プリニー〜ダンジョンで俺が最強って解釈違いじゃないッスか⁈〜   作:ジャッキー007

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1時間毎のUA3桁って…えぇ…


イラッときたッス

リリルカとの出会いから時間は流れ、その日の晩。

 

「ミノタウロスに襲われた…ッスか?」

 

夕飯の支度をしていた俺は、クラネル少年から今日あった出来事を聞いていた。

話を聞くに、5階層で探索をしていると、そこで本来出没するはずのないミノタウロスと遭遇、命懸けの鬼ごっこを繰り広げたそうだ。

 

「…でも、おかしくないッスか?ギルドで聞いた話だと、ミノタウロスは中層のモンスターッスよね?」

 

「それが、ロキ・ファミリアとの戦闘中に逃げ出したらしくて…」

 

話を聞いている内に感じた疑問を呟きながら考えていると、後で聞いたのだろう、ミノタウロスが上層部に現れた原因をクラネル少年が口にした。

 

となると…取り逃した結果、駆け出しの冒険者に危険が及んだと。

此方が訴え、相手の有責としても賠償…むしろ、彼方から示談の申し出があって終わりだろうか。

 

だが、俺が気になったのはそこではない。

命の危険に晒されたというのに、クラネル少年は何処か浮ついた様子を見せている所だ。

 

こっちから聞くまでもなく、話してくれたが…ロキ・ファミリアの冒険者、アイズ・ヴァレンシュタインに助けられたらしい。

 

そう語る少年の姿は、憧れと言うか…まるで、ピンチの所を白馬の王子様に助けられた女の子のようで。

 

(吊り橋効果って、こんな感じなんだな…)

 

なんとも言えない表情で、クラネル少年の話を聞き続けるのであった。

 

 

 

 

 

それから、クラネル少年のステイタスを更新したヘスティア様が拗ねたりと色々あった翌日。

 

俺は、数日ぶりにクラネル少年とダンジョンに向かうべく、大通りを歩いていた。

 

 

「さ〜て、今日も稼ぎまくるッスよ〜」

 

「あはは…気合い入ってますね」

 

間延びしながらも、気合い充分な俺の様子に少年は相槌を打ちながら笑みを浮かべる。

それも当然だ。

 

「当たり前じゃないッスか。生活費の他にもアイテムや装備の補填…それに、ホームの修繕費に、良い物件が見つかった時用の積立、お2人の小遣い…幾らあっても足りないんスから」

 

「うぅ…耳が痛くなる話です…」

 

幾ら稼いでも翼を広げて飛び去っていく金の話を指折りすれば、クラネル少年はややげんなりしたようなリアクションを見せる。

 

しかし、14歳とはいえ自ら稼ぐのだ。

今だけでなく将来…ひいては、老後の安定の為に色々教え込んでもバチは当たらんだろう。

 

 

「あの…これ、落としましたよ」

 

そんな事を考えながら話していると、後ろから声を掛けられた。

2人で振り返った先に居たのは、1人の年若い女性。

クラネル少年と幾つかしか変わらないだろう…後ろで結い上げた銀色の髪に緑の給仕服を着た彼女は、チラッと俺を見たのちクラネル少年へ視線を移すと、手に持っていた魔石を差し出した。

 

不思議そうに首を傾げるクラネル少年だったが、魔石を受け取ると女性と二言三言話をする。

 

どうやら、女性…シルと言うらしい。

彼女の勤める店で、良かったら夕食を、と言った謂わば客引きのようだった。

 

しかし、セールストークだろう女性の誘いにもウブな反応を見せるクラネル少年の姿を見てると、そのうち壺を買わされたりしないか、おじさんは心配になってきたよ。

 

 

 

 

 

朝の客引きから、更に時間は流れ…ダンジョンで生活費を稼いだ俺達は、ヘスティア様にステイタスを更新して貰った。

 

転生費用が増えては来ているが、その額は本当に雀の涙といっても良い額…生前はあれも値上げ、これも値上げと言っていたのに…と溜息を吐いていると、ヘスティア様が何やらヘソを曲げた様子で出掛けてくのが見えた。

 

 

クラネル少年が好きな彼女の事だ…少年絡みの事だろう。

バイトの打ち上げがあると言ってはいたが、恐らく友神の方を捕まえて酒場でヤケ酒するのではないだろうか。

 

(明日の朝は、しじみ汁でも作るかねぇ…)

 

二日酔いに良さそうな献立を頭の中で考えつつ、俺はクラネル少年と共に、朝誘われていた店「豊穣の女主人」へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊穣の女主人での食事は、収穫のあるものだった。

 

クラネル少年が店の品の値段設定に百面相している傍らで、食事を摂りながら使ってる材料や隠し味などの細かな味付けを考察していると、店主のミアさんと料理を作る人間同士意気投合。

互いの秘蔵のレシピを交換する事になった他、売り場が見つからず諦めかけていた調味料の仕入れ先の情報まで入手できた。

 

