少し変わったインフィニット・ストラトス   作:みるほん

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第三話『転校生はいなかった』Bパート

 次の日。朝のホームルームが始まる前の教室にて……

 

「ねえ、聞いた。二組のクラス代表は凰鈴音なんだって。対抗戦で負けないように、特訓しなきゃね」

 

 一夏の隣の席の女子生徒が話しかけてきた。

 彼女の名前は凰鈴音。中国の代表候補生である。

 

「ふーん。それで?」

 

 一夏は素っ気なく返事をする。

 すると、彼女は不満げに口を尖らせた。

 

「それだけだけど。専用機持ちで、アンタより強いんじゃない?」

「あっ、そう」

 

 またも、一夏は素っ気ない態度で返す。

 

「なんか冷たいわねぇ……そんなんじゃ、モテないわよ」

「べつに構わないけどな」

 

 一夏は、面倒くさそうに返した。

 その言葉を聞いた鈴音は、呆れた表情を浮かべて一夏を見る。

 

「あんた、随分とやる気がないみたいね」

「そりゃそうだろ。俺には関係ないからな」

……なんでよ。一組のクラス代表でしょ!」

 

 一夏の言葉に、鈴音が怒鳴るように言った。

 

「燃え尽きたんだ……

 

 一夏は遠い目をして答えた。

 

「はぁ?」

 

 鈴音は首を傾げる。

 そこにセシリアが現れた。腰に手を当て、偉そうなポーズだ。

 

「このわたくしのお陰で、クラスの代表に成れたのです。もっとやる気を出しなさい!」

「あ~、はいはい。サンキュー、サンキュー」

 

 一夏は手をヒラヒラと振る。

 

「むきぃいい!!」

 

 怒ったセシリアは、一夏に人差し指を突きつけた。

 

「貴方のような礼儀知らずなど、わたくしが直々に調教してさしあげますわ!」

「へぇ、面白い。やってみろよ」

 

 元気になった一夏は負けじと言い返す。

 一触即発の空気が流れる中、チャイムが鳴った。

 

 ホームルームが始まり、担任の織斑千冬が教壇に立つ。

 出席簿を片手に持ち、鋭い眼光で鈴音を睨む。

 

「凰、何をしている。早く二組に戻れ」

「は~い」

 

 千冬に言われ、鈴音は大人しく二組に戻っていった。

 

 

 

 

 

 放課後。IS学園の一室。そこに、2人の女性の姿があった。

 1人は、この学園の生徒会長である更識楯無。

 もう1人は、一夏のクラスメイトであり、生徒会書記の布仏本音である。

 彼女らは部屋の中央に置かれたテーブルを挟み、向かい合うようにして座っている。

「では、始めましょうか」

「はい~」

 2人の間にあるテーブルの上には、トランプが置かれている。

 これは、『ダウト』というゲームを行うための準備である。

 このゲームのルールは簡単で、『1』から『13』までの手札を一枚ずつ裏向きで場に伏せていき、先に全ての手札を出しきった者が勝者となる。

 相手がカードを出した際に『ダウト』とコールでき、出すべき数字と違った場合、場のカードは全て相手の手札に加わる。逆に、正しい数字だった場合、場のカードは全て『ダウト』と言った人の手札に加わる。

 つまり、ダウトは、相手との心理戦や駆け引きの勝負になるわけである。

 基本的に3人以上で行うゲームだ。

 

「それじゃ、まずは私からだね~。『1』から『5』」

 

 本音は、26枚の手札から5枚抜き出すと、一番上に置いた。

 本音はルールを知らなかった。なので、とりあえず適当に置いてみたのだ。

 

「ふぅん。いきなり初っ端から飛ばしてくるわねぇ」

 楯無は、扇子を口元に当てながら言った。扇子には、『強気』と書かれている。

 

「じゃあ次は私の番ね。『6』から『11』」

 

