少しでも望む未来へ   作:ノラン

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リゼロの世界に全盛期うずまきナルトとうちはサスケ(和解後)をぶっ込んだらどうなるのかなぁ。とか、不意に考えました。

あの二人がリゼロに来たらヌルゲーとなりそうな気がしますね。どなたか、書いてください。

私ですか? 私はコッチで忙しいので。





一日一善

 

 

やっと落ち着いて話ができる——そう思っていた矢先の出来事。

 

それは、スバルにとっては見ていることしかできないものだった。生まれて初めての異世界召喚で色々と一杯一杯な彼女には、情報の混濁が必須な事件だった。

 

ハヤトの後方から一陣の風が吹き抜けたかと思った瞬間、金髪が揺れる小柄な少女がするりとエミリアと彼の間に入り込み、跳躍。

 

状況を認識させる間もなく自分の真横を兎のように飛び抜けて行ったかと思えば、

 

 

「エミリア様! 徽章のご確認を!」

「まさかーー!」

「マジッ。ここでかよ!」

 

 

多分、一秒もなかったとスバルは思う。

 

事が起きてから三人が反応するまでの間隔は一秒もなく、自分達の身に何が起きたのか瞬時に理解したのだろう。

 

ラムの目が殺気を帯び、エミリアの空気が張り詰め、ハヤトの舌が後悔に舌打ちを刻む。スバル以外の全員が状況を理解した途端、三者三様の反応が一度に入り乱れた。

 

ただ一人、困惑するスバルだけを置いて。

 

 

(わり)ぃ、スバル! 迎えに行くからそこにいてくれ! 話はまた後でだ! お前ら、追うぞ!」

 

「脳筋が変な女に気を取られてるからよ! この落とし前は屋敷に帰ってからつけてもらうから覚悟しておきなさい!」

 

「全責任を俺になすりつけるか!?」

 

 

顔色を変えたハヤトに肩をポンと叩かれ、体格の良さに似合わない優しい衝撃にスバルの意識は半分ほど舞い戻る。三人が真横を駆け抜けていくが、もう半分の意識が置いてけぼりのせいで足は動かない。

 

突然の事態に置いてけぼりだった思考が熱を帯びて回り始め、事態が起こってから数秒間の出来事を処理。目の前の三人が刹那で済ませた把握に何秒も使いながらも処理して把握して理解。

 

棒立ちのまま立ち尽くすスバル。彼女はそうして遅すぎる処理を終わらせ、

 

 

「………え!? ちょ、ちょちょちょ、待ってくれ! アタシを置いていかないでーー!」

 

 

はっとし、振り返り、追いかける。

 

異世界召喚されて初めて知り合いになれた人が遠くに行ってしまう事にただならぬ恐怖を感じ、不意に湧いてきた焦燥感に駆られるがまま、ハヤトが投げかけた言葉を簡単に破りながら走った。

 

三人の姿はまだ見える。スタートダッシュに出遅れたせいでかなり遠のいてしまったが、周囲の通行人が道を開けたお陰で視界はクリア。決して追跡できない距離じゃない。

 

持久走に自信はないが、短距離走なら自信がある。否、自信がなかったとしても今のスバルの頭には追いつくこと以外考えられなかった。追いつく、追いつかなければならない。

 

 それに、

 

 

「アタシにも責任はある……!」

 

 

 と、思う。

 

ハヤトと言葉を交わしていた少女、ラムの口から「脳筋が変な女に気を取られているから——」と吐き捨てられていたのをスバルの耳は覚えていた。

 

脳筋=ハヤトなのかは知らないが、自分が迷惑をかけた事実に揺らぎはない。異世界で初めての知り合い——理由もなく安心感を抱かせてくれた人に迷惑をかけた事実に。

 

自分が不用意に話しかけたから、こうなった。話しかけることがなければハヤトが反応して未然に防げたのかもしれない。そんな考えがスバルの心の中で渦巻き、ひどい危機感に襲われてしまう。

