少しでも望む未来へ   作:ノラン

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一話だったものを二話に分けたので、今日中にもう一話出します。





和やかなひととき

 

 

 

「ほいほいっ、着替え完了! 着慣れたジャージはいつ着ても安心するね! このナツキ・スバル、気持ちを新たに頑張っていくぞい!」

 

「ぞい? すごーく変な語尾。急に出てきたと思ったら大きな声を出して……びっくりしちゃったじゃない」

 

「んぁ? それはメンゴ。さっきの服も動きやすくて良かったけど、やっぱしジャージが落ち着く的な? ふつふつと溢れる感情を抑えることができなかったのよ。分かって」

 

「ごめんなさい。ちょっと分かんない」

 

 

早朝の静けさ漂う庭園に二つ。溌剌とした少女の声と、ほのかな微笑が混じった少女の声が木霊する。広大な壮観な緑の大地で、少女二人の会話が音を立てながら広げられた。

 

前者は庭園の芝生に立ち、謎のポージングを取りながら歯を見せて笑うスバル。屋敷の患者衣からジャージに着替えた彼女は元気がいい。

 

その彼女を見るのは後者のエミリア。言葉やらポーズやら色々と意味が分からない彼女は小首を傾げ、困惑の表情を浮かべている。

 

 

 ——時間は少し巻き戻り、ハヤトが仕事をするべく庭園から離れた頃。

 

 

ジャージに着替えたいという、スバルの要望の下。エミリアに適当な部屋に案内された彼女は手早く着替えを済ませ、エミリアが待つ庭園に足を運んでいた。

 

部屋で待っているのもつまらない。そんなスバルの胸の内を見透かしたハヤトによって、エミリアにスバルの相手をする役目が下り、再び合流していたわけである。

 

 

「んで? エミリアちゃんはこれからなにすんの? アタシは特にする事とかないから、エミリアちゃん次第で動きも変わってくるけど」

 

「私はこれから朝の日課に……なにしてるの?」

 

 

自分の行動をエミリアに一任された以上、なにかが起こるまで彼女にくっついていくのが自然な流れだと思うスバル。

 

着替え途中、そのことに気づいた彼女が適当に屈伸運動を始めると、隣に並ぶエミリアが傾げた小首を反対に傾げ、不思議そうな顔をした。可愛い。

 

異世界人、それも、とてつもなく可愛い女の子と話す感動を覚えつつ、スバルは「ん?」と喉を鳴らし、

 

 

「体が固い状態で動くと怪我とかしちゃうでしょ? だ か ら、そうならないための準備運動。さっきハヤトの仕事手伝うのであったまったけど、一応ね。走り出した途端にバチーンってなってアキレス腱断裂! とか、なったら大変だし」

 

「ばちーん? よく分からないけど、確かに体を温めるのは大切よね。それでその動き?」

 

「準備運動ってやらないの? ふーん。んじゃ、アタシがエミリアちゃんに故郷に古くから伝わる準備運動を伝授しよう! 特別だからねっ!」

 

 

自分が考えたと言わんばかりのスバルの元気さに拍車がかかった瞬間、伸ばした両手を大空に突き上げて伸びの姿勢を作り、三秒して脱力。

 

今ので全身を大きく伸ばしたスバル。三歩、前に出る彼女は屋敷に背を向け、陽光を顔面に浴びながらエミリアに振り返ると、

 

 

「ほら、エミリアちゃんも早く」

 

「え? 私は……」

 

「せっかくだし! ハリーハリー!」

 

「は、はりー?」

 

 

やや強引な圧の掛け方に、エミリアは戸惑いを隠せない。先程から言葉の理解が追いつかず、スバルの言語には困惑させられてしまう。一つ一つを丁寧に拾っていては大変だ。

 

そんなわけで、特に気にしないことに。受け流しの体勢を心に作ると「うん。分かったわ!」と元気よく頷き、手招くスバルの横に並ぶ。

 

準備は整った。ニヤリと笑うスバルは「すぅ」と胸を膨らませて息を吸い、

 

 

「ラジオ体操第二ぃーー!」

 

「第一は?」

 

 

などと的確なツッコミを受けながら、準備運動なるものを開始。第一ではなく第二を選択するところ、常に背伸びをしたくなるナツキ・スバルの性格がそれとなく表れていた。

 

ラジオ体操をアカペラで歌うスバルが動き出すと、エミリアも同じように動き出す。こちらの動作を真似する様、真似するために見てくる様、そのどちらも実に可愛らしい。

 

