女スバルのCV、個人的には潘めぐみさん。
ゼノブレイド3にユーニというキャラがいまして……その声を聞いてて「あっ、いい」ってなりました。
推しの子の『有馬かな』の声、って書いた方が伝わりやすいですかね。
「——多分、アタシはそのデカいのに轢かれて死んだんだと思う。そこからの記憶もないし、じゃなきゃアタシはここにいない」
「ーーーー」
「だから、それから村がどうなったのか分からないけど、察しはつく」
「ーーーー」
「きっとみんな………」
寝台の上で両膝を抱え、出来事を辿るように語り続けたスバルは言葉を切る。ここまでおぼつかない声で弱々しく、時に涙が混ざりながら続いたそれが、ついに途切れた。
抱えた膝に額を落とし、心の中で暴れる悲哀の感情に表情を痛々しく歪め、体が強張るスバル。真横で椅子に座って静聴していたハヤトの頭に、彼女にかける言葉が作られることはない。
「ーーーー」
絶句した、なにもかも、全てに。
覚悟していなかったわけではない。村で目にした光景、あれほどの惨劇が広がっていたのだから、それなりの体験が語られると心構えはしていた——していた、つもりだった。
語られた惨劇は全てハヤトの心を抉るもので、ただ抉るのならまだしも、抉った上から更に抉ってきた。耐えれる許容範囲を、大きくオーバーしていたのだ。
情に厚いハヤトの弱点とも言える部分を集中的に削られ、傷口から血液という名の負感情が溢れ出す。それは自分への恨みと、自分とテンの助けを信じていた村人たちへの後悔、そして罪悪感。
最期の最後まで自分たちが助けに来てくれると、そう信じて逝った者たちのことを思うと、守るべき者たちを守れなかった罪に、押し潰されそうになる。
怖かったはずだ。苦しかったはずだ。武力のある者たちからすれば子犬にしか見えない魔獣でも、そうでない人間にとっては一体でも大量殺戮しうる化け物なのだから。
「ーーーー」
語られた惨劇に言葉を失い、ハヤトは身が引き千切られる思いに苛まれる。俯く顔には影が差し、小さく開く股の間で合わせられた両手は、ガタガタと幻聴が聞こえてきそうなくらい小刻みに震えていた。
暗い表情。それを見ればハヤトの心境など簡単に理解できる。だからこそ、スバルは聞いた。
「ねぇ、ハヤト。あのときハヤトは来てくれてたの? 村の人たちみんな、ハヤトたちが助けに来てくれる、ってずっと信じてたけど……?」
「ーーっ」
息の詰まる確かな音がして、ハヤトの肩が一度だけ大きく跳ね上がる。涙ぐむ目がぱっと見開き、閉じられた口の中で苦鳴と共にぎりっと歯が食いしばられる。
イエスかノーか、今の反応ではスバルには分からない。俯いたままの体勢では表情から感じ取ることもできず、このままだとハヤトが口を開くまで待つしかないが、
「すまねぇ、スバル……!」
そう言って謝罪の言葉を口にされたことで、そんな思いも杞憂となって終わる。俯く体勢はそのままに背筋を丸めるハヤトが、スバルに頭を深々と下げていた。
突然の行動、とも言い切れない行動に驚き「えっ」と声を漏らすスバル。心底後悔したと言わんばかりのそれに、まさか村に来てくれていなかったのかと彼女は思い、
「俺たちのせいだ。俺たちが間に合わなかったから、お前たちはそんな目に遭っちまったんだ」
「間に合わなかった、ってことは来てくれてはいたんだ」
「ああ。村の異変に気づく事が屋敷であってな、テンたちと急いで向かったんだよ。けど、間に合ってねぇんだからその意味もねぇよな」
「なにしてんだ俺たちは」と、ハヤトは怒気を孕んだ声で己を咎める。前の世界で悔やみに悔やみ、全てをぶつけたはずなのに、被害者を前に口から出て来た言葉はそれだった。
その姿にスバルはルーナを重ねてしまう。守るべき人を守ることができなかった——状況的には同じでも守れなかった規模が違いすぎて、ハヤトの背にのしかかる計り知れない責任感に彼女は息を呑む。
