少しでも望む未来へ   作:ノラン

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地雷回避させ職人、ハヤト

 

 

 

 ——時間は戻り、場面は禁書庫。ハヤトとベアトリスの、心温まる空間。

 

 

「ベアトリス。そろそろ離れろ。多分、結構な勢いで時間が過ぎてる」

 

 

胸に埋まる幼女の背中をポンと叩き、ハヤトは閉じていた口を小さく動かして呟く。そろそろ床の硬い感触に尻が痛くなってきたところで、彼は不意に口を開いた。

 

 

「分かったかしら。マナも十分に確保できたし、今日はここまでなのよ」

 

 

どこか疲労感を含んだ声が禁書庫に響くと、埋めていた顔を上げたベアトリスがゆっくり頷いた。跨っていたハヤトの体から退()いて軽快に立ち上がり、衣装に付着した埃を軽く払う。

 

「よっこらせっ」と声を溢するハヤトもまた、彼女と同じように立ち上がった。ただ、彼の場合は軽快とは言えない立ち上がり方で。重い腰を気合いで上げたような雰囲気がある。

 

両手を天井に向け、体を伸ばすハヤト。「んー!」と唸る彼は首を回し、

 

 

「なんか今日は……随分と吸われた気がするな。いつもよりも疲労感が多いような……。体も(おめ)ぇし、若干だが目眩がするぞ。お前、普段よりごっそり持ってったんじゃねぇだろうな」

 

「気のせいかしら。仮にそうだとしても、お前には受け入れる義務がある。元々、ベティーとお前がああするのはそのためなのよ」

 

 

「だりぃ」と、情けなく背筋が折れ曲がったハヤトのジト目には取り合わず、ベアトリスは言いながらそっぽを向く。満足そうに頬を緩ませる幼女は赤らむ頬を手の団扇でぱたぱたと扇ぎ、深々と息を吐いた。

 

顔を見せてくれないベアトリス。その真意を気にしないハヤトは彼女とは別の意味で息を吐き、

 

 

「義務って……。まぁ、そうだけどよ。最近は慣れてきたが、アレ、やられる側としては結構キツいんだぜ。知ってるか?」

 

「ただでさえ、お前はマナの貯蔵量が多い性質。ごっそり持ってかれたくらいで根を上げてんじゃないかしら。情けない」

 

「上げてねぇし、情けなくもねぇ。この程度で俺がへこたれるわけねぇだろ。舐めんな」

 

 

呆れたと言いたげなベアトリスの挑発に強気に返し、ぐっと拳を握りしめて胸を張るハヤト。煽り耐性がマイナスに極振られている男は基本、どんなときでも売り言葉には敏感だ。

 

真面目な話、割と辛いところはある。普段なら慣れたはずの倦怠感——体の中に貯蔵されたマナが吸収された際に必ず訪れるそれが、今回は度合いが大きいから辛く感じる。

 

尤も、そこで疲れた様子を表に出さないのがハヤトという男。

 

 

「ま、無くなった分は勝手に湧いてくる。待ってりゃそのうち回復すんだろ。そろそろ飯の時間だろうし、俺らも行こうぜ」

 

 

気合い一つで全てを乗り越えるハヤト。常人ならば息を切らして倒れる場面でもいつも通りの気丈夫っぷりを見せつけ、彼は扉に向かって歩き出す。

 

その後を追うのは勿論、ベアトリス。頬の緩みと赤みを静めた彼女は先ゆくハヤトにすぐ追いつき、さっと引き締めた澄まし顔を見せながら横に並ぶ。

 

自分が追いつけるよう、わざと遅く歩いてくれたことに気づきながらも特に触れず。なんとなく顔を横に向けて彼を見た。

 

 

「ーー? なんだ?」

 

「別に。なんでもないかしら」

 

 

見た瞬間、あっさりと視線に気づかれて適当に言葉を返し、正面の扉に顔を向ける。「んだよ、それ」と笑って受け流す声を聞きながら、不意に、自分の体に残存する彼の体温を感じた。

 

まだ、ハヤトの体温が残る体。感じていると意味の分からない安心感を抱かされて、自然と気が緩んでしまう。けど、そんなに嫌いじゃない感覚。むしろ、最近では癖に———、

 

