少しでも望む未来へ   作:ノラン

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ハヤトが王道系熱血主人公すぎて、リゼロの定番展開が上手く書けない問題にぶち当たりそうな今、彼をどうやって危機的状況に追い込んでやろうかずっと考えてます。

どうせなら、ねぇ。アレ、やりたいよねぇ。





大胆なやり方

 

 

薄暗い路地裏で貧民街へと歩く少女が二人。その行手を阻むは明らかに品のない男三人組。少女達が路地に入り込んでから道を塞ぐあたり、待ち伏せでもされていたか。

 

否、単に自分たちが罠に引っかかっただけだろうと三人を見るスバルは思う。この三人はずっと前からここに身を潜め、通りかかった人たちから金品でも奪っていたのだろう。

 

 つまり、あれだ。

 

 

「強制イベント、ってやつか」

 

 

チビなのと、ゴツいのと、細いの。体格差が激しい二十代半ばくらいのチンピラとのエンカウント。エミリアという女の子を巻き込み、スバルは異世界初のテンプレ展開に遭遇したのだ。

 

途端、状況を理解したスバルの背筋に悪寒が走る。生まれて此の方、争いとは接点の無い環境で育ってきた心が緊張に強張り、道を塞がれただけで心臓がバクバクと跳ねていた。

 

加え、相手は男だ。日頃から適度な運動しかしていない女が勝てる相手じゃない。拳を振り回して向かったところで筋力の差で押さえつけられてお終い——。

 

 

「いや、怖気づくな怖気づくな。今のアタシは異世界召喚されたてホヤホヤの唯我独尊状態。魔法習得イベントは邪魔されちまったけど、怖気づくには早すぎる。やれる………男だかなんだが知らねぇけどやれるぞぉぉおお……!」

 

「なーんか、ブツブツ言ってるよ、アイツ」

 

「状況がわかってないんだろ。教えてやったらいいんじゃないか」

 

 

脳裏に描かれた結末に無理やり気分を上げるスバルが華奢な拳を握りしめ、正面の三人を睥睨。無駄に三白眼な目を細めるとそれなりに威圧感があったものの、三人の態度が変わることはなかった。

 

当たり前だ。向こうからすれば数の有利と力の有利をとっているのだから。光景としては向こうが狩る側で、こちらが狩られる側だ。態度が大きくなるもの分からなくない。

 

が、今の自分は最強。そうやって調子に乗っていられるのも今のうちだ。異世界系の小説を読み漁っては無双展開を妄想してるだけあって、この手の展開には対策済み。

 

 故に、

 

 

「私たちに何の用? 悪いけど、急いでるの。そこを通してちょうだい」

 

 

 勝てる。

 

そうやって己を奮い立たせるスバルの横から一歩前に踏み出るのはエミリア。握り拳が震えているのは武者震いだと誤魔化するスバルを庇うような風に、彼女は毅然とした態度で三人を睥睨。

 

宝石のように綺麗な紫紺の瞳が鋭く尖ったのは、明らかに敵意を向けているからだろう。事実、声に孕まれた臨戦の二文字に確かな動揺が突き抜け、三人の表情に戦闘を尻込む気配が見られる。

 

 が、

 

 

「そう言われて通すと思うか? 通してほしけりゃ有金全部置いていきな」

 

「身ぐるみ全部剥がしてやるよ」

 

「女だから容赦してやると思ってんじゃねぇぞ」

 

 

あくまで優位に立つのは自分たち——仲間がいることを思い出し、数の有利において上回っているのだとチンピラ三人組は余裕そうな態度。尻込みの色が顔から抜け、体勢が僅かに前屈む。

 

こちらへと駆け出す予兆に、しかしエミリアの態度は一切崩れる様子がない。衝突の時が目の前に迫るスバルが頑張って自分を鼓舞する中でも、毅然とした態度を貫いている。

 

数秒後には突撃してくるであろうチンピラ三人組の脅迫に「そう。……ならいいわ」と、彼女は手の平をゆっくり差し伸ばし、

 

 

「無理やり退いてもらうから」

 

 

 瞬間。

 

当人を除いたその場の全員が、白く細い指先がまとめられた手の平に形容し難い力の凝縮を感じ取る。ガラスがひび割れる音が空間に連鎖し、肌に触れる大気の温度が急激に低下していく錯覚を起こした。

 

否、冷えている。頬に当たる空気が数瞬前と比較して冷たい。その不可思議な現象にスバルは息を呑むことしかできず、脳裏に『魔法』の二文字が浮かび上がる。

 

確実に場慣れしてる感満載なエミリアの背中が、とても大きく見えるスバルだ。自分の前に立って庇う姿勢が勇ましく感じてしまう。いっそ、自分が情けないとすら思えてしまうほどに。

 

 なら、やることは一つ。

 

 

「エミリアちゃん、ここはアタシに任せてくれ」

 

