少し変わったインフィニット・ストラトス   作:みるほん

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第五話『ボーイ・イーツ・ボンボン』

 五反田食堂の2階の自室にて、バンダナの少年はゲームをプレイしていた。

 

「う~ん……」

 

 彼の名前は弾。一夏の中学からの友達である。

 

「ちきしょう! また負けた!」

 

 ゲームのコントローラーを投げ出し、布団の上に寝転ぶ。

 

「くそぉ、今度こそ勝ってやろうと思ったのに」

 

 すると、部屋の扉が開き、少女が入ってきた。彼の妹、蘭である。

 

「お兄、電話だよ」

「あん? 一夏からか?」

「女の人だけど、何か急用みたい」

「女ぁ!?」

 

 弾の声がひっくり返る。

 

(おいおいおい、あの娘から電話とかマジかよ。まさか愛の告白じゃねえだろうな)

 

 弾は心の中で舞い上がった。

 

「新たな恋の予感がするぜぇ!」

 

 弾は慌てて部屋を出ると、階段を駆け下りて、一階にある電話の受話器を取る。

 

「もしもしぃ?」

 

 弾は精一杯甘い声で応える。

 

「あ、もしもし、五反田君?」

「……どちら様ですか?」

 

 テンションが一気に下がる。聞き覚えのない少女の声だった。

 

「あ、ごめんなさい。名乗ってなかったわね。顔良し、スタイルよし、性格も良し、しかも……」

 

 電話越しとはいえ、彼女は上品な雰囲気を纏っていた。恐らく、どこかのお嬢様なのだろう、と弾は推測する。

 そんな少女が自分に電話をかけてきた。しかも、自画自賛の自己紹介を始めた。

 

(怪しい……怪しすぎるぜぇ!)

 

 弾の直感が告げている。この娘には近づかない方がいいと。

 

「何拍子も揃っていますね。ああ、俺ちょっと忙しいんで、また後でかけ直してもらっていいすか?」

 

 そう言って、弾は一方的に電話を切る。だが、数秒後に再び着信音が鳴った。

 恐る恐る通話ボタンを押す。

 

「……はい」

「ひどいじゃない、いきなり切るなんて」

 

 弾は冷や汗を流した。目の前に立っているのではないかと思うほど、彼女の声がはっきりと聞こえたのだ。

 

「いえ……あの……用事があって……」

 

 口が渇いて上手く喋れない。背中に冷や汗が流れる。彼女はいったい何者なのか。何故、五反田家の電話番号を知っているのか。

 

「用事? ふーん、いつ終わるの?」

「い、1年くらいしたら……」

 

 弾は恐怖に耐え切れず、嘘をついた。

 

「待てないわ」

「ひっ……」

 

 彼女の口調が強くなる。まるで心臓に冷たい手が触れたような感覚。

 

「け……警……察に……連絡します……」

 

 何とかそれだけを言う。

 

「ちょ、ちょっと待って! どうしてそうなるのよ!」

 

 弾は電話を切った。

 

「弾、久しぶりだな」

 

 そこへ一夏がやってきた。一夏は弾の顔色が悪いことに気付いたらしく、眉をひそめる。

 

「どうした?」

「ああ、いたずら電話があってさ」

 

 弾は笑みを浮かべて言う。

 その時、再び着信音が鳴り響く。画面に表示されている番号は、先ほどと同じだ。

 

「ははっ、またかよ。固定電話で良かったぜ」

 

 弾は苦笑いしながら、電話線を引っこ抜いた。

 

 

 

 

 シャルロットがIS学園の廊下を歩いていると、前方に人影を見つけた。壁に寄りかかり、腕を組んで目を閉じている。

 近づくと、それが千冬だとわかった。声を掛けようとした途端、千冬の目がカッと開く。

 

「ひっ……!」

 

 驚いて後退りすると、足がもつれて尻餅をつく。すると、ラウラが慌てて駆け寄ってきた。

 

「シャルル!? 大丈夫か?」

「う、うん……」

 

 シャルロットは恥ずかしそうに立ち上がる。ラウラは、ふぅ、と息を吐いて安堵した。

 

「どうしたんだ?」

「あ、うん。織斑先生がいたんだけど……」

「教官が? どこだ? いないではないか」

 

 ラウラはキョロキョロと辺りを見回す。だが、やはり姿はない。

 

「嘘……。まさか……幽霊!?」

 

