少しでも望む未来へ   作:ノラン

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Doorを聴きながら書いたせいか、内容が暴走しやがりました。久々のがっつりオリ主×エミリア回。

人によってはエミリアの解釈不一致で不満に思うかもしれません。なので不満は受け付けます。








想われた人としての役目

 

 

「———や」

 

「ん?」

 

 

盛大な溜めを作って奏でられた愛の一文字目に、テンは不本意にも喉を鳴らしてしまう。

 

眼下、胸元に身を寄せる乙女の気持ちを受け止めようと頑張り、予想していた言葉を受け入れるだけの余裕を心に作り——しかし、鼓膜を打った言葉の一文字目が予想したそれとは全く異なるものだった。

 

予想が正しければ『す』が来るはず。けれどエミリアの口から溢れたのは『や』で、

 

 

「やっぱり……ダメ」

 

「あっ……」

 

 

立て続けにエミリアから音が溢れ、それが彼女の中にある弱音が形になったものだと理解し、なにかを察した音がテンの口から落ちる。

 

彼の目が向く場所、胸元には身をぷるぷると震わせたエミリアがいて。皺が残るくらい強く服を握る両手と、今にも泣き出しそうな潤む紫紺の瞳が、爆発三秒前を告げていた。

 

この後の展開が読めたテン。考えるのも嫌になった彼は(きた)る衝撃に身を固め、

 

 

「ダメ……、ダメダメダメ! ダメぇ!」

 

「おわっ」

 

 

そのテンの胸を思い切り突き飛ばしたエミリアが、銀髪をばさつかせながら首を横に振る。

 

予感していた衝撃によろけることなく、数歩下がる程度で体勢を立て直すテン。大して焦ることのない彼に背を向けると、反対に大慌てなエミリアは頬に両手を当てて、

 

 

「ごめんなさい、本当にごめんなさい! 私、ちゃんと言おうと思ってたのに……!」

 

「いや、いい、大丈夫だよ。よく頑張った方だよ。むしろ、ちょっと頑張りすぎちゃったくらいじゃないかな。俺なんて、その言葉を言うのに四ヶ月くらいかかったから」

 

 

あたふたするエミリアを落ち着かせようとして優しい声色で言うが、きっと真っ赤なお耳には届いてないんだろうなとテンは思う。

 

今この瞬間における『テン』という存在は、彼女にとって超危険人物のようなものであり、最も会いたくない存在となってしまっているはずで。

 

 

「うぅ……私のバカ、バカバカ!」

 

 

その場で爪先を立てて深くしゃがみ込み、エミリアは己の頭をポカポカ叩く。

 

今後の自分だけでなく、テンの人生も左右する愛の言葉。どんな言葉よりも優しい言葉を形にしようとして、寸前で喉の奥に引っ込んでしまった彼女は、己の不甲斐なさを恨んだ。

 

 ——好きです。大好きです。

 

言うつもりだった。そのつもりで彼の前に立った。なのに想いに反して口は、まるで体が拒んでいるように動いてくれなくて、その一言も言わせてもらえなかった。

 

せっかくテンが待ってくれているというのに、パックが場を整えてくれたというのに、自分のせいで全てが台無しだ。

 

 

「あのさ、さっきのだけど」

 

「言わないで!」

 

 

エミリアの甲高い悲鳴が、テンの鼓膜を強く殴りつけ、声を弾き飛ばす。

 

なにも聞きたくないと手で耳に蓋をして、「イヤイヤ」と駄々をこねるように頭を横に振り、

 

 

「なにも、なにも言わないで! お願いだから……今はなにも言わないでぇ……、どっか行って!」

 

 

この状況が恥ずかしくて、失敗したのが悔しくて、言葉にできない自分が情けなくて。テンの前から逃げ出してしまいたいのに、意志に反して足が動かない。

 

だからエミリアはテンの声を拒み、耳を塞いで世界の音を断った。同情も慰めもいらない、ただ一人にしてほしい一心で、一人になれる世界に行こうとした。

 

 

「ーーーー」

 

 

一世一代の告白に失敗し、死んでしまいそうな羞恥心から全てを拒絶して蹲るエミリア。出会ってから初めてエミリアに遠ざけられたテンは困惑を捨て、次に自分がするべきことを考える。

 

望み通りになにも言わず、そっとしてこの場を離れるべきか。

同情や慰めの言葉をかけるべきか。

 

前者の方を選ぶべきなんだと思う。エミリアからすれば自分は告白を失敗したばかりの相手で、そんな相手からの同情や慰めの言葉など傷口に塩を塗るようなものだ。

 

安全なのは前者の方——それはあまりにも、温かみに欠ける選択ではないのか。恋を知ったばかりのエミリアが勇気を振り絞って告げた言葉に対して、薄情すぎるのではないか。

 

