少しでも望む未来へ   作:ノラン

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スバルを性転換させて思ったこと。アルデバランどうするよ。




既視感のある後ろ姿

 

 

「着いたぞ」

 

 

ハヤトとの異世界トークに花を咲かせながら歩くこと、早二十分。大きな問題が起こることもなく、スバルは目的地であるアーラム村に到着していた。

 

王都で遭ったようなゴロつきとのエンカウント。ハヤトが速攻で撃退したイベントの類いは特に無く、たった今、村の門を二人して通り抜けたところである。

 

入村したスバルは周囲を一瞥。首を回してぐるっと入り口付近を見渡すと、

 

 

「ザ・村!ってカンジの静かな村ね。アタシの頭の中にある村と全く同じ雰囲気。雰囲気そのまますぎて怖いくらい。とても、昨日の殺伐とした世界と同じ世界にあるとは思えないわ」

 

 

初見の感想を抱くスバルが「おぉ」と喉を小さく鳴らす。異世界にやって来たばかりのスバルにとって、視界に入る情報の全てが初めてのものだから、一つ一つが新鮮な反応だった。

 

村自体は想像していたものと変わらない。王都から遠く離れた辺境の土地にある村なだけあってド田舎感がすごいことを除けば、どこにでもありそうなありふれた村筆頭。

 

外周が背の高い柵で囲われているのを見ると、村というよりも集落という印象を受ける。森林の伐採、整地などをして開拓し、切り拓いた自然の中に人々が生活を築き上げた場所、そんな雰囲気だ。

 

村の門を抜けた先は開けた土地になっており、その先をずっと抜けると村の中心。さしずめ、中央広場といったところか。井戸の置かれた広々とした円状の大広場がある。

 

遠目で見た感じ、あの場所がハヤトが話していた商店街的な感じだと思う。中心なだけあって人の往来が多く、門から見ても多くの人が行き来しているのがスバルには分かった。

 

 

「だから言ったろ。平和な村だ、って」

 

「確かに」

 

 

鑑定するような風に村を眺めながら、聞こえてきた声に頷く。言われた通りの雰囲気が満ちるほのぼのとした村に小さく笑い、その笑みが緊張が解けたものだと知った。

 

心のどこかで、身構えていたのかもしれない。

 

異世界召喚されたての昨日、あんな出来事に巻き込まれて——正確には巻き込まれに行って、命の奪い合いを直で見て、この世界はそのような危険で溢れているのかもと、変に警戒していたのかも。

 

それも、今この瞬間に消えたと言える。あまりにもこの村の雰囲気が緩すぎて、昨日の出来事がおかしかっただけだと。あんな事、立て続けに起こるわけがないと。

 

 

「で、どうする? さっきの話しの流れからしてアタシはここに住むらしいけど、当てとかあるの?」

 

 

アーラム村に初めて来た感想を適当に流し、主目的に意識を切り替えるスバル。見渡す目を横に向ける彼女は、そう言って自分と同じく周囲に視線を彷徨わせているハヤトを見た。

 

他人事のように言う彼女の視線を横目にしながら一度立ち止まり、腕を組んだハヤトは「無いな」と首を横に振り、

 

 

「それを今から探しに行くんだよ。さっきも言ったが、元々、俺ぁお前を屋敷に住ませる予定だったんだが、今は無理そうだからな。妥協案としてこの村にしたってわけだ」

 

「つまり行き当たりばったりってことね」

 

「そうだな」

 

「それ、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だろ。なんとかなる」

 

「えぇ……。まぁ、ハヤトがそう言うなら大丈夫なんでしょうね」

 

 

簡単に返されたことに苦笑が浮かぶスバルだが、次の瞬間には散る。計画も無しに来ていると断言されて不安に思わなくもないが、ハヤトならばなんとかしてくれるという謎の安心感のせいで相殺された。

 

無計画で来た割には自信満々な様子なのを見ると、なにか勝算があるのかもしれない。無かったとしてもこの態度をする気がするが、後ろ向きな態度をされるよりは何倍もマシ。

 

根拠のない信頼と安心を他者に抱かせる男、カンザキ・ハヤト。屋敷から出た後のことをロズワールに丸投げされた彼は「とりあえず、だ」と前置き、

 

 

「お前をここのやつらに紹介しねぇとだな。話しをする前に、まずはそっからだ。お前がどういう人間かを知ってもらう必要がある。そうすりゃ、見えてくるモンもあるだろ」

 

 

なにが見えてくるのかよく分からないスバルが頭の上に疑問符を浮かべるのを知らず、ハヤトは歩き出す。向かう先は一直線——村の正門から真っ直ぐに伸びる大通りの終点、人が集まる中央広場。

