少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
クラス代表決定戦当日、一年一組の面々は第三アリーナにいた。授業をサボった他クラスの生徒も観戦に来ており、観客席は満席となっている。
試合開始時刻になり、アリーナ上にラウラが現れる。
彼女の纏っている機体はシュヴァルツェア・レーゲン。ドイツが開発した第三世代型ISだ。黒を基調としたカラーリングで、ところどころに赤色のラインが入っている。そして、最大の特徴は右肩の巨大なレールカノンだ。その外見はまるで黒い十字架のように見えないこともない。
「では、これよりクラス代表決定戦の対戦カードを発表する。第一試合はオルコット対凰」
千冬がそう告げると、ラウラは急いでピットへ戻った。そして、鈴とセシリアが現れる。
セシリアの専用機であるブルーティアーズはイギリスの第三世代機である。本体と分離、独立可動して操作できる、ビット兵器が特徴的なISである。
一方、鈴音が乗る甲龍は中国の第三世代機だ。近・中距離型のパワータイプで、『
「あら、逃げずに来ましたのね」
「ふんっ! 入試主席だからって調子に乗らないことね!」
開始早々、先に動いたのは鈴音の方だった。
彼女は背中から双天牙月を抜き、さらに1刀を展開する。そのまま一気に加速して間合いに入ると、左右から斬撃を放った。
「遠距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて……笑止ですわ!」
セシリアはショートブレード『インターセプター』で受け止めた。刃と刃が触れ合うたびに、火花が散る。
「このぉーっ!!」
鈴音の怒涛の攻撃が続く。セシリアはそれを必死に捌く。間合いの差から、セシリアは防戦一方で反撃ができない。
やがて、鈴音の連撃に耐え切れなくなったのか、セシリアは大きく後ろへ飛び退く。
「逃げても無駄よ!」
鈴音はすぐに追撃を仕掛けるが、それよりも早くセシリアが動き出した。
「逃げるのは貴女の方ですわ」
4機のビットが独立して飛行を開始。鈴音を囲み込むような位置取りをする。
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
「ふん、望むところよ!」
四方から放たれるレーザーを、鈴音は驚異的な反応速度で回避していく。だが、全ての攻撃をかわすことはできず、徐々に被弾していった。
「まだまだこれからよ!」
鈴音が叫ぶと同時に、彼女の両肩から衝撃砲が発射される。射角もわからない不可視の砲弾に対し、セシリアの反応が遅れる。直撃こそしなかったが、数発食らってしまった。
「そこだぁっ!」
「きゃあっ!?」
一瞬の隙を突き、鈴音は青竜刀による強烈な一撃を叩き込んだ。セシリアは地面に叩きつけられる。
「これで終わりよ! 喰らいなさい!」
そこへ、衝撃砲の追撃。セシリアは即座に、5機目、6機目のビットからミサイルを放つ。
爆炎が舞い上がった。
「なっ……!?」
「隙ありですわ」
咄嵯の判断で緊急離脱を試みたが、既に遅かった。背後から、ビットによるレーザー攻撃が鈴音を襲う。
「うわぁ!」
不意をつかれた鈴音はその攻撃を避けられず、体勢を大きく崩す。そこへ、追い打ちをかけるように、地上より光弾が襲った。
「きゃあああっ!」
なんとか直撃は免れたが、それでもダメージは大きい。
「閉幕ですわ」
スターライトmkIIIを構えたセシリアは、とどめの一撃を放つ。
ブザーが鳴った。
「試合終了。勝者、セシリア・オルコット」
「ま、負けたの……? あたしが……?」
鈴音は呆然とした表情で呟いた。
休憩と補給を済ませたセシリアはアリーナに姿を現す。そこには既にラウラの姿があった。
「お待たせいたしましたわ」
「気にしなくていい。時間通りだ」
試合開始直後、ラウラは右肩のレールカノンを連射した。セシリアはそれを軽々と避ける。
「ちょこまかと……」
シュヴァルツェア・レーゲンから操縦者の意思により自在に動くワイヤーブレードが射出される。その数は6本。それらが一斉にセシリアを襲う。