生まれて初めての感情に当惑し、頭から湯気が吹き出すほど悩んだはずだ。悩んで、考えて、その末に導き出した答えの結果がこれならば、何も言わずに放置して去るのは酷すぎる。

 

今じゃないと伝えられないことがある。心の形が変化しつつある今に伝えなければ、絶対に響かない言葉がある。それを、テンは知っている。

 

 

「ーーーー」

 

 

小さく息を吸い、小さく吐く。僅かな動作で気持ちを落ち着かせると、意を決して行動に出た。片膝をついて姿勢を低くすると、頭の高さをエミリアに合わせ、

 

 

「ーーっ!」

 

 

 ぽん、と。

 

不意に、頭に置かれた手によって、エミリアは元の世界に連れ戻される。一人になりたくても、背中にいる青年は一人にさせてはくれなかった。

 

思考が白熱する今では予期できなかった驚きに体が跳ね、爪先で保っていた姿勢が不覚にも後ろに傾く。反射的に手をつこうとして——それよりも前に受け止められ、尻餅をゆっくりつく。

 

何に受け止められたかなど、思考を介さずとも分かる。何にではなく誰に受け止められたのか、それくらい感覚的に分かる。

 

 

「ーーーー」

 

 

故に、エミリアは固まってしまった。

 

土壇場での告白に失敗して羞恥心に蹲った挙句、体勢を崩して告白した相手に受け止められるという痴態。感じたこともない羞恥に呑まれ、揉まれ、いよいよどうしたらよいか分からなくなった。

 

昨日から心を揺るがす感情の全てが初めてのモノばかりで、一つ一つが甚大な被害を及ぼすそれを受け入れきれず、体の震えとなってエミリアから身動きを奪う。

 

動けず、声も出せず、後ろを振り向くのが怖くて仕方がない。故にエミリアは両手で膝を抱え、震えを我慢しながらテンの行動を待つだけの人間となる。

 

 

「ーーーー」

 

 

そんなエミリアを前に、テンの唇は自然と緩まる。どうしてだろうか。それはきっと、受け入れきれないことを前に怯える姿が、少し前の自分と重なったから。

 

小さく息を吸い、想いを紡ぐ空気を取り込む。片膝をついてエミリアを胸に受け止めた彼は、話す予感を感じてびくっとするエミリアの小動物のような反応に微笑すると、

 

 

「今のエミリアからしたら俺の一挙一動……俺のすること全てが危険なんだと思う。だから、今はそっとしておいたほうがいいのかもしれない。パックにもね、言動に気をつけろ、って言われた」

 

 

「だから、これ以上はなにもしない」と。そう言ったテンは頭に添えた手をそっと離す。

 

いつものようにそのまま撫でてしまいたい衝動——いつからこんな衝動を覚えるようになったのかも分からないそれを無視し、身を回しながらその場に座り込んだ。

 

頭に手を置いただけであの反応だ。撫でようものなら気絶されかねない。細心の注意と気遣いの心で接することを心がける彼は、エミリアと同じように背を向けて、

 

 

「エミリアの視界にも映らない、映ろうともしない。エミリアには絶対に触れない——本当に、なにもしない。けど、少しでいいから俺の話を聞いてほしい。聞くだけでいいからさ」

 

 

「だって」と、あぐらをかいて背筋を伸ばし、

 

 

「今のエミリアをそっとしておくの、ごめんちょっと無理。このまま君を放って立ち去るような薄情な男にはなりたくないよ。だから、俺の話を聞いてほしい。俺の我儘に付き合ってほしい」

 

 

晴れやかな空を仰ぎながら、怖がらせないように呟く。あくまで自分の都合で話すのだと無理やり理由をつけ、エミリアを付き合わせる側に回した。

 

耳の蓋を取ったことで鮮明に聞こえたそれになにも言えず、立場の逆転に戸惑いながらもエミリアは体の力を抜くことを答えとする。

 

それが逃げることを諦めたものであったとしても、なす術がなかったものであったとしても、どちらでもなかったとしても、なんでもいい。

 

背中に感じるエミリアの重み、体を預けてくれたのだとテンは微笑。背中合わせで座って話をする構図が完成すると、穏やかな口調と声色で話し始めた。

 

 

「自分の想いを伝えることって、死ぬほど緊張するよね。その気持ち、すごく分かるよ」

 

 

目を閉じてしみじみと溢し、優しい表情をするテン。瞼の裏側に過ぎるのは、レムに一度目の告白をする瞬間の記憶だった。レムがまだ、自責に囚われていたときのこと。

 

状況が状況だけあって気にする余裕はなかったが、改めて思い返すとかなりヤバかった。緊張も鼓動の音も恥ずかしさも、全てが限界値をゆうに超えていた。

 

声が震えなかったのは覚悟が完全に決まり切っていたからだろう。でなければ、今のエミリアのようになっていたかもしれない。だからといってエミリアの覚悟が足りなかったと言いたいわけではない。

 

もし、レムと話す前にラムと話していなければ自分はきっと———というだけの話。

 

