声と衝撃音は、同時だった。
熾烈な戦闘が広がる激戦区に凛とした銀鈴の声が割り込み、フェルトの真正面に雪の結晶を模した大盾が瞬間的に出現。守護対象を死の未来から救い出すそれが火花を上げて刃の進行を妨げた。
刃と盾が激突、鼓膜をつんざく鋭い音が鳴ったコンマ数秒後、大気を切り裂きながら飛来する風刃がエルザに迫る。触れたもの全てを一刀両断しうる斬撃の主は、凛とした声と重なった澄ました声。
立て続けに襲いかかる事態に、流石のエルザも動揺が先行して対応が追いつかなかった。野生的な危機察知能力が彼女に後方への回避を選択させるも直撃、得物を握る腕が肉体と分断されて宙を舞う。
それで終わりではない。
「ふ、らぁぁーーッ!」
後方、フェルトを助けるべく飛び出していたハヤトの脚が唸りを上げて豪快に薙ぎ払われ、意表をつかれて咄嗟の回避を選択したエルザの脇腹に叩き込まれる。
自力、遠心力、慣性、感情。それら全ての力が一挙に集結した渾身の剛撃。頼もしい援軍が来た感情を一切相手にしない彼が放ったそれは全力を越え、歯を食いしばりながら思い切り振り切るとエルザが暴風を伴って真横にぶっ飛ぶ。
その被弾は、人外を相手にした存在に齎されるものに違いない。弾丸の如く打ち出された肉体が鮮血を地にぶちまけながら飛び、派手に壁を破りながら廃屋の中に突っ込んだ。
危機一髪。危うく最悪の光景が世界に出来上がっていた場面に、ハヤトはまず初めにフェルトに近寄り、
「フェルト! 無事か!」
「ま、まぁな。この姉ちゃんが守って……って! アタシが物盗んだ姉ちゃんじゃねーか!」
自分を救ったのが徽章の持ち主だったことに驚愕するフェルトだが、ハヤトの眼中にはない。「げっ!?」とでも言いそうな勢いで彼女は肩を跳ねさせているが、彼の心は安堵一色に染まっている。
自分の至らなさで殺されかけた推しが助かったのだ。助けるはずが助けられて、その上に殺されたとなれば自分自身に合わせる顔がない。本当の本当に良かった。
喉元にまで迫り上がる感情。しかし今はそれどころではないとハヤトはぐっと堪え、
「早かったな、お前ら。もうちょい、遅いかと思ったぞ」
「迷子のお母さんが早く見つかったの。お礼がしたい、って言われたからついて行こうとしたんだけど、ラムが丁寧に断っちゃったから。結果的に断って良かったのかもしれないけど」
「よくここが分かったな」
「あれだけ派手にやってれば誰でも気づく。寧ろ、あの爆撃音は自分たちの場所を教えていたとラムは解釈したけど? ……あぁ、そうだったわ。脳筋にそんな知恵なんてなかった。ラムとエミリア様に平伏して感謝なさい」
エミリアの次にラムと、二回に及ぶ簡単な返答でハヤトは納得。最悪の状況が最高の状況に変わった瞬間に「そりゃ、良かった」と、受けた傷の痛みも忘れて歯を見せて笑った。
迷子の件が解決するのに一時間近くかかると踏んでいたが、これは嬉しい誤算。前回と全く違う展開に苦しめられるだけだと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。
運命が味方したとでも言おうか。実際にはラムが迷子の母親のお礼を断ったのが全てだから、冗談抜きで彼女には感謝するハヤトである。
「それで、これはどういう状況? 数十分前と比べて随分ボロボロだけど。羽織はどこへやったの」
物事の優先度合いをつけれるラムがエミリアの傍にいたからこそ完成した構図。そんな奇跡的な状況を作り出した当人は、合流の感傷を流してはハヤトを見て目を細めている。
体の部分部分に裂傷が刻まれ、頬に走る斬撃の痕から血が止めどなく垂れるのが今のハヤト。額から汗を流す様はラムにとって久しく見るもので、背後から右肩を刺されたと思わせる抉り傷が痛々しい。
着用していた白の羽織を脱ぎ捨てた姿は彼の気持ちが昂ったことに他ならず、それだけの相手が今この場に存在していることを意味するはずだとラムは思う。
親しい友人の傷ついた姿を見たのだ。ラムの目が心配細まるのも当然の話。が、彼女の感情など知らぬ存ぜぬのハヤトは「羽織は暑かったら脱ぎ捨てた」と適当に言い、