 楯無は、手札の中から6枚を抜き出し、山の上に置く。

 楯無もルールを知らなかった。なので、とりあえず本音の真似をしてみた。

 その行動に、本音は驚いたような表情を見せる。

 しかし、次の瞬間には笑顔になっていた。

 

「ダウト!」

 

 本音が叫ぶように言う。

 楯無の出したカードは『J』『Q』『K』『K』『8』『9』であった。

 

「あらら、見破られちゃった?」

 

 楯無が苦笑しながら言った。

 本音は場のカードを、全て自分の手の中に回収していく。

 その後、2回戦目が行われた。そしてその結果、本音が2連勝した。

 

「やったー。わたし大富豪~♪」

「う~ん、強いわね。本音ちゃん……

 

 楯無は、少し悔しそうな顔をしながらそう呟く。

 そんな彼女を見て、本音はニコニコしていた。

 

「えへへ~。たっちゃんに褒められた~」

 

 嬉しそうな声を出す本音をよそに、楯無は次のゲームの準備を進める。

 次に行うのは、『7並べ』というトランプを使ったゲームである。

 楯無が『7』を並べる。すると本音は、『7』の隣に『A』を置いた。

 それを見ていた楯無は、本音の間違いに気づく。

 

「ストップ! ちょっと待って」

 

 楯無の声を聞いて、本音は動きを止める。

 

「どうしました~?」

 

 不思議そうに首を傾げる本音に対して、楯無はこう告げた。

 

「今、あなた『7』の左に『1』を置いたでしょ? それはダメなの。だって、ほら、『6』がもう出せないじゃない?」

 

 楯無の言葉を聞いた本音は、ハッとした表情を浮かべる。

 

「あっ……しまったぁ。ごめんなさい、たっちゃん」

 

 申し訳なさそうにする本音に向かって、楯無は笑顔で答える。

 

「いいのよ。気にしないで。まだ始まったばかりだしね」

 

 楯無と本音はその後も、何度か勝負を繰り返した。

 

「負けてしまったわね……でも、楽しかったわ」

 

 楯無は微笑みながら扇子を広げる。そこには、『満足』と書いてあった。

 勝利した本音もとても満足げな様子だ。

 

「ふぃ~。勝った勝った。これでわたしが一番だね~」

「えぇ。そうね……私もまだまだね。次は負けないんだから」

 

 2人は笑い合いながら、お互いに健闘を称え合った。

 

「さてと……

 

 空気が落ち着いたところで、楯無はある話題を切り出すことにした。

 

「あのね、本音ちゃん。一つ聞きたいことがあるんだけど……

 

 真剣な眼差しを向けてくる楯無に対し、本音はキョトンとしていた。

 

「ん~、何ですか~?」

「織斑一夏君のことなんだけど……。学園最強を叩きのめすつもりって噂されてるけど、本当のところはどうなのかしら?」

「う~ん? 言ってたような、言ってなかったような~」

 

 本音は、考え込むようにして顎に手を当てる。

 

「あらら、曖昧なのね」

「なんかね~、おりむーが『候補生程度では、俺の相手にならない』とか何とか、言ってたのは聞いた気がするよ~」

「候補生程度、ねぇ……

 

 楯無は扇子を広げ、口元を隠す。扇子には『侮り』と書かれていた。

 

「相当な自信家みたいね」

「ん~、よくわかんないです~」

 

 楯無は少し思案した後、扇子を閉じ、机の上に置く。

 

「ま、いずれ挑んでくる日が来るでしょうね。……候補ではない、国家代表の私に。楽しみにしていましょうか」

 

 楯無は不敵な笑みを見せた。

 

 その後、一夏が生徒会室を訪れることも、楯無の前に立ち塞がることもなかった。

 

 

 

 

 

(鞭で叩かれるのか? それとも、水責めか?)