 

釣られて歩き出し、ぴったり横に並んでくるスバルの肩をポンと叩くと、

 

 

「お前にも喋ってもらうから、そのつもりでよろしくな。適当な自己紹介でいいから、やってもらうぞ」

 

「それ、人いっぱいいる?」

 

「かもな。まぁ、学校でやんのと同じ感じでやりゃいい。緊張する必要はねぇよ」

 

「自己紹介……学校……う、頭が」

 

 

額に手を当て、顔色を悪くしたスバルが何事かをぼそぼそと呟く。今の例えのなにが悪かったのか、今度はハヤトが「ん?」と頭の上に疑問符を浮かべる番となった。

 

自己紹介程度、誰でもできるだろう。大勢の人の前で話すことなど容易い。そんな事を思うハヤトは「一応言っておくが」と、

 

 

「変な自己紹介だけはすんなよ?」

 

「例えば?」

 

「天衣無縫の無一文、って言うのだけはやめろ。下手すりゃドン引きされる。それに、ここの奴らは別にノリが悪いわけじゃねぇが、初っ端からそのテンションについていけんのは俺だけだ。いいな?」

 

 

うざいテンションがデフォルメ、それがナツキ・スバルという少女。他者との距離感の掴み方が致命的に下手というのは十分理解した。

 

彼女と接していてなんとなく分かるし、そういう親友をハヤトは知っている。その親友の場合は距離感が掴めないから壁を作って他者を拒み、接する事を諦めたが、スバルは真逆。

 

そんな少女の距離感無視な接し方は、逆効果になる場合がほとんどだ。だから念押ししたハヤトに、スバルは少しだけ沈黙。それから「分かった」と頷き、

 

 

「それじゃ、天上天下唯我独尊、ここにいるカンザキ・ハヤトのマブダチ! ナツキ・スバルでーす! 以後、夜露死苦ッ! でよろしい?」

 

「よろしくねぇわ。マジでやめとけ」

 

 

出かけたため息をぐっと飲み込み、適当に笑って誤魔化すハヤト。その態度をどう受け取ったか、指を天空に向けて謎のポーズを決めるスバルは楽しそうに笑っている。

 

危機感が無いというか、マイペースというか。どこからその余裕が生まれてくるのかハヤトには不思議である。表では平然としていても、裏では割と切羽詰まっているのが自分だというのに。

 

 

「——あ、ハヤト様」

 

 

先行きに不安しか募らないハヤトが密かに億劫な思いをし、スバルが他の挨拶を豪快に披露しているとき、その声は両者の視界外から流れてきた。

 

二人して視線を向けると、こちらに近寄ってくる女性の姿が見える。大きめのバスケットを腕に引っ掛け、簡素な服装に身を包んだ二十代前半な女性だ。

 

質素な村人という印象を覚えるスバルを他所に、にこやかな笑みを浮かべる女性に対してハヤトは「おう」と笑みで返し、

 

 

「おはよう、アーシャさん。元気か?」

 

「はい。ハヤト様こそ、お元気ですか?」

 

「ったりめーよ。俺はいつでも元気全開だぜ。子どもの方も元気にしてるか?」

 

「朝から公園で、お友達とはしゃいでますよ。お買い物が終わったので、今から迎えに行こうと思っていたんです」

 

「そうか。そりゃぁ、なによりだ」

 

 

好青年スマイルを浮かべるハヤトに「はい」と小さく頷く、アーシャと呼ばれた女性。

 

決めポーズを神速の勢いで引っ込めたスバルに異世界っぽい名前だなと思われる中、彼女は声を弾ませて「あ、そうだ」と長話の予感を声にすると、

 

 

「ちょっと聞いてくださいよ。うちの息子、将来はハヤト様みたいなカッコいい人になりたい、って言い出しましてね。ここ最近、ずっと木の棒を振り回しているんです」

 

「俺みたいにか? それは嬉しいな。子どもの憧れになるのは悪い気分じゃねぇし。それなら、下手なことはできねぇな。俺の背中を見て育つ子がいるなら、俺もしっかりしねぇと」

 

 

言いながらハヤトは背筋をピンと伸ばし、腰に手を当てて胸を張る。大人としてしっかりしなければと思い、きりっとした表情をした。

 

その分かりやすい仕草に、アーシャは「ふふっ」と微笑ましそうな風に息を溢し、

 

 

「今でも十分、しっかりしていると思います。村の子どもたちからすればハヤト様は憧れの的、男の子はハヤト様のようになりたい、女の子は誰がハヤト様のお嫁さんになるか、って言い争ってるほどですし」