 

「いち! にっ! さん! しっ!」

 

「ごー! ろく! しち! はちっ!」

 

 

初めこそ戸惑い、困惑していたが、続けているうちに解消されたのだろう。スバルの声を追いかけて数字をカウントする声は真面目で、表情にも熱心さが見えてきた。

 

楽しめているようで結構。「ふっ。はっ」と無邪気に声を上げながら体操するエミリア。彼女を見るスバルは楽しげに笑い、順調にラジオ体操第二を伝授していった。

 

 ただ、一つだけ。

 

 

「ゆ、揺れてやがるぜ。ちくしょう」

 

「ん? なんのこと?」

 

 

体操の過程で跳躍の動作をする際、順調に進んでいたアカペラが突然に止まり。代わりにスバルの羨望の眼差しが、エミリアの胸に集中していたことは記しておく。

 

そんなこんなで、ラジオ体操第二も終わりに差し掛かる。ちょうどスバルの息が切れてきたところで、休憩に深呼吸を挟み、

 

 

「最後は、両手を天に掲げて———」

 

「テン? どうしてスバルがテンを知ってるの?」

 

「ヴィ……へ?」

 

 

いい感じに終わろうとしたところで、エミリアに遮られた。真面目な顔から変化し、疑問を抱いた顔をした彼女が言葉通りの体勢で固まるスバルを見つめている。固まったまま、スバルは考えた。

 

どういうことだろう。どうして今の話から『テン』という単語が出てくるのだろう。自分はただ、両手を『天』に掲げてと言っただけで———、

 

 

「……あ。いや、今の天は、テンって人の名前、固有名詞の方じゃなくて。あれよ、空の方だから」

 

「テンはソラノよ?」

 

「んん?」

 

 

言葉の意思疎通が噛み合わず、今度はスバルが困惑。ハヤトから聞かされた『テン』と、空の『天』が重なるとは思わず、ノリで放った単語が予期せぬ事態を招いた。

 

その上『そらの』とかいう、スバルも理解できない言葉を投げかけられ、疑問に疑問を重ねたエミリアに「どうしてテンの名前が出てくるの?」と問い詰められる始末。

 

どうしてこうなった。『天』はともかく、『空の方』と言ってどうして伝わらない。いやまて、ハヤトから聞いたのが確かなら、彼の名前は『ソラノ・テン』だったはず。

 

空の方、空の、そらの、ソラノ。なるほど。

 

 

「大空の方。スカイよ、スカイ」

 

「あ、そっちの天ね」

 

「ややこしいな!?」

 

 

数秒でエミリアの考えを理解し、誤解の糸をぶった斬る勢いで吠えるスバル。

 

両手をポンと叩いて曇った表情が晴れやかになったエミリアを見ると、スバルは「それじゃぁ!」と声を大にして、

 

 

「誤解も解けたことだし。両手を天に掲げて、はい、ヴィクトリー!」

 

「ーー?」

 

「ヴィィクトリィーー!」

 

「び、びくとりー!」

 

 

ラジオ体操の余韻が引き、テンション感についてこれなくなったエミリアを無理やり引っ張る。そうしてスバルと同じ体勢を作ったエミリアの声が高くなったところで、一連の流れは終了となった。

 

ちょっと横道に逸れたラジオ体操第二。お陰で微妙な空気が流れたじゃないかと、まだ見ぬ『ソラノ・テン』を恨むスバル。彼女は「ふぅー」と額の汗を拭う動作、やり切った感を出し、

 

 

「以上。初めてにしては上出来ね。エミリアちゃんにはラジオニスト入門……初段の称号を授けちゃう。その調子で、初代ラジオ体操第二継承者として、これからも励むように。ガンバ!」

 

 

両肘を曲げて『がんばるぞい!』のポーズ。熱意のあるスバルのポージングに、エミリアは疲労したように吐息をこぼし、

 

 

「言ってることはよく分からないけど、体操がしっかりしてたのは確かみたい。ちゃんと体も解れてるし、マナが綺麗に循環していくのを感じるわ」

 

「マナが循環……? 血行が良くなる的な?」

 

「そんな感じだと思っていいわよ」

 

 

スバルなりの解釈の仕方に首肯し、エミリアは胸に手を当てながら深呼吸。ラジオ体操第二の疲れが尾を引いていく感覚を捨て、こちらを見てくるスバルに微笑んだ。

 

