プリニー〜ダンジョンで俺が最強って解釈違いじゃないッスか⁈〜   作:ジャッキー007

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長い間お待たせしてしまい申し訳ありません
正直、かなり悩みました…あの猪を出すかどうするかで。

そのうえ、仕事でも締切に追われる始末…なんで年度末ってこうなんでしょう


殻を破る

クラネル少年の特訓は、ロキ・ファミリアが遠征と呼ばれる、長期間の探索に向かうまで続いた。

 

初めはそれこそ、手出しする暇もなく一発KOする事が多かったが、日を追うごとに少年の動きは良くなっていった。

 

組み手をすれば手っ取り早かったのか、と思って、俺が相手に名乗り出たりもしたが…ヘスティア様やリリルカに全力で止められてしまった。

 

彼女達曰く、俺だと加減を間違えたらとんでもない事になる…とのこと。

 

 

失敬な…と思ったが、かつてゴブリン爆発四散させドン引きされた前科があった為、大人しく受け入れる他無かった。

 

代わりとして、休憩の合間に摘める軽食を用意したり、特訓後のストレッチやマッサージなどの裏方として彼らをサポートする事にしたのだが…有り合わせで作った軽食で、ヴァレンシュタインの胃袋を掴んだのは余談だろう。

 

そんなクラネル少年の特訓も、今日で大詰め。

手加減をしているとはいえ、レベル5のヴァレンシュタインに必死に食らいつくその姿は、始めたばかりの頃と比べると目を見張る成長ぶりだ。

 

 

何かしらあるんだろうが、そこの詮索は冒険者の間では御法度らしいし、少年が憧れに近づけているんなら良いか…なんて思いながら、俺は訓練を終えた2人に軽食を届けるべく近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特訓から数時間後、家事を済ませておこうと思った俺は少年達と別れ、ホームで洗い物をしていたんだが…。

 

「おっと…」

 

石鹸で手が滑り、洗っていた皿が地面に落ちた。

ガチャン、と音をたて割れた皿はクラネル少年が愛用している物で、高くないとはいえ大事に扱っているものだった。

 

「はぁ…買い直さないとな」

 

小さく溜息を吐き、割れた皿の破片を拾い集めていくなか、ふと思う。

 

フィクションとかだと、何か悪い事の前触れでこういった風景が使われるな…と。

 

 

よくよく考えてみると、少年達がダンジョンに向かってから、それなりに時間が経つ。

考えすぎなら良いが… 何かと、こういう時の悪い予感というものはよく当たる。

 

 

僅かに感じた事が次第に心配へと代わり、俺は家事を中断してダンジョンへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの入り口を抜け、狭い通路を走っている途中、不意に人の気配を感じた俺は足を止めた。

薄暗い通路…その陰から、明確な敵意を感じた瞬間。

 

「っとぉ?!」

 

俺に向かって、幾つもの人影が襲いかかってきた。

その数は4つ、小柄なそれらは、槍や大鎚、大斧、大剣とそれぞれを手に休む暇を与えないと言わんばかりに攻撃してくる。

 

槍を避ければ、その目の前に大鎚が迫り。

後ろに逃げようとすれば、背後から大剣と大斧が容赦なく迫る。

 

「ったく…こちとら急いでるってのに!」

 

舌打ちしつつ、ポーチからダガーを取り出し、殺意の籠った攻撃を弾いていく。

 

「そんなに兎が心配か?」

 

「舐められてるな」

 

「あの方から、先に行かせるなとの命令だったが」

 

「もう良い、殺っちまおう」

 

俺の言葉が琴線に触れたのか、4つの影が同じ声色でそれぞれ呟いたかと思うと、攻撃の勢いが増した。

 

その速さや重さから見て、冒険者の中では高いレベル…それを4人同時に相手にするのは、魔界の奴らと比べれば大した事ではないものの、正直面倒だ。

 

 

「っ、鬱陶しい!」

 

我慢の限界に達した俺は手にしていたダガーをポーチにしまい、代わりにあるものを取り出した。

 

黒く、丸みを帯びた金属の塊…それから伸びた紐の先端には、パチパチと火花が舞っている。

 

 

「っ、コイツ…!」

 

俺の手にした物に1人が気付き、4人は回避行動をとろうとするが、それより先に地面にそれを叩きつけた。

 

直後、耳を劈く爆音が響き、眩い閃光が通路を照らす。

 

 

『っ…!』

 

 

俺が使った物…それは、閃光弾。

魔界で逃げる時の目眩しとして使っていた物だが、まさか此処で再び使う事になるとは思わなかった。

 

俺にも少なくないダメージがあったものの、至近距離で激しい光と爆音を受けた4人は目眩等で地面に膝をついているのが確認出来る。

 

「っ、とにかく先を急がねぇと…!」

 

若干の気分の悪さを覚えながらも、俺は頭を振って少年たちの元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中、フラつきながらも階層を降りていき、9階層までたどり着くと、漸く回復した耳が剣戟の音を捉えた。

 

その音を辿り、道を進んで行った先。

 

 

そこでは、死闘が繰り広げられていた。

 

 

満身創痍と言っても良いだろう、ボロボロになったクラネル少年と、牛頭の怪物…ミノタウロスによる戦い。

 

 

傷つきながらも、瞳は闘志を失っておらず、必死に食らいついている。

 

 

「…君は」

 

不意に声をかけられて、視線をそちらに向ければ、ロキ・ファミリアの面々と、リリルカがそこに居た。

 

 

「…ベルさんは」

 

「冒険の真っ最中…かな」

 

俺の呟きに答えたのは、団長のフィン。

その言葉を聞いて、俺はこの世界におけるレベルの上昇…ランクアップの条件を思い出した。

 

 

この世界は、魔界と違って経験値さえ貯めればレベルが上がるわけではない。

 

自らの殻を破り、神々が認める偉業を成し遂げる…まさに、器の昇格なのだとヘスティア様が話していた。

 

「…そうか」

 

 

再び視線を向けた先では、戦いが終わったのだろう。

ミノタウロスの体が塵となって崩れ、立ったまま気を失ったクラネル少年の姿。

 

 

その後ろ姿に、俺は少年の成長に対する祝福と、更なる期待を込めて笑みを浮かべた。


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