 

「なんだそりゃ、知らねぇぞ」

 

 

整えた表情が崩れ、知らぬところでハヤト争奪戦が行われていた事実に破顔。男の子の事も、女の子も事も、絵面を想像すると可愛らしすぎて思わず頬が緩む。

 

自分がどれだけ村の住民から好かれているか分からないほどハヤトは鈍感ではないし、自信を持って全員から好感を抱かれていると断言できるが、それでもこしょばゆいものはあった。

 

安定の人気さを維持し続けるハヤト。故郷と同様の立ち位置を自然と築き上げた彼にアーシャは「言ってませんから」と口元を隠して笑い、

 

 

「村を救ってくださったのですから当たり前の話しだと思いますけどね。勿論、その事は、子どもたちだけではなく、私たち大人も感謝しているんですよ」

 

「改まって言うなよ、当然のことをしたまでだぜ? つか、あれは俺だけの力じゃねぇ。アイツがいたからってのもあるぞ。そこんとこ、忘れんなよ?」

 

「勿論です。ハヤト様たちがしてくれた恩義、決して忘れることはありません」

 

 

 ——完全に、空気なスバルである。

 

 

ハヤトとアーシャが交わす日常会話の範囲、極小の円のようなその中に自分が入っていない。屋敷で感じた疎外感——スバルにとって世界で一番嫌だと言ってもいい感覚が、またしても襲いかかった。

 

ただ、その代わりに今の会話を聞いて分かったことが二つある。

 

まず、カンザキ・ハヤトという存在はこの村にいるほぼ全ての人間から好かれているということ。確証が持てたわけじゃないからほぼ全てと言っておくとしても、会話の内容から察するに好かれているのは明らか。

 

次に、この村ではヒーロー的な扱いをされていること。村を救ったという気になる話が親しげに話すアーシャの口から出ていたし、それが理由で村全体から慕われているようだ。

 

この二つの情報を合わせると、アーラム村におけるハヤトの立ち位置がなんとなく見えてくる。『様』付けされて名を呼ばれているのも含めると——、

 

 

「それで……、そちらのお方は? 初めて見るお方ですが」

 

 

考えが完結しかけたところで、アーシャの意識がスバルに移った。意識と一緒に目を向けられて驚き、一瞬だけドキッとする。

 

決して構えていなかったわけではない、寧ろ、会話に突入するタイミングを今か今かと狙っていた。けれど、考えに沈んでいたスバルは突然のそれに「え?」と間抜けな声を溢し、

 

 

「あ、アタシは……ナ、ナツキ」

 

「俺の連れだ」

 

「ハヤト様の?」

 

 

しどろもどろな様子で声が吃り、口がぎこちなく動き出したスバルを見たハヤトの咄嗟なフォローに、アーシャが小首を傾げる。

 

興味を持ったアーシャに直視されると、反射的に目を逸らしてしまうスバル。が、数秒で立て直した彼女は直視してくる目を見て笑った。口と同様、ぎこちない。

 

アーシャがその笑顔からハヤトに視線を移すと、彼は「アーシャさん」と短く彼女の名を呼び、

 

 

「こいつのことでちょっと相談したいことがあるから、村の大人たちを中央の広場に集められるだけ集めてくれねぇか?」

 

「広場に、ですか? それは構いませんが……。その前にそちらの方は?」

 

「それも含めてだ。何回も説明すんのは面倒くせぇから、向こうで全部話す。だから頼むよ」

 

 

簡単にこちらの要望を伝え、軽く頭を下げるハヤト。その行動にアーシャは少し驚いたように目を開き、

 

 

「そんなことされなくても、ハヤト様のお願いとあらば。広場に集めればいいんですね?」

 

「そうだ」

 

「でしたら、三十分ほどお時間をください。それまでに声をかけますので」

 

「助かるよ。俺も、村ん中を見回るついでに声かけとく」

 

「分かりました」

 

 

 「では」と。

 

一礼したアーシャが笑みを置き土産とし、くるりと回れ右。足先を中央広場へと続く大通りに向け、その場から足早に去っていった。

 

駆け足の理由はやる気が故か。なんにせよ、その勢いで腕からぶら下げた籠の中から果物が落ちそうだから「籠の中の(もん)、落とすなよー!」と片手でメガホンを作って忠告しておくハヤトだ。

 

そうしてアーシャを見送った彼は満足げに「おし」と一息ついてスバルを見ると、

 

 

「そんじゃ、俺らも行くか」

 

「行くってどこに?」

 

