少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
寮の部屋にて。
「アリーナに行くけど、一夏はどうする?」
シャルロットは制服の肩に赤いインコを乗せている。
「行くよ。準備するからちょっと待っててくれ」
一夏はクローゼットを開け、ISスーツを取り出す。
2人が廊下に出ると、箒が待っていた。
「お、箒もいたのか。じゃあ、行こうぜ」
箒は無言でこくりとうなずく。
「箒、最近どうしたんだよ。なんか元気ないぞ」
一夏は箒の顔を覗き込む。
「別になんでもない」
箒はそっぽを向く。
「本当か?」
一夏は箒の目を見る。
箒は顔を赤らめ、目を逸らす。
「な、何でもない……いや、ある!トーナメントで優勝したら付き合って……やっぱり、聞かなかったことにしてくれ!」
箒は早足で歩き出した。
「おい、待てよ!」
一夏は箒を追いかける。
その様子を見ていたシャルロットは苦笑して、インコと顔を見合わせた。
「僕、この子の飼い主を探してくるから、先に行ってていいよ」
シャルロットは手を挙げて走り去った。
一夏は箒がアリーナに着くと、そこには鈴音の姿があった。
鈴音は腕を組み、一夏を睨み付ける。
「遅いわよ、バカ」
一夏はきょとんとした表情を浮かべる。
「なんでキレてるんだ? ていうか、待ち合わせなんてしてたか?」
鈴音はギリッと歯を食いしばる。
「ああ、もう! とにかく、一回闘ろうって言ってんの!」
「よくわからないけど、わかった。オルコットさん、よろしくお願いします!」
一夏は勢い良く頭を下げる。
「よろしくてよ!」
ブルー・ティアーズを纏ったセシリアが、上空から降りてくる。
「おーほっほっほ。どちらが上なのか、はっきりさせてあげますわ!」
高笑いしながら着陸する。
「……え? セシリアじゃなくて、一夏が戦いなさいよ! どっか行くなぁ~っ!!」
鈴音の叫び声が虚しく響いた。
「こう、ズバーとやってドカーンだ」
「うーん、わからん」
箒のIS操作説明に、一夏は首を傾げる。
「なぜわからん。説明は感覚的なものなのだ」
「そう言われても……」
その時、一夏のISに通信が入る。ディスプレイには、『篠ノ之束』と表示されている。
『やあやあ、いっくん。束さんだよ』
「あ、どうも。お久しぶりです」
『うん、久しぶり。ところで、箒ちゃんはそこにいる?』
「いますよ。箒、束さんからー」
箒は訝しげに眉をひそめる。
「……姉さん、何の用ですか?」
『あっ、やっぱり怒ってる。あのね、専用機欲しい?』
「え……? どちらかといえば欲しいです」
『わかったよ。まったね~!』
プツン、と通信が切れる。
「なんだろな、一体」
「謎だな。まあいい、続きだ。ガキンッ、バキッ、グシャアッ、みたいな感じだ」
箒の説明に一夏は目を丸くする。
「また同じ説明じゃねえか」
「全然違うだろ!」
一夏と箒が言い争っていると、上空から、オレンジ色のISを纏ったシャルロットが降りてきた。
フランスの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』。ラファール・リヴァイヴより拡張領域が2倍になっており、その分だけ装備を増設できる。
シャルロットは地上に降り立つと、二人に向かって微笑んだ。
「2人とも、お待たせ。……どうしたの?」
「シャルルか。いや、箒が俺の話を聞かないんだ」
「一夏が私の言うことを理解しないのだ」
一夏と箒は同時にため息をつく。
「はいはい、喧嘩はそこまでにしてよ」
シャルロットは2人の仲裁に入る。
「お前は黙っていろ。これは私と一夏の問題だ」
「ああ、そうだな。シャルルは引っ込んでてくれ」
「落ち着いてよ、2人とも」
しかし、シャルロットの言葉を無視し、二人は口論を続ける。
「だいたい、箒はいつもそうだよな。人の話を聞いてないし」
「貴様こそ、人の忠告を無視するだろう」
「止めてよ、もう!」
シャルロットは大声で叫ぶ。
突然の大声に、一夏と箒はビクッとする。
「どうしたんだ? 落ち着けよ、シャルル」
「何かあったのか?」
一夏と箒は、心配そうな顔でシャルロットを見る。
「一夏、箒……仲直りしてよ」
「仲直り? 俺達、ずっと仲良しだよなあ、箒?」
「ああ。私は、一夏を嫌いになったことなど一度もないぞ」
シャルロットの口元が、ピクピクし始めた。
「そんなことより、早く練習始めようぜ」
「そうだな」
2人の言葉を聞いて、とびっきりの笑顔になるシャルロット。
「一夏、ちょっと相手してくれる? 白式と戦ってみたいんだ」
「じゃあ、お願いしようかな」
シャルロットと一夏は上空に上がる。
「一夏、気を付けろ。シャルルの笑顔が怖いぞ」
箒の声を聞きながら、一夏は首を傾げる。
