少しでも望む未来へ   作:ノラン

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※この小説は、決してレム虐ではありません。前作に引き続き、レムとオリ主をどの二次創作よりもイチャつかせてやる、という幼稚な野心の下、創作されたものです。





想いの力

 

 

始め、それが自分に向けられたものだと、スバルは理解できなかった。

 

その言葉が、憎悪に支配された呪詛の矛先が、自分自身だと認識することが、できなかった。

 

 

「———は?」

 

 

呆気にとられたスバルから、そんな口気が溢れる。自分を庇うハヤトとベアトリスの聴覚にも拾われない、音にすらならない微小な吐息。

 

口が「は?」の形のまま固定され、湧いた困惑に一瞬にして表情が染め上げられる。それはスバルの中のあらゆる感情を押し除け、なによりも優先されて表に浮き出たものだ。

 

簡単にそうなってしまうくらい、スバルには理解不能な現実だった。

 

 

「答えろ! ナツキ・スバル! お前が! レムの恋人を! 殺したのかッ!」

 

 

一言一言の間に息を吸い、全力を込め、涙まじりに咆哮するレム。過呼吸のように荒く呼吸を乱し、肩を激しく上下させる彼女は、ハヤトとベアトリス越しに、敵意一色にスバルを睥睨する。

 

殺傷能力すら持ち得そうなレムの双眸に、二人は映っていない。急激に狭まった視界に捉えられるのは一人、自分の恋人を殺めた大罪人の姿だけだ。

 

 

「そ、そんな……わけ」

 

 

 ない、と。

 

辛うじて絞り出した声は、やはり声になっていなかった。ハヤトにも、ベアトリスにも、レムにも、この世界にいる誰にも届かない。

 

前方から押し寄せる殺意に喉が凍りつき、震えかけるのを抑えるのに精一杯で。状況の理解が追いつかない彼女の思考は再起動が終わらず、それ以上の言葉が生まれることはなく。

 

その薄い反応が無視を貫かれたと思われても、仕方のないことだった。

 

 

「答えろと、言っているーーッ!!」

 

 

痺れを切らしたレムが、言葉の途中で右腕を大きく振り上げる。獲物の持ち手を握る拳が振り上げられ、暴れる蛇のようにうねる鎖が金属音を立てながら凄まじい速度で引き戻された。

 

奇襲を避けられ、窓の外に放り出されたままだった鎖が窓を全壊させ、釣られた鉄球が直後に帰ってくる。それは三人の後方、最も窓に近かったスバルの後頭部を一直線に狙い、

 

 

「うっ……」

 

 

鈍い苦鳴が、スバルから漏れる。刹那、がくんと彼女の体が限界までくの字に折れ曲がり、鉄球の目の前にあった後頭部が真下に落ちた。

 

レムが言葉を言い終わるのと、スバルの体が折れ曲がるのはほぼ同時。ハヤトとベアトリスの間を抜けて手元に戻ってきた鉄球、それを見ることもせずレムは目に映る光景に舌打ちし、

 

 

「なぜ庇うのですか! その女はテンくんを殺したんですよ! 庇う必要がどこに……!」

 

 

喉を震わせてがなるレムが見るのは、スバルの体が折れ曲がった原因——彼女の腹部を張り手で押して無理やり体を曲げさせた張本人、ハヤト。

 

物理的に防ぐことが叶わないと咄嗟に判断した彼が奇襲と同じ方法、スバルに避けさせることで鉄球による死を防いでいた。荒っぽいやり方ではあるが、おかげでレムの目論見は二度も阻まれてしまう。

 

このとき、ハヤトに視野を広げたことで頭の中にスバル以外の情報が次々と流れ込むレム。暗闇に光が差すように視界がぱっと広がる彼女は、片手でスバルを庇うハヤトを睨み、

 

 

「ハヤト君! 今なぜ庇ったんですか! その女はレムの……ハヤト君の親友を殺したんですよ! それなのにどうして……ッ!」

 

 

他でもないハヤトに庇われたことで、真意を問いただすレム。自分は当然のことをやったと言わんばかりの悲痛な叫びに、ハヤトは壊れる心を補強したセロハンテープの剥がれる音を、聞いた気がした。

 

テンの亡骸を強く抱きしめ、滂沱と涙を流しながら感情的に訴えるレムの姿が、あまりにも痛々しすぎる。非情な現実を眼下に絶望の極地に追いやられた友人の姿が、凄惨すぎる。

 

 

「ーーっ」

 

 

ぐっと歯噛みし、爪がめり込むほどの力で拳を握りしめるハヤト。痛みで動揺を誤魔化す彼は、剥がれかけたセロハンテープを貼り直す。それからレムと対峙する覚悟を決め直し、

 

 

「レム、スバルは殺」

 

「どうしてそうなるんだよ! アタシだって意味わかんないんだよ! 急に血ぃ吐いて死んだとしか言えな」

 

