ダンジョン都市で正義を騙るのは間違っているだろうか   作:kuku_kuku

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第九夜 「果実詰め七面鳥の丸焼き」と「晴れの日の小人族の蜂蜜酒」

 

「それでは都市の破壊者(エニュオ)一派と闇派閥(イヴィルス)の壊滅作戦における勝利を祝って──乾杯!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 ロキ・ファミリア団長【勇者】フィン・ディムナの音頭とともに、無数の杯が音を立てて重ねられた。

 

 酒場『豊穣の女主人』は本日、あの日の戦いに参戦した派閥連合の貸切り状態。

 

 二大派閥の一角ロキ・ファミリア、都市全体の治安維持を一手に担う大規模派閥ガネーシャ・ファミリア、医療系最大派閥ディアンケヒト・ファミリア、世界最高峰の鍛冶系派閥ヘファイストス・ファミリア、中小の探索・商業系派閥の名を騙った都市随一の諜報能力を持つヘルメス・ファミリア。

 

 表も裏も含めた都市有数の派閥(ファミリア)の上級冒険者達と神々が店を埋め尽くす程に集っているその光景は、壮観ですらあった。

 

 そんな冒険者たちによって次々と消費される食事と酒を補充するために、彼らの間を縫うようにして忙しく行き交う若葉色の制服に身を包んだ店員達。

 既に宴が始まる前からずっとてんてこ舞いの状況な同僚達の姿に、リュー・リオンは罪悪感で押し潰されそうになり、同時にほぼ無意識に厨房から出された料理を給仕せんと立ち上がりかける。

 

「今日だけはリューはいいにゃ!」「リューはね! だけどシルは許さない!」「自分だけ逃げやがって、後悔させてやる……」

 

 が、そんなリューを制止させる同僚たちからの囁くような小さくも鋭い怨嗟のこもった声に、リューははっとして大人しく店の隅に設けられた席に座り直した。

 

 一応本日のリュー・リオンの立場は『豊穣の女主人』の店員ではなく、『人造迷宮(クノッソス)攻略作戦』の祝勝会の参加者にして療養中の負傷者である。故に何時もの制服姿ではなく、わざわざ覆面とケープのフードで素顔を隠した姿で宴席の末席で息を潜めているのだが、正直なんとも居心地が悪く出来ることならすぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 

「アズライト……」

 

「んん? 堪忍なリューたん、愛しの旦那やのうてうちで。ニルスの阿呆は憎いけど、リューたんの切なそうな声は正直興奮するからグッジョブやでニルス」

 

「旦那ではありませんし、先程のは私が参加を強制されているのになぜアズライトは逃げているのかという、憎しみの声です」

 

 無意識に零した呟きへの想定外の返答に、リューは内心驚きながらも澄ました声で返す。視線を上げた先には、赤毛の女神ロキが想像通りのニヤニヤとした顔で笑っていた。

 

「ニルスなら『闇派閥壊滅の祝勝会に闇派閥の生き残りが参加してるとか冗談にもならないでしょう』なんて言っとったで。やけど愛しのリューたんには会いたいからって『お開きになった後に伺いますって店員さんに伝えておいてください』やと」

 

 ロキは「うちは伝書鳩やのうておどれの主神やぞ」と唇を尖らせつつリューの向かいの席に腰掛けて、そして「改めて色々とお疲れさんやったな、リューたん」と無邪気に笑いながら、持って来た二つのグラスをテーブルに置いて瓶から葡萄酒を少しだけ注いだ。

 

 今までに嗅いだことのないような芳醇な香りに、リューははっとしてロキの顔を見て、周りに聞こえないように声を潜める。

 

「ロキ様、まさかこの葡萄酒は例の……?」

 

「お、やっぱりリューたんなら匂いだけでも気付くか。ママなんてさっき『少し臭いな。どこの安酒だ?』なんて言っとったのに。そうそう、正解や。これが諸悪の根源都市の破壊者(エニュオ)ことクソボケ酒神ディオニュソスの作りたもうた神をも酔わせ狂わせる神酒や」

 

「そのような事件の重要な証拠、と言うよりも一種の危険物をどうやって……?」

 

「リューたんも知っとるやろ? 作戦決行直前にニルスがあの酒カスクソボケ厨二神の館に証拠を探しに行ったの。その時にちょろまかして来たもんを、数本うちが確保しとってな。その内の一本や。この神酒の存在はギルドにも話しとらんし、知っとるのはニルスとうちだけ。ある意味今回の大逆転劇のキーアイテムなんやから、祝勝会で飲まへんなんて嘘やろ? やけどニルスの阿呆はこうして宴会からふけとるから、今からこの愛しの神酒はうちら二人で仕方無しに飲むしかないんや。悲しいことになあ」

 

 からからと笑うロキに、リューは思わず溜め息を吐いた。

 

「私は香りだけ楽しませていただきます。神をも狂わせる程の酩酊に興味がないとは言えませんが、この場で醜態を晒す恐怖心の方が勝りますので」

 

「そっか、残念やわ。リューたんをお持ち帰りしてみたかったんやけどなあ」

 

 まるで残念そうに見えない丸わかりの嘘を吐いて、ロキはグラスから葡萄酒を舐めるように味わう。そして少し身を震わせて遠くを見るような溶け切った目で、夢見心地と言わんばかりの覇気のない声で呟いた。

 

「まあ、子どもらはこんな酒飲まん方がええな。あのクソボケ厨二神が、本気で心の底から自分が黒幕やのうて被害者やなんて思い込めてたんも、これなら納得できてまうわ」

 

 酒神ディオニュソス。食人花の出現から始まった一連の事件の黒幕である都市の破壊者(エニュオ)の正体。闇派閥(イヴィルス)穢れた精霊(デミ・スピリット)に付き従う怪人達をも利用してのけた狂乱の神。

 

 リューは最近になるまで神ディオニュソスの存在を深く知らなかった。数少ない知っていた事は事件発生のかなり初期の段階から《都市の破壊者(エニュオ)》一派によって眷属を殺された報復を理由としてロキ・ファミリアに協力していた神であり、六年前に闇派閥によって引き起こされた『27階層の悪夢』によって多くの眷属を失ったことのある神物であるという事くらいだった。

 

「ロキ様や神ヘルメスを欺き続けていた……正確にはその自覚すらなかったというのですから、流石神造物ですね」

 

「胡散臭いとは思っとったし、うちもヘルメスも黒幕の第一候補とは考えとったんやけどなあ。まあ、今回はほんまにニルスに助けられたわ。おかげで作戦決行前、あのクソボケ神が諸々やらかす前に地上で協力者の子諸共ふん縛って切り札の《精霊の分身(デミ・スピリット)》の存在やらも吐かせられたし、今日無事にきっちりとうちの手で送還までできた。あの酒カスも怪人やったあのフィルヴィスって眷属の子も、【正義の味方】としてのニルスのことは噂で警戒して『27階層の悪夢の件で、彼には私もフィルヴィスも思うところがあってね。極力彼とだけは関わりたくないんだ』なんてもっともらしい言い訳して接点を最小限にしとったけど、まあ流石にあの(スキル)までは想定外やったみたいやな」

 

 ロキは「それにしてもこの酒にはしてやれたわ」と憎々し気に呟きながらも愛おしそうに舐めるように神酒を味わう。

 

