少しでも望む未来へ   作:ノラン

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先に書いておきますね。長いです。

テンとレムをイチャイチャさせたい欲が暴走した結果、このお話が完成しました。すごいですよ、二人のベッドシーン一つでなんと1万7000文字。

割としっかり書いちゃった。後悔はしてません。

「長いのやだ! すっ飛ばしたい!」というお方は、このお話の最後の方だけを読んでください。それ以外は、オリ主とレムが極限までイチャつくのを読みたい人向けです。





服の下の秘密

 

 

 ソラノ・テンは、童貞である。

 

 

今年で十九歳。あと一年も生きれば故郷の基準ではかけだしの大人として扱われるようになる、身も心も大人として成長しきった人間だ。否、心はどうか分からない。

 

そんな彼には、異世界に飛ばされるまで女性経験が皆無だった。『異性』という概念を正しく把握していない小学生を終えた以降、女性との繋がりはピタリと途絶えている。

 

女性の友人などいたことがない。話しかける必要がないから接することがない。異世界で過ごした日々を除けば、最後に女性とまともに話したのはいつだったか、覚えていないくらい過去の話だ。

 

決して、生きてきた中でそのような機会に恵まれなかったわけではない。学生生活を送る中、テンにも興味を示してくれる女性は何人かはいた。

 

思春期を迎え、『彼女』『彼氏』という言葉がチラチラと意識に映り始めた高校一年からの三年間。爆発的に蔓延した流行病によって高三の一年はほぼ学校に行けなかったから実質、二年間。

 

その中で春は、ちゃんと訪れていたのだ。

 

顔面偏差値、体型、諸々含めてビジュアル的には良物件なソラノ・テン。十段階で評価するならば、六から七を平均して得られそうな彼を気にかけて、歩み寄ってくれる子は確かにいた。

 

それでもテンに彼女ができなかったのは、彼がそのようなものに全く興味がなかったから。せっかく歩み寄ってくれた子を、無意識に拒んでいたから。

 

 

「お前、普通にカッケーのになぁ。もったねーの。もうちょいオープンな性格になりゃ、ぜってぇに女ぁ寄ってくんぞ。お前もっとチャラくなれよ。絶対にモテるぞ。その性格をなんとかしろ、性格を」

 

 

色々な意味で経験豊富で非童貞な真の陽キャことハヤト曰く、宝の持ち腐れらしい。高校時代のテンにはまるで意味が分からなかった、というか聞き流していた。

 

その頃のテンは女の子と遊ぶよりも、男友達とわいわいしてる方が絶対に楽しいと感じる男だったから。実際その方が楽しかったし、いい思い出もたくさんできた。

 

それに、高校一年の春に付き合い始めた人たちが次々と別れた高校一年の夏から秋。彼らの悲惨な状態を見たテンは、「恋愛ってそんな感じなんだなぁ」と恋愛に対して一歩引いた考え方をしていた。

 

精神が成長した今でこそ、あれは若さ故の勢いであったと思えるが、恋愛観が建設途中な高校生のテンには衝撃的で、『付き合ってもどうせ別れる』という謎の固定概念がその半年で完成したのだ。

 

そういうわけで、女性というものから離れた人生を送ってきたテン。

 

大学では男友達すらできない悲惨な彼に恋人なんてものができるわけもなく、当たり前だが、童貞はおろか、ファーストキスですら、卒業する機会も訪れることがなかったのである。

 

 

「レムはもぅ、我慢できませんから」

 

「うん。いいよ。俺も無理そう」

 

 

 今日という日までは。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「落ち着け、落ち着け俺。きっと大丈夫。大丈夫。焦るな、焦るんじゃない」

 

 

同じ言葉をぶつぶつと繰り返し、自室の中をぐるぐる歩き回ながら、胸に手を当てるテンは、高鳴る鼓動の音をどうにかして静めようとしていた。

 

平常心を必死に保とうとしている真顔は性行為への不安によって僅かに強張り、大荒れになりかける感情の海を凪にしようとする深呼吸は興奮に熱く、男根は既にフルで勃ちっぱなし。

 

これでも安定している方だ。自分が焦っていると頭で理解できるくらいには、テンの精神は落ち着いている。違う、これはきっと嵐の前の静けさというやつ。

 

本番直前になったら、極限まで緊張してテンパる気しかしない。

 

 

「ちゃんと挿れられる……できるの? 俺にレムを気持ちよくさせられるの? 性知識皆無なんだよ? そーゆー経験ないんだよ? やばい、あーやばい、まじでやばい。ちゃんとやらないと、しっかりしないと……レムが満足できるように頑張らないと。できるか、できるのか? お前にできるのか?」

 

 

口数の多いテンの独り言が止まらない。人生初セックスに対して温泉のように湧く不安を部屋にばら撒き続ける。円を書いて歩く速度が徐々に上がり、緩い足音が加速し始めた。

 

それら全てが自分に向けられた感情なのが彼らしい。何かが起こったとき、まずは矛先を相手ではなく自分に向ける彼の、レムには見せたくない弱々しい自問自答だ。

 

性知識に疎すぎるせいでレムに情けない姿を晒す——想像するだけで悲しくなってくる。あれだけ積極的に求めてくれるのだから、その気持ちには全力で応えなければならないのに。

 

 

「あーもっ、やだ。ほんとにやだ、最悪ぅ。なんでハヤトに聞いておかないんだよ俺のバカぁ。アイツそーゆー経験豊富だったじゃーん。色々と聞かされたしガチの写真とか見せられてドン引きしたことあったじゃーんバカバカバカぁ」

 

 

「あぁぁああぁあ」と、悶える声をぐわんぐわん揺らし、頭をぽかぽか叩く。確認するが、これでも落ち着いている方。

 

お酒に酔ったレムにヤられかけた日。彼女とセックスをする日がきてもいいように、ハヤトに性知識を教わっておこうと思ったはずだ。真面目にヤり方を聞こうと決意したはずだ。

 

ハヤトは自分と違って高校一年には既にヤることヤって、それ以降にもヤることはヤっている人間。それどころか、中学で時に——という噂を彼の友人から聞いたことがある。噂、あくまで噂。