「その程度ですか? 私に当てることなど……できませんわ!」
5本のワイヤーブレードを避け、最後の1本はレーザーライフルで撃ち落とす。
「ならば!」
ラウラは右腕の『プラズマ手刀』を起動させる。そして、瞬時に間合いを詰めた。
「早い!」
とっさに上昇するセシリア。距離を詰められる前に、さらにスラスターで加速する。だが、空中で何かに捕まえられたかのように、体の自由がきかなくなった。
「これは『AIC』?」
AIC。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。慣性停止能力。対象の動作を停止させることができる、ドイツが開発したPICの発展型。
「捕らえたぞ」
ラウラは両腕にプラズマ手刀を構えると、セシリア目掛けて振り下ろす。
「ですが、ビットがありますわ」
「ふん。理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず……」
ラウラの背後から迫るビットを、ワイヤーブレードが襲う。複雑な軌道を描くそれを、4機中2機のビットが掻い潜る。そして、ラウラにレーザーの雨を降らせた。
「ぐううっ……この程度で!」
AICには弱点がある。停止させる対象物に意識を集中させなければ、効果を維持できない。
「隙あり、ですわ」
AICが解除されると、セシリアはレーザーライフルの銃口をレールカノンに密着させ、発射。レールカノンに風穴が空いた。
「だがっ!」
ラウラは左のプラズマ手刀を突き出す。
「捕らえましたわ」
セシリアは左腕を両手で受け止めると、掴んだ左腕を軸に体を捻りながら、前方宙返りをしてラウラの背後へ。そして、右足を右肩から前へ、左足を左脇から前へ突き出し、交差。ラウラの首と左腕を挟み込み、極めた。
「ぐっ!?」
後ろ三角締め。数々の強敵をノックアウトさせてきた、セシリアの必殺技である。
今度は、ラウラが体の自由を奪われた。
「ご……が……!」
苦悶の声を上げるラウラ。強引に体を動かして振りほどこうとするが、抵抗する度にビットからレーザーが撃ち込まれる。
ラウラの顔色はみるみる青くなっていく。
(私は負けるのか……? いや、その前に……死ぬ)
戦いの為だけに育てられ、戦うことしか教わらなかった人生が、走馬灯として流れていく。それは一瞬のことかもしれないが、ラウラにとっては永遠とも思えるような長い時間だった。
その中に敬愛する千冬の顔を見つけた。
(教官は暗闇を照す光……。空っぽだった私の心を満たしてくれた。私に強さを与えてくれた)
千冬はいつも強く、凛々しく、堂々としていた。
しかし、弟……一夏のことを語るとき、優しい表情を見せる。
ラウラはずっとモヤモヤしていた。
(教官にあんな顔をさせる、あの男が……羨ましかった)
学園で見た、一夏の姿が思い浮かぶ。
セシリアの胸をチラ見する一夏。シャルロットの尻を凝視する一夏。箒に殴られる一夏。鈴音の肩に担がれ運ばれる一夏。
(……ムカついてきた。ここで死ねるか!)
「あああぁぁー!!」
「きゃあっ!」
ラウラは破損したレールカノンを無理矢理起動。弾丸は発射されずに暴発し、ラウラとセシリアは吹き飛ばされる。
「くぅ……」
「うおおぉぉ!」
一瞬の隙を突き、ワイヤーブレイドがセシリアの右足を捕らえる。そのまま地面に叩きつけた。
「あうっ!」
「喰らえぇえー!」
そこへプラズマ手刀を構えたラウラが急降下。体勢を整える前に、渾身の一撃をセシリアの胸部へ打ち込んだ。
「ぐはあぁっ!?」
さらに一閃、二閃、三閃と追撃していく。そして、セシリアのシールドエネルギーは尽きた。
「私は……生き延びたのか? そうか……」
ラウラの表情は勝利の喜びではなく、安堵の色に染まっていた。
アリーナ上で鈴音とラウラが睨み合う。
シュヴァルツェア・レーゲンは、セシリア戦でレールカノンが大破、ワイヤーブレードが数本破損している。
対する甲龍は細かい傷はあるものの、目立った損傷はない。
「あたしが勝ったら、酢豚奢りなさいよ」
「……レールカノンがなくとも、私が勝つ」