「え?」

 

「エミリアちゃんがわざわざ力を使うまでもねぇ。アタシがバッタバッタ薙ぎ倒してやる」

 

 

言い、スバルはエミリアの半歩前に小さく出た。魔法的な力が振るわれる手の平を柔らかい力で下ろし、想像していなかった行動に素っ頓狂な声を溢す彼女を今度は自分が庇う。

 

エミリアが魔法的な力で戦う術を持っていると踏んで間違えない。周囲の気温が下がったそれは、そのような力以外にあるものか。それなら、あの場慣れした雰囲気も分かる気がする。

 

彼女に任せていれば、あの三人はあっという間に片付けられてしまうのだろう。そう思わせてくれるほどに彼女の態度は落ち着いている。

 

が、生憎と今は自分の出番。先程は謎の爆風のせいで魔法習得イベントをおじゃんにされたが、今回は違う。これは、自分の隠された力が発揮するために用意されたものなのだから。

 

 要するに、

 

 

「お前らみたいなのはアタシ一人で十分なんだよ。全員一撃で沈めて、明日から始まる異世界ライフの糧にしてやるよ、この噛ませ犬どもがぁ!」

 

「噛ま……っ。テメェ、言いやがったな!」

 

「ぶっ殺してやろうか!」

 

 

ようやく自分の出番が回ってきたスバルの分かりやすい挑発。伸ばした手をクイッと上げて煽ると分かりやすくチンピラ三人組が反応、場の雰囲気が戦闘一色に染め上げられる。

 

その中で一人、エミリアは置いてけぼりだ。側から見ても強そうに見えないスバルが「自分一人で戦う」と言った事が理解できず、止めようと思った時には遅い。

 

「待って」と。手を伸ばした時には既にスバルは駆け出していた。先手必勝とでも言いたげに地を蹴り、どう考えても不利な戦いに一直線。

 

スバルの手を掴むはずだった手が虚空を切り、尚も止めようとするエミリアは咄嗟に魔法展開の予備動作——。

 

 

「——そこまでだ」

 

 

不意に、空間に新たな声が割り込んだ。

 

緊迫に張り詰める空気を容赦なく切り裂き、一瞬にして戦闘一色の空間をそれ一色に塗り替える声は、真上から。

 

その声は凛とした青年の声帯で、異常な存在感を放つ者の君臨を意味するものだったのだろう。直後、スバルは目の前に揺らめく炎が舞い降りるのを見た。

 

今、全員の意識がその炎——一人の青年に向けられている。

 

真っ赤に燃える炎のような髪に、青空を閉じ込めた澄み渡る瞳。すらりと細い長身に白い服をまとい、一度目にすれば永劫に忘れないであろう整った顔立ちの青年だった。

 

その腰から下げた騎士剣が宿す凄みが、この場を支配する彼の存在感に拍車をかけた。その青年を見る者の全てに青年が次元の違う存在だと知らしめている。

 

全身を突き抜ける衝撃は、凡人が英雄を目の当たりにしたときに感じるそれに違いない。何故ならその出会いはまさしく、そういう一瞬だったからだ。

 

 

「たとえどんな事情があろうとも、こちらの女性二人に手を出すことは許さない。そこまでだ」

 

 

音を立てずに舞い降りた青年がスバルの前に立ち、ただひたすら純粋な正義感を灯した双眸でチンピラ三人組を見ている。動くものは、誰もいない。

 

一言——たったそれだけで場にいた全員の意識を己に集め、動くことはおろか声を発することすら困難にしたのだ。青年が放つ存在感に敵味方問わず圧倒され、一時的に思考が麻痺している。

 

その場に舞い降り、僅か一言。最小限の動きのみで場の空気を塗り替えれるのは、青年がこの世界において頂点に立つ者である事実を雄弁に語り、

 

 

「燃える赤髪に空色の瞳……鞘に竜爪の刻まれた騎士剣。まさか……」

 

 

その存在に敵として前に立たれたとなれば、チンピラ三人組が途端に青ざめていく。青年に心当たりがあるのか、態度が一変してわなわな震える手で青年を指差し、

 

 

「ラインハルト……『剣聖』ラインハルトか!?」

 

「僕の名は既に知っているようだね。天命より授かったとはいえ、僕のような者が背負うには重すぎる二つ名だが。——敢えて名乗る必要もなさそうだ」

 

 

口元が苦笑気味に開くが、ラインハルトと呼ばれた青年の瞳が見据える三人から視線を逸らす気配はない。エミリアとスバルを庇う彼は、半歩ほど踏み出し、距離を詰めた。

 

その半歩は、三人にとってはあまりにも大きすぎる半歩だった。冷や汗を頬に垂らす一人が「ひっ」と喉を引き攣らせながら後退り、便乗する二人も顔面蒼白になりながら後退りする。

 

その時点で、勝負は決した。

 

 