 

どうしてあんな男が一番の親友なのか、という永遠の謎は置いといて。そんな男が身近にいたのに何も聞かなかった過去が悔やまれる。

 

因みに今、レムは自室でお着替え中。

 

 

「制服のままだと仕事気分が落ち着かなくてあれだからさ、二人とも寝巻きに着替えない? どうせヤったあと一緒に寝るんでしょ?」

 

「どの道、全て脱ぐことになるので服装は関係ないと思いますけど? それとも、テンくんはメイド姿のレムではなく寝巻き姿のレムをご所望ですか?」

 

「うん。そーかな」

 

 

 適当に言ってイかせた。

 違う、行かせた。

 イかせるかもしれないけど。

 いや、イかされるかもしれない。

 

 

「こんな大事なときになに変なこと考えてんだよお前。人の命が懸かってんだぞ。なに恋人とイチャつこうとしてんだよ。二章真っ只中、割と後半だぞ。俺も動いてなきゃいけない時間(とき)だろうがぁ!」

 

 

「呑気かお前ぇ!」と、頭を掻きむしる。

 

セックス一色に侵食され始めた本能を理性が咎め、ふと我に返るテンの情緒が壊れた。感情の振り幅が小さく、熱くなるのに時間がかかる沸点が高い彼も今回は別だ。

 

それでもこの場に残ることを選ぶあたり、優先順位は確定しているらしい。自分が誰の相手を一番にするべきであるか、冷静に判断することができる程度の余裕はあった。

 

もう時期、レムが部屋に戻ってくる。着替える話をしたのが今から五分前だから、頃合いだろう。ネグリジェ姿のレムが、そろそろ扉を開ける。

 

 

「……がんばろ」

 

 

歩き回るテンが、そう言って立ち止まる。

 

平常心を維持するために行うそれが終わったこと。それが意味するのは覚悟が決まったこと。今この瞬間、この世界の命運をハヤトに委ねた彼が、心の中にあるレム以外のものを全て放棄した。

 

体を丸めて眠るドラゴンの絵が胸に小さく描かれた半袖に、丈の合ったパンツ。上下両方とも木綿素材のゆるっとした寝巻き姿な彼は、腰を痛めないようにストレッチを始めようと、寝台に向かおうとした。

 

 その、瞬間だった。

 

 

「お待たせしました!」

 

「ーーーッ!」

 

 

バン! と強い音を立てながら扉が勢いよく開き、奥から満面の笑みをしたレムが姿を現す。五分という短い時間で準備を済ませた恋人が、ついにテンの下へ帰ってきた。

 

不意な衝撃に本気で驚いたとき、テンは絶対に声が出ない。飛び上がる絶叫タイプではなく、体に稲妻が走る絶句タイプ。声を出す暇すら、今の彼には与えられなかった。

 

扉を閉め、自然な動作で鍵をかけるレム。密室を作る彼女はこちらを正面にして固まったテンを視界の中心に入れながら、鼻歌でも歌いそうなくらい上機嫌な様子で近づき、

 

 

「お望み通り、寝巻きに着替えましたよ」

 

 

ドレスを自慢する風に、くるりとその場で一回転。前と後ろを軽く見せると、「どうですか?」と小首を傾げて後ろ手に手を組む。褒められ待ちの体勢。

 

やはりと言うべきか、着用する服の種類が多くないレムの寝巻きは水色のネグリジェ。

 

体の輪郭をなぞるように纏われたそれは、出るところと引っ込むところの区別がはっきりしているレムのグラマラスな体型をほのかに表現し、女性らしい美しさを優しく語っている。

 

その曲線美たるや、触れるだけで壊れてしまいそうな儚さがある。滑らかなカーブを描く腰のくびれは芸術と言っても過言ではないほど綺麗で、首元から顔を出した艶のある白い肌と鎖骨が、煽情的に際立つ。

 

そして、やはり目立つのが内側から盛り上がる胸部の主張。まさか、布一枚でしか隠されていないのではと思わせるほどくっきり浮かび上がる、整った形をした豊満な乳房だ。

 

これ以上ないまでに理想で、美麗な芳体。そう語る他にないレムの、魅惑的なネグリジェ姿。今から自分はこの華奢な体を———。

 

 

 ーーあ、やばい

 

 

ギリッと奥歯を食いしばり、テンは後ずさる。

 

心の奥底から込み上げてくる性欲に理性が吐血して失神しそうになるのを寸前で堪え、勝手に荒ぐ呼吸を落ち着かせようと頑張った。

 

いつもと同じなのに、今に限ってレムのネグリジェ姿がエロく見えてしまう。普段は気にしない、見慣れている恋人の顔なのに、なぜか色っぽく見える。

 

ふわりと揺れるさらさらの青髪。恋色に潤った青の瞳。瑞々しい桜色の小さな唇。上気しつつある処女雪のように白い頬。それら全ての質を底上げする、庇護欲を恐ろしく駆り立てるあどけない童顔。

 

男が女の体に求める理想という理想をこれでもかと詰め込んだような、魔性の美貌。セックスのことしか考えられない今のテンには猛毒でしかなく、

 

 

「ーー? どうかされました?」

 

「ーー! なんでもない。なんでもないよ。うん。なんでもないから」

 

 

あからさまな態度の変化を悟り、褒められ待ちだったレムが体勢を崩して寄ってくる。息の詰まる確かな音を鳴らしたテンは、寄られた分だけ後ずさった。

 

近寄るレムと、後ずさるテン。その均衡は五秒も続かない。歩く度にたゆんたゆん揺れる乳房に目が釘付けになりかけるテンの背が、部屋の壁際に到達したのだ。

 

背に当たった壁の感覚がした途端、テンの足は止まる。壁と背の間にある余白を全て使い果たし、寄り続けたレムの体がゼロ距離にまで迫った。

 

胸元からテンを見上げるレム。彼女が見つめるテンの頬は真っ赤で、やり場に困ると言わんばかりに目は泳いでいて、その目にはレムしか映っていなくて、

 

 

「あ、もしかして、レムの寝巻き姿に興奮してくれているのですか?」

 

「してねぇ」

 

