プリニー〜ダンジョンで俺が最強って解釈違いじゃないッスか⁈〜   作:ジャッキー007

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今回でリリルカ編終了ッス


他人事とは、思えなかったんスよ

穏やかな陽射しが眠気を誘うオラリオの昼下がり。

 

ソーマ・ファミリアのホーム内に突如、轟音が響き渡った。

 

 

鉄製の門扉は蝶番が壊れ、元々備え付けてあった場所から数Mも離れた場所に倒れているが、大きくひしゃげて原型を留めていない。

 

本来なら門扉を守護する筈の門番は何をしているかと言えば…哀れにも、塀に上半身が突き刺さり、壁から尻が生えたような姿を晒している。

 

 

ホームに残っていた団員達がわらわらと集まり、全員が門へと視線を向けると…それは、そこに居た。

 

ずんぐりとしたフォルムの、鳥を模した被り物。

 

それが、後ろに白髪の少年と、小人族の少女…そして、少女と見紛う容姿をした女神を引き連れ。

 

 

「ソ〜ォマさ〜ん、あっそび〜ましょ〜!」

 

 

清々しい笑みを浮かべ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は、数時間前に遡る。

 

 

うるさい奴らを黙らせ、クラネル少年達と合流することが出来た俺は、ヘスティア・ファミリアのホームでリリルカのこれまでの事を、改めて本人から聞いていた。

 

「…話は分かった。それで、君はどうしたいんだい?」

 

話を聞き終えたヘスティア様が、改めてリリルカを見据え問いかける。

その表情は、ベルを巻き込んだことへの怒りなどもあるが、本人が許すと言った手前、これ以上追求するのはやめたようだ。

 

「…リリの居場所は、あそこにはありませんから」

 

「となると、やっぱりファミリアの改宗しかないけど…」

 

「問題は、神ソーマが此方に関心を向ける方法…」

 

リリルカの言葉に、ヘスティア様と俺は腕を組んで考える。

そんな時だった。

 

(ん?酒造り…?)

 

ふと、思い出したのは、ソーマが酒を司る神であり、酒造りに没頭しているという事。

そして…生前、偶然動画配信サイトで目にした酒造りの動画。

 

まるで、名探偵の孫が真相に近づいたような…そんな感覚と共に閃いたアイデアに、俺はにぃ、と口角を吊り上げた。

 

「…オレに良い考えがあるッス」

 

「…なんだろう、嫌な予感しかしないんだけど」

 

「リリもです…」

 

そう呟いた俺の表情は、見事なまでの笑顔(藤田顔)だったと、のちにヘスティア様は語った。

 

 

 

 

 

 

で、今。

 

 

 

 

「な、なにやってんだ君はぁ〜っ!」

 

顔を真っ青にしたヘスティア様に肩を掴まれガックンガックンと揺さぶられる。

話し合いに訪れた筈なのに、やってる事は殴り込み(カチコミ)なのだから、怒るのも無理はない。

 

「まぁまぁ、手を出さなきゃ大丈夫ッスよ…多分」

 

「なるかぁぁぁ!」

 

俺たちが呑気に話している間にも、ソーマ・ファミリアの団員達が各々の武器を構えて襲いかかってくる。

 

それを、敢えて無防備な姿で全て受け止め…彼らの武器は、呆気なくも壊れてしまう。

 

『…は?』

 

「…さて、目的の場所に行くとするッス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったい、何が起きている⁈」

 

ソーマ・ファミリアのホーム内は騒然としていた。

 

何処かのファミリアが、突然殴り込みをしかけてきたかと思えば、襲撃者はある場所に脇目も振らずに向かっているという。

 

それも、場所を案内しているのは、リリルカ・アーデだという。

 

「兎に角、これ以上奴らを先へ行かせるな!」

 

ソーマ・ファミリア団長…ザニスは、団員達に指示を飛ばしながら自身も現場に向かう。

 

「しかし、醗酵中の酒の貯蔵庫だと…?何のつもりだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ〜…なかなかに壮観ッスね」