微笑まれても困るスバルが「そ、そんなに見つめられちゃうと照れるなぁ」と体をくねくね揺らしながら茶化すのを聞き流すと、彼女は目の前にいる少女をまじまじと見つめ、

 

 

「それにしても。スバルって、どこの子なの?」

 

「ってーと?」

 

 

藪から棒な質問に小首を傾げるスバル。先程の自分と同じ動作をする彼女にエミリアは「だって」と言葉を繋げて、

 

 

「その衣装……じゃーじ? って言うの、ルグニカじゃまず見ない衣装だと思うの。使われてる素材もね。それにテンとハヤトと同じ黒髪黒目、南方の流民に多い特徴だけど、ルグニカ(ここ)は東端にあるし」

 

 

一つ一つ、指差しで指摘していくエミリア。好奇心と詮索を孕んだ紫紺の瞳にスバルを映すと、彼女はより一層のこと不思議ちゃんな少女のことをじっくり観察。

 

昨日、自分たちの問題に割り込んできては、色々と協力してくれたハヤトの知人っぽい人。それが、エミリアの中で形作られたナツキ・スバルという少女の印象。

 

ハヤトの知人というだけで興味が惹かれる上に、この世界では珍しい姿をしているのだ。様々な物に興味を示す彼女が、今のように観察しないわけがない。

 

 

「あー。アタシはそのー、なんて言えばいいのやら……」

 

 

その視線にスバルは喉を唸らせる。今になって改めて突きつけられると、どうしたものかと困っていた。

 

彼女の反応からして、異世界召喚された自分の姿が異質であることは間違えない。となると、ただの異邦人と言うだけでは済ましてくれなさそうな気がする。なにかそれっぽい理由、東の果てとかどうだろうか。

 

異世界から来た、と言っても信じてもらえる可能性は低い。信じられずホラ吹き呼ばわりされるか、頭のおかしい人間認定されるのがオチ。それ以前に、真剣に考えるエミリアに変な嘘をつくと却って悪影響を及ぼしそう。

 

そんな風に頭を高速回転させるスバル。考える素振りをして時間を稼ぐ彼女だが、エミリアは「それに」と、畳み掛けるように口を動かした。

 

 

「昨日ハヤトが、スバルは俺の客人だー、って言ってたけど。それって、スバルとハヤトは知り合い、ってことよね? ハヤトもスバルと同じ黒髪黒目で、屋敷に来たときも変な衣装だったし、出身は同じなの?」

 

「今、ナチュラルにアタシの服装をディスったね、この子」

 

 

自慢の相棒を馬鹿にした自覚のない少女に「ん?」と素直な反応を受ける中、スバルは切り替えるような咳払いをして、

 

 

「それは間違えないわね。確認とったし多分、いや絶対、ハヤトとアタシは同郷。そういう意味合いじゃ、知り合いってのもあながち間違ってないと思う。同族だしさ」

 

「同族?」

 

 

意味深な発言にエミリアが引っかかるが、スバルは見て見ぬふり。この世界の人間には決して理解できない現象——異世界召喚の体験者という意味合いでのそれを、細かく説明するつもりなどない。

 

そう考えたところで、ふと疑問が湧いた。自分よりも前に、自分と同じ世界から召喚された存在がこの場所には二人——今は一人しかいないが、実際には二人もいるのだから、

 

 

「ハヤトから故郷について聞いたりとか、しなかったの? ハヤトがこの屋敷に来た状況さっき聞いたけど、下手したらアタシ以上に奇天烈だったんでしょ? なら、今みたいに()れると思うんだけど」

 

 

「そこんとこ、どぅーよ」と指を鳴らし、話の焦点を自分からハヤトに逸らすスバル。

 

考えた結果、自然な流れで話の路線を変更することに決めた彼女にエミリアは「んー」と喉を鳴らして空を仰ぎ、

 

 

()れなかったわけじゃないけど、あの二人はちょっと特殊だったの。身元も素性も説明できないけど、そーゆーの全部ひっくり返せるものを証明すればいい、ってロズワールが二人を率先して引き入れようとしてたから」

 

「なにそれ。アタシ、気になる」

 

「そーなの? これから日課があるから細かい話はできないけど……」

 

「じゃじゃ、簡単に! 細かい話とかすっ飛ばしていいから。せめて話の概要だけでも!」

 

 

