愛歌(ORT)さん喚んじゃった。   作:全智一皆

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bad end√
「星喰らう蒼き日輪」


■  ■

 

 熱い、熱い、熱い。

 体が熱い。意識が遠のいていく。

 下半身は無くなった。腰から下の肉体は、切り離されて焼き尽くされた。

 だが、だが、だが。ただでは死ねない。このまま、簡単に死んではならない。

 焼き尽くされたお陰で出血は多量ではない。傷は焼かれて塞がっている。

 まだ―――言葉は出せる。

 彼女を助ける為の言葉は、吐き出せる。

「……令呪を以て、我が星に命ずる」

 言葉を吐き出す。

 もはや細かく考える事も出来そうにない頭と、何とか繋ぎ止めている意識を使って言葉を放つ。

「ますたー…?」

 涙を流す少女が、吐き出される男の言葉に耳を傾ける。

 男の目は少女を見ていない。否、そもそも光が灯っていない。

 もはや視界は靄に埋め尽くされている。蒼い夜空も、男を覗き込む少女の顔もソレは分からない。

 ソレは、もはやただ言葉を吐き出すだけの肉塊に過ぎなかった。

「我が心臓を喰らえ。」

「―――」

 少女の瞳が翡翠に変わる。

 少女の顔が歪み、拒絶の意を顕になる。

 ぎぎぎ、と使い捨てられた古い機械のように、少女の口が徐々に徐々に開かれる。

 涎が溢れる。涙と共に、ソレの肉体へと零れ落ちる。

「何故、何故……!? ますたー、マスター……!」

 少女が問う。

 されど死体は喋らない。屍は答えない。

 ただ、言葉を吐き出す。

「最後の令呪を以て、我が星に命ずる

 

どうか、私の分も生きてくれ。」

 吐き出される、呪いの言葉。

 口角が、僅かに上がったよう。少女は、そう捉えた。

 少女の顔が、男の胸の真ん中に近付く。

「くっ……! それは、やっちゃダメでしょ!」

 焦燥を浮かべた蒼崎青子が、男を喰らおうとする少女に向かって魔弾を放つ。

 少女の頭に魔弾が直撃する。されど、少女の頭は消し飛ぶ事もなく、僅かに血が流れる程度だった。

 もはや、間に合わない。

 開かれた口が、男の胸を―――喰らった。

 

 魔力が迸る。魔力が暴れる。

 少女の姿をした蜘蛛の体内で、それまで摂取した事のない絶大的なエネルギーが、細胞の隅々まで行き渡る。

 だが―――

「ぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!!!」

 そんな事よりも。そんなどうでもいい事よりも。

 少女は流血し続ける亡骸を抱き、慟哭を夜へと放つ。

 ぽっかりと孔が空いてしまった胸。閉じられた瞳。冷たい体。

 名も無きマスターは、遂に存在すら失った。

 本当に、名すら無い『物体』になってしまった。成り果ててしまった。

「……」

 蒼崎青子が近付いてくる。

 物言わぬ死体となった友に。死体を抱く蜘蛛の元に。

 蜘蛛は、すぐさま死体を抱き締める。

 取られぬように。奪わせないように。もうこれ以上―――何も失わないように。

「……生きなければ」

 蜘蛛が呟く。

 

/殺さなければ。

「……マスターが、そう願ったなら」

 蜘蛛が立ち上がる。

 

/復讐しなければ。

「私のマスターが、私に生きろと言ってくれたなら」

 蜘蛛が顔を上げる。

 

/――――――理想を破ってでも、抗わねば。

「その為に――――――貴様を殺す。」

 翡翠が群青に変わる。白銀が漆黒に変わる。

 空が解けていく。宇宙が溶けていく。

 蜘蛛の上に浮かぶのは、巨大な召喚式。

 これまで、蒼崎青子が一度も見た事のない大規模な召喚式。

 否、否、否。

 違う、違う、違う。

 あれは召喚式であって召喚式ではない。これは召喚術であって召喚術ではない。

 召喚式を象った再臨式。召喚術を象った最終式。

 この世界が反応しない裏技。霊長の抑止力と惑星の抑止力が反応を示す事が出来ない裏道。

 サーヴァント。過去の偉大なる英霊。

 その存在を、その概念を、抑止力は容認している。

 アラヤは許容している。ガイアは公認している。

 蜘蛛が反応を示されるならば。英霊を止めて、本来の姿に戻れば、最果ての未来における最強の剣士が召喚されてしまうならば。

 英霊を止めぬまま、しかし絶望の力を手に入れてしまえば良い。

 英霊の最終状態という名目で、本来の力を最終霊基になって手に入る力であると無理矢理に納得させれば。

膨大かつ濃厚な魔力による霊基グラフの極限化を確認。

 

英霊体の霊基再臨を開始。無銘の心臓との一体化を同時に開始。

 

根源への接続を強制容認。座への干渉、観測記録と情報記録の定義改竄を開始。

 

3億年に渡る異聞人類史と観測宇宙時間146億年を総合統括。

 

発生観測時間 活動観測時間 149億年に再定義。

 