だからこそ、テンはエミリアに思いを伝えるのだ。自分が辿っていたかもしれない未来を、辿らせないように。

 

 

「エミリアはさ、今、頭の中でぐるぐるしてる言葉を俺に伝えようとして、覚悟とか決めた?」

 

 

小首を傾げるテンに、エミリアは無言でこくりと頷く。鼓膜を通して心に届くテンの声、その一音一音にどきどきさせられながら、深呼吸を繰り返して平常心を取り戻そうと密かに躍起して。

 

正直、想いに気づいているテンにとっては複雑な思いにさせられる質問。自爆するだけの質問なんてしない方がいいが、今だけはその思いを気にせずに言葉を続ける。

 

 

「でも、できなかった? 俺に伝えたい想い(こと)があって、伝えるために覚悟も決めて、いろんな感情に揉まれて苦しいって思いながら頑張って、頑張って……でも、エミリアはできなかった?」

 

 

膝を強く抱きしめ、エミリアは再び頷く。今度は深々と頷き、その勢いで膝に顔を埋めた。下唇を噛み締め、溢れ出したがる嗚咽と苦鳴を口の中に閉じ込める。

 

言われた通りだと思った。昨日、テンへの想いを自覚してから初めての感情という感情に揉まれ、その中でどうにか覚悟を心に決めて、自分は今ここにいる。

 

それでも想いを伝えられなかったのは、自分が不甲斐ないからに違いない。覚悟が足りなかったからに違いない。つまり、愚かな自分のせい。

 

そんな姿、テンにだけは見られたくなかった。他の誰に見られたとしても、大好きな人にだけは見てほしくなかった。

 

負感情に負感情が重なり、エミリアの思考が暗闇へ沈んでいく。告白の失敗が心を暗く覆い尽くし、テンに失望されるだなんてあり得ないことすら考えそうになる。

 

 

「その気持ち、すっごく理解(わか)るなぁ」

 

「え?」

 

 

だからその自分に共感された瞬間、エミリアは心から困惑の声を上げた。一緒に顔を上げ、瞬間的に体の動きを縛る感情を忘れて首だけ振り返る。

 

少しだけ見えた横顔は、感慨深そうに青空を仰いでいて。空を見ているはずの瞳は、空ではない何かを見ているようにも感じられて、

 

 

「こっちに来てから、俺にも似たようなことが沢山あったよ。何度その状態になれば気が済むんだ、ってくらい。その度にみんなに迷惑かけて、励まされてきた」

 

 

情けなかった頃の自分——自分一人の力では立ち上がれない、誰かに励まされないと、背中を押されないと、大きな一歩を踏み出せなかった自分を思い出し、テンは嘆息。

 

覚悟を決めては挫け、立ち直ったかと思えば挫け、命を懸けた土壇場ですら狼狽えるような精神弱者。そんな少し前のソラノ・テンにとって、今のエミリアの心を蝕む感情なんて友達も同然だった。

 

 

「自分の中で覚悟を決めて、本番に臨む気持ちも高めて、さぁ行くぞ! って思いながらいざ本番——ソレを目の前にした途端、やっぱり怖いって思う。怖くて足がすくんで、動けなくなる。それ、人によっては仕方のないことだと思うんだよね」

 

 

ふとした拍子に覚悟が崩れて尻込みし、前に進む力が失われる。剣を握る手が情けなく震えて、それまでの思いが嘘のように総崩れ。

 

魔女教徒の襲撃が起こった夜。鬼化で殺戮の限りを尽くし、暴走したレムを止める役目をラムに任されたとき、その瞬間の自分がまさにそれだ。

 

思い出すだけでも、いや、思い出したくもない。

 

 

「何回も何回も覚悟を決めて、その時は心の中で、いける! って思っても……やっぱり怖いものは怖いんだよ。全部、振り切れるわけないんだよ。それが、受け止めきれないモノなら尚更」

 

 

「感情であれ、現実であれ」と。

 

凄まじく重みを感じる言い方で語るテンの言葉を聞き、エミリアは心の中で共感する。口にされる過去のテンに通ずるものがあると思ったのは、今の自分がそれだったから。

 

テンに告白する寸前までは『好きです』の四文字を言える気だった。迷いなんてなくて、言うしか道はないのだと覚悟を決めて口にするつもりだった。想いを伝えるつもりだった。

 

しかし現実は想像とは真反対の結果に辿り着いた。紡ぐ口を止める弱い自分、覚悟と決意で隠したその自分が精神を怖がらせ、告白は未遂に終わったのだ。

 

 

「俺にもね、そんなことがあった。あったというか、今もある。どうにかこうにか踏ん張ってるけど、たまに弱りそうになることがある」

 

「テンにもあるの?」

 

「あるよ。ちょっと前に自分の在り方を見つめ直すことがあって。それから未熟な自分を呪って、その自分を変えようとしてるところ」

 