「分かりやすすぎです」

 

 

横に背けた顔を顰めて言ったテンに笑い、こんなにも簡単に口調が荒いでくれたことをレムは嬉しく思う。一瞬にして素の自分を見せてくれたことに愛おしさが爆発する。

 

本当の本当に感情が昂った瞬間にしか荒がないと思っていたけど、案外、そんなこともないかも。あるいは、レムの前では素の自分を見せてもいいと思われているからか。

 

どちらにせよ、愛する人に興奮されているレムにとって嬉しいことに変わりない。照れる彼女も頬を赤くし、感情のまま目の前の胸元に抱きつく。

 

 瞬間、気づいた。

 

 

「これってテンくんの……。もうこんなに大きくしていたんですか」

 

 

股から腹部にかけて当たる、硬い感触。そり立つ一本の太い棒のようなそれがなんであるか、レムの頭は刹那で理解していた。視線を下に落とすと、服の下からでも形が確認できるくらい成長した男根が見える。

 

これがテンのもの。今から自分をメチャクチャに犯す男根——そうだと理解した途端に鼓動がどくどくと早まり、呼吸が甘く乱れ、恥部がじわじわと濡れていくような感覚に陥る。

 

男を魅了する艶やかな笑みで、表情を彩るレム。乳房を胸板にぎゅっと押し付ける彼女は、腰を揺らして腹部を男根に弱く擦り付けながら、

 

 

「あれほど抵抗していたのに。本当はレムとシたかったんですね。心は素直じゃないくせに、体は正直なんですから」

 

「それやめろ」

 

「嫌です。これからはそういう時間」

 

 

恥じらう顔を背けたまま離れようとするテンに強く抱きつき、レムは男根の感触を楽しむ。生まれて初めての愛する人の感覚に興奮し、頬の赤みが増していった。

 

彼女の独りよがりではないことは、テンの照れた態度が語っている。やめろと言っておきながら、強引に離そうとしないのが論より証拠。初めての感覚に緊張し、動きが硬くなっているだけだ。

 

とはいえ、いつまでも硬くなってるわけにもいかない。下はずっと硬いが、それ以外では柔軟であることが今のテンに求められる必要な努力である。

 

「ふぅ……」と息をついて心に余裕を作る。出たわけではないが、着々とその予感は感じつつ、

 

 

「じゃぁ……その……する?」

 

「ーーっ!」

 

 

控えめな言い方をされて、ぱっと目を見開くレムの息が僅かに詰まる。期待に満ち溢れた青の双眸の奥には、テンへの深愛を示唆するハートマークが揺らめいているから、返答など不必要だった。

 

腰に腕を回されて、胸に顔を埋めるレムに強く抱きしめられる。硬い男根が、柔らかな乳房が、性に関わる部位が双方に押し付けられ、性欲が心の中で轟々と燃え上がっていく。

 

けれど、額を擦り付けるように顔を上げるレムは、恍惚とした表情で首を横に振り、

 

 

「まずは、テンくんがいなかった時に我慢し続けた甘えたい欲を全解放させてください。たくさんたくさん、テンくんに甘えさせてください。そうして、お互いの熱を高めましょう」

 

 

「愛し合うのは、その後にでも」と、熱っぽい吐息を鳴らしつつあるレムがテンから離れる。手で上気した頬をぱたぱたとあおぎ、感情の昂りが早い自分に「熱いですね」と一言。

 

即合体レベルだと思っていたテンにとっては意外な返答をしたレム。彼女は頭上、吊るされたガラスの容器の中に入った白い魔鉱石、部屋を照らす灯りを見ると、

 

 

「魔法灯、消してください」

 

「……………え? あ、はい」

 

 

呆然としていたテンがそう言った直後、マナの供給を断たれた魔鉱石から光が失われ、室内の明度が一気に落ちた。視界が真っ暗闇に閉ざされ、見えていたレムの姿が消える。

 

この世界には電気という概念がない代わりに、こうした灯りは全てマナを利用して使用される。生きとし生けるもの全てに備わったマナで魔鉱石に働きかけることで、様々な恩恵を得られるのだ。

 

この部屋を照らしていたのは魔法灯という、故郷で言うところの照明に位置するもの。ガラスの容器に入った白い魔鉱石が輝くことで、辺りを照らしてくれる。

 

だから、消すと今のように何も見えなくなってしまうのだが。

 

 

「……雰囲気作りってやつ?」

 

「もちろんです。ささ、テンくんもこちらへ」

 

 

ふっと別の魔法灯がつけられて、自然と光の方向に視線をやったテンが苦笑。彼が見つめる先には、暖色の優しい灯りに照らされた寝台の上で、手招きしているレムの姿があった。

 

部屋全体を照らしていたものよりずっと弱い光を放つそれは、寝台に備えつけられた魔法灯。寝る前、本を読んだりするときに使っていることが多い。

 

照らせる範囲はせいぜい、二人が身を置く寝台の上程度。それ以上の範囲は力が及ばず、闇を晴らすことはできていない。

 

けど、それがいい。寝台の上さえ照らせていれば、二人はお互いの欲情した顔を堪能できるのだから。周囲が暗ければ、それだけ明るい場所に意識が向くのだから。

 

 

「ではでは、テンくん」

 

 

部屋の角に置かれた、大人二人分の寝台。シーツなどが綺麗に整えられたその上に、恋人同士な男女がいる。目に優しい光に照らされた頬は、二人とも赤い。

 

枕をクッションにして壁に軽く寄りかかり、足を伸ばして座るテン。慣れた動作で両腕を広げて胸元を全開放すると、レムは幸せに喉を鳴らして動く。

 

伸ばしたテンの足、その太ももあたりに腰を下ろして跨る。それから全身の力を抜いて、全開放された自分だけの特等席に倒れ込み、

 

 

「全力全開のいちゃいちゃ、開始です♡」

 

 

頬に口付けしたリップ音が、夜の静寂に満ちた大人の世界に響いた。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「スンスン、スンスン。石鹸と体臭が混ざったテンくんの匂い……堪りません。スンスンスンスン」

 

 