 

故に、彼女はハヤトを追いかける。自分が犯した失態をどうにか挽回し、あの青年の近くにいなければならないのだ。

 

 それ以上に——、

 

 

 ーーいやだ

 

 

ひとりになることが、いやだった。

 

 

 ーー怖い

 

 

異世界に飛ばされて右も左も分からず途方に暮れるのが、怖かった。

 

だから、スバルは追いかける。久々の全力疾走で息を切らしながら、心ばかりが先行して体が加速に追いつかず転びそうになりながら、走り続ける。

 

湧いて出た縋るような思いだけが、ナツキ・スバルの心を突き動かし続けるから。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 ——やらかした。

 

 

今、ハヤトの頭を埋め尽くす言葉はそれ一つ。盗人が逃げ込んだ路地の手前で舌打ちする彼は、己の失態に拳を軽く握りしめていた。その瞳の先に、目的の人物はいない。

 

逃げられた。そう判断していい。現に追いかけていた盗人は姿を消し、痕跡一つ残していなかった。

 

この薄暗い路地が一本道なら追いかけようはあったが、残念なことに割と入り組んでいる。一本の長い道の中に左右への分かれ道がいくつもある路地裏に逃げ込まれては、土地勘の薄いハヤト達では追いかけようがない。

 

加え、あの手際の良さだ。盗みを働いたのが今回が初めてじゃないだろうし、追いかけ回されるのだって初めてじゃないだろう。ついでに、追っ手から上手く逃げ去るのも。

 

要は、完全にしてやられたということ。エミリアの徽章を盗んだ金髪の少女——多分、フェルト。その少女の早業と足の速さにハヤト達は追いつけなかったのだ。

 

 

「どうしよう……どうしようどうしようどうしよう! アレが奪われちゃったら王選が……。あれだけ念押しされたのに……!」

 

 

少女が消えた路地を見ながら焦るのはエミリア。右手首に飾った腕輪に無意識に手を添える彼女は把握した現状に表情を不安に揺らし、鼓動を速める焦燥感に息が詰まる。

 

あれだけ無くさないようにと念押しされたのに盗まれた挙句、盗んだ人を見失ったとは。なんてことだ。絶対に大丈夫だと言ったのに、見事に奪われてしまった。

 

いけない。それだけいけない。なんとかして取り戻さなければならない。じゃないと彼に合わせる顔がない。

 

 

「奪われてしまったものは仕方ない、か。……エミリア様、今は焦るよりも行動することに意識を向けましょう。逃げ足が速いとしても、まだ遠くには行ってないはずです」

 

 

焦るエミリア。奪われた事実だけが心を埋め尽くしておたおたする彼女に対し、ラムは至極冷静だった。盗まれた件に関しては苛立ちを隠せていないが、頭は落ち着いている。

 

盗まれたのなら仕方ない。奪われたのなら奪い返すまで。そんな風に盗まれた感傷を断ち切る彼女はエミリアに「奪われたのなら、取り返すまで」と好戦的な考えを口にし、

 

 

「……うん。そうよね。まだ盗られただけだもんね。手の届かない場所に持っていかれる前に取り返さないとだよね」

 

 

ラムの冷静さが波紋したようなエミリアが、好戦的な考え方を肯定しながら同意。赤色の瞳に心を宥められ、揺さぶっていた焦燥感が冷えていく感覚に落ち着きを取り戻す。

 

頷くエミリアにラムは「無理矢理にでも」と、低い声で一言。表情から不安が消えた様子を見ながら一度は取り出した杖を再び懐に隠した。次、この杖が姿を見せるときがきたら、それが勝負所だ。

 

奪い返すとなれば戦闘は避けられないだろう。そうなれば、当たり前のようにハヤトの出番となり、戦闘大好き人間の本領発揮を期待したいラムである。

 

尤も、あんな小さな子に自分が遅れをとるなんてラムは思ってないが。

 