「戯言をーーッ!!」

 

 

努めて冷静を装ったハヤトの声は、それとは真逆とも言える激情に駆られたスバルの声に、遮られた。直後、それすらも遮るレムの怒号が世界を震撼させ、鉄球が飛んでくる。

 

持ち手を振るっていては鎖の長さ的に当たらないと踏み、鎖そのものを持って投擲された鉄球。鎖による打撃を攻撃択から外し、リーチの利を捨てて調節された破壊の正確さが、殺意の代弁者だ。

 

三人と一人の距離は五メートルもなく、投げた次の瞬間には直撃する鉄球——寸前、ベアトリスが動く。

 

鉄球に向けて軽く構えた右手の平、幼い幼女のそれから、しかし幼女が発したとは思えない威力の衝撃波が壁として射出された。

 

大精霊による魔力の奔流が的確に標的を捉え、相殺された鉄球が金切り音を鳴らして跳ね返される。

 

 

「ベアトリス様まで……!」

 

 

かち上げられた鉄球が天井から弧を描くようにして戻ってくるのを見ながら、レムはスバルを守る壁が二枚あることを認識した。

 

したところで、それがなんだ。

この手を止める理由にも、なりはしない。

 

行動理由はこの腕の中にいる一人の青年——命の温もりが抜け切った恋人、それだけで十分だ。

 

 

「るぅぁぁあ!」

 

 

死したテンを抱く左腕に力がこもり、鎖を握りしめる右手が床に叩きつけられる。連動する鎖が高く波打ち、天井を舞う鉄球が弾かれた動線を逆戻りしてスバルに襲いかかった。

 

レムの意識と同様、狙いはスバル一点。ハヤトとベアトリスの頭上を越えて標的へと凶牙を剥くそれだが、その正確さが逆に仇となったことを、レムは数瞬後に知ることになる。

 

 

「借りるぞ」

 

 

呟きと衝撃音は、同時だった。

 

ベアトリスが迎撃に動くよりも前、追撃を察していたハヤトが机の上に無造作に置かれていた刃——テンの短剣を手にし、鞘から引き抜きながら薙ぎ払う。

 

鋼と鉄が激突し、スバルの頭上で火花が散る。鬼化したレムの一撃に対して自力だけで勝負を挑み、刹那にも満たない力比べの末に弾き返した。即座に構え直し、レムに全意識を集中させる。

 

親友の短剣を握りしめ、親友の恋人と相対するハヤト。なんの地獄かと思う余裕もない彼は鉄球を弾き返した瞬間、腕に伝わってきた異次元の反動に奥歯を噛み締め、彼女の本気度合いを悟った。

 

殺す気だ。確実に殺す気でいる。

 

 

「邪魔を、するなーーッ!!」

 

 

ハヤトの悟りを助長させるが如くレムが二人に吠え、額のツノが眩い光を乱舞させる。テンを抱いて座り込んだままの状態、片腕一本の力のみで鉄球を振るう彼女の猛攻が始まった。

 

射程を短くしたことで狭い空間では扱い困難なモーニングスターを縦横無尽に暴れさせ、竜巻を連想させる勢いで一撃必死の鉄球が連続して叩きつけられる。狙いは依然、スバルのみ。

 

壁を削り、家具を破壊し、窓を破り、掠っただけでも致命傷になりうる鉄球。力自慢のハヤトにさえ一度の衝突で火力の高さで戦慄させるそれは、レム史上一番の力と言っても過言ではないだろう。

 

だからこそ、ベアトリスが先陣を切って迎え撃つ。二撃目を自力で防いだときに見えたハヤトの歪んだ表情、それが(レム)の力を物語っていたから。

 

 

「なぜベアトリス様まで庇うのですか! ベアトリス様がその女を庇う理由などあるはずがありません! レムの邪魔をしないでください!」

 

「ベティーはこの女を庇うつもりなんて欠片もないかしら。ベティーはこの男の味方。それだけかしら。それ以上でもそれ以下でもないのよ」

 

「ふざけないでくださいッ! そのようなくだらない理由でレムの邪魔をするな! 今すぐそこを退け! その女を殺させろーーッ!!」

 

 

心身に染みついた敬語の癖が剥がれ落ち、内側から憤怒に支配された鬼の顔が露出するレム。言い捲し立てる彼女の攻撃速度が爆発的に加速し、片手で凌ぐベアトリスの目がキッと鋭利に細められた。

 

 ——力が、増している。

 

周囲のマナが意思を持ったようにツノに収束し、振られる鉄球の力が上昇している。鬼族はマナの吸収、放出をツノを通じて行うから当たり前と言えば当たり前だが、少々無視できない速度だ。

 

鬼化し、ツノからマナを持続的に取り込んで戦うことで、武力において比類のない強さを有した鬼族。その本領が発揮されているのだとしたら、長期戦はかなり厄介なことになる。