 シャルロットの顔は青ざめていた。

 日本のホラーは世界的にも評価が高く、ネットなどでは恐怖映画ベスト10にもランクインしている程である。

 シャルロットはそのランキングの上位作品を、全て見てしまったことがあるのだ。1位は、誰も見たことがない作品だった。

 それが原因で彼女はホラー映画やお化け屋敷などが大の苦手となった。

 ちなみに、このランキングは全て本音から聞いたものだ。

 ラウラはシャルロットの肩を優しく叩く。

 

「落ち着け。教官は死んでいない。きっと何か用があって何処かに行っただけだ」

「でも……。いや、そうだよね! ごめんね! 変なこと言って!」

 

 シャルロットは必死に明るく振る舞う。ラウラはシャルロットの手を取った。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

「うん……」

 

 ラウラに先導され、シャルロットは歩きだした。

 

「そういえば、ラウラって織斑先生のこと教官って呼んでるけど、なんで?」

 

 シャルロットは気になっていたことを尋ねる。ラウラは、ああ、と言って振り向いた。

 

「IS学園に赴任する前、教官はドイツ軍で指導してくださっていたんだ。その時、軍で落ちこぼれていた私を鍛えてくれた。だから、私はあの人を尊敬している」

「落ちこぼれ? なんか意外だよ」

 

 シャルロットが首を傾げる。ラウラが軍属であることは知っていたが、その詳細までは知らなかったからだ。

 しかし、そこでふと思う。何故、ラウラはドイツ軍にいるのか。

 シャルロットがそのことを聞く前に、ラウラが口を開いた。

 

「教官がいなかったら、今の私はなかっただろうな。誇りに思っている」

 

 ラウラの表情は穏やかで、嬉しそうなものだった。ラウラはそれだけ言うと、再び前を向いて歩いていく。

 シャルロットは、それ以上何も聞かなかった。

 

 黙々と歩みを進める。

 

(あれ? ここ、さっき通ったような気が……)

 

 シャルロットは不思議に思いながらも付いていく。

 しばらくすると、ラウラは足を止めた。先程、千冬と鉢合わせた場所だ。

 ラウラはシャルロットの方を真剣な顔つきで見る。

 

「な、何かな? ラウラ」

 

 シャルロットが少し怯えた様子で聞いた。ラウラは無言でシャルロットに近づく。

 

「ひゃっ!?」

 

 シャルロットはビクッとして後ずさる。ラウラは構わずにじり寄る。

 

「ちょ、ちょっと待って! どうしたの!? ラウラ!?」

「何処に行けばいいんだ?」

「へ?」

 

 シャルロットは思わず素っ頓狂な声を上げた。ラウラは続けて話す。

 

「いや、だから……シャルは何処に行こうとしていたんだ? 寮に向かえばいいか?」

 

 ラウラは適当に廊下を歩いていたのだ。

 シャルロットは半目でラウラを見る。ラウラは目を逸らす。

 

「えっと……とりあえず、部屋に戻るよ」

「了解した」

 

 シャルロットは、ふう、と息を吐いて安堵する。

 ラウラに連れられ、自分の部屋に戻ってきた。部屋の扉を開ける。

 中に入ると、ベッドの上に誰かが座っていた。一夏だ。腕を組んだまま眠っている。シャルロットが起こそうと近づく。ラウラも後ろからついてきた。

 シャルロットは一夏の肩に手をかける。

 

「起きて、一夏」

 

 一夏がゆっくりと瞼を開く。そして、シャルロットの顔を見ると、顔を真っ赤にして飛び退いた。そのまま壁に背中をぶつける。

 

「ぐぇ!?」

 

 一夏は奇妙な悲鳴を上げて、ズルズルと床に座り込んだ。

 

「一夏、大丈夫?」

 

 シャルロットが心配して一夏に近づこうとする。しかし、一夏は慌てて立ち上がった。

 

「ぎゃぎゃあぁぁああああ!!」

 

 奇怪な叫び声を上げる一夏。シャルロットは驚いて立ち止まる。

 一夏はシャルロットに抱きついた。

 

「わぷっ!」

 

 シャルロットは変な声を出す。そのまま押し倒された。一夏はシャルロットに覆い被さるように乗っかる。

 

「はにゃ、はにゃしぃて!」

 

 シャルロットは頬を紅潮させて一夏をどけようとする。

 しかし、一夏は全く動こうとしない。それどころか、シャルロットを強く抱きしめてくる。

 

(なんで一夏こんなことしてんの!? ていうか力強すぎない!?)