「この場を穏便に済ませたいのなら、逃げるといい。僕も目を瞑ろう。執拗に追い回すことはしない」

 

 

尻込む気配を悟ったラインハルトが慈悲の色を見せる。しかし「ただ」とスバルの横、彼女の隣に並ぶエミリアに一瞬だけ視線をやると、

 

 

「君たちの襲ったお方がお方だ。もし、強硬手段に出るのなら、この場は僕が相手をしよう。その場から一歩でも前に進めば——僕は君たちを敵と見做す」

 

 

一段、声のトーン下がった直後、強めに言ったラインハルトの手が動く。静かに持ち上げられた右手の行き先は、腰から下げた騎士剣の柄。無機物ながらに異様な存在感を放つそれに、抜刀の予感が纏われた。

 

『剣聖』ラインハルト。その意味を理解している人間からすれば、今の発言は生涯忘れられないものになるだろう。ラインハルトに敵と見做されるということは、世界を敵に回した事と同義なのだから。

 

 

「戦いを望むのなら、騎士としての務めを果たさせてもらうよ」

 

「ふ、ふざけんじゃねー! 笑えねぇよ!」

 

 

初めから、この三人組に選択肢など与えられていない。『剣聖』ラインハルトに立ち塞がられた時点で、この場を悟られた時点で、未来は決まっていた。

 

冗談混じりの威圧に屈し、威勢のよかった三人組が我先にと尻尾を巻いて逃げていく。冗談とはいえど世界最強(『剣聖』)の圧だ、ただのチンピラが正面から受けていいものではない。

 

結果として、スバルの無双イベントはまたしても横槍を入れられて終幕。ここまで邪魔が入ると、「調子に乗るな」と神に言われているような気がしてきたスバルである。

 

 

「ご無事ですか、エミリア様。お怪我はありませんか」

 

 

スバルが自分の中に眠る力の存在を密かに疑い始める中、襲っていた三人の気配が完全に消失したのを察したラインハルトが微笑を浮かべながら振り返る。

 

赤髪が炎のように揺れ、場を埋め尽くしていた威圧感が途端に消えた。多分、ラインハルトが警戒を解いたのに準じて消えたのだろう。それはつまり、彼が意図的に場を支配していたことを意味する。

 

威圧感だけで場を掌握、一時的に身動きを封じる。なんて規格外な事を平然とやってのける人間だろうか。エミリアはともかく。初体験のスバルからすれば、無意識のうちに呼吸が止まってしまうほどに衝撃的だった。

 

そんなスバルはともかく。振り返ったラインハルトにエミリアは「えぇ」と頷き、

 

 

「私もスバルも大丈夫。助けてくれてありがとう、ラインハルト」

 

「いえ。エミリア様がご無事でなによりです」

 

 

言い、胸に手を添えながらラインハルトは軽くお辞儀。名前を知っていることから察するに、エミリアと面識はあるようだ。が、そこまで関係は深くないように見える。

 

ただ、その絵面だとお姫様を危険から救った騎士のそれにしか見えず。動作の一つ一つから溢れる騎士感にスバルが「白馬の王子様かよ、なんだよこのイケメン」と心の中で思いながら彼を見ていると、

 

 

「君もだ。スバル、でいいのかな?」

 

 

スバルの視線に気づいたラインハルトが爽やかな笑顔を向けてくる。その瞬間にドキッとしたのに加え、「ケガはないかい?」と優しく言葉を重ねられれば彼女の心はときめき不可避である。

 

見れば見るほど整った美形。神様自身が自ら作ったと言われても納得できる美男子だ。街中を歩けば百人中百人の女子が振り返り、間違えなくジャニーズのスカウトが殺到するほどの。

 

そんな男と話した経験など人生の中で一度もないスバル。否、ハヤトを除けば異性と話したことすら久々な彼女は色々な方向から不意に訪れる胸の高鳴りを抑えつつ、

 

 

「こ、この度は命を救っていただき、心からお礼を申し上げる。このナツキ・スバル、その寛大な御心に大変感謝し………」

 

「そんなに畏まる必要はないよ。君が無事なら僕はそれで満足さ。今日は非番だけど、二人を助けられたのなら、こうして街を見回っていた甲斐があった」

 

「そうなのか……。じゃあ、改めてありがとうございます、ラインハルトさん」

 

「呼び捨てで構わないよ、スバル」

 

 

呼び捨てにし、さらっと心の距離を縮めてくるラインハルトに言葉が詰まり、スバルは思わずニヤけるのを寸前で堪えた。そのイケメンスマイルで言われると簡単にキャパがオーバーし、破裂しそうになる。

 

やばい、本当にやばい。なにこのイケメン。眉目秀麗で、行動と佇まいが紳士的で、心まで真っ白とか、完璧人間すぎる。このままいけばラインハルトルートまっしぐらになりそう。

 

