少し変わったインフィニット・ストラトス   作:みるほん

6 / 11
第三話『転校生はいなかった』Cパート

 1週間後、一夏とラウラは第三アリーナにいた。

 アリーナには2人以外誰もいないため、とても静かだ。

 すると、一夏が口を開く。

 

「ところで、ラウラ」

「なんだ?」

「どうして打鉄を着ているんだ?」

 

 ラウラの纏う機体は、漆黒の装甲を持つドイツの第三世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』ではなく、日本の量産機『打鉄』だった。

 

「修理中だ。……大破したのでな」

 

 ラウラがそう言うと、一夏は不思議そうに首を傾げた。

 

「鈴との特訓でか?」

「あぁ……。まぁ、それはともかく……」

 

 ラウラは一夏に向き直ると、「決闘だ、織斑一夏!」と言い放つ。

 

「あのさ、専用機が戻ってからやらないのか?」

「うるさい! 奇跡的にアリーナを貸し切りに出来たのだ! 今しかないのだ!」

 

 ラウラが声を張り上げて言う。

 

「そ、そうなのか……」

 

 ラウラが真剣な表情で言う。

 

「今日こそ貴様を倒す! ……覚悟しろ!!」

 

 ラウラは左手に持つ中距離用のアサルトライフルを一夏に向ける。

 一夏は苦笑いを浮かべながら、右手の雪片弐型を構える。

 ラウラは引き金を引くが、一夏は既に空中に飛び上がっていた。

 そのまま急降下し、ラウラに斬りかかる。

 しかし、ラウラは冷静に一夏の動きを観察していた。

 

「甘いぞ、織斑一夏!」

 

 一夏の斬撃をかわし、一夏に銃口を向けてトリガーを引いた。

 一夏は咄嵯に雪片を振るい、弾を防ぐ。

 しかし、その瞬間一夏はバランスを崩す。一夏の脚にワイヤーのようなものが巻き付いていた。

 よく見ると、ラウラが右手から伸びている。

 

「しまった!」

 

 一夏は慌てて体勢を立て直す。

 

「これで終わりだ!」

 

 ラウラが叫ぶと同時に、一夏に向かってアサルトライフルを連射する。

 しかし、一夏はスラスターを吹かし、ワイヤーごと強引にその場を離れた。そのまま上昇していく。

 そして、ラウラに向けて急加速し、一気に距離を詰める。

 一夏は零落白夜を発動させるが、その一撃はラウラにかわされてしまう。

 そして、ラウラは一夏の懐に入り込み、アサルトライフルを至近距離で撃つ。

 一夏はダメージを受けるが、同時に、ラウラに零落白夜を喰らわせる。

 ラウラはアサルトライフルを盾にしてながら後退し、距離をとる。

 

「まだだ!」

 

 ラウラはアサルトライフルを盾にしてながら後退し、距離をとる。

 

「逃がすか!」

 

 一夏は雪片を構え、再び突撃する。

 

「愚か者め!」

 

 ラウラはサブマシンガンを二丁展開するが、一夏は瞬時加速を使い、一気に間合いを詰めた。

 

「何!?」

 

 一夏はそのまま零落白夜のエネルギー刃を横薙ぎに振るう。

 

「くっ!」

 

 ラウラはエネルギーを全損し、倒れた。

 沈黙が流れる。

 やがて、ラウラは顔を上げ、口を開いた。

 

「私の負けだ」

 

 ラウラはそう言って、静かに目を閉じた。

 一夏はそんなラウラにゆっくりと近づき、手を差し伸べる。

 

「次は勝つ。シュヴァルツェア・レーゲンの修復が済み次第、すぐにでも再戦を申し込むからな」

「あぁ、いつでもいいぜ。受けて立つ」

 

 ラウラは一夏の手を借りずに一人で立ち上がり、歩き出す。

 一夏はその後ろ姿を見つめた。

 ラウラは立ち止まり、振り返らずに言う。

 

「……1つ、聞きたいことがある」

「ん? なんだ?」

「お前の戦う理由を教えろ」

 

 一夏は一瞬きょとんとした表情になったが、少し考えた後、「そうだな……」と呟き、言葉を続ける。

 

「俺には守りたいものがあるんだ」

「……なんだそれは?」

「家族とか友達とか……まぁ、色々だ」

 

 一夏は「今回の戦いには全く関係ないけどな」と付け足した。

 