次にかける言葉次第で、ハヤトの心が壊れてしまうかもしれない。そう思わせる落ち込み
「ちょっとだけ、ほっとしてるの」
「ほっとしてる?」
意味の分からない発言に顔を上げ、ハヤトがスバルのことを見る。訝しの目を向けられたスバルは「そう」と言って、静かに窓の外に視線を移した。
穏やかで、ほのぼのとした早朝の空。太陽に照らされ始めた空は淡い青色に塗られて清々しく、浮遊する雲がのんびり泳いでいるのが見える。
その空を見ながら、スバルは右手の人差し指と中指を立てて、
「二回、アタシはこの世界で死んだ。それで死ぬのは辛いって思った。当たり前でしょう? とんでもないくらい痛い思いするし、なにかしら絶望するし、死に戻りなんて二度と味わいたくないね」
「じゃ、なんでほっとしてんだよ」
「あの地獄から逃げられたんだ、って思えるから。ちゃんとやり直せるんだ、って思えるから」
体感的には五分前に保存された記憶、地獄を体現したような凄惨な体験を思い返し、スバルは真剣な横顔をハヤトに見られながら言い切る。
魔獣と人間が入り乱れる阿鼻叫喚の嵐の中、本気であの世界から消えたい、逃げたいと思った。こんな苦しい思いをするくらいならいっそ死んでしまった方が、とすら考えかけた。
死ぬのは嫌だ、怖いから。痛いのも嫌だ、苦しいから。でも、あの地獄を体験したばかりだからこそ、思ってしまう。
「話しながら落ち着いて、冷静になって、一日目に戻ったことを実感して、あり得ないけど安心してる。ルーナさんもペトラも誰も死んでない。そのことに、どうしてもほっとする」
顔を前に向け直し、スバルは深く吐息。正面に飾られた観葉植物に視線を置くと、開いた右手の人差し指と中指を閉じ、今度は小指だけをピンと伸ばす。
ペトラと交わした約束は消え、全て無かったことになってしまった。その上、村で過ごしたルーナや村人たちとの時間も消え、少なくも築かれた関係値はゼロに戻った。
けれど、小さくて大きな一つの命の消失、その事実が消えたことに比べたら、そんなもの些細なものに過ぎない。それくらい、ペトラの死はショッキングで、目に焼き付いてしまったから。
「死んでよかった、なんて思ってるわけじゃないけどさ。全部リセットされて、みんなが無事な世界に戻れた、って思えるだけでも気持ち的には救われる」
「だから、ほっとする」と。
死に戻った直後の感想を打ち明け、スバルは小指を見つめた。
そうすると小指を絡め合ったペトラのことが思い出されて、同時に肢体がぐったりするペトラのことも思い出されて、連鎖反応のように地獄の記憶がフラッシュバックする。
その度にスバルの安堵感は膨らんでいく。死の恐怖を相殺してくれる感情が、心を占めていってくれる。今こうして冷静でいられるのは、それも理由の一つかもしれないとスバルは思う。
「その考え方ができるお前が俺は心底羨ましいよ」
不意に早口で呟かれた言葉には、ほんの少しの羨望が混ざっていた。
言葉を受けたスバルが「え?」と小首を傾げてハヤトを見ると、落ち着きを取り戻したハヤトが心配そうな顔つきでこちらを見ているのが分かって、
「スバル。お前、本当に大丈夫なのか? 話を聞いた感じじゃ、かなりの地獄絵図だったんだよな。そんなことがあったら気ぃ狂っててもおかしくないと思うんだが」
「それ以上に戻ってこれた安心が強い、ってことよ。あのことを思い出すと手足ブルって胃が痛くなるけど、今がウジウジしてられる場合でもないことくらいアタシにも分かる」
気にかけてくれるハヤトの心配を笑って受け流し、スバルは歯を見せてニカッと笑う。若干の作り笑い感が否めない。
死に戻り直後のハヤトには絶対にできなかったことを容易くやってのけ、平気な様子を匂わせるスバル。かと思えば、彼女はふっと真剣な表情になり、
「ハヤトの話が確かなら今は一日目なんでしょ? それなら、なにもしなきゃまたアレが起こる。ペトラやルーナさんが、村のみんなが殺される——それだけは絶対に嫌だ」
