少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
「……では、これより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、鳳、試しに飛んでみろ」
グランドにて、鈴音とセシリアはすぐにISを展開する。しかし、一夏はなかなか展開できないでいた。
「何をしている、織斑。早くしろ」
千冬が苛立ちの声を上げるが、一向に展開する気配がない。
「うーん、わからん」
「馬鹿者が! 右腕のガントレットに意識を集中させろ!」
「えーっと……お、できた」
ガントレットが淡く光ると同時に、全身を包むようにアーマーが展開される。
「よし、飛べ!」
一夏は千冬の言葉通りに飛ぶが、すぐにバランスを崩してしまう。必死で制御しようとするが、中々うまくいかない。
そこへ、鈴音が近づいてきた。
「あんた、そんなこともできなかったの?」
「何だよ」
「手伝ってあげる」
鈴音は一夏の腕を掴むと、そのまま上昇していく。
「おおっ?」
やがて、二人は上空で静止した。
「感覚で覚えなさいよ」
鈴音は一夏を掴んだまま、自由自在に飛び回る。
「お、おう!」
それに合わせて、一夏もぎこちなく動き始めた。
「じゃ、離すわね」
「ちょっ、待っ……!」
鈴音は一夏を突き放すと、どこかへ飛んでいった。
「……あ」
次の瞬間、一夏は真っ逆さまに落ちていく。
「だあぁぁあああああああっ!」
地上10メートル程の高さから、一夏は地面に激突する。その衝撃で土煙が上がった。
「一夏さん!?」
セシリアは慌てて急降下する。
そこには白目を剥いて気絶した一夏の姿があった。
「い、一夏さん……しっかりしてくださいまし!」
セシリアは慌てて一夏を揺すり起こす。
すると、一夏は意識を取り戻した。
「なんとなく、感覚は掴めた気がする……」
一夏は自分の右手を見ながら呟いた。
放課後。一夏達は、クラス決定記念パーティーをしていた。場所は、学園内の食堂だ。
一組以外の生徒も紛れ込んで、飲み物やケーキなどを注文している。
一夏はコーヒーを手に取る。一口飲むと、苦味が口に広がった。
(だが、嫌いではない。むしろ好きだ。しかし、砂糖とミルクを入れればもっと美味しくなるだろう)
一夏の隣に座っているシャルロットが、それを見ていた。
「あ、一夏ってブラック派なんだ?」
「まぁ、そうだな。俺からすれば、これが普通だし」
そう言いつつ、一夏はテーブルに置いてあるシュガースティックに手を伸す。だが、それは誰かの手に阻まれた。
ラウラである。彼女は、一夏に瓶を渡してきた。
中身を見ると、角砂糖が8個入っている。
「え? くれるのか?」
一夏は驚いた。
ラウラは無言でうなずく。
一夏は、それをお礼を言いながら受け取り、砂糖をカップに入れて混ぜて飲んだ。
すると、程よい甘さが口に広がる。
(あー……やっぱり、甘い方がうまい)
一夏は満足そうな顔をした。
「一夏、本当にブラックが好きなの?」
「ああ」
「へぇ~……、一夏って意外に大人なんだね」
シャルロットはジト目になる。
一夏は首を傾げる。
「ねぇ、一夏。せっかくだから、僕にもちょうだいよ」
一夏は少し考えてから答える。
「んー……ラウラ、いいか?」
ラウラは無言でうなずく。
そして、シャルロットに瓶を渡す。
その時、一夏の手が一瞬だけ、シャルロットの手に触れた。
ドキッとする二人。お互い顔を見合わせ、頬を赤らめる。
(手、柔らかかった……それに温かかった)
一夏は無意識のうちにシャルロットの手を凝視していた。
その視線に気付いたシャルロットは慌てて手を引っ込める。