上空で対峙する、一夏とシャルロット。
「準備はいい?」
「ああ、大丈夫」
一夏は雪片弐型を構える。
「それじゃ、行くよ!」
シャルロットは両手にサブマシンガンを構え、連射する。
一夏は咄嵯に横に飛ぶ。
無数の弾丸が、地面に突き刺さる。
シャルロットは間髪入れず、ライフルを放つ。
「くっ!」
一夏は両腕で防御するが、シールドエネルギーが削られる。
体勢を立て直すため、一旦、距離を取る一夏に、機関銃の弾幕が襲う。
一夏は避けきれず、何十発か弾を受ける。
そこに、グレネードランチャーが撃ち込まれる。
爆風を受け、吹き飛ばされた一夏は、背中から地面に叩きつけられる。
「くそっ……」
なんとか、立ち上がる一夏。
そこへ、再びグレネードランチャーが撃たれた。
「ぐわぁっ!!」
爆発に飲み込まれる一夏。
だが、煙の中から一夏が飛び出す。
一夏は零落白夜を発動して、シャルロットに接近し、横薙ぎに斬ろうとする。
「まだまだいくよ! 僕の力を見せてあげる!」
シャルロットはショットガンを呼び出し、発射する。
「ぐうぅ……!」
一夏は避けることが出来ず、ダメージを負う。
怯んだ隙をついて、シャルロットは距離を詰める。
そのまま、一夏が動かなくなるまでショットガンを浴びせた。
一夏の全身がボロボロになり、限界が近いことを示す警告音が鳴り響く。
「とどめだよ!」
シャルロットは右手の武装、パイルバンカーを打ち込もうとした。
その時だった。砲弾が飛んできて、シャルロットを襲う。
「きゃあっ!」
不意打ちを喰らったシャルロットは、バランスを崩し、よろめく。
その隙を逃さず二撃目。今度は物理シールドで防御した。
シャルロットは砲撃のあった方角を向く。『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラが、ピットに立っていた。
「ラウラ!?」
「ほう、防いだか」
ラウラは余裕そうに笑う。
一夏はラウラを見つめると、ふっと笑みを浮かべた。
「助……かっ……た……」
一夏は意識を失った。
彼らの背後では、セシリアを全身でホールドした鈴音が、アリーナの遮断シールドに突っ込んでいった。
夕日の映る河川を眺める一夏。
水面には、一夏の影がくっきりと映し出されている。
「不甲斐ないな……。千冬姉と同じ力があるのに、使いこなせていない」
一夏は腕のガントレットを見る。
零落白夜という、かつて千冬が使用したISと同じ能力を手に入れた。
しかし、先程の戦いでは、機体の性能を発揮できず、一方的に負けた。
クラス対抗戦では、一夏の油断により、鈴音が窮地に立たされ、解説の人は負傷した。
「織斑一夏、どうした?」
振り向くと、ラウラがいた。
彼女は一夏の隣に座る。
「別に。なんでもないよ」
「……そうか」
ラウラは少し考えるような素振りを見せると、再び、口を開く。
「第二回モンド・グロッソ。誘拐された貴様を助けるために、教官は大会二連覇のかかった決勝を棄権した」
「ドイツ軍が監禁場所を特定してくれたんだろ? その恩返しで、千冬姉はIS部隊の教官に……。情けない弟だよな」
一夏は自嘲気味に答える。
「そうだ。貴様は教官に汚点を与えた」
ラウラの言う通りだ。
千冬の名誉を守ることが出来なかったのも、鈴音に迷惑をかけたことも、全て自分が原因なのだと、一夏は自分のことを責めていた。
「だから、俺は強くなるんだ」
もう二度と、誰も傷つけないように。大切なものを失わないように。
「そして、この力で今度こそみんなを守ってみせる」
一夏の言葉を聞き、ラウラは立ち上がる。
「月末の学年別個人トーナメント戦。私と戦う前に、負けることは許さんぞ」
それだけ言い残し、ラウラは去って行った。
「ああ、わかったよ」
一夏も立ち上がり、ラウラの後ろ姿を見送った。
一夏は再び沈みゆく夕日を眺める。その燃えるような輝きが、一夏を応援しているように見えた。
一夏は気合いを入れ直し、自分の部屋へ戻っていった。
「美少年っていいよね」
「夕焼けに照らされる横顔……たまらん!」
草むらに隠れて覗いていた少女達ははぁはぁ息を荒げながら、眼前の光景に見入っていた。
「こんなところで何してるの~?」
そこへ、呑気そうな声がかけられた。
驚いて振り返ると、そこにいたのはのほほんとした雰囲気の少女。
「おっと、見つかっちゃったか。退散、退散っと」
少女達は草むらから飛び出し、一目散に逃げていく。
残されたのは、首を傾げる本音だけだった。
寮に戻ると、シャルロットが夕食の準備をしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
一夏が声をかけると、シャルロットが微笑む。
シャルロットはエプロンを身につけており、その姿はまさに若奥様だった。