「それは、まるで……」

 

 ラウラはしばらく黙っていたが、不意に口を開く。

 

「私には守るべきものなどない。ただ強さのみを求めてきたからな……。だが……」

 

 ラウラは何かを言いかけてやめた。

 

「どうした?」

「いや、なんでもない。さっきの話は忘れてくれ」

 

 そう言い残して、ラウラは去っていった。

 

「あぁ……」

 

 一夏は小さくなっていくラウラの背中を見ながら返事をした。

 

 

 

 

 

「はぁー、疲れた……」

 

 一夏は大きく息を吐いて、ベッドに寝転がった。

 先程の戦いで、一夏はかなり疲労していた。

 

「今日はもう休んでおこうかな……って、ん?」

 

 部屋のドアが開き、ラウラが入ってきた。

 

「何しに来たんだよ」

「貴様にリベンジをしにきたのだ!」

 

 ラウラは堂々と答える。

 一夏はため息をついた。

 

「専用機の修復が済み次第、再戦だったんじゃないのか?」

「駄目だ! 今日やる!」

「……分かったよ、相手すればいいんだろ?」

 

 一夏はベッドから立ち上がる。

 

「よし、ならば早速始めるぞ!」

 

 ラウラはトランプを取り出し、シャッフルを始めた。

 

「おい、まさかと思うが……」

「あぁ、今回はババ抜きで勝負するぞ!」

 

 ラウラは一夏にカードを渡そうとするが、それを一夏が押し返す。

 

「ちょっと待て。なんでババ抜きなんだよ」

「む、嫌か?」

「いや、そういう問題じゃないだろ。こういうのは普通ポーカーとかだろ」

 

 一夏がそう言うと、ラウラは首を傾げた。

 

「ふむ……私はポーカーのルールを知らないのだが」

「知らないのか!?」

「あぁ、だからババ抜きでいいだろう」

 

 ラウラがそう言うと、一夏は諦めたように「はいはい分かりましたよ」と言ってカードを受け取った。

 それを見たシャルロットは、勝負ならババ抜きでなく大富豪の方が良かったのではないかと思ったが、口に出すのは止めておいた。

 

「なぁ、これ2人でやっても面白くないよな?」

 

 一夏はカードの束を眺めながら言った。

 

「じゃあ、私も入れて〜」

「うわっ!?」

 

 一夏の背後から本音が声をかけてきた。

 

「いつの間にいたんだよ!?」

「えっとね〜、最初から!」

「最初って……」

「おりむーが部屋に戻ってきた時だよ〜」

「全然気付かなかった……」

 

 一夏は唖然としながら呟く。

 

「僕も気づかなかったよ……。ずっと部屋にいたのに……」

 

 シャルロットは少し恐怖を感じた。

 

「ところで、どうして部屋にやってきたんだ?」

「ん? 暇になったから来ただけだけど?」

「そっか……」

 

 一夏は「相変わらずマイペースだな……」と思いつつ、「まぁ、別にいいか」と納得した。

 

「それでさ、私も混ぜて欲しいんだけど」

「別に構わないぜ。3人でやった方が楽しいしな」

「わ〜い、ありがと〜。やっぱり、おりむーは優しいなぁ」

 

 しかし、ラウラは顔をしかめる。

 

「これは決闘なのだぞ。一対一でするものだ」

 

 すると、本音は笑顔のままラウラに顔を向ける。

 

「いいじゃん、いいじゃん」

 

 ラウラは不服そうな表情をしていたが、結局何も言わずに引いた。

 

 3人は椅子に座り、ゲームを始める。

 シャルロットは手札を見る。

 

(あれ? 僕にもカードが配られている……)

 

 不思議に思いながらも、手札を捨てる。シャルロットの残った手札は、『1』『6』の2枚となった。

 ラウラ、一夏、本音の手札数はそれぞれ3枚であった。

 

「誰からでもかかってこい!」

 

 ラウラはやる気満々だ。

 

「いくぞ!」

 

 一夏はラウラの手札から勢いよくカードを1枚引いた。

 

「ペアだ!」

「何だと!?」

 

 一夏はカードを場に捨てた。

 その瞬間、本音は素早く一夏の手札を引いた。

 

「ペア〜!」

「できるな!」

 

 シャルロットもラウラの手札からカードを引いた。

 

「僕もペアだ」

「運がいい……」

 

