少し変わったインフィニット・ストラトス   作:みるほん

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第六話『ルームメイトは強かった』

 

 寮の部屋にて。

 

「アリーナに行くけど、一夏はどうする?」

 

 シャルロットは制服の肩に赤いインコを乗せている。

 

「行くよ。準備するからちょっと待っててくれ」

 

 一夏はクローゼットを開け、ISスーツを取り出す。

 2人が廊下に出ると、箒が待っていた。

 

「お、箒もいたのか。じゃあ、行こうぜ」

 

 箒は無言でこくりとうなずく。

 

「箒、最近どうしたんだよ。なんか元気ないぞ」

 

 一夏は箒の顔を覗き込む。

 

「別になんでもない」

 

 箒はそっぽを向く。

 

「本当か?」

 

 一夏は箒の目を見る。

 箒は顔を赤らめ、目を逸らす。

 

「な、何でもない……いや、ある!トーナメントで優勝したら付き合って……やっぱり、聞かなかったことにしてくれ!」

 

 箒は早足で歩き出した。

 

「おい、待てよ!」

 

 一夏は箒を追いかける。

 その様子を見ていたシャルロットは苦笑して、インコと顔を見合わせた。

 

「僕、この子の飼い主を探してくるから、先に行ってていいよ」

 

 シャルロットは手を挙げて走り去った。

 

 

 

 一夏は箒がアリーナに着くと、そこには鈴音の姿があった。

 鈴音は腕を組み、一夏を睨み付ける。

 

「遅いわよ、バカ」

 

 一夏はきょとんとした表情を浮かべる。

 

「なんでキレてるんだ? ていうか、待ち合わせなんてしてたか?」

 

 鈴音はギリッと歯を食いしばる。

 

「ああ、もう! とにかく、一回闘ろうって言ってんの!」

「よくわからないけど、わかった。オルコットさん、よろしくお願いします!」

 

 一夏は勢い良く頭を下げる。

 

「よろしくてよ!」

 

 ブルー・ティアーズを纏ったセシリアが、上空から降りてくる。

 

「おーほっほっほ。どちらが上なのか、はっきりさせてあげますわ!」

 

 高笑いしながら着陸する。

 

「……え? セシリアじゃなくて、一夏が戦いなさいよ! どっか行くなぁ~っ!!」

 

 鈴音の叫び声が虚しく響いた。

 

 

 

「こう、ズバーとやってドカーンだ」

「うーん、わからん」

 

 箒のIS操作説明に、一夏は首を傾げる。

 

「なぜわからん。説明は感覚的なものなのだ」

「そう言われても……」

 

 その時、一夏のISに通信が入る。ディスプレイには、『篠ノ之束』と表示されている。

 

『やあやあ、いっくん。束さんだよ』

「あ、どうも。お久しぶりです」

『うん、久しぶり。ところで、箒ちゃんはそこにいる?』

「いますよ。箒、束さんからー」

 

 箒は訝しげに眉をひそめる。

 

「……姉さん、何の用ですか?」

『あっ、やっぱり怒ってる。あのね、専用機欲しい?』

「え……? どちらかといえば欲しいです」

『わかったよ。まったね~!』

 

 プツン、と通信が切れる。

 

「なんだろな、一体」

「謎だな。まあいい、続きだ。ガキンッ、バキッ、グシャアッ、みたいな感じだ」

 

 箒の説明に一夏は目を丸くする。

 

「また同じ説明じゃねえか」

「全然違うだろ!」

 

 一夏と箒が言い争っていると、上空から、オレンジ色のISを纏ったシャルロットが降りてきた。

 フランスの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』。ラファール・リヴァイヴより拡張領域が2倍になっており、その分だけ装備を増設できる。

 シャルロットは地上に降り立つと、二人に向かって微笑んだ。

 

「2人とも、お待たせ。……どうしたの?」

「シャルルか。いや、箒が俺の話を聞かないんだ」

「一夏が私の言うことを理解しないのだ」

 

 一夏と箒は同時にため息をつく。

 

「はいはい、喧嘩はそこまでにしてよ」

 

 シャルロットは2人の仲裁に入る。

 

