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吾輩はサーヴァントである。名前など無い。
勘違いしてはいけないのだが、私は決して英霊エミヤに連なる方の『無銘』ではない。
ただ単に、私の起源の都合上、無銘と表記する事しか出来ないからだ。故に、私には真名が無い。
真名が無いからこそ、私の呼称は「無銘」となっているのだ。まぁ、クラスまで同じなので、勘違いされても仕方ないとは思うのだが…残念ながら、私は白髪でもなければ褐色でもない。
何よりの特徴である投影魔術も無限の剣製も使えない。
強化魔術と変化魔術、そして魔弾しか使えないだけの魔術使いのサーヴァント―――それが、この私である。
…して。
「……えぇ?」
私は自分の体を見て、最初に困惑した。
腰から下が有る事は勿論、そもそもとして英霊として生き返った事に困惑していた。
何故? え、何故? 吾輩、別に英霊に成れる程の偉業とか記録持ってないよ?
英霊とは、英雄が死後、精霊として祀り上げられた存在だ。つまり、大抵は必ず、誰かがその英霊となる人物の事を知っていて、後世に語っているという事になる。
抑止力に身を捧げ、守護者となった英霊を除けば、私の様な英霊は例外も良い所だ。
知名度補正も無ければ積み上げた歴史も無いし、最低限の前提である偉業すら為していない。
そんな存在は、本来ならば決して英霊になぞ成れはしない。
成れはしない…のだが……。
「成ってるんだよなぁ、これが……」
サーヴァントに成ってるんだよなぁ、私……
と、私も私で混乱していると、ふと気付いて周りへと目を向ける。
すると、やはりと言うべきか…ノウム・カルデアの全員が驚愕していた。
まぁ、それもそうか。トリスメギストスⅡが反応を示し、英霊の召喚を報告するなんてORTの時ぐらいなものだからな。
…なんか、ゴルドルフ所長は有り得ないものを見ている様な顔してるな。もしかして、私の事を知っていたりするのだろうか。
まぁ、私、一応ではあるが封印指定にされていたからな…名は広まっているのだろう。
だが、藤丸やマシュ辺りは知らないだろうし、取り敢えず自己紹介しておくか…
「あー…初めまして、カルデアの皆さん。私は…名も無いサーヴァント。無銘、何でも屋さん、アンタ、お前、貴方……兎に角、名前の無い男だ。呼び方に困るなら、アーチャーか無銘と呼んでくれ。あ、あと敵ではないので、よろしくしてほしい。」
取り敢えず、こんな自己紹介で良いだろう。
周りの反応を見るに…まぁ、敵対意思を持たれてはいない様だ。警戒はしているが、それは当然と言えば当然か。
いきなりサーヴァントが現れたのだから、そりゃ警戒もするだろう。私ならする。何なら強化魔術を掛けておく。
「あ、藤丸立香です。えっと…よろしく? 無銘さん。」
「マシュ・キリエライトです。よろしくお願いします、無銘さん。」
何と、藤丸とマシュの二人は私に自己紹介を返してくれた。
あぁ、やはりこの二人は優しいな。って、あれ?
藤丸の髪はオレンジ色だっただろうか? 私の憶えている限り、ぐだ男の髪はオレンジ色ではなく黒色だった筈なのだが………
…………あ、これぐだ男じゃねぇ。ぐだ子だ、これ。
「あ、あぁ…態々ありがとう、二人共。」
私はその事実に戸惑いながらも、何とか感謝を返した。
予想外だ…まさかぐだ男ではなく、ぐだ子とは。
私がやっていたFGOではぐだ男にしていた筈なのだが…どうやら、そこから間違っていたらしい。
ちゃんとした世界に私は転生していたのだな…正直、私のデータの世界に転生していたとばかり考えていたが、まずそこからとは。恥ずかしい限りだ…
いや、閑話休題。
「私が喚ばれたという事は…恐らく、特異点の攻略だろう。合っているか?」
「合っているけど…何故、君がそれを知っているんだい?」
私がその様に言ってみせると、キャプテン・ネモが怪しむ様な目を向けて追及してきた。
確かにそうか。私はつい先程、召喚されたばかり。それにも関わらず、特異点の事を知っているのだから怪しむのも無理はない。
だが…これは言っていいものか。正直、悩ましいが……。
とは言え、特異点を攻略していればいつかはバレるものだからな…うん、言ってしまうか。
言い逃れるつもりも無し。そもそも、この特異点が出来た原因は―――
「私が、この特異点を産む過程を創り出してしまった男だからだ。」
私が、彼女の手を取らなかった事が……招いてしまった事なのだから。
私の所為で、彼女を苦しめる結果を創り出してしまった。
私の所為で、彼等を苦しめる事態を引き起こしてしまった。
