

 

 ラウラは膝から崩れ落ちる。

 

「なんてことだ……、私はもう生きる価値などないというのか……」

 

 その目は虚ろで、焦点が合っていない。

 クラス全員が気まずそうな表情を浮かべる。

 

「へっ? そんなにショックなのか!?」

 

 一夏は叫ぶ。ラウラは静かに語り始めた。

 

「私は今までずっと強さだけを求めてきた。誰にも負けない最強の兵士になるために。だが、それでは駄目だったんだ。人は一人では生きていけない……。一人は辛い……」

 

 ラウラの頬を一筋の涙が流れる。

 

「大丈夫だよ、ラウラ。僕達がいるじゃないか」

「シャルロット……」

 

 シャルロットは聖母のように慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、ラウラの頭を撫でる。

 ラウラの瞳には、いつの間にか光が戻っていた。

 

「うわーん、良かったねー」

 

 クラスメイト達は感動した面持ちでその様子を眺めている。

 

「これ、事前に二人で打ち合わせしてたんじゃない?」

「そうだな」

 

 鈴音の疑問に、一夏は感心して相槌を打つ。

 こうして、シャルロットは生徒達に受け入れられた。

 

 

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