ダンジョン都市で正義を騙るのは間違っているだろうか 作:kuku_kuku
──これは、本格的に危険だ。フレイヤ・ファミリアが自滅して、ロキ・ファミリアも全滅? 何の冗談だ? そもそもアレは何なんだ? 本当に人類なのか?
死屍累々と冒険者達が倒れ伏す焼け野原。眼下に広がる人類最強の戦力が壊滅した地獄のような光景に、神ヘルメスは鍔広の帽子を押さえて歯軋りをする。
『全、滅……』『火が、火が……全部燃えてしまう……』『やだ、やだやだやだ……死にたくない……』
神の鏡を通して聞こて来る、迷宮都市の住人たちの悲痛にして悲嘆の声。
市壁の上に並ぶ最後の攻撃に加わっていた冒険者達も、もはや心折られまともに戦える状態ではない。
──認めよう。迷宮都市は、敗北した。
「ロキ。今すぐにリヴェリアちゃんを逃がして、君達だけでもこの都市を離れるんだ! そうしないと、そうじゃないと、この世界は唯一の再起の芽すら摘まれてしまう!」
そして市壁の真下、未だ戦場で唯一動けているハイエルフを指差し、ヘルメは己の隣に立つ女神ロキへと叫ぶ。
迷宮都市の全戦力を焼き払ったアノ未知は、何故か這いつくばるリヴェリアと縋り付くリリルカ・アーデを殺すことを躊躇っている。このチャンスを逃せば、愛すべき
「ロキ!!」
しかし、女神は動かない。ヘルメスの悲痛な叫び声を、しかし一切無視して、ただただ眼下の異物を睨む。
「ロキ!! 君が行かないなら俺が────」
「黙っとれ!! うちらが行っても無意味や!!」
痺れを切らしたヘルメスを、ロキはその怒声でもって強引に静止させる。ヘルメスは気づいていた。ロキには何か策がある。ただ、それは不確かな策だ。その証拠にロキは明らかに焦っている。
「だがっ……!!」
だからこそヘルメスは何も言えない。もう無理だ。下界に降りた神にこの状況をどうにかできる力はない。ヘルメスも既に
ヘルメスは意味もなくロキの横で静かに目を伏せるフレイヤとヘスティアを見る。しかしその予想は裏切られず、かの女神達もまた沈黙を保つ。女神達にとっては絶対の信頼を置いていたはずのオッタルとベル・クラネルが離反した時点で、もう状況をどうすることも出来なくなっていた。特にフレイヤにとっての眷属の離反とは、それ即ち美を司る女神としての権能を超越した未知の何かが起きている事の裏返しですらあったのだから。
民は泣き叫び、神ですら嘆く事しかできない現状。
だがどれだけ嘆き悲しんでも、ソレは止まらない。リヴェリアとリリルカを赤髪の冒険者の前に投げ飛ばし、ソレは迷宮都市の全戦力を焼き払ったあの業火を解き放たんと右手を掲げる。
────
神として、例えそれがバッドエンドでも人類の終焉を見届ける覚悟はあった。だが、これは何だ? 怪物に滅ぼされるでも人類同士の闘争によって滅びるでもなく、ソレが一体何なのかすら良く分かっていない闇派閥の生き残りらしいナニカによって、呆気なく終わってしまう?