「とりあえず、ガキどもに顔出してぇから公園にでも行こうかと思う。公園に行きゃ子どもを見守ってる親御さんもいるし、さっきのこと伝えられるだろ。嫌か?」

 

「ガキどもかー。アタシ、あんまり子ども好きじゃないんだけどね。うるさいし、馴れ馴れしいし、身勝手だし。まぁ、いいけど」

 

「なら行こうぜ」

 

 

特に断る理由もないスバルに嫌な顔をされながら頷かれると、「特大ブーメランだぞ」と言いたいけど言わないハヤトがその場から動き始める。この村の地形は熟知しているらしく、踏み出す一歩目に迷いはない。

 

背を追い、その隣に並ぶスバル。彼女は「はわぁ」と声を漏らしながらあくびするハヤトを見ると、

 

 

「ハヤトって、アーラム村の守護神か何かなの?」

 

「ん?」

 

 

藪から棒な問いかけに低く喉を鳴らし、ハヤトは小首を傾げる。あくびで目尻に溜まった涙を執事服の袖口で拭いながら、どういう意味かと考え始めた。

 

その考えが終わる前にスバルは言葉を続けて、

 

 

「さっきの人、ハヤトがアーラム村を救った的なこと言ってたでしょ? なーんかハヤト、そのせいでこの村の奴らから慕われてるらしいじゃない。あの人、ハヤトと話してたとき終始笑顔だったしさ」

 

 

「説明求む」と、どこか不機嫌そうな態度のスバルが一度だけ手を叩く。本人としては先程にも感じた疎外感、その憂さ晴らしを込めたそれだが、記憶を回想するハヤトには伝わっていない。

 

今、自分が八つ当たりをされているとも知らないハヤト。スバルの仕草一つ一つに反応していては疲れることを理解し始めた彼は「あー、それか」と空を仰ぎ、

 

 

「今から一ヶ月前くらい前に、ちょっとしたボヤ騒ぎがあってな。そんときに魔獣……お前に分かりやすく言うと魔物が森の中から出てきて、この村を襲ったことがあんだよ」

 

 

「あれはマジで大変だった」と思い出すように語り、後頭部で手を組むハヤト。しみじみした様子の彼にスバルは「ふぅーん」と適当な相槌をうち、

 

 

「で、それを撃退したから村を救ったヒーローになったってことね。それであの慕われ様か、納得」

 

「いや、あれはそれよりも前からだぞ。俺はこの村のみんなとすげぇ仲良しだからな。すれちがう人に必ず声をかけられて、ガキどもの遊び相手になれるくらいには慕われてるよ」

 

「ハヤト様。おはようございます」

 

「おう、おはよう」

 

 

すれちがう人に必ず声をかけられて——その言葉を裏付けるように老人に声をかけられたハヤトが笑顔と一緒に手を上げて挨拶、会釈を交わし合う。

 

一瞬、スバルを見た老人の目に疑問が浮かんだものの、両者ともに特に触れず通り過ぎた。その波紋が広がったのか、周囲にいた人間がハヤトの存在に気づき始める。

 

ある人は手を上げ、ある人は窓から顔を出し、ある人は会話を中断して、ある人は曲がり角からわざわざ引き返して、

 

 

「おはようございます、ハヤト様」

「お早いですね」

「買い物ですか?」

「せっかくなら公園に寄ってやってください」

「隣の方はどちらさまで?」

 

 

と、色々と声をかけてくる。朝早くということもあって人通りは少ない時間だが、それを感じさせない量の声と視線だ。ぞろぞろと人が集まり、ものの数秒でハヤトを中心として集団が完成している。

 

慣れないそれに物怖じするスバル。普段ならばハイテンションで誤魔化せる場面も今は違った。集まった人数はせいぜい八人、しかし声は喉の手前に詰まって出てこない。

 

そのスバルを意識するハヤト。彼はそれとなくスバルを背に庇いながら笑み、

 

 

「朝から元気だな、お前ら。おはよう」

 

「はい。それで、そちらの方は?」

 

「それについては後で話す。今、アーシャさんが声をかけてっから聞いた人もいるかもしれんが、三十分後に村の中央広場に集まってくれると助かる。そこで話したい」

 

「ーー? よく分かりませんが、分かりました。知人にも声をかけておきます」

 

「ありがとよ。じゃ、またあとでな」

 

 

深く詮索されぬよう簡単に話を済ませ、スバルの手首を握ったハヤトが人の中から抜け出し、その勢いのまま歩き出す。振り返り、「またあとで」と言って手を振ってくる人たちに手を振り返した。

 

公園に向かって歩きながら、顔が引き攣るスバルを見ると、

 