 

少しでも、荒ぶる感情を抑える必要があるかもしれない。最悪、この部屋ごとレムを吹き飛ばして脱出する脳筋なやり方もあるが、あくまで最終手段。

 

不可能だと分かっていても、ベアトリスは『対話』という一欠片の希望に賭けて、

 

 

「ふざけているのはお前」

 

「ふざけてんのはお前の方だろうが!」

 

 

澄ました顔を崩さぬまま、爆発寸前の爆弾を解除するような慎重さでかけた言葉。ハヤトと同じ手法を選択したベアトリスの声は、奇しくも同じ結果を辿った。

 

レムを阻むベアトリスの壁、彼女の背後で構えるハヤトの壁。二つの壁に守られた一番後方で、スバルが叫んでいる。

 

前に進みかけるスバルの体を、自分の体を使って止めようとするハヤト。スバルはその背中から顔を出し、余裕のない彼の静止を無視して、

 

 

「どうしてアタシがテンを殺さなくちゃいけないんだよ! 殺す理由なんてアタシにはこれっぽっちもない! 確かにウザいヤツだとは思ってたし視界に入れるのもムカつくヤツだけど、だからって殺しに直結するイカれ女じゃないわよアタシ!」

 

「それほど魔女の臭いを纏っておきながら、白々しいにもほどがあります! 『魔女に魅入られた者』であり魔女教の関係者、そのお前の言葉のどこに信じる価値があるんですか!」

 

 

激昂するスバルに呼応し、レムの感情が破裂する。何十と衝突した鉄球が角度を変えてスバルに豪速で迫り、動きを目で追うベアトリスが放つ衝撃波によって防がれた。

 

瞬きの間には眼前にあった鉄球。もし当たっていたらと思うだけで足が震えるスバルだが、それでも心を真っ赤に燃やす激情を声にするだけの無駄な度胸はあって、

 

 

「いいかよく聞け、テンはこの部屋で話してたら勝手に血ぃ吐いて死んだ! アタシはこれしか知らない! これしか、知らないんだよ! これしか知らなさすぎてイライラしてるくらいだわ! ハヤトもベア子もなにも教えてくれないし、どれだけアタシを仲間はずれにしたら気が済むんだって話だよ!」

 

「魔女教徒の妄言なんて聞くに堪えません! お前がレムのテンくんを殺した! それだけでレムがお前を殺す理由は十分すぎます!」

 

「妄言なんかじゃないッ! ハヤトも一緒にいた! ハヤトだってテンが血ぃ吐いて死ぬところを見てる! 人の話も全く聞かないでアタシのこと殺そうとすんじゃないわよ! 妄言はそっちだろ!」

 

「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

 

一度でも声に出せばブレーキを知らず、己の主張をめちゃくちゃにぶつけるスバル。全力で吐き散らした声は乱心するレムに完全に拒絶され、殺す衝動を逆撫でする一方だ。

 

目の前で起こったことのみを情報として与えられるスバルからすれば、それは筋が通っていないにもほどがある。

 

自分はなにもしていない。普通に話していた、言葉を交わしていた。ただそれだけ、本当にそれだけでテンが死んだのだから。

 

それだけで殺人容疑をかけられる現実など、まかり通るはずがない。まかり通っていいはずがない。これは紛れもない冤罪。

 

 ——その考えで固定されるほど、スバルは傲慢であった。

 

 

「ーーーー」

 

 

自分を挟んで交わされる感情のぶつけ合いに、ハヤトは口を挟むことができなかった。気持ちが前へ前へと押し進むスバルを止めるのに精一杯——と、いうわけでもないのに。

 

レムの主張は、強ち間違ってはいない。

 

禁忌に触れることで自分の命が奪われることにいち早く気づき、異常性を理解したテン。彼はループの内容について話し合う際、スバルに『絶対に口を開くな』と強く忠告した。

 

それを無視した結果が今。何度も何度も忠告されたことを守らなかったからテンは死に、レムの逆鱗に触れた。

 

つまり、スバルは、間接的にテンを殺したのだ。

 

事実上、間違ってはいないと思う。

だから、口を挟めなかった。

 

少し、ほんの少しだけ、スバルを恨む自分の息吹を感じたから。レムの魂の叫びに、その自分が表に押し出ようとしてきたから。

 

もちろん、スバルの主張も間違ってはいない。

 

口にしたことがスバルの知り得る全てのことで、状況証拠のみで判断するなら、彼女の主張は正しい。彼女の視点から物事を見れば、自分はテンを殺していないと主張するのも分かる。

 

本質的な意味では、スバルはテンを殺していない。テンを殺したのはもっと別の悍ましい存在、スバルに取り憑くループの根源。この世界では口にするのも憚られる悪魔に、親友は命を奪われた。

 

