少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
トーナメント準決勝が始まる。
鈴音とラウラがピットから出てくる。甲龍は両肩の龍咆が使用不能。シュヴァルツェア・レーゲンはレールカノンが使用不能、6本のワイヤーブレードは根元から切断されている。
準決勝までの試合で執拗に攻撃され、1試合毎に武装が使用不可になる状態に追い込まれてきたからだ。
「アイツらなんなのよ! 特にシャルルと箒!」
鈴音は忌々しげに叫んだ。
一方、ラウラは平然としている。
「AICとプラズマ手刀があれば、勝てる」
そこへ一夏とセシリアも現れる。
「背中が寂しいわね」
「うぅ……。本国から何と言われるか……」
ブルー・ティアーズのビットは全機撃破されていた。
ブルー・ティアーズが執拗に狙われていたため、白式のダメージは比較的少ない。
「ラウラ、約束通り勝ち残った。勝負だ」
一夏はラウラへ告げた。
「……いいだろう。叩き潰してやる」
ラウラは一夏を睨みつけた。
試合が開始される。
試合開始直後、一夏は瞬時加速でラウラとの距離を詰め、雪片弐型を振り下ろす。
「開幕直後の先制攻撃か。分かりやすいな」
ラウラは右手を突き出すと、AICを発動させる。
その瞬間、一夏の動きが止まる。
「そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」
「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」
ラウラは両手を必死に伸ばすがプラズマ手刀は届かない。ラウラはゆっくりと歩き始めた。
「一対一ではAICを掻い潜れない。……だか、今回はタッグだ。セシリア、頼む!」
しかし、援護射撃は来ない。
「今は無理ですわ!」
ライフルだけでは鈴の相手で精一杯だ。
「当てが外れたな」
ラウラは右のプラズマ手刀を一夏へと突き出した。
(一対一でラウラに勝つためには……)
プラズマ手刀がヒットし、AICが解除された瞬間、一夏は前に加速する。
零落白夜を発動させた雪片二型を横薙ぎに振るった。
ラウラはシールドエネルギーを大きく削られるが、咄嗟に左のプラズマ手刀で逸らす。
「まだだ!」
そのまま一夏は袈裟斬りを放つが、ラウラは後ろに下がってかわす。
お互いのエネルギーは僅か。
次の一撃が勝敗を決する。
「同じ手は使えないぞ?」
「そんなことはわかってるさ」
二人は構え直す。
一夏は雪片を上段に、ラウラは両腕を前に突きだす。
二人の間に緊張が走る。
「一夏! 一騎討だ! 付き合え!!」
「上等だ! かかってこい!」
そして、同時に飛び出した。
「行くぜ! うおおぉぉぉっ!」
「来い! おおおぉぉっ!」
両者の渾身の一撃が交差する。
一瞬の静寂の後、ラウラは両膝を着く。
「魂の一撃か……お前は強いな」
ラウラは呟いた。
「俺は強くない。どうして停止結界を使わな──」
「えい」
双天牙月が一夏の頭に振り下ろされた。
「え?」
試合終了を告げるブザーが鳴った。
『試合終了! 勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ&鳳鈴音ペア!』
アナウンスが流れる。
「いやー、ギリギリの勝利だったわね」
鈴音は汗を拭いながら言う。
「あ、いや……」
「気にすることないわよ、ラウラ。アンタはよくやったわ。後は決勝ね」
鈴音は満足げな表情で言った。
その眼下では、一夏が頭を押さえて悶絶している。
「うぅ……。タッグ戦だからな……。でも、こんな負け方って……」
一夏は涙目で呟く。
彼らから少し離れた場所では、セシリアが半ばから折れたスターライトmkIIIを拾い上げている。
「ブルー・ティアーズ……また傷ついて……。本国になんと報告すれば良いのでしょう……」
セシリアは自分の不甲斐無さに涙を流していた。
その二人の様子を見たラウラは静かに微笑む。
「こんな……こんな虚しい勝利など……。強さとは、なんなのか……私にはもうわからない……」
ラウラは地面に手をついて落ち込んだ。
鈴音はラウラの肩に手を置いて語りかける。
「いいのよ、ラウラ。アンタは間違ってない。でも時には、力なき正義は無能な悪になるのよ」
「何の話をしているんだ?」
セシリアも慰めるようにラウラの頭を撫でながら話す。
「ラウラさん、強く生きてくださいまし……」
「強く生きているつもりだったが、弱かったか……」
ラウラの心にダメージを与えた。
「おい、なんか変な空気になってないか?」
一夏は鈴音のほうを見る。しかし、彼女は何も言わずに、ただ笑顔を返してきた。
「なんだよその顔……何も考えてなさそうだな」
「んなわけないでしょ。人は常に何かを考えている生き物なのよ」
「いや、そんな一般論で話されても……」
一夏は困ったような顔をした。
すると、鈴音は一夏の腕を掴んで引っ張った。
「まぁ、細かいことはいいじゃない。とりあえず、ピットに戻ろう」
「ああ、うん」
「ほら、ラウラもセシリアも早く!」
一夏は引きずられるようにアリーナを出ていった。
それを見送った後、セシリアは気づく。