「徽章を取り返そうとしたら、さっきの女が見境なく襲ってきたんだよ。この子……フェルトが盗んだモンを売る相手らしいぜ」
「え、でも、さっきのは……。じゃあ、仲間割れしてたってこと?」
「徽章の持ち主がいるんじゃ話にならない、って言ってな。俺とあそこで隠れるスバルを含めた全員を皆殺し、ってわけだ。だから、俺がそれを防ぐために殺り合ってた」
「そんで、今に繋がる」と。状況を簡潔に説明したハヤトにラムが「厄介な話ね」と懐から杖を取り出し、エミリアが「そうなのね」と事態を把握。
語るハヤトの態度があまりにも毅然としすぎて傷の度合いに気づけなかったのだろう。それからエミリアは「ハヤト! ひどい怪我してる!」と顔色を変えて慌てて駆け寄り、
「治癒魔法かけるからじっとしてて」
「別に要らん。この程度の傷なんざどぉってことねぇよ。刺されて切られただけだ。気合いでどうにかなる」
「だけ、って……そんなことないじゃない。いいからじっとしてるの」
「いい、って言ってんだろ。心配すんな」
投擲されたククリナイフが刺さった傷に手をかざそうとするエミリアの優しさは、やんわり断るハヤトによって軽く払われる。これ以上の傷を受けてきた彼からすれば、まだ生ぬるかった。
伸びる手をさっと払いのけ、その際に己の血が付着した手を握りしめる。ナックルを握る握力はまだ抜けていないし、拳に宿る戦意に減少の二文字が訪れる気配は感じられない。
まだやれる。拳を握っただけで自分の調子を把握したハヤトは浅く息を吐き、
「俺が動かなきゃ、誰が正面切ってあのバケモンと殴り合うんだよ。高々刺し傷一つ、根を上げてる場合じゃねぇ」
「強いの?」
「あぁ、とんでもねぇバケモンだよ。腕を切られた程度じゃ怯まねぇくらいのな」
返された言葉にラムとエミリアが警戒心を高める気配。頬から滴る血を拭うハヤトの真剣な横顔に嘘は感じられないことを悟ると、その警戒はより一層のこと高まった。
ハヤトの実力は十分知っている。ロズワールに実力を認めさせる程度の力、それだけで彼の強さは理解できるから。故に、それほどの力を保有する彼にそう言わせる存在に気を引き締めたのだ。
「——来るぞ」
フェルトの前に出るハヤトの視線が尖り、感覚的に感じ取った気配に声を一つ。二度と彼女を危険な目に遭わせないよう肝に銘じ、上がった呼吸を今の数十秒で整えて、バケモノとの戦闘に再び臨む度胸を見せる。
途端、呼応するラムとエミリアが彼の横に並んだ。右には杖を携えたラムがいて、逆側には正面に手を突き出すエミリアがいる。先程の女を敵と認識する少女二人は戦闘体勢に入り、赤と紫紺の双眸が鋭く尖った。
思わず、笑みが溢れるハヤトだった。自陣営の女性というのは基本的に頼もしい人しかいないことを、今更ながらにひしひしと実感している。
その三人が見据える先——そこには、廃屋を出たエルザがこちらへと近づいてくる光景があった。
「横槍なんて失礼な真似をするのね。こう何度も邪魔をされると流石にイラついてしまうわ」
エミリアの防御、ラムの風刃、ハヤトの打撃。瞬間的に連続した三連撃に動揺の隙を晒し、結果として豪快にぶっ飛ばされたエルザ。
腕を斬られて腰の骨を粉々にされたはずの存在は悠然としていて、ついさっき身に受けた被害を感じさせない安定した足取りで三人を睨んでいる。
構図としては三対一。個々の戦力的に考えても圧倒的有利なのはハヤトたち——にも関わらず三人の顔には油断が無い。
その理由は、
「その腕、確かに切ったはずだけど」
「えぇ。そうね。切られてしまったわ。——もう治ってしまったけど」
淡々と言っていい内容でない文章を余裕の態度で口にし、エルザは懐からククリナイフを取り出す。さもそれが当然だとでも言いたげに笑う様は、怪奇なものを見たラムを嘲笑っているようにも捉えられた。
普通ではありえない光景。自分が切断したはずの腕が知らない間に生えている。それも、近くに切断したての腕が転がっているにも関わらず。流石にアレを偽物だとは考えずらい。