順を追って考えなくとも、頭では分かっている。そして、この場を治める方法が、正しい正しくないの論争ではないことも。

 

 

「死ね、死ね! 今すぐレムの前から消してやる! この世界から存在ごと消してやる! レムの手で、お前を殺してやるッ!!」

 

 

溢れ、爆発し続ける殺意を剥き出しにするレム。激震する感情に呼応して鬼族を象徴するツノが一段と輝きを増し、猛然と収束するマナの奔流が暴風と化して部屋を吹き荒らす。

 

床に散らばる窓ガラスの破片が一気に巻き上げられ、そのうちの一つが悲痛に表情を歪ませるハヤトの頬を掠めた。スバルを庇った代償、直後に裂傷が刻まれ、頰から赤い一筋の線が垂れる。

 

真後ろにいるハヤトの状況に気を配りつつ、構えた手で迎撃の姿勢を保つベアトリス。ここまでの鬼化は初めて見る彼女は、そろそろ膠着状態を崩そうかと思考の中心で考え始め、

 

 

「アル・ヒューマぁ!」

 

 

その詠唱が聞こえ、展開された夥しい量の氷柱を目の前にして、行動に出ることに決めた。

 

あれだけの乱心でもマナを練っていたのかと思えるほどスムーズかつ、高密度の水魔法。ツノから発せられる白光を乱反射させるそれは、一度目の魔法とは明らかにレベルが違う。

 

 それも、

 

 

「後ろかしら」

 

「わーった!」

 

 

声だけ飛ばしたベアトリスの背中、後方を振り返るハヤトが割れた窓に短剣を構えた。即座にスバルを背に庇い、ベアトリスと自分で彼女を挟み込む陣形を作る。

 

ハヤトが睨む先、ガラス部分が無くなって縁だけとなった窓の外にも複数の氷柱が見える。無音で浮かぶそれはレムの殺意を宿し、虎視眈々と獲物を狙う虎のようにも感じられた。

 

派手な魔法で前方に意識を惹きつけ、意識外の本命で殺す——戦闘に長けたものでなければまず気づけない二段構えの攻撃を看破され、レムは苛立ち気味に「ちっ」と舌を鳴らし、

 

 

「それでもーー!」

 

 

諦めないと行動で語るレムが渾身の力を込めて鉄球を放ち、乗じる氷柱が同時に射出される。至近距離で投げられた鉄球はここ一番の速度を誇り、氷柱も申し分ない。

 

例えハヤトの剣術に打ち落とされようとも、ベアトリスの魔法に打ち砕かれようとも。一つは、どれか一つだけは、二人の防御を越えて恋人を殺した咎人の心臓を貫いてくれ。

 

そんな、レムの期待(殺意)は———。

 

 

「——甘く見られたもんかしら」

 

 

毅然と、至極落ち着いた声がして、レムの意識が魔法から引っ張られる。直撃まで一秒もない僅かな時間の中、そんな声など聞こえるはずがないのに。

 

けれどその声は、最初から一切揺らぐことのなかった大精霊の声は、こちらを嘲笑うように乾いて聞こえて。

 

 

「守るだけってのも、性に合わないのよ」

 

 

構えられた腕が一閃——ベアトリスを中心にドーム状の衝撃波が押し広がり、仕掛けた攻撃が根こそぎ蹴散らされる。

 

たった一つの動作で、渾身の力で投げ放った鉄球が相殺されて天井に埋まり。緻密に練った魔法が打ち消されて粉々になり、マナに強制還元されて光となる。

 

その事実に気づくよりも、前に、

 

 

「ヴィータ」

 

 

 詠唱。

 

反対の腕が、虚空に縦の線を描く。

 

上から下に軽く振り下ろされた瞬間、床に座ったままのレムの体、テンを抱き抱えるその体が不意に揺らめき、床に倒れ、沈んだ。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

過去に一度、ハヤトと共にドラゴンと戦った際にも使用された魔法、ヴィータ。

 

陰属性に属するその魔法は対象の重力の影響を軽減する魔法、ムラクとは真逆の効果を持つ。重力を増大させる魔法、それがベアトリスが有する手札の一つ、ヴィータだ。

 

前提として、相手の身体そのものに影響を及ぼす魔法は魔術者と魔法をかける対象との力の差によって左右され、その差が広ければ広いほど効力が増す。

 

故にレムは、その魔法だけは、絶対に回避しなければならなかった。

 

 

「かふっ……!」

 

 

薄く息を吐き、ぴちゃっと赤い飛沫を上げながら、レムの体が床に横倒しに倒れる。乾き切っていない血の海に左肩から落ち、以降からぴくりとも動かない。否、動けない。

 

大型の魔獣が何十匹もぶら下がっているような重みが、レムの体を襲っていた。経験したことのない重量、床と接する左半身にそれが重く掛かり、身動きを封じられる。

 

