少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
次の日。朝のホームルームが始まる前の教室にて……。
「ねえ、聞いた。二組のクラス代表は凰鈴音なんだって。対抗戦で負けないように、特訓しなきゃね」
一夏の隣の席の女子生徒が話しかけてきた。
彼女の名前は凰鈴音。中国の代表候補生である。
「ふーん。それで?」
一夏は素っ気なく返事をする。
すると、彼女は不満げに口を尖らせた。
「それだけだけど。専用機持ちで、アンタより強いんじゃない?」
「あっ、そう」
またも、一夏は素っ気ない態度で返す。
「なんか冷たいわねぇ……そんなんじゃ、モテないわよ」
「べつに構わないけどな」
一夏は、面倒くさそうに返した。
その言葉を聞いた鈴音は、呆れた表情を浮かべて一夏を見る。
「あんた、随分とやる気がないみたいね」
「そりゃそうだろ。俺には関係ないからな」
「……なんでよ。一組のクラス代表でしょ!」
一夏の言葉に、鈴音が怒鳴るように言った。
「燃え尽きたんだ……」
一夏は遠い目をして答えた。
「はぁ?」
鈴音は首を傾げる。
そこにセシリアが現れた。腰に手を当て、偉そうなポーズだ。
「このわたくしのお陰で、クラスの代表に成れたのです。もっとやる気を出しなさい!」
「あ~、はいはい。サンキュー、サンキュー」
一夏は手をヒラヒラと振る。
「むきぃいい!!」
怒ったセシリアは、一夏に人差し指を突きつけた。
「貴方のような礼儀知らずなど、わたくしが直々に調教してさしあげますわ!」
「へぇ、面白い。やってみろよ」
元気になった一夏は負けじと言い返す。
一触即発の空気が流れる中、チャイムが鳴った。
ホームルームが始まり、担任の織斑千冬が教壇に立つ。
出席簿を片手に持ち、鋭い眼光で鈴音を睨む。
「凰、何をしている。早く二組に戻れ」
「は~い」
千冬に言われ、鈴音は大人しく二組に戻っていった。
放課後。IS学園の一室。そこに、2人の女性の姿があった。
1人は、この学園の生徒会長である更識楯無。
もう1人は、一夏のクラスメイトであり、生徒会書記の布仏本音である。
彼女らは部屋の中央に置かれたテーブルを挟み、向かい合うようにして座っている。
「では、始めましょうか」
「はい~」
2人の間にあるテーブルの上には、トランプが置かれている。
これは、『ダウト』というゲームを行うための準備である。
このゲームのルールは簡単で、『1』から『13』までの手札を一枚ずつ裏向きで場に伏せていき、先に全ての手札を出しきった者が勝者となる。
相手がカードを出した際に『ダウト』とコールでき、出すべき数字と違った場合、場のカードは全て相手の手札に加わる。逆に、正しい数字だった場合、場のカードは全て『ダウト』と言った人の手札に加わる。
つまり、ダウトは、相手との心理戦や駆け引きの勝負になるわけである。
基本的に3人以上で行うゲームだ。
「それじゃ、まずは私からだね~。『1』から『5』」
本音は、26枚の手札から5枚抜き出すと、一番上に置いた。
本音はルールを知らなかった。なので、とりあえず適当に置いてみたのだ。
「ふぅん。いきなり初っ端から飛ばしてくるわねぇ」
楯無は、扇子を口元に当てながら言った。扇子には、『強気』と書かれている。
「じゃあ次は私の番ね。『6』から『11』」
楯無は、手札の中から6枚を抜き出し、山の上に置く。
楯無もルールを知らなかった。なので、とりあえず本音の真似をしてみた。
その行動に、本音は驚いたような表情を見せる。
しかし、次の瞬間には笑顔になっていた。
「ダウト!」
本音が叫ぶように言う。
楯無の出したカードは『J』『Q』『K』『K』『8』『9』であった。
「あらら、見破られちゃった?」
楯無が苦笑しながら言った。
本音は場のカードを、全て自分の手の中に回収していく。
その後、2回戦目が行われた。そしてその結果、本音が2連勝した。
「やったー。わたし大富豪~♪」
「う~ん、強いわね。本音ちゃん……」
楯無は、少し悔しそうな顔をしながらそう呟く。
そんな彼女を見て、本音はニコニコしていた。
「えへへ~。たっちゃんに褒められた~」
嬉しそうな声を出す本音をよそに、楯無は次のゲームの準備を進める。
次に行うのは、『7並べ』というトランプを使ったゲームである。
楯無が『7』を並べる。すると本音は、『7』の隣に『A』を置いた。
それを見ていた楯無は、本音の間違いに気づく。
「ストップ! ちょっと待って」
楯無の声を聞いて、本音は動きを止める。
「どうしました~?」
不思議そうに首を傾げる本音に対して、楯無はこう告げた。
「今、あなた『7』の左に『1』を置いたでしょ? それはダメなの。だって、ほら、『6』がもう出せないじゃない?」
