少し変わったインフィニット・ストラトス   作:みるほん

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分割Aパート


第三話『転校生はいなかった』Aパート

……では、これより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、鳳、試しに飛んでみろ」

 

 グランドにて、鈴音とセシリアはすぐにISを展開する。しかし、一夏はなかなか展開できないでいた。

 

「何をしている、織斑。早くしろ」

 

 千冬が苛立ちの声を上げるが、一向に展開する気配がない。

 

「うーん、わからん」

「馬鹿者が! 右腕のガントレットに意識を集中させろ!」

「えーっと……お、できた」

 

 ガントレットが淡く光ると同時に、全身を包むようにアーマーが展開される。

 

「よし、飛べ!」

 

 一夏は千冬の言葉通りに飛ぶが、すぐにバランスを崩してしまう。必死で制御しようとするが、中々うまくいかない。

 そこへ、鈴音が近づいてきた。

 

「あんた、そんなこともできなかったの?」

「何だよ」

「手伝ってあげる」

 

 鈴音は一夏の腕を掴むと、そのまま上昇していく。

 

「おおっ?」

 

 やがて、二人は上空で静止した。

 

「感覚で覚えなさいよ」

 

 鈴音は一夏を掴んだまま、自由自在に飛び回る。

 

「お、おう!」

 

 それに合わせて、一夏もぎこちなく動き始めた。

 

「じゃ、離すわね」

「ちょっ、待っ……!」

 

 鈴音は一夏を突き放すと、どこかへ飛んでいった。

 

……あ」

 

 次の瞬間、一夏は真っ逆さまに落ちていく。

 

「だあぁぁあああああああっ!」

 

 地上10メートル程の高さから、一夏は地面に激突する。その衝撃で土煙が上がった。

 

「一夏さん!?」

 

 セシリアは慌てて急降下する。

 そこには白目を剥いて気絶した一夏の姿があった。

 

「い、一夏さん……しっかりしてくださいまし!」

 

 セシリアは慌てて一夏を揺すり起こす。

 すると、一夏は意識を取り戻した。

 

「なんとなく、感覚は掴めた気がする……

 

 一夏は自分の右手を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

 放課後。一夏達は、クラス決定記念パーティーをしていた。場所は、学園内の食堂だ。

 一組以外の生徒も紛れ込んで、飲み物やケーキなどを注文している。

 

 一夏はコーヒーを手に取る。一口飲むと、苦味が口に広がった。

 

(だが、嫌いではない。むしろ好きだ。しかし、砂糖とミルクを入れればもっと美味しくなるだろう)

 

 一夏の隣に座っているシャルロットが、それを見ていた。

 

「あ、一夏ってブラック派なんだ?」

「まぁ、そうだな。俺からすれば、これが普通だし」

 

 そう言いつつ、一夏はテーブルに置いてあるシュガースティックに手を伸す。だが、それは誰かの手に阻まれた。

 ラウラである。彼女は、一夏に瓶を渡してきた。

 中身を見ると、角砂糖が8個入っている。

 

「え? くれるのか?」

 

 一夏は驚いた。

 ラウラは無言でうなずく。

 一夏は、それをお礼を言いながら受け取り、砂糖をカップに入れて混ぜて飲んだ。

 すると、程よい甘さが口に広がる。

 

(あー……やっぱり、甘い方がうまい)

 

 一夏は満足そうな顔をした。

 

「一夏、本当にブラックが好きなの?」

「ああ」

「へぇ~……、一夏って意外に大人なんだね」

 

 シャルロットはジト目になる。

 一夏は首を傾げる。

 

「ねぇ、一夏。せっかくだから、僕にもちょうだいよ」

 

 一夏は少し考えてから答える。

 

「んー……ラウラ、いいか?」

 

 ラウラは無言でうなずく。

 そして、シャルロットに瓶を渡す。

 その時、一夏の手が一瞬だけ、シャルロットの手に触れた。

 ドキッとする二人。お互い顔を見合わせ、頬を赤らめる。

 

(手、柔らかかった……それに温かかった)

 

 一夏は無意識のうちにシャルロットの手を凝視していた。

 その視線に気付いたシャルロットは慌てて手を引っ込める。

 

「えっと、ありがとう……

 

 シャルロットは受け取った瓶を開け、角砂糖2個をカップに入れる。

 一夏とラウラはその様子をじっと見つめていた。

 そんな2人の視線に気付いていないシャルロットは、砂糖を入れたスプーンでかき混ぜ、それを口に運ぶ。

 シャルロットの顔はほころび、幸せそうに飲み始めた。

 その姿を見た一夏は、思わず呟く。

 