 

話をしているうちに落ち着きを取り戻し、声を出せるようになったエミリアが驚いた声で聞くと、テンは首肯。

 

エミリアがこちらを見つめているのを知りながらも、こちらからは目を向けず空を眺めて、

 

 

「時間をかけて、ゆっくり、少しずつ変わろうとしてる。人は一日二日で変われるものじゃない、って思い知らされたから。俺みたいな弱い人間(ヤツ)は特に」

 

 

「情けなくて、恥ずかしい話だけどね」と肩を弾ませて気まずそうに笑うテンは、うなじを人差し指でぽりぽり掻く。その行動を間近にしたエミリアは、溢すような笑みを浮かべた。

 

だってその行動はテンの無意識。恥ずかしいときや、むず痒いときによくやる癖。深く接してきた今ならよく分かって、それがとても嬉しい。

 

大好きな人の癖を見抜いていたエミリア。テンのことを理解しているのだと不意にも実感できた彼女のことなど気に止めず、テンは考えるように腕を組んで、

 

 

「きっと、エミリアもそれなんじゃないかな」

 

「それ?」

 

「エミリアには今、築き上げてきた常識がひっくり返っちゃうくらいの事が起きていて、心がそれに順応しようとして変わろうとしてるんだよ」

 

 

小首を傾げるエミリアに足りない言葉を付け足し、テンは彼女の身に起きた現状を告げる。自分の中に芽生えた新しい感情に追いつけず、どうしたらよいのか分からなくなってしまう前に。

 

自分の未熟さに気が狂うほど悩まされ、それを放置するな馬鹿とラムに叱咤激励された身としては、エミリアの気持ちは痛いくらい理解(わか)る。

 

変わろうとする自分と、その自分に戸惑う自分。その乖離によって生じる葛藤にもがき苦しんでいるところを、ラムに救われたから。

 

だから自分もラムにしてもらったことをするのだ。想われた人としての役目を、全身全霊で果たすのだ。

 

 

「変わろうとした結果がさっきのなんだと思うんだけど……。あくまで俺の主観だけど、ちょっと急ぎすぎちゃってたかもしれない」

 

「どーゆーこと?」

 

 

未知の領域に足を踏み入れている予感がして、理解できないエミリアが興味そうに聞く。羞恥心に蹲っていたはずの乙女は今、いつの間にかテンの話に聞き入っていた。

 

心に響いてくれているようで安心。期待した反応を見せたエミリアにテンは真剣な顔つきで、

 

 

「想いを自覚してから言葉にするまでには、時間が必要なんだよ。それが心に浸透して、馴染んで、ちゃんと受け入れるまで。——エミリアみたいな子どもには特に」

 

「真剣に話してると思ったのに、またそー言って子ども扱いする……。どーしていつも子ども扱いするの。私は子どもじゃありません。お酒だって飲めるんだから」

 

「俺の前でそれを引き合いに出す勇気は認める」

 

 

茶化すと不機嫌そうに唇を尖らせたエミリアが肘で脇腹を小突いてくる。幼い不満アピールを受けていると、酒に酔って甘々に擦り寄ってきたエミリアの姿がテンの脳裏を過ぎ去っていった。

 

今のやり取りで軽口に反応できるだけの余裕はできたなと思いながら、

 

 

「ラムの言葉から察するに、なにかあったのは昨日なんでしょ?」

 

 

「違う?」とテンが小首を傾げると、小突くのをやめるエミリアが「うん」と自然に頷いて、

 

 

「昨日、ちょっと色々とあって。それからずっと一人で悩んでた。パックにも相談したけど、最終的には私のしたいようにすればいい、って」

 

「したいように、ね。そっかぁ……」

 

 

もっとマシなことは言えなかったのかと、呆れた顔になりながらため息。だが、これは彼が自分に与えた試練なのだと思うと変に納得できるものがあって、一概に否定しきれない。

 

ならば期待に応えなければならない。さっと気持ちを切り替えると、

 

 

「じゃぁ、言えなくても仕方ないよ。昨日の今日で変わるのは難しいし。ゆっくり、時間をかけて慣らしていけばいい。なにも今すぐに言う必要はないと思うよ。告白(それ)は、多分だけどそーゆーもん」

 

 

「焦ることなんて、一つもないんだよ」と。

 

事情を深く聞いてこないテンの優しい言葉が心に波紋した瞬間、エミリアは視界がぱっと開けるような不思議な感覚に襲われる。

 

昨日からずっと感じていた形容し難い焦燥感——ここにきて初めて、自分が焦っていたことに気付かされた。好きの感情に気づいて、早く伝えなくてはと気持ちが急いでいたのだと。

 

ふっと体が軽くなる感覚。頭の中にある雑多なものでごちゃごちゃしていた感情の全てに、昨日の夜から走りっぱなしの思考に、ようやくブレーキがかけられた。

 

 

