少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
「2人とも負けたら……大変なことになるぞ」
ラウラはそれだけ言うと去っていった。
(……どうしてこのようなことに)
セシリアは頭を悩ませた。
不審者2人が警備員に連行された後、一夏を推す生徒と鈴音を推す生徒とに分かれて、クラス代表について話し合いが行われた。
「千冬様が、千冬様が怖いぞ!?」
その結果、鈴音派は千冬の出席簿アタックにより壊滅。残された一夏に白羽の矢が立ちそうになったが、ここで再び鈴音が立ち上がった。
彼女は自分がクラス代表になることを宣言し、さらに一夏への宣戦布告も行った。その勢いは凄まじく、彼女に賛同する声が多数上がってしまったため多数決は逆転。
結局、一夏派の票は白紙に戻され、鈴音へクラス代表就任が決定となりかけたが……。
「貴様ら、いい加減にしろ! 教官が困っておられるだろうが!」
「教官って誰?」
突然、ラウラが大声で叫んで立ち上がる。だが、彼女がそう言ったところでクラスの意見は覆らない。
「……ならば、私も立候補する!」
それでも食い下がろうとするラウラだったが、そこで思わぬ乱入者が。
「あの、すいません。少しいいですか?」
それは意外な人物だった。なんと、その人物は男装女子のシャルロット・デュノアだった。
彼女は手を上げて立ち上がり、皆の注目を集める。
「なんだ? 言ってみろ」
「はい。僕は先ほどから皆さんのお話を拝聴させて頂いていましたが、その……この際、模擬戦などを行い、実力を示すというのは如何でしょうか? そうすれば、必然的に凰さんがクラス代表となると思いますが」
シャルロットの言葉を聞いて、鈴音とラウラが反応した。
「なるほどね。模擬戦で勝てば文句ないわけか」
「ふむ……悪くない提案だな」
こうして、クラスの代表を賭けた模擬戦の話が持ち上がる。
とはいえ、まだISの操縦に慣れていない一夏では、鈴音やラウラと戦うのは難しい。そのため、代理でセシリアが戦うことになった。
「1週間後、第三アリーナでオルコット、凰、ボーデヴィッヒによる試合を行う。各自準備をしておけ」
千冬がそう言うと、そのまま解散となった。
「納得いきませんわ!」
解散後、セシリアはすぐに千冬の元へと向かい抗議していた。
「どうして私が模擬戦に参加する話になるのですか!? 一夏さんの代わりに!」
「落ち着け、セシリア・オルコット。私だって、まさか、こうなるとは思っていなかった」
千冬は腕を組みながら目を閉じ、考え込む。すると、鈴音が会話に割り込んできた。
「別にいいじゃない。まあ、あたしとしては一夏でもセシリアでも変わらないけど」
「はいっ!? わたくしは代表候補生! 素人と一緒にしないでくださいまし!」
セシリアは怒気を強めて言い放つ。鈴音は「ふーん」と呟き、彼女の顔を覗き込んだ。
「まぁ、精々頑張ってちょうだい」
「……えぇ、頑張りますとも。私の力を見せつけて差し上げますわ」
余裕綽々と言わんばかりの鈴音の態度に、セシリアは怒りを覚えた。そして、「あなたには負けません!」と言い残して自分の席へと戻っていった。
放課後、セシリアは1人で考え事をしていた。
(中国娘は論外として。織斑一夏……。ただ珍しいというだけで推薦された男をクラス代表にしてよろしいのでしょうか?)