「あ、観客席に担当の方がいましたわ。報告の必要はないですわね」
その後、セシリアは怒られてしまった。
そして、決勝戦。
「うおぉぉぉっ! かかってこいやぁっ!」
鈴音は青龍刀を構えて叫ぶ。気合いだけは十分だ。
一方、ラウラは虚空を睨みつけて微動だにしない。何をしているのだろうか。
『さあ、やってまいりました、1年学年別トーナメント、優勝戦!! 実況は新聞部の黛薫子と──』
『ここは生徒立ち入り禁止だ』
『織斑先生! どうしてここに?』
『聞こえなかったのか? 早く出ていけ』
アリーナのスピーカーから悲鳴が響いた。
「うわぁ。千冬さん、こわっ」
鈴音が呟いた直後、試合開始のブザーが鳴った。
瞬間、鈴音に集中砲火が浴びせられる。
「うわっ! ちょっと、いきなり撃ってくるなんて卑怯者!!」
意識が逸れていた鈴音は避けきれず、あっという間にシールドエネルギーは尽きた。
ラウラも虚空を眺めている間にやられた。途中、シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれたが、躊躇ない飽和射撃により瞬殺された。
『試合終了! 勝者、更識簪&布仏本音ペア!!』
ブザーが鳴り響く。
「最後、シュヴァルツェア・レーゲンがおかしかった……電気みたいなの出して……」
「う〜ん。たぶん静電気だよ」
「静電気?」
「そ。だってほら、今日は乾燥してるでしょ?」
「ああ、なるほど」
この日は六月としては珍しく、空気が乾いていた。彼女達の肌はそれを敏感に感じとり、少しかさついていた。
「ふー、ごちそうさま〜」
「くっ……。食べ過ぎだ……」
満足そうな本音と対照的に、頭を抱える一夏。
優勝祝いに食堂でデザートを奢っていたのだ。
「じゃ、またね〜」
本音は一夏に手を振って去っていく。
一夏も手を振り返すが、内心は穏やかではない。
「どうしよう……これが1ヶ月続くのか……」
「ドンマイ、一夏」
シャルロットは一夏の肩に手を置いた。
その手にはアイスクリームが握られている。
「あ、織斑君にデュノア君。ここにいましたか」
山田真耶が現れた。
「朗報です。なんとですね! ついに今日から男子の大浴場が解禁されます!」
「おお! そうなんですか!」
一夏とシャルルは喜び勇んで着替えを取りに行った。
(いや、待てよ。何かがおかしい……なんだ?)
一夏は疑問を覚えた。
(そうか、大浴場が使えるのは来月からだったはず……)
何か裏があるのではないか? 一夏はそう考え、山田先生のいるだろう職員室へ向かった。
「あれ?」
だが、そこには誰もいなかった。狐の仕業だろうか。
その時、背後で声がした。
「一夏、どうしたんだ?」
振り向くと、そこには箒がいた。
「狸かもしれない」
「狸? 学園に紛れ込んだのか……あ、警備員さん!」
「はい、何かありましたか?」
箒は偶然通りかかった警備員を呼び、事情を説明した。
「それは大変だ。急いで探します。……今夜は狸汁かな?」
そして、警備員が確認すると、すぐに不審な人物が捕獲されたが、狸は見つからなかった。
「これで良かったのかもしれない。狸にとっては、人に捕まるより幸せかもしれないからな」
「そういえば箒。先月の約束だが、付き合ってもいいぞ」
「なっ!?」
箒の顔が真っ赤に染まった。
「いいのか!?」
「買い物くらい」
箒の頭から角が生え、赤鬼になった。比喩表現である。
「そんなことだろうと思ったわ!」
箒の正拳突きが一夏を捉える。
「くっ」
バックステップで衝撃を軽減し、体勢を立て直す一夏。
一夏に箒の怒濤の攻撃が続く。
「お前はっ! どうしてっ! いつも! そうなんだっ!!」
「何がだよ!?」
箒の猛攻を捌きながら、後退する一夏。
「この朴念仁がぁっ!」
怒り狂う箒が溜めの姿勢になった瞬間、一夏は素早く窓から外へ飛び出した。
「逃がすかっ!」
箒も飛び出し、空中で組み合う二人。
一夏の右腕を掴んだ箒は、そのまま一夏を背負い投げし、地面に叩きつけた。
一夏は受け身を取るも、ダメージは免れない。
「ぐうっ……」
「ふん」
箒はそれで満足したのか、バク転で窓から廊下へ戻った。
「何だったんだ、あいつ……」
呆気に取られる一夏。
「狸かもしれない」
一夏は壁をよじ登って室内へ戻った。
「……一夏遅いな」
一方、シャルロットは大浴場の湯船に浸かりながら一夏を待っていた。
「そうだね〜」
シャルロットの隣には本音が座っている。
「ぎゃああああああっ!!」
大浴場に絶叫が響き渡った。
「どうしたのかな〜?」
本音は呑気そうに言う。
「こ、ここは男子浴場……」
シャルロットは呟く。
「てへ……間違えちゃった」
本音は頭をかきながら湯船を出る。
シャルロットは顔を紅潮させ、涙目になっていた。
「完全に裸を見られた……。僕が女だってバレた……。あはは……はははははは……」
シャルロットの口から乾いた笑い声が漏れる。
「ドンマイ」
本音の励ましの言葉が虚しく響いた。
翌朝のホームルームには、シャルロットの姿はなかった。
「み、皆さん、おはようございます……」
山田先生の声にも張りがない。過労に違いない。
(教職はブラックだって聞いたことがあるけど……大丈夫なのか?)