尤も、あまりにも完成度が高すぎて高嶺の花だと自己完結するのがナツキ・スバルという女であった。

 

 

「それはそうと、どうしてエミリア様はこのような場所に?」

 

 

ラインハルトルートに突入するか否かの起承転結がスバルの中で展開しているうちにも、話は進んでいる。

 

スバルの無事を確認したラインハルトがエミリアに視線を移すと、疑念が含まれた青色の瞳が紫紺の瞳を見た。

 

しばしの沈黙。考える時間を作る彼女は「えっと」と閉じた唇を小さく開き、

 

 

「ちょっと貧民街に用があるから、スバルと一緒に向かっていたところなの」

 

「貧民街に、ですか」

 

 

言葉の意向を探るラインハルトがその言葉を復唱し、「ふむ」と口に手を当てて考え込む素振り。それ以上は語ってこないことから察するに、外に漏らしたくないことなのだろうかと思考の片隅で思う。

 

少なくとも悪事ではないだろう。彼女が悪事を働くような人格者ではないとは理解の上、隣のスバルもそのような人間には見えない。

 

となると、用というのは何かしらの問題が発生したと思うのが妥当。貧民街以外に住む人間の殆どが好まない街に自ら行くというのは、ただならぬ事情があるとしか思えない。

 

頭の中で導き出した一つの仮説にラインハルトは「でしたら」と、再び胸に手を添え、

 

 

「よろしければ、僕もご同行いたしましょう。何か問題事があるようでしたら、お力になりたく存じます」

 

 

決して過度な詮索をするつもりはないが、何か問題があるのなら自分も力になると提案した。それはラインハルトという人間が持つ純白な善意からくる、平等で純粋な優しさだった。

 

言われたエミリア、更にはスバルが「え?」と小首を傾げるのを横目に彼は姿勢を正し、

 

 

「近頃、『腸狩り』と呼ばれる者が貧民街を徘徊していたと詰所に噂が流れてきていまして。万が一遭遇してしまっては、エミリア様とスバルに危険が及ぶ可能性があるかと」

 

「腸狩り? なんだその超物騒な異名」

 

「特徴的な殺し方からついた異名だよ。危険人物として、王都でも名前が上がっている有名人のことさ」

 

 

その異名を初めて聞くスバルの疑問符に端的に返し、ラインハルトは「微力ながら、お力添えいたします」とエミリアに一言添える。この場合、自分が二人の護衛をすると言っているのだろう。

 

スバルとしてはありがたい。ラインハルトの実力がどれほどのものなのかは知らないが、護衛として力を貸してくれると言うのなら側に置いておいた方がいい。

 

あの威圧感と、この雰囲気、その騎士剣。どれをとっても仲間キャラとしては申し分ない。

 

 

「でも、噂でしょう?」

 

 

そんなスバルとは反対に、エミリアは提案の受諾を渋っていた。百パーセント善意からくる優しさだと分かっていても、彼女の口は「おねがい」の四文字を直ぐには刻まない。

 

彼女の指摘に「はい」と、小さく頷くラインハルト。その返答を予測していたような彼は、頭の中で完成している言葉を紡いだ。

 

 

「出所の不明な国民の迷言……という可能性も否定しきれません。ですが、用心に越した話ではないかと」

 

 

彼女自身、ラインハルトの強さは知っている。近くにいて心強いということも、自分とはちょっと性質的に相性が悪いということも。

 

護衛をしてくれるのなら、いた方がいいのだろう。

 

腸狩りの実力が不明なら尚更。噂とはいえ、仮に遭遇したら大変だ。ラインハルトの言う通り、彼を隣に置いておく方が安全な選択だとエミリアは思う。

 

が、ラインハルト——というよりも衛兵という括りである存在を隣に置けない理由があることをエミリアは知っている。今回の問題は、自分たちで解決しないとダメなのだ。

 

ラインハルトには頼れない。そんな意志を見せるエミリアは「ううん」と、首を横に振って差し出された提案を優しく否定し、

 

 

「頼れる人たちが先に向かってるから、私たちだけで大丈夫です。気を遣ってくれてありがとう」

 

「わかりました」

 

 

ふわりと微笑むエミリアに頭を垂れ、ラインハルトはその一言で提案を引っ込める。深く詮索しない彼は否定されたことに変に噛み付かず、彼女の判断に従った。

 

その判断に「いいの? エミリアちゃん」と疑問を抱くスバル。ラインハルトの提案に肯定的な彼女に「うん。全然大丈夫よ」と頷くエミリアは簡単に言葉を返すと、

 

 

「じゃあ、私たちはこれで。急がなくちゃいけないから。重ねるけど、助けてくれてありがとう、ラインハルト」

 

 

改めて感謝の意を示しながらラインハルトに笑いかけると、彼は「お気をつけて」と爽やかに見送りの言葉を一つ。

 