別の話題に花を咲かせ、自分の話題を枯れさせようとするスバルが顔の前で両手を合わせて懇願。ハヤトの口からは語られなかった当時の様子を知れることも重なって熱心な様子だ。

 

そんなスバルにエミリアは沈黙。口元に右手を添えて考える仕草。話すこと自体は構わないが、あの濃かった話し合いのどこを抜粋するべきかと悩み、視線を下に向ける。

 

その瞬間、右手首に飾った腕輪が見えて。

 

 

「私にとって、すごーく大切な日だった」

 

 

 言葉が、勝手に出ていた。

 

紡がれた銀鈴の声が思い出を奏でた途端、スバルの息が詰まる。直前に「ふっ」と幸に彩られた笑みを咲かせたエミリアの声音に、一瞬にして引き込まれた。

 

話の概要としては不十分すぎるが、それ一つで許してしまうのがスバル。なにか良いことがあったのだろうと思っていると、エミリアの視線が一箇所に止まっている事に気づいた。

 

彼女の口元に添えられた右手、その手首に飾られているブレスレット。白と紫の宝石が交互に嵌め込まれた、高そうなそれ。陽光を反射して光り輝いている。

 

 

「その腕輪、すごく綺麗ね」

 

「ほんと? ありがとう。嬉しい」

 

 

腕輪に意識を向けてきたスバルに破顔し、声を弾ませたエミリアが頬を緩める。その緩み度合いは一目見ても分かりやすく、凛としていた表情から一気に力が抜けた。

 

恍惚とした様子のエミリア。彼女は今、その頭の中で何を考えているのか。これまでとは毛色の違う、熱っぽい吐息を小さくこぼすと、

 

 

「この腕輪はね。私の大切な人がくれた、生まれて初めての贈り物——宝物なの。身につけてると、その人と繋がってるような気がして……とっても安心してくる」

 

 

愛おしげに左手の指先で腕輪の輪郭を撫で、吐息。今にも溶けてしまいそうな表情をしながら、大切に保管されている記憶を回想すると、吐息の回数は重なった。

 

それらの吐息は先程のと全く同じ種類に属するもので、なんであるか理解するのに大して時間を使わなかったスバルである。目の前にいる少女の様子から、なんとなく察せるものはあった。

 

どうやらこの世界には、この美少女を虜にさせた男が既にいるらしい。仮に自分が男ならば、今この瞬間、殺意やら嫉妬やらの炎が燃え上がるに違いない。いや、燃え上がる通り越して大爆発。

 

果たしてどんな男なのか、是非とも会ってみたいものだ。

 

 

「——ダメだわ」

 

 

エミリアの恋愛事情に首を突っ込みたくなる野次馬スバルの横。茫然と腕輪を眺め、記憶世界に思いを馳せていた恋する乙女が現実世界に帰還する。

 

はっとして、下がっていた視線を元の高さに戻すエミリア。首を軽く横に振る彼女は「三日間の辛抱なんだから」と己に言い聞かせるように呟き、ネックレスのように首からぶら下げた緑色の結晶に触れる。

 

途端、スバルの目が光った。

 

 

「その、結晶? みたいのって……」

 

「精霊が身を宿す精霊石。昨日は大変だったから、パックのことは紹介できてなかったわよね?」

 

「パックって、あの愛くるしくてモフモフしてそうな喋る猫のこと?」

 

 

この世界線ではちゃんと見たことも話したこともないが、一度目の世界線では違う。尤も、見たのはほぼ一瞬で、話したのも一瞬だが。

 

しかし、生粋のモフリストであるスバルがあの愛くるしい生物を忘れるわけがない。あのモフモフ、できれば堪能したいと思っていたところ。

 

今のところ謎に包まれた喋る猫もとい精霊、パック。その存在の眠る結晶石が、名を呼んだスバルの声に呼応するかのように淡く輝き始め、

 

 

「ボクのことをそんな風に言ったのは、君が初めてだなぁ」

 

 

緑の輝石(きせき)から溢れる光の粒子が子猫を形作り、話の中心に挙がっていた存在が顕現する。

 

マイペース調な声色がスバルの耳にはっきり届いたときには、エミリアの手の上に灰と白が混じった毛並みな二足歩行のネコ——パックが姿を見せていた。

 

 

「やぁ、スバル。ボクはパック。この子の母親兼父親代わりをしてる、あの愛くるしくてモフモフしてそうな喋るネコだよ」

 

 