イチャイチャの始まりは、テンに己の身を委ねたレムが彼の匂いを堪能することからだった。脇の下から背中にかけて両腕を回し、そっと抱きついて、右肩に顔を沈めている。

 

鼻を鳴らし、息を吸う。空気と一緒に鼻腔からテンの匂いが体の中へと取り込まれ、癖になってしまった香りになけなしの理性が溶けそうになる。

 

 

「スンスン、スンスン。スンスンスンスンスンスン」

 

「嗅ぎすぎ嗅ぎすぎ。はげっ、激しい。せっかくお風呂入ったのに……あんまりくっつかれると暑くなって汗かいちゃう。なんのために半袖にしたと思ってんの?」

 

「本望です。いっぱいかいてください」

 

「話が通じねぇな」

 

 

一を嗅いだら千を欲してしまうレムの嗅ぎ方が激化しそうになるのをテンに止められるも、この時間のレムは止まってあげない。くすぐったそうに緩む彼の顔つきに、更にがっつく。

 

石鹸と体臭、あと柔軟剤。それらが混じったテンの匂いも好きだが、汗の匂いはもっと好き。テンへの想いを自覚した以降、鍛錬にお邪魔したときにひっそり嗅いでいたうちに、これも病みつきになった。

 

目を瞑り、嗅覚に全意識を集める。抱かれる温もりもたっぷり感じながら、心ゆくまで堪能する。

 

 

「この匂い、やっぱり安心します。安心して、落ち着いて、温かくて——興奮しちゃいます」

 

「興奮はずっと、じゃないの?」

 

「もっと興奮しちゃいます」

 

 

悪戯っぽさのある声を弾き、レムは少しずつ蕩けていく瞳でテンを見る。すぐそこにある黒の目と視線が濃密に絡み合い、その中に媚びたっぷりな上目遣いをする少女を見た。

 

体と体の間に距離はない。どんなに小さく細かな息遣いであっても、二人の耳には明快に届く。額と額を合わせるのには一瞬の時間も要らない。その気になれば唇と唇だって。

 

ゼロ距離に居れることが幸せで。なのに、もっと距離を縮めたいという欲が湧いて。これ以上縮まらないものをどうして縮めたらよいのかと、もどかしい悩みが狂い咲き、レムを過激にしていく。

 

 

「好き……大好きぃ。大好き大好き大好き大好き。大好きすぎます、愛してます……! もっと嗅がせてください。レムのこと、おかしくさせてください……!」

 

 

テンとイチャつき始めると必ずと言っていいくらい、『好き』『大好き』『愛してる』の好きの三段活用を連呼するレムが情熱的に鼻を鳴らし、猫が甘えるように喉をごろごろ鳴らす。

 

それしか言えることがない。それ以外にないから。こうして甘えんぼモードになればなるほど、レムはストレートに感情を表現するようになり、テンに向ける感情は愛だけなのだから。

 

 

 ーーこうしてれば、超可愛い甘々な普通の女の子なんだけどなぁ

 

 

世界一可愛い恋人に全力全開で甘えられながら、テンは思う。ネグリジェの上から柔肌を抱きしめて、愛を注ぎ込んでいると、脳裏に夕方のレムの姿が過った。

 

エミリアの頭を撫でた時に顔を出したヤンデレム。触れる女の全てを殺しかねない様は、恋人であるテンにも受け入れ難いものがある。それだけ愛してくれていると思えるから、嬉しい限りではあるが。

 

エミリアに想いを向けられていなければ、こんな風に思うことも——ダメだ。そんなこと考えるな。自分がやったことなんだから。過去の自分が無意識に犯した罪なんだから。

 

 

「テンくん」

 

 

ふとした瞬間、自分の罪に抉られそうになるテン。悲惨な現状に死にたくなる彼を自虐から引き上げたのは、レムの柔らかい声だった。

 

濁った音が鮮明になるように意識が現実世界に戻ったテンに「ん?」と小首を傾げられると、表情筋が緩み切った淫乱な笑みを浮かべたレムは、ずっと股に当たる男根に腰を弱く揺らし、

 

 

「ここ、ずっと勃ちっぱなしですね」

 

「言わなくていい」

 

「レムのここも、早くも濡れ濡れです」

 

「ーーーー。言わなくて、いい」

 

 

口が軽くなってきたレムに陶酔した様子で言われ、不意な一撃にテンが一瞬だけ絶句。同じ言葉を繰り返すしか反応ができず、それを初心(うぶ)で可愛らしいと認識したレムの性欲が一気に自制を手放した。

 

完全にスイッチが入っているレムには、テンと違って(しも)の会話をすることに抵抗がない。少なからずあった緊張感は彼への愛で吹き飛び、表に浮き始めた本能が愛を欲して体を勝手に動かし、

 

 

「こうして……んぅ、テンくんのに、ぅん、擦り付けていると気持ちよくなってぇ……んっ! どんど、んゅっ……ぐちゅぐちゅにぃ、あっ」

 

「ま、待って……はや、早い。まだイチャついてから五分も経ってない……」

 

「ごめ、んぅっ! なさいテンく、んぁっ。でも、これ、始めたら腰、止められなくて……っ! 好きぃ、テンくん……!」

 

 

首に両腕を、腰に両足を回したレムが甲高く喘ぎながら愛の名を呼び、テンの体にだいしゅきホールドで抱きつく。離れたくない、その意志に従い懸命に絡みつく。

 

そのまま腰を上下に動かし、レムは服の下から盛り上がるテンの男根に恥部を擦り付ける。喉の奥から溢れ続ける喘ぎ声を抑えようと口を閉じ、抑えきれなかったそれが表情を淫乱に仕立て上げる。

 

服を挟んでいるはずなのに、二人とも木綿素材で生地が薄い寝巻きだから、直接触れ合っていると錯覚するほどの快感に脳が焼かれ、どうしようもなく呼吸が甘く荒ぶる。

 

 

「こんな独りよがりなの、ダメって……んぁっ。分かって。なのに、あ、ああっ……だめぇ、止まってぇ……!」

 

 

 腰が、止まらない。

 