そんなことを考えていると、1人の少女が目に入った。彼女は何かを悩んでいるような表情を浮かべており、どこか思いつめた様子だった。
(一夏さんの思い人、篠ノ之箒さんですわね)
セシリアは席を立ち、彼女に近づく。すると、気配を感じたのか、彼女は顔を上げた。
セシリアはそんな彼女に話しかける。
「一夏さんについて詳しく教えてくださいな」
「い、いきなりだな。一体なぜ急に?」
「彼がクラス代表に相応しいのか、貴女の意見を聞きたくて」
セシリアがそう話すと、箒は納得したようにうなずいた。
「そういうことなら協力しよう。一夏のいいところ、悪いところを余すことなく語ってやるぞ」
そう言うと、箒は一夏との思い出を語り始めた。小1での出会い。幼い頃に一夏に助けてもらったこと。剣道大会のことなど、様々なエピソードを話していく。
そして、気がつけば2時間ほどが経過していた。
(な、なんということでしょう……。これほど長い時間、語り続けるなんて……)
あまりのマシンガントークぶりにセシリアはドン引きしていたが、それと同時に箒を通して一夏のことが少しずつわかってきた気がした。
(一夏さんは優しく、強い男……なのかもしれませんわね)
その後も、話は続いた。
「ふぅ……。久しぶりにたくさん語ったぞ」
「そ、そうですか。参考になりましたわ……」
箒は満足げな笑みを浮かべていたが、一方のセシリアは疲れ切っていた。
「それでは、失礼しますわ……」
「ああ。また話そう」
「機会があれば……」
セシリアはフラつきながらもその場から立ち去った。
「大丈夫なのか? あれ」
「さ、さぁ?」
その様子を見かけたラウラとシャルロットは、心配そうな視線を向けた。
同時刻。一夏は寮へ帰る前に図書室へと向かった。調べたいことがあったのだ。
ある本を探し出すと、彼は近くの椅子に座って読み始める。
(俺はシャルルのことを『男子』だと思っていた。しかし、おかしなところがある)
一夏は今まで疑問に思っていたことを再確認する。まず、名前が女子だ。さらに、浴室でシャルロットの裸体を見た結果、あることに気付いた。胸が異様に大きいことだ。
(考えられる可能性は1つしかない。シャルルは男ではなく、女子……なのか?)
一夏は見つけた本を読みながら、そんなことを考えていた。
その時、背後から声が聞こえてくる。
「何をしているんですの?」
「うっ!?」
突然の声に驚いた一夏は勢いよく立ち上がる。振り返ると、そこにはセシリアが立っていた。
「なんだ、セシリアか……びっくりしたなぁ」
「それはこちらの台詞ですわ。突然大声を出して」
セシリアが呆れた様子で言うと、一夏は頭を掻きながら苦笑いをした。
「ところで、それは何の本ですの?」
セシリアは先ほどまで読んでいた本を指差す。
「えっと……これはちょっとな……」
一夏が言葉を濁すと、セシリアは彼の隣に座った。そして、本の中身を見る。そこには男装女子の写真が載っており、その写真の下には説明文が書かれていた。
「ふーん、こういう内容ですのね」
セシリアはパラパラとページをめくる。そして、一通り目を通すと一夏に返した。
「さて、それでは帰りましょうか」
「待ってくれ!」
帰ろうとするセシリアを一夏は引き止める。すると、彼女は不思議そうな表情を浮かべながら振り返った。
「なんですの?」
「シャルルはどうして男装をしているんだ?」
「え……。どう言うことですの?」
質問の意味がわからず、セシリアは首を傾げた。そんな彼女に一夏は事情を説明する。
「実は昨日、風呂場でシャルルと会ったんだけど……。そのときにシャルルの胸がすごく大きくて、男の胸じゃないって思ったんだ」
「なるほど……」
セシリアは腕を組み、目を瞑る。しばらくすると、彼女はゆっくりと瞼を開いた。
「そうですね……。私には、彼女がなぜ男装しているのかわかりません。ただ、1つだけ言えることはあります」
「教えてくれ」
一夏の言葉にセシリアはコクリとうなずく。そして、彼女の口から尤もな言葉が飛び出した。
「本人に直接尋ねるのがよろしいかと」
第三アリーナにて。イギリス代表候補生であるセシリアは、専用機『ブルー・ティアーズ』を駆り、クラス代表決定戦に向けて猛特訓をしていた。
「はああっ!」
セシリアは手に持った大型レーザー銃『スターダストmkIII』を連射する。その狙いは正確で、的の中心を正確に射抜いていた。