穏やかな表情でこちらを見て、猫耳をピクピクさせながらパックは手を上げる。その手にスバルは人差し指を伸ばして、

 

 

「アタシの名前はナツキ・スバル。昨日、エルザとの死闘に決着をつける一手を作った無一文。ハヤトの客人としてこの屋敷に迎えられてエミリアちゃんとの恋バナ満喫中。そんな感じでヨロシク」

 

「うん。よろしくね、スバル」

 

 

猫の小さな手と人間の人差し指が合わさり、簡単な自己紹介が済む。その際、肉球のぷにぷにとした感触が人差し指の腹に押し付けられて、ちょっとだけむず痒いスバルだった。

 

肉球の感触になんとも言えない彼女の感想はさておき。スバルとの自己紹介を終えたパックはくるりと身を回すとエミリアと向き合い、

 

 

「おはよう、リア。昨日は大変だったけど、よく眠れたかい?」

 

「おはよう、パック。多分、一番大変なのはハヤトだったから、よく眠れた。パックも、昨日は限界まで頑張らせちゃってごめんね」

 

「問題ないさ。リアのためなら、ボクは世界だって滅ぼす覚悟だよ」

 

「怖いこと言わないの」

 

 

胸を叩くパックの冗談じみた言葉に笑みを溢し、エミリアは口元を僅かに釣り上げる。愛娘の元気そうな姿を見るパックもまた、釣られるようにニコリと微笑んだ。

 

雰囲気と態度。明らかに自分と接する時のものとは違うそれを見るスバルが謎の疎外感を感じる中、ひとしきりパックと笑い合ったエミリアは「それじゃ」と前置き、

 

 

「私は日課を済ませてくるから、パックはスバルのこと……戻ってくるまでお願いしちゃってもいい? この子、ハヤトが言うには大人しくできないらしい………大人しくできないくらい子どもっぽいらしいの」

 

「今、エミリアちゃんの中で明らかな情報修正が入った! ハヤトが言ってたからって、それ本当のことだと思わないでよね!? アタシは今年で十八! もうすぐ大人! おーとーなー!」

 

「リアの頼みなら任せてよ。子守りは得意だからね」

 

「聞きなさいよ!」

 

 

ハヤトに落ち着きのない人間認定された挙句、エミリアに子どもっぽいと言われ、最終的に自分を任せることを子守りと言われたスバル。

 

やいのやいの上げる抗議の声は一人と一匹には届いていないのか、騒ぐスバルを置いてエミリアは庭の外れの方へと去って行ってしまった。

 

そうして、その場に残ったのは宙を泳ぎながらこちらに近づいてくるパックと、ぶつくさ不平を垂れるスバルの二つ。

 

 

「それで、スバルのことについてだけど……」

 

 

エミリアの姿が消えるのを最後まで見届けたパック。二人きりになったところで、彼はスバルについて問い詰める気配を漂わせる。

 

無事に逸らした話を戻される気がして、不意なそれにスバルは思わず肩が跳ねた。

 

 

「色々と聞きたいことがあるんだよね。リアが聞いてたことも含めて」

 

 

浮遊する彼はスバルの顔の前に移動し、黒の双眸をじっと眺める。全てを見透かしたような目を向けられ、視線で縛り付けられた感覚を味わうスバルはそれから逃げることができない。

 

そんな彼女の様子にパックはすっと目を細める。「けど。別に今はいいや」と、首を横に振り、

 

 

「まぁ、その事についてはあとで聞かれると思うから、ボクが聞く必要もないかにゃ。そのときになったらハヤトと一緒に頑張って説明してね。じゃにゃいと、下手したら殺されちゃうかもしれないし」

 

「平気な顔して不穏なこと言うのやめてくれない!? 割と洒落にならないんですけど!?」

 

 

自ら投げかけようとした話題を捨て、からから笑うパックにがなるスバルの声が重なる。

 

その意味を知りたい気持ち半分、話を逸らしたい気持ち半分。反する気持ちが衝突した結果、後者が優ったおかげでその意味を知ることはできなかった。

 

 

 しかし、これより数十分後。

 エミリアとパックとの会話を十分に楽しんだスバルは、その言葉の意味を知ることになる。

 

 






テンがエミリアに腕輪をプレゼントしたお話、覚えてくれてる人とかいるのかな……。

気になる方は前作に飛んで、『人生初の贈り物記念日』を読んでみてください。エミリアがテンに無自覚に惚れた日です。


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