動かすたびに快感が電撃となって全身を突き抜け、背筋が震える。小柄な体では耐えきれない衝撃を逃すために、テンを抱きしめる四肢にぐっと力が込められた。

 

ダメだって思っているのに。ゆっくり進めるつもりだったのに。お互いに熱を高めて、口付けをして、それからと思っていたのに。

 

知らず知らずのうちに溜め込んできた性欲が、止まることを許してくれない。一度でも解放したら、手始めにその分が傾れ込んできた。

 

抗いようのない性欲は刺激を欲する一方で、快楽に飢えた恥部が男根を求めて腰の動きを過激にしてくる。卑猥な嬌声が、口の中だけに収まらない。

 

 

「本当にごめんなさ……んっーー!」

 

 

独りよがりな行動に絶望し、目尻に涙を溜めるレムの声が途中で止まる。直後に飛んだ嬌声の理由は簡単、それまでは動きを見せなかったテンに、体を思い切り抱きしめられたからだ。

 

驚き、体がビクンと縦に跳ねるレム。目尻の涙が弾け飛ぶ彼女の耳元で、根性を見せたテンは優しく呟いた。

 

 

「好きにイっていいよ。——受け止める」

 

 

 それが合図だった。

 

 

「ーー! テンく、んーーっ!」

 

 

これまでで最も甲高い嬌声が喉の奥で上がった瞬間、絶頂に達したレムが身を震わせながらテンを情熱的に抱きしめる。四肢で背を掻き抱き、体の内側から放たれる快感の波動が、肌を通じてテンに伝播していく。

 

目を強く瞑り、頭が真っ白になる絶頂の大波に堪えるレム。足の先から頭のてっぺんにかけて快感が迫り上がるような、そんなぞくぞくとした感覚に彼女は身悶える。

 

初めての感覚——自分の手だけでは得られなかった絶頂の快感。愛する人のもので最高潮を味わったレムの体は五秒ほどして弛緩すると、胸の中に詰まっていた色気たっぷりの吐息が溢れ出て、

 

 

「………イった?」

 

「ひゃい……。い、イきまし、たぁ」

 

 

骨抜きにされて上擦った声、端的に言ってエロすぎる声を溢しながら、レムはテンにもたれかかる。一発で呂律も崩壊してしまう快感を一身に浴び、表情がへにゃへにゃに砕けた。

 

その様子に心穏やかなわけがないテン。一足先に絶頂したレムの甘い吐息に理性がしっかり崩壊しながらも、彼は脱力したレムの体を丁寧に支えて、

 

 

「気持ちよかった?」

 

「腰が砕けしょうにゃ、感じでひゅ」

 

「そりゃぁよかった。レムを気持ちよくさせられるか不安だったし」

 

「しゅきぃ……」

 

 

時折、ピクっと体の跳ねるレムが不安を打ち明けたテンの頬に口付けする。緊張していることは分かっていたけど、そんなことを思ってくれているだなんて思わなかった。

 

肩を大きく上下させ、胸を呼吸に膨らませるレム。恥部がぐっちゅり濡れたことを確信する彼女は、抱きつく体から離れてテンと自分の間に僅かな空間を設ける。

 

絶頂の余韻が引き。へにゃへにゃの顔を整えると、お互いの吐息が唇にかかる距離でテンと顔を合わせながら、

 

 

「ごめんなさい。こんな急に。驚きましたよね」

 

「驚いてないわけじゃないけど、平気。さっきのレム、すごく可愛かったから」

 

「ーーっ。今の、反則です」

 

 

テンの率直で素直な感想に思わず赤面し、乙女心をくすぐられたレムが「むっ」としてテンを睨む。レムと同様に口が軽くなってきたテンからすれば、それは火に油を注ぐ行為でしかない。

 

快感に蕩け、羞恥に潤み、ハート色に紅潮した瞳。そんな目で睨まれれば、バラバラに砕けた理性の破片が粉々に散った。残ったのは性欲に忠順な本能だけである。

 

「ふぅ……」と吐息。ちょっとだけ出たのを自覚しながら、

 

 

「急なわけないだろ? 今までずーーっと、我慢させちゃったんだから。それくらいはあって当然だよ。……情けない俺のせいで、ごめんな」

 

「ご自身を責めないでください。と、言いたいところですけど。全くその通りです。どれだけレムが我慢してきたと思っているのですか」

 

「返す言葉もないです」

 

 

容赦のないレムの直球な言葉に沈むテン。彼は「だからさ」とレムの後頭部に手を回す。

 

そっと触れて彼女の頭をこちらに引き寄せると、額と額をコツンと合わせて、

 

 

「今から俺に、たくさん愛させてください」

 

「もちろんです。たくさん愛してください」

 

 

 抱き合い、愛を確かめ合う。

 

初めの一歩さえ踏み出せてしまえば怖くないテン。そんな彼の覚悟を決めた顔つきに恋をするレム。同じ痛みを抱えた相思相愛な二人の関係は今夜、大きく進む。

 

その前準備として、レムは先程からずっと股に当たっている男根——勢いが衰えない立派なテンの性器を服の上から指先で撫でるように触る。途端、ピクっと肩が跳ねるテンの反応を楽しみながら、

 

 

「ここ、苦しいですか?」

 

「痛いくらいにね」

 

「でしたら………」

 

 

その先の言葉を代弁するレムの右手が、レムとは別の意志を持った生き物のように動く。

 

視線も、体も、濃密に絡み合ったまま。けれど、するする移動する右手だけがテンのズボンの中へと入り込もうとして、

 

 

「それはちょっと待ってほしい」

 

 

レムがなにをしたいのか察したテンが、その手を掴んで引き上げる。

 

ちょっとだけ直に触れられたことに動揺したのか、テンの鼓動が急激に早まったのを感じながらレムは「え?」と不思議そうな顔で小首を傾げ、

 

 

「今すぐにでもご奉仕しますけど?」

 

「いや、もーちょっと我慢させて。もう少しだけこの感覚に浸りたい」

 

「この感覚?」

 

「今からレムとたくさん愛し合うんだなぁ。っていう感覚。前戯とか始めちゃったら、それどころじゃなくなっちゃうからさ」

 

 