「よし、このくらいにしておきますわ」
彼女はそう呟くと、射撃練習をやめてピットへと戻っていく。すると、1人の女子生徒がタオルを手渡してきた。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
セシリアは彼女に礼を言うと、それを受け取って汗を拭き取る。
「はい、これ」
「あら、すみません」
彼女からスポーツドリンクの入ったペットボトルを受け取ると、そのまま蓋を開ける。そして、喉に流し込んだ。
(おいしい……。体が潤いますわ)
セシリアは一気に飲み干すと、キャップをして彼女へ返す。
「ごちそうさまです」
「はいよ」
そう返事をする彼女を見て、セシリアはあることに気付いた。
「ん? ……凰鈴音!?」
そう、そこにいたのは凰鈴音だったのだ。
「なぜここに!?」
「何言ってんの。ここはアリーナよ。あたしがいたっておかしくないわ」
「そ、そうですわね……」
もっともな答えを聞き、セシリアは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「それでは、私はこれで……」
「ちょっと待ちなさいよ。聞きたいことがあるんだけど」
立ち去ろうとしたセシリアだったが、その前に鈴音が回り込む。
「なんですの?」
「あんたの機体『ブルー・ティアーズ』だけど、ビットと同じ名前なんて安直すぎないかしら?」
「うっ! ……それは確かに」
セシリアは鈴音の指摘にたじろぐ。そして、言い訳のように話し始めた。
「べ、別にいいではありませんか。『ブルー・ティアーズ』は『ブルー・ティアーズ』のデータ収集のために作られたものですし、わかりやすいのが一番ですわ」
「いや、わかりずらいでしょ。絶対」
「なっ!」
痛いところを突かれ、セシリアは黙ってしまう。
「まあいいわ。それじゃ、あたしは『
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! まだ話は終わって……」
しかし、セシリアの言葉を待たずして鈴音はその場から去っていった。その後、セシリアはため息をつくと、更衣室へ向かった。
「お、おい! セシリアじゃないか?」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてきたため、セシリアは振り返る。そこには一夏の姿があった。
「あら、一夏さんではありませんか。こんなところで会うとは奇遇ですね」
「そうだな。それより、その格好は……」
一夏はセシリアの体に視線を向ける。特殊なスーツに身を包んだセシリアの姿はどこか色っぽかった。
「これはISスーツといって、特殊な繊維で作られていますの。身体の動きを補助してくれますし、とても動きやすいですわよ」
「へぇ……。初めて知ったよ」
セシリアは一夏の無知に呆れつつ、説明を続ける。
「ちなみにこの素材は、耐刃性、防弾性に優れているだけでなく、他にも……」
「おっと、そろそろ行かないとな。悪いけど俺はもう行くよ。じゃあな、セシリア。……待っていろ鈴。今行くからな!」
一夏は急いで立ち去ると、廊下を走り去っていった。その後ろ姿をセシリアは見つめながら、小さな声で呟く。
「まったく、人の話は最後まで聞くものですわ」
その日の夕暮れ、一夏は再び図書室へ向かった。今度は男装女子の本が目的ではない。探しだした本を読みながら、彼は先日のセシリアとの会話を思い出す。
(やっぱり、本人の口から聞かなきゃいけないよな)
一夏はシャルロットが男装女子であることを確信していた。根拠はシャルロットは制服を身に着けているときよりも裸体のほうが胸が大きかったことである。
(もし、俺の考えが正しければ、シャルルは何らかの理由で女性であることを隠してるはずだ)
一夏は今までシャルロットの男性らしい振る舞いを見てきたが、それが偽りだと感じていた。
(確かめないと……)
一夏は真剣な表情を浮かべると、借りた本をバッグに入れ、寮へと戻った。
「ただいま」
一夏が部屋に戻ると、既にシャルロットとラウラが居た。
「おかえりなさい、一夏」
「おかえり、一夏」
2人は微笑みながら出迎えると、シャルロットは一夏に問いかける。
「今日は何の本を借りてきたの?」
「これだよ」