 

「脳筋。あなたもいつまでも引きずってないでラム達に協力しなさい。奪い返すのなら盗人との荒事は避けて通れぬ道、ポンコツ用心棒の汚名返上の機会よ」

 

「そのつもりだよ。奪われたのは俺のせいでもあるんだしな。何がなんでも取り返すぜ」

 

「俺のせいでもある、じゃなくて。俺のせい、よ」

 

「だから、全責任を俺になすりつけんな」

 

 

特に焦った様子の見られないハヤトの苦笑にラムは「ハッ」とだけ。割と危機的状況な今、自分と同じく平常心を保ってくれていることに頼もしいものを感じたのを誤魔化した。

 

そんなラムのことなど知らないハヤト。徽章を取り返さなければテンに激怒——否、盗まれた時点でブン殴られる未来が決定したことに震えつつ、彼は「じゃ、どうする?」と腕を組む。

 

気持ちが切り替われば、自ずと方針は決まるもの。徽章を盗まれた三人は一旦落ち着き、互いに顔を見合わせながら作戦会議。

 

 

「あの子が逃げた路地の中を探し回る、とか?」

 

「現実的な案とは思えません。この広い王都ですし、限定された区域だとしても日が暮れてしまいます」

 

 

ぱっと思い浮かんだエミリアの案はラムが一蹴り。三人が見据える薄暗い路地——一目見ても分かる路地の入り組み度合いと広さに途方に暮れるのは遠慮したい。

 

発案したエミリア自身も思ったのだろう。「やっぱり、そうよね」と難しい顔をしながら喉を唸らせている。唇をきゅっと結びながらのそれは、すごく悩んでいるときの唸り方。

 

虱潰しに探すのがダメなら、聞き込みで少女の行方に見当をつけるのも一つの手。しかし、知りたい情報が知れるのか怪しいところではある。運が良ければ一発、悪ければ収穫なしの運任せだ。

 

 

「あの子の行く場所に心当たりがなくはない」

 

 

どうしようかと頭を悩ませるエミリアとラム。現実的ではない中でも現実的な案が『聞き込み』一択に絞られつつあった二人の耳に、不意に福音が届いた。

 

ハヤトだ。腕を組んだ体勢のまま路地の奥をじっと見つめ出した彼は、先ほどから音も無くこちらを狙っていた大柄な男四人組を密かに目つきだけで黙らせると人差し指をピンと立て、

 

 

「盗みを働く子がいる場所なんざ、王都で一つしかねぇだろ」

 

 

同時に、あのような連中がいる場所でもあるのだろうなとハヤトは思いながら鼻を鳴らす。嘲笑に分類されるそれを溢すハヤトにエミリアは「ん?」と疑問符を浮かべ、ラムは「ああ」と納得の声。

 

外の世界に疎いエミリアはともかく、今の一言でラムには思い当たる節があったらしい。ハヤトと同じく金髪の少女が逃げ込んだ路地を見据えながら、

 

 

「——貧民街」

 

「そういうこった」

 

 

 意思疎通。

 

ハヤトの言いたいことをドンピシャで当てたラムがなるほどと頷き、珍しく鋭い意見を投げかけてきた彼に感心。確かに、言われてみればそうかもしれない。

 

この王都ルグニカは貴族街と平民街と貧民街の三つに大きく街を分けられ、階層ごとに生活の質が目に見えて下がるとなれば、盗みを働く輩がいる場所として考えられるのは貧民街一択。

 

他の二つに住む人々はある程度の暮らしを確保した人たち故、盗みをする必要などないはず。そして、今現在ハヤト達がいる平民街には、貧民街のような治安の悪い場所から顔を出しては盗みを働く輩が多いのだ。

 

金髪の少女も、その一人。

 

 

「どうして貧民街なの?」

 

「盗品を売り捌く場所は貧民街以外に考えられないから、と言ったところだな。あとは、単にあの子の格好が……………まぁ、寂しそうだったから。服装的にもそうじゃねぇかなと」