その言葉を背に受け、二人は貧民街へと歩き出す。薄暗い路地の更に暗い方向、王都の闇が蔓延る無法地帯へと進み始めた。

 

 

 ——夕刻まで、あと少し。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 時間は進み、視点は戻る。

 

 

場所は貧民街、盗品蔵周辺。人気のない平屋の中で身を隠し、盗品蔵を見張るハヤトとラムの視点。

 

盗品蔵の中で待機していると徽章を盗んだ盗人——フェルトに気配を勘づかれて逃走されると懸念したラムが提案し、ハヤトが便乗した形だ。

 

見張り続けてかれこれ一時間。待機するには少し長い時間だが、小声で談笑していればその程度の待ち時間などあっという間で。

 

 気がつけば、

 

 

「もう夕方か……。フェルトはまだ来てねぇよな」

 

「裏口から入るような、小癪な真似をされていなければね。裏口があるのかすら知らないけど」

 

「やめろよ。割とありえる話だぞ」

 

 

全く笑えないラムの冗談に苦笑し、ハヤトは不意に浮かぶあくびを飲み込みながら空を見る。澄み渡っていた青空は橙色に染められ、地平線に沈みゆく太陽はもう見えなかった。

 

辺りには夜の気配が漂い始め、徐々に暗がりに包まれつつある。平民街の喧騒から程遠いこの場所では世界の静けさも強く目立ち、小声で話すことすら躊躇してしまうほどに静かだ。

 

光が届かない平屋の中では隣にいる互いの表情も曖昧で、人型の影しか視界に映っていない。

 

それすなわち。夕刻に入った、ということだろう。やっとハヤトが予想した時間帯に突入し、決戦の時は間近だ。

 

 

「そういや、ラム」

 

 

数々の談笑を重ねても声が途切れない二人。話しても話しても温泉の如く湧き出る話のネタを横目に、ハヤトはふと思い出した風に彼女の名を呼ぶ。

 

声に反応したラムが「なに?」と言いながらこちらを見る挙動。目が慣れてやっとうっすら見える澄まし顔を流し目にし、ハヤトは盗品蔵を見つめながら、

 

 

「お前って、ロム爺と会ったことあんのか?」

 

 

呑気な声で藪から棒な質問を投げかける。瞬間、ラムが僅かに息を呑むような音が聞こえた気がした。

 

本当に藪から棒だ。それまでのくだらない談笑から考えても文脈がまるでない。ふと思った質問、そう言い表すのが最も適している。

 

 

「……どうして?」

 

「なんとなく。ロム爺を見るお前の目が、初対面を見る目じゃなかったような気がしてな」

 

 

「気のせいだったら、そう言ってくれ」と、ハヤトは第二陣となるあくびの襲撃を我慢できずに大口を開けながら「はわぁ」とあくび。その彼を見るラムの目が驚愕に見開かれたとは知らない。

 

根拠があるわけでも、確証があるわけでもないが、なんとなくそんな気がするハヤトだ。上手く言葉にできないから言い表せないが、本能がそう語っている。

 

これで本当だったら、自分のことながらに本能の察しの良さに舌を巻くが、

 

 

「気のせいよ。ラムがあんな薄汚れた老人と面識があるわけがないじゃない」

 

 

どうやら勘違いだったらしい。

 

視線を盗品蔵に戻したラムはハヤトが聞いた本能の語りを軽く蹴り飛ばし、一方的に会話の流れを断ち切った。視線をハヤトから外したのは、その現れだろう。

 

だからハヤトは「そうか」とだけ。それ以上は触れず、今のは自分の勘違いであったと完結させる。親友に関しての勘だけは鋭い自信があるのだが、今回は見当違いだった。

 

 と、

 

 

「ーーーー」

 

 

不意に、二人の間に流れる空気が張り詰める。

 

緩んだ緊張の糸がピンと強く張られ、意識的に気配と息を殺した。それまでの雰囲気から一転、両者の表情が真剣味を帯びる。

 

その原因は二人が見つめる先、気配もなしに姿を現した目的の人物にある。

 

金髪のセミロングをした小柄な少女だ。兎のような赤い瞳に、口の端から悪戯に顔を見せる八重歯。幼い顔立ちは生意気そうに見えるが、年相応だと思えば可愛げがある。

 

 その少女——フェルトだ。

 

 

「来たぞ」

 

「分かってる」

 

 

待ち侘びた瞬間に、二人の声が極限まで潜まる。吐息とほぼ変わらない声量で言葉を交わし、視界に映る少女に意識を集中させた。

 

そして今、初めて推しをまともに見ることができて昂る心をハヤトは感じている。アニメで観たときからずっと推していた少女の姿をじっくり見ることができて、鼓動が騒ぎ出す。

 

 

「いやらしい」

 

「なんでだよ」

 

 

心の奥底から形容し難い感情が湧き上がるハヤトを察したか、あるいは別の理由か。一言も発さず、ただ見ているだけで罵倒されたハヤトである。

 