「この兄ちゃんがぶっ込んだ傷も癒えてやがる……。なんだテメー。正真正銘のバケモンかよ」
再生したと思うべきか、否か。
そんなことを考えるラムの横からフェルトの声が流れた。先の特攻で心を蝕む恐怖が吹っ切れたか、ハヤトの背中から顔を出す彼女は三人と同様にエルザを睨んでいる。
言葉の通り、四人に近づく化け物は健在。あれほどの激闘をハヤトと繰り広げておきながら、その身に刻まれているであろう戦闘の被害は影も形もない。
ラムに切られた腕どころか、ハヤトに受けた傷までも回復。全身治癒された状態で帰ってきた。
「その回復能力にゃ、薄々勘づいちゃぁいたが。やっぱお前、まともな人間じゃねぇな。言葉そのままの意味でバケモノだよ」
「なら、そのバケモノと対等に殺し合うあなたはなんなのかしらね」
「バケモノ並みに強い男、とでも思ってくれ。生憎と切られた部位が再生するほど、人間やめてるわけじゃねぇんだ」
「あの女を基準にしなければ、脳筋も十分バケモノだけどね」と茶化すラムの声が聞こえてきた気がしなくもないが無視。立ち止まるエルザを見据え、胸を張るハヤトは彼女の煽り口調に笑みを返した。
そろそろ体力的にキツくなってきたが、二人が到着したここが頑張りどころ。久々の激闘に悲鳴を上げようと準備する肉体を強く鼓舞するつもりで笑い、彼は重い体に鞭を打つ。
そうとも知らないエルザ。自分と違って蓄積した傷に生命を侵食され続ける今でも揺らがないハヤトに彼女は「ふっ」と笑い、それからエミリアに視線を向けると、
「銀髪の髪に紫紺の瞳……。そう、あなたがそうなのね。まさか、徽章の持ち主まで現れるなんて驚きだわ」
「驚いたのは私の方よ。迷子の子をお母さんに届けて来てみれば、こんなことになってたんだもの。……ねぇ、ハヤト。本当に治癒魔法いらないの? その傷、すごーく痛そうだけど」
「だから、いらねぇ、って言ってんだろ。その暇があんならさっさとあの女を倒すぞ。どうしてもかけたいなら、その後にしてくれ」
「ここからが本番だろ?」と強がるための笑みが高揚感に包まれたものになり、その変化に渋々といった具合で「分かった。絶対だからね」と念押ししてエミリアは引き下がる。
このとき、まるでエミリアのことを知っているような言い方のエルザにラムは密かに引っかかっていた。加えて、彼女が徽章の持ち主であるとどうして分かっているのか不思議だ。
徽章のことは、王選候補者とその候補者陣営に属する人間しか知らないはず。誰かが部外者に漏らしたとも考えずらい。王選が開始するまで内密にするのが絶対なのだから。
となると——。
「フェルト。お前はスバルと一緒に隠れてろ」
この一件は、他陣営からの妨害工作。
まさかとは思うが、念のため頭の片隅に入れておこうと思うラムの耳にハヤトの低い声が届く。自分に投げかけられたものではないそれに意識を内側から外側に向けると、
「今すぐ寝床に行け。終わったら呼ぶから、それまではあの中から見てろ」
「さ……さっきは普通にヤバかったんじゃねーのかよ。実際、アタシが入らなけりゃ兄ちゃん死んでただろ」
「かもな。それに関しちゃ、マジで感謝してるぜ。危ないところを救われた。けど、頼りになる仲間が来たから平気だ」
「けどよ」
若干、食い下がるフェルト。相変わらず自分のことを守ろうとする背中は大きく見えて、それに庇われると形容し難い安堵感に心を包まれる気がした。
自分が戦いの邪魔になることを理解できないほどフェルトは馬鹿ではない。けれど、他人に危険なところを全て任せ、自分は何もせずに引き下がるのが性に合わないのも事実。
だって、元を辿ればこの状況を作った元凶は自分。なのに、自分が始めたことを敵対していたはずの人間に丸投げ——心がモヤモヤしてならない。
「いいから下がってろ。その気持ちだけで十分すぎる」
そんなフェルトをハヤトは戦闘から遠ざけたがる。戦力外だとか、戦いの邪魔だとか、色々と現実的な意見はあるけど、やはり一番は危険だから。
あんなバケモノの殺意が支配する場に、推しである少女を置いておきたくない。置いていたら、自分はきっと彼女を守ろうとして動きが鈍ってしまう気がする。