私が召喚された理由は――――――後始末を付けろ、という事なのだろう。
「…それは、どういう事だい?」
「……話せば長くなる。それでも構わないか?」
私と彼女の始まりから、そしてその最期までを語るのなら。
とても、とても―――長くなる。
たった数週間の事だったにも関わらず、私は数年の事を喋っている様な感覚に陥った。
□ □
私とORTの出会い、私とORTの行動など、様々な事を話し終えた私は、彼等カルデアから少しではあるが、信頼を得る事が出来た。
特異点を生み出した元凶。世界を滅ぼす要因。そんな私だからこそ、少しであろうと信頼を得られるのはありがたい事だった。
「三咲町に留まって、世界を破滅寸前まで追いやっている、か……三咲町に留まったのは、思い入れがあるからなのか、ORT?」
此処には居ない、もう私のサーヴァントではない彼女に、私は独り言で問い掛
「うーん、どうでしょう…私には、あんまり分かんないですね。」
「」
突如、背後から発せられた声に私は驚き、体の向きを右へと変えて地面を蹴り、一瞬で壁際へと移動する。
まるで、後ろにキュウリを置かれた猫の様な反応で驚いた私に、
「わぉ! 貴方、とっても速いですね!」
と、彼女―――「ククルカン」は、純粋に凄いという感情を込めて笑った。
「く、ククルカン…」
「はい、ククルカンです! 初めまして、ORTの元マスターさん♪」
ニカッ、と。太陽の様に、彼女は笑っていた。
ククルカン―――マヤ神話に登場する神格の一柱であり、アステカ神話における文化と農耕の神であるケツァルコアトルと同一視される神格。
至高神にして創造神、四つの元素を司る最高の神。全能神テスカトリポカと敵対する神にして、異聞帯の王が一人。
そして―――その正体は、異聞帯における太陽の神にして、アーキタイプ:ORT。
つまり、勇者王カマソッソに抉られたORTの心臓、その化身である。
「な、何故、此処に……?」
「特に深い理由は、何も。ただ、純粋に聞きたかったので来ました。」
「聞きたかった…? 何をだ?」
私は首を傾げる。
彼女が知りたい事なんて、私は持っていない筈だが…。
現代に関する知識であれば、私ではなく彼女のマスターである藤丸に聞けば良い。
だからこそ、恐らく彼女が聞きたいのはそういった事ではないのだろう。
さて、いったい何を聞きたいのだろうか……?
「貴方に従っていた私―――貴方が知るORTが、どんな人物だったのか。それを知りたいのです。」
「……ORTについて?」
「えぇ。キャプテンから少し聞きましたが、貴方に召喚され、貴方と共に暮らしたORTは、とても少女の様だったと言っていた、と。」
「…あぁ、そうだ。少なくとも、彼女は…星を喰らおうとする生物ではなかったよ。
美味しい物を食べると笑顔になってくれるし、町の人達と話す事もあった。近所の子供達と一緒に、色んな遊びをした事もあった。
私が見ていた限り…彼女は、ただの少女だったよ。知らない事が多い、可愛い娘みたいだった。」
私が作った料理を食べて、笑顔になってくれた。
私の知り合いと話し、良くされて気分が良かった。
近所の子供達と知り合い、お姉ちゃんと呼ばれては様々な場所に連れて行かれ、共に遊んで帰って来た事もあった。
そんな彼女は、決して怪物などではなかった。化け物などではなかった。
ただの少女だった。私にとって、彼女は―――可愛い娘の様な存在だった。
「へぇ……そっちの私は、随分と幸せだったのですね。」
「…どうだろう。」
「幸せでしたよ、絶対に。そうじゃなきゃ、特異点を創るまで世界を壊そうとしないでしょう。」
「……」
「世界を壊す寸前で止めているのは、貴方が来てくれるから…なんて、思っているからなんじゃないですか?」
「ORTが…私を…」
……どうなのだろう。
いや、それは―――明日になって、分かる事だろう。
無銘のサーヴァント(名も無きマスター)
世界壊滅規模の特異点発生に伴い、座に登録された直後にカルデアに召喚された元ORTのマスター。決して、月の弓兵ではない。
自分が何故カルデアに喚ばれたのかは理解している為、早く特異点に行ってORTと会いたい気持ち。
藤丸立香(ぐだ子)
特異点が発生&そのボスが完全体のORTという絶望を聞いて気絶しかけていた。そんな時に、無銘のサーヴァントこと名も無きマスターが現れたので、何とか気絶せずに済んだ。
だが、彼の語るORTがあまりにもORTらしからぬ少女の様だった事が原因で結局は気絶した。
ククルカン(実質ORT)
無銘のサーヴァントからORTの話しを聞き、別の自分は少女だったんだなー、幸せだったんだなー、と割りと羨ましく思っている。