 オラリオを崩壊寸前まで追い込んだ都市の破壊者(エニュオ)は、その神酒に酔うことで全てを忘却して被害者ディオニュソスという一種の別人格を作り出していた。そしてその神酒は皮肉なことに都市の破壊者(エニュオ)に対する自白剤として用いられ、彼の神に酔いのままにその罪をすべて余す所なく供述させる程には危険なものであった。

 

 そのような人知も神知も及ばない奇跡のような酒が全ての根幹を成していたのだ。ロキの言う通り『成された悪の因果を識る』というニルスの異常なスキルがなければ、成された数々の非道な行為の結果を一切の過程を無視して見抜くことができなければ、あの日あの瞬間にあの奇襲を行うことはできなかっただろう。

 

「にしても、まさかニルスがあの日までディオニュソスを見たことすらなかったとは思ってなかったわ。正確にはあのボケが本格的に動き出すかなり前に、闇派閥(イヴィルス)の邪神かどうかの確認のために視たことはあったらしいんやけどな」

 

 リュー自身が事件の関係者であったはずの神ディオニュソスについて知らなかった理由とはつまり、今回の事件におけるリューの情報源がニルスに強く依存していたためだった。そしてそのニルス本人も作戦決行の数日前まで、実は神ディオニュソスに直接会ったことすらなかっという徹底ぶりだったようだ。

 

「なんやっけ、早朝の市場でらぶらぶデートしとる時にばったり会ったんやって? いい気味やわ、そんなアホみたいな理由で計画総崩れとか」

 

「違います。朝食の食材の買い出しです」

 

「同棲初期のらぶらぶのお二人さんにとっちゃあ買い出しも立派なデートっちゅうことかいな。はあ、こりゃあの酒カス厨二神にも同情やな。今までお日さんが出てる間には表立っては堂々と出歩かん生活しとったニルスが、そんな理由でふらふら明るいうちから外に出るくらい浮かれとったなんてまさに神にも見通せんわ。ああ、でもやっぱ同情はなしやな。いくらあの何時もの暑苦しい覆面外して変装解いとるからって、笑顔でおはようさんまでして全く気づかんへんなんて、酔っ払いも大概にせえっちゅう話やわ!」

 

 膝を叩きながら高らかに笑うロキに、リューは小さくため息を吐く。最初からずっと続けられているこのやりとりにそろそろ苛立ちを抑えきれなくなって来た。リューは目を細めて一言物申そうと決心し口を開きかけ、

 

「ロキ、リヴェリア様が探していましたよ。先程の葡萄酒が気になって来たと」

 

 しかし己の背後からかけられた同胞(エルフ)の声に口を閉じる。リューに会釈をしてロキの前に立つ長い金髪のエルフ。確か彼女がリヴェリアから聞いた例のアリシア・フォレストライトなる女性だったはずだ。

 

「それにニルスは確かに度し難いですが、同胞の方が否定している通り安易にそのようなことはしませんよ。あのニルスがあえて認識阻害の覆面と外套(マジックアイテム)を外して素顔のまま出歩いたのは、彼の素顔を知っているかつての闇派閥幹部に対する陽動と、同胞の方の純然たる護衛が目的で、それが結果的に功を奏したのですからある意味真っ当な成果です」

 

 にこやかにそう断言された。少しだけ釈然としない気持ちが湧き上がると同時に急に気恥ずかしくなり、そしてそのことに罪悪感を覚えてしまってリューは口を紡ぐしかなかった。概ねは彼女の言う通りである。しかしそれでもリューは確かに、そしてきっとニルスも、あの短くも長い共同生活の日々の中で、早朝の澄んだ空気の中を連れ立って歩き、市場を見ながらその日の朝食について会話を交わすあの時間を、純粋に尊く得難い時間だと思っていた。

 

「では申し訳ありません、同胞の方。ロキを借りて行きますね。ああ、これがリヴェリア様が探していた葡萄酒ですね。私はお酒を嗜みませんが、これは確かにそそられる香りですね」

 

「ちょっ、待ちいやアリシア……! うちはまだリューたんを満足行くまで堪能できて────」

 

「いえ、待ちません。これ以上他所様に失礼を働く前に私の目の届く所に連れ戻せともリヴェリア様から仰せつかっていますので」

 

 そしてアリシア・フォレストライトは酒瓶を抱きかかえたロキを、まるで駄々をこねる子どもを無理やり連れ帰る慣れた母親ような手際の良さで回収して行った。

 

 呆然とそれを見送ったリューの正面に「失礼しますよ、助っ人さん」と涼やかな声と共に次の来訪者が腰掛ける。ヘルメス・ファミリア団長アスフィ・アル・アンドロメダ。闇派閥との戦いの日々から今もなお何かと戦場を共にする、数少ないリューの友人だった。

 

「改めて、色々とお疲れ様でした」

 

「先ほど、ロキ様からも全く同じ言葉をかけられました」

 

「……そこはかとなく馬鹿にされたような気がするのは気の所為でしょうか」

 

 何気に失礼なことを言いながらアスフィは小さく溜息を吐く。他意はなかったので思わずロキの神望に思いを馳せてしまうが、普段の行いだけを見るとその評価は真っ当なのだろう。

 

「まあ、あなたの事情を知る人なら誰でも同じ言葉をかけてしまうでしょう。邪神タナトスの送還と最後の幹部格ヴァレッタ・クレーデの抹殺。闇派閥の完全壊滅をようやく成し遂げたのですから。それにあなたの場合はあの作戦の延長で大立ち回りを演じて、ジャガーノートでしたか、あなたの家族(ファミリア)の直接的な仇をも討ち取って、結果的にベル・クラネルを含む多くの冒険者たちの命を救いまでしたのですし」

 

 優しく微笑むアスフィの言葉に、リューの脳裏には今も鮮明なあの日の記憶が蘇る。

 

 ニルスと共に追い詰めたヴァレッタ・クレーデは、想定通りと言うべきか自身が逃げるための姑息な術をいくつも用意していた。

 

 先にヴァレッタとの戦いから離脱してクノッソスからダンジョンへと移ったリューは後になって聞いた話だが、最終決戦の場となったクノッソスの一角を自滅覚悟で崩落させて、自らの主神タナトス諸共ニルスやロキを生き埋めにしようとまでしたらしい。

 そしてその前段階で用意していた姑息な一手のうちの一つは、かつて闇派閥の暴挙によって出現した迷宮の免疫機能とも呼べる悪辣なモンスター、【厄災】と呼んで差し支えないそれを再び迷宮に出現させるという、罪なき多くの冒険者達を人質に取った脅迫であった。

 

 ジャガーノートと呼ばれるモンスターはかつてその圧倒的な暴力によってリュー・リオンの心を折り砕き、家族達(アストレア・ファミリア)の命を奪った仇敵である。そしてリューを救うためにジャガーノートの前に立ちはだかり、そして己ごと魔法で貫けと言って散って逝った───否、リュー・リオンが我が身可愛さに自らの意思で魔法によって初めての友(アリーゼ)を殺すことになった切っ掛けにして、取り返しのつかないその罪と悲しみの果てに、元凶たる全ての《悪》を殺し尽くすためのあの漆黒の復讐劇を始めることになった直接的な切っ掛けでもあった。

 

 リュー・リオンが《正義》を掲げることができなくなった理由。無為に仲間を見殺しにして、あろうことか我が身可愛さに友を殺めてしまった最大の罪。

 その大きすぎる罪はあの復讐の日々の中でニルス・アズライトに八つ当たり気味に暴露した以外、他の誰にも話すことができなかったが、先日のジャガーノートとの戦いの果てに落ちたダンジョン深層で生死を共にしたベル・クラネルに、リューはそれを語っていた。