 

 一夏の腕力はシャルロットの想像を遥かに超えていた。

 動くたびに身体が密着し、体温が伝わってくる。シャルロットの心臓が激しく鼓動していた。

 

「ぐぎゃ!?」

 

 一夏がまたも奇怪な声を出して倒れた。ラウラが一夏を蹴り飛ばしたのだ。

 一夏はゴロンゴロンと転がっていく。

 シャルロットはその隙にラウラの後ろに隠れた。

 

「いつまで寝惚けているつもりだ」

 

 ラウラは冷たく言い放つ。

 一夏は頭を掻きながら立ち上がった。

 

「あれ? 俺、何やってたんだ? つーか、ここどこだ?」

 

 一夏はキョロキョロと見回す。

 ラウラは呆れたようにため息をついてから、説明を始めた。

 

「ここは寮だが」

「君達は……誰だ?」

 

 一夏はシャルロットとラウラを指差す。

 

(まさか、記憶喪失!?)

 

 シャルロットは一夏をまじまじと見る。一夏はそんなシャルロットを見て首を傾げる。

 

「あの~……」

 

 一夏が申し訳なさそうに言う。

 シャルロットはハッとして答える。

 

「僕はシャルロット・デュノア。フランスの代表候補生だよ」

「私はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生だ」

 

 シャルロットとラウラは笑顔で自己紹介をした。

 

「俺は織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 一夏は礼儀正しく頭を下げる。すると、一夏のお腹がグーッと音を立てた。一夏はお腹を押さえて顔を赤くする。

 シャルロットとラウラは顔を見合わせてクスリと笑った。

 

「ショコラ食べる?」

 

 シャルロットが尋ねる。

 一夏はこくりと小さくうなずいた。

 シャルロットはキッチンに行き、冷蔵庫から一口サイズのチョコを幾つか取り出した。それを皿の上に置き、レンジで温める。

 電子音が鳴り、レンジの扉を開けると湯気が立ち上っていた。

 

「焦げちゃったけど……どうぞ、ボンボンショコラだよ」

 

 シャルロットは一夏にホットチョコレートを渡す。

 一夏は恐る恐る受け取ると、スプーンで口に運んだ。

 

「熱っ!」

 

 一夏はのたうち回る。

 シャルロットは心配そうな表情を浮かべたが、ラウラは面白がって眺めていた。

 一夏は舌を出し、涙目でラウラを睨む。

 ラウラは鼻で笑って、チョコレートを口に運ぶ。

 

「ハッ!?」

 

 ラウラものたうち回ることになった。

 

「もー……。たくさんあるから、どんどん食べてね」

 

 その後、一夏とラウラはお腹いっぱいチョコレートを食べた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。第二グラウンド。

 

「本日から実習を開始する」

 

 千冬の言葉に、「はい!」と生徒達の返事が響く。

 その直後、一人の女子生徒が手を上げる。

 

「はい! 先生!」

 

 セシリアだった。

 

「なんだ、オルコット」

「どうして一夏さんとラウラさんがいないんですか?」

「織斑とボーデヴィッヒは……体調不良で欠席だ」

 

 千冬はどこか呆れたように答えた。

 一夏とラウラはお腹を壊した。医者の診察によると、丸一日は食事ができないそうだ。

 

「残念ですわね」

 

 セシリアは心底残念そうに呟く。そして、専用機持ち達に視線を向けた。

 シャルロット、鈴音、楯無。今日は、自身を除いて計3人しかいない。

 

「……1人、おかしな人がいますわ」

 

 その言葉に楯無はピクリと反応した。

 

「あなた、二組ではありませんこと?」

 

 セシリアは鈴音を指差して言った。

 鈴音は首を傾げる。

 

「今日は一組と二組の合同授業なんだから、あたしがいて当然でしょ?」

「あ、そうでしたの。それは失礼しましたわ」

 

 2人の会話を聞いて、楯無は胸を撫で下ろした。

 鈴音は辺りを見回す。

 

「二組の皆は、ホームルームが長引いてたから、遅れてるみたい……ん? アンタ誰?」

「おはよう。今日は快晴ね」

 

 鈴音に笑顔で挨拶する楯無。

 その時、グランドの地面が微かに揺れ動いた。

 鈴音達がいる遥か後方で土が舞い上がる。その土煙の中から、ラファール・リヴァイヴを纏った山田真耶が現れた。

 真耶は鈴音達のいる場所へゆっくりと歩いてくる。

 

「皆さん、よろしくお願いしますね」

 

 真耶はニッコリと微笑んだ。

 その姿を見た一組の生徒達は、驚きの声を上げた。遅れてきた二組の生徒達も呆然とした。

 千冬はため息をつく。

 