楯無の言葉を聞いた本音は、ハッとした表情を浮かべる。
「あっ……しまったぁ。ごめんなさい、たっちゃん」
申し訳なさそうにする本音に向かって、楯無は笑顔で答える。
「いいのよ。気にしないで。まだ始まったばかりだしね」
楯無と本音はその後も、何度か勝負を繰り返した。
「負けてしまったわね……でも、楽しかったわ」
楯無は微笑みながら扇子を広げる。そこには、『満足』と書いてあった。
勝利した本音もとても満足げな様子だ。
「ふぃ~。勝った勝った。これでわたしが一番だね~」
「えぇ。そうね……私もまだまだね。次は負けないんだから」
2人は笑い合いながら、お互いに健闘を称え合った。
「さてと……」
空気が落ち着いたところで、楯無はある話題を切り出すことにした。
「あのね、本音ちゃん。一つ聞きたいことがあるんだけど……」
真剣な眼差しを向けてくる楯無に対し、本音はキョトンとしていた。
「ん~、何ですか~?」
「織斑一夏君のことなんだけど……。学園最強を叩きのめすつもりって噂されてるけど、本当のところはどうなのかしら?」
「う~ん? 言ってたような、言ってなかったような~」
本音は、考え込むようにして顎に手を当てる。
「あらら、曖昧なのね」
「なんかね~、おりむーが『候補生程度では、俺の相手にならない』とか何とか、言ってたのは聞いた気がするよ~」
「候補生程度、ねぇ……」
楯無は扇子を広げ、口元を隠す。扇子には『侮り』と書かれていた。
「相当な自信家みたいね」
「ん~、よくわかんないです~」
楯無は少し思案した後、扇子を閉じ、机の上に置く。
「ま、いずれ挑んでくる日が来るでしょうね。……候補ではない、国家代表の私に。楽しみにしていましょうか」
楯無は不敵な笑みを見せた。
その後、一夏が生徒会室を訪れることも、楯無の前に立ち塞がることもなかった。
(鞭で叩かれるのか? それとも、水責めか?)
一夏がそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「織斑一夏、決闘の続きだ。行くぞ」
振り返ると、ラウラが腕を組んで立っていた。
一夏はすっかり忘却していたが、「待っていたぜこの時を!!」という表情をした。
「わかった。行こう」
ラウラに連れられ、一夏はアリーナへと向かった。
2人は、アリーナの中央で向かい合う。
「……おい」
ラウラは辺りを見渡す。
周りは訓練中の生徒達でごった返している。
「こんな所で戦えるか!」
ラウラは叫んだ。
「じゃあどうすんだよ」
一夏は呆れて言った。
「こうするのだ!」
ラウラはそう叫ぶと、周囲の生徒達に聞こえるように、大声で話し始めた。
「貴様ら、ISをファッションショーと勘違いしていないか? 意識が甘く、危機感に疎い。しかも、その自覚もない。だから、そのような愚かな考えを持つ」
ラウラの話を聞き、何人かの生徒達がこちらに注目を始める。
「急に演説を始めた!?」
一夏は驚いている。
「えっと……私達は別にそんなつもりは……」
周りの女子生徒たちは困惑していた。
「ふん、どうせ口では何とでも言える」
ラウラは一蹴した。
すると、一人の女子生徒がラウラに向かって歩き始めた。
「ちょっと! いきなり来て、何よ!」
怒りの形相で詰め寄る女子生徒を、ラウラは冷笑で迎える。
「分かりやすく言ってやろう。お前達のレベルが低いと言ったんだ」
その言葉を聞いた瞬間、女子生徒の顔つきが変わった。
「言ってくれるじゃない……だったら、証明してみせてよね」
その言葉に、ラウラは不敵な笑みを浮かべる。
「いいだろう。全員まとめてかかってこい。私と一夏で相手をしてやる」
「ちょ、ちょっと待て! 何言ってんだ!?」
「安心しろ、全員追い出した後は、2人っきりでじっくりと相手をしてやる」
ラウラは不敵に笑みを浮かべる。
「そういう問題じゃないっての!!」
一夏は思わず突っ込む。
ラウラは腰に手を当て胸を張る。
「ふん、怖じ気づいたか? ならば仕方ない。私だけで……」
そこまで言うと、ラウラの動きが止まった。
ラウラが見ている方向に一夏も目を向ける。
そこには、殺気に満ちた目をした女子達が居た。
「上等よ……やってやろうじゃない……!」
『甲龍』を纏った鈴音が呟くと、それにつられて皆がやる気になった。
その様子を見て、ラウラはニヤリと笑う。
「では決まりだな。覚悟するがいい。……いくぞ、一夏!」
「だから、俺の話聞けぇっ!!」
一夏の叫びを無視して、戦闘が始まった。
ラウラはまず、鈴音の方へ突撃する。
鈴音は衝撃砲を放つが、ラウラは難なく避けていく。