 一夏、本音、シャルロットは順調に自分の手札を減らしていく。

 

「よし! ペア!」

 

 ラウラは勝ち誇った表情をする。

 だが、それは束の間だった。

 

「あがりだよ」

 

 シャルロットのその一言で、ラウラの顔は絶望に染まった。

 その後、一夏、本音の順で上がり、最下位はラウラに決定した。

 ラウラはがっくりと肩を落とす。

 

「くっ……負けた……」

「まだまだ甘いね」

 

 シャルロットがラウラに言う。

 ラウラは悔しそうに唇を噛んだ。

 それから何度も勝負をしたが、ラウラは一度も勝てなかった。

 ちなみに、本音の勝率は8割、シャルロットの勝率は2割だった。

 

「もう1回だ!」

 

 ラウラはトランプを手に取り、シャッフルを始めた。

 

「おいおい、もう10回以上はやってるぞ?」

「まだ決着がついていないではないか! 私か貴様、どちらかが一番になるまで続けるぞ!」

「あぁ、分かったよ」

 

 ババ抜きはなかなか終わらず、丑三つ時まで続いた。

 そして、最後の勝者はラウラとなった。ラウラ以外の3人は眠気で勝負どころではなくなったのだ。本音は途中から寝ていた。

 

 

 

 

 

 次の日の放課後。

 

「うぅむ……難しいなぁ……」

 

 図書室で、一夏は歴史の本を必死に読んでいた。

 

「えぇと……昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。中国から日本に出稼ぎに来たおじいさんと、日本で生まれ育ったおばあさんでした」

 

 一夏は本に書かれた文章を淡々と読み進めていく。

 

「ある日、おじいさんが中国へ帰ることになりました。しかし、おばあさんがどうしてもそれについて行きたいと言い出しました。2人は一緒に船に乗り、日本を離れました」

 

 ゆっくりと本のページをめくる。

 

「ですが、船の上では大変な事が起こりました。なんと、海賊に襲われてしまったのです! しかも相手は大船団! 2人は愛用の刀を抜き放ち、戦います!」

 

 声に熱がこもり始める。

 

「激戦の末、2人は海賊を倒します。しかし、船が沈みかけている事に気づきました。早く脱出しなければ、海の藻屑となってしまうでしょう。ところが、おばあさんは腰を痛めてしまい、泳ぐことができません。おばあさんは言いました。『私を置いて、先に行って』と」

 

 ここで一呼吸置き、またページをめくった。

 

「おじいさんはこう答えました。『1人で海を漂うのは寂しい。一緒に泳ごう』と。おばあさんの肩を抱きかかえ、共に海に飛び込みました」

 

 そうしてまたページをめくり、語り続ける。

 

「おじいさんとおばあさんは、何とか岸まで泳ぎきりました。2人が浜辺に着いた時、既に辺りは暗くなっていました。空には月が出ていて、水面に映る月影はとても綺麗だったといいます。2人はその景色を見て、心の中で誓ったのです。これからもずっと一緒だと」

 

 その時、背後から何者かの声が聞こえた。

 

「図書室で音読とは、いい趣味をしているではないか。織斑一夏」

 

 一夏が振り返ると、そこにはラウラがいた。

 

「ラウラ? なんでここにいるんだよ」

「決まっているだろう。この学園の生徒として、学ぶためにここに来たのだ」

 

 ラウラは本棚から一冊の本を取り出し、一夏に手渡した。

 タイトルは『これであなたもモテ女! 男子がイチコロ♪ ドキドキ胸キュン100連発!』だ。

 一夏は、その表紙を凝視したまま固まってしまった。

 

「何これ……」

「お前にピッタリであろう。これを読めば、お前も今より少しはまともになるかもしれん」

 

 ラウラは一夏の手元にある本を指差す。

 一夏はその本をパラパラとめくってみる。

 

「なんだこれは……」

 

 どのページにも、「胸キュン!」やら、「ドッキン!」やらの、ピンク色の文字が踊っている。

 

「だから、お前にピッタリだと言っている。この学園にいる以上、いつまでもその体たらくでは困るからな」

 

 一夏はラウラの言葉を聞き流しながら、パラパラと本のページをめくっていく。

 

「……なぁラウラ。これって、女子向けじゃないのか?」

「ふん、そんなことは知らん。それよりもさっさと続きを読め。まだ半分も読んでないぞ」

 