「なんか、可愛い……

 

 それを聞いたシャルロットは驚いて一夏の方を見る。

 その顔は真っ赤になっていた。

 

「か、かわっ!?」

「えっ?」

 

 シャルロットの反応を見て一夏も恥ずかしくなり、慌てる。

 そんな二人のやり取りを眺める者がいた。箒とセシリアだ。

 箒の表情はどこか険しいが、セシリアは微笑ましいものを見るような笑みを浮かべていた。

 

「まぁ! お熱いですわね」

 

 それを聞いて、一夏はさらに焦り出す。

 

「いや、そういう意味じゃなくて……!」

「大丈夫ですよ。分かっていますわ」

 

 セシリアは紅茶を一口飲む。

 シャルロットはますます顔を赤くした。

 

「あ、あはは……

 

 シャルロットが苦笑いをすると、ラウラが突然立ち上がった。

 

「私にも……飲ませてくれないか? ミルクと砂糖を入れて」

「へっ?」

 

 シャルロットはラウラの唐突な言葉に戸惑った。

 ラウラは真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「えっと……うん」

 

 戸惑いながらも、シャルロットは砂糖とミルクをラウラに手渡す。

 ラウラはそれを受け取って自分のカップに入れた。ゆっくりと混ぜてから、恐る恐る口に含む。

 次の瞬間、ラウラの目が大きく開いた。彼女は夢中で飲んでいく。あっという間に飲み干してしまった。

 空になったカップを名残惜しそうに見つめている。

 

「もう一杯、もらってもいいだろうか?」

「え? う、うん……

 

 再び渡される角砂糖とミルクの入ったカップ。

 ラウラは再び、それを混ぜて飲んだ。今度はじっくり味わっている。

 シャルロットはラウラの様子を不思議そうに見ていた。

 すると、彼女の目に涙が浮かぶ。

 

「え? ど、どうしたの?」

「これは……何だ?」

「え?」

 

 ラウラは涙を流しながら呟く。

 シャルロットは呆気に取られてしまった。

 その時、食堂に一人の女性が入ってきた。凰鈴音だ。

 

「酢豚奢りなさいよ!」

 

 怒鳴った後、彼女はすぐに去っていった。

 一夏達は呆然としていたが、しばらくして我に帰る。

 

「今のは一体?」

……さぁ?」

 

 一夏とシャルロットは首を傾げた。

 セシリアは紅茶を飲み終えると、優雅に立ち上がる。

 

「酢豚とはどういうことですの!?」

 

 そう言い残して、彼女は走り去った。

 その場に取り残された二人は顔を見合わせる。

 

……なんだ?」

「さぁ?」

 

 一夏とシャルロットはまた、揃って首を傾げる。

 箒は相変わらず、2人の様子を見て難しい顔をしていた。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君にインタビューに来ました〜」

 

 そこに現れたのは、カメラを持った女子生徒だった。

 クラスメイト達は、「一眼レフカメラ?」「私も買おうかな」「あ、でも高いよね」などと話ながら、彼女を見ている。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす」

 

 一夏の隣に座っているシャルロットが自己紹介をする。

 

「シャルロット・デュノアです」

「シャルル! シャルロットじゃなくてシャルルだろ!? 自分の名前間違えんなよ!」

 

 一夏の突っ込みにシャルロットは目を丸くする。

 ラウラは頭を抱えている。

 そして、薫子はポカンとしていた。

 

「あ、ごめん。つい……

 

 シャルロットは苦笑いをしながら謝る。

 

「いいよいいよ。そういうノリ嫌いじゃないから」

「そうなんですか」

 

 一夏がホッとしていると、薫子が質問してきた。

 

「それでは、早速だけど……。ずばり、クラス代表になった感想は?」

「当然の結果だ。候補生程度では、俺の相手にならない」

 

 近くの生徒が一夏の声真似をして答えた。

 

「カッコいい〜! 学園に俺の敵はいない、と記事に書いてあげよう」

「待て! 俺は何も言ってないぞ!」

 

 一夏は慌てて抗議するが、すでに手帳に書き始めていた。

 

「うーむ、次いこう。シャルロット……じゃなかった、シャルル君。同じ男子として、織斑君はどんな人だと思う?」

 

 薫子からの問い掛けに、シャルロットは少し考えて答える。

 

「そうですね……優しいと思います」

 