心配になる一夏であった。
「今日は転校生を紹介します……」
山田先生の言葉を聞き、教室中が色めき立つ。
「え? この時期に?」
誰かが漏らす。一夏も同意見だ。
「じゃあ、入ってください」
「失礼します」
その少女は堂々と入室し、教壇の横に立つ。
(シャルルがスカートを穿いている……)
一夏は複雑な心境でシャルロットを見つめていたが、視線が合うとシャルロットはウインクをしてきた。
「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします」
金髪碧眼の少女はどこか吹っ切れた笑顔で自己紹介をした。
「ええと、デュノア君はデュノアさんでした」
「女の子!?」
一組の生徒達がざわめく。
「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけか!」
「でも、ちょっと待って。昨日って男子が大浴場使ってなかった?」
「ま、まさか二人で入ったの!?」
「許せん!」
「誤解だ! 俺は大浴場使ってない!」
騒ぎが大きくなる。
何故か一組の教室にいた鈴音は、机に突っ伏して眠りこけていた。昨夜、深夜アニメをリアルタイムで視聴していたため寝不足なのだ。
「あ、あの……皆さん、まだHRの途中ですよ~!」
山田先生が慌てて鎮めようとするが、クラスメイト達は興奮冷めやらぬ様子で、誰も聞いていない。
鈴音に至っては寝返りすらしている。
「皆様、冷静に。日本には混浴の温泉もありますし、一緒にお風呂に入るくらい問題ないでしょう」
「それもそうだね」
「いやいや! 問題大ありだからね!?」
鈴音はガバッと起き上がり、突っ込みを入れた。
「鈴、起きたのか」
一夏は鈴音に声をかける。
「うん、今さっきね。それより……」
鈴音は一夏に耳打ちする。
「今、何の話してるの? なんか凄く騒いでいるんだけど」
「ああ、実は……」
一夏は事情を説明しようとすると、ドアが開いた。クラスメイト達の注目が集まる。入ってきたのはラウラである。
「間に合ったか……」
「遅刻ですわよ」
セシリアが注意する。
「申し訳ない。道に迷ってしまった。人生と言う名の迷宮でな」
「ほお。わたくし、日本語は堪能なつもりでしたが……今のお言葉をもう一度」
「私の世界は暗闇に閉ざされていた。光を探して彷徨い続けた果てに、ようやくこの教室へたどり着いたのだ」
クラスメイト達は息を呑む。
「そうですか。ご愁傷さまです」
「貴様にはわかるまい。暗闇の中にいる孤独感が」
ラウラの瞳は、どこか寂しげだった。
「何、この空気。重いんですけど。遅刻した言い訳、言っただけでしょ?」
鈴音は戸惑う。
「しかし、そんな私に手を差し伸べてくれた人がいた。それが教官だ」
「織斑先生が?」
「私は誓った。必ず教官のような立派な軍人になると……」
ラウラの顔に自嘲的な笑みが浮かぶ。
「いや、千冬姉は軍属じゃないぞ」
一夏はボソッと呟く。
「なん……だと……」
ラウラは目を見開く。
「私が間違っていたというのか……」
ラウラは膝から崩れ落ちる。
「なんてことだ……、私はもう生きる価値などないというのか……」
その目は虚ろで、焦点が合っていない。
クラス全員が気まずそうな表情を浮かべる。
「へっ? そんなにショックなのか!?」
一夏は叫ぶ。ラウラは静かに語り始めた。
「私は今までずっと強さだけを求めてきた。誰にも負けない最強の兵士になるために。だが、それでは駄目だったんだ。人は一人では生きていけない……。一人は辛い……」
ラウラの頬を一筋の涙が流れる。
「大丈夫だよ、ラウラ。僕達がいるじゃないか」
「シャルロット……」
シャルロットは聖母のように慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、ラウラの頭を撫でる。
ラウラの瞳には、いつの間にか光が戻っていた。
「うわーん、良かったねー」
クラスメイト達は感動した面持ちでその様子を眺めている。
「これ、事前に二人で打ち合わせしてたんじゃない?」
「そうだな」
鈴音の疑問に、一夏は感心して相槌を打つ。
こうして、シャルロットは生徒達に受け入れられた。