 

こじんまりとした部屋に整然と並べられた幾つかの樽…俺たちは目的地である酒の貯蔵庫に足を踏み入れていた。

 

「でも…本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

「そうです…いくらソーマ様でも、こんな方法で来るなんて…」

 

 

「その通りだよ、侵入者君」

 

クラネル少年とリリルカの言葉に答えるように、眼鏡をかけた男がガラの悪そうな奴らを引き連れて貯蔵庫に入ってきた。

 

背後にいるリリルカの怯えた表情から察するに、こいつが団長のザニスって奴なんだろうが…何というか、いかにも悪知恵の働く小悪党といった雰囲気だ。

 

「アーデ…まさか、君が侵入者の手引きをするなんて思ってもいなかった…非常に残「あ、そういうのは良いッスから。ソーマさんを連れてきて欲しいんスけど」…っ、君は、今の状況が理解出来てないのかね?」

 

ザニスの話が長ったらしくなりそうだったからぶった斬ると、彼は頬をヒクつかせながら、嘲笑うように俺を見る。

 

「出入り口は我々が塞いでいる。袋の鼠だというのに、随分と余裕じゃないか」

 

「…そっちこそ、なんで俺たちがこんな所に来たか分かってないんスね」

 

その言葉に、俺は溜息を吐くと本題を切り出した。

 

「ソーマに伝えて欲しいんスよ…ここにある酒、全部ダメにされたくなけりゃ面見せろって」

 

 

 

俺の言葉に、ザニス達ソーマ・ファミリアの団員達は顔を見合わせるとゲラゲラと笑いだした。

 

「面白い事を言うじゃないか…見た所丸腰なのに、どうやって?まさか、樽を一つ一つ壊す訳じゃないだろうな?」

 

「…アンタら、酒神の眷族なのに酒造りの事、何も知らないんスね」

 

 

彼らの余裕を持った表情に呆れを隠せないまま、俺は口を開いた。

 

 

「酒造りってのは、材料になる穀物や果物、水、そして…微生物が必要なんスよ」

 

 

 

「材料の穀物や果物を微生物が醗酵させる事で、酒ってのは作られるらしいんスけど…世の中には、色んな微生物が居るんス」

 

「それこそ、酒造りに必要な微生物よりも、繁殖力も生命力も強い奴が」

 

 

 

「何を、いったい、何の話だ⁈」

 

突然の俺の話についていけず、戸惑いを見せるザニス達に、俺は腹部のポーチから袋を取り出して見せる。

 

「この中には、極東に伝わる『納豆』が入ってるッス」

 

「納豆…?それが、何の関係がある⁈」

 

「大アリっスよ。コイツは、豆に納豆菌って微生物を混ぜて醗酵させた食い物なんスけど…納豆菌ってのは、酒造りにおいて天敵って言って良いんス」

 

俺が取り出したのは、納豆…ヘスティア様と交友関係のある神から譲ってもらったのだ。

納豆だけではなく、キムチやヨーグルトといった醗酵食品は、酒造りにおいてNGと言われている。

 

その理由が、腐造だ。

腐造乳酸菌という、アルコールに耐性を持つ菌が日本酒でいうもろみに繁殖すると、大惨事を引き起こす。

 

一つのもろみが汚染されると、それは周りにも広がる…昔、それが原因で醗酵中のタンクが何本もダメになった蔵もあるという。

 

 

 

中でも、納豆に含まれる納豆菌というのは生命力が強い。

100℃のお湯で消毒しようが死なず、石鹸で洗っても完全になくならない。

しかも、この貯蔵庫は周りが木材…付着すれば、焼き払う以外に取り除くのは難しいだろう。

 

「となったら、大変ッスね〜…いったい、次に神酒(ソーマ)を飲めるのはいつになるやら?」

 

「…っ、貴様…!」

 

「…で?ソーマ、もちろん呼んでくれるッスよね?」

 

そう言う俺の表情は、さぞかし悪どい面になっている事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

結果、ソーマを呼ぶことには成功した。

 