「エミリアが俺になにを伝えたかったのか、なんとなくだけどわかるよ。逆になんとなくでしかわかんない。だから、答え合わせはエミリアの準備が整うまで待たせてもらうことにします」

 

 

憶測で物を語ると痛い目に遭うのは、過去の教訓から学んだことだ。今回に限っては憶測の域を軽々しく飛び越えて正確な答えを知っているが、この場でぶちまけるのも無情というもの。

 

エミリアの準備がきちんと整うまで、答え合わせの時間は彼女に預けておく。なにせ、テン自身の準備だってまともに整っていないのだから。

 

 

「私の準備が整うまで……」

 

 

主導権を渡されたエミリアが、テンに言われたことを口にして反芻。火を吹いて加速していた思考の回転が緩まった今、言葉の意味を冷静に考える。

 

思えば、恋を自覚してから今の今まで、テンと再会する瞬間のことしか頭になかった。それ以外のことなんて考えていなかった。

 

どんな顔して会えばいいのか。どんな言葉をかければいいのか。どう接すればいいのか。

 

手近にある思考ばかりが先行してしまい、テンを好きになった自分とまるで向き合っていなかった。真に向き合うべき感情を、見ていなかった。

 

告白に失敗したのは、そのせいだろうか。まだ自分の中にテンのことが好きな自分に戸惑う自分がいて、恋という感情を受け止めきれていないのかもしれない。

 

つまりテンの言う『準備が整う』ということは、恋情が心身ともに行き渡った自分——今の自分から変わった瞬間のことを指しているのでないか。

 

 

「でもそれって、すごーく曖昧なことじゃない。自分の準備が整ったってどーやって分かるの?」

 

「なんか自分って変わったなぁ、って不意に思う瞬間ってない? 前の自分だったらこんなことは無かった、とか。こんなことは言わなかった、とか。こんなことは考えなかった、とか」

 

 

恋に対しての知識が著しく乏しいエミリアの素朴な疑問に答え、テンは空を泳ぐ雲に視線を置く。かける言葉の全てが恋の知識になるから、使う言葉を模索しながら。

 

自分が変わったことを自覚する瞬間というのは、基本的に意図して訪れるものではない。自分がどれだけ鍛えられたか、自分じゃ分からないのと似たようなものだとテンは解釈している。

 

風呂に入っているときに自覚することがあれば、人と話しているときに自覚することもある。布団でごろごろしているときに自覚することもあるくらい。

 

変わったことを自覚する瞬間は日常のそこら中に隠れている。こうして日々を過ごしていると、あるとき予感もなく肩を叩いて変わったことを知らせてくるのだ。

 

 

「その瞬間がきて、それが増えてきたら、エミリアが変わった——準備が整った、ってことだと思うよ。それがいつになるかは分からないけどね」

 

「じゃぁ、ずっとずっと先になるかもしれないってこと? 百年後とか、二百年後とか」

 

「エミリア次第かなぁ。でも、そこまで長引くことはないんじゃないかな」

 

 

突飛な数字を例に挙げるエミリアに息を吹き出して苦笑し、それからテンは深く息をつく。

 

百年後や二百年後まで生きているのには流石に無理がある。エミリアのようにエルフならあり得るが、生憎とテンはちょっと戦えるだけの普通の人だ。

 

老死で終わるか、その前に戦死するかもしれない。今の自分はいつ死ぬかも分からない——それすらも分からない瀬戸際に立たされていることを、テンは知っている。

 

 

「まぁ、その日が来るまで気長に過ごしてればいいんじゃない? 気ぃ張ってても疲れちゃうだろうし。今の自分に少しずつ慣れていきながら、その瞬間を待ってようよ。俺はそーやって生きてる」

 

「そんな悠長なこと言わないでよ。テンは私の気持ち、ちっとも分かってない。こーして話すのだって勇気いるんだからね。昨日までの私だったら全然へっちゃらだったのに今の私………」

 

 

いじらしく言いかけて、エミリアは己の口が刻もうとした言葉を止める。数瞬しないうちに表情が驚愕に染まり、早くもテンの言っていた瞬間が訪れたことに鳥肌が立った。

 

開いてから塞がらない口に両手を当て、物理的に口を閉じるエミリア。その大袈裟なリアクションにテンは「ね、意外と早かったでしょ」と悪戯な笑みを薄く浮かべ、

 

 

「今のが、エミリアが変わった、ってことなんじゃないかな。ちなみに、変わるっていうのは精神的な意味合いね。心の変化、感情の変化、言い方はいっぱいある」

 

 

小さな『変わった』を積み重ねていけば、いつか前の自分から本当の意味で変われるのだと思う。問題は変わった自分を受け入れられるかだが、時間というのはそのためにある。

 

背中合わせで、エミリアの変化を受け止めるテン。自分自身も時間と共に変わっていくことを実感することが多い彼は目を瞑り、

 

 