ヘルメスは業火が解き放たれるその瞬間を、どこか他人事のように、そして一方でどこまでも救いようのない事実としてただただその瞳に映す。
そして、瞬間。唄と共に空を駆け抜ける一迅の疾風に、己の鍔広の帽子がさらわれる。ひらりと戦場に舞う帽子を無意識に視線で追いかけ、
「来たっ!! 来た来た来た来た来た来たぁああああああっ!!」
ロキの絶叫に、意識が覚醒した。
「なっ……!? こ、これは、魔法!?」
視線を離した一瞬の隙に、状況は劇的に変わっていた。
解き放たれたはずの業火を切り裂くようにして、まるで大地から空へと星が降り注いでいる。
星の輝きのその正体は、夥しい数の光放つ
────アストレア・レコード。
疾風と共に、確かにそう聞こえた魔法の名前。
「【使命は果たされ、天秤は正される】」
紡がれる、聖句の如き正義の詩。
「【秩序の砦、清廉の王冠、破邪の灯火】」
世界に鳴り響く、どこか懐かしさを覚える妖精の声。
「【女神の名のもとに、天空を駆けるが如く、この大地に星の足跡を綴る】」
詠唱は加速し、強まる星の聖域が、世界を壊す劫火を押し返す。
そして、硝子が割れたかのような涼やかな破砕音と共に、星の結界が割れた。
「──【正義は巡る】」
切り裂かれた業火の中。リヴェリアとリリルカを守るようにして立つのは、一人の
「【アガリス・アルヴェシンス】」
その
紅炎。炎の付与魔法。
かつて
かつて確かに
ヘルメスは、呆然として呟き、そして感極まって叫ぶ。
「あれは【
ヘルメスだけではなかった。
『アストレア・ファミリアだ……』
『帰って来た……帰って来てくれたんだ……!』
『【疾風】が、生きてた……助けに来てくれた……』
迷宮都市で、神の鏡に映し出された正義の焔を目にし、とある行商の男は涙を流した。
暗黒期、正義の眷属達に救われた夫婦は、一人の愛娘を抱きしめ、嗚咽を漏らした。
彼女に救われた人々は、最期の時まで命を賭して迷宮都市のために戦った【疾風】を、五年が過ぎた今でも決して忘れていなかった。
──それは、確かな一つの正義の成果だった。
「ベート、どうや!? 行けそうなんか!?」
感極まる己の横で、ロキが期待とも焦りとも判別のつかないそんな声を上げる。
同時に、硬直していた戦場に動きがあった。リュー・リオンとソレが互いに一歩を踏み出し、そして轟音と轟炎を撒き散らしながら衝突し、リューが吹き飛ぶ。
ヘルメスの記憶にある【疾風】はLv.4。脳裏に一瞬で蹴散らされた第二級冒険者達の姿が思い起こされるが、しかしヘルメスの最悪の想定を裏切り【疾風】はまだ凪いでいなかった。
紅炎纏う木刀は燃え尽きることなく、疾走と同時に剣を振るったかと思えば次の瞬間には敵の間合いから遥か遠くに着地、そして次の瞬間にはまた敵へと炎纏う剣を叩きつける。足に纏う炎が爆ぜ瞬時に疾風と化し縦横無尽に戦場を駆けるリューは、あの近づく全てを問答無用で燃やしつく理不尽の塊と、戦うことができていた。
「……っ!?」
「あの女、Lv.6だ」
ヘルメスの驚愕とロキの問いかけに対する答えは、後ろから齎された。
いつの間にかそこにいた一人の狼人。ロキ・ファミリアの幹部の最後の一人にして戦場に姿を表してしなかったベート・ローガが、淡々と答える。
「それに、死んだアストレア・ファミリア全員分の魔法を使えるなんてふざけた魔法すら持ってやがる。普通の奴を相手に負けるはずがねえ……が、相手の、……アレは、何だ……? 本当に団長達含めて全滅じゃねえか……お前らは、一体何と戦ってんだよ……? 闇派閥の生き残りって聞いてたが、そもそも闇派閥にあんな化物みたいな奴はいなかっただろうが」
闇派閥にあんな化物みたいな奴はいない。
ベートのその言葉に、ヘルメスは愕然とした。そうだ。何だ、今の状況は? アレは一体どこから現れたんだ? それによく考えれば、アレが狙っていた赤髪の冒険者もおかしい。ヘルメスはそんな人物を知らない。
いま、何が起きている……?