引き上げた右手を首に回させて、テンは照れくさそうに笑う。むくむくと膨れ上がった男根はそれどころではない、レムを寄越せと我慢汁が出まくっているが。

 

自分をイかせておいてなにを、と思わなくもないレムである。けれど。この絶妙な感覚を味わうのも悪くない。互いに焦らしあっているようで変な背徳感がある。

 

クスッと微笑むレム。テンに無意識に散々()らされては、その度に一人寂しく自慰行為に走っていた彼女は「分かりました」と頷き、

 

 

「では、ご奉仕はもう少し後で。それまでの間はレムに甘えさせてくださいね」

 

「どうぞ。好きに俺の体を使ってください」

 

 

言うと、胸に顔を埋めるレムが「スンスン」と鼻を鳴らし始める。先程は途中で発情し、止まってしまっていた匂い嗅ぎタイムの再開だ。

 

幸せそうに声を溢し、額と頬をすりすりしてくる様は可愛げしかなくて。眼前にある頭をはらりと撫でると気持ちよさそうに目を細めてくれる様は、彼氏としては実に眼福。

 

ご奉仕という単語が出てくるところが、メイドを生業とするレムらしい。テンの知る二次元のメイドというのは基本、従えるご主人の下の世話をするのも仕事の一つ。

 

その基本に則るならば、レムもまたそれなのだろうか。「ロズワール様ぁ!」と淫乱に喘ぎながら、甲斐甲斐しく腰を振るレム———。

 

 

「とても失礼なことを聞くけどさ、レム」

 

「なんですか?」

 

「レムってメイドで、ロズワールがご主人様じゃん。それでレムさっき、ご奉「今すぐ生で犯しますよ」

 

「はいごめんなさい軽率でした俺が悪かったです」

 

 

なにを言いたいのか先読みしたレムの冷え切った声が心臓を貫通した直後、触れてはならない部分に触れてしまったと分からされたテンが神速の勢いで発言を撤回する。

 

どうやら、自分の恋人はこんなときに余計な想像をしたらしい。激しく咎めるつもりでレムは、意識しっぱなしのテンの男根を服の上からがしっと握る。

 

「ひょわっ」と、テンの口から変な声が漏れたのを聞きながら怒り顔をして、

 

 

「メイドである以上、ご奉仕とは言いましたけど。決して、絶対に、ロズワール様にそのようなことはしていません。断言します」

 

「ごめん。失言だった。もう言わない」

 

「レムは処女です。テンくんだけのものです」

 

「疑ってない疑ってない。二度と言いません。だからその手ぇ離しやがっ……あ、ちょ、待ぁっ」

 

 

情けない裏声に全力謝罪の言葉を遮られ、テンの体から力が抜ける。体勢を保っていた腹筋と背筋から気が抜け、壁に寄りかかっていた背がずるずると寝台に落ちた。

 

それを好機と判断したレムの行動は光よりも早い。十回、握った男根を素早くしごいて力を奪い、壁の支えを失ったテンの体を寝台に強引に押し倒し、男根の上に恥部を乗せる形でマウントをとる。

 

「はぁ、はぁ」と呼吸が上擦るレム。蕩けきった表情でテンを見下ろすと、彼女は「ふふっ」と艶やかに口角を釣り上げ、

 

 

「付け加えますと、咥えたこともないので」

 

「くわっ!?」

 

「テンくんのしか咥えるつもりはないです」

 

「ちょっと黙ろぉか」

 

「レムはテンくん専用の「黙ろぉか!」

 

 

背中の変な位置にある枕を嫌がり、邪魔だと思ったテンが寝台の上から投げて退かす。積極的な言葉にひどく動揺したせいでぶん投げてしまったそれが壁に当たり、ぼすっと音を立てて床に落ちた。

 

頑張ってくれてはいるようだけど、やっぱりテンはまだ初心(うぶ)だ。今の様子からそんなことを察したレムは、尚のこと艶やかに笑う。小悪魔じみた笑い声を小さく釣り上げた口から漏らし、

 

 

「だってレムは、テンくんのレム、なんですから」

 

「それさ、前々から思ってたんだけど、やめない? レムは俺のものじゃなくて、レムはレムのものでしょ? 君の全ては君自身のものだよ」

 

「いいえ。レムの全てはテンくんのものですよ。この身この心は全て、全て、全て、テンくんだけのもの。テンくん以外の誰にもあげません」

 

 

「ここだって」と、レムは腰をゆっくり前後に動かす。恥部を男根に擦り付け、ぐちゅぐちゅになった自分の恥ずかしいところの形を、テンに刻み込む。一緒に、自分のにもテンの形を覚えさせる。

 

服の上からでも感じるらしい。完全にマウントを取られ、快感に揉まれて動けなくなったテンの足がシーツの上で暴れ、食いしばった歯の隙間から「く、ふっ、はっ」という悶え声が立つ。

 

可愛い反応。でも、表情を隠している。両腕で顔を覆って、情けないそれをレムに見せようとしていない。

 

 それを、レムは許さない。

 

 

「ちゃんと見せてください。テンくんの情けないお顔、よく見たいです」

 

「あ、やめっ……」

 

 

支配欲にも近しい感情に胸が躍り、理性なんてとっくに機能を停止したレムが、両手を使ってテンの顔を守る両腕を無理やり退かす。

 

右手で右手の手首を掴み、左手で左手の手首を掴み、両手を拘束したところで、ぐいっと引っ張って防御を剥がした。また隠されないように、恋人繋ぎで両方とも手を繋ぐ。

 

そうして見えた表情——情けなくへにゃっとしている表情筋が崩壊しかけたテンのそれに、レムはまたしても「ふふっ」と艶やかに笑い、

 

 

「可愛いお顔、してます」

 

「うるせぇよ。見んじゃねぇ」

 

「その荒っぽい口調、男らしくてレムは好きですよ」

 

「俺は嫌い。俺らしくない」

 

 

プイッと顔を背け、テンは愛おしそうに見下ろしてくるレムの目から逃げる。動揺するといつも口調が荒っぽくなる自分が嫌で嫌で仕方なくて、途端に不機嫌な空気を纏い始めた。

 

