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吾輩は型月最強の惑星生物にしてフォーリナーのサーヴァント、ORTのマスターである。名前など無い。
つい先日、私は、挫折困難や紆余曲折が有ったという訳でもなく、本当に突然、本来ならば召喚する事が出来る筈も無い最強のサーヴァント「ORT(沙条愛歌)」を召喚する事が出来た。
いや、この場合はする事が出来たというよりも、出来てしまった、してしまったという表現の方が正しいのかもしれない。
まぁ、閑話休題。
沙条愛歌を依代にし、疑似サーヴァントとして私の元に召喚されたORTなのだが。
「此れが、人類の文明―――現世、と呼ばれる世界。」
彼女は現在、ベランダから街並みを眺めていた。
私が住むマンション、そのベランダから見える街並みを眺めている彼女は、とても感慨深そうだった。
人が住む世界、人が文明を発展させている世界。
愚かだが美しく、善ではあるが悪でもある矛盾した生命体『人類種』が造り出した今の世界。
その眺めは―――惑星の危険信号によって飛来した彼女にとって、どう映っているのだろうか。
「認識異常、確認。登録記憶の再生及び読み込みを開始―――完了。やはり、私が見た世界とは認識が合いません。」
訳が分からない、と言った風に、彼女は首を傾げて、此方へと体を向ける。
「マスター、これはどういう事なのですか?」
地球から発せられた危険信号に答えて、この地球にやって来た彼女にとって、この平和な街並みは珍しい以前に理解する事が出来ないものだったらしい。
いや、そもそもとして、恐らく彼女は汎人類史のORTではなく、異聞帯におけるORTなのだ。
私は少しも悩む事なく、正直に彼女に事実を打ち明ける事にした。
この場で嘘を吐いたところで、困るのは私だ。それに、彼女も釈然としないだろう。
それを理由に殺されてしまっては無念極まりない。故に、正直に伝えよう。
「此処こそが本来の世界、君が見たミクトランの世界のような『もしも』の世界ではなく、我々、人類種が生を歩んでいる歴史だ。」
黄金樹海紀行ナウイミクトランのような、『異聞帯』というような仮想の世界ではなく、我々『人類種』が『正しい人類史』を歩んでいる世界―――それこそが、此処。
汎人類史と呼ばれる―――異聞帯でも特異点でもない、現実世界である。
「正しい歴史―――汎人類史。」
大切な教えを呟くように、復唱する。
私はマスターとしては半端者であり、魔術師というよりは魔術使いに近い立ち位置の人間だ。
衛宮士郎のような特殊な起源を持っている訳ではない。
遠坂凛のようなアベレージ・ワンという才能を持っている訳でもない。
蒼崎青子のように魔法を使う事が出来るという訳でもない。
私は、ただの名も無きマスターだ。特別秀でた才能が有る、という訳ではない。
だが、まぁ―――そんな私でも、いや、そんな私だからこそ、この歴史を愛している。
私に出来る事があるとすれば、それは彼女に、汎人類史の在り方を知ってもらえるように努力する事だ。
それが、彼女がこの地球を滅ぼさない理由になってくれるかもしれない。
「一先ず、食事を取ろう。細かい話は、其の後だ。」
出来るか分からない不確かな世界救済の行動を決意して、私は彼女の胃袋を掴めたらな、という希望的観測の元に台所へと向かうのだった。
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私も独り暮らしをしている大人だ。多少の料理には、心得が有るつもりだ。
彼女は見た目こそ少女なのだが、しかしその本質は星をも喰らう大蜘蛛だ。
デザートか何かよりも、肉料理といった物の方が掴めたり出来るだろうか? と考えた末、どちらも出す事にした。
出さないよりはマシだろうし、どちらも出せば腹は多少、膨れてくれるだろう。
「食事…獲物が居ませんが、今から出向くのですか?」
食事をする為に必要な獲物が居ない事に、首を傾げる彼女。
あぁ、やっぱり料理の事は知らないのか…と、私は少し困ってしまう。