だから、
「その代わり、これが終わったら徽章について話をさせてもらうからな。だから、今は安全なところから戦いを見ててくれ。交渉相手に死なれると困るんだよ」
「それはアタシも同じだ」
「あーもう! いいからさっさと行け! 俺はそんな簡単に死なねぇよ!」
すんなり引き下がらないフェルトに痺れを切らして一喝。突然に声を張り上げるハヤトの怒号に近しい声が轟くと彼女の肩が驚きに跳ね、周囲にいた他の人間も一度だけ心臓が跳ねた。
誰もが驚く声の矛先を向けられたフェルト。苦虫を噛み潰したような表情を見せる彼女は、しかし自分の中で割り切った。「死ぬんじゃねーぞ!」と怒鳴り声を殴りつけ、戦闘領域から走り去る。
その背を視線で追うのはラム。今のやりとりに意味不明な親近感、特にフェルトに対してその感情を抱く彼女は「ハッ!」と鼻を鳴らし、
「なに、徽章を盗んだ相手と親しくなっているのかしら。敵対する人間と仲良くなって、油断したところで一気に裏切るつもり? 盗まれた側とはいえ、美しいとは思えないわ。脳筋らしくもない」
「んなこと誰も言ってねぇよ。争わないように話をつけたら、そうなっただけだ。勘違いすんな」
「でも、ハヤトって本当にすごい。知らない子だとしてもすぐに仲良くなって、お友達になれるんだもん。すごーく羨ましい」
「あなたたち、私のことを舐めているの?」
さしずめ、誰とでも仲良くなれるハヤトの良いところが発揮されたと思うエミリアとラム。そして、コミュ力お化けな真なる陽の民ハヤト。最後に、その三人の緊張感のないやりとりがお気に召さなかったエルザ。
両手に携えたククリナイフを携える彼女の姿勢は前傾姿勢で、今にでも飛びかかって来そうな雰囲気。構え一つで三人の気を引き締めさせると、柄を握る手に力が込められた。
——戦闘開始の予感。
「そんなことないわ。ハヤトにひどいことしたんだから、私、すごーく怒ってるの」
直後。
エミリアの感情を具現化する勢いで三十もの氷柱が出現。一つ一つが礫程度の規模なそれは、使用者の技量があれば一種の弾丸と成るであろう数の暴力。
戦う気は十全。彼女の戦意が波紋したことで他二人が各々の武器を構えるのを見ながら、「それは、ごめんなさいね」とエルザは興奮気味に口角を吊り上げ、
「私の方もあなたを殺せとまでは言われてないのだけれど……。状況がこう転がった以上は仕方がない。ええ、仕方がないのよ」
自分に言い聞かせる。というよりも、嬉々としてその事態を受け入れるように聞こえる言い方にラムの喉が小さく唸る。またしても、引っかかるものがあった。
今の言い方。まるで、誰かに言われてこの事態を引き起こしたような。徽章を狙う事といい、今の発言といい、色々と引っかかることが多い。
知らず知らずのうちに自分が誰かに雇われたこと間接的に告げたエルザ。それから彼女はエミリアの腹部に視線を下げ、
「それなら、あなたも殺させてもらうわ」
「それは許せないなぁ」
不意に、新たな声が空間に響く。
この場にいる誰の声でもない声帯は、命の奪い合いを行う場にしては呑気で穏やかなものだった。直後、声に釣られて呼び出された声の主がエミリアの目の前に姿を現す。
腕を組み、ピンクの鼻を鳴らし、威風堂々とした姿で現れたのは灰色の猫——エミリアの親代わりを名乗るパック。エメラルドグリーンの光を淡く纏いながら顕現した大精霊はエルザを見据え、
「ボクの娘は傷つけさせないよ? どうしても、って言うならボクの親心を突破してもらおうか。まぁ、その前にハヤトがぶっ飛ばしちゃうと思うけど」
猫髭を弄るパックの信頼に「おうさ。任せろよ」と、歯を見せながら笑って拳を合わせるのはハヤト。将来的に騎士を名乗るのだから当然と言えば当然だが、かの大精霊に頼られるとなると込み上げてくる感情があった。
ならば、その信頼に応えてやろうじゃないか。どんな化け物が相手だろうが望むところである。全身を蝕む痛みを力に変えて戦うカンザキ・ハヤトの真骨頂、それを見せてやろう。
