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レイシフト。藤丸立香・マシュが特異点・異聞帯へと向かう為に必要不可欠な転移方法。
正式には、疑似霊子転移。
人間を疑似霊子化…即ち、魂のデータ化をさせて、異なる時間軸、異なる位相に送り込み、これを証明する空間航法。
つまる所、夕イムトラベルと並行世界のミックスである。
ざっくりと言ってしまえば、物体を擬似霊子に変換し、任意の座標に転移させる移動法。
だが、その特異点・異聞帯の侵食濃度―――本来の歴史からどれだけ変わっているかを示す値が大きければ大きい程、その座標にズレが生じてしまう。
その座標に異常があったり、もしくは異常気象が発生していたりする場合もある。その所為で、外部との連絡が取れなくなったりする。
何故、最初からこの様な事を喋っているのか?
そんなの、決まっている――――――
「いつものやつだぁ…」
「ですよねー…」
嘆く藤丸に、私も同意して嘆く。
表示されていた座標とは、全く別の場所。しかも、妙に見覚えのある山の中。
だが―――その光景は、その現状は、決して私が見てきたものとは全く異なるものだった。
茶色の幹は濁った漆黒に変貌を遂げており、本来なら生っている筈の木の葉は全てが枯れ果てて青色に変色している。
青空は銀河の様に眩ゆく、同時に様々な色がぐちゃぐちゃに混ぜ込まれた様な禍々しさを放っている。
それを見て、私は理解する。この光景は、恐らくORTの侵食固有結界『水晶渓谷』によるものである、と。
同時に、僅かではあるが息苦しさも覚えていた。
「…マスター、分かってはいるが、一応。外部との通信は?」
「…出来ない。でも、何となく理由は分かるよ。多分、キャメロットの時みたいな感じなんだと思う。」
「神聖円卓領域キャメロットか…確か、あの時は砂漠だったな。通信障害も起きていた……が、残念ながら、此処はそれよりも面倒かつ厄介なものが漂ってる…最悪なものが。」
私の予想が正しければ―――この特異点全体に漂っている不可解な物質は、恐らく『ジン』だ。
ジンとは、原作者である奈須きのこが学生時代に書いていた短編小説の一つであるNotes―――皆さんが知る所の、鋼の大地に登場する概念もしくは物質だ。
臨終した星、死に絶えた惑星、生物が住めない世界。彼等が生きていたその世界を、鋼の大地と呼んでいた。
その世界にはジンと呼ばれる、生物にとって有害な性質のみを持つ物質が溢れている。
だが、大体の生物はそのジンが溢れている環境に適応し、その体に多少なりともジンを含んでいる。
ジンのエネルギー効率は、これまでの人類史に類を見ない凄まじいものだった。ACで言うところのコジマ粒子の様なものだ。
私達は過去の人間だ。故に、ジンに対抗する手段など持ってはいないし、そう簡単に適応出来る訳もない。
「ジンが溢れているなら、この三咲町での活動はだいぶ狭まれる…何より、マシュとカドックの身が危ない。」
「えっと…そのジンって?」
「あぁ、ジンというのは、今より遥か先の未来…荒廃してしまった地球に溢れている物質の事だ。人体に有害なもの、と認識していれば良い。そうだな…マシュが持っている、ブラックバレル・レプリカ。そのオリジナルが効果を発揮する物質と言った方が良いかもしれないな。」
ブラックバレル。黒い銃身、星を撃つ銃器。
鋼の大地において、ゴドーが使ったアトラスが創り上げた禁忌の代物、その一つ。
第五架空要素を崩壊させる弾丸を放つそれは、鋼の大地においては最強の武器の一つだ。
魔剣・斬撃皇帝に並ぶ武器であるブラックバレルのレプリカを、マシュは持っている。
相手の寿命を測定し、マスターの全令呪と運命力を消費して放つそれは主神ゼウスすら殺してみせた。