「お前は黙っていろ。これは私と一夏の問題だ」

「ああ、そうだな。シャルルは引っ込んでてくれ」

「落ち着いてよ、2人とも」

 

 しかし、シャルロットの言葉を無視し、二人は口論を続ける。

 

「だいたい、箒はいつもそうだよな。人の話を聞いてないし」

「貴様こそ、人の忠告を無視するだろう」

「止めてよ、もう!」

 

 シャルロットは大声で叫ぶ。

 突然の大声に、一夏と箒はビクッとする。

 

「どうしたんだ? 落ち着けよ、シャルル」

「何かあったのか?」

 

 一夏と箒は、心配そうな顔でシャルロットを見る。

 

「一夏、箒……仲直りしてよ」

「仲直り? 俺達、ずっと仲良しだよなあ、箒?」

「ああ。私は、一夏を嫌いになったことなど一度もないぞ」

 

 シャルロットの口元が、ピクピクし始めた。

 

「そんなことより、早く練習始めようぜ」

「そうだな」

 

 2人の言葉を聞いて、とびっきりの笑顔になるシャルロット。

 

「一夏、ちょっと相手してくれる? 白式と戦ってみたいんだ」

「じゃあ、お願いしようかな」

 

 シャルロットと一夏は上空に上がる。

 

「一夏、気を付けろ。シャルルの笑顔が怖いぞ」

 

 箒の声を聞きながら、一夏は首を傾げる。

 上空で対峙する、一夏とシャルロット。

 

「準備はいい?」

「ああ、大丈夫」

 

 一夏は雪片弐型を構える。

 

「それじゃ、行くよ!」

 

 シャルロットは両手にサブマシンガンを構え、連射する。

 一夏は咄嵯に横に飛ぶ。

 無数の弾丸が、地面に突き刺さる。

 シャルロットは間髪入れず、ライフルを放つ。

 

「くっ!」

 

 一夏は両腕で防御するが、シールドエネルギーが削られる。

 体勢を立て直すため、一旦、距離を取る一夏に、機関銃の弾幕が襲う。

 一夏は避けきれず、何十発か弾を受ける。

 そこに、グレネードランチャーが撃ち込まれる。

 爆風を受け、吹き飛ばされた一夏は、背中から地面に叩きつけられる。

 

「くそっ……」

 

 なんとか、立ち上がる一夏。

 そこへ、再びグレネードランチャーが撃たれた。

 

「ぐわぁっ!!」

 

 爆発に飲み込まれる一夏。

 だが、煙の中から一夏が飛び出す。

 一夏は零落白夜を発動して、シャルロットに接近し、横薙ぎに斬ろうとする。

 

「まだまだいくよ! 僕の力を見せてあげる!」

 

 シャルロットはショットガンを呼び出し、発射する。

 

「ぐうぅ……!」

 

 一夏は避けることが出来ず、ダメージを負う。

 怯んだ隙をついて、シャルロットは距離を詰める。

 そのまま、一夏が動かなくなるまでショットガンを浴びせた。

 一夏の全身がボロボロになり、限界が近いことを示す警告音が鳴り響く。

 

「とどめだよ!」

 

 シャルロットは右手の武装、パイルバンカーを打ち込もうとした。

 その時だった。砲弾が飛んできて、シャルロットを襲う。

 

「きゃあっ!」

 

 不意打ちを喰らったシャルロットは、バランスを崩し、よろめく。

 その隙を逃さず二撃目。今度は物理シールドで防御した。

 シャルロットは砲撃のあった方角を向く。『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラが、ピットに立っていた。

 

「ラウラ!?」

「ほう、防いだか」

 

 ラウラは余裕そうに笑う。

 一夏はラウラを見つめると、ふっと笑みを浮かべた。

 

「助……かっ……た……」

 

 一夏は意識を失った。

 彼らの背後では、セシリアを全身でホールドした鈴音が、アリーナの遮断シールドに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 夕日の映る河川を眺める一夏。

 水面には、一夏の影がくっきりと映し出されている。

 

「不甲斐ないな……。千冬姉と同じ力があるのに、使いこなせていない」

 