流石の団員達も、袋の口をいつでも開けるように構える俺を止めるのは難しいと判断したのか、大人しく要求に従ってくれたし、ソーマ自身も自分が丹精込めて作ってる酒を全部ダメにさせるって言われたら来るしかないだろう。

 

 

まぁ、見るからに激おこなんだけどね。

 

 

「…話とは、なんだ」

 

「…さ、リリルカ。バトンタッチっス」

 

「この状況で⁈」

 

威圧感マシマシのソーマを前にリリルカに話しかけると、彼女とヘスティア様、クラネル少年が愕然とした表情で俺を見てくる。

 

ちなみに、ソーマが来た時点で納豆はお役御免となり、密封したそれは再びポーチにしまっている。

 

 

「こっから先はリリルカとソーマの問題ッスから、あとはリリルカ次第ッスよ」

 

「〜…あぁ、もう!」

 

 

俺の言葉に、頭を掻きむしったリリルカは意を決したようにソーマを睨みつけ、その口を開いた。

 

 

 

 

「リリを、ファミリアから脱退させてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまでにあった事を洗いざらい話し終え、脱退を願い出たリリルカにソーマは一つの試練を与えた。

 

それは、自身が作った神酒(ソーマ)…その完成品を口にしたうえで、同じことを言えたら許すというもの。

 

リリルカが話していた脱退金云々に関しては…恐らく、ザニスの独断だろう。

 

あの小悪党の考える事だ、ソーマがファミリアに無関心なのを良いことに私物化し、私腹を肥やす目的の方便…ってのが、俺の見解だ。

 

 

結果として、神酒に飲まれかけはしたが、それ以上にファミリアで受けてきた数々の仕打ちに対する怒りが勝ったリリルカは怒り上戸と化し、酔って寝るまでの間ソーマを引かせる程に愚痴や罵詈雑言を吐いたのは記憶に新しい。

 

 

…で、改宗に成功した俺たちが帰路についていた時だった。

 

「あの…そういえば、あの人達は…」

 

「死んではないッスよ。死ぬほど恥ずかしい目に遭ってるだろうけど」

 

ヘスティア様達の後ろを、離れて歩く俺に問いかけてくるリリルカに答える。

今頃、ギルドの入り口前に「私達は婦女暴行を企てました」と書かれた札を提げた、顔と手先だけ露出した氷柱3つが並んでいる事だろう。

 

 

「…どうして、レン様はリリの為にここまでしてくれたんですか?」

 

「…そうッスね。ファミリアの仲間になったし、いい機会なんでネタバラシをするッス」

 

 

 

リリルカの言葉に、俺は沈んでいく夕日を眺めながら口を開いた。

 

「オレ、本当は悪魔なんス」

 

「悪魔って…冗談ですよね?」

 

俺の言葉に、彼女は信じられないと言いたげな表情を浮かべるも、肩をすくめ話を続ける。

 

「元々、人間だった俺は働きすぎて、体調を崩して死んだんだけど…親より先に死ぬってのは罪らしく、その罪を償って、生まれ変わる為に働いて、金を稼がなきゃいけなくて」

 

「そんな、俺達の姿とリリルカが重なって見えて…他人事とは、思えなかったんスよ」

 

 

自分達と同じ境遇といっても良いリリルカを、放っておけなかった。

 

偽善、と言われるかもしれないが、これが今回の件に首を突っ込んだ大きな動機だ。

ヘスティア様の胃にダメージを与えてしまった事に関しては、反省しているが…やった事への後悔はしていない。

 

 

「…信じられない話ですが、一つだけ分かった事があります。レン様は、ベル様と同じくらいのお人好しです」

 

話を聞き終えたリリルカは、俺の前に来て小さく笑い、そう言うとクラネル少年の腕に抱きつく。

 

それを見たヘスティア様が負けじと抱きつき、姦しい声をあげるのを見て、俺は再び歩き出した。




(胃痛に苦しむ)家族が増えるよ!やったねヘスティア様!


あ、あの汚いラスカル達はなんとか生きてます

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