自然と昂る心。心強い加勢に戦意が倍増し、釣られるマナが沸々と沸騰。ゲートから噴火するそれらが『アクラ』に注がれて身に纏う黄金色のヴェールの濃さが増し、彼の存在感に磨きがかかった。
そうしてハヤトを焚き付けたパック。頼り甲斐のある返事に「ふふん」と胸を張る彼は小首を傾げ、
「どうかな? この状況でも、君はまだ続けるつもりかい?」
「愚問ね。続けるに決まってるでしょう。こんなにも楽しい舞台が用意されたのだから、退くなんて論外。久しく血が滾るってものね」
「……なるほど。筋金入りだわ」
魔法展開の準備をしながら撤退を煽るパックだが、彼に即答されたのはエルザの戦闘継続宣言。この状況下で笑みを浮かべる余裕すらある彼女を見ると、ラムが忌々しげに吐き捨てたのも納得だ。
かつて神童と呼ばれたラム。ロズワールに実力を認められたハヤト。大精霊パックと彼を従えるエミリア。その四人を目の前にしても、エルザというバケモノは物怖じする様子が全くないのだから。
普通に考えて圧倒的不利な戦況。命が惜しいのなら撤退をお勧めする場面でも、その心は揺らがない。ククリナイフを両手に携える彼女の表情は、戦力的優位に立つ四人がぞっとするほど笑顔。
その笑顔のまま、エルザは言った。
「精霊に、精霊術師に、魔法使い。そして、バケモノ。全員まとめてお腹を裂いてあげる」
「俺が完全にバケモノ認定されたが?」
「よかったじゃない。本物のバケモノにそう言わせるのなら、脳筋の実力は証明されたわね。人外」
「やめろ。人外言うな」
一人一人、指差しで確認するように剣先を向けて獲物を定めるエルザにハヤトが苦笑。素直に喜んでいいのか曖昧な評価のされ方にラムに鼻で笑われ、なぜかエミリアがドヤ顔。
その勢いに乗るエミリアは「そう。ならいいわ」と尖る紫紺の瞳でエルザをキッと睨み、
「退く気がないなら仕方ないわ。けちょんけちょんにしてあげる!」
「こんな女、さっさと片付けて帰るわよ」
「うんうん。やる気は十分だね。それなら、ボクも張り切っちゃおっかにゃ」
威勢のいいエミリアに触発されたラムが空間を風で吹き荒らし、パックがエミリアと同様に無の空間から氷柱を生み出す。
四人中三人が遠距離攻撃型と、割と編成が偏ったパーティー。そうやって攻撃に必要な準備動作が自然に行われると、その場の空気は戦闘一色に支配された。
途端、戦闘再開を察したハヤトが三人の前に出る。隣り合って並ぶ構図から自分一人だけ外れ、「俺がやる」とでも言いたげな雰囲気をエルザに悟らせると両の拳を構え、
「俺がアイツと殴り合う。お前ら三人は援護だ。俺が被弾したら体勢を立て直す時間を作ってくれ。そのまま倒してくれてもいいぜ」
「その傷で戦えるのかい。って言うのは愚問かな?」
「ったりめーよ」
正面のエルザと違い、自己再生能力なんてあるはずがないハヤト。本当なら受けた被害に悶えているはずの彼は、しかし負った傷による激痛を周囲に感じさせない堂々っぷり。
立つ足は問題なく安定して、拳には確かな力があって、背筋はまっすぐで、敵を睨む表情に苦痛の文字は存在しない。全くもって無問題。荒ぶる闘志に心を燃やす男が、三人の目には映っている。
否、四人だ。
「いい。いいわ。すごく素敵! お楽しみが次から次へと増えてぞくぞくしちゃう。もっと楽しみましょう。簡単に終わらないでちょうだいね?」
場を包む熱気が最高潮にまで高まった感覚に、己の心すらも高まっていくのを感じるエルザ。この心をどこまでだって興奮させてくれる世界に向けて凶悪に笑い、震えそうな高揚感に熱っぽく吐息。
それが世界に呑まれれば彼女の準備も整い、戦闘領域で息をする全員の準備が整った。暴れる暴風が、狙いを定める氷柱が、携えられた二振りのククリナイフが、飛び出す瞬間を今か今かと待ち望む。
中でも一番はハヤト。睨み合いの膠着を終わらせにかかる彼は、燃える展開に一度目のループが脳裏を過ぎると形容し難い感情が爆発し——、
「やるぞ、テメェら! この戦いに
もう二度と、自分の前で誰も死なせない。そう固く誓う声が己に発破をかけ、鼓膜に轟く声に気合いを入れられたエミリアたちの返事が高く上がって。
——激闘は、最終局面を迎えた。