拒絶の意を込めて首を横に振り、スバルは至極真剣な眼差しでハヤトを見つめる。自然と声色には熱が宿り、絶対に譲れないものがあるのだと目の前の男に示していた。
あの悲劇が繰り返されると思うだけで、スバルの鼓動は嫌な方向で加速する。居ても立ってもいられない衝動が全身を駆け回り、底知れない不安に押し潰されそうになる。
故に、スバルは負けない。その感情が背中を押して、あの日を繰り返すなと追い立ててくるから。
「アタシが思うにこの現象、アタシとハヤトに起こってる『死に戻り』ってのはトライ&エラー、死んで覚えろって力だと思う。俗に言う死にゲーってやつね」
寝台の上で尻を滑らせて身を回し、同じく真剣な様子で聞いてくれるハヤトと向き合うスバル。
胸に抱え込んだ両膝を解放する彼女は胡座をかくと、自由になった左手で指をパチンと鳴らした。
「知ってる限りじゃ、死にゲーなんてフロムが王道だと思ってたけど、そうじゃなかったみたい。実際に生身の体でやるとなると死にゲーって言うよりクソゲーになるけどね。マジふざけんなってカンジ」
リラックスした姿勢で愚痴を溢し、息を溢すように苦笑。手を後ろについて体を支え、支えにした手で貧乏ゆすりの如く適当なリズムを刻み始める。
この手のタイプはゲームでやるからこそ楽しいのであって、自分の体を使ってやりたいと言った覚えなどない。ゲームと違って痛みは感じるし、死んだ瞬間の絶望は形容し難いものがある。
けれど、自分らがその手のゲームと同じ状況にあるのだとしたら、絶望しかないというわけではない。
「死にゲーの醍醐味ってのは、さっきも言ったトライ&エラー。何度も同じ相手に挑んで行動パターンを覚えるのが攻略の定石。——なら、この世界でも同じことをやればいい」
この場合、始めのうちは自分の力で頑張るけど最終的に攻略サイトに頼ってしまうのがスバルだが、残念なことにそんな便利なサイトなどこの世界には存在しない。
であれば、定石通り地道に攻略法を模索していくのが一番の近道。ただその方針で動くと、これから先に何百回と死ぬことになるから考えものではあるが。
こっちは痛みを感じる人間の身、流石に死にまくるわけにはいかない。となると、一度の死に戻りでどれだけの情報を得られるかが鍵となる。
ともかく、
「今、アタシたちにはなんでか知らないけど世界をやり直す力がある! それって考え方によってはラッキーな話だと思わない?」
「どうしてだ?」
「だってだって、前回と同じルートを辿れば前回と同じ結果になるってことでしょ? なら、前回のダメだったところを修正して前回よりも上等なルートを通れば、結果はどれだけ最高なものになると思う?」
「……ああ、確かに」
「でしょ!」
膝立ちになって両手を広げ、前向きな思考を披露するスバル。身体全体を使ってハヤトにプレゼンする表情は明るく、数分前に戻ってきたばかりとはとても思えないほどだ。
この世界の理不尽さを嫌と言うほど味わい、原作の通りに全く動いてくれない世界で生きるハヤトからすれば完全に希望的観測でしかないが、後ろ向きに考えるよりはマシだろう。
ネガティブ思考は不幸を呼ぶ。自分にも周りの人にも。自己肯定感皆無な親友を長く見続けてきたから、そのことがよく分かる。
そんな風に思いながら同意するハヤト。常に後ろ向きな親友を持ったからこそ、常に前向きでいようとする彼に、スバルは元気よく「それで!」と前置き、
「襲撃は……えっと………」
「今日を一日目とすると、三日目だな」
「そう三日目! アタシたちって言っちゃえば、主犯格しか知らないことを知ってるアドバンテージの鬼なワケじゃん。なら三日目までに対策して、今頃その日に備えてウッキウキで構えてる主犯格に吠え面かかせてやろうぜ!」
声の調子が徐々に戻り、ギアの回転が上がって舌が回りつつあるスバルが、そう言ってハヤトにサムズアップ。