続いて、訓練機IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った女子生徒がマシンガンで援護射撃をするも、それも簡単に避けられてしまう。
そして遂に、ラウラは2人の前にたどり着いた。
ラウラはワイヤーブレードを振るい、鈴音を捕らえようとする。
しかし、背後から放たれたレーザーが直撃し、その動きを止める。
セシリアの援護攻撃だ。
だが、すぐにラウラは体勢を立て直す。
すると、今度はラファール・リヴァイヴからの砲撃を受けた。
その攻撃を避けると、訓練機IS『打鉄』を纏った女子達による弾幕が張られる。
退路を塞ぐように展開した包囲網に、慌てて脱出しようとするも、四方八方から迫る銃弾に阻まれる。
やがて、全方向からの一斉攻撃を受け、ラウラのシールドエネルギーは尽きた。
「よし……まず1人。次は一夏よ」
少女達の視線が、一斉に一夏に向けられる。
一夏は冷や汗を流しながら、飛翔する。
「こうなったら……やけくそだーっ!!」
セシリアの眼前まで来た一夏は、『零落白夜』を発動させた。『零落白夜』は相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与える武装であり、バリア無効化能力を持つ雪片弐型のみが持つ特殊能力である。
「セシリア! 調教は何をするんだ!?」
雪片弐型を振り下ろすが、間一髪のところで横に移動し回避された。
「……レーザー責めですわ」
一夏はお返しとばかりにブルー・ティアーズからの射撃を受ける。何とか直撃は免れたが、ダメージを負った。
そこへ、打鉄を武装した女子達が襲いかかる。
その一人に狙いを定め、一夏はすぐさま瞬時加速で突進。すれ違いざまに一太刀。
しかし、次の瞬間には、別の機体から剣で斬りつけられる。
更に、他の生徒の斬撃を受け、一夏のIS『白式』は装甲の一部が砕け散った。
そのまま蹴り飛ばされ、地面へと落下していく。
そこに追い討ちをかけるかのように、大量の銃弾が降り注ぐ。
「あぁ……やっぱり駄目か……」
それを必死にかわすも、とうとう限界が訪れた。
一夏とラウラはアリーナから追い出され、地面に倒れていた。
しばらくして、ようやく立ち上がった二人は、並んで歩き出した。
自販機で飲み物を買い、ベンチに座って休憩する。
しばらくボーッとしていると、日が暮れ始めた。
一夏は空を見上げ、息をつく。
すると突然、誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、そこには鈴音が立っていた。
「何してんのよ」
「別に……。ちょっと考え事してただけだ。それより、何か用か?」
そう尋ねると、鈴音は不満げな顔で、一夏の横に腰掛けた。
「アンタ、約束覚えてるでしょうね」
一夏は少し考えるような仕草を見せると、「あぁ……あれか……?」と答えた。
「小学での約束だろ? 勿論、覚えているさ。酢豚の話だよな?」
その言葉を聞いた鈴音は、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うふふん、ならよろしい! それで……いつになったらあたしに酢豚作ってくれるわけ?」
そう言って、一夏に顔を近づけてくる。
(あれ? 鈴じゃなくて、俺が酢豚作るのか?)
鈴音の瞳は期待でキラキラ輝いている。一夏は苦笑いするしかなかった。
鈴音は一夏に抱きつき、胸に頬擦りしながら呟く。
「早く作れ~」
「いや、そんなこと言われても困るんだが……」
一夏は鈴音を引き離しながら立ち上がる。
しかし、彼女は諦めない。再び一夏に抱きついてくる。
「ちょっ、離せって!」
抵抗するも、鈴音を振り払うことが出来ない。
その時、ラウラがベンチから立ち上がる。
「こんな……こんなところで負けて……。私は弱いままだ……ッ!!」
ラウラは悲しげに目を伏せて言う。
すると、鈴音は一夏の胸倉を掴んだ。
「弱ければ、強くなれば良いだけでしょ!」
「俺は何も言ってないぞ!?」
そして、鈴音と一夏、2人の視線がぶつかり合う。
バチバチと火花が散っているように見えた。
「いつまでもうじうじしない!」
「ラウラに言えよ!」
2人の言い合いを見て、ラウラはオロオロしている。
そして、鈴音は一夏から離れ、ラウラに向き直った。
「ねぇ、強くなりたいんでしょう?」
鈴音の言葉に、ラウラは黙って首を縦に振る。
「だったら、今すぐ特訓するわよ! 時間は限られているんだから!」
そう言って、鈴音はラウラの手を掴み、どこかへ行ってしまった。
取り残された一夏はポカンとしていた。
「まぁ、元気出たみたいだし、いっか……」
一夏は空を見上げる。夕焼けに染まった雲を見ながら、彼は静かに微笑んだ。
Bパート終わり。
Cパートへ。