もしもORTに意思が無いならば…意識が無いならば、私諸共、撃ち貫いてもらう他ない。
その為にも、マシュの安否は大切だ。無論、カドックもだが…
「どちらにせよ、まずはジンをどうにかしなければ話しにならないか…とはいえ、私には礼装作製の技術も無し…仕方ない。取り敢えず、今はコレで対処しよう。」
ジンを対処するには、まずダ・ヴィンチと連絡を取らなければならない。亜鈴は亜麗とは別の個体だが、星の心臓はある意味ではジンと似た様なものだ。
そのアイデアから、第五真説要素環境用カルデア制服の様な礼装を作ってくれるだろう。
それが出来るまでは―――私の『強化魔術』で、彼女を出来る限り援護しよう。
心臓にある回路を開く。
ゴゥンッッッ!!!! と、鐘の音が声を上げ、森林の奥深くまで鳴り響く。
「すご…本当に、回路を開くだけでそんな音が鳴るんですね…」
「質が質だからな…正直、これだけ大きい音が鳴る魔術回路だから、隠密には向かない。」
「あー…確かに。そんな大きな音が鳴ったら、一瞬で場所が分かっちゃいますよね。」
あぁ、そうだ。こんなに大きくて、特徴的な音が鳴ってしまえば―――
『――――――』
一瞬で、バレてしまう。
本当、何をしているだ…私は。
□ □
「…ORT」
宇宙に立つ彼女の名を、小さく呼ぶ。
漆黒の外殻。群青の彩り。余りあるジン。
オルト・シバルバー――――――私が自らの心臓を与えた結果、生み出す事となってしまった正真正銘の怪物。
私にとって、最も大切な家族。ずっと生きていてほしかった、大切な存在。
けれど―――
『…待っていてください、マスター。私がすぐに、助けますから。』
青色の風が吹き荒れる。群青の太陽風が全てを侵そうと唸りを上げる。
同時に、体を蝕み、破壊の限りを尽くす有害でしかない物質が散乱する。
それだけで理解する。和解の道は絶たれている、と。
「っ…! 逃げるぞ、藤丸!」
すぐさま後ろを向き、唖然としていた藤丸を肩に背負う様な形で担って地面を駆ける。
加速の風圧が体を叩く。目に見える景色が、すぐに通り去って消えていく。
音速を身に纏い、荒廃と壊死に取り憑かれた木々を風圧だけで悉く振り払い、全てを打ち破って突き進む。
津波の如き風が、後ろから迫りくる。何もかもを熔かし、侵食する太陽の風が、私達を飲み込もうと追い駆けてくる。
「ORT、無銘さんのサーヴァントだったんだよね!? めっちゃ敵意むき出しで攻撃してきたよ!?」
「私にもよく分からん! だが、何故かは知らんが怒っている様な気はした!」
「それ嫉妬じゃないの!?」
「そんな馬鹿な事があるか、と言い切れないのが辛いな! だが、嫉妬する要素なんて何処にも無いだろ!」
「此処に有りますよ!」
「自惚れるな小娘! ORTの魅力に比べれば天と地の差だ!」
「温度差が凄い!」
嫉妬なんてする訳ないじゃない…ないじゃない……多分。
いや、今はそれを気にして考え込んでいる暇なんて無いんだよ。と、私は自分に言い聞かせて更に加速する。
ゴゥンッッッ…………ゴゥンッッッッッッ!!!!!!
回路を二本開く。鐘の轟音が鳴り響き、空を揺らし木々を倒す。
荒れ地に踏み出し、荒れ地を踏み締め、脆い荒れ地を強く蹴って、更に前へと加速する。
それには、バネに押し出された様な感覚、なんて優しい表現では言い表せない衝撃があった。バッティングセンターに有るマシーンの中で、最も速いマシーンに投げ飛ばされたボールの様な感覚。それが、今の私と藤丸に合った表現だった。
まぁ、そんな表現をした訳ではあるが、そもそも私はバッティングセンターに行った事などないのだが。
「もっと飛ばすぞ! 吐くなよ!」
「善処します!」
「良し―――行くぞ」
音速を越えて、神速で。
私は藤丸と共に山を抜き、青色に汚された愛しき故郷へと突入した。