手の届く距離に推しがいる状況、そんな今を喜ぶ彼を雰囲気一つで感じ取ってみせるとは、相変わらずラムには驚かされる。その上、安定の罵倒まで重ねるとか、平常運転すぎて安心感すら抱く。

 

 

「出るか?」

 

「まだ。あの子が盗品蔵に入ったら出る」

 

「分かった」

 

 

ハヤトの興奮はさておき。

 

立てかけた大剣に手を伸ばすハヤトの動きを止め、ラムは盗品蔵の扉に近づくフェルトに目を細める。獲物に照準を合わせるような細められ方は、今この瞬間に全てを懸けるようにも見えた。

 

故に、ハヤトは彼女の案に一切の迷いなく従う。自分よりも遥かに切れ者な彼女の判断を信じる彼は伸ばした手を引っ込め、成り行きを見守る姿勢。

 

 

「大ネズミに」

 

「毒」

 

「スケルトンに」

 

「落とし穴」

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

「クソったれ」

 

 

ラムの望む構図が完成するまで座して待つハヤトの耳に、品のない羅列が薄く届く。二人が身を潜める平屋から盗品蔵まで十メートル程度あるのだが、この静かな環境ならば聞こえた。

 

恐らく、合言葉だろう。盗品を管理する場所ともなれそれぐらいの警備はあったらしい。なるほど。盗品蔵の扉を叩いたとき、ロム爺にぶっ飛ばされた理由が分かったハヤトだ。

 

向こう側は合言葉を前提に待っているのが当たり前で。それも無しに扉を叩き、騒ぎ立てたとなれば怒るのも無理はない。

 

 アレは、流石に痛かったけども。

 

 

「——行くわよ」

 

 

思い出すと地味に痛む鼻頭に手を添えるハヤトを横に、ラムは言いながら立ち上がる。無事にフェルトが盗品蔵の扉を潜り、確実に扉が閉まったところで行動を開始した。

 

その背中に続くのは鞘に収められた大剣を握るハヤト。長時間も縮こまっていた彼は外に出ると体の節々をポキポキ鳴らし、曲がった背筋を大きく伸ばす。

 

ラムも同様。軽く肩を揉む彼女は固まった体を軽く揉みほぐし、心に飛来した戦闘の予感に気を引き締め直す。

 

そうして、二人は盗品蔵の前に堂々と立った。中から話し声が聞こえる。間違えなく、フェルトとロム爺のものだ。

 

 

「で、だ。どうやって突入するよ」

 

 

いよいよ目の前に迫った激戦に、ハヤトは首を回しながら問う。気合を入れるべく腰に巻いた黒帯をキツく締め直し、朝からずっと我慢していた灼熱の感情を燃え上がらせる。

 

ラムもラムだが、この男も平常運転。いつも通りのバトルジャンキーぶりを見せる彼は、早くエルザと戦いたい欲を表に露出させ、口角が凶暴に釣り上げられた。

 

その態度に頼もしい男だと思う反面、ちょっと危なっかしい男だと思うラム。彼女は「そうね」と腕を組み、

 

 

「普通に入ってもいいけど、それだと逃げられる気がする。どうせなら逃げる事を意識から外すような——注意を引きつける登場の仕方が好ましいわね」

 

 

「元より、交渉の余地はないもの」と、ラムは懐に隠した杖を服の上から撫でる。顔を見られていなかったら穏便に済ませる方向性もあったが、生憎とフェルトには顔バレ済み。

 

当然、そんな自分たちが中に入れば向こうは取り返しに来たと思うだろう。戦いが避けれられないのは火を見るより明らかだ。だからまずは、相手から『逃げる』という選択肢を奪う必要がある。

 

フェルトを見た時点で突撃しなかったのは、そのためだ。盗品蔵に入った後に突入することで入り口を塞ぎ、退路を断つ。その上で、意識を自分たちに釘付けに。

 

 つまるところ、

 

 

「殴り込み、ってわけか」

 

 

ラムが描く展開が自分好みだった事にニヤリと笑い、ハヤトは手の平に拳を打ち付ける。背負う大剣、ベルトのフックにかけるナックルの二つの調子を確かめると、その笑みは深まった。

 

ようやく出会えたフェルト(推し)が敵として登場することに複雑な感情にならなくもない。が、現状、そう言ってられる場合でもない。嬉しいし、話したいが、それよりも大切な目的があるのだ。

 

相棒に託された約束を守れなかった責任をとるという、大切な目的が。

 

 

「注意を引きつける登場の仕方、ねぇ」

 

 

あまり長く話していても向こうに勘づかれそうな今、ハヤトは考える。逃げるという行動を考えさせないくらい衝撃的で、予想外で、ぶっとんだ登場の仕方を。

 

扉を蹴り破るのはどうだろうか。否、ありきたりすぎる。もっと他に方法が——。

 