「シャルル、なんで料理してるんだ?」
「お詫びにと思ってね。僕のせいで、一夏が保健室送りになったからさ」
「俺なら大丈夫だって。ちょっと休めばすぐに治ったし。それに、あの時は俺が悪かったし……たぶん」
「それでも、僕は一夏を傷つけた。だから、ごめんなさい!」
シャルロットは頭を下げる。
一夏は、シャルロットの謝罪を受け入れた。
「気にすんなって。ほら、顔を上げて。怪我はしてないから」
「一夏……」
シャルロットは、安心したのか、表情を緩める。
そこへ、鈴音がやってきた。
彼女は制服ではなく、ジャージを着ている。
「一夏! アンタ、頭は大丈夫?」
鈴音は、一夏に心配そうな視線を向ける。
「おいこら。それ、どういう意味だ?」
「言葉の通りだけど?」
「それは、頭を打ってないか心配ってことか?」
鈴音は、きょとんとした顔をする。
「そんな訳ないでしょ。馬鹿じゃないの?」
「じゃあ、なんて意味で聞いたんだよ!?」
「あたしが言ってるのは、頭の中よ」
「お前、ホントに喧嘩売ってるな!?」
一夏は鈴音に詰め寄る。しかし、鈴音はそっぽを向いていた。
「あれ、それは?」
シャルロットは、鈴音の手に弁当箱があることに気づいた。
鈴音は恥ずかしそうにしながら、「えっと、これはその……」と言い淀んでいた。
すると、「私の手作りですわ」という声が聞こえてきた。
見ると、セシリアが部屋の入口にいた。その手には、バスケットがあった。
「味見役をしてくださらない? 一夏さん」
セシリアは笑顔で一夏を見る。
「一夏、だめっ!!」
シャルロットは、慌てて一夏の背中に隠れる。
鈴音は自分の弁当箱を開け、中の酢豚を一夏の口に突っ込んだ。
口の中に広がる、甘酸っぱい味わい。
「うん、美味しい」
一夏が言うと、鈴音はほっと胸を撫で下ろした。
「よかったぁ~」
鈴音は安堵した様子だ。
「約束忘れてたでしょ。だから、その分よ」
鈴音はぶっきらぼうに言った。
実は、2日前に「明日、お昼ご飯作ってきてあげる」と一夏は鈴音に言われていたのだ。
一夏はすっかり、その約束を忘れていた。
「まあまあ、せっかくですので皆さんで食べましょう」
セシリアは部屋に入ってきて、机にバスケットを置く。
そして、テーブルの上に中身のサンドイッチを並べていく。具材の種類は豊富である。しかも、どれも手が込んでおり、見た目は綺麗だ。
「凄いな」
一夏は感心する。
「一夏、逃げよう!」
シャルロットは一夏を引っ張る。
だが、一夏は動こうとしない。
「何を慌てる必要があるんだ?」
「何って、だってこれ……!」
シャルロットはバスケットのサンドイッチを指差す。
具は新鮮なレタスにトマト、卵にハム、チーズなど様々だった。
不審なところはない。
「もっと酢豚を食べなさいよ」
鈴音は、さらに酢豚を一夏の口に入れる。
肉は柔らかく、野菜の歯ごたえもしっかりしていた。
何度食べても絶品である。
「マジで美味い。しかも、飽きがこない」
「べ、別に大したことないわよ。こんなの」
鈴音は嬉しそうだ。
「わたくしのサンドイッチを……」
セシリアが何か言いかけた時、また新たな声が響いた。
「私も作ったぞ」
箒だった。両手に、お盆を持っている。お盆の上は湯気立つ味噌汁と白米、焼き魚が並んでいた。
「どうだ、一夏?」
箒は自信満々といった顔で一夏を見る。
一夏は、すぐにお椀を手に取り、味噌汁を口に含む。
「うん、これも美味しいよ」
「ふむ、そうか……」
箒は少し頬を赤らめながら微笑んだ。
「あの……皆さん? 私のサンドイッチも……」
セシリアが控えめに主張をする。
すると、シャルロットは一夏の後ろに隠れた。箒は帰った。鈴音は一夏の口にサンドイッチを詰め込んだ。
「お味はいかがですか?」
セシリアは、恐る恐る聞いてくる。
サンドイッチには、様々な味が詰め込まれていた。まるで、「味覚を塗り潰せ」と言わんばかりに……。
「ああ! 美味しかった! もう最高だ! ありがとう! 幸せだよ! 俺は今この瞬間を生きていて良かったと実感している!」
一夏はオーバーリアクションで感謝を伝えた。
セシリアはホッとした表情を浮かべ、安堵した様子を見せた。
その後、シャルロットから貰ったレモンティーを飲み干すと、一夏はベッドで横になった。
疲れているのか、あっという間に眠りにつく。
「凄いなぁ、一夏は。僕じゃ、無理だなぁ……」
シャルロットは、尊敬の眼差しを一夏に向けた。
『次回予告』
「大変そうだなぁ……」
「嘘っぽいわね」
「一方にやられている」
「相手は誰かな……」
「二対一でも私が勝つ」
「待って、決勝前に当たった人は捨て駒なの!?」
「えー……あれじゃ無理だと思うけど……」
次回『ブルー・デイズ/レッド・バード』
「確かと見よ、ドイツ軍人の力を」