「えっと、ありがとう……」
シャルロットは受け取った瓶を開け、角砂糖2個をカップに入れる。
一夏とラウラはその様子をじっと見つめていた。
そんな2人の視線に気付いていないシャルロットは、砂糖を入れたスプーンでかき混ぜ、それを口に運ぶ。
シャルロットの顔はほころび、幸せそうに飲み始めた。
その姿を見た一夏は、思わず呟く。
「なんか、可愛い……」
それを聞いたシャルロットは驚いて一夏の方を見る。
その顔は真っ赤になっていた。
「か、かわっ!?」
「えっ?」
シャルロットの反応を見て一夏も恥ずかしくなり、慌てる。
そんな二人のやり取りを眺める者がいた。箒とセシリアだ。
箒の表情はどこか険しいが、セシリアは微笑ましいものを見るような笑みを浮かべていた。
「まぁ! お熱いですわね」
それを聞いて、一夏はさらに焦り出す。
「いや、そういう意味じゃなくて……!」
「大丈夫ですよ。分かっていますわ」
セシリアは紅茶を一口飲む。
シャルロットはますます顔を赤くした。
「あ、あはは……」
シャルロットが苦笑いをすると、ラウラが突然立ち上がった。
「私にも……飲ませてくれないか? ミルクと砂糖を入れて」
「へっ?」
シャルロットはラウラの唐突な言葉に戸惑った。
ラウラは真剣な眼差しで見つめてくる。
「えっと……うん」
戸惑いながらも、シャルロットは砂糖とミルクをラウラに手渡す。
ラウラはそれを受け取って自分のカップに入れた。ゆっくりと混ぜてから、恐る恐る口に含む。
次の瞬間、ラウラの目が大きく開いた。彼女は夢中で飲んでいく。あっという間に飲み干してしまった。
空になったカップを名残惜しそうに見つめている。
「もう一杯、もらってもいいだろうか?」
「え? う、うん……」
再び渡される角砂糖とミルクの入ったカップ。
ラウラは再び、それを混ぜて飲んだ。今度はじっくり味わっている。
シャルロットはラウラの様子を不思議そうに見ていた。
すると、彼女の目に涙が浮かぶ。
「え? ど、どうしたの?」
「これは……何だ?」
「え?」
ラウラは涙を流しながら呟く。
シャルロットは呆気に取られてしまった。
その時、食堂に一人の女性が入ってきた。凰鈴音だ。
「酢豚奢りなさいよ!」
怒鳴った後、彼女はすぐに去っていった。
一夏達は呆然としていたが、しばらくして我に帰る。
「今のは一体?」
「……さぁ?」
一夏とシャルロットは首を傾げた。
セシリアは紅茶を飲み終えると、優雅に立ち上がる。
「酢豚とはどういうことですの!?」
そう言い残して、彼女は走り去った。
その場に取り残された二人は顔を見合わせる。
「……なんだ?」
「さぁ?」
一夏とシャルロットはまた、揃って首を傾げる。
箒は相変わらず、2人の様子を見て難しい顔をしていた。
「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君にインタビューに来ました〜」
そこに現れたのは、カメラを持った女子生徒だった。
クラスメイト達は、「一眼レフカメラ?」「私も買おうかな」「あ、でも高いよね」などと話ながら、彼女を見ている。
「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす」
一夏の隣に座っているシャルロットが自己紹介をする。
「シャルロット・デュノアです」
「シャルル! シャルロットじゃなくてシャルルだろ!? 自分の名前間違えんなよ!」
一夏の突っ込みにシャルロットは目を丸くする。
ラウラは頭を抱えている。
そして、薫子はポカンとしていた。
「あ、ごめん。つい……」