 

 リューはそのことを思い出しながら、アスフィの言葉を訂正する。

 

「私がクラネルさんを救ったのではありません。クラネルさんが私を救ってくれたのです」

 

「……? ベル・クラネルはまたあなたに救われた上に、深層で生き残るために冒険者として掛け替えのない多くのことを教わったと言っていましたが、何かあったのですか?」

 

「……黙秘します」

 

「ニルスに話しても良いのですか?」

 

 何時もはここまで不遠慮に踏み込んでこないアスフィだが、どうせベル・クラネルを気にかけている神ヘルメスから何があったかを探って来いとでも指示を受けているのだろう。だがそんなことは自分には関係ないとリューは少しだけ清々しい気持ちでアスフィに伝えた。

 

「今夜自分で話すつもりですので、できるものならどうぞ」

 

「……。リオン、あなた、少し変わりましたね」

 

「否定はしません。クラネルさんとの事も含め、最近は色々とありましたので」

 

「……喜ばしい事なのでしょうね。素直に祝福させていただきますよ。私も、そしてきっと彼女たちも」

 

 リュー・リオンがベル・クラネルに己の大罪を語ったのは、何も同情して欲しかったからではない。短時間で深層を生き抜くための術を学びきってみせ、確かな生存の可能性を示したベル・クラネルを生きて地上に返すために、リュー・リオンになど救う価値はなく故に重症を負った自分を囮として深層から単身で脱出するようにと説得するためだった。

 

 だがリューは、そこに至ってなおベル・クラネルの非凡な善性と純粋さを見誤っていたのだ。

 

『リュー・リオンに救われる価値など、ないのです。かつては違ったのかもしれません。ですが私はもう《正義》を名乗れない。いえ、《正義》を、捨ててしまったのですから』

 

 そう自嘲したリューに、ベル・クラネルは必死の形相で言ってくれた。

 

『僕は……《正義》なんて、わかりません。でも、でも……あるんです。きっと、いや、絶対にあるはずなんです……! だって《正義》は、リューさんの《正義》は、ずっと生き続けてるじゃないですか! あなたに救われたニルスさんが、今でもずっとあなたの《正義》を掲げ続けてるじゃないですか! 僕はそんな【正義の味方】に何度も何度も助けてもらいました! 返しきれない程多くのものをもらってきました! それに僕にとっての【正義の味方】はニルスさんだけじゃなくて、リューさん、あなたもなんです! 僕の背中に刻まれた神聖文字(ステイタス)が、スキルが証明しています! だから、だから────《正義》はあるんです!』

 

 背中に刻まれた【火風礼賛(フランマ・テデウム)】という神聖文字(スキル)を以って、ベル・クラネルは宣言する。だが、リュー・リオンはそれを受け入れることができない。受け入れていいはずがない。

 

『違う、違うんです……! アズライトが憧れたその《正義》こそが、私の罪の証なのです。間違えた《正義》を彼に伝えてしまった私には、《正義》を──』

 

 言い淀むリューの言葉を遮り、ベル・クラネルはその言葉を否定する。

 

『リューさんの正義が正しいだとか間違えてるだとか、僕にはやっぱりわかりません……。だけど、同じだから、きっと根っこは同じだから、僕でも一つだけ分かることがあります! ニルスさんは、あの人はきっと、正しいとか間違えてるとかじゃくて、ただ自分を救ってくれたリューさんに不幸になってほしくないって思ってるだけなんです! リューさんのしたことが全部間違えていたわけじゃないって、リューさんがいてくれたから救われた人が確かにいるんだって、リューさんが成した正義が巡ったから今も多くの人が救われてるんだって、だから、だからリューさんが幸せになってもいいんだって、ずっとそれを証明するために戦っているんです! 大好きなリューさんに幸せになって欲しいって……ただそれだけを願って、それだけのために《正義》を名乗って戦い続けてるんです! なのにリューさんがこんな所で死んでしまったら、そんなの、あの人が報われないじゃないですか!! だから僕はリューさん自身がなんと言おうと、僕を救ってくれた二人に恩を返すために、絶対にリューさんと一緒に生きて帰る事を諦めません!!』

 

 今思い返しても恥ずかしさ共に何とも言葉にし難い複雑な気持ちが込み上げてくる。思わず顔を伏せてしまったリューに、アスフィが胡乱げな視線を向けて来る。

 

「本当に変わってしまいましたね。一人で百面相をした挙げ句、耳まで真っ赤にして黙りこくるとは。というか、ベル・クラネルの話の最中にその反応とは、一応確認ですが修羅場とかとかそういうのではないのですよね? いえ、ベル・クラネルのそういった方面への非凡な才能を知る身としては、友人たちが修羅場になってしまう危険性を排除しきれないと言うかですね……」

 

「修羅場ですか……? なぜクラネルさんの話でそのような……ま、まさか、アイズとクラネルさんの間に何かあったのですか? わ、私は今後シルにどのように接すれば……」

 

「ああ、大丈夫そうですね。本質はポンコツエルフのままのようですし、安心しました」

 

「なっ、貴方までそのような……私は断じてポンコツエルフではない! 訂正しろ!」

 

 反射的に噛みついたが、アスフィはとても生暖かくも優しい気味の悪い微笑みを向けて来るだけである。これ以上言っても無駄と悟ったリューは少し落ち着こうと胸の砂時計型のペンダント、中に小さな火が灯る温かなそれに触れる。ここ最近癖になってしまっている事を自覚しているが、悪い気はしない。

 

 そこでふと、眼の前の人物にずっと言い忘れていた事があっと気付いた。

 

「アンドロメダ。あなたに礼を言いそびれていました。この魔道具(マジックアイテム)の制作と修理、感謝します。おかげで二度も命を救われました」

 

「はい? どういう意味ですか?」

 

「一度目はイケロス・ファミリア団長ディックス・ペルディクスとの戦いにおける、破邪の炎による呪詛(カース)の解呪。二度目は先程まで話していたクラネルさんとの深層探索の最中、『闘技場(コロシアム)』でモンスターの大群に呑まれ死ぬ間際、この魔道具(マジックアイテム)がモンスター達を周辺環境ごと爆炎で焼き払ってくれたおかげて、結果的に私達は『闘技場(コロシアム)』地下の未踏破領域である安全地帯に落ちて一命をとりとめました」

 

「いえ、そう言うことではなく、それはただ消えない火が灯っているだけの魔道具(マジックアイテム)でしかありませんよ?」

 

「え?」

 

「まったく、酷い出来の冗談ですね。ダンジョン深層のモンスターの大群を全滅なんて、そんな英雄譚にもそうそう出て来ないような神造物(アーティファクト)染みた能力、私が作成できる魔道具(マジックアイテム)の域を……って、え? 本当なのですか?」

 

 呆然とするリューを見て、アスフィも呆然としていた。そしてアスフィは急に【万能者(ペルセウス)】としての真剣な顔付きになり、一人でぶつぶつと呟き始める。

 

「そう言えば以前、過労で死にそうで聞き流していましたが、彼も解呪の件については何やら同じような事を言っていましたね……。では、本当に……? 確かに七年前の【業火】の火力なら十二分に深層モンスターの殲滅も可能ですし……。当初狙っていた破邪の炎ではなく、ニルスの血が彼の能力をそのまま転写している……? ですが今までヒューマンの血だけでそこまでの反応は……いえ、ですが、一つの仮説として特定条件下での複数の人間の血の組み合わせによっては……もしやこれは大発見に……」