 

「脳筋」

 

 

頭を悩ませるハヤトの喉が低く唸る中、ラムがハヤトを呼ぶ。「あ?」と視線を向けてくる彼を見ながら、彼女は口元を悪戯に歪ませて言った。

 

 

「ラムに、考えがあるわ」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「大ネズミに」

 

「毒」

 

「スケルトンに」

 

「落とし穴」

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

「クソったれ」

 

 

独特のリズムで盗品蔵の扉を叩き、奥から投げかけられる問いに間髪入れず返答を叩き込む。これまでにも何百、もしかしたら何千と吐き捨てたそれを言い、フェルトは扉が開くのを待った。

 

数秒して扉が開き、中から顔を覗かせるのは見慣れた顔の巨人。自分の肉親と言っても過言ではない存在。

 

 

「待たせちまったな、ロム爺。意外と簡単に盗れたからちょっと他んとこからも盗ってきて、遅れちまった」

 

「そうかい。なら、疲れたじゃろう。とりあえず中に入れ。ミルクでも出してやるわい」

 

 

ロム爺と親しげに言葉を交わし、フェルトは開かれた扉を潜って盗品蔵の中へ。まさか、その姿を目を光らせる男女が見張っているとは考えもしない彼女は静かに扉を閉めた。

 

ロム爺に孫を見みる目で見られながらフェルトは盗品蔵の奥、カウンターに備え付けられた固定椅子に腰掛けて一息。今日の依頼は報酬が報酬だったから変に力が入っていたのかもしれない。普通に疲れた。

 

 

「ほれ」

 

 

頬杖をつくフェルトの疲れた様子に気を利かせ、カウンター越しのロム爺が彼女にコップ一杯分のミルクを差し出す。その表情は優しく、正しく孫を見るおじいちゃんと表現するのが似合っていた。

 

労いの気持ちを含めたそれを手に取り、フェルトはぐいっと一飲み。思ったよりも薄い。

 

 

「おい、ロム爺。アタシの味覚ナメてんのか。このミルク、水入れて薄めてんだろ。マズいぞ」

 

「なんじゃ、人が好意で出してやってるもんをマズイと言いおって。相変わらず生意気なやつじゃのぅ」

 

 

年上に対して敬いの気持ちが芽生えていない年齢なフェルト。この年齢の子は基本的に無敵だなと思いつつも、ロム爺は生意気な態度の彼女には優してしまう。

 

金髪を大きな手で撫で、彼は小さく笑った。揺れる手は大きな体格に反してとても柔らかなもので、撫でられる手に心地よさを感じてしまうフェルトは抵抗ができない。

 

 

「して、持ち込みの件はどうなった。ドジを踏むとは思えんが、上手く盗れたんじゃろうな?」

 

 

撫でていた頭から手を離すロム爺が木箱に座り、早くも本題に入る。

 

数時間前に訪れた二人組に話した通り。予定通りならば今日は持ち込みの約束があり、約束をした人物は他でもないフェルト。彼女が失敗をしていなければ、上物が手に入っているはずだ。

 

尤も、フェルトが失敗する事をあり得ないとするロム爺からすれば余計な懸念。現に口角を釣り上げて八重歯を見せる彼女は「あったりめーだろ」と、懐に手を入れ、

 

 

「コレだよ。今回の依頼主に、この徽章を奪ってきたら報酬を出す、って言われててさ」

 

 

カウンター上に置かれるそれは、中心に小さな赤色の宝珠が嵌め込まれた三角形のバッチ。表面に刻まれた絵が竜を彷彿とさせるそれは、フェルトが持ち主から奪った徽章の他にない。

 

置かれた徽章をまじまじと見つめるロム爺。顔を近づけては難しそうに「ううむ」と喉を唸らせ、値踏みの目を光らせる。

 

 

「これ一個で、聖金貨十枚と引き換えるって話だ。簡単な依頼にしちゃ、すげー美味しい話だと思わねーか。ロム爺」

 

 

「世の中にゃ、景気のいいヤツもいるもんだな」と。

 

徽章を人差し指でいじくりながら、フェルトはニヤける頬を緩ませる。聖金貨——この世界において最も価値の高い通貨十枚と交換だなんて、美味しすぎてヨダレが垂れそうだ。

 

絶対にどん底から成り上がってやると目標を掲げるフェルトからすれば、喉から手が出るほどに欲しい聖金貨が一気に十枚。それも、ただ物を盗むという慣れ親しんだ簡単な仕事をするだけで。

 

少し、怪しい話だと思わなくもない。が、聖金貨十枚という破格の報酬の方に意識の全部が持っていかれるせいで特に気にしないフェルトである。

 

金のためなら盗みすら厭わない逞しい少女、フェルト。そんな彼女は「あ。そーいえば」と思い出した風に、

 

 