 

「ベアトリス。扉、開けるが? 開けて大丈夫か?」

 

 

一つの考えが完結しかけたところで、彼女の意識はその声に呼び戻される。気がつけば自分は扉の直前に来ており、扉の取っ手に手をかけるハヤトがこちらを見下ろしていた。

 

首を横に振り、余計な考えを断つベアトリス。気を緩ませる温もりを意識から排除し、徐に右手を伸ばして扉に触れると、

 

 

「ーー。繋いだのよ」

 

「おう」

 

 

僅かな沈黙を挟んで頷き、それ一つで起こった現象を理解したハヤトが取っ手を捻る。

 

禁書庫に入った際に使った扉は、三階の廊下に繋がっていた。ならば、開けた扉の先に広がるのは廊下なのが普通だが、

 

 

「おー。やっぱ便利。俺にもその能力、分けてほしいくらいだ。なんかこう、お前の持つ力をちょちょいっと俺に移植する感じで」

 

「陰属性と適性もないお前が、適当にほざくんじゃないかしら」

 

 

親しみのある軽口を叩く両者の目に映るのは廊下ではなく、エミリア陣営団欒の地。決まってほのぼの世界が広がる食堂だ。

 

白いテーブルクロスが掛けられた縦長の卓に、上席が一つと下席が複数個置かれただけの簡素な部屋。その割には空間のスペースが広く、場所の無駄遣い感がすごい。

 

 

「あ、来た来た! ハヤトぉ、こっちこっち!」

 

 

どうやら、何人か先客がいたようだ。

 

自分らが食堂に足を踏み入れた途端、椅子から立ち上がったスバルが笑いながらこちらに手を振っている。待っていた友人を見かけた時のテンション感だ。

 

その後ろには椅子に座るエミリアが笑いかけており、レムとラムが食卓の準備を進めているのが見えた。この場に来てないのはロズワールのみ。パックはそのうち姿を現すだろう。

 

 

「相変わらずうるさい小娘なのよ。今すぐその口を塞いでやってもいいかしら」

 

「怖いこと言うなよ。元気なのはいいことじゃねぇか」

 

 

スバルに対する感想を共有する二人が、隣に並びながら歩き始める。ハヤトは笑みと一緒に手を振り返し、ベアトリスは唾でも吐きそうな表情でウザそうな目を向けながら。

 

エミリアに任せたきりだったから大丈夫だろうかと思っていたが、あの調子なら心配する必要もなかったかとハヤトは思う。どんな会話をしたのかは知らないが、エミリアが上手くやってくれたらしい。

 

元気なスバルの声を聞きながら歩いているうちに、二人は席に到着。長机を挟んでエミリアとスバルの反対側に腰掛ける。四人とも、上席に詰める形で陣取った。

 

ただ、エミリアとスバルの間に誰も座っていない席が一つだけあるのが、ハヤトの気がかり。食器が置かれていないことから察するに、誰かが意図的に座らせなかったと思うべきか。

 

 確か、そこにはいつも———。

 

 

「率直な感想。上から見てた感じ、お前、相当に頭がおかしい小娘なのよ。朝っぱらから騒がしくするのも含めて、礼儀ってもんがなってないかしら」

 

「再会して開口一番に放つ言葉がそれかよ、このロリ」

 

「ろり……? 聞いたこともない単語なのに、不快感だけはするのよ。小娘」

 

「私は小娘じゃない。スバルよ、スバル。ナツキ・スバル。さっき会話したときに何度も聞いたでしょう。名前くらい覚えとけ、ロリ」

 

 

再会早々、火花を散らし合う幼女と少女。元から好感度がゼロを下回ってマイナスなベアトリスと、売り言葉に買い言葉なスバル。両者ともに譲らない姿勢だ。

 

大変、仲がよろしい。そんな感じで二人の会話を楽しむハヤト。椅子の背もたれに寄りかかって休む彼は、まさか自分が原因だとは思わないだろう。

 

 と、

 

 

「や。ベティー、二日ぶり。いつもと変わりないかい? それと、随分とハヤトがげっそりしてるけど、もしかしてマナ吸いすぎちゃった?」

 

「にーちゃ!」

 

 