 

「ア、アンドロメダ……?」

 

 恐怖を感じる程に延々と呟かれる独り言に、リューは恐る恐る声をかける。しかしアスフィはすぐにはその声に答えず、しばらくの後に鞄から空の巨大なガラス管を取り出す。そして、よく見れば先端に細い針がついた凶悪な注射器とわかるそれをリューの前に淡々と置いた。

 

「リオン。感謝は血でお願いします」

 

「……」

 

「明日の朝、またここを訪れます。その時までにあなたとニルスの血をそれぞれこの試験管一杯に詰めておいてください。針を刺すだけで大丈夫ですので。あと致死量には十分に余裕がありますので、その点も安心してください。では私は急用ができましたので、今日はこれで失礼します」

 

 狂気に満ちた依頼を残してアスフィは颯爽と立ち上がり、店の出口に向かって歩きながら「ヘルメス様、帰りますよ!」と途中で彼女の主神の首元を掴んで有無を言わせずに引きずりながら外へと消えて行った。

 

 一人ぽつんと取り残されたリューは、呆然としながら眼の前に残された二つの凶器と危険物(神酒)の注がれたグラスに視線を落とす。

 

「これを私にどうしろと……」

 

 そんな呟きに答えてくれる人は誰もいなかった。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 あの最終決戦を終えた日から、今日でもう一週間である。

 もはや最近恒例となりつつあるが、俺はまた戦いの直後からつい昨日まで気絶しており、目を覚ました時には粗方の後片付けを含め全ては終わっていた。

 

 ここまで早く事態の収拾がついたのは、あの大規模作戦における都市側の被害が軽微であったからだという。

 

 作戦開始前に極秘裏に実行した奇襲による黒幕(神ディオニュソス)の捕縛と、その眷属(怪人)の討伐。

 黒幕に吐かせた地図に基づく人造迷宮(クノッソス)の攻略と、闇派閥の残党の殲滅。

 敵側の最大戦力であった怪人レヴィスの撃破と、神ディオニュソスによるオラリオ崩壊のための切り札として秘匿されていた七柱の《精霊の分身(デミ・スピリット)》の討伐。

 

 そして、俺個人の因縁の相手であるヴァレッタ・グレーデの抹殺と、その主神タナトスの送還。

 

 それら全てを余す所なく成し遂げた上で味方側の被害はほぼなかったというのだから、様々な幸運が重なった奇跡とも言えるような戦果である。

 

 今回の騒動に関連した個人的な挨拶回りも無事に終わり、俺は一時間前から屋根の上よりぼんやりと眺めていた酒場『豊穣の女主人』の灯りが落とされたのを見て、しばらくの後に屋根の上から飛び降りて覆面を外しながら店の扉を潜った。

 

「随分と早い到着ですね」

 

 そして出迎えてくれたそんなリオンさんの疲れ切った声に、思わず苦笑してしまった。

 店の制服姿ではなく、新調したらしい冒険者用の装備に身を包んだリオンさんは、何時もの最奥のカウンター席に腰掛けて冷たい視線を送ってくる。

 

「祝勝会、盛り上がっていたようですね」

 

「お詳しいですね。参加もされていなかったのに」

 

 にべもなく切り捨てたれた。想像以上にお冠の様子のリオンさんに少したじろぎながら、彼女の隣、いつものカウンター席へと腰掛けながら言い訳じみた言葉を紡ぐ。

 

「先ほど酔い潰れたうちの幹部陣と準幹部陣が、別会場で祝勝会やってた団員達に回収される無様な光景に遭遇しましたので。それにしても、リオンさんは店員さんとして参加されるとばかり思っていたんですけど」

 

「ロキ様とリヴェリア様から半ば強制されましたので。アイズを通して」

 

「あいつら……」

 

 思わず項垂れて素で溜息を吐いてしまう。

 

 都市有数の派閥の幹部陣が集った闇派閥壊滅の祝いの場に、【疾風】としてのリオンさんをロキ・ファミリアが客品として招待するという儀式めいた意味も半分くらいはあるのだろうが、もう半分は単純にお気に入りのリオンさんと飲みたかっただけなのだろう。

 

 身内の恥を謝罪しようと顔を上げたところで、リオンさんは小さく苦笑した。

 

「気疲れはしましたが、あなたの家族(ファミリア)に色々と気を遣っていただきましたので、楽しい宴席でした。アンドロメダ以外との昔馴染みとも、久方ぶりに話すことが出来ましたし」

 

「そう、ですか……。それなら良かったです」

 

 つまりは無断欠席した俺にのみお怒りという意味であった。胃が痛い。

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

「本日のメイン料理の七面鳥の丸焼きです」

 

 準備する時間がなかったと焼き魚がないことを謝罪されつつ出された大皿には、こんがりとついた焼き色だけでも食欲が唆られる七面鳥の丸焼きが鎮座していた。祝勝会のメイン料理に相応しい存在感である。

 

 リオンさんは既に祝勝会で食事は済ませたとのことで、俺の眼の前に直接置かれた大皿は中々の迫力である。

 七面鳥にナイフを入れてみると、どうやら単純な丸焼きではなかったようで、中からたっぷりの果物と香味野菜で煮詰められた挽き肉とパンの詰め物が零れ落ちる。

 

 肉と詰め物を一緒に一口食べてみると、最初は意外なほどシンプルな肉の味に少し驚き、しかし次の瞬間には酒の進みそうな濃い華やかな味付けの詰め物の味が口いっぱいに広がり、二度衝撃を覚える。そして隣に座るリオンさんから手渡されたグラスの中身を確認すらせずに口に含めば、口当たりの軽いエールであったようで、料理の濃い味と脂に非常に良く合っていた。

 

「美味しいです。料理と合いますね、このちょっと変わった味のエール……あれ、これ、もしかして蜂蜜ですか?」

 

 感想を口に出した後に酒の後味に甘い香りが含まれている事に気づき首を傾げれば、リオンさんは少しだけ瞳に悪戯が成功した喜びのような光を宿して、脇に隠していた瓶を手渡しながら頷いた。

 

「はい、今日のお酒は蜂蜜酒になります。【勇者(ブレイバー)】が祝勝会に持ち込んだ、大麦も原料にした小人族の伝統的な製法で作られた一品とのことです。何でも、一部の小人族の間では祝い事の際に飲むお酒のようですね」

 

「相変わらず団長はやることが気障ったらしいですが、この蜂蜜酒自体はとても良いですね。以前店員さんに飲ませてもらった甘さの強い蜂蜜酒は食後に飲む分には良かったですけど、こっちのはこういった見た目も味も派手な料理にぴったりって感じです」

 

「やはりそう思いますか。ですが、そう聞くと私も料理と一緒に味わっておけば良かったと少し後悔してしまいますね……」

 

 そして「惜しいことをしました」と少し残念そうに呟きつつも、俺がグラスに注いだ蜂蜜酒を口に含んで幸せそうにほっと一息吐くリオンさん。

 

「一人で食べても味気ないので、是非どうぞ」

 

 そんな油断しきった彼女の口に七面鳥を掬った匙を差し出せば、リオンさんは反射的に小さな口で眼の前の匙を咥えて、そしてはっと我に返ったように少しだけ顔を赤くして恨みがましそうに俺を睨んで来た。まあ、行儀が良いとは言えないので怒られても仕方ないだろう。