不安を感じさせない、自信満々な様子で大胆不敵に笑みを浮かべると、
「せっかくのチャンス、存分に活用してやろうじゃない。誰が悪さして戻らせてんのか知らないけど、絶望を全部まとめてひっくり返してやんよ。悪戯してる奴が口から泡吹いてぶっ倒れるくらいの結果出してなーー!」
前のめりな思考と強気な姿勢で言い放ったスバルの声が、ハヤトの体に真正面から叩きつけられる。叩きつけられたと錯覚するほど、勢いのあるものだった。
これが虚勢ではないのがスバルの凄いところだと思う。嫌味でも皮肉でもなく純粋に、一切弱気にならないところが羨ましく感じてしまった。
自分のように異世界で様々な経験を積んでいるのならまだしも、現状のスバルは異世界召喚されたてほやほや、心はただの高校生だ。
降りかかる厄災に怯え、精神がおかしくなっても不思議ではない、むしろそうなっている確率の方が圧倒的に高い。簡単に立ち直れるわけがないはずなのに。
ーーこれが『ナツキ・スバル』か
目の前で勢いづくスバルに「おう、そうだな」と笑い返しながら、腕を組むハヤトは心の中で呟く。
本人としては無意識だろうが、原作主人公の片鱗を、まざまざと見せつけられている気分。性別が変わっても中身は同じであると思い知らされた。
「あんなことがあったのに、スバルは前向きなんだな」
「後ろ向きよりはマシでしょ? なにがあっても常にポジティブシンキング、笑う門には福来るって言葉聞いたことないの? 男は度胸、女は愛嬌ってやつよ」
言葉の使い方が正しいかどうかの問題はさておくとしても、今の言葉は是非ともテンに聞かせてやりたいとハヤトは思う。
ここ最近、彼は色々な意味で弱々しい自分を変えようと必死ではある。が、完全に昔の自分を拭いきれていない節があるのも事実。ならば今の言葉、もし聞いたらなんて言うか。
「ふーん、そっかぁ」の一言で受け流される未来が視えた。
「それに、ハヤトがいるからってのもある」
頭の中にいるイマジナリーテンの反応の薄さに心の中で苦笑、実物はもっと薄い反応だろうなと思うハヤトにスバルはそんなことを言った。
「俺が?」と小首を傾げるハヤトの眉間に皺が寄ると、スバルは「そうよ」と人差し指を向けて、
「ハヤトみたいな心強い奴がいるから、アタシだってここまで強気に出れんの。これでアタシ一人だったらあの襲撃どうこうするって無理があるし、マジハヤト様様。ハヤト神様。ハヤトイズゴット」
「お前を助けられなかった身としちゃ、ここで胸張るのもどうかと思うが……そう言われたら期待に応えるために頑張るしかねぇな。いいぜ、任せとけ」
手の平に拳を合わせ、ハヤトは男らしくスバルに言い切る。その顔つきに迷いはなく、力強い目つきは灯された命の炎にメラメラと燃えたぎっていた。
一度は救えなかった命を前にその言葉を言い切るのにはそれなりの覚悟がいる——否、覚悟などとっくに決まっている。
それはもう、とうの昔にテンと誓い合った。
「そういえば、アタシが死んだ後ハヤトはどうなったの? そもそもの話、死に戻りのトリガーってなに? アタシの死? ハヤトの死? それとも両方?」
「それに関しちゃ曖昧だが、なんとなく予想はついてる。スバルが死んだ後の話も含めて今から話すぜ」
死に戻り直後の感傷を乗り切ったスバルが次なる考えに頭を回転させると、一つの疑問から枝分かれするように疑問が派生される。
立て続けに投げかけられる疑問付を全て受け止め切ると、靴を脱ぐハヤトは椅子の上で器用に胡座をかく。それから「ちょっと言いづれぇんだけどよ」と前置き、
「まず、スバルが死んだ後で俺がどうなったか、って話だが………」
言い淀み、話しづらそうに顔を顰める。その反応を不審に思うスバルが「なにがあったの?」と先の話を促せば、「んー」とハヤトは喉を低く唸らせて、
「死んだ」
「死んだの!?」
「バカ、声がデケェよ」
「あ、メンゴ」