火花が散る両者の目と目。その間に一匹のネコが入り込んで話の流れを一刀両断した瞬間、スバルに対して生意気だったベアトリスの様子が恐ろしい速度で一変する。

 

張り付いていた澄まし顔が引っ込み、ぱぁっと花が咲くような笑顔が一気に弾け。生意気だった声色が容姿相応の無邪気なものになり、スバルの中に作られた印象が破壊するほどの愛嬌が溢れ出た。

 

ハヤト的には、こっちの方が見慣れたまである様子のベアトリス。驚くスバルを他所に彼女はふわふわ近寄ってくるネコ——パックを手の中に招き、

 

 

「にーちゃに会えるのをずっと待ってたのよ。今日はベティーと一緒にいてくれるのかしら?」

 

「うん。もちろんだよ。ボクも昨日は大変だったから、久しぶりにベティーと一緒にゆっくりしたい気分なんだ」

 

「わーいなのよ!」

 

 

しれっと己の苦労を見抜かれたハヤトが気を張り直す真横、ベアトリスが両手で包んだパックを頬に近づけてすりすり。

 

着々と準備を進める双子姉妹が食器を置きながらハヤトの体調を気にする中、そのまま踊り出しそうな勢いで機嫌が良くなっている。

 

ハヤトを心配する双子姉妹。心配されたと気づいて背筋を整え、二人に歯を見せて笑いかけるハヤト。パックにべったりなベアトリス。

 

様々な反応が一度に起こっていることなど知らないスバルが、目を点にして驚いていると、

 

 

「びっくりしたでしょ。ベアトリスってばパックにぞっこんなんだから」

 

「ぞっこんって今日日聞かないね……。なによ、あのロリ。アタシと態度違いすぎるじゃない。猫に猫被るってウケ狙うには高度すぎない?」

 

「あと、普段はハヤトにもべったりなんだけど。今は違うみたい。ね、ハヤト」

 

 

よく分からないスバルの言葉を適当に流し、名を呼んだ存在に視線を向けるエミリア。向けられたハヤトは「ん? あぁ、そうだな」と譫言(うわごと)のような返事をして、

 

 

「まぁ、ついさっきまでは可愛らしく俺に——」

 

「黙るかしら」

 

「ごぁっ!?」

 

 

口を滑らせかけたハヤトの脇腹にベアトリスの手刀が炸裂。その場のノリでとんでもないことを口走る危険性のある男を、束ねた五本の指、最小限の動きから繰り出す刺突で黙らせた。

 

幼女の一撃に撃沈するハヤト。衝撃に体が僅かに跳ねた直後、痛みの源に両手を添える。そして、右手に腰掛けるベアトリスを軽く睨み、

 

 

「なにしやがる……ベアトリス。お前、今の俺がどんな状態なのか分かってんだろ」

 

「大丈夫だと言ったのはお前かしら。男に二言はないのよ。そのまま黙ってるがいいかしら」

 

 

「次は無いかしら」と、薄ら笑いを浮かべてハヤトを見下すベアトリス。彼女は素直にハヤトが引っ込んだのを見届けると、再びパックに意識を向け始めた。

 

パックに意識を向けていたからいけると思ったのは、大きな誤算だった。そんな風に考えるハヤトは一度、深呼吸すると、

 

 

「まぁ、俺とベアトリスはこんな感じだ」

 

「どんな感じよ。今のがあって、よく真面目な顔して言えるわね」

 

 

これが平常運転ならばハヤトの体はボロボロ——だと言い切れないのが、ハヤトの凄いところだなと思いながらスバルは平然とツッコミを入れた。

 

しかし、周囲の反応からして本当にこれが平常運転なのだろう。瓜二つな青髪と桃髪のメイドは今のやりとりを微笑ましげな目で眺めているし、エミリアは「ふふっ」と口元を手で隠して笑声を鳴らしている。

 

この瞬間、またしても疎外感を感じるスバル。自分一人が知らないことをこの場の全員が知っていて、その感覚を共有されているような。その共有に自分だけが外されているような。

 

嫌な感覚。屋敷に来て度々感じるそれに取り残されまいと、スバルは口を開き、

 

 