「大丈夫だよ、エミリア。俺はどこにもいかない。ずっとエミリアの(そば)にいる。エミリアがそれを完全に受け入れて、前の自分から変わる瞬間まで一緒にいるから。——ずっと、ずっと一緒にいるから」

 

 

「時間をかけて、ゆっくり馴染ませていこう」と。告白まがいな口調で言い、閉じた目を開く。

 

空を眺め続ける双眸、片方には明日への不安が渦巻き、もう片方には底知れない恐怖が蠢いていた。その瞳に、エミリアは映っていない。

 

明るい未来を見据えているはずなのに、明らかに場違いな感情の色。それはまさに、レムの心が感じ取ったテンの違和感を裏付けるもので———。

 

 

「変わっていく自分に戸惑うことがあるかもしれない。こんなの自分らしくない、って嫌になることもあるかもね。でも、それが今の自分なんだって受け入れてあげて。自然な変化を拒まないで」

 

 

瞬き一つで双眸に宿る感情を切り捨て、悟られる前に話を続ける。心の端っこから漏れかけた一欠片の弱音を奥底に押し込み、自意識を余すことなくエミリアに向ける。

 

そうやって自分を誤魔化すテン。今しがた、自分の放った言葉にエミリアが顔を真っ赤にしていることに気づけない彼は浅く吐息して、

 

 

「そんで、自分の準備が整ったな、って。そー思えたら改めて伝えてよ。さっきエミリアが伝えたかったこと。ずっと待ってるからさ」

 

 

その言葉を最後に、言いたいことを残さず言い切る。

 

知らず知らずのうちに芽生えていた恋心を自覚し、初めての感情だらけで翻弄されるエミリア。何事にもひたむきに向き合いすぎる乙女の手を引き、スタート地点に立たせる役目は終わった。

 

告白未遂から始まるエミリアの恋——本人からしたらとてつもなく恥ずかしい始まり方ではある。けれどエミリアはそんな感情も忘れている様子で、

 

 

「誰かをこんな風に想うことなんて、本当に初めてだったの。どーしたらいいか分からなくて、昨日はずっと一人で暴れちゃってた。どーしようどーしよう、って」

 

「自分一人の力で初めてのことを受け入れるのは大変だもんね。その気持ちも理解(わか)るよ」

 

「だから、すごーく安心してる」

 

 

全身を包み込む温かな安堵——告白に失敗した羞恥心を柔らかく押し流していくそれに、エミリアは緊張の糸が解けたように唇を綻ばせる。

 

恋という未知の脅威に対し、闇雲に真正面からぶつかっていく以外の対処が見つからなくて。どうすれば良いのか答えが出ないまま訪れた今日、とにかく伝えなくてはと必死に頑張った。

 

けれど、そんな必要なんてなかった。

 

時間をかけて、この感情と向き合っていけばいい。

変わろうとする自分を、受け入れていけばいい。

 

他でもないテンに言われたことが大きかった。身も心も無条件で預けられる彼から贈られた想いに、焦る必要なんてないのだと、そう思えることができたから。

 

好きな相手に恋を教えられることに思うところがないわけではないけど、向こうが当人だと気づいていないようだから気にしない。寸前まで言われても完璧に察しない鈍感さをありがたく思っておく。

 

 

「テン」

 

「ん?」

 

「こっち向いて」

 

 

テンがこちらの感情を察していない。そんな大外れな結論を導いて納得すると、体をテンに向けながら立ち上がり、エミリアは意を決してその言葉を口にした。

 

今なら、テンのことを正面から見れる自信があった。恋情の大波、心を呑み込んで揉みくちゃにするそれが収まった今なら。テンのことが大好きな自分とじっくり向き合うと決めた今なら。

 

 

「平気なの?」

 

「ちゃんと向き合いたい」

 

「……分かった」

 

 

意志の熱が込められた返事を受け取ったテンが粛々と頷くと、言ったことを律儀に守っていた体がついに動く。平気と言わなかったことには触れず、その体が立ち上がり、エミリアに向いた。

 

声だけが交わり合う構図が壊れ、互いに背を向け合っていた二人の体が向き合う。手を伸ばせば簡単に触れられてしまう距離で視線を絡めると、やはり乙女心が反応して、

 

 

「……ふふっ」

 

「どした」

 

「んーん。なんでもない」

 

 

テンしか映らない情熱に潤んだ紫紺の瞳を瞬かせ、赤らみっぱなしの白い頰をもっと赤らめて、世界一幸せそうに笑うエミリア。心の奥底にいる照れる自分を宥め、彼女はテンの目をしっかり見る。

 

この恥ずかしさから、逃げない。だってこれはテンのことが大好きな証で、自分が変わるための第一歩。ここで逃げたら同じことの繰り返しで、それは絶対に嫌だった。

 

 

「テン」

 

「ん?」

 

「呼んでみただけ」

 

「ーーーー。そっか」

 

 