 一夏は腕のガントレットを見る。

 零落白夜という、かつて千冬が使用したISと同じ能力を手に入れた。

 しかし、先程の戦いでは、機体の性能を発揮できず、一方的に負けた。

 クラス対抗戦では、一夏の油断により、鈴音が窮地に立たされ、解説の人は負傷した。

 

「織斑一夏、どうした?」

 

 振り向くと、ラウラがいた。

 彼女は一夏の隣に座る。

 

「別に。なんでもないよ」

「……そうか」

 

 ラウラは少し考えるような素振りを見せると、再び、口を開く。

 

「第二回モンド・グロッソ。誘拐された貴様を助けるために、教官は大会二連覇のかかった決勝を棄権した」

「ドイツ軍が監禁場所を特定してくれたんだろ? その恩返しで、千冬姉はIS部隊の教官に……。情けない弟だよな」

 

 一夏は自嘲気味に答える。

 

「そうだ。貴様は教官に汚点を与えた」

 

 ラウラの言う通りだ。

 千冬の名誉を守ることが出来なかったのも、鈴音に迷惑をかけたことも、全て自分が原因なのだと、一夏は自分のことを責めていた。

 

「だから、俺は強くなるんだ」

 

 もう二度と、誰も傷つけないように。大切なものを失わないように。

 

「そして、この力で今度こそみんなを守ってみせる」

 

 一夏の言葉を聞き、ラウラは立ち上がる。

 

「月末の学年別個人トーナメント戦。私と戦う前に、負けることは許さんぞ」

 

 それだけ言い残し、ラウラは去って行った。

 

「ああ、わかったよ」

 

 一夏も立ち上がり、ラウラの後ろ姿を見送った。

 一夏は再び沈みゆく夕日を眺める。その燃えるような輝きが、一夏を応援しているように見えた。

 一夏は気合いを入れ直し、自分の部屋へ戻っていった。

 

「美少年っていいよね」

「夕焼けに照らされる横顔……たまらん!」

 

 草むらに隠れて覗いていた少女達ははぁはぁ息を荒げながら、眼前の光景に見入っていた。

 

「こんなところで何してるの~?」

 

 そこへ、呑気そうな声がかけられた。

 驚いて振り返ると、そこにいたのはのほほんとした雰囲気の少女。

 

「おっと、見つかっちゃったか。退散、退散っと」

 

 少女達は草むらから飛び出し、一目散に逃げていく。

 残されたのは、首を傾げる本音だけだった。

 

 

 

 

 

 寮に戻ると、シャルロットが夕食の準備をしていた。

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 

 一夏が声をかけると、シャルロットが微笑む。

 シャルロットはエプロンを身につけており、その姿はまさに若奥様だった。

 

「シャルル、なんで料理してるんだ?」

「お詫びにと思ってね。僕のせいで、一夏が保健室送りになったからさ」

「俺なら大丈夫だって。ちょっと休めばすぐに治ったし。それに、あの時は俺が悪かったし……たぶん」

「それでも、僕は一夏を傷つけた。だから、ごめんなさい!」

 

 シャルロットは頭を下げる。

 一夏は、シャルロットの謝罪を受け入れた。

 

「気にすんなって。ほら、顔を上げて。怪我はしてないから」

「一夏……」

 

 シャルロットは、安心したのか、表情を緩める。

 そこへ、鈴音がやってきた。

 彼女は制服ではなく、ジャージを着ている。

 

「一夏! アンタ、頭は大丈夫?」

 

 鈴音は、一夏に心配そうな視線を向ける。

 

「おいこら。それ、どういう意味だ?」

「言葉の通りだけど?」

「それは、頭を打ってないか心配ってことか?」

 

 鈴音は、きょとんとした顔をする。

 

「そんな訳ないでしょ。馬鹿じゃないの?」

「じゃあ、なんて意味で聞いたんだよ!?」

「あたしが言ってるのは、頭の中よ」

「お前、ホントに喧嘩売ってるな!?」

 

 一夏は鈴音に詰め寄る。しかし、鈴音はそっぽを向いていた。

 

「あれ、それは?」

 

 シャルロットは、鈴音の手に弁当箱があることに気づいた。

 鈴音は恥ずかしそうにしながら、「えっと、これはその……」と言い淀んでいた。

 すると、「私の手作りですわ」という声が聞こえてきた。

 見ると、セシリアが部屋の入口にいた。その手には、バスケットがあった。

 