「依頼主とは盗品蔵(ここ)で落ち合う、って話になってっから、そんな感じでよろしくな」

 

「お前、また儂に断りもせんで勝手なことを……」

 

 

清々しい表情で笑いながら適当に話すフェルトに、ロム爺が面倒そうに肩を落とす。

 

「やれやれ」といった具合で顔に手を当てる彼に「だってよー」とフェルトは後頭部に両手を添えながら、

 

 

「ロム爺が隣にいりゃ、その辺の相手なんかイチコロじゃん。ロム爺みたいなのが視界に映ってりゃ、暴力沙汰になることにもならねーだろ?」

 

 

「それに」と、ロム爺に無責任で絶対的な信頼を向けるフェルトは自分の胸をポンと叩き、

 

 

「アタシみたいなか弱い女が一人で相手して、踏み倒されでもしたらどーすんだよ。いいのか? アタシが依頼主に襲われて、身ぐるみ剥がされて、ボロ雑巾みてーになって、その辺に捨てられても」

 

 

妙にリアルな冗談を口にし、「だから、ロム爺の居るここなんだよ」とフェルトは口を閉じる。椅子の上で器用にかいたあぐらに手を乗せ、「にへへ」と信頼以外に混濁のない笑みを輝かせる。

 

毎度のように勝手に盗品蔵を依頼主との集合場所にされるロム爺からすれば迷惑な話。しかし、それはフェルトという少女がロム爺に向ける信頼の裏返しでもあるので、

 

 

「仕方ないのぅ。儂がいなかったらどうするつもりじゃ。まったく、めんどくさい。ミルクのお代わりいるか? 少しなら甘いもんもあるぞ」

 

 

このように、毎度のように許してしまうロム爺なのである。甘やかしてしまう、孫を可愛がるお爺ちゃんなのである。

 

実際、そのような事例をいくつも知っているロム爺にその発言は効いた。孫同然な子がそのような事例の一つになるなど、許せるわけがない。

 

盗みを日常とし、貧民街のような治安の悪い土地で育ったフェルトを『か弱い女』と形容していいのかはさておき。

 

 

「そういえば、フェルトよ。小一時間前に、徽章がここに有るか聞きに来た二人組がおったぞ」

 

 

機嫌を良くしたロム爺。フェルトにミルクをなみなみ注いだ彼は徽章を視界に収めていると、ふと脳裏に過ぎった二人組がいた。

 

一人は、自分よりも遥かに強いカンザキ・ハヤトという酒の飲みっぷりが良い男。もう一人は、口の悪い毒舌な桃髪のメイド。

 

思い出せば、ハヤトが話していた徽章の特徴とフェルトが盗ってきた徽章の特徴が一致する気がする。小さい宝石が埋め込まれた徽章——彼が示した大きさ的にも重なる。

 

まさか、あの二人はこの徽章の持ち主。そんな考えが浮上するロム爺に「ん? 誰だそりゃ」とフェルトは小首を傾げ、

 

 

「背中にでかい剣を背負った大柄な男と、桃髪のメイドじゃ」

 

「ーー!? ロム爺ぃ! そりゃ、アタシがコレ盗んだ姉ちゃんの近くにいた——」

 

 

 二人だ。

 

淡々と告げられた特徴にフェルトが目をかっ開き、驚愕に声を荒げる——遅すぎる反応だった。

 

 

「おわぁぁーー!」

 

 

 轟音。

 

突如として鼓膜を殴りつけた男の大声と同時、凄まじい衝撃音を伴って盗品蔵の出入り口がぶち破られる。元から劣化していたのも重なり、物理的な衝撃によって齎された力に木製の扉が大破した。

 

原因は声の主。予兆もなく突っ込んだ、否、弾丸のように飛んできたそれが容赦なく扉を貫き、そのまま直線上の壁に背中から突っ込んでいる。

 

 

「——手荒な真似を許しなさい。けど、先に手を出したのはそっちよ」

 

 

突然すぎる訪問者に唖然とするフェルトとロム爺。飛び散る扉の破片が盗品蔵に散らばる中、二人の耳に男とは別の声が飛び込む。毅然としていて、実に落ち着いた女性の声帯だった。

 

声の方向は破られた扉から。もはや扉の名残が消えた出入り口に、一人の桃髪の少女が立っている。

 

二人の意識が自分に集中しても尚、堂々たる様子が崩れる気配はなく。綺麗な桃髪を揺らし、つかつかと歩み寄る足取りはゆっくりで。

 

赤の瞳を鋭く尖らせる桃髪の少女——ラムは、その手に使い慣れた杖を携え、

 

 

「その徽章、返してもらうわ」

 

 

 

 激闘の幕開けを、静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、カッコつけてるトコわりーけど、その兄ちゃんが壁に埋まってるせいでカッコわりーよ」

 

 

 






ハヤトはフェルト推し。これを頭の片隅に置いておいてください。


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