 

「貧相だと言ったらいいのに」

 

「んなこと言えるかよ」

 

 

ハヤトがオブラートに包んだ甲斐なく直球な意見を放ったラムと彼のやりとりはともかく、エミリアは端的に返された答えに「ふぅーん」となんとなく理解。

 

正直、初めて王都に来た彼女としては貧民街という言葉すら初めて聞いたもので、土地勘のない今だとどこにあるのかすら分からない。でも、二人が納得してるのならそうなのだろう。

 

自分よりも王都に来た経験のある二人の意見が一致するのなら、疑うことなく信じるのがエミリア。

 

 

「盗品蔵……とか言ってたっけな。ある程度の盗まれたモンは貧民街のそこに行くんだとよ」

 

「脳筋にしては物知りね。どうしてそんなことを?」

 

 

まるで、元から知っていたような口ぶりのハヤト。ロズワールの下で働く都合上、立場的には貴族の分類に入る彼が貧民街について知ってることがラムには不思議だった。

 

小首を傾げるラムは知らない。貧民街についての理解はあれど、中のことまでは知らない。知る気にもならない。わざわざ足を運ぶような場所でもないし。

 

純粋に疑問に思った。そんな言い方なラムと不意に視線を別の方向に向けるエミリアを見ながら、ハヤトは「あれだよ」と言葉を繋げて、

 

 

「俺とテンとラムとレムの四人で王都に行った道中、賊に襲われたことがあったろ」

 

「あったわね。脳筋のせいでテンテンの腕の骨が折れたやつ。その後、脳筋がレムに正座させられて怒られたやつ」

 

「やめろ。割と根に持ってんだよ」

 

 

 二、三ヶ月前の話。

 

ロズワールの命令で使用人四人が王都にお役目を果たしに出かけた時のこと。順調に進むはずだった旅路に厄介事が襲いかかり、テンとハヤトの二人で頑張って撃退した事。

 

あれは悲劇だった。ハヤトが賊の大将と一騎打ちをした際、意識を狩るべく思いっきりぶっ飛ばした結果としてテンに激突。運悪く腕の骨が折れるという、締まりのない幕引き。

 

 

「そんときに戦った奴から、そんなことを聞いたんだよ。戦いの中で勝手に話し始めたと思ったら、盗んだ物を盗品蔵に預けて一儲けーー、みたいなことをな」

 

 

「まさか、その知識がこんな場所で役立つとは思わなかったが」と、ハヤトは苦笑。その時のことを思い出すと今だに罪悪感が心を痛めつけ、テンに申し訳なくなってくる。

 

勿論、百パーセント作り話のでっち上げだが、自信満々な態度を一貫するハヤトが言う言葉には妙な信頼性があった。現に、「よく覚えていたわね。褒めてあげる」と言ってきたラムに疑念の気配は無し。

 

嘘だ。そんなわけがない。そんな都合のいい話がそう簡単にあるわけがないだろう。今のは単に、原作の知識を借りただけ。原作が始まったのなら存分に使わせてもらう気概の彼が咄嗟に作った作り話。

 

それが成立したのは、ラムがハヤトのことを完全に信頼していることに他ならない。絆値が上限限界までに到達しているから、疑念は生じなかった。

 

エミリアも同様。どこか別の方向を気にしている様子だが、ハヤトの意見を疑う気配は見られない。

 

 

「だから、あの子がいるとしたら貧民街の盗品蔵だと俺は思うぜ。いなかったとしても、そこで待ち伏せてりゃ向こうからやってくるはずだろうよ。なら、わざわざこっちから探す必要なんざねぇ」

 

「なるほどね……、脳筋なりに筋は通ってると言えなくもない。なら、今回はその言葉に従いましょう。ラムとしては癪だけど。どの道、貧民街には行くことになりそうだもの。ラムとしては癪だけど」

 