「あはぁ。相変わらず元気なもんだねぇ。一人不在でもいつも通りの光景が見れて、なーぁんだか変に安心しちゃう」

 

 

出かけた言葉を、扉から姿を現した長身の男に掻き消された。

 

声に反応した全員が視線を向けると、その先にいるのはこの場にいない最後の一人。普段通りピエロメイクを施した、誰もが認める生粋の変態。

 

 

「ロズワールじゃねぇか」

 

「さっきぶりだねん、ハヤト君。だーぁいぶ話し合いに熱が入っていたようだーったけぇど、少しは休めたかい?」

 

「まぁな」

 

「その割には、げっそりしてるように見えるけぇど。もしかーぁして、ベアトリスに搾り取られでもした?」

 

「誤解を招く言い方するんじゃないかしら」

 

 

「それは失敬」と、ニヤニヤ笑いながらベアトリスとハヤトの背中を通り過ぎるロズワール。

 

気丈夫を装うハヤトの内側を見ただけで見抜くという、魔法使いとしての規格外さを披露し、彼は悠々と上席に腰を下ろした。

 

スバルについて触れないのは、自分が知らない間に会っていたからだろうかと勝手に考えるハヤト。彼は「それじゃ」と手を叩き、

 

 

「全員揃ったし、飯にすっか」

 

「キタコレ! アタシ、人生に一回はこういうお屋敷の料理とか食べてみたかったの。異世界系定番のゲテモノだったらどうしようかと思ったけど」

 

 

(はよ)(はよ)ぉ」と急かし、小さな興奮が抑えきれないスバル。人差し指で机をトントンと叩いて空腹アピールをしながら、双子姉妹のメイドが動き出すのを見た。

 

いよいよ目前に迫った朝食。どれほどのものかと期待するスバルは一回、朝食に並ぶ面子を見渡す。

 

俗に言う『お誕生日席』にロズワールが座り。その手前にエミリアとロリ——ベアトリスが座り。パックはベアトリスと同席で、ベアトリスの隣にハヤトが座り。エミリアとスバルの間に空席が一つ。

 

 

「なーんか、距離を感じるなぁ」

 

 

その空席を、スバルは許さなかった。

 

度々感じていた疎外感も重なり、距離感があることに不満を抱いたスバル。

 

事前に宛てがわれていた座席に配膳された食器などをさっと回収すると、彼女は一つ横の席——エミリアの右隣の席に陣取ろうとする。

 

 する、瞬間。

 

 

「——そこに座るな」

 

 

 低く、冷酷な声だった。

 

誰が発したのかも分からないほど、小さな声。けれど、込められた憎悪と嫌悪があまりにも濃すぎた。その存在に向ける感情が、恐ろしくドス黒い。

 

スバル以外の人間、全員が分かった。誰の声が食堂という狭い世界を凍り付かせているのか。空席に座ろうとする彼女に殺意すら向けている声が、どこから放たれたものなのか。

 

だって、その席はテンの定位置。

 

 

「待ったスバル」

 

「なに?」

 

 

エミリアとスバルの間に空席があった理由。気がかりが解消されたハヤトがスバルの動きを声で止める。

 

内心、大慌てな彼は「あー」と気まずそうに声を鳴らしながら空席を指差し、

 

 

「その椅子、今ちょっと足がぐらついててよ。座ると危ねぇんだ。悪いが、そのままそこに座っててくれ」

 

「そなの? なら、この椅子を退けて今アタシが使ってる椅子を使えばいいじゃん。それなら危なくもないでしょ?」

 

「あー、いやー。そういう問題じゃなくてだな」

 

 

なにも分かってないスバルが「なんで?」と小首を傾げ、真顔の裏でハヤトは焦る。

 

必死に地雷を避けさせようと頑張るハヤトの働きを知らない彼女は、彼が避けさせた地雷をわざわざ思いっきり踏み抜こうとしていることなど気づいてくれるわけがない。

 

だから、ハヤトは焦る。そこに座ったら死ぬぞと。遠回しに言うために頑張る。しかしそんな意図を察しないスバルは「えー」と不満の声を上げ、

 

 

「別にいいじゃん。離れて食べるなんてアタシ寂しい! どうせなら仲良く隣り合って一緒に食べようよ」

 