 

「またこのようなことを……悪ふざけが過ぎます。酔っているのですか?」

 

「はい、少しだけ。ここに来るまで、同僚のやけ酒に付き合っていたので」

 

「【千の妖精(サウザンド)】ですか……。彼女は、大丈夫そうですか?」

 

 神ディオニュソスの眷属と友人関係にあった【千の妖精(サウザンド・エルフ)】ことレフィーヤは、精神面だけで言えば今回の事件で最も大きなダメージを受けていた。なんの覚悟も準備もできていなかった状態で、明後日の方向から友人が実は怪人であり黒幕の手先と知らされ、そして様々な感情を飲み込めないまま自分の手で友人を葬ったのだ。

 

 最期には両者とも泣きつつも笑って別れることができたのが唯一の救いだったのだろうが、少なくとも間接的な加害者である俺にしか愚痴と暴言と泣き言を吐き出せず、そして酒に逃げるくらいには精神的にやらている状態である。

 

「大丈夫かは俺には分かりませんが、明日は大好きなアイズに一日中慰めてもらうって泣いて笑いながら叫ぶくらいには空元気は出てましたね。まあ、飲み過ぎで覚えてないでしょうが」

 

「……そうですか」

 

「そういえば大丈夫かどうかで言えば、シルさんは大丈夫なんですか? レフィーヤのやけ酒に付き合う前、夕方くらいにフレイヤ・ファミリアに助っ人の件で謝礼に行って来たんですけど、あの駄女神、拠点の自室でゴロゴロしてましたよ。店の準備を手伝わないで良いのかを聞いたら全力で言い訳してましたけど、どうせあの調子なら今日は来てないんじゃないですか?」

 

「大丈夫ではないでしょうね……。私の同僚達も恨み言を言っていましたが、それ以前にミアお母さんがとても……はい、とても怒っていましたので……」

 

 そっと目をそらすリオンさんは、少なくとも明日のシルさんの運命を確信してしまっているらしい。

 

 まあ、自業自得である。その場に居合わせたあの猪からすらも若干白い目で見られるくらいしょうもない理由で店の仕事を放棄したのだ。

 

「ちなみにシル……と言うより、神フレイヤとして何と言っていましたか? 内容によっては、ミアお母さんが情状酌量の余地があると判断してくれる可能性も残っているかと」

 

「リオンさんと俺の依頼だからって安々と作戦を手伝ったと他の神に知られたら自分のイメージが崩れるし、うちの神様に『いざという時には協力的ないい子ちゃん』とか皮肉交じりに感謝されつつ内心では『ツンデレチョロイン』とか呼ばれて揶揄われるから部屋から出たくないって言ってましたね。フレイヤ・ファミリア全体の経営戦略にも影響するとか何とか、慌てて言い繕ってましたけど」

 

「それは……」

 

 無理ですね、と言う言葉を飲み込んだとはっきりと分かる程度にはリオンさんは既に諦めていた。

 

「現在進行系でベルとかに存在レベルで嘘を吐き続けている以上、『いい子ちゃん』扱いはされないんですから、無駄な心配としか言えないですね」

 

 蜂蜜酒を味わいながら性悪女神を鼻で笑えば、友人であるリオンさんは複雑そうに百面相をしながら、

 

「シルも今更嘘だと明かすには遅すぎると考えているのでしょう……。女神としてではなくシルとしてクラネルさんに接触したのも理由があると言っていましたし、理解はできていませんが少なくとも当初は譲ることができなかった一線なのでしょう。と言うよりもクラネルさんに限らず、そもそも私やこの店の同僚達がシルの正体を知ったのも、あなた達の喧嘩に巻き込まれてなし崩し的にだったのですし」

 

 と、曖昧なフォローになってないフォローをする。非常に苦しそうである。全面的に奴が悪いので、フォローなんてそもそも不可能なのだ。

 

 ちなみに俺とシルさんの喧嘩はリオンさんの存在が切っ掛けなので、巻き込まれたというのは正確には誤った認識であるが、リオンさんには誤解しておいてもらったままの方が都合が良い。

 

 五年前、リオンさんとこの店で再会してしばらく経った頃。嘘付き店員シルさんこと駄女神フレイヤは、リオンさんのためだと主張してやたらと俺の借金返済の邪魔をして来ていた。もっと言うと、俺をリオンさんから物理的に遠ざけていた。

 

 眷属の変身魔法で町娘シルに化けていた外見はともかく、もう一つの視界で見える姿は完全に女神フレイヤと同一神物という胡散臭い嘘が張り付いた彼女。当然の如く抱いた不信感を以って「理由も説明せずに邪魔するなら正体バラすぞ」と脅してみると、あろうことか奴は「あなたがいるとリューが苦しむ。害悪はこの都市から排除する」と吐き捨ててファミリアの団員を使って物理的に俺を殺しに来たので、どうにかその死刑の場から逃げおおせた俺が嫌がらせとして「正体隠して友達ごっこしながら裏から汚い手段を取るお前だって同類で害悪だろ」とリオンさん達の前で暴露して社会的に殺し返したというのが事の真相である。

 

 お互い知的生命体とは思えないくらい一方的に殺し合ったという、バレたらリオンさんに軽蔑されかねない経緯なので、リオンさんには秘密ということでお互いに合意の上で休戦協定を結んでいる状態だ。

 

「まあ、シルさんの件に関しては、何をしようとどうせミアさんに折檻されることは確定しているので心配するだけ無駄ですね。ざまあみろ」

 

 と、嘘付き店員の決め台詞と共にそう結論付けると「仲が良いですね。あなたとシルは」と、リオンさんは無表情ながらもどこか少しだけ面白くなさそうにそう淡々と呟く。基本的にあの堕女神はリオンさんの前では猫を被っているので、ある意味これ以上の恥を晒せない俺に対する自爆気味な遠慮のない姿を見ると、友人としては少し思うところがあるのだろう。

 

「店員さんはちょっと勘違いしてるみたいですが、向けて来る感情の九割が敵意な相手を仲が良いとは言わないと思いますよ。まあ、店員さんとシルさんとの仲の良さとは比べる余地すらありません」

 

 事実に基づきそう断言すると、しかしリオンさんに少しだけ呆れたように溜め息を吐かれた。

 

「ふ、やはり冒険者さんには私を鈍感呼ばわりする資格はない」

 

「あ? 何なんですか、その微妙に含みのある苛つく溜め息は」

 

「言葉通りの意味ですが?」

 

 リオンさんより俺が鈍感な筈がないので、全く意味がわからない。しかし数瞬思いを巡らすと、一つだけ可能性に思い至った。

 

「もしかして店員さん、シルさんに嫉妬してたりしますか? 修羅場的なアレコレで」

 

「!?」

 

 わかりやすくビクリと反応して顔を赤く染めるリオンさん。内心で湧き上がる黒くどろどろとした負の感情を押し殺しつつ、まあ見方を変えれば良いことなのだろうと割り切ってリオンさんをとりあえず煽ってみた。

 

「やっぱりそうですか。色々と一区切りついたんで、店員さんだって前を向いて恋愛とかするのは良いことだと思いますよ。まあ、意中の相手がいる十四のベルを自分の親友と奪い合うってのは、何と言うかなかなか穏やかではありませんけど」

 

「はい? あなたは何を──」

 