シャルロットは苦笑いをしながら謝る。
「いいよいいよ。そういうノリ嫌いじゃないから」
「そうなんですか」
一夏がホッとしていると、薫子が質問してきた。
「それでは、早速だけど……。ずばり、クラス代表になった感想は?」
「当然の結果だ。候補生程度では、俺の相手にならない」
近くの生徒が一夏の声真似をして答えた。
「カッコいい〜! 学園に俺の敵はいない、と記事に書いてあげよう」
「待て! 俺は何も言ってないぞ!」
一夏は慌てて抗議するが、すでに手帳に書き始めていた。
「うーむ、次いこう。シャルロット……じゃなかった、シャルル君。同じ男子として、織斑君はどんな人だと思う?」
薫子からの問い掛けに、シャルロットは少し考えて答える。
「そうですね……優しいと思います」
一夏は嬉しそうにしている。
「へぇ、その心は?」
「僕のことを気遣ってくれますし、僕が男装しているのをバラさないようにしてくれています。……あ」
それを聞いた一夏は慌ててフォローを入れる。
「言い間違いだよな!? 男装じゃなくて、女装だよな!? シャルル!」
「う、うん! そうだよ!」
そんな2人のやり取りを見て、薫子は微笑んでいる。
「いやぁ、面白い2人だねぇ」
なんとか誤魔化せたことに、2人は安堵した。
後日、発行された新聞には、『シャルル・デュノアの知られざる趣味』という見出しで、シャルロットに女装癖があるという記事が書かれていた。
翌朝、箒は教室へと向かう廊下の途中で、一夏に声をかける。
「一夏」
「なんだ?」
「あ、ああ……えっと……」
聞き返され、言葉に詰まる箒。
自分から話し掛けてきたくせに、どうしたのか、と一夏が怪しげな視線を向ける。
すると、箒は頬を染めてもじもじし始めたかと思うと、小さな声でこう言った。
「来月にあるクラス対抗戦についてなのだが……」
一夏は首を傾げるが、何を言いたいのか理解できたらしく、ポンと手を叩く。
昨日、1週間後に行われるイベントの説明が行われた。
1年生の場合、各クラスで総当たり戦を3回行い、その結果によって順位が決定するとのこと。そして、優勝クラスには、学食のタダ券一週間分が与えられるのだ。
一夏はもちろんのこと、クラスの皆もかなり気合が入っていた。
「一夏の力になりたいんだ。私にも手伝わせて欲しい!」
「……分かった。じゃあ、頼むよ」
一夏はそう言うと、笑顔で右手を差し出した。
その手を箒はしっかりと握り返す。
一夏に頼られたことが嬉しくて、つい力が入ってしまった。痛がる一夏に謝りつつも、胸の鼓動が高鳴っていることを自覚していた。
「そうか、そうか……任せておけ! 私がお前に勝利をもたらしてやる!!」
「それは心強い。期待してるぜ」
力強く宣言する箒に対し、一夏も笑って返した。
すると、箒の顔が再び赤く染まっていく。
今度は一体なんだろうか、と一夏は疑問に思ったが、それを尋ねようとした時、ちょうど1年1組の教室が見えて来た。
箒は慌てて握ったままだった一夏の手を離した。
放課後。一夏がアリーナに入ってくるなり、彼のもとへ来たラウラは、真剣な表情で告げる。
「私と決闘しろ、織斑一夏!」
唐突に言われた一夏は首を傾げる。
「……どういうことだ?」
するとラウラは、苛立たしげに答える。
「貴様も専用機持ちになった以上、断ることは許さん。さあ、戦え」
ラウラの言葉に、一夏はため息をつく。
「あのなぁ……。これから、箒と訓練の約束があるんだ」
「ふんっ。ならば訓練が終わった後でいい。だが、なるべく早くしてもらうぞ」
ラウラはそう言うと、踵を返して壁に寄りかかった。
(なんであいつ、あんなに怒ってんだ?)