精神的な衝撃を受けたスバルの体が脇腹を突かれたような勢いで跳ね、物理的な衝撃に寝台のスプリングがぎしっと音を鳴らして軋む。即座に注意されると、作った左手の手刀と共に軽い調子で謝った。
今の声を誰にも聞かれていないかと、意味もなく周囲をきょろきょろするスバル。ざっと確認した彼女は「は、ハヤトが……え? マジで?」と戦慄した態度でハヤトのことを注視。
驚きの程度が彼女が自分に置いている信頼の大きさだろうか。なんてことを考えるハヤトは「情けねぇ話なんだけどよ」とばつが悪そうに後頭部を掻き、
「死んだ、って言うより殺されたの方が正しいか。色々とあってな、油断しちまった」
「殺されるほどの色々ってなによ。アタシが死んだ後になにがあったの?」
「仲間たちと村に駆けつけて、魔獣を一掃して、それからテンが死んだ」
「本当になにがあったの!?」
「だからデケェって」
「あ、メンゴメンゴ」
二度目の精神的な衝撃に全く同じ反応を返し、全く同じように注意され、全く同じように謝る。数秒前と変わらない光景を繰り返し、スバルは「アイツも死んだんだ」と呟いた。
反応が自分のよりも軽いのには触れないとして、「まぁ、別にいいけどよ」と笑って流すハヤトは胡座の上で頬杖をつくと、
「テンが死んだ理由は……まだちょっと曖昧なんだ。だからちゃんと分かってから話すのでもいいか?」
「教えてくれないんだ。けち」
「悪いとは思ってる。けど、許してくれ。確認できたら必ず教える」
「魔獣に殺されたとかじゃなくて?」
「アイツは魔獣なんぞに
テンの実力を見誤るスバルにやや強めに言い返し、含みのある言い方でハヤトは言葉を終わらせる。それから「ほぅ」と深くため息をつき、一瞬だけもの寂しげな表情を見せた。
その頭の中で何を考えているのか、スバルには分からない。分からないからここで駄々を捏ねて無理やり聞き出すのも一つの手だと思う。が、ハヤトなら隠しっぱなしにすることもないだろう。
「ふーん」と不満そうな態度を隠そうともしないスバル。しかし彼女は「分かった」と頷き、
「聞かないでおいてあげる。そのうち絶対に話してね。あんまり話してくれないと会う度に、話して、って言い続けるから」
「それは避けたいな。……わーってる、約束だ」
ひとまず見逃してくれたことに安堵しつつ苦笑。問い詰められることも予想していたハヤトは心の中でほっと一息つき、緩みかけた気を引き締めた。
テンの死因を確認するとなると、一息ついていられる場合でもないのだ。だって彼が死んだ理由は、もしかしたら死に戻りの力を与えている存在なのかもしれないのだから。
博打すぎる博打。最悪、テンがまた死ぬことになる。仮にテンが死に戻りの事実を知らないとして、そのことを彼に話すことが禁句だとしたら、それこそ原作のエミリアのように———。
「てゆーか、油断しててもハヤトを殺す相手とか、そんな奴いるんだ」
「エルザだよ」
「またあのサディスティック女がいるの? アタシたちにボコられたばっかなのに、性懲りのない女ねぇ。じゃぁ、もしかしてテンが死んだのって」
「少なくとも、エルザに殺されたわけではないな」
「じゃぁなんで死んだの? 寿命?」
「十八歳で寿命は短すぎるなぁ。俺だってそれが分からねぇから頭抱えてんだよ」
しれっと自分主体にエルザを倒したと豪語するスバルの軽口に乗っかり、ハヤトは困り顔。頬杖をついていない手の握力を確かめ、少しでも感情を発散した。
テンは死に戻りの事実を知らない。故にそれを口にしようとして殺された。ならばこの世界で確認することは自殺行為に等しいのではないか。しかし、確認しなくては話が進まないというジレンマ。
テンの生死を分ける問答が二日後に控えている。できれば、その瞬間までには名案が浮かんでいることを祈りたい。
最高なのは、テンが死に戻りに関してリアクションを見せてくれること。彼が自分から「俺も戻ってるよ」的なことを言ってくれたら大助かりだ。