「何で戦っとるかも、何と戦っとるかも分からんようになるような化物が相手ってことや。まだうちが覚えとるんは、アレが世界から自分自身の存在を燃やして消してまいながら何かやろうとしとる馬鹿で、それを止められるんがリューたんってことだけ。後の事はもう分からんようになってまっとる」
ロキのその説明に、ヘルメスは世界を再知覚する。そして理解した。思わずヘスティアを見れば、小さく頷き返される。
そして、ため息を吐きながら帽子で顔を隠そうとして、その帽子がもうないことすら忘れてしまっていた己の焦燥に気づき、再度大きくため息を吐く。
これは、下界だけの問題ではない。天界とそこに住まう神々すらも巻き込んだ、何か致命的で破滅的な戦いである。
この地獄のような惨状すらも、
賽はすでにとっくの昔に投げられていた。俺なんかお呼びじゃなかった訳だ。これではどちらが【
そう自嘲気味に思考し、そして、ヘルメスはふと気づく。
──【
確か、リヴェリアもリリルカもその言葉を出していた。きっとこれがキーワードなのだろう。だが、もう己に出来ることは何も無い。
あとはもう、【
諦めたように、ヘルメスは三度目のため息を吐く。
そんな自身の横で、ベートがロキに尋ねていた。
「で、そんな意味不明な相手に、勝算はあるのかよ? あの女、五年前に死んだことになってる日以降のことは、何も覚えてねえぞ。そんな状態で
「わからん」
「……はあ!?」
堂々と答えたロキに、ベートが困惑する。ヘルメスも困惑した。
「やから、うちにも分からん。やけどもしあの阿呆の言う通りこの世界が歪められとるんなら、勝機はある。もう
曖昧。不確実。ただの博打。楽観が過ぎる。お気楽にも程がある。
言いたいことは、山程あった。
しかし、もはや賽は投げられたのだ。
後は神ですらも知らない奇跡に賭けるしかないのだと、そうヘルメスは静かに悟った。
戦場では、疾風が吹き荒れ、業火が燃え盛っている。もはや神の目ではそうとしか捉えることが出来ない程にまで、リュー・リオンと謎の男の戦いは加速し苛烈さを増していた。
* * *
リュー・リオンには、この五年間の記憶がない。
最後に覚えているのは、業火の記憶。五年前のあの復讐の日々の中、道半ばで闇派閥の一員と相打ちになった最期の瞬間の記憶。
だけど、最期の時まで己を焼き焦がしていたはずの復讐の炎は消えていて、何故かは分からないがその代わりに五年前のあの日に失くしてしまった正義と希望の灯火が静かに心を満たしていた。
そしてもう一つ。リュー・リオンには、一つの確信と使命感が残されていた。
誰かを待たせている。決着をつけなければならない誰かが、自分を待っている。そして、リュー・リオンもそれを待ち望んでいる。
だから理由も必然性もわからないまま、その使命感と想いに突き動かされ、まるで導かれるようにして辿り着いた剣製都市ソードリンゲンにて、かつての主神アストレアに再会し、そして力を得た。
昇華した人類最高峰のLv.6のステイタス。
そして
託された力を以って、リュー・リオンは眼の前の男と戦う。
燃え尽きたような灰色の髪。隈の浮かんだ暗く鋭い目つき。焼け焦げた黒い襤褸切れを身に纏い、そしてその手に赤い炎を灯す青年。
その全てを燃やし尽くすかのような炎から自分を守ってくれているのは、友から継承された正義の紅焔。
四肢と木剣に紅焔を纏わせ、リュー・リオンはその男と打ち合う。
疾風の如く戦場を駆け、紅焔を纏う剣を薙ぎ払う。しかし武器すら持たないはずの男は、業火を纏う両の鉤爪を嵐を巻き起こすかの如く振り回し必殺の剣戟と打ち合う。
風が吹き荒れ、火が舞い散る。
「私は、貴方を知っている」
戦いの最中、リューは無意識にそう零した。
そうだ。自分は、この男を知っている。この業火を、覚えている。
「あの日、私を殺したはずの炎。それが貴方だ」
「……俺は、あんたを知らない」