「味見役をしてくださらない? 一夏さん」

 

 セシリアは笑顔で一夏を見る。

 

「一夏、だめっ!!」

 

 シャルロットは、慌てて一夏の背中に隠れる。

 鈴音は自分の弁当箱を開け、中の酢豚を一夏の口に突っ込んだ。

 口の中に広がる、甘酸っぱい味わい。

 

「うん、美味しい」

 

 一夏が言うと、鈴音はほっと胸を撫で下ろした。

 

「よかったぁ~」

 

 鈴音は安堵した様子だ。

 

「約束忘れてたでしょ。だから、その分よ」

 

 鈴音はぶっきらぼうに言った。

 

 実は、2日前に「明日、お昼ご飯作ってきてあげる」と一夏は鈴音に言われていたのだ。

 一夏はすっかり、その約束を忘れていた。

 

「まあまあ、せっかくですので皆さんで食べましょう」

 

 セシリアは部屋に入ってきて、机にバスケットを置く。

 そして、テーブルの上に中身のサンドイッチを並べていく。具材の種類は豊富である。しかも、どれも手が込んでおり、見た目は綺麗だ。

 

「凄いな」

 

 一夏は感心する。

 

「一夏、逃げよう!」

 

 シャルロットは一夏を引っ張る。

 だが、一夏は動こうとしない。

 

「何を慌てる必要があるんだ?」

「何って、だってこれ……!」

 

 シャルロットはバスケットのサンドイッチを指差す。

 具は新鮮なレタスにトマト、卵にハム、チーズなど様々だった。

 不審なところはない。

 

「もっと酢豚を食べなさいよ」

 

 鈴音は、さらに酢豚を一夏の口に入れる。

 肉は柔らかく、野菜の歯ごたえもしっかりしていた。

 何度食べても絶品である。

 

「マジで美味い。しかも、飽きがこない」

「べ、別に大したことないわよ。こんなの」

 

 鈴音は嬉しそうだ。

 

「わたくしのサンドイッチを……」

 

 セシリアが何か言いかけた時、また新たな声が響いた。

 

「私も作ったぞ」

 

 箒だった。両手に、お盆を持っている。お盆の上は湯気立つ味噌汁と白米、焼き魚が並んでいた。

 

「どうだ、一夏?」

 

 箒は自信満々といった顔で一夏を見る。

 一夏は、すぐにお椀を手に取り、味噌汁を口に含む。

 

「うん、これも美味しいよ」

「ふむ、そうか……」

 

 箒は少し頬を赤らめながら微笑んだ。

 

「あの……皆さん? 私のサンドイッチも……」

 

 セシリアが控えめに主張をする。

 すると、シャルロットは一夏の後ろに隠れた。箒は帰った。鈴音は一夏の口にサンドイッチを詰め込んだ。

 

「お味はいかがですか?」

 

 セシリアは、恐る恐る聞いてくる。

 サンドイッチには、様々な味が詰め込まれていた。まるで、「味覚を塗り潰せ」と言わんばかりに……。

 

「ああ! 美味しかった! もう最高だ! ありがとう! 幸せだよ! 俺は今この瞬間を生きていて良かったと実感している!」

 

 一夏はオーバーリアクションで感謝を伝えた。

 セシリアはホッとした表情を浮かべ、安堵した様子を見せた。

 その後、シャルロットから貰ったレモンティーを飲み干すと、一夏はベッドで横になった。

 疲れているのか、あっという間に眠りにつく。

 

「凄いなぁ、一夏は。僕じゃ、無理だなぁ……」

 

 シャルロットは、尊敬の眼差しを一夏に向けた。

 

 





『次回予告』

「大変そうだなぁ……」
「嘘っぽいわね」
「一方にやられている」
「相手は誰かな……」
「二対一でも私が勝つ」
「待って、決勝前に当たった人は捨て駒なの!?」
「えー……あれじゃ無理だと思うけど……」
次回『ブルー・デイズ/レッド・バード』
「確かと見よ、ドイツ軍人の力を」
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