 

「大丈夫か? びっくりしたか?」

 

「……いや、平気平気! ハヤトのあまりの人気さにすげー!ってなってただけだから。言った通り、大人気だったわね。アーシャって人が言ってたことも納得できた気がする」

 

 

反応にラグが生じたスバルが物怖じした事実をテンションで誤魔化す。手を横にぶんぶん振りながら声と笑顔を一気に爆発させ、表情を曇らせるそれらをしっかり覆い隠した。

 

気づいているハヤトは、しかし取り繕ったそれを無理に剥がそうとはしなかった。人の心に土足で踏み込む男ではあるが、本人の意思を尊重するのも大切だと知っている。

 

それ以前に、話しかけてくる人の対応に追われた。

 

 

「あ、ハヤト様ぁ」

 

「おう、おはよう」

 

 

村の中を歩いている以上、先の集団から抜け出そうとも村人とは接触するものだ。もちろん、接触する村人の全てが等しくハヤトに会釈し、話しかけてくるのだから、対応にも追われるのも必然。

 

それら全てに完璧に対応するから、ハヤトはアーラム村の住民から強く慕われているのだ。彼がそのやりとりを苦に感じず、嬉々として行っているのも慕われる要素の一つと言える。

 

 

「ハヤト様。ちょっとお願いがあるんですけど」

「たまには(うち)に遊びにおいで」

「おはようございます! ハヤト様!」

「あ、あの! ハヤト様! こ、こここ、今度私とお出かけに………」

「ハヤトー! あそぼー!」

 

 

道すがら、様々な人に距離感ゼロで声をかけられ、一人一人と丁寧に、楽しそうに、色とりどりな言葉を交わすハヤト。そんな彼のことを少し後ろから見ていると、なぜかスバルは変な既視感を覚えていた。

 

常に明るくフレンドリーで、会話が上手くて、周りの人から慕われて、笑顔の中心にいて、誰からも好かれて、頼られる。みんなが憧れるような存在、カンザキ・ハヤト。

 

村の人たちと接する様は、スバルにとってとても見覚えのある光景で、笑い声が連鎖する世界の中心人物として扱われているそれはまるで、

 

 まるで、

 

 

 ーーアタシの父親みたい

 

 

あり得ない答えを既視感の正体とした途端、スバルは首を強く横に振る。あり得ない、そんなわけがないと拭って、拭って、目に映る既視感を振り払う。

 

 

「どしたよ、スバル」

 

「いんや、なんでもない」

 

 

不自然に思ったハヤトが、村人との会話の途中で聞いてきたのを適当に受け流す。いつもなら呼吸も同然に出てくる誤魔化し言葉も出てこず、そんな自分に腹が立って更に首を横に張った。

 

けれど、既視感は消えない。一度覚えてしまったそれは意外にもしつこく、簡単に消すことはできない。歩きながら他の方法も静かに試してみるが、やはり消えない。

 

結局、それは三十分後——村の住民が中央広場に集まり、話し合いが開始するまで消えてくれなかった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「——みんな、突然の呼びかけに集まってくれてありがとうな」

 

 

その言葉は、スバルがハヤトに覚えた既視感をようやく振り払うことができた頃。

 

アーシャによって設けられた三十分が経過し、呼びかけに応じて中央広場に集合した村人たちに向けてハヤトが発したものだった。

 

 

「忙しいとは思うが、ちょっと俺の話を聞いてほしい。話はもちろん、ここにいるみんなが疑問に思ってるであろう、俺の真横にいるこいつのことだ」

 

 

広場の中央に置かれた井戸の前に立つハヤトとスバル。二人を取り囲む村人の数はざっと五十人程度。ほぼ全員、アーシャとハヤトの呼びかけによって集められた人たちだ。

 

しかし、ここは村の中で人が最も行き交う中央広場。この人だかりを妙に思った人がこれから続々とこの集団に加わってくるだろう。

 

 

「色々と説明しなけりゃならんことはあるが、とりあえず結論だけを単刀直入に言うぞ」

 

 

そう言った意味合いでも、なるべく話は早く済ませようと思うハヤト。頭の中を整理しながら話す彼は一息つくと、

 

 

「こいつ——ナツキ・スバル、俺の友達(だち)をこの村に住まわせてやってほしい」

 

 

数ある正念場。その一つが今だと己の心に強く言い聞かせながら、話を始めた。

 

 






展開が一通りしかねぇ!
早く、早く本編にいきてぇ!

あまりにも物語の進みが遅いので、そろそろ『秘技』を使います。時間が一気に飛ぶので、そのつもりでよろしくです。

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