 ラウラは腕を組んで言う。

 一夏は仕方なく本を読み進める。

 

「……終わった」

 

 一夏が本を読み終えると、ラウラが感想を聞いてきた。

 

「どうだった?」

「……まぁ、面白かったと思う。特に、最初の方が良かった」

 

 一夏がそう答えると、ラウラは目を輝かせて身を乗り出してきた。

 

「よし、今度はこっちだ!」

 

 ラウラはまた別の本を取り出す。

 タイトルには、『これで君もモテ男! これでバッチリ☆女の気持ちが丸わかり50連発!』と書かれている。

 ラウラはそれを一夏に手渡す。

 

「今度はちゃんと男向けか」

 

 一夏は、パラパラと本をめくった。

 すると、とある一文が目に留まった。

『気になるあの子の本音が知りたい! でも、直接聞くのは恥ずかしい……』

 

「ふむふむ」

 

 一夏は貸し出しカウンターへ向かった。

 

 貸出手続きを終えた一夏とラウラは、並んで廊下を歩いていた。

 

「なぁラウラ。この本、すごく参考になったよ」

「それはよかったな」

「あぁ。ありがたく借りていくことにする」

 

 一夏は満足げに笑みを浮かべている。

 

「……それよりも、いよいよ明日が対抗戦だな。緊張しているか?」

「いや、別に」

 

 一夏は素っ気なく答えた。それを聞いたラウラは、呆れたように溜め息をつく。

 

「全く、貴様という奴は……。もう少し緊張感を持て。鈴が対戦相手になった時は本気で行けよ? 2度と起き上がれないように叩き潰してやれ」

 

 ラウラは、冗談ともつかない口調で言う。

 一夏はそれを聞き流し、窓の外を眺める。

 空は雲一つ無い快晴で、窓から見える景色はいつもと変わらず美しかった。

 

 

 

 

 

 翌日。IS学園アリーナ。

 クラス対抗戦、第一試合。一年一組対二組。一夏VS鈴音。

 

「一回戦から鈴が相手か……」

 

 試合開始直前、一夏はピットでぼそりと呟いた。

 

「あれで殴られたら、すげー痛そうだな……」

「なーに情けないこと言ってんのよ! この程度の相手に負けるようなら、あんたクラス代表辞めなさい!」

 

 一夏の背中をバシィン! と叩いたのは、彼の幼馴染みであり中国国家代表候補、凰鈴音である。

 

「あたたた……!」

 

 背中をさする一夏を無視して、鈴音は更に言葉を続ける。

 

「ない、これはないわ……。せっかくあたしが応援に来てやったっていうのに」

「敵だろ、お前」

 

 呆れ顔の一夏に、鈴音はビシッと指を突きつける。

 

「だから? それがどうしたって言うの?」

「いや、それがどうしたって……え?」

 

 首を傾げる一夏に、鈴音はため息をつく。

 

「あのね、今から戦う相手に、そんな気の抜けた顔見せるもんじゃないでしょうが。まあアンタらしいけどさ……あいたたたた! 何すんのよ!」

「人を指差すな。失礼だろ」

 

 箒だ。いつの間にか現れた彼女は、鈴音の指を掴んで強引に下ろさせる。

 

「痛いでしょ! 放しなさいよ!」

「向こうのピットに帰れ」

「嫌よ! これから面白くなるんだから!」

 

 そんなやり取りをしている2人を尻目に、一夏は準備に取りかかった。

 白式を展開し、機体コンディションの確認。問題なし。武装の展開。異常無し。

 

「織斑一夏、行きます!」

 

 カタパルトから射出され、一気に空中へと舞い上がる。

 

「あ、ちょっと! 待ってってば! もう……! 離しなさいよ! 箒!」

「……ふん」

 

 鈴音の指が解放されるのは、まだ先のことだろう。




『次回予告』

「いよいよ始まりますわね」
「お互いに一歩も譲らないね」
「しかし、この機体のピーキーさは相当なものですよ」
「果たして勝機はあるのか……」
「ガンバレ、おりむー!ファイトだぞ!」
「男の声……誰だろう?」
「次回『激闘!クラス対抗戦』」
「意外と可愛い形してるものね」
「草冠の漢字って難しいよね~」
「FIREとはFinancial Independence Retire Earlyの頭文字を取ったものです」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。