「言ってくれるじゃない」
2人の視線の間に火花が散る。
「くらえっ!」
試合開始のブザーが鳴ると同時に、鈴音は衝撃砲を発射した。
「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」
ラウラはAICで衝撃波を止める。
「まだまだ!」
鈴音は衝撃砲を放ち続ける。ラウラはそれをことごとく止めた。
「無駄だと言っている!」
「まだよ……まだ!」
鈴音は横に回り込み、衝撃砲を放つ。だが、ラウラはそれに動じず、AICで止めた。
直後、鈴音は背後に回わり、衝撃砲を放つ。しかし、ラウラは即座に反応、AICで受け止めた。
「ちぃっ!」
「馬鹿め。何度やっても、停止結界は破れないぞ」
鈴音は構わず衝撃砲を放ち続けるが、全て停止結界で止められてしまう。
「わかっただろ。お前の攻撃など、私には通用しない」
鈴音は衝撃砲を撃ち続けた。
「おい、聞いているのか!」
鈴音の衝撃砲は止まらない。
ラウラの表情が徐々に曇っていく。そして、ついに痺れを切らした。
「やめんか!」
ラウラは鈴音を捕まえようとワイヤーブレードを伸ばす。
鈴音は回避行動に移った。
「当たんないわよ!」
ラウラのワイヤーブレードは空を切る。
さらに、鈴音はラウラの周りを飛び回り、衝撃砲を射つ。
「ちょこまかと!」
AICで防御しつつ、ワイヤーブレードで攻撃する。だが、鈴音の動きを捉えきれない。
「はぁ……はぁ……なんだコイツは……!」
「そこぉっ!」
ラウラが息切れしたところへ、鈴音は衝撃砲を放ったが、やはり届かない。
「まさか……こちらの集中力切れを狙っているのか……! 小賢しい!」
「はぁ!? 停止結界なんか使っちゃって、アンタの方が小賢しいわよ!」
「何だと!」
その後も、ラウラは衝撃波を打ち消しつつ、ワイヤーブレードを操り攻撃を仕掛けるが、鈴音は大半を回避、残りは青竜刀で弾いた。
戦いは長期戦へと突入する。
「どうしたの? 息が上がってるわよ!」
「貴様こそ!」
AICの連続発動と鈴音の度重なる挑発、セシリアとの戦闘により、ラウラは疲弊していた。
一方の鈴音もワイヤーブレードを掻い潜り、衝撃砲を撃ち続け、少なからず疲労が蓄積している。
「いい加減……諦めたらどうだ?」
「冗談。あたしが勝つまで……絶対に諦めない!」
「往生際の悪い奴だ」
「ふん。それはお互いさまでしょ」
そして、先に限界を迎えたのは……観客だっだ。
「な……なんで、あんなに戦っていられるの?」
「何時間やってるのよ……」
すでに試合は4時間以上経過している。観客席にいる全員が疲労困ぱいだ。
「フレー! フレー! ……おりむー!」
「織斑くんは戦ってないよ」
「う〜ん、この子可愛い♪」
「おなか減った~」
「何を食べようかなぁ」
「カルボナーラがいいな」
「私、カレー食べたいな」
緊張感の欠片もない声があちこちから聞こえた。
「もう、無理……」
「うん……眠くなってきた……」
そして、一人、また一人と寝始める。
次第にざわめきは消えていき、やがて静寂が訪れた。
灰色に近い白の装甲と、背部から伸びる2枚の巨大な翼が特徴の機体。ピットには、一夏のために用意された専用機『白式』が届けられた。
「織斑くんに専用機登場!」
「おお、かっこいい」
「なんか強そう」
試合に飽き、見学に来たクラスメイトたちが盛り上がる中、一夏はISに触れる。
(まるで自分を待っていたみたいだ)
自分の為に造られた専用機。その感触は不思議と温かく感じた。
「試合は終わりそうにないですね。予定を早めて、最適化まで進めましょう」
「はい」
山田真耶の指示に従い、一夏は白式に背中を預けるように身を任せる。装甲が体に馴染んでいく。
「俺の……俺だけの……機体」
全身が軽くなっていくような感覚を覚える。
「ISには、絶対防御という機能があって、どんな攻撃を受けても最低限、操縦者の命は守られるようになっています」
真耶の言葉が耳に入る。
「ただ、その場合、シールドエネルギーを極端に消費します」
一夏は一歩踏み出すが、足がふらつき、頭から倒れた。
「だ、大丈夫ですか?」