「一言余計だっての。素直に従っとけや」

 

「自分よりも低脳に従うことが脳筋は嫌ではないと?」

 

「お前のその、自分至上主義なんとかならない? ほんと、ブレねぇな。尊敬するわ」

 

 

このような場面でも相変わらずなラムにはハヤトもため息。自分以上に気丈夫な彼女の辞書には『動揺』の二文字など無かったようで、毅然とした態度で接してこられるといっそ清々しい。

 

そんな少女にも揺れる瞬間があると知っているからこそ、ハヤトは何かあれば自分が頑張らなければと心に強く決めているのだが。今のところ、その瞬間が訪れる感じはしない。

 

ちなみに、彼女が取り乱したのを初めて見たのはテンが死にかけた瞬間。それ以降は見ていない。

 

 ともかく、

 

 

「んじゃ、決まりだな。俺らは今から貧民街の盗品蔵に行って徽章を取り——」

 

「ねぇ、二人とも」

 

 

 取り返そうぜ。

 

そうやって場をまとめようとしたハヤトの声が、エミリアの声に遮られる。声に呼ばれて視線を向けると、彼女の白い人差し指は人混みを抜けた一点を指さしていた。

 

先程から自分たちとは全く違う方向を見つめていたとは思っていたが、特に気にしなかった二人。話が落ち着いた今、指先の延長線上に視線をやると、

 

 

「………迷子か?」

 

「そうだと思う」

 

 

緑髪のおかっぱ頭な少女が一人、行き交う人を見ているのが見えた。

 

誰かを探すような素振りは、間違えなく迷子になった子のそれ。十歳よりも下だとぱっと見で分かる容姿ともなると尚更、二人にはそう見えた。

 

多分、親とはぐれたのだろう。涙目になりながらも探そうと必死になっている。瞳から大粒の涙を溢しながらも見つけようと頑張っている。

 

怖いのも。不安なのも。寂しいのも。それら全部を押し殺し、我慢して。

 

 

「放っておくわけにもいかねぇな」

 

「うん。私もそう思う」

 

 

その時点で、ハヤトとエミリアの意見は完全一致。

 

困ってる存在を見つけたら動物であろうとも放っておけないハヤトと、泣いている子がいたら手を引いてお母さんのところまで連れて行くエミリアの心は重なった。

 

迷いなく一歩踏み出す二人。そして、その手を弱い力で掴みながら引き止める気配を見せるのがラム。「お待ちください」と声をかける彼女は二人が振り返ると、

 

 

「徽章探しはよろしいのですか? ご自身の置かれた状況が分からないエミリア様ではないはずだと、ラムは思っていますが」

 

「そーゆーわけじゃない。勿論、徽章探しも大切。アレが無くちゃ、色々と大変なことになっちゃうもの。でも、あの子は泣いてる。それに、すごーく不安そうにしてる。放っておけないわ」

 

「俺も同意見だ。ラムの話も分かるが、見つけた以上は放っておけねぇよ。俺の性格知ってんなら分かるだろ」

 

 

ラムの現実的な意見をハヤトとエミリアは容易く突っぱねる。自分のことよりも他を優先する性格な二人は、助けを必要としている存在に対して『見過ごす』という選択肢は無い。

 

困っているのなら助ける。助けを必要としているのなら手を差し伸べる。一度でも手を差し伸べたのなら最後まで助け通す。知り合いであろうがなかろうが関係ない。それがハヤトとエミリア。

 

躊躇や迷いといった感情の一切を切り捨てる二人にラムは、やれやれと言った具合でため息。二人のことをよく知っていることが仇となり、言っても止まってくれないことを頭が勝手に理解したのだ。

 

なら、自分一人で貧民街の盗品蔵に行くしかないと彼女は思う。貧民街の場所は分かっても盗品蔵の場所が分からないからどうにか現地住民から聞き出すとして、この二人には後から頑張って辿り着いてもらおう。

 