そうすれば、この杞憂が一気に解消される。
「多分、死に戻りのトリガーは俺とスバルが死ぬことだと思う」
考え出すと止まらなくなる予感がして、早々に切り上げるハヤトが話を変える。
先程の疑問に答えてくれているのだと理解するスバルに「その心は?」と返されると、
「お前が死んだ時点では戻ってなかったからだ。実際、俺はお前の死んだ姿も見たしな。お前がいなくなった後の世界を俺は見てきた。んで、その後に俺が死んだら戻ったんだよ」
あるいはテンの死が関係している可能性も考えられなくはないが、それだと王都で死に戻りが発動したことに説明がつかないからその可能性は否定。
どうせならテンも一緒が良かった。とは、世界で一番頼りになる相棒がいなくて寂しく思うハヤトのリアルな心情。これまで苦楽を共にしてきた男がふっと消えた感じがして、もの寂しい。
無い物ねだりしても仕方ない。それにまだそうだと決まったわけではない。前向きに物事を考えようとするハヤトは「そんで、だ」と言葉を繋げて、
「死に戻る地点は、俺たちが勝手に決められるもんじゃないらしい。王都で死に戻った時と開始場所が違うしな。で、その地点を決めてるのは多分」
「この現象を起こしてる元凶、ってことか」
「だろうよ」
「なるほどなるほど。大体だけど仕様が分かってきた」
原作知識をふんだんに利用して説明するハヤトの言葉に己の言葉を重ね、自己流で解釈するスバルは納得したと言わんばかりに何度も頷く。
今の説明を咀嚼、自分の知ってる言葉に単語を上手く置き換え、頭の中で理解を深める。「つまり、こういうことか」と指をパチンと気持ちよく鳴らし、
「主導権はアタシたちを戻らせてる奴が握ってる。
どこの馬の骨とも分からない奴に戻らされてる上、セーブポイント更新の権利は譲らないときた。しかも戻る方法は痛みを伴う死だけで、スバルとハヤトの死が絶対条件。
これじゃ『死に(覚え)ゲー』というより『死に(戻り)ゲー』になりそうな気しかしない。どっちも似たような意味合いだから敢えて分ける必要はないけども。
これは、思った以上に敵が多い。死に戻りの元凶に魔獣にエルザ、あと一つ揃ったら化け物揃いの四面楚歌だ。
「アタシとハヤト、どっちかが死んだら即終了ってことでしょ? つまりそれって、片っ方が片っ方を追いかけなくちゃいけない、ってことになるわよね」
「俺たちが死に戻るならな」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ!? アタシが死んだらハヤトも死んでよね!?」
「メンヘラっぽいこと言うんじゃねぇよ。つーか、お前は死なせねぇ。さっきも言ったろ? ——俺が意地でも守ってやるから安心しろ」
早まった結論を出したスバルが詰め寄ってくるのを手で制し、二度と誰も死なせない意志の下、ハヤトは人が言いにくいことをさらりと断言する。
ハヤトのような男に言われるとそれなりにクるものがあって、真面目な表情で言われると更にクるものがあって。
一度だけ高鳴った鼓動の音に動きが止まり、息が詰まるスバル。軽口を投げかけたはずがマジトーンで返された彼女に、ハヤトはニカッと歯を見せて笑ってみせると、
「バケモンの相手は任せときな、俺がなんとかしてやる。そのために俺は力ぁつけてきたんだぜ。それに、ここには心強い仲間がいるしな」
「ハヤト……! それってアタシの」
「この屋敷に住んでる俺の仲間は粒揃いだからな。今回の戦いはテンもいるし、心強いことこの上ない………スバル? なんで布団噛み締めてんだ?」
「ちくせう! ハヤトのバカ! もういいもん! アタシ不貞寝するっ!」
戦力外通告されて拗ねたスバルが枕を投擲、ほぼゼロ距離で放たれたそれをハヤトは腕で防ぐ。ぼふっと音が立ち、重力に従ってハヤトの胡座の上に落ちた。
期待していた言葉が聞けず布団に横になり、シーツに顔を埋めて「拗ねちゃうなぁ! アタシ、悲しいなぁ!」と足をバタバタさせるスバル。