辛うじて動かせるのは首から上と、武器を手放した手首。それ以外は動かせず、横倒しのまま重力の鎖によって拘束されてしまった——テンの体と一緒に。

 

テンの体だけは、絶対に離さなかった。その体を巻き添いにしたとしても、自分の体から離したくなかった。

 

 

「ぐっ……ベアトリス、様」

 

 

苦しげに呻き、レムは表情を痛みに揺らす。どれほどの事態に晒されても左腕でテンを抱く体勢だけは崩さない執念に驚愕しつつ、ベアトリスは彼女を見下ろした。

 

一度、テンを胸に抱いてから刹那も離そうとしないレム。顔だけ上げてこちらを睨む彼女の目——涙が溢れ続ける哀しい目を見て、

 

 

「恨んでもいいかしら。ベティーも恨むのよ」

 

 

考えるよりも先に、口から漏れた言葉。

今の心境に形作られた、偽りのない謝罪。

 

ハヤトの味方をしたい気持ちと、レムの心情を汲んであげたい気持ち、二つに挟まれて生じた矛盾。この構図は前者の方が優先度が高い、それだけの話によって作られたものだ。

 

ぽつりと落ちたそれは低く、悲しげで。戦闘音の余波が尾を引く世界でも明快に聞こえるほど、芯が通っていた。それから彼女は首を回してスバルに視線を移し、

 

 

「じっとしていろと、そう言ったはずかしら。なんの意図もなく言ったと思ったなら、お前の頭は相当なお花畑なのよ」

 

「それはお前たちが」

 

「黙れ。次、その口を開いたら殺す」

 

 

他者を理由に口ごたえしようとする興奮した声が、冷え切った声に貫かれて消える。殺す、と。守る対象にかけるべきではない言葉を冷酷に突きつけた直後、空気が凍りついた。

 

あるいはハヤトも初めて口から聞いた単語を聞き、肝を潰され、押し黙らされるスバル。魔法の力でも、物理的な力でもない、自分よりも小さい幼女のたった一言で、彼女は声を奪われた。

 

今のレムに感情で訴えかければ、それ以上の感情が殺意として跳ね返ってくる。刺激した分だけ、レムの感情が限界を知らずに爆発し続ける。

 

それを理解(わか)っているから、ハヤトとベアトリスは、感情を殺して言葉を投げかけた。そして、それを理解(わか)りもしないスバルにぶち壊された。

 

普段の語尾も忘れて、怒りに感情を露わにしたベアトリス。スバルに向ける冷たい視線が、それがスバルを黙らせるための嘘ではないことを雄弁に語っていて、

 

 

「このくらい強く言わないと、この能天気な小娘は分からないかしら。お前は優しすぎるのよ」

 

「……面倒かける」

 

「今更かしら。最初から、お前には面倒かけられっぱなしなのよ」

 

「悪ぃ。ほんといつも……いつも、助かってる」

 

 

横に並ぶハヤトに嫌味っぽく言うと、今にも崩れそうな弱々しい声が重く返ってくる。気丈夫を保とうとしているのか顔には出ていないが、聞き間違いを疑いたくなる声。

 

限界はとっくに越えているはず。いつ感情が爆発してレムのような状態に陥るか、きっかけ一つで崩壊してしまわないか、彼には心配と不安しかない。

 

そんなボロボロになってまで、どうしてこの女を庇う必要があるのか。感情の自制もしない、ただ思ったことを思ったままに吐き出すだけの幼稚な女に、なんの価値がある。

 

 

「ーーーー」

 

 

息を吐き、ベアトリスは今の思考を捨てる。

 

自分はハヤトの味方。一点に行動理念を定め、揺れかける意識を咎めた。気持ちを切り替え、ここからの動きを、

 

 

「———ゔ」

 

 

微かに呻き声が聞こえた気がして、ベアトリスの思考が中断させられる。自分の内に向ける意識を外に戻した瞬間、彼女は思わず息を飲んだ。

 

 

「嘘だろ。レム、おまっ………」

 

 

同様の反応をするハヤトが、震え声で呟く。閉じた口の中で歯が食いしばられ、続く言葉が閉じ込められた。

 

固まる二人の正面に、理由はある。右手を意味深長に動かそうとするベアトリス、下唇を噛み締めるハヤト、二人の視線を釘付けにさせたそれは、

 

 

「ぅ、ぐっ」

 

 

レムが、起き上がろうとしていた。

 

床に接する左腕を支えに、上半身と右腕一本の力で、大精霊という異次元の強さを持つ存在に掛けられた力に抗い。

 

普通に考えてあり得ない。大精霊ベアトリスの魔法()なのだから。彼女が手心を加えていたとしても、鬼化していたとしても、抗えることなど不可能に等しい。

 

しかしレムはその認識をひっくり返す勢いで抗い、体に降りかかる負担を押し除け、額を輝かせながら懸命に起き上がろうとしている。

 