「今更照れて誤魔化す必要はないですよ。実は今日ヘスティア・ファミリアにも顔を出して来たんですが、ベルから深層で色々あったと聞きました。やたらと照れてて詳細まではあまり聞けませんでしたけど。まあ、今度こそ闇派閥の完全壊滅の目処もついて、そのタイミングで店員さんも前を向けるようになったんですから、俺としても喜ばしい限りです」

 

 更に顔を真赤にして黙りこくりながらも、少し怒りに満ちた視線を向けてくるリオンさん。突如売られた喧嘩に対して圧倒的な勝利を収めてしまった。

 

 それにしてもベル・クラネルか。まあ、愛を司っているらしいあの駄女神も最初からその可能性に言及し続けていたし、そもそも俺もベルならばと思わなくもない。そういう意味でいうとある意味順当な結果なのだろう。それにしてもリリやアイズに続き、リオンさんもか。それにアイズを通して残念狼ちゃんやその周辺まで関わってくるのか。

 

「……いや、やっぱりちょっと考え直した方が良くないですか? 流石にそこまで来ると……」

 

「何を一人で暴走しているのですか。アストレア様やアリーゼ達に誓って、私はクラネルさんにそのような気持ちを抱いていません」

 

「あれ? そう、なんですか……?」

 

 リオンさんが溜め息混じりに否定した事よりも、どちらかというと彼女の口から、この五年間でほぼ直接語られる事のなかったかつての家族達の名前が出たことに驚いた。

 

「ジャガーノートでしたか? 因縁の相手を討って、一歩前進できたとは思っておいていいんですよね?」

 

「正確には違いますが、概ねその理解で間違いありません。そういう冒険者さんはどうなのですか?」

 

 少しだけ遠慮気味に続けられたその問いに、俺は特に隠すこともなく淡々と返す。

 

「あのゴミを含めた闇派閥への憎悪は五年前に全部火に焚べて消えてるので、あまり思うところはなかったっていうのが正直な感想です。ただ、まあ、やっと色々と一区切りついたので良かったとは思ってます……が、あのゴミが最後の最後にまた碌でもない戯言を吐き捨てて死んでいったので、何と言うか微妙にすっきりはしていないですね」

 

「そう、なのですか……? ヴァレッタは最期に何と?」

 

「次に会う時は私がお前の全部を奪ってやる、もうあと一手で準備も終わりだ、とか何だとか言ってました。あいつがクノッソスを崩落させたせいで色々と切羽詰まってて、寝言の途中で殺すしかなくて最後までは聞けませんでしたが……神様が言うには時間稼ぎとかハッタリとか嘘の類いではなかったようなんですよね。まあ、死体こそ崩落したクノッソスに埋もれて見つけようもないですが、確実に胴体をぶった切って息の根を止めたので、準備云々が本当であっても残りの一手を打つ本人がいない以上、そこまで心配する必要はないですけど」

 

「……いえ、警戒すべきでしょう。討ち漏らしが潜んでいる可能性もあります」

 

 暗く張り詰めた表情でそう返したリオンさんに、俺は「とは言っても」と軽く苦笑気味に続ける。

 

「その点も考慮して調査した上で団長や神様が今日の祝勝会を開くって決めたんですから、そこまで気にすることはないですよ。それに実は根本的な解決方法も思いついてるので、すっきりしていないのは事実ですが、俺自身も心配はしてないですし」

 

「よかった、解決の目処がついていたのですか。ちなみにどのような策を? 必要であれば私も手伝いましょう」

 

 心底安心したようにほっと一息吐いて僅かに頬を緩めたリオンさん。俺はそんな彼女に「ありがとうございます」と礼を言いつつ続ける。手伝ってくれるというのなら話は早い。

 

「それじゃあ協力というか、近い内にあの時の約束を果たさせてください。ちょっと急にはなりますけど、リオンさんが俺を殺して、それで闇派閥は晴れて完全壊滅です」

 

「……」

 

「ちゃんと説明しますので、その冷たい目はやめてください。ヴァレッタは俺に執着してるみたいで、良くわかりませんが、極論、俺があいつと一緒に死ぬならそれでいいらしいんですよ。これも神様曰く本心のようです。だから、まあ、闇派閥壊滅のために俺が死ぬことで、ついでに死んだヴァレッタの目的が果たされて都市に迷惑がかからなくなるなら、誰にとってもそれが最善の選択でしょう?」

 

「……あなたは──」

 

 ギシリ、と鈍い音が握りしめられた拳の中から響くと同時、俯いたままリオンさんは凍てついてしまうような冷たく平坦な声で続ける。

 

「その命を、ヴァレッタにくれてやると言うのですか?」

 

「い、いえ、別にあげるとかあげないとかではなく、俺が死ねばそれでヴァレッタが勝手に満足するのなら、一石二鳥──」

 

「一ヶ月」

 

 底冷のするリオンさんの淡々とした声にたじろぎながら応えていると、突如そう割り込まれた。

 

「誤解をされたくないので断言しますが、ヴァレッタの話は関係ありません。元よりこの話は今日この場でする予定でした」

 

「えっと、リオンさん? 何の話をしてるんですか?」

 

 混乱する俺に対して、顔をあげたリオンさんは迷いのない澄んだ瞳で真っ直ぐに俺を見据えながら宣言する。

 

「一ヶ月後に、かつて交わした約束を果たしましょう。ただしあなたの命を奪う前に、もう一度私と死合っていただきます。私とあなたの関係は五年前のあの日から始まったのです。そうであれば、終わりもそうでなければならない」

 

「ですけどリオンさん、俺は先日の戦いでLv.6になりましたし、俺がリオンさんに敵意を持てない以上、スキルの効果でステイタスにマイナス補正はかからない──」

 

「そのための一ヶ月です。私はアストレア様に会い、そして五年前の過ちに区切りをつけ、前に進みます」

 

 正義の女神の名を告げたリオンさんに、かつての彼女の姿を幻視する。何時か遠くから見た、まだその髪が長く金色に輝いていた頃の、正義の眷属として凛として咲き誇っていた頃の彼女。

 

 五年前の血に濡れてその瞳を復讐の炎で燃やしていた頃の彼女でも、短く切った髪を薄緑色に染めてこのカウンターの奥で俺を出迎え続けてくれた彼女でもない、在りし日の本来の彼女の姿。

 

 俺を真っ直ぐに見てくるリオンさんの髪の毛が、首筋を超えて肩にかかるまでに伸びていることに気づく。そして薄緑色に染められた髪の奥からは、少しだけ金色の地毛が覗いていた。

 

「リオンさん……髪、伸びましたね」

 

 思わず、そんな呟きが漏れ出る。彼女がどこか急に遠い世界の人間のように感じられてしまい、柄にもなく少し悲しくなってしまった。

 

 唐突な呟きに気をそがれたのか、リオンさんは少しだけ不思議そうにきょとんと首を傾げる。

 

「確かに最近忙しくてシルに手入れをしてもらっていませんでした。ですが、急にどうしたのですか? ……もしや見苦しかったでしょうか?」

 

「いえ、そんなことはないですよ。ただ俺はどっちかと言うと短い髪の方が──」

 

 上手く思考がまとまらないままに反射的に応えかけて、やはりと思い留まった。この言葉に、もう意味はない。

 

 不思議そうに言葉を待つリオンさんに苦笑しつつ、杯に残っていた蜂蜜酒を一気に飲み干してから一度息を吐き出す。そしてリオンさんを正面から見つめ返して、俺は深くゆっくりと頷いた。

 