 一夏は嬉しそうにしている。

 

「へぇ、その心は?」

「僕のことを気遣ってくれますし、僕が男装しているのをバラさないようにしてくれています。……あ」

 

 それを聞いた一夏は慌ててフォローを入れる。

 

「言い間違いだよな!? 男装じゃなくて、女装だよな!? シャルル!」

「う、うん! そうだよ!」

 

 そんな2人のやり取りを見て、薫子は微笑んでいる。

 

「いやぁ、面白い2人だねぇ」

 

 なんとか誤魔化せたことに、2人は安堵した。

 後日、発行された新聞には、『シャルル・デュノアの知られざる趣味』という見出しで、シャルロットに女装癖があるという記事が書かれていた。

 

 

 

 

 翌朝、箒は教室へと向かう廊下の途中で、一夏に声をかける。

 

「一夏」

「なんだ?」

「あ、ああ……えっと……

 

 聞き返され、言葉に詰まる箒。

 自分から話し掛けてきたくせに、どうしたのか、と一夏が怪しげな視線を向ける。

 すると、箒は頬を染めてもじもじし始めたかと思うと、小さな声でこう言った。

 

「来月にあるクラス対抗戦についてなのだが……

 

 一夏は首を傾げるが、何を言いたいのか理解できたらしく、ポンと手を叩く。

 昨日、1週間後に行われるイベントの説明が行われた。

 1年生の場合、各クラスで総当たり戦を3回行い、その結果によって順位が決定するとのこと。そして、優勝クラスには、学食のタダ券一週間分が与えられるのだ。

 一夏はもちろんのこと、クラスの皆もかなり気合が入っていた。

 

「一夏の力になりたいんだ。私にも手伝わせて欲しい!」

……分かった。じゃあ、頼むよ」

 

 一夏はそう言うと、笑顔で右手を差し出した。

 その手を箒はしっかりと握り返す。

 一夏に頼られたことが嬉しくて、つい力が入ってしまった。痛がる一夏に謝りつつも、胸の鼓動が高鳴っていることを自覚していた。

 

「そうか、そうか……任せておけ! 私がお前に勝利をもたらしてやる!!」

「それは心強い。期待してるぜ」

 

 力強く宣言する箒に対し、一夏も笑って返した。

 すると、箒の顔が再び赤く染まっていく。

 今度は一体なんだろうか、と一夏は疑問に思ったが、それを尋ねようとした時、ちょうど1年1組の教室が見えて来た。

 箒は慌てて握ったままだった一夏の手を離した。

 

 

 

 

 

 放課後。一夏がアリーナに入ってくるなり、彼のもとへ来たラウラは、真剣な表情で告げる。

 

「私と決闘しろ、織斑一夏!」

 

 唐突に言われた一夏は首を傾げる。

 

……どういうことだ?」

 

 するとラウラは、苛立たしげに答える。

 

「貴様も専用機持ちになった以上、断ることは許さん。さあ、戦え」

 

 ラウラの言葉に、一夏はため息をつく。

 

「あのなぁ……。これから、箒と訓練の約束があるんだ」

「ふんっ。ならば訓練が終わった後でいい。だが、なるべく早くしてもらうぞ」

 

 ラウラはそう言うと、踵を返して壁に寄りかかった。

 

(なんであいつ、あんなに怒ってんだ?)

 

 一夏は不思議に思いながら、再び箒の方へ向き直る。

 

「すまない、待たせたな」

「気にすることはない。それより……

 

 箒はラウラに目を向けてから、一夏に尋ねる。

 

……あれは何だ? なぜいきなり勝負を申し込んできたのだ?」

「俺にもわからない。ただ、俺がクラス代表に決まってからこんな調子だ」

……なるほど。まあいい。今は特訓に集中しよう」

 

 箒は気を取り直すと、ISを展開させる。

 

「よし。行くぞ」

「ああ」

 

 そして二人は、基礎的な動きの反復練習を始める。

 まずは箒が、一夏に斬りかかる。一夏はそれをかわすと、反撃に出る。剣戟が交わされ、激しい金属音が鳴り響く。

 しばらくして、一夏は一旦距離を取る。

 

「どうした一夏! その程度か!?」

 

 しかし、箒は休むことなく攻め続ける。基礎練習であることが頭から抜けていた。

 一夏はその攻撃を捌きつつ、箒の動きを観察する。

 

(剣道やってるから、速いな)

 