私は彼女に「汎人類史における食事は、狩りじゃないんだ。」と、一般常識を教えた後、椅子に座って待っていてくれ、と言って、冷蔵庫から次々と食材を取り出す。
あまり時間を掛けさせるのは良くないだろうし、素早く作れる肉料理を作ろう。
主な材料は豚肉の薄切りとアスパラだ。後は醤油、水、料理酒、味醂といった味付け用の調味料を。
作るのは簡単な肉巻き。だが、これが意外と膨れるのだ。
まな板に肉を敷き、その上にアスパラを載せて丁寧に巻いていく。
これだけの簡単な作業で、取り敢えず十本作った。足りなかったなら、また作れば良い話だ。
次に、調味料を全てボールに移し、混ぜる。
混ざるまでの作業に少しばかり時間は掛かるが、手間という程の手間ではない。
混ぜ終えたら、コンロに火を点け、その上にフライパンを乗せ、フライパンにサラダ油を引いてから肉を乗せ、焼く。
この間に、冷凍庫からカップのバニラアイスを取り出しておく。この時間で、丁度いい具合に溶けてくれるだろう。
肉の両面が焼けて良い色になったなら、混ぜた調味料を掛けて煮詰める。後は味が染みるまで少し待つだけだ。
「判別不能…これまで、嗅いだ事の無い匂いです。」
不思議そうにしながら、彼女は何時の間にか此方の隣に立ってフライパンを見詰めていた。
何という敏捷性だ。流石はORT、アルテミット・ワンと言ったところか。
疑似サーヴァントになろうと、そのステータスの高さは依然健在という事だろう。
「今から皿に盛るから、待っていてくれ。」
真剣に肉を見詰める彼女にそう言って、私は火を止めてフライパンをコンロから離し、皿へと肉巻きを移していく。
まるでカブトムシを見る子供のように、肉巻きに釘付けになっている彼女。
私は机の方で食べてくれ、と彼女に箸ではなくフォークを渡して指示を出す。
…流石に、フォークなどの使い方は分かるだろう…分かるよね?
「使い方は分かるか?」
「はい。その知識は、座より登録されています。」
変わらぬ無表情で、彼女はフォークを受け取った。そして皿を持って、机の方へと一瞬で移動し、椅子に座って食事を始めた。
皿に盛り付けられた肉巻きにフォークを突き立て、じっくりと眺めながら口へと運ぶ。
彼女の歯が、味が染み付いた肉とアスパラを噛んだ瞬間。
「―――」
彼女は、目を見開いた。
彼女は疑似サーヴァントだ。
ORTとしての味覚、嗅覚ではなく、沙条愛歌という一人の人間としての味覚と嗅覚を今は持っている。
ともなれば、食べ物を『美味しい』と思う事が出来るのは、至極当然と言うものだ。
「…」
突き刺す、食べる。突き刺す、食べる。
もうリスの如く膨らませた頬。もがもがと、彼女は肉巻きを全て平らげて見せた。
早過ぎる…デザートを作る時間が無くなってしまったではないか。
「…美味かったか?」
あまりの早さに少し困惑しながら、私は肉巻きを飲み込んだ彼女へと美味しかったかどうかを問う。
反応だけを見るに、美味しかったとは思うのだが…
「――次」
「…え?」
次?
次とは何だ?
「次です。同じものを作ってください。」
どうやら、お気に召して頂けたようだ。
「同じもので良いのか? 別のものを作ろうと思っていたが…」
「では其れもお願いします。」
…これは、思った以上に食費が掛かりそうだ。
だが、まぁ、これは重畳な結果というやつではないだろうか、と私は思う。
取り敢えず、肉巻きは気に入ってもらえたようだ。この調子で、デザートも気に入ってくれれば良いのだが。
さて、それでは早速、デザートを―――ふわふわのパンケーキを、作るとしようか。
ORT(沙条愛歌)
本来ならば喚ばれる筈ではなく、しかしORTという英霊の存在に困り果てた座が沙条愛歌という依代を与えて名も無きマスターへと押し付けた最強のドジっ子。
現在はマスターが作った料理に餌付けされかけている。
名も無きマスター(被害者)
本当に名も無きマスター。マスターとして優れている訳でもないし、魔術師というよりは魔術使いの立ち位置に立っている男性。この度、座よりORTのマスターを押し付けられた可哀想な被害者。