「わかりました。一ヶ月後、喜んで死合いに応じさせていただきます。あの日終わるはずだった俺にも、確かにあの日の続きは必要です」

 

 五年前のあの日に、本来なら俺はリオンさんに討たれて死んでいたのだ。

 そして消え逝くはずだったこの命は、妹が自らの時間を代償に奇跡によって繋いでくれた借り物に過ぎず、最初に至っては託された最期の願いを果たすためだけにただ死んでいなかっただけで、生きているとすら言えないような状態だった。

 

 リオンさんを通して託されたフェリス・アズライトの遺言は二つ。

 

 一つ。私を救ってくれた初めての友達(リュー・リオン)が、幸せになれるように協力を。

 二つ。私のために全てを犠牲にした兄(ニルス・アズライト)が、再び願いを持てますように。

 

 失意のどん底にいたかつては、託された最期の言葉を叶える意味も生きる意味もよく分からず、故に明確だった一つ目の遺言のためにさっさとリオンさんに殺されようとしていた。

 

 だが今ならば、二つの遺言を果たしたと妹にも胸を張って死に征くことができる。

 

 リュー・リオンが俺を殺すことで復讐に囚われた過去と完全に決別し、幸せな未来を夢見ることができるようになる。それこそが今の俺の唯一の願いなのだから。

 

 故に俺の終わりは、あの日の続きの果てにこそ迎えるのが相応しいだろう。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 

 あの後すぐにリオンさんは明け方前のオラリオから旅立って行った。かつての主神と再会し、止まっていた彼女の時間を再び動かし始めるために。

 

 元よりその予定だったらしく軽装とは言え旅支度は万全で、店の制服ではなく冒険者としての装備を身に纏っていたのはそのためだったようだ。

 

「一ヶ月か。微妙な時間だな……」

 

 旅立つリオンさんを見送った後、ロキ・ファミリアの拠点に帰る気にはなれずにそのまま店のカウンターで一人飲みながら、思わずそんな独り言が溢れた。

 

 正直、時間を持て余している。

 

 元より死ぬために生き永らえて来た人生だ。闇派閥を壊滅させた今、俺にはやるべきことは特にないし、やりたいことは少しでも早くリオンさんのために死ぬことだけである。最低限お世話になった人たちに別れを告げるのも一週間もあれば十分過ぎる。

 

 個人の資産に関しても、借金返済と遺産という名目でリオンさんと義妹(リリ)の今後の人生の一助となるくらいの金額を残し、残額はロキ・ファミリアの資金にする予定であり、目処は既についている。

 

 はっきり言って、やることがなくて暇だ。

 

 そんなとりとめもない事を考えながら手酌で酒を注ごうとして、いつの間にか瓶の中の蜂蜜酒がなくなっていたことに気づいた。カウンターにはリオンさんが用意してくれていた葡萄酒も含め、三本の瓶が全て空のまま転がっている。

 

「そっか……。そういえば酒って、一人だとすぐに無くなるのか……」

 

 ふと、かつて闇派閥に属していた昔の事を思い出す。

 

 あの頃から、酒が好きだった。

 

 味なんて気にもせずにただ酒精の強いだけの安酒を大量に胃に流し込む。そうすると少しだけ何も考えずに意識を手放せた。だから、酒が好きだった。

 

 当時、半ば意識を失う形で強制的に眠るための手段として酒を覚えたばかりの頃は、寝床にしていた廃屋には何時でも空の酒瓶が転がっていたように思う。一瞬だけカウンターの上に雑に頃がる酒瓶にその時の光景が重なった。

 

 共に復讐を始めてしばらくした頃、リオンさんと初めて一緒に酒を飲んだ時も、似たような光景だった。

 

 怒りと悲しみで眠ることが出来ず、泣き腫らして真っ赤に充血した瞳の下に真っ黒な隈を浮かべていた彼女に、眠るための手段として酒を提供した。

 警戒と嫌悪で鋭く細めた瞳で俺を睨みながらも、お互いにまともに体を休めることができない精神状態をどうにかしようと、一緒に酒に逃げた。

 

 互いに怒り狂いながら罵り合い、悲しみに哭きながら傷つけ合い、眠れない夜を過ごし、そして少しだけ楽になった。

 

 今思うと週に一度のこの借金返済の始まりの切っ掛けは、あの一夜だったのだろう。

 

 だけど、あの頃と今は違う。

 

 辛い過去を忘れるためでもなく、現実逃避でもない。

 

 リオンさんが選んでくれるお酒を、リオンさんと共に一喜一憂して楽しみながら飲む。あの頃とは、酒を飲む目的が変わっていた。

 

 雑に転がしていた瓶を手に取って、カウンターに並べて立てながら、ぼんやりと呟く。

 

「リオンさんの焼き魚、最後に食べ損ねたな……」

 

「────そう、食べられなかったの。それは残念ね」

 

 果たして、虚空に消える筈だった呟きに、透き通った鈴の音のような声が返って来た。

 

「!?」

 

 完全に油断しきっていた。酒で鈍った思考回路が、戦闘のそれに切り替わると同時に急速に酔いが覚めて逝く。

 反射的に覆面を目の下まで引き上げながら短く詠唱、席から立ち上がり体の内に小さく火を灯す。

 

 そして視線をやった店の入口、開け放たれた扉の向こう、夜に溶け込むようにしてひっそりと、その女神は目深に被ったフードの奥で悲しそうな微笑を浮かべながら独り静かに立っていた。

 

「祝勝会への参加にしては随分遅い到着ですね。神フレイヤ」

 

「意地を張らずに参加していればよかったと、少しだけ後悔しているわ。そうすれば少しは違った結末になったかもしれないもの」

 

「……」

 

 女神フレイヤは、憂いを帯びた表情のまま悲しげに呟く。

 彼女が店員のシルさんとしてではなく、都市最強派閥の一角の女主人としてこの店にいるという異常事態に、ただただ頭に警鐘が鳴り響く。

 

「……猪も猫も連れずにロキ・ファミリアの幹部に会いに来るなんて、気でも狂いましたか?」

 

「ふふ、そうかも知れないわね。いえ、そうだったら良かったのに、と思わずにはいられないわ」

 

「……」

 

「全滅したわ」

 

「……は?」

 

 小さく呟かれた彼女の言葉をすぐには飲み込めなかった。

 

「フレイヤ・ファミリアの眷属は敗北して、今、人質に取られている。いえ、正確には私の眷属たちだけでなく、あの子も含めたオラリオ(この都市)全体が人質に取られている」

 

「人質って──」

 

「真正面から戦って、オッタルも含めた私の子ども達全員が敗北したわ。例えロキ・ファミリアと共闘していたとしても勝ち目はなかったでしょうね。この街に暮らす子どもたちと神たちの命を天秤に掛けられ、故に私は今、敵の要求に応えるためにここに来たの」

 

 淡々と紡がれる言葉の羅列に理解が追いつかない。だがその一方で、何が起きているかは直感した。

 

 手に、炎を灯す。

 

「ニルス・アズライト。今から私は貴方から……世界から、【疾風】の記憶を奪うわ。いえ、正確には【疾風】は五年前にかつての正義の眷属(アストレア・ファミリア)と共に死に、故にあなたは【疾風】に出会わなかったと、そう迷宮都市(オラリオ)の歴史を上書きする。そして、【疾風】の代わりに五年前に貴方と共に闇派閥を壊滅させたのは──」

 

 淡々と語り続ける女神フレイヤの背後、深い夜の闇の奥から悍ましい気配が滲み出てくると同時、人影が姿を表す。

 