和やかな空気でそれぞれに過ごしていたんだが…此処で、思わぬ出来事があった。

 

ロキ・ファミリアが遠征の打ち上げに入店までは良かったんだが…酒の回った狼人が、ある冒険者の事を語りだしてから、空気は一変した。

 

 

 

ミノタウロスに追い回されたトマト野郎…狼人の話す人物が俺の予想通りなら、それは…。

 

(…当たり、か)

 

俺の横で、クラネル少年が顔を俯かせ、拳を握り締める。

自分への情けなさと、悔しさからだろう…今にも飛び出して行きそうな少年を横目に、俺は口を開いた。

 

「ベルさん、悔しいッスか?」

 

「…はい」

 

俺の問いに、わずかに声を震わせながら少年は答える。

それを確認すると、俺は言葉を続けた。

 

「世の中ってのは、どれだけ綺麗事を並べようが弱肉強食なんスよ…権力、財力、発言力、影響力…どれにせよ、強い奴ほど日の目を浴びて、弱い奴ほど日陰者ッス」

 

「じゃあ…勝者って、なんスかね?」

 

「勝者…」

 

俺の言葉に、少年は考える様子を見せる。

魔界は、オラリオ以上に弱肉強食の世界だった。

そんな中で生きてきて…見つけた一つの持論を俺は語る。

 

「戦いに勝つ?それも勝者の在り方の一つだろうけど…俺が考えるに、勝者ってのは、最後に生きて立ってた奴ッス」

 

「よく言うじゃないスか、生きてるだけで儲けって。生きてさえいれば、また始める事が出来る…死んだら、そこで終わりッス」

 

「ベルさんはまだ生きてる。アイツらに笑われて悔しいと思ってる…だったら、まだ大丈夫。少年、君は強くなれる」

 

俺がそう言って話を終えると、少年は席を立ち店から飛び出していった。

 

食い逃げだのと周りは口々に言うが、会計は一緒だから全く問題ない。

 

「ミアさん、ベルさんの分の勘定ッス」

 

「…やるなら外でやりな」

 

カウンター越しにミアさんに少年の分の支払いを渡すが、その中身の量と俺の表情で察したのだろう。何も見なかったように調理に戻って行った。

 

…さて、あの狼人の言い分も理解出来る。

弱者は強者に奪われる、それは自然の摂理と言えよう。

だが…。

 

「久々に、イラッときたッスね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近くを通りかかったエルフの給仕に二つ程追加のオーダーをした後、自分の勘定を済ませた俺は、届いた品…スープと飯を一つの椀に纏める。

 

そして、それを手に酒が回り、やや煩いながらも打ち上げを楽しむロキ・ファミリアのもとへ行き…。

 

「こちら、サービスの【狗の餌】ッス」

 

狼人の頭上から、椀の中身をひっくり返した。

 

 

 

 

 

 

俺の行動に、打ち上げを楽しんでいたロキ・ファミリアだけでなく、店内の空気が凍りついた。

 

 

 

 

 

「…何のつもりだ…?」

 

狼人は、怒りから肩を振るわせながら俺の方へ振り返った。

その表情は…見事に怒り狂っている。

 

「いや〜、自分達より弱い奴を笑いのタネに使わなきゃ女を口説けない盛った狗がキャンキャン吠えてたんで。人に提供する飯だと悪いから、特別メニューを用意したんスけど…お気に召しました?」

 

「…それが遺言って事で、良いんだな⁈」

 

俺の煽りで完全にキレた様子の狼人は、周りの制止の声も聞こえず、俺に蹴りを放ってくる。

 

 

が、それに当たってやる程優しくは無いし、怒ってるのは此方も一緒だ。

左手を挙げると、常人なら視認も難しい速さの蹴りを受け止め、そのまま相手の脚を掴む。

 

 

「な…っ⁈」

 

誰の口からか、信じられないといった驚愕の声が聞こえた。

 

それはそうだろうな…なんせ、奇妙な格好の奴が、オラリオでも1、2を争うファミリアの、それも第一級冒険者の蹴りを易々と受け止めたんだから。

 

 

「躾のなってないワン公ッスね…ペットショップから人生やり直したらどうッスか?」

 

俺はそう言うと、僅かなアイコンタクトで察したミアさんが扉を開けてくれたので、その扉の向こうへ狼人を放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィン・ディムナには、ある特徴と言えるものがある。

それは、何か悪い事が起きる予兆を感じると、親指が疼くと言うもの。

 

これまでも、この疼きによってトラブルを予知し、切り抜けてきた。

 

だが…今回のそれは、今までのものとはまるで違った。

 

 

事の発端は、ファミリアの団員であるベート・ローガがダンジョンで起きた事を面白可笑しく話していた頃に遡る。

 

ベートの話に嫌悪感は抱いても、それを諌めたのは副団長であるリヴェリアのみ、他の団員達の中には笑う者も居る始末だった。

 