一夏は不思議に思いながら、再び箒の方へ向き直る。
「すまない、待たせたな」
「気にすることはない。それより……」
箒はラウラに目を向けてから、一夏に尋ねる。
「……あれは何だ? なぜいきなり勝負を申し込んできたのだ?」
「俺にもわからない。ただ、俺がクラス代表に決まってからこんな調子だ」
「……なるほど。まあいい。今は特訓に集中しよう」
箒は気を取り直すと、ISを展開させる。
「よし。行くぞ」
「ああ」
そして二人は、基礎的な動きの反復練習を始める。
まずは箒が、一夏に斬りかかる。一夏はそれをかわすと、反撃に出る。剣戟が交わされ、激しい金属音が鳴り響く。
しばらくして、一夏は一旦距離を取る。
「どうした一夏! その程度か!?」
しかし、箒は休むことなく攻め続ける。基礎練習であることが頭から抜けていた。
一夏はその攻撃を捌きつつ、箒の動きを観察する。
(剣道やってるから、速いな)
一夏は攻撃をかわし、隙を見ては反撃を試みるが、ことごとく防がれてしまう。
それでも諦めずに何度か打ち合ううちに、徐々に一夏の太刀筋に変化が現れる。
やがて、箒の繰り出す斬撃がわずかに鈍った。
一夏はそこを狙い、一気に攻勢をかける。
箒はそれに反応するが、一夏の勢いに押され、ついには体勢が崩れた。
その瞬間を狙って、一夏は雪片弐型を振り下ろす。
「くっ……」
かろうじて防御したが、衝撃を殺しきれず、そのまま後ろに吹き飛ばされてしまった。
地面に叩きつけられる寸前になんとか受け身を取ったものの、箒はかなり消耗していた。
「はぁ……はぁ……」
一方の一夏も息が上がっていた。
「悪い、ちょっと疲れてきた。休憩するか」
「……ふぅ。そうだな」
それから二人は休憩を挟みつつ、模擬戦を続けた。
一夏の実力は、以前と比べて格段に上達た。箒もかなり上達し、この短時間で目を見張るほどの成長を見せていた。
こうして、二人の特訓は夜まで続いた。
「……終わったか」
うとうとしながら待っていたラウラは、二人が訓練を終えると、おもむろに立ちあがる。
「あ……ラウラ」
一夏が呼びかけると、ラウラはギロリと睨みつける。
「お、おい」
思わず怯む一夏に、ラウラは口を開く。
「貴様……。早くしろと言っただろ」
そう言うなり、ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを展開する。それを見た一夏は慌てて白式を展開する。
専用機のシュヴァルツェア・レーゲンを身に纏うラウラの姿は、やはり一夏より数段大人びて見える。
(……改めて見るとやっぱすげえよなぁ)
体を見下ろすと、なんだか急に恥ずかしくなる。するとラウラの冷たい声が響いた。
「何を見ている?」
「いや別に!」
つい慌てる一夏に、ラウラは冷ややかな視線を送る。
「ふん、まあいい。では始めるぞ」
その時、アリーナ開館を告げるアナウンスが流れた。
「……時間切れか。仕方ない。明日こそ相手をしてもらうぞ」
「ああ、そうだな。また明日」
一夏達はISを解除した後、更衣室へと向かっていった。
一夏が更衣室に入ると、そこには先客がいた。
シャルロット・デュノアである。彼女はISスーツの上に制服のジャケットを羽織っている。
そして、一夏に気がつくと、少しだけ微笑んだ。
「やあ、一夏」
一夏は一瞬ドキッとしたが、すぐに平常心を取り戻す。
「なあ。どうして男子更衣室にいるんだよ?」
その質問に、シャルロットは苦笑する。
「まだ、男のふりをしているからだよ」
「そっか。そうだったな……」
一夏は納得したような顔をして、自分のロッカーを開ける。
その動作を見て、シャルロットは再び話し始める。
「一夏って、結構鍛えているよね。この前見た時よりも引き締まってる感じがする」
「ん? そうか? まあ一応、体力とかはつけないといけないと思って」
「へぇ~。そうなんだ」
シャルロットは、一夏の背中を見つめながら呟く。
「じゃあさ……触っても、良いかな?」
「はっ!?」
一夏は驚き、振り返った。
シャルロットは一夏と目が合うと、少し頬を赤く染めた。
「えっと……ダメ……かな?」
「いや……別にいいんだけどさ。いきなりどうしたのかなって思って」
一夏の問いに、シャルロットはゆっくりと答える。
「うん……一夏も男の子だからね……ちょっと興味があったりしないかな……って思っただけだよ」
「……何言ってるか、よく分からないんだが……とりあえず分かった。でも、変なことは無しだぜ」
一夏の言葉に、シャルロットは笑顔で答えた。
「分かってる。大丈夫だよ」
そして、シャルロットはゆっくりと近づいてくる。
「それじゃ……いくよ……一夏」
一夏が緊張しながら目を閉じる。
(……あれ?)
しかし、何も起こらない。
(どういうことだ……?)
一夏は恐る恐る目を開ける。
シャルロットの姿は消えていた。
「……神隠しか?」
一夏が寮に戻ると、シャルロットは「おかえり」と言って出迎えてくれた。
Aパート終わり。
Bパートへ。