できればハヤトには一緒にいてほしかった。彼が一緒なら何がきても安心できる。が、本人があの調子ではきっとダメだ。制御役(テン)が不在な今、彼を止められる人間はいない。

 

 なら、

 

 

「——おーい! ちょっと待ってくれー!」

 

 

 ラムは先に行ってる。

 

そう思って、口にしようとした時だった。不意に、ついさっき出会った女の声が三人の間を勢いよく通り抜ける。

 

動き出そうとしていたハヤトとエミリアの足が止まり、動かそうとしていたラムの口が止まり。それ一つで動きを止められた三人が声の方向を見る——息を切らしたスバルがこちらへと向かって来ていた。

 

彼女には徽章が盗まれた場所で待ってるように言ったはずだが、どうやら追いかけてきたらしい。原作同様、じっとしてくれない子だとハヤトは思う。

 

その活発性、嫌いじゃない。

 

 

「あの、さ……ぜぇ……さっきの……ぜぇ……話なんだけど……っ」

 

「なんで追いかけて来たかはともかく、まずはその息を整えてからだな。深呼吸だ、スバル」

 

 

久々の全力疾走に疲れ気味のスバル。決して高くない気温だとしても、陽光に当てられながらのそれは引きこもりの肉体には酷だった。膝に手をつき、「ぜぇ、ぜぇ」と喘鳴を鳴らす。

 

なんで追いかけて来た。そんな疑問が三人の頭の中に浮上する中、スバルは十秒程度費やして呼吸を整えると「あのさ!」とハヤトを見ながら、

 

 

「さっき、あんた達はなんか奪われてただろ? その奪われた物を取り返すの、アタシにも手伝わせてくれ!」

 

「別にいい」

 

「バッサリ切り落とされた!?」

 

 

スバルの提案をその一言で蹴り飛ばし、ラムは冷たく断ち切る。追いかけてきて何を言うのかと思えば、くだらない戯言に付き合っている暇など今の自分たちにはない。

 

なんとなく予想できてはいたものの、冷たすぎる切り捨てられ方。流石に塩対応すぎる態度に「いや、せめて理由くらいは聞いてくれても……」とスバルは弱く反抗するも、

 

 

「手伝いが必要なほど人手不足でもないもの。そこで知り合っただけの部外者は引っ込んでなさい。ラム達だけで十分」

 

 

 と。

 

思い切り突き放すような言い方でスバルの言葉を否定。目の温度が一時的に急低下した様子からして、確実に面倒くさがられていることが感覚的にスバルには分かった。

 

しかし、彼女は引き下がらない。今ここで引き下がれば糸のように細い関係性ではあるが、ハヤトとの関係を失ってしまう。この世界に来て唯一、自分と似たような雰囲気を微弱ながらに纏う人間が、自分から離れてしまう。

 

ダメだ。それだけは避けなければならない。

 

 

「何かが奪われたのって、アタシが話しかけたせいなんだろ? そのせいで気を取られて、奪われたんだろ? なら、責任はアタシにもある。その償い的な意味でもさ! アタシの気が済まないんだ!」

 

 

早口で捲し立て、スバルは急激に加速し始めた鼓動のうるささを感じながら縋った。三人の視線が向けられることに慣れてくれない心に萎縮の予感が訪れ、今の自分がてんぱりそうだと知る。

 

そうなると早口でテンション上がってしまうのがスバルの悪い癖。今のところその一歩手前で踏み止まれているけど、これ以上言葉に言葉を重ねてしまうと確実にその癖が出るだろう。

 

できれば、そうやって吐かれた言葉に自分でドン引きする前に納得してほしいスバルだが。ハヤトは思い当たったような風に「ははーん」と顎に手を当て、

 

 

「さてはお前、ラムの言ってたことを聞いてたな? あれは単にコイツが軽口程度に言ったことだし、深く気にする必要はねぇぜ? お前に責任はねぇよ。あるのは俺たちだ」

 