一夏はバッグから本を取り出すと、シャルロットに手渡した。彼女は本を受け取ると、表紙を見る。そこには『英国淑女の歴史』というタイトルが書かれていた。
「これがどうしたの?」
「ちょっと気になることがあってさ」
「ふーん、そうなんだ」
「ところで、お前が男装してる理由ってなんなんだ?」
一夏は単刀直入に尋ねた。すると、シャルロットの笑顔が固まる。そして、彼女はゆっくりと口を開いた。
「ねえ、僕が女の子に見える?」
「ああ」
「うっ……。はっきり言うね」
一夏の言葉にシャルロットは苦笑いする。だが、すぐに気持ちを切り換え、真顔に戻った。
「いつから気がついてたの?」
シャルロットの問いに一夏は答える。シャルロットという名前が女の名前であること、浴槽を覗いたときに自分の考えが間違っていないと確信したことを伝えた。
それを聞いたシャルロットはため息をつく。
「一夏のエッチ」
だが、しばらくして覚悟を決めたのか、顔を赤くしながら重い口を開いた。
「実は……僕の本名はシャルロット・デュノアっていうんだ」
2人の間に沈黙が流れる。
(あれ? 初めからシャルロットと名乗ってたような……。まあ、いいか)
一夏は疑問を抱きつつも、それを口にすることはなかった。
「それで、どうして男装しているんだ? 何か事情があるんだろう」
「実家から、そうしろって言われて……」
「実家って言うと、デュノア社の?」
「うん……僕の父がそこの社長。その人に、直接命令されたんだ」
デュノア社は有名なフランスの企業であり、ISの開発元でもある。
その会社は第三世代機開発で行き詰まり、経営危機に陥っていた。それを救うためにIS学園に男装させたシャルロットを送りこんだのだという。
「同じ男子なら、一夏と接触しやすい……本人の体とISの詳細なデータが取れるかもって……」
シャルロットは悲しそうな目をしながら呟く。それを見た一夏は思わず叫んでしまう。
「断れなかったのか! そんなの絶対おかしいだろ!」
一夏の剣幕にシャルロットは驚く。
「僕は父の本妻の子じゃないから……」
「えっ!?」
衝撃的な事実に一夏は驚く。
彼女は母と2人で暮らしていたが、母は2年前に亡くなった。母の死後、身寄りのない彼女は父の経営するデュノア社に引き取られる。そして、IS適性の高さから、非公式のテストパイロットになった。
「だから、断れなくて……」
シャルロットは涙ぐむ。
「本当のことを言えて、スッキリしたよ。ありがとう、一夏」
シャルロットは無理に笑おうとするが、その表情はとても辛そうだった。一夏は胸が痛くなるのを感じる。
「親だからって、好き勝手していいわけないだろ! 俺も……俺と千冬姉も、両親に捨てられたから……」
「捨てられた? 教官が!?」
2人の話を静かに聞いていたラウラ。尊敬する教官、千冬の過去に驚く。
「俺のことはいい。でも、お前はどうするんだ」
「どうって……女だということがバレたから、本国行きかな? 牢屋行きかも……」
シャルロットは諦めたように笑う。
「だったら、ここにいろ! 俺達が黙っていれば誰にもわからないだろ! 男装を止めないでくれ!」
「『俺達』とは、私も含まれているのか?」
一夏は必死になってシャルロットを説得するが、彼女は首を横に振る。
「それはできないよ。一夏達に迷惑がかかるし……」
シャルロットは優しい性格なので、自分のせいで2人に危害が加わることを恐れていた。
「IS学園特記事項、本学園の生徒は、その在学中において、ありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない」
ラウラは手元にある資料を読み上げる。
「つまり、この学園にいる限り、生徒はいかなる権力からも切り離される」
「ラウラの言う通りだ。もし、それでも駄目だというのなら、その時は俺達が守ってやる」
「2人とも……ありがとう」
シャルロットは微笑みながら礼を言った。
いつの間にか自分も協力することになり、ラウラは戸惑ったが、「まあ、別に良いか」と思い、気にしないことにした。
その時、扉が開く。
「ねぇ、一夏。シャルルって、なんか女っぽくない?」
鈴音が部屋に入ってきた。
「いきなりのトラブル発生だよ……」
シャルロットは頭を抱えた。
Aパート終わり。
Bパートへ。
セシリアが初めから『一夏さん』と呼んでいますが、独自設定です。