 一夏は攻撃をかわし、隙を見ては反撃を試みるが、ことごとく防がれてしまう。

 それでも諦めずに何度か打ち合ううちに、徐々に一夏の太刀筋に変化が現れる。

 やがて、箒の繰り出す斬撃がわずかに鈍った。

 一夏はそこを狙い、一気に攻勢をかける。

 箒はそれに反応するが、一夏の勢いに押され、ついには体勢が崩れた。

 その瞬間を狙って、一夏は雪片弐型を振り下ろす。

 

「くっ……

 

 かろうじて防御したが、衝撃を殺しきれず、そのまま後ろに吹き飛ばされてしまった。

 地面に叩きつけられる寸前になんとか受け身を取ったものの、箒はかなり消耗していた。

 

「はぁ……はぁ……

 

 一方の一夏も息が上がっていた。

 

「悪い、ちょっと疲れてきた。休憩するか」

……ふぅ。そうだな」

 

 それから二人は休憩を挟みつつ、模擬戦を続けた。

 一夏の実力は、以前と比べて格段に上達た。箒もかなり上達し、この短時間で目を見張るほどの成長を見せていた。

 こうして、二人の特訓は夜まで続いた。

 

……終わったか」

 

 うとうとしながら待っていたラウラは、二人が訓練を終えると、おもむろに立ちあがる。

 

「あ……ラウラ」

 

 一夏が呼びかけると、ラウラはギロリと睨みつける。

 

「お、おい」

 

 思わず怯む一夏に、ラウラは口を開く。

 

「貴様……。早くしろと言っただろ」

 

 そう言うなり、ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを展開する。それを見た一夏は慌てて白式を展開する。

 専用機のシュヴァルツェア・レーゲンを身に纏うラウラの姿は、やはり一夏より数段大人びて見える。

 

……改めて見るとやっぱすげえよなぁ)

 

 体を見下ろすと、なんだか急に恥ずかしくなる。するとラウラの冷たい声が響いた。

 

「何を見ている?」

「いや別に!」

 

 つい慌てる一夏に、ラウラは冷ややかな視線を送る。

 

「ふん、まあいい。では始めるぞ」

 

 その時、アリーナ開館を告げるアナウンスが流れた。

 

……時間切れか。仕方ない。明日こそ相手をしてもらうぞ」

「ああ、そうだな。また明日」

 

 一夏達はISを解除した後、更衣室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 一夏が更衣室に入ると、そこには先客がいた。

 シャルロット・デュノアである。彼女はISスーツの上に制服のジャケットを羽織っている。

 そして、一夏に気がつくと、少しだけ微笑んだ。

 

「やあ、一夏」

 

 一夏は一瞬ドキッとしたが、すぐに平常心を取り戻す。

 

「なあ。どうして男子更衣室にいるんだよ?」

 

 その質問に、シャルロットは苦笑する。

 

「まだ、男のふりをしているからだよ」

「そっか。そうだったな……

 

 一夏は納得したような顔をして、自分のロッカーを開ける。

 その動作を見て、シャルロットは再び話し始める。

 

「一夏って、結構鍛えているよね。この前見た時よりも引き締まってる感じがする」

「ん? そうか? まあ一応、体力とかはつけないといけないと思って」

「へぇ~。そうなんだ」

 

 シャルロットは、一夏の背中を見つめながら呟く。

 

「じゃあさ……触っても、良いかな?」

「はっ!?」

 

 一夏は驚き、振り返った。

 シャルロットは一夏と目が合うと、少し頬を赤く染めた。

 

「えっと……ダメ……かな?」

「いや……別にいいんだけどさ。いきなりどうしたのかなって思って」

 

 一夏の問いに、シャルロットはゆっくりと答える。

 

「うん……一夏も男の子だからね……ちょっと興味があったりしないかな……って思っただけだよ」

……何言ってるか、よく分からないんだが……とりあえず分かった。でも、変なことは無しだぜ」

 

 一夏の言葉に、シャルロットは笑顔で答えた。

 

「分かってる。大丈夫だよ」

 

 そして、シャルロットはゆっくりと近づいてくる。

 

「それじゃ……いくよ……一夏」

 

 一夏が緊張しながら目を閉じる。

 

……あれ?)

 

 しかし、何も起こらない。

 

(どういうことだ……?)

 

 一夏は恐る恐る目を開ける。

 シャルロットの姿は消えていた。

 

……神隠しか?」

 

 一夏が寮に戻ると、シャルロットは「おかえり」と言って出迎えてくれた。

 




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