真名開放 オルト・シバルバー―――再臨完了」

 絶望が―――現れた。

 もはや、それは少女の姿をしていない。だが、大きな蜘蛛の姿もしていない。

 蜘蛛を無理矢理人型に加工したような無機質。背丈こそ人間大。

 肉体は漆黒。宇宙は、群青に歪んでいる。

 心臓を得た蜘蛛。少し先の未来、人理を保障する機関が対決させられた蜘蛛。

 その人型こそ絶望の機構。心臓を得て、完全に復活した蜘蛛が、人型になったものと大して変わらない。

「―――そう。それが、答えな訳ね。」

 もはや正気は無い。

 だが、諦めるつもりもない。

 無謀な戦いであったとしても―――やらなければならない事が、あるのだから。

「炉心駆動によるジンの発生を確認・心臓への即充填を開始。

 

ジンの完全充填を確認。侵食固有結界《水晶渓谷》の特性を宝具との混同・合成を確定。

 

根源接続による大規模な銀河の速攻構成を開始。同時に地上においての高速回転を開始。」

 空が回る。宇宙が廻る。

 世界が廻る。銀河が廻る。

 大地が崩れ、境界が歪む。

 根源。この世の全て、ありとあらゆる全ての源。究極の一そのもの。世界そのもの。

 それに繋がった彼女は、世界を意のままに操る事が出来る。生態系の変更・系統樹の新たな枠組みの追加など、様々な事を。

 それに、ORTという生物の性質が加わった。

 故に、銀河を創り出す事が出来る。そして、それを超高速で回転させ、三次元に収まる事が出来ず、空間そのものを崩壊させてしまう程の膨大なエネルギーを発生させている。

 そして、それを風として利用するのだ。

 この世界を熔かし、ありとあらゆる全てを悉く滅ぼす暴風を吹かすのだ。

 

「宝具発動――――――是即ち、この星を喰らい、焼き尽くす群青の日輪。

 

宇宙熔かす不滅の日輪(オルトネビュラ)』」

 銀河の嵐が息吹く。

 融解の暴風が吹き荒れる。

 

 何もかもが、溶けて、彼女になっていく。

 

□  □

「……?」

 途切れた筈の何かが、元に戻った様な感覚がした。

 そんな感覚を覚える体ではなくなった筈なのに、何故なのか感覚を覚えた。

 瞼を開き、曇った空のような黒色の世界をその目に映す。

「よぉ、目は覚めたか?」

 その声を聞き、バッと体を叩き起す。

 焚き火の前に居座り、軽薄そうな笑みを浮かべる金髪の男。

 それを、私は知っている。その英霊を…否、その神霊を、私は知っている。

「全能神テスカトリポカ…なら、此処は…」

「そう。此処はミクトランパ。戦士達が休息を得る事が出来る楽園の場所だ。」

 南米異聞帯における異聞帯の王にして、マヤ神話における全能神。

 戦争と死を司る、善悪を超越した絶対者―――テスカトリポカ。

 そして此処は、戦死した戦士達が休む事の出来る唯一の場所。

 戦士達の楽園―――ミクトランパである。

「何故、私が此処に…」

「興味本位さ。お前は決して、相手を殺そうとはしなかった。しかし戦いから逃げる事もしなかった。カルデアのマスターと同じ」

「違う。それは絶対に、違う。」

「……ほぅ?」

 人類最後のマスター、藤丸立香と在り方が似ていると言い切ろうとしたテスカトリポカの意見を、しかし私は素早く否定した。

 違うさ、あぁ違うとも。私と彼を一緒にするのは、彼に失礼だ。

「私は藤丸立香の様に、何もかもが普通であった訳ではない。生まれた時から凡人であった訳ではない。何より、彼のように死物狂いで戦いを生き抜いた事がない。ただ相手を殺そうしないというだけで、彼のような立派な人間と私を一緒にするべきではない。」

 藤丸立香は死物狂いで足掻いている。決して私とは違う。私よりも、彼は何倍も強い立派な人間だ。

 死にたくないから戦う者と、死ぬ訳にはいかないから戦う者とでは、確かな差があるのだ。

 私は彼より弱い。彼よりも、戦士に値されない人間だ。

「――よく言い切ったな。お前への見方は、変えた方が良いかもしれんな。」

「…それより。興味本位で私を呼んだと言ったが…それは、私がORTのマスターであったからか?」

「あぁ、そうだ! それだよ、それ。あのORTのマスターになったお前から、色々と聞きたかったんだよ。」

「…貴方が興味を持つような話しは、何もない。」

「その心は?」

「彼女は―――私達が思うよりも、ずっと人間らしい娘だったからだ。」

「―――そうかい。なら、尚更聞きたいね。」

 星を滅ぼした奴を、ただの娘であると言うお前の意見が。

 

 テスカトリポカは笑った。彼の意見を、彼のORTへの見方を。

 彼は真剣に話した。ORTがどのような人間性を持っていたのかを。

 その間に、世界が壊滅寸前にまで進み、特異点となってしまった事など知らずに。

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