「……これでも、山田先生は元代表候補生だ」

「昔の話ですよ。さて、凰さん、オルコットさん、前に出てください。私と模擬戦をしてもらいますよ」

 

 鈴音とセシリアは前に出る。

 2人は並んで立ち、それぞれの機体を展開する。

 

「え~……。いきなりですかぁ」

 

 鈴音は不服そうに眉をひそめる。

 

「先手必勝!」

 

 鈴音は急加速で真耶に突撃する。

 だが、あっさり避けられてしまった。

 次に、セシリアがレーザー兵器『スターライトmkIII』を構える。

 

「手加減はいたしませんわ」

 

 トリガーを引く。しかし、これもまた簡単に回避されてしまった。

 真耶は両手で持った実弾ライフルを構えた。

 セシリアは咄嵯に反応し、身を屈めながら後退し、射撃を回避する。

 

「なかなかやりますね。ですが……」

 

 他の生徒は感心しながら、その様子を眺めていた。

 

「デュノア。山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

 

 千冬に言われ、シャルロットは答える。

 

「あ、はい。山田先生のISはデュノア社製第二世代型量産機、ラファール・リヴァイブです。現在配備されている量産型の中では最後発ですが、それ故にスペックは第三世代型の機体にも劣りません」

 

 シャルロットの説明は続く。

 

「安定した性能と高い汎用性、後付装備イコライザの豊富さが特徴です。格闘、射撃、防御といった様々な切り換えが可能です」

「よく勉強してるわね。関心、関心」

「いえ、それほどでも」

 

 楯無の言葉に、シャルロットは少し照れ臭そうにする。

 

 一方、鈴音とセシリアの猛攻をかわし続ける真耶は、余裕の表情で言った。

 

「良かったですよ、反応は。ただ、まだまだ直線的過ぎです。もっとこう、動きに広がりを持たせないと」

「くっ……」

 

 セシリアと鈴音は悔しそうに歯噛みする。

 その時、真耶が両手を広げた。そして、「ああ、こんなところにいたんですね」と言うと同時に両手にアサルトライフルを展開、発砲。弾丸は地面に隠されたビットを次々に撃ち抜いた。

 

「え?」

 

 予想外の出来事に鈴音とセシリアは目を見開く。

 起死回生のビットを撃ち抜かれた事で、2人の敗北が決まった。

 

「終わりにしますね」

 

 鈴音とセシリアは爆炎に包まれた。

 真耶の勝利を見て、生徒達は唖然とした。セシリアと鈴音は地面に倒れたまま動かない。

 

「これで諸君にも教員の実力は理解出来ただろう」

 

 千冬の右手には、悶え苦しむ楯無の姿。

 その足元には、『不覚』の文字が書かれた扇子が転がっていた。

 

「うふふ、安心して。普段は優しい先生だから」

「以後は敬意を持って接するように」

「ぐぇ!」

 

 楯無の言葉に、千冬は釘を刺した。生徒達は戦慄を覚えた。

 

「次に、グループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやること」

「ちょっと、待ってください! 専用機持ちは、もう僕しかいませんよ!?」

 

 シャルロットは焦った様子で訴える。

 

「あたしも……やるわよ」

「わ……わたくしも参加いたしますわ」

 

 鈴音とセシリアが、なんとか起き上がって言う。

 

「2人とも、大丈夫? まだ休んでおいた方が……」

 

 シャルロットが心配そうな顔で尋ねると、2人は「心配ない」とだけ答えた。

 

「さあ、始めましょうか」

 

 真耶はニッコリと微笑んだ。

 いつもと同じ笑顔。しかし、生徒達は本能的に恐怖を感じた。

 

 

 

 

 

 その頃、保健室では……。

 

「ここは……保健室か? 俺は確か、鈴と酢豚の約束を……あれから寝てしまったのか?」

 

 記憶が曖昧な一夏はベッドの上で頭を捻る。

 

「……コ……い……」

 

 その時、微かに声が聞こえた。

 

「誰か、いるのか?」

 

 隣のパーテーションをそっと開ける。

 

「チョコレートおいしかったな……また食べたいな」

 

 ベッドのシーツにくるまるまったラウラが、幸せそうな顔で寝言を呟いていた。

 

 




『次回予告』

「また同じ説明じゃねえか」
「しかも、飽きがこない」
「織斑一夏、どうした?」
「なぜわからん。説明は感覚的なものなのだ」
「そして、この力で今度こそみんなを守ってみせる」
「謎だな。まあいい、続きだ」
「おっと、見つかっちゃったか」
「次回『ルームメイトは強かった』」
「美少年っていいよね」
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