その様は錆びた機械を無理やり動すようで。力に負けて床に崩れる体を幾度となく立て直し、少しずつ、少しずつ、元の体勢に戻ろうとしている。

 

 

「返して、ください……!」

 

 

掠れた声で、レムは訴える。重力に負けて下を向く顔を伝い、瞬きする度に涙をいくつも溢れ落とし、血の海に数多の波紋を作りながら、

 

 

「レムのテンくんを、返してくださいーーッ!」

 

 

直後、額のツノがギアを上げて更に白光りする。目が焼けるほどの閃光が空間を埋め尽くし、ハヤトたちの姿が飲まれて消えた。

 

それも一瞬のことで、反射的に手で目を守った彼らは、光の晴れた視界の中に、体勢を立て直したレムの姿を見た。

 

元の体勢、座り込んでテンの体を抱く体勢。上げた顔、涙でぼやける世界の中、レムは輪郭しか捉えられないスバルを睨みつけ、

 

 

「この人は、レムの生きる意味なんです! 存在理由なんです! 苦しくても、辛くても、一緒に支え合いながら生きよう、って。そう言ってレムを救ってくれた、レムの恋人なんです……っ!」

 

 

世の不幸を一身に受けたような、訴えだった。憎悪、怒り、殺意、非情な現実に対して生まれた感情がぐちゃぐちゃに混ざり合った、取り返しのつかない叫びだった。

 

頼んでも返ってこないことなんて、本人が誰よりも理解している。例え神に頼もうとも、自分の愛した人は、二度と温もりを取り戻すことはないと。

 

それでこの悲しみを忘れられるのなら、少しは楽になれるのだろうか。

 

 

「自分を許せないレムを許して、受け入れて、誰よりも愛してくれた。独りだったレムを温かく抱きしめて、暗闇で蹲るレムを連れ出してくれた、レムの英雄なんです……!」

 

 

過去に囚われたこの心を、甘く溶かしてくれた人だった。救いがたい自分を肯定し尽くして、最後には『好きだ』と言ってくれた人だった。

 

こんなにも自分を愛してくれる人は、後にも先にも自分の前に現れることはないんだと思う。

 

こんなにも愛せる人が現れることも、ないんだとも思う。

 

 

「だからレムは、レムの全てを欲してくれたテンくんに、生涯をかけて添い遂げると誓ったんです! この身この心はあの人だけのもの……あの人のために、これからの人生を一緒に歩むと決めたんです!」

 

 

隣り合い、たくさんの時を、一緒に過ごしていくはずだった。小さな幸せをいっぱい感じ合い、大きな幸せを経験して、愛を育んでいくはずだった。

 

時には、喧嘩をすることもあるかもしれない。でもそれはお互いのことを想ってのことで、最後には仲直りして、今よりもっと愛し合う。

 

遠い将来でも、近い将来でも、いい。十分に愛を深めたら結婚して、自分はソラノ・レムになる。正式な婚儀を挙げたら屋敷を飛び出して、二人だけの家を建てるのもいいかもしれない。

 

愛の巣で二人っきり、邪魔の入らない世界で幸せな日々を送る——身に余る幸せな未来が、約束されていた、はずだった。

 

 

「レムはもぅ、テンくん無しでは生きていけない……テンくんがいないと、ダメなんです。テンくんがいない世界なんて、考えられないんです!」

 

 

僅か二、三日離れ離れになっただけで、気が狂いそうになるくらいだ。二度と会えないとなれば、間違えなく自死を選ぶ。

 

過去のしがらみから解放された今、テンのいない世界に価値なんてない。姉の代替品として生きる自分をテンに取り払われた今、テンのいない世界に生きる意味などない。

 

新たな価値となり意味となったのが、他でもないテンだったから。その存在が消えたら、レムの世界は色褪せる。

 

 だから、

 

 

「返して……、返して、返して! 返してぇ! レムのテンくんを返してーー!」

 

 

両腕でテンを抱き、レムは絶叫する。こちらを見上げることのないテンの頭に額をくっつけ、大口を開けて泣き叫んだ。

 

殺意の衝動に心を委ねて遅れていた事態の把握が今になって訪れ、話しているうちにテンの死を徐々に理解してしまう自分がいて。一度でも理解すれば、それは急激に加速する。

 

作り上げた幸せな妄想に亀裂が入り、次々と砕け散っていく。その崩壊の音が鳴る分だけ心が抉られ、絶望の闇に落ちていく。

 

その闇は現状、レムの原動力たる負感情だけで形成され、ほとんどがスバルに向けられるもの。だが一つだけ、唯一自分に向けられるものもあった。それは、

 

 

「あのとき、レムが聞き出していれば………!」

 

 

あのとき——数十分前、テンと玄関前で別れたとき。屋敷の玄関扉を抜け、仕事に戻ろうとして、彼に呼び止められたとき、彼は自分に言った。

 

 

 ーーレム!