そんなテンも愛おしくて仕方がない。なぜ、いつも自分がテンを押し倒しているのか、本当は逆であるべきではないのかと不意にも考えながら、

 

 

「むすっとしないでください。ちょっと揶揄っただけじゃないですか」

 

「この小悪魔が」

 

「でも、ちょっと揶揄っただけで照れてしまう素直なテンくんも、可愛くて好きです」

 

「ううぅうぅう」

 

 

全てを『好き』と言ってくるレムに耐えかねたテンの口から、低い唸り声が外へと流れる。恋人繋ぎで結ばれた両手をにぎにぎされながら言われ、心身ともに羞恥心で弾け飛びそうだ。

 

その反応すら愛おしい——テンの一挙一動に愛しさを感じ続けてしまうレムには、テンを形作る何もかも全てが愛おしくて、愛おしさに愛おしさが重なるばかりである。

 

それがずっと続けば、理性が崩壊した今のレムは堪えられない。欲情に熱っぽくなった吐息を深々と吐くと、ふっと恍惚とした表情を爆発させ、

 

 

「テンくん大好きーー!」

 

 

がばっと上体を前に倒し、テンの体の上に腹ばいになって寝そべる。胸に押し付けられた乳房に驚いて「おわっ」と声を出したテンに、愛という名の衝動に駆られて頬擦り。

 

暴れるテンの足に、足を絡めて動きを封じ。

 

抵抗するテンの両手を、恋人繋ぎで結ばれた両手で強く握って無抵抗にさせ。

 

ビクンビクンするテンの男根に恥部を当てがい、震えるテンの頬に頬を擦り付ける。

 

 

「んちゅ。ちゅ、ちゅぅ。はぁ、はぁ……んっ、ちゅぷ」

 

「れ、む。ちょ、それ、やばい…ぃ! くすぐったぃ……ぁ!」

 

 

テンを完全に組み敷いていると思うだけで興奮に体温が上昇し、レムはテンの首筋に唇を当てて何度も何度も口付けをした。自分のものというマーキングだ。

 

くすぐったさに暴れるテンが身を捩って抵抗するが、残念なことにレムの前には無駄な足掻き。彼女は鬼族、こんなにも華奢な体つきに反して力はすごく強い。

 

四肢を絡め取られ、組み敷かれた時点で無抵抗にされていたのだ。

 

ただひたすらに、レムは『テン』という存在に対して濃密に絡む。テンを形作る全てのものに、レムはレム色を塗りたくる。彼を自分色に染め上げ、それ以外に考えられなくする。

 

 そのためには、

 

 

「——かぷっ」

 

「かぷぅ!?」

 

 

 ——首筋に、噛みついた。

 

 

「ちゅっ……はむっ。ちゅぅ」

 

「あ、ふ、てめっ、レムぅ……」

 

 

首筋への口付けを許した時点で、否、レムにマウントを取られた時点でこうなることは確定していた。右の首筋に吸い付かれ、白い歯にはむはむと皮膚を噛まれ、生温かい舌先でペロリと舐められる。

 

抵抗できるわけがない。足はレムの足に絡め取られ、両手はレムの両手に握られて押さえつけられ、男根はレムの秘部に刺激されて快楽に飲まれているのだから。

 

全てが初めての経験すぎて体に力が入らず、されるがまま。リップ音と色気のある吐息を溢し、一生懸命に首筋に噛み付くレムのものに、なっていく。

 

そんな時間が約三十秒続くと、首筋から離れたレムは「はぁ、はぁ」と、か細い息を連続して短く吐き、

 

 

「これで、テンくんはレムのもの、継続です。はぁ、はぁ」

 

「キスマークつけたね?」

 

「はい。はぁ、はぁ」

 

「荒ぶる呼吸をなんとかして。マジで耳に毒」

 

 

隠すことなく正直に言ってきたレムのうっとりとした表情に見下ろされながら、テンは唇にかかる生温かい吐息に性欲が刺激される。

 

言おう、はっきり言おう、レムの上擦った吐息が、さっきからずっとエロすぎる。吐息と喘ぎ声の中間のような息遣いがとにかくエロい。耳から離れてくれない。

 

そんな吐息を耳元で聞いて、興奮しない男などこの世界にはいない。ただでさえ可愛い声のレムがそれをすれば、一種の破壊兵器となる。

 

 

「もっと聞いてください。はぁ、はぁ。レムの、興奮した、はしたない吐息……、テンくんに聞いてほしいからぁ……好きな人になら、聞かれてもいいからぁ。それで、はぁ、興奮してくだ、さい」

 

 

その破壊兵器を、レムは武器として扱った。

 

意識的にではない。自分のはしたない姿を見てほしいからだ。淫らな自分の姿を見て、興奮してほしいからだ。興奮して、性欲が高まって、最後に欲情してほしいからだ。

 

だからレムは、眼前にいるテンを完全に蕩け切った目で見つめる。視線でテンの意識を釘付けにし、自分の様子を見させて息を詰まらせ、声を出せなくする。

 

今、この世界には欲情によって温まったテンとレムの息遣いしか聞こえない。それ以外の音を世界が許さず、無言で見つめ合う男と女だけの世界が完成していた。

 

 

「ーーーー」

 

「ーーーー」

 

 

その世界で見つめ合う二人は、今からなにが起こるのか自然と理解していた。

 

 

「レムはもぅ、我慢できませんから」

 

「うん。いいよ。俺も無理そう」

 

 

燃え盛る性欲によって目の前の恋人に愛情が湧き続け、お互いの視線がお互いの唇に集中する。十センチにも満たない距離にある甘美な誘惑に心を預け、要求が一致した。

 

それは、何度も何度も何度も、レムが誘ってはテンが受け流してきた行為。テンと性的に触れ合いたいレムがどれだけ頑張っても、テンが未熟なせいで叶わなかった行為。

 

テンの準備さえ整えば、できた行為。

 

 

「大好きだよ。レム」

 

 

 愛を紡ぎ、

 

 

「大好きです。テンくん」

 

 

 口を閉じる。

 