「平気です。絶対防御を感じました」
「はぁ、そうですか……」
その時、白式に変化が起きた。機体が灰白から眩しいほどの純白へ変わる。
「ついに始まったな」
一次移行。初期化と最適化が終わり、白式が一夏の専用機となったのだ。
「武器はこれだけか」
一夏の手元に日本刀型の近接ブレードが現れる。
「雪片弐型……か。雪片って、確か千冬ねぇが使っていた……」
右手に持った刀から光が溢れ出る。
一夏は笑みをこぼした。
「危ないので、ここでは振り回さないでくださいね」
真耶は笑顔で注意を促した。
一方、ラウラと鈴音は未だに戦い続けている。
「いい加減、諦めたらどうだ!」
「そっちこそ、とっとと倒れなさいよ!」
両者一歩も譲らない展開が続いていた。
しかし、終演の時は訪れる。
「何だ!?」
地面に衝撃砲が着弾。土煙が視界を遮った。
万全の状態ならば、こんなミスは犯さなかっただろうが、ラウラは思わずAICを解いてしまった。
そこへ衝撃砲が直撃。体勢が崩れたところへ、さらに1発。続けて、接近した鈴音による双天牙月の一閃。
ラウラは、その渾身の一撃を防ぐことが出来なかった。
「試合終了。勝者、凰鈴音」
ブザーが鳴り響く。
「はぁ……はぁ……やったぁ……」
鈴音はその場で座り込んだ。
その隣でラウラは地面に寝転び、夜空を眺めていた。
「あ……流れ星だ」
その時、「汝、より強い力を欲するか?」と問う声が聞こえた気がしたが、ラウラは特に何も感じなかった。星を見るのに忙しかったのだ。
3試合を終えて、一年一組代表は織斑一夏に決定した。
「質問です」
翌日、朝の
「はい、なんでしょう?」
「昨日の試合は3人とも一勝一敗だったはず。何故、織斑一夏がクラス代表になったのですか?」
「えーと……それはあるポイントでオルコットさんの勝ちとなりました」
真耶は手元の資料を見ながら答える。
「ポイント?」
ラウラは首を傾げた。
「はい! まず一つ目が、芸術的な射撃。二つ目に、優雅な回避行動。そして三つ目には、華麗な近接戦闘によって獲得されました」
「……なんとなく納得いかないのですが、まぁ良いとしましょう。私の実力はまだ発展途上ということでしょうか。……だがしかしッ!」
ラウラは勢い良く立ち上がり、一夏を見据えて宣言した。
「次の勝負では必ず貴様を叩きのめす! 覚悟しておくことだな、織斑一夏ァ!」
「えっ!? 俺かよ!?」
突然の宣戦布告に戸惑う一夏。すると、隣の席に座っていた鈴音が立ち上がる。
「アンタね、あたしに負けたからって八つ当たりとか情けないわよ」
「何だと貴様!」
ラウラは目を細めて威嚇する。が、それを見ても動じない。
「はん、弱い犬ほどよく吠えるっていうけど、本当みたいね」
「……私を愚弄するか」
ピキッ、と何かがキレるような音。
「へぇ、やるつもり? 」
鈴音の眼光が鋭くなる。教室内の空気が一気に緊張する。
(……やばい。このままだと喧嘩が始まってしまう)
そう思い、一夏は2人を止めようとした、その時だった。
バンッ!!!
教室の扉が乱暴に開かれた。そこに立っていたのは、織斑千冬。
ちなみに、教室の扉は自動ドアである。
「やめんか、馬鹿共」
その一言で、2人の殺気立った雰囲気は霧散した。
「さすがだぜ千冬姉」
一夏がボソッと言う。
そんな一夏に、千冬は厳しい視線を送る。
「織斑先生と呼べ」
一夏がビクっと体を震わせる。
その様子を見て、クラスメイトたちは忍び笑い。
「で、では一時間目は二組との合同授業ということで……」
教壇に立つ真耶は、どこか疲れた様子でそう言った。
『次回予告』
「ちょっと待て!何言ってんだ!?」
「なんでよ。一組のクラス代表でしょ!」
「中国から日本に出稼ぎに来たおじいさんと、日本で生まれ育ったおばあさんでした」
「しかも、その自覚もない。だから、そのような愚かな考えを持つ」
「対抗戦で負けないように、特訓しなきゃね」
「次回『転校生はいなかった』」
「あっ……しまったぁ。ごめんなさい、たっちゃん」
「ない、これはないわ……」
セシリアがビット操作中に色々やってますが、独自設定です。