「軽口であったとしても、本心とは違うことを言った覚えなんてラムにはないわよ。あと、俺たちだ。じゃなくて、俺だ。にしなさい」

 

「どんだけ俺のせいにしたいんだよ」

 

「事実を言ってるだけよ」

 

「虚構の間違えだろ」

 

 

スバルの前で軽快に軽口を叩き合うハヤトとラム。先ほどスバルに対して冷たすぎる言葉を放ったラムに反して、今のやりとりには仲の良さがあからさまに露出したような温かみがあった。

 

多分、とても仲が良いのだろう。ラムの雰囲気の差がスバルの時とハヤトの時とでは天と地。他人の接し方と友人の接し方で、完璧に分けられたような気分を味わったスバルである。

 

二人の傍でエミリアが心配そうな目でどこか一点を見つめているのを横目に、このままでは置いていかれそうな予感しかしない彼女は「それにほら、アレだ!」と人差し指を大空に突き出し、

 

 

「一日一善、ってやつ! アタシの故郷では善行を積み重ねると死んだ後に天国に行ける、って話があってだな。アタシはそこで理想のイケメンエンジェルに囲まれて惰眠貪り自堕落ライフを送る予定があるから。そのために、アタシにも手伝わせてほしい」

 

 

自分で言ってて内容がよく分からないが、とりあえず言いたいことは言い切った。

 

やりきった感を醸し出し始めたスバルにラムは心底面倒そうな表情、ハヤトは「んー」と喉を唸らせて考え中、エミリアは変わらず心配そうな顔。

 

立ち止まってる時間などないが、目の前にいる女の対応に迫られた。

 

 しかし、

 

 

「ねぇ、ハヤト。早くあの子のとこに行ってあげないとかわいそうよ!」

 

 

状況の停滞をエミリアの声が破壊。動きたい欲を抑えていた我慢が爆発し、彼女が場の沈黙を木っ端微塵に砕く。いよいよ泣き声を上げてしまいそうな迷子に心が前へ前へと進み出した。

 

あの子とはなんだとスバルが思い、エミリアが指さす方向に視線をやる。それを見ながら眉間に皺を寄せていたハヤトは「よし! 分かった!」と手を叩き、

 

 

「スバル。ちょいと、エミリアに付き合ってやってくんねぇか?」

 

「え?」

 

「一日一善なら、あそこにいる迷子を親元に届けるエミリアを手伝ってやってくれ」

 

 

ここで待っていろと言ってもスバルはついてくる——そう判断したハヤトが思い切った指示。本来なら自分がエミリアと一緒に行くところを、スバルに任せた。

 

形としてもそっちの方がいいかもしれない。エミリアとスバルは迷子の親を探し、自分とラムは徽章を取り戻すために貧民街へ。それなら、スバルが危険な目に遭う心配もないし、存分に戦える。

 

 

「正直、エミリア一人じゃ不安だし、ラムを一人で行かせるのも心配だしよ。スバルがいてどうにかなるのかは微妙だが、ついてやっててくれ。その間に、徽章は俺とラムで取り返してくるぜ」

 

「別に、ラムは一人で行くなんて言ってないけど」

 

「お前がそう言うことくらい分かってんだよ。親友舐めんな」

 

 

さも当然のように心を読まれたラムが密かに驚くが、「それでいいな?」と半ば強引に場をまとめようとするハヤトには届かない。悩み顔が気持ちよく晴れた彼は三人の顔を順番に見た。

 

エミリアを見る。「うん。私は別に構わないわ」と頷かれた。納得したというより、迷子を早く助けてあげたくて仕方ない様子。それ以外の事情は一旦、頭の片隅に追いやられている。

 

スバルを見る。「異議なし!」と快く頷かれた。とりあえずの形ではあるものの、ハヤトと行動を共にする者と一緒にいれる事に一安心。

 