もう言葉は不要だった。求めているものが同じだから。目を瞑ったレムが静かに唇を落とし、落ち切る寸前まで目を開けたままのテンがレムの愛を受け止める。

 

恋人になってから約一ヶ月。毎日のように愛を育んできた二人の雰囲気が変わり、繋がれた手をぎゅっと握りしめ合った瞬間、

 

 

「ん———」

 

「ーーっ」

 

 

 唇が、触れた。

 

一瞬、快感にレムの喉が甘く鳴り、唇に触れる柔らかな感触にテンが身を固くする。それも刹那のことで、初めての反応が過ぎ去った頃には既に、体から力を抜いた二人はのめり込んでいる。

 

触れるだけの口付け。でもそれは、確かな愛の証。口先に感じる熱を互いに交換し合い、視界を闇に閉ざして敏感になった感覚に唇の感触が刻まれていく。

 

 

「———はぁ」

 

 

 吐息が漏れ、離れる。

 

名残惜しさを感じさせるレムが甘い呼吸音を口から溢しながら離れ、顔を数センチほど上げた。塞がれていたテンの口が薄く開き、中から熱い息が吐き出される。

 

目を開いた二人の視界に映ったのは、蕩け切った状態から更に蕩け切った恋人の顔。どろどろに溶けてしまいそうな頬は火照り、極限までとろ目になった瞳は潤んでいる。

 

 

「……やっと、できました」

 

「うん。できたね」

 

 

ファーストキスを終え、恋人の口先を感じた感想を呟き、返された感想にレムは「はい」と小さく頷く。それから結ばれた両手を解くと、テンの感覚が残る唇を人差し指でなぞった。

 

途端に込み上げてくるものを悟って体を起こし、暇になった両手を顔に添える。目の奥が急激に熱せられる感覚に鼻を啜り、

 

 

「ずっと、したかったんです。テンくんと口付け、したくて……したくて……っ!」

 

「できたから、泣くほど嬉しくなった?」

 

「だって……テンくんが好きだからぁ。好きで大好きで、愛してるからぁ」

 

 

感極まって嬉し涙を流したレムは、上体を起こしたテンに抱きしめられる。胸に顔を埋められて涙を手で拭く必要がなくなったから、両手は彼を抱きしめ返すために使った。

 

たった一度の口付けで泣いてしまうくらい、レムはテンと唇を重ねたかった。生涯をかけて尽くすと誓った相手と一線を越えられるような気がして、どうしてもしたいと切に望んでいたから。

 

嬉しすぎて、死んでしまいそう。そして、一度でもその感触を知ってしまったら、レムの心は「もっと」と貪欲に欲してしまう。

 

 

「もっと、もっとください。もっとテンくんを味合わせてください」

 

 

言いながら腰に回す手を戻し、レムは腕をまくった。ただでさえ温まっていた体が今ので更に温まり、暑くなってしまったのだ。

 

服の下に隠れた白い肌が露出する両腕を伸ばし、レムは両手をテンの頬に添える。顔の位置を固定し、狙いを定めて再び口付けをしようと準備を整えた。

 

 そして、

 

 

「—————は?」

 

 

 不意に、テンは気づいた。

 

腕をまくったレムが手を伸ばした直後、テンの目はある違和感を捉える。レムの右腕、その手首より少し下のあたりに、なにかに噛まれたような痕があった。

 

それを見た瞬間から、火照った頭が急激に冷えていく。砕けたはずの理性が形を取り戻し、本能が形を潜めていく。

 

気づけたのは、本当に偶然だったのかもしれない。暑がるレムが腕をまくって、その腕を顔に伸ばしてくれなければ、まず目に映らない場所にその傷痕はあったから。

 

その偶然が、神様が自分に与えてくれた千載一遇の機会だと判断するのに、時間は使わなかった。鈍った思考でも、感覚的に分かった。

 

 

「レム。ちょっと腕見せて」

 

「今はそんなこと「いいから見せろッ!」

 

 

甘い声を押し除けて張り上げられたテンの怒号に驚き、蕩けていたレムの目に理知的な色が宿る。その一言で大人な雰囲気をぶち壊され、絶えたはずの理性が息を吹き返した。

 

突然に態度を一変させたテンに困惑して表情が驚きに染まり、理解が追いつかないレム。その彼女の手首を握り、テンは顔の前に持ってきた。

 

恐怖に早まる鼓動の音が、警告音のようにけたたましく聞こえる。なにかの見間違えであってほしい。そう願いながら違和感を確認し、

 

 

「ーーーッ!?」

 

 

 絶句。

 

これまでの雰囲気を忘れさせるほどの恐怖が、目の中に飛び込んできた。心臓が絶叫を上げて跳ね、用意されていたかのような早さで、頭の中に最悪の未来絵図が浮かび上がる。

 

確認できたのは噛まれたような痕ではなく、噛まれた痕だった。動物に噛まれた歯形が、右手首の下にくっきりと刻まれている。

 

 それはまるで———。

 

 

「レム、この痕はなんだよッ! ねぇ! なに!? この噛まれた痕はどこでつけられた!? 答えて! お願いだから早く答えて!」

 

 

焦燥感に駆られたテンが悲鳴を上げながら急かすように言い、怯えながら掴んだ手を激しく揺らす。

 

不安げに瞳を揺らす様子は先程までとはあまりにも違いすぎて、けれどその変化にただならぬ空気を悟ったレムは「えっと……」と呆然としながら、

 

 

「今日のお昼頃、アーラム村に出かけた際に子犬に噛まれてしまって」

 

 

血の気が引いていくのが、はっきりと分かった。

 

考えるよりも先に、テンは言葉を発していた。

 

 

「その子犬って、黒色の毛並みで、頭のてっぺんが禿げてたりした?」

 

「そうですけど……。ご存知ですか?」

 

 

テンの表情が、戦慄に凍りつく。体温が低下していくように、顔色がどんどん青ざめていく。

 

心の底から恐怖する表情はレムが初めて見るもので、それまでの欲情を吹き飛ばされる特大の困惑にレムは「ん?」と、顔を顰めて小首を傾げる。

 

 

 ——テンがレムの手をとって部屋から飛び出したのは、その直後のことだった。

 

 

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