「──お前の愛しのヴァレッタ・グレーデ様ってわけだ」

 

 邪悪を煮詰めたような吐き気を催す狂笑を顔に貼り付けた、毛皮付きの長外套を羽織う赤い短髪の人影をしたナニカは女神の横に並び立った。

 

 確実にその胴体を切り裂き焼き払い、その生命を燃やし尽くした筈のかつては人間だったソレ。

 今や精霊と怪物と人間の膨大な生命力と魔力を強引に一つの形に押し込めただけの異物に、生み出した炎剣を投げつけ──

 

「……ッ!?」

 

 ──その瞬間、認識できない衝撃を受けると同時、自分が店の壁へと叩きつけられたことに気づく。

 

 遅れて、腹部に激痛。そしてまるで抉り取られたかのような腹部の傷跡から、血が吹き出ていることを自覚した。体から急に熱が引いて行く。

 

「おいおい、感動の再会だってのに、いきなり殺しに来るなよなぁ。悲しいだろうが」

 

 その手で受け止めた炎剣を握り潰しながら、ヴァレッタの形をしたソレが俺に近づいてくる。

 

「……」

 

「ああ、もう動けねえのかよ。ほんとに哀れだぜ、今のお前は。見てられねえ。いくら私がこうなったからって、昔のお前ならそれでもここら一帯を火の海に変えてでも生き延びようとしただろうに、よォッ!!」

 

「……ッ!!」

 

 悲しそうな狂ったような笑みを貼り付けた奴の踵が、腹部の傷に叩きつけられる。襲い来る激痛に一瞬意識が覚醒し、そしてようやく、自分が何か魔法か呪詛(カース)の影響下にいることを認識した。徐々に体から熱と力が失われ、そして意識を保てなくなる。

 

「……まあ、いいぜ。あのクソ女のせいで濁っちまったお前を! 私が今日からつきっきりで! 世界を真っ黒な炎で染め上げてた! あの頃のお前に戻してやるよ! 喜べよ、ニルス!! 一週間の前の約束通り、お前の全てを私のモノにしてやるんだからよぉ!!」

 

 何度も何度も叩きつけられる踵で傷を抉られ、意識が朦朧としてくる。

 

「……寝言は、死んでから言えよ……生ゴミ。……お前、何言ってるか、全くわかんねんだよ。生ゴミを、焼却処分すれ……ば、いい……」

 

 失いそうになる意識を繋ぎ止めようとしながら、どうにか言葉を絞り出す。しかし、それ以上は言葉を紡げなかった。

 

 血を失い過ぎたのか、もしくは抵抗できないほどに魔法が侵食してきているのか。もうまともな判断すらできず、意識が徐々に薄れて行く。

 

「ああ、やっと話してくれた……! 会話してくれるなんて何年ぶりだよ! 何だよ、やるじゃねえかフレイヤ様ァ。早速私に愛を囁いてくれるなんて、もうお前の魅了が効いて来てんのか?」

 

「……まだ何もしていないわ」

 

「ああ!? じゃあ早くやれよ!! それともよぉ、やっぱりあの猪をさっさと殺しちまうか? あのクソエフルもいねえしよぉ。せっかくニルスが、世界が、あのクソ女の事を忘れる瞬間を拝ませてやろうとしてたのに。あのやたら頑丈なだけの猪が粘りやがったせいで、早速計画が狂っちまってるじゃねえか」

 

「私の魅了にも色々制約があるのよ。タナトスから聞いていないの?」

 

「知らねえよ!! クソ、私を苛つかせんな……。ただでさえ食った精霊共の影響か、てめぇ等神を見てるだけで殺しちまいそうになるんだからよぉ」

 

 完全に意識を失う間際、異物と女神のそんなやり取りが聞こえた。

 

 

 

 

 

*    *    *

 

 

 

 

 その日、世界に何かが轟き渡った。

 人間には視認できない『銀の神威』と『黒き混沌』が、巨大な円蓋上の輝きとなって、迷宮都市(オラリオ)を覆い尽くした。

 

 女神の権能、理外の外法。

 

 神知をも超越する『魅了』と『侵食』の力が、神も人も怪物も精霊も分け隔てなく、生きとし生ける者すべての『魂』を蹂躙する。

 

 人類にとっての世界とはつまり、積み重ねられた歴史を通して初めて定義されるものである。

 そして歴史とは即ち、下界を観測し認識する者たちによって紡がれた記憶と記録の連なりである。

 故に魂を侵され記憶と記録を蹂躙された観測者達によって定義される世界は、それ以前の世界と根本的に異なる異界へと成り果てる。

 

 そしてその日、確かに世界は塗り替えられた。

 

 

 

 

*    *    *

 

 

【トウジョウジンブツ】

 

にるす・あずらいと

・闇派閥ノ完全壊滅ヲ成シ遂ゲタ冒険者サン

・コノ先ノ人生ハ恩人デアルひろいんサント末永ク幸セニ暮ラシテ行ク予定

・正義ヲ詐称スル主人公

 

ゔぁれった・ぐれーで

・酒場『豊穣ノ女主人』ノ店員サン

・カツテ闇派閥ヲ裏切リ主人公ト共ニ闇派閥ヲ壊滅サセタひろいんサン

・カツテ討チ漏ラシタ邪神諸共、ツイニ闇派閥ノ完全壊滅ヲ成シ遂ゲタ

 

しる・ふろーゔぁ

・女神ふれいやノ世ヲ忍ブ仮ノ姿

・主人公ノ好敵手

・本気ヲ出セバ世界ダッテ変エラレル女ノ子

 

りゅー・りおん

・五年前ニ壊滅シタあすとれあ・ふぁみりあノ冒険者……???????

・今ハ亡キ、正義ノ系譜??????????????????????????

・死、者……???????????????????????????????????????????????????????????????????

 

 

 ……は?

 

 

 死者……? ふざけるなよ。

 

 ────遠い昔に燃え尽きたかつてのナニカの灰の下で、残火が燻る。

 

 認めない。

 

 ────火が、灯る。

 

 そんな世界は、認めない。

 

 ────銀と黒の輝きに侵された優しい世界に、小さな火が灯る。

 

 あの人のいない世界で、正義を騙る意味などない。

 

 無意味で無価値な優しい世界など、かつての願いから最も遠き偽りの世界など……俺には必要ない。

 

 ────偽りの世界の中心で、蒼炎が燃え盛る。遅れて呼応するように、小さく二つ、色褪せない憧憬の光、純白の聖火が灯る。

 

 

 銀の神威、黒の波動、蒼き火炎、二つの小さな白き聖火。

 四色の意思が互いにせめぎ合い侵食し合い変容し、そして世界は再び塗り替えられた。

 

 

*    *    *

 

 

【登場■物】

 

■■・■■■■

・■■■■・ファ■リ■の■■者

・【憧■■■】【■風■■】による■■への■■成功

・この憧れは、嘘なんかじゃない。だから証明をしよう。救われた一人として。

 

■■■■

・■■■■・■■■リアの冒険■

・【■火■痕(■■■リット・スティグマ)】による自■改■成功

・この傷跡は、証である。故に偽りの世界を滅ぼそう。正しく彼の者の最後の敵として在るために。

 

ニルス・アズライト

・騙るべき正義など持ち得ない【純粋悪】

・【千の魔法】を統べる闇派閥の最後の生き残り

・世界を燃やし尽くす【業火】

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