 

そんな空気に水をさす…いや、凍らせる出来事があった。

店の客の1人が、ベートの頭上から料理を溢し、挙句彼を狗と揶揄したのだ。

 

 

突然の乱入者に、ファミリアの団員達は下手人へと視線を向けた…無論、団長であるフィンも。

 

 

それは、奇妙な格好をしていた。

 

子どもの描いた鳥の絵をそのまま立体化したような着ぐるみ。

それを視界に捉えた瞬間だった。

 

「…っ⁈」

 

親指…それどころが、手首を切り落とされたかのような激痛がフィンを襲った。

 

だが、それに誰も気づかない。

 

その場に居た全員が、レベル5であるベートの蹴りを受け止め、店先に放り投げた謎の人物に釘付けになっているのだから。

 

やがて、その人物が店の外に出ていくと、店の中に居た者達が我先と外が見える場所へと殺到する。

 

 

「…フィン、どないした!?」

 

そこで漸く、主神であるロキをはじめとしたファミリアの幹部や、近くに居た団員達がフィンの異変に気づいた。

 

右手を押さえ、額に油汗を浮かべるその様子は、明らかな異常事態。

 

その上で、フィンはこう呟いた。

 

「ベートを、止めろ…アレは、ヤバい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狼人…もう面倒だし、駄犬でいいか。

煽り散らして挑発した俺は、場所を外に移して躾を行う事にした。

 

「っらぁぁぁ!」

 

何度も立ち上がっては、売りであろう速さを以て俺に接近しては、拳や蹴りで攻撃してくる。

 

だが…うん。

 

友人の魔王…キリアの攻撃の方が速く、鋭い。

 

「お手ェ!」

 

駄犬の攻撃をわざとスレスレで躱し、カウンターの右ストレートを顔面に叩き込む。

 

「おかわりィ!」

 

更にすかさず左ストレートを叩き込んで脳を揺らしてやると、駄犬は前のめりに倒れかかる。

 

「伏せェ!」

 

その頭上に跳躍すれば、後頭部を踏みつけて地面に熱いベーゼをさせ、トドメの一撃

 

「そしてこれが…ハウスっス!」

 

倒れた駄犬の顔面を蹴り、近くのゴミ箱へシュゥゥゥゥッ!超エキサイティン!

 

とまぁ、イラついて高揚した気分を収めながら辺りを見回すと、俺たちの戦い…というか、俺による躾に皆ドン引きしていた。

 

 

すっかりボロ雑巾のような姿になったが、駄犬はまだ生きている。躾の結果やってしまいました、では洒落にならんしな。

 

「さて、会計も済ませたし帰…らせるつもりは無いッスか」

 

いい具合に腹ごなし出来たしホームに帰ろうと思ったのだが、いつの間にやらロキ・ファミリアの面々に包囲されていた。

 

ファミリアの面子ってのがあるんだろうが、元はと言えば駄犬が原因なんだがな…。

 

「皆…待て…」

 

今にも俺に攻撃してきそうな奴らを掻き分け、1人の子供…いや、小人族が俺の前に来た。

 

 

「っ、一つ聞きたい。ベート…君がボコボコにした団員の話していた冒険者は…」

 

「…お察しの通り、オレが世話になってるファミリアの団長ッス」

 

 

問いに俺が答えると、彼は「そうか」と納得したように呟くと、俺に頭を下げた。

 

「ロキ・ファミリアを代表して謝罪する…うちの団員が、迷惑かけてしまった」

 

「それは、是非本人に言って欲しいッスね。オレとしては、今回の件は酔った勢いの乱闘騒ぎって事で手打ちにしてくれりゃ良いんで」

 

彼の謝罪に団員達は驚き、元々の原因を思い出してバツが悪そうな表情を浮かべる。

 

それでも尚、俺に敵対心を向けてくる輩も少なからず居るようだが。

 

 

「…分かった、彼には日を改めて謝罪をしよう。この件も、そちらの要求通りで手を打とう」

 

小人族の言葉に頷くと、俺は彼の横を通り過ぎ、ホームへ向かおうとする。

 

「ちょい待ちぃ」

 

しかし、それを止めるように、赤い髪の人物が俺の前に立ちはだかった。

 

「…なんスか?早く帰って明日の朝食を仕込みたいんスけど」

 

「一つだけ聞かせてくれへんか?アンタ…レベル、なんぼや?」

 

辟易した表情を浮かべる俺にその人…神ロキは聞いてきた。

そりゃ、レベル5をボロ雑巾にする奴のレベル、気になってしまうのも無理はないだろう。

 

 

「いや、1ッスよ」

 

それでも、素直に教えるつもりがない俺は白々しく設定通りのレベルを答えると、そそくさとホームに帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、この事がバレた俺は、ナイフ一本持ってダンジョンに篭って朝帰りしたクラネル少年と共にヘスティア様にしこたま叱られた。


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