 

 一夏がそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。

 

「織斑一夏、決闘の続きだ。行くぞ」

 

 振り返ると、ラウラが腕を組んで立っていた。

 一夏はすっかり忘却していたが、「待っていたぜこの時を!!」という表情をした。

 

「わかった。行こう」

 

 ラウラに連れられ、一夏はアリーナへと向かった。

 2人は、アリーナの中央で向かい合う。

 

……おい」

 

 ラウラは辺りを見渡す。

 周りは訓練中の生徒達でごった返している。

 

「こんな所で戦えるか!」

 

 ラウラは叫んだ。

 

「じゃあどうすんだよ」

 

 一夏は呆れて言った。

 

「こうするのだ!」

 

 ラウラはそう叫ぶと、周囲の生徒達に聞こえるように、大声で話し始めた。

 

「貴様ら、ISをファッションショーと勘違いしていないか? 意識が甘く、危機感に疎い。しかも、その自覚もない。だから、そのような愚かな考えを持つ」

 

 ラウラの話を聞き、何人かの生徒達がこちらに注目を始める。

 

「急に演説を始めた!?」

 

 一夏は驚いている。

 

「えっと……私達は別にそんなつもりは……

 

 周りの女子生徒たちは困惑していた。

 

「ふん、どうせ口では何とでも言える」

 

 ラウラは一蹴した。

 すると、一人の女子生徒がラウラに向かって歩き始めた。

 

「ちょっと! いきなり来て、何よ!」

 

 怒りの形相で詰め寄る女子生徒を、ラウラは冷笑で迎える。

 

「分かりやすく言ってやろう。お前達のレベルが低いと言ったんだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、女子生徒の顔つきが変わった。

 

「言ってくれるじゃない……だったら、証明してみせてよね」

 

 その言葉に、ラウラは不敵な笑みを浮かべる。

 

「いいだろう。全員まとめてかかってこい。私と一夏で相手をしてやる」

「ちょ、ちょっと待て! 何言ってんだ!?」

「安心しろ、全員追い出した後は、2人っきりでじっくりと相手をしてやる」

 

 ラウラは不敵に笑みを浮かべる。

 

「そういう問題じゃないっての!!」

 

 一夏は思わず突っ込む。

 ラウラは腰に手を当て胸を張る。

 

「ふん、怖じ気づいたか? ならば仕方ない。私だけで……

 

 そこまで言うと、ラウラの動きが止まった。

 ラウラが見ている方向に一夏も目を向ける。

 そこには、殺気に満ちた目をした女子達が居た。

 

「上等よ……やってやろうじゃない……!」

 

『甲龍』を纏った鈴音が呟くと、それにつられて皆がやる気になった。

 その様子を見て、ラウラはニヤリと笑う。

 

「では決まりだな。覚悟するがいい。……いくぞ、一夏!」

「だから、俺の話聞けぇっ!!」

 

 一夏の叫びを無視して、戦闘が始まった。

 ラウラはまず、鈴音の方へ突撃する。

 鈴音は衝撃砲を放つが、ラウラは難なく避けていく。

 続いて、訓練機IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った女子生徒がマシンガンで援護射撃をするも、それも簡単に避けられてしまう。

 そして遂に、ラウラは2人の前にたどり着いた。

 ラウラはワイヤーブレードを振るい、鈴音を捕らえようとする。

 しかし、背後から放たれたレーザーが直撃し、その動きを止める。

 セシリアの援護攻撃だ。

 だが、すぐにラウラは体勢を立て直す。

 すると、今度はラファール・リヴァイヴからの砲撃を受けた。

 その攻撃を避けると、訓練機IS『打鉄』を纏った女子達による弾幕が張られる。

 退路を塞ぐように展開した包囲網に、慌てて脱出しようとするも、四方八方から迫る銃弾に阻まれる。

 やがて、全方向からの一斉攻撃を受け、ラウラのシールドエネルギーは尽きた。

 

「よし……まず1人。次は一夏よ」

 

 少女達の視線が、一斉に一夏に向けられる。

 一夏は冷や汗を流しながら、飛翔する。

 

「こうなったら……やけくそだーっ!!」

 

 セシリアの眼前まで来た一夏は、『零落白夜』を発動させた。『零落白夜』は相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与える武装であり、バリア無効化能力を持つ雪片弐型のみが持つ特殊能力である。