男は、そう答えた。何故かリューには、男が泣いているように見えた。
体が無意識に動く。そうだ。覚えている。脳裏に焼き付いている。
まるであの日を再現するようにリューが剣を振れば、あの日と全く同じように、男は剣をあえて体で受け止め、素手で握り砕こうとしてくる。だからリューもあの日と全く同じように、剣を放棄して背中から抜き放った短刀を彼の首へと閃かせる。
まるで予定調和のような戦い。まるであの日を思い返すかのような戦舞。
同じことを思ったのだろう。動揺する男に、リューは少しだけ微笑んだ。
男の名前すら、リューは覚えていない。だけどリューは確かに彼のことを覚えていた。
そして、もう気づいていた。自分を待っていたのは、きっと彼なのだ。
五年前に復讐の炎に飲まれながら殺し合ったはずの彼と、今は友の正義の炎に守られながら戦っている。だが、それだけではない。
左の鉤爪で受け止められた短刀を押し込みながら、リューは微笑む。己の金色の髪が一房、風に舞う。
「五年前のことを覚えていませんか? 貴方を五年前に一度殺したエルフが私です」
苦しそうに、彼は顔を歪めた。もう体力が残っていないのか、押し負けると判断した男はあの日と同じように地を蹴って大きく後退する。
そして、あの日と同じように右手の炎を更に輝かせた。
「……知らねえよ。そもそもじゃあ何で俺は生きてるんだよ? それに……それに、何であんたに右腕があるんだよ……」
覚えている。記憶はないのだろう。だけど、彼も、確かにあの夜を覚えてくれている。
「私にもわかりません。ですが────」
泣きそうな顔でそう答えた男に、リューも涙を流しながら答えた。涙が流れた理由は分からないけど、不思議には思わなかった。
リューはもう気づいていた。今、己を守ってくれているのは友の炎だけではない。右腕から溢れ出て混ざり合うもう一つの炎が、世界を終わらせる劫火からリューを守ってくれていた。
だから、リューは答えを紡ぐ。
過去に一度訪れたはずの決着の瞬間。その続きを求めて、リューは答えを紡ぐ。
「きっと答えは、この右腕が教えてくれます」
瞬間、リューと男は地を蹴った。
五年前のあの日と全く同じように、彼の右の鉤爪がリューが突き出した短刀と正面から衝突し、そして瞬時に熱と力によって短刀は焼き溶かされる。そしてそのまま突き出されたリューの右腕ごと焼き切らんと薙ぎ払われ────
「……!?」
しかし、あの夜とは違い、リューの右腕は無事だった。燃え上がった白炎が鉤爪を防ぎ、そして確かに焼き切り飛ばされるはずだったリューの右腕を守った。
止まっていた時が、動き出す。求めていたあの夜の続きが、今ここに漸く始まりを迎える。
「本当に、あなたは、何時もやりすぎだ……」
驚愕と共に動きを止めた彼の右手に、リューは白炎纏う右手でそっと触れる。そして、どこか懐かしさを感じるその手の温もりを逃さないように、両手で包みこんだ。
「私のために、私達のために、あなたは全てを犠牲にしたのですね。あなたの全てを炎に変えて、世界を守ろうとしてくれたのですね」
リュー・リオンは、あの夜から五年の時を経て、力を得ていた。戦った記憶は、残ってはいない。だけど、確かな成果として力は刻まれていた。
一つ目は、昇華した人類最高峰のLv.6のステイタス。
二つ目は、
──そして、三つ目。『星と翼の輝き』を象る
「だから──使いますよ、
自然と溢れ出た知らないはずの友の名前。もう決して届かないはずのその声に、しかし、星が鏤むように右手の白炎が瞬き輝きを増した。
* * *
「【今は遠きあの日の夜】」
動きを止めて男の手を握る
「なっ……!? ま、まさか、魔法……!? ありえない、四つ目だぞ……!?」
「違う、これは、魔法じゃない……魔法なんかじゃない!! エルフ君、君は……君って奴はっ……!!」
「リュー……。あなたは、見つけたのね」
「【願いは託され、誓いは果たされた】」