 

 

そう、悲痛に名を呼んで、

 

 

 ーー大好きだよ。これからも、ずっと。

 

 

最期の愛を、幸せな笑みと共に。

 

もし、もしも、彼がこの未来を予期していて、だからこその愛の告白だったなら———。

 

 

「ーーっ! あああああああああ!!」

 

 

ばんっと、自分の中でなにかが爆発し、気が狂わんばかりの後悔に襲われ、レムは縋り付くようにテンの体を抱きしめて慟哭。酷使した喉が潰れてひしゃげ、金切り声となって世界に木霊した。

 

彼の様子がおかしいことは感じ取っていた。普段と違う空気感を纏い、それを内側に押し殺しているような。

 

そんな気はしていた。していたのだ。気にすることはできていたのだ。

 

今にして思えば、あの会話の中にある全部に彼の心情が——死にたくない、生きたいという意志が宿っていたのではないか。

 

 

 ーーそれに……人っていつ死ぬか分かんないんだしさ。俺も例外じゃない。

 

 

その言葉も。

 

 

 ーーだから俺は絶対に死ねないんだよ。

 

 

その言葉も。

 

 

 ーーレムは俺にとって大切すぎる存在、大好きで大好きで死なせたくない恋人。ってこと。

 

 

その言葉も。

 

誰にも悟らせまいと心の奥底に隠した本音、隠しても隙間から漏れ出し、言葉に出た、レムに送られた助けての合図。

 

気づいて、ほしかったのかもしれない。

問い詰めて、ほしかったのかもしれない。

 

どれだけテンが上手に不安や心配事を隠そうとも、その努力を無視し情け容赦なく暴くのがレム。小さな事でも抱えるなと怒り、一人で苦しむのを決して許さない恋人。

 

そのレムに、誰にも相談できないこと、自分が死ぬかもしれない未来を抱えていて、助けを求めていたのかもしれない。

 

恋人である自分に救いを、

 

 

「あぁあっ! ああぁあああッ! あぁあああぁぁあああーー!!」

 

 

完結しかけた思考を己の絶叫で断ち切り、レムの心は絶望の最深部にまで堕ちた。思考の終着点に辿り着くと、この心は壊れてしまうから。後悔を掻き消してくれる闇に、逃げた。

 

半狂乱し、体に付与される魔法の効果も忘れ、テンに泣きつくレム。恋人を失い、悲嘆に暮れる少女の姿に、ベアトリスは力無く首を横に振って、

 

 

「もう、ベティーたちがなにを言おうとも、なんの効果もないのよ。あの娘には届かないかしら。次、こっちに意識が向けられれば、それが開戦の合図かしら」

 

 

『対話』の可能性がゼロであることを、はっきり口にした。諦観した目でハヤトを見ながら淡々と言い切り、後戻りはできないと遠回しに言い聞かせる。

 

命よりも大切な存在を奪われた絶望が、悲しみが、己に突き刺さる後悔が、丸ごと怒りに変換され、スバルにぶつけられるのがレムの状態。

 

自分らがなにを言おうとも、彼女の感情を刺激する行為でしかない。なにも言わずとも、スバルの生がある限り、この悲劇は終わらない。ベアトリスはそう言いたいのだ。

 

もはや事の善悪など、レムにとってはどうでもいいのだから。

 

 

「いつか、レムの全てを受け入れてくれる人が……レムのような女を愛してくれる、そんな運命の人がいるとしたら」

 

 

慟哭の果てに、涙よりも先に枯れた声で、レムは感情のない言葉を紡ぐ。光が消え、なにも映さなくなった、無色の瞳でハヤトたちを見ると、

 

 

「レムにとって、テンくんがその人なんです」

 

「ーーっ」

 

 

偶然か、神様のいたずらか。

 

レムの一言にベアトリスが反応を示す。ぴくっと肩が跳ね上がり、目が見開かれる。口が開き、感情を形にするだけの息が吸われた。

 

それはベアトリスの心に、大きな波紋を呼んでいた。感情を表す海があるとするのなら、揺らめき一つない凪の水面に一雫が落ち、大きな荒波が立つほどの。

 

その人——一度でも聞けば、頭から離れないその言葉に致命的なまでに意識が引き寄せられ、レムの体を縛り付けていた魔法が解ける。

 

途端、レムは体が羽のように軽くなったような、不思議な感覚に包まれる。体にのしかかっていた重力、立つこともままならなかった枷が消え、嘘のように手足の自由を取り戻した。

 

 

「レムにとって、テンくんが運命の人なんです」

 

 

抑え込まれていた鬼の力が解放され、破竹の勢いで全身に駆け巡る。白光が乱舞するツノを中心に、血液とは違うなにかが頭のてっぺんから手足の指先まで行き渡り、それに体を支配されるような錯覚。