 

「セシリア! 調教は何をするんだ!?」

 

 雪片弐型を振り下ろすが、間一髪のところで横に移動し回避された。

 

……レーザー責めですわ」

 

 一夏はお返しとばかりにブルー・ティアーズからの射撃を受ける。何とか直撃は免れたが、ダメージを負った。

 そこへ、打鉄を武装した女子達が襲いかかる。

 その一人に狙いを定め、一夏はすぐさま瞬時加速で突進。すれ違いざまに一太刀。

 しかし、次の瞬間には、別の機体から剣で斬りつけられる。

 更に、他の生徒の斬撃を受け、一夏のIS『白式』は装甲の一部が砕け散った。

 そのまま蹴り飛ばされ、地面へと落下していく。

 そこに追い討ちをかけるかのように、大量の銃弾が降り注ぐ。

 

「あぁ……やっぱり駄目か……

 

 それを必死にかわすも、とうとう限界が訪れた。

 

 

 

 

 

 一夏とラウラはアリーナから追い出され、地面に倒れていた。

 しばらくして、ようやく立ち上がった二人は、並んで歩き出した。

 自販機で飲み物を買い、ベンチに座って休憩する。

 しばらくボーッとしていると、日が暮れ始めた。

 一夏は空を見上げ、息をつく。

 すると突然、誰かに肩を叩かれた。

 振り返ると、そこには鈴音が立っていた。

 

「何してんのよ」

「別に……。ちょっと考え事してただけだ。それより、何か用か?」

 

 そう尋ねると、鈴音は不満げな顔で、一夏の横に腰掛けた。

 

「アンタ、約束覚えてるでしょうね」

 

 一夏は少し考えるような仕草を見せると、「あぁ……あれか……?」と答えた。

 

「小学での約束だろ? 勿論、覚えているさ。酢豚の話だよな?」

 

 その言葉を聞いた鈴音は、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「うふふん、ならよろしい! それで……いつになったらあたしに酢豚作ってくれるわけ?」

 

 そう言って、一夏に顔を近づけてくる。

 

(あれ? 鈴じゃなくて、俺が酢豚作るのか?)

 

 鈴音の瞳は期待でキラキラ輝いている。一夏は苦笑いするしかなかった。

 鈴音は一夏に抱きつき、胸に頬擦りしながら呟く。

 

「早く作れ~」

「いや、そんなこと言われても困るんだが……

 

 一夏は鈴音を引き離しながら立ち上がる。

 しかし、彼女は諦めない。再び一夏に抱きついてくる。

 

「ちょっ、離せって!」

 

 抵抗するも、鈴音を振り払うことが出来ない。

 その時、ラウラがベンチから立ち上がる。

 

「こんな……こんなところで負けて……。私は弱いままだ……ッ!!」

 

 ラウラは悲しげに目を伏せて言う。

 すると、鈴音は一夏の胸倉を掴んだ。

 

「弱ければ、強くなれば良いだけでしょ!」

「俺は何も言ってないぞ!?」

 

 そして、鈴音と一夏、2人の視線がぶつかり合う。

 バチバチと火花が散っているように見えた。

 

「いつまでもうじうじしない!」

「ラウラに言えよ!」

 

 2人の言い合いを見て、ラウラはオロオロしている。

 そして、鈴音は一夏から離れ、ラウラに向き直った。

 

「ねぇ、強くなりたいんでしょう?」

 

 鈴音の言葉に、ラウラは黙って首を縦に振る。

 

「だったら、今すぐ特訓するわよ! 時間は限られているんだから!」

 

 そう言って、鈴音はラウラの手を掴み、どこかへ行ってしまった。

 取り残された一夏はポカンとしていた。

 

「まぁ、元気出たみたいだし、いっか……

 

 一夏は空を見上げる。夕焼けに染まった雲を見ながら、彼は静かに微笑んだ。

 




Bパート終わり。
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