涙を拭いながらそう断言したヘスティアとフレイヤに呼応するように、夜天に鏤む星々の如き無数の光の欠片が戦場に出現する。
「【故に星は輝き、火は灯る】」
否、それは光ではない。それは小さな灯火だった。
「【其は遥か苦難の旅路の軌跡、其は何時か辿り着く夢の果て】」
まるで祈りのような
「【我は継承者にして代行者。星を仰ぎ、火を継ぐ者也】」
そして、戦場を、迷宮都市を、世界を満たすかのように広がる満点の星空の下、
「【されば今こそ此処に、星火の輝きを】」
それは、魔法ではない何かだった。
見送った誰かの想いと願いを受け継ぎ、たった一度だけ、誰かが何時か辿り着くはずだった奇跡を顕現する力。
託されて背負って積み重ねて、確かに誰かが精一杯生きた軌跡を証明する、魔法でも
世界を満たす星火が、一つ、輝く。
──それは、救われた少女の記憶。元闇派閥の嫌われ者の少年に救われて、兄と慕って、彼とこの迷宮都市で冒険をした、一人の少女の記憶。
「……リリは、リリは、知っています……!! リリは、リリを救ってくれたお兄ちゃんを、ちゃんと覚えています……!」
──それは、愛を知ったハイエルフの記憶。元闇派閥の心優しい少年と過ごし、息子と認め、家族としてこの迷宮都市で生きた、一人の母の記憶。
「……そうだ……私には、息子がいるんだ。屁理屈ばかりで問題ばかり起こす、どうしようもなく愚かで愛おしい、たった一人の息子がいるんだ……!」
──それは、眷属達の記録。数多の冒険で背中を預け、幾多もの危機から己を犠牲にして守ってくれて、何時だって先の見えない暗闇で火を灯し照らし続けてくれた【道化】と呼ばれた男を仲間に持つ、道化師の眷属達の記憶。
「あの……バカ
「なんで、何で貴方は何時も……!!」
「こんな……こんな無茶ばっかり……!!」
世界を満たす星火が、二つ三つと弾けて、燃えてなくなったはずの記憶が降り注ぐ。
迷宮都市オラリオには、かつて《悪》を名乗る集団に妹を人質に取られ、多くの悪を成した少年がいた。
その少年は一人の正義に救われて、そして過去の罪を償うためにロキ・ファミリアで【正義の味方】を名乗って生きてきた。
『私、知ってるよ。だって私は、【正義の味方】のお兄さんに命を助けてもらったもん』
『俺も、覚えてる。騙されて、もう死ぬしかないって時に助けてくれたのは、【正義の味方】だった……。そのせいで、俺のせいで、また悪者扱いされたのに……あいつは……!!』
『あれだけ邪険にしてたのに、石を投げたこともあったのに、あいつ、私のこと、助けてくれたんだ……』
『知ってるよ。俺だって。気づいてるよ。あの【
『皆から受け入れれなくても、誰からも褒められなくても、あの人は、ずっとぼくの正義の味方だった……』
神の鏡を通して、迷宮都市に住む人々の声が届く。
そして、あの闘争の中、誰一人命を奪われていなかった冒険者達も、降り注ぐ星火の光によって意識を取り戻し、ただただ満点の星降る空を見上げる。
それは、確かなもう一つの正義の成果だった。
五年間、この迷宮都市に灯され続けて来た正義の火は、決して消えていなかった。
例えその記憶が燃え尽きて無くなっても、正義の成果は失われない。助けられた人々の中には、小さな種火は残っていた。
故に、火は消えない。そしてその火は、再び燃え盛る。
再誕の焔、かつてのフェリス・アズライトが司っていた奇跡の聖火が輝く星空の下で、リュー・リオンが微笑む。
「あなたは、間違えていますよ。この迷宮都市で正義を騙っていると言い続けていたあなたは、やはり間違えているんです」
歪んで隠されていた歴史が正され、燃えてなくなったはずの記憶と想いが星火となって降り注ぐ世界で、リュー・リオンはニルス・アズライトに微笑み、そして静かにそっと優しく抱きしめた。
「冒険者さん。あなたはずっと、正義を成して来たのです。あなたが成した正義は────偽物でも、間違いでもなかったのです」
* * *