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三咲町。時系列的には、型月作品の中で最も古いであろう物語『魔法使いの夜』の舞台にして、私とORTが住んでいた町。
都会に比べれば田舎だろうが、それなりの設備や施設はその時代に比べれば有った方だ。十分に、良い町だった。
だが―――その町も、今では見る影もない。
「これは…」
「…これが、『水晶渓谷』だ。」
ORTが持つ、侵食固有結界『水晶渓谷』の力によって、三咲町は荒廃していた。いや、荒廃というよりは壊滅と言った方が妥当かもしれない。
『水晶渓谷』―――それ即ち、物理法則の改竄。異界秩序をだだ漏らしにしている力。
異星からの来訪者であるORTは、ただ其処に居るだけで周囲を自身が住んでいた環境―――もとい、オールトの雲に存在する彗星へと書き換える。
それがもたらした結果が、この有り様だ。三咲町の惨状だ。
太陽風によって何処もかしこも溶かされ、不安定な形のまま侵食されて青色の固形物に成り果てている。
道の端々も侵食され、それに加えて先の山よりも多くのジンで溢れている。
もはや、危険地帯と何ら遜色ない場所だ。いや、遜色ないのではない。もう此処は、危険地帯だ。どうしようもない、壊された場所だ。
「ORTの宝具…もとい、『宇宙熔かす不滅の日輪』は、『水晶渓谷』の“異界秩序”の特性を含んでいる。当たれば即死と考えた方が良い。正直、アルトリア・キャスターやククルカンの対粛清防御を以てしても防ぎ切れないだろう。」
「…宝具以前に、通常攻撃も太陽風なんですよね…」
「恐らく。だが、俺の予想では近接攻撃も使ってくるぞ。」
「え、マジですか」
「マジだ。俺がよく知ってる。」
侵食に呑み込まれている懐かしい故郷の道を、マスターである藤丸を依然として肩で抱え、私は駆けながら説明する。
私が憶えている限り、彼女が使う近接様の武器は二つ。
一つは大鎌。彼女の腕…もとい、蜘蛛状態のORTの腕を模した成人男性程の白銀の大鎌。しかも、宇宙銀糸の特性まで有る。
二つは大剣。私とORTが共闘し、青崎青子と戦っていた時に彼女が新しく創り出した、少女の体に似合わぬ程の大きさを持った白銀の大剣。
私が知る限り、もしくは憶えている限り、彼女が使っていた近接武器はこの二つだけだ。
オルト・シバルバーとしての姿を象っている彼女が使う可能性は低くはあるが、決してゼロではない。
可能性は、低くかろうと必ず有る。
「油断は禁物だ。準備に準備を重ねて挑むんだ。お互いに、彼女の強さを知っている身だろ?」
「…そうだね。私も、マシュも…知ってる。」
「そうだ。だから、入念な準備が要る。心強い味方もな。」
考え、考え、考え、そして彼女を打倒する事が出来るサーヴァントを上げるとしたら、私の頭には三人が浮かび上がる。
一人―――アーキタイプ:アース。
二人―――アド・エデム。
三人―――ゴドー。
ジンで溢れている事は、ある意味で幸運だった。アーキタイプ:アース…もとい、アルクェイド以外の二人、Notesの世界を生きた二人を喚び出す触媒としては十分な代物だ。
アド・エデムの『斬撃皇帝』であればORTを倒す事も出来る。あの魔剣には死の概念が有ろうが無かろうが無関係だ。この惑星からエネルギーを吸い取って成長した剣は、万物を両断する刃となる。
ゴドーは極限の単独種を殺害する事が出来る数少ない武器であるブラック・バレルを持っている。ジンに溢れたこの地であれば、ブラック・バレルも十分に活かせる。
ジンを触媒にすれば、恐らく召喚は可能だろう。私が座に登録されたという事は、即ちイレギュラーの容認だ。つくづく面倒な思考回路をしている様だ、アラヤもガイアも。
「とは言え…一先ずは、マシュ達との合流を優先か。この世界じゃ、呼吸する事すら苦痛になるだろう。」
「そうなの?」
「あぁ。今の私達は、『強化魔術』を使って内も外も強化しているから、ジンの影響を軽減出来ているが…マシュとカドックはそうもいかない筈だ。」
「ダ・ヴィンチちゃんにどうにかしてもらわないとダメって事?」
「そういう事だ。ダ・ヴィンチであれば恐らくどうにか出来る。っと…着いたぞ。」
目的の場所に辿り着き、私は腰を下ろして彼女の足を地面へと近付ける。
体を離し、腰を上げて其処を見上げる。
とても懐かしい―――
「私の家だった場所だ。…此処だけ、被害が及んでいない。」
私とORTが共に住んでいた、大切な場所。
「無銘さんの家…って事は、ORTの家でもあるって事?」
「あぁ。私がORTを喚んだ場所であり、共に暮らした場所だ。」
「…本当に、影響が無い。無銘さんとの想い出だから、汚したくなかったんだね。」
「……だと良いのだがな。取り敢えず、中に入ろう。」
中も大丈夫だと良いのだが。
□ □
「室内にも影響は無しか…しかし、こんな状況なのに電気が通っているとは驚きだな。」
私の部屋は愚か、台所すら無事だった。というか、部屋全体が無事だった。
清潔感は保たれたまま。埃すら被っていなかった。
部屋はまるで、保存されていた宝物の様に綺麗だったのだ。
それに加え、水は流れるし火は起こるし電気も付く。何なら、冷蔵庫や冷凍庫には食材まで入っていた。
と言っても、私がORTを連れて蒼崎橙子から逃げた時に入れていた食材だが…まぁ、それでも料理を作るには申し分ない。
「……久々に、アレを作ろうか。」
過去に私が作った料理――――――もとい、私が初めてORTに食べさせた料理を。
主な材料は豚肉の薄切りとアスパラ。後は醤油、水、料理酒、味醂といった味付けようの調味料だ。
作るのは、簡単な肉巻き。そう、私がORTに初めて出した料理だ。
まな板に肉を敷き、その上にアスパラを載せて丁寧に巻いていく。これだけの簡単な作業で、取り敢えず十本作った。
とても懐かしい。よく昼飯用にと作っていたのを思い出す。
次に、調味料を全てボールに移し、混ぜる。
混ざるまでの作業に少しばかり時間は掛かるが、手間という程の手間ではない。
今の私はサーヴァント。この程度では