最後にラムを見る。「……分かった」と仕方なさそうに頷いてくれた。彼女もスバルが離れていかないことを察したのか、これ以上の否定は時間の無駄と判断したらしい。諦めた。

 

反対の声なし。色々とすっ飛ばしている気がしなくもないが、少しでも早く動き出したいハヤトは「うし!」手の平に拳を力強く合わせ、

 

 

「パック!」

 

「ほいほい! 何か用かい、ハヤト」

 

 

名を呼んだ瞬間、依代の中に居るパックが両手を広げた体勢で出現。突然に現れたそれに「うわっ!?」とスバルが驚くの無視し、ハヤトは彼のことを見ながら、

 

 

「話の流れは分かってるよな?」

 

「勿論さ。ハヤトがこの女の子に気を取られていたせいで徽章が奪われちゃったんだよね。そんなことを知ったらベティーが妬いちゃうよ?」

 

「お前の中でもそうなってんのかよ。つか、なんでラムと同じくアイツが出てくんだ」

 

 

自信満々に胸に手を当てながら言い切るパック。その様子からして、徽章が奪われてから今までの流れは把握できているのだろう。姿自体はなくとも、彼は依代の中で周囲の状況くらいは分かるようだ。

 

なら良し。説明する必要無し。聞いてたと信じる。「あぁもう、それでいいよ」と、投げやりな言い方でハヤトは揶揄ってくるパックを雑に受け流し、

 

 

「そういうことだから、俺らがいない間は頼んだぞ。徽章は俺らで取り返すつもりだが、その前にソッチの二人がコッチにくるようなことがあれば……そん時はいつでも動けるようにしておけ」

 

「うん。分かった。ハヤトがそう言うならボクも警戒しておこう。大丈夫だとは思うけど、二人も気をつけてね」

 

「おうよ」

「お気遣い、ありがとうございます」

 

 

貧民街の盗品蔵——ハヤトとラムの会話の内容をちゃんと記憶しているパックに二人が各々の返事を簡単に返し、受け取った直後に満足げに頷くと再び姿を消す。

 

パックという大精霊は性質上、姿を現しているだけでもマナを膨大に削る存在。故に、ハヤトに二人のことを任された彼はいざという時のため、なるべくマナを温存しておこうと考えたのだ。

 

そんなパックのエコな考えはさておき。瞬間的な登場と退場を見せたパックに目を白黒させるスバル。異世界らしい場面に遭遇した彼女の胸が興奮に高鳴るのを他所に、ハヤトはその肩に優しく手を添え、

 

 

「じゃあ、スバル。お前は、エミリアと一緒に行動してくれ。色々と片付いたらお前の質問にはちゃんと答えるから、今はそれで許してくれ。頼む」

 

「いやいや全然全然! むしろ、ありがたいね! このナツキ・スバル! 与えられたお役目は全力で全うさせていただきますとも!」

 

 

不意に見せる真剣な表情にドキッとさせられながらもスバルは「アタシに任せて!」と、胸元でグーサイン。空回り感が否めないそれに特に深くは突っ込まず、ハヤトは「頼んだぜ」と一言。

 

それからエミリアに視線を向けると「コッチは任せて。ソッチは任せる」と、頼もしい声が返ってきた。パックもいるのだから、大抵のことは問題ないだろう。

 

 

「じゃ、また後でな! 行くぞ、ラム」

 

 

故に、ハヤトはそのやりとり最後にラムを連れて薄暗い路地の中へと駆け出し。二人に背を向けたエミリアとスバルは迷子の下へと駆け寄り。

 

依代に居るパックを含めた五人は三人と二人に分かれ、行動を開始した。

 

 

 






聖域で登場したリューズさんの声優とアニメ一話で登場した迷子の声優、同じなんですって。

というか、今更感ありますがラムがハヤトのことを「脳筋」って呼ぶのシュールすぎません?

今思えば「ハト」にでもすれば良かったかなぁ。とか思ったり。そのうち、訂正させるお話でも作りましょうかね。


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