埃が舞うからやめてほしいハヤトは「スバル」と強めにその名を呼んだ。「なに?」と不機嫌感満載に返されると、なぜか故郷の妹の相手をしてる気分になりながら、
「一つ、俺と約束してくれ。これは前にも言ったが、俺と二人だけのとき以外で死に戻りのことは口にするな。死に戻り関連の内容もだ。口にしたら怪しまれちまうぞ」
「へ……? あー、確かに。ペトラとかルーナさんの名前うっかり口にしちゃったら怪しまれるもんね。てへぺろ、じゃ済まないだろうし」
「そういうこと。仮にそうなったら俺が話したってことにすりゃいいと思うが、それだけじゃ説明できんことはこれから先に沢山出てくるからよ」
「いいな?」と念を押するハヤトにスバルは「分かった分かった」と適当に返事。ごろごろしながらだと尚のこと適当に見えて、本当に大丈夫だろうなと思わなくもない。
約束しておいて損はないだろう。死に戻りに関わりがない者に一言でも話したら起こる事、ハヤトはその最悪のパターンを間近で見てきた。禁忌に触れるとはどういうことか、身をもって知った。
打てる手は先に打ち、先手を取る立ち回りを意識しなければならないハヤト。ひとしきり拗ねたスバルは体を起こすと彼のことを見つめて、
「ってことはあれね。死に戻りはアタシとハヤト、二人だけのヒ・ミ・ツってことになるわけね。漏らしちゃダメよ。そういうのって、誰にも話さないでね、が続いて人から人に広まってくんだから」
「洒落にならねぇ」
小学校でよくある光景、仲のいい友達だけに「絶対に内緒だよ?」で伝えたことが凄まじい勢いで広がり、いつの間にかクラス全体に知れ渡ってるという恐怖。
その点のみで考えれば、死に戻りに関しては心配いらないとハヤトは思う。死に戻りで同じ現象が起きるとすれば、一人目の時点でペナルティを受けるのだから。
罰を受けるのは口にしたものだけか、あるいは連帯責任か。受けてみないと分からないのが本当に厄介なところ。
もっとも、
「二人だけの秘密になるかどうか、まだ分からないけどな」
「ってーと?」
「確認してぇことが一個だけある。だが、それを確認すんのはテンが帰ってきてからだ」
僅かな希望に縋りたいハヤトがテンの名前を口にした途端、スバルが分かりやすくムッとする。心にある感情をハヤトに直球でアピールすると、
「どうしてテンが帰ってきてから?」
「ひょっとしたら、アイツも戻ってるかもしれないからだよ。それを確認したい」
「えー、アイツもなのー?」
「露骨に嫌そうな顔すんなよ。俺の唯一の親友だぜ?」
「唯一があんなのとか、ハヤトも苦労してるわね。もっとマシな奴いなかったの?」
「お前な………」
全く悪びれのない様子で嫌悪感を剥き出しにし、スバルは腕を組んで「ふんっ」と鼻を鳴らす。唾でも吐き捨てそうな勢いは、敵意に近いものをハヤトに感じさせ、怒る通り越して呆れさせた。
テンに向けるスバルの好感度が、三章前半のユリウス並に低い。もしかするとそれ以下、修繕不可能な領域に足を踏み入れている感がすごい。
であればハヤトが呆れるのも無理はない。一方的にとはいえ、テンを嫌うことはレムやエミリアの好感度を下げ、嫌われることに直結してしまうのだ。
レムとエミリアは、テンが大好きだから。
呆れ、困り、新たな壁がどんどん増えてハヤトは憂鬱な気分にさせられる。冗談半分でスバルのことを『地雷』と称したが、いよいよ冗談ではなくなってきた。
「スバルがアイツを嫌ってんのは伝わった。けど戻ってるかどうか、確認するのは絶対だ。お前がどうこうじゃなく、俺が聞かなきゃ気が済まねぇ」
スバルがテンを嫌っている以上、彼女の認識を改めさせる以外に解決の方法はない。そしてその方法は今のところない。
ならば強引に話を進めるハヤト。彼はそう言うとスバルの反応を待たずに言葉を続けて、