間を置き、目尻を下げて仕方なさそうに笑うテン。魅力的に見える彼の笑みに釣られ、口に手を添えるエミリアもまた笑う。子どものように無邪気な笑い方だった。

 

これまでだって呼んできた、慣れ親しんだ名前のはずなのに、大好きな人の名前というだけでこんなにも照れくさい。

 

 

「テン」

 

「ん?」

 

 

もう一度呼んで、テンの意識を引き寄せる。

 

また呼んでみただけか、と。緩く構える姿勢の不意をつくように、真剣な声で言った。

 

 

「ずっと、待っててね」

 

 

 ——最初で最後になる大好きな人に、いつか必ず告白のやり直しをするから。そのときまでずっと。

 

不覚にも意表を突かれ、頬に口付けされたとき並の衝撃に目を見開くテン。瞬間的に呼吸が奪われる彼を見つめるのは、誰もが見惚れるほど美しい笑みに彩られたエミリアだった。

 

これだからこの子もずるい。この子も、あの子も、いつも情緒を掻き乱してくる。自分だってまだ未熟者でちゃんとした男じゃないのに、許容範囲を軽々しく超えた一撃を叩き込んでくる。

 

生唾と一緒に迫り上がる感情をごくりと飲み込み、テンは呼吸を取り戻す。動揺する精神を素早く立て直し、同じく真剣な声で言った。

 

 

「待ってるよ。ずっと」

 

 

 ——エミリアが少女から乙女になって、乙女から女性になるまで。それまでに俺の準備も整えてみせるからね。

 

様々な想いを背負ったテンが頷くと、応えるエミリアも頷き返す。その動作一つで、たった一言で、互いの想いは確かに伝わった。

 

必要な言葉以外を口にしない二人の声は、両者の心に抵抗なく入り込み、想いを交換し合う。

 

 

「ずっと一緒、って約束して。私と結んだ約束の一つに、この約束を加えて」

 

 

我儘にお願いをし、一歩、エミリアは前に出る。

 

恋人にしか許されない距離に躊躇なく入り込み、約束を結ぶための言葉を紡ぐ。今度は勢いに任せてではなく、明確な意思を持って胸元に両手を添えた。

 

ずっと一緒——それが好きを代弁していると言っても過言でないことに、彼女はどれほど気づいているだろうか。

 

多分、一ミリも気づいてないんだろうなと呑気に思う自分を捨てて、エミリアの全てを受け止めるテンは「うん」と頷き、

 

 

「約束するよ。ずっと一緒にいる」

 

 

エミリアにとって約束がどれだけ力を持ったものになるのか、知らないテンではない。故に、ずっと一緒にいると約束された彼女が歓喜に震えるのは必然だった。

 

身を震わせ、息が詰まるエミリア。潤む瞳が希望に輝く彼女は頭を前に傾け、衝動に駆られて額を目の前の胸にあてがう。

 

なにを求めている行為かなんて、考える必要もない。これまでに何度も、こうして甘えられてきた。

 

テンは右手を動かし、そっと頭に触れる。

 

 

「んぅ……」

 

 

割れ物を扱う手つきで銀髪に触れると、僅かに肩が跳ねるエミリアの喉が甘い音を鳴らす。次いで大きな手に優しく撫で下ろされると、くすぐったそうにみじろぎした。

 

テンに、大好きな人に頭を撫でられている。意識の変わり方次第でこんなにも恥ずかしいものなのか。でもそれ以上に心地よくて、包まれる感覚が癖になってしまう。

 

 

「約束だからね。絶対に、ずっと一緒にいて」

 

 

既に癖になった感覚を堪能しながら、エミリアは約束を声にして確実なものにする。初めての感情をたくさん教えてくれた人、なにがあってもテンと離れたくなくて。

 

約束で彼を強く強く縛り、自分から離れられないように。意地悪で卑怯なやり方だと分かっていても、それでも。

 

 

「いるよ。ずっと……。うん。ずっと」

 

 

口数の減ったテンに約束を締結されると、溢れんばかりの幸福感に鼻を鳴らすエミリアが、今この瞬間に降りかかる感情の全てをぶつけるように、額を擦り付ける。

 

目を瞑り、口を閉じる。ここから先は言葉の要らない世界なのだと仕草で伝え、気が済むまで頭を撫でさせ続けた。

 

 

 ——だから、頭上にあるテンの表情が不安に曇っていることには、気づけなかった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「——はぁぁぁ」

 

 

ひとしきり頭ナデナデを堪能し、長く居座ると離れられなくなると判断したエミリアが、上機嫌に肩を弾ませて去った玄関前。

 

お出迎え組が全員屋敷の中に消えて一人になったテンは誰もいないことを確認し、階段から足を垂らしながら仰向けで寝そべっていた。肺の中の酸素を使い切るほど長いため息をつくと、

 

 

「ーーーー」

 

 

何も言わず青空に視線を放り投げ、ぼーっとする。微塵も緊張が感じられない表情は疲労困憊といった具合で、ため息を吐き出して半開きになった口を閉じもせず全身脱力。

 

もはや言葉を声にする力もない。エミリアの前で気丈夫に振る舞っていた反動が精神的に、『剣鬼』と『戦乙女』に全身全霊で挑戦した反動が肉体的に、ずっしりのしかかってきている。

 

一人の空間に身を置くと、いつもこうなる。

 

一人ということは、誰にも見られていないということ。誰にも見られていないということは、弱音を吐いてもバレないということ。

 

緊張の糸を緩め、テンはここぞとばかりに蓄積した疲労感を外に垂れ流す。どうせすぐしゃきっとしなければならないのだから、一人の今くらいは許してくれと神に願って。

 

 

 ーー誰があの子に恋を教えたんだよ

 

 

口ではなく心で、湧いた疑問を呟く。仮にそれが口から発せられたものなら、きっと覇気のないふやけた音になっていただろう。

 

想像がつかないわけではない、十中八九スバルだと思う。屋敷の人間がエミリアに恋を教えるような機会があるわけないし、大体それに関してはほとんどの人間が静観を一貫しているのだ。

 

昨日、スバルはエミリアになにをした。あの純粋無垢な少女をどうして乙女にした。それ自体を責めるつもりはない、むしろエミリアのモヤモヤが晴れて良かったと言うべきだが———、

 

 

「……はぁ」

 

 

そこまで考え、思考を断ち切る。考えれば考えるほど奥深くまで突き進みそうな気がして、一時離脱。ため息で頭の熱を外に逃し、中身を空っぽにした。

 

エミリアの恋事情より考えるべきことは山ほどある。自分的にはそっちを優先してあげたいけれど、現状は呑気なことを言ってられる状況でもない。

 

問題はここからだ。実際は始めから終わりまで問題だらけで収拾がつかないのだが、今における真の問題としては、ここから先に起こり得る最悪の未来だと焦点を当てることにする。

 

最悪の未来。それが指し示す意味とは、

 

 

「………()だなぁ」

 

 

後頭部で手を組み、手の枕を作ったテンが顔色を曇らせて弱音を吐く。エミリアの頭を撫でていた時に見せた表情、レムが感じ取った違和感、二つが集約された負の感情が今の声色にはあった。

 

それは、時折心の端っこから顔を出しては、悟らせまいと急いで隠されていたテンの心情。

 

それは、今夜の話や未来の話をすると途端に存在を主張し、瞳に渦巻いていた恐怖と不安。

 

 

 ーー剣を振る様が、一心に雑念を振り払っているようにも見えた。

 

 

それは、クルシュに指摘された一心に雑念を振り払う様、その振り払われていた雑念。

 

これら全てのピースを組み合わせて形となる、テンの心を(おびや)かす最大の不安要素とは、

 

 

「ーーーー」

 

 

一つ。テンの中に、とある仮説があった。前回、自分が死んだ要因について。

 

どうして死ななければならなかったのか。なにがあって死んだのか。ヒントは死の直前、テン自身の言動にある。

 

死んだ理由について、リスタート地点に戻ってから何も考えてこなかったわけがない。屋敷に帰る前に自分なりの答えを出そうとして、そのときの記憶を振り返って考えを張り巡らせた。

 

結果、一つの仮説に辿り着いたのである。心の底から恐怖に震え上がり、今後一生、怯えて生きることを強制されるかもしれない、悍ましい仮説に。

 

もし、その仮説が真実ならば———。

 

 

「あー、本っ当にどーしよ。マジで()なんだけど」

 

 

思考を支配する真っ黒な感情に頭を掻きむしり、八方塞がりだと言わんばかりにテンは表情を歪める。

 

今夜も、未来も、失われてはいけない。レムと、エミリアと、約束してしまったから。絶対に死ねない理由が増えて、増え続けて、止まってくれないから。

 

頭のど真ん中に居座る漢字一文字。この世界に来てから隣り合わせになったそれに嘲笑されながら、

 

 

「死にたくない」

 

 

吐息と変わらない声量で切実に訴え、空の向こうにいる神様に懇願する。

 

途方に暮れる青年を見下ろす空はうざったらしいくらい清々しく、晴れ晴れとしていた。

 

 

 









エミリアが告白するお話(前回)の終わり方、実はアレ以外に二パターンほど考えていたんですよ。

一つが、告白に失敗して羞恥心に破裂したエミリアが逃げ出して終わる。
もう一つが、告白する寸前で屋敷に戻ってきたハヤトが「おーい、テーン!」って遠くから声をかけ、邪魔されたテンが、

「ラブコメじゃねーんだから空気読めやァ!」

と叫んで終わる。勿論、告白はできず。

この二つの終わるパターンも考えましたが、敢えてちゃんとお話をさせて約束を結ばせました。理由はすぐ分かります。
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