「ま、まぁ、それもいいんだがよ。なんつーか……」

 

「お客様。エミリア様のお隣は特別席となっておりますので、ご理解くださいますよう。お願いいたします」

 

 

「ぶーぶー」と不満感全開のスバルを説得しようと四苦八苦。このままでは朝食の席が修羅場となりかねない——その危機を救ったのはラムの一声だった。

 

スバルがまとめた食器を丁寧に回収。元の場所に並べる彼女は「特別席だぁ?」と睨みながら聞いてくるスバルに無表情で「はい」と頷く。

 

あながち、間違ってもない言い回しに心の中でグーサインをするハヤト。ありがたい援護射撃にほっとするが、

 

 

「じゃ、アタシが特別ってことにゃならんの? ほら、アタシって客人なんでしょ? なら、特別待遇されてもよくない?」

 

 

納得のいかないスバルはしつこく抵抗。自分の立場が分かっているようで分かっていない図々しさに、ハヤトのまつ毛がピクリと歪んだ。

 

ハヤトに次いでラムも『地雷回避させよう選手権』に参加したものの、尚もスバルはその地雷を思いっきり踏み抜こうとしている。踏んだ瞬間、周りを巻き込んで大爆発する特大の地雷だ。

 

自分のことを特別だと言ってしまう図太さには、隣にいるエミリアも困惑という意味合いで困った様子。レムはというと、

 

 

「ーーーー」

 

 

無言で、じっと、ハヤトを見つめていた。スバルではなくハヤトを。感情の読めない無表情で、瞬きひとつせず。

 

それが彼にとってはなによりも恐ろしく、なんとかしなければという使命感すら抱かせてくる。同時に、自分らの雰囲気を察しようとしないスバルに危機感を覚えた。

 

なんとか、なんとかしなければならない。だが、良い感じの説得が思い浮かばない。まったく、使えない頭だ。どうしよう。

 

 そう、思った時だ。

 

 

「お前が座ろうとしてる席には、それ相応の存在が座るのが当然。それがこの屋敷の決まりなのよ。お前みたいな小娘ごときが座ってみろかしら、下手をすれば首が飛ぶのよ」

 

「首が飛ぶ!? そこまでなの!?」

 

 

状況を静観していたベアトリスが口を開き、即興で考えたであろう理由をつらつらと語る。本気の声で首が飛ぶとまで言い、強引にスバルを説得しにかかった。

 

まさかの援護射撃——とは言えないそれに、スバルは驚愕して沈黙。三人に真剣な表情と声で語られれば、流石の彼女も勢いが収まったらしい。

 

「首が飛ぶ、ね」と今しがた突きつけられた言葉を復唱し、その表情を思いっきり顰めると、

 

 

「それなら……仕方ない。仕方ない? んー。仕方ないわね、もう。ふんだ! じゃあいいもん!」

 

 

葛藤の末、最終的に拗ねるという形で落ち着いた。途中で中断していた移動の挙動を中止し、ラムによって整えられた食器が並べられた席に体を戻す。

 

今度こそ、ほっと一安心。こちらを見てくるレムの視線がやっと逸れ、入れ替わりで見てきたラムとベアトリスの視線に、顎を引くように頷いて感謝の意を示した。

 

 

(わり)ぃな、スバル。こっちの我儘に付き合ってもらってよ」

 

 

 ーー我儘なのはスバルじゃなくて?

 

 

この瞬間、発言したハヤトを除いたスバル以外の全員の意見が見事に一致。明らかに彼女の機嫌を取るものだと知っているから声には出さないが、彼の苦労を思うと物申したい存在がいるのも事実。

 

その思いを胸にしまう存在が開こうとした口を閉じると、予想だにしなかった一件は決着することになった。

 

そうすると、話が着地したのを見計らってレムとラムが朝食を運び入れてくる。その間にも、拗ねるスバルはぶつぶつと不平を垂れており、

 

 

「こりゃ、油断の隙もねぇな……」

 

 

これから先、今のような一件が度重なると思うだけで苦笑いが浮かぶハヤト。

 

スバルの声が嫌なくらい食卓に響くのを聞きながら、彼は額から流れる一滴の冷や汗を拭った。

 

 

 

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