「ここで色々と話してもいいが、とりあえずアイツが帰ってきてからにしたい。どうせならアイツを交えて話そうぜ。その方が話し合いが一度に済むし」
「なにより」と、
「その前に、やるべきことを全部終わらせてからじゃねぇと。俺が話に集中できねぇ」
「やるべきこと………?」
ハヤトの思惑通りスバルの頭からテンが離れ、引っかかった発言に対する思考が働く。
顎に手を当てる彼女は考えるための沈黙を設け、前回の一日目をざっと振り返り、
「また土下座するんだ」
「するしか、ねぇかぁ」
ストレートに言われた記憶にがくりと肩を落とし、ハヤトは深々と嘆息。額に手を当て、現実逃避するように目を瞑った。
ロズワールに直談判、屋敷の人たちにスバルの説明、アーラム村で居候先の確保、あと引っ越しの手伝い。その中で起こるてんやわんや。
やることも、気にすることも、山ほどある。加えて三日目にある襲撃の対策も考えるとなると、考え事の多さに頭が破裂しないか心配だ。
トドメの土下座——できればやりたくないが、他のやり方を模索するキャパなどハヤトにはない。
「……ダメだな、考えてばかりじゃ頭おかしくなる」
考えれば考えるほど億劫になり、体が重怠くなっていく感覚にハヤトは立ち上がる。
背筋を大きく伸ばし、浅く息を吐いて「おし」と気合を入れると、扉に体を向けた。首だけスバルに振り返り、
「一旦、話し合いはここまでにしようぜ。庭仕事もせにゃならんから、俺は庭に行く。お前も来るか?」
「行く。ここにいても暇だし」
「決まりだな」
頭を動かすより体を動かす方が好ましいハヤトが扉に向かい始めると、慌てて追いかけるスバルがその大きな背中に続く。
扉までの距離は一メートルもない。少しもしないうちに辿り着き、ハヤトはドアノブに手をかけ、
「……スバル」
扉を開く寸前、スバルの名を静かに呼び、かけた手をドアノブから離す。
背中越しに聞こえた低い声は神妙で、聞く者の不安を煽る真面目な声色だった。当然、不審に思うスバルから「どしたの?」と声がかかると、ハヤトは体を回して振り返り、
「こっから先、なにが起こるかマジで予想がつかねぇ。俺はこのループで悲劇を終わらせるつもりだが、世界はそこまで優しくねぇってことを知っちまった」
雰囲気を変えたハヤトに真正面からそう言われた瞬間、スバルの身が一気に引き締められる。丸まった背筋が一直線に伸び、ハヤトの目から視線を逸らすことができなくなった。
スバルと向き合うハヤトの目の色は真剣一色。発する言葉の一文字一文字を心に刻み込ませる力強さがあって、
「スバルにあんなことがあった手前、こんなこと言いたかねぇが……また誰かが死ぬことだってある。だが、俺たちで全てを守ってみせるぞ!」
情熱に燃え上がる声色に鼓膜を揺らされ、言霊に感化するスバルの魂が激しく燃え猛る。眼前にある意志の宿った太陽の笑みに胸が熱くなり、心から迷いや恐れが消え去る。
まるでハヤトの感情がそのまま心の中に流れ込んできているような錯覚を起こし、
「あの絶望を、この悲劇を、俺たちでひっくり返してやろうぜ! なぁ、スバルーー!」
「ええ、そうね! やってやろうじゃない!」
乾いた音が世界に響き、ハヤトとスバルの手が叩き合わせられる。暗い空気を吹き飛ばすハイタッチが気持ちよく交わされ、お互いに強気で声を上げた。
満面の笑みを浮かべ、気持ちを高め合う。一度の死に戻りを通じて絶望を知った者同士、もう二度とあんな悲劇は繰り返させないと誓い合い。
「運命様、上等よーー!」
「ああ、上等だな!」
二度目のループとの戦いが始まる。
テン
「———ん?」
ヴィルヘルム
「どうされましたか?」
テン
「あ、いや……。よく分かりませんが、僕の立ち位置が誰かに奪われたような変な寒気がして」
ヴィルヘルム
「集中力の欠如は死を招く。戦闘中の雑念は振り払うことです。目の前の敵にのみ意識を注ぎなさい」
テン
「はい、すみませんでした。——もう一本、お願いします」
ヴィルヘルム
「来なさい」