 

テンを抱きしめる腕が熱い。涙の止まらない目が熱い。殺意に染まる心が熱い。けど、

 

 ——額のツノが、一番熱い。

 

 

「その人が奪われた今、レムに存在価値などありません。全てが、どうでもいい」

 

 

そっと、レムはテンの体を離す。優しく寝かせ、青白い頬を指先で撫でる。じっと見つめ、「すぐそっちにいきます」と一言。

 

短く一時の別れを済ませると、両腕をゆらゆら揺らしながら、緩慢な動きで立ち上がる。振り返り、テンを背に三人と向かい合い、

 

 

「これ以上その女を庇うのであれば、お二人であっても……いいえ、誰であろうとも関係ありません」

 

 

 ぞくり。

 

視線を向けられたハヤトとベアトリスの背筋に、悪寒が走る。

 

ドス黒く染まったエプロンドレスを身に纏うレム、彼女の背後にそれよりも黒い存在を幻視し、得体の知れない化け物を相手にした感覚に肌が栗立つ。

 

自然、右手を突き出して構えるベアトリス。釣られるハヤトは短剣を握りしめ直すが、その手は小刻みに震えていて、戦意は微塵も感じられない。

 

その彼を、レムは見た。スバルを見る目と遜色ない目つき、無色の瞳に純粋な殺意を宿しながら、

 

 

「相手が友人であったとしても、戦います」

 

 

絶交の意を、真っ直ぐ叩きつける。

 

スバルのみに絞られていた殺意の矛先が、この瞬間からハヤトにも向く。それは、未曾有の事態があっても(ほつ)れることのない関係性の崩壊を、暗示していた。

 

 

「ーーーー」

 

 

「言うんじゃねぇッ!」と。

 

閉じた口の中で声を殺し、ハヤトは喉元まで迫り上がってきた魂の叫びを思い切り飲み込む。覚悟としていても、数少ない友人の絶交宣言に深手を負い、目の奥がじんわりと熱せられた。

 

自暴自棄になり、投げやりに放った言葉ならよかった。けれどこちらを見る目が、明確な意志を灯していて、その目が、甘い考えを許さない。

 

自分たちは、敵対するのだと。

 

 

「レムからテンくんを奪った者を、決して許しません。レムはその女を必ず殺し——」

 

「——その役目、ラムにも背負わせなさい」

 

 

敵対意志を明らかに、今一度、覚悟を決めるレム。復讐の鬼に成ることも厭わない彼女の声に、不意に別の声が被せられた。

 

部屋にいる誰の声でもないそれは、レムの背後から流れ込んでいた。驚き、誰もが視線を送る中、レムだけは来るのが分かっていたように反応せず、スバルを一心に睨む。

 

 

「テンテンが死にかけた夜も凄まじかったけれど、涙までは流れなかった。だからきっと、それ以上のことが起こっているのだと思った」

 

 

突然の侵入、緊張に静まり返る部屋に、再び同じ声が、今度は声の主を連れて流れ込む。全壊した扉を越えて、悠然とその姿を現した。

 

横たわるテンを丁寧に避け、レムの隣に並び立つエプロンドレスの桃髪少女。赤い瞳から涙を流すそれは、奇しくもレムと酷似しており、

 

 

「来る途中で感覚的に理解(わか)った。理解(わか)りたくもなかった」

 

 

大粒の涙が頬を伝い、顎の先から床に落ちる。拭うこともせず、その少女は下を向いてテンを見る。途端、握りしめられた左拳が、恐ろしく震えた。

 

 

「嘘だと、そう思いたかったのだけれど」

 

 

言いながら反対の手を懐に差し込み、一本の杖を取り出す。

 

その少女が本気で戦うときに使用される唯一無二の武器、それを握ることは少女の中に戦意があることを意味して、

 

 

「信じたラムが馬鹿だった」

 

 

 ぞくり。

 

言い終えた瞬間、少女の体から息が詰まるほどの殺意が漏れ出し、襲いかかり、ハヤトとベアトリスの背筋に悪寒が走る。

 

レムの殺意を丸ごと引き継いだようなそれを肌で感じ、先程と全く同じ感覚に苛まれた。

 

当然、少女の背後にも得体の知れない存在を幻視するが、二人の警戒心は前者よりも遥かに高められている。

 

その少女の背後にいる存在は、レムの背後にいるそれとは比較にならないほど濃い。その場にいると錯覚させられるほど、姿が明確に見える。

 

それは、過去にラムが失ったモノ。

炎の夜、人生の分岐点で奪われたモノ。

 

ベアトリスですら戦慄する殺気を放つ存在は、間違えなく鬼神の気配———。

 

 

「その女を渡しなさい。——ハヤト」

 

 

憤怒に燃える少女——もう一人の鬼が、凍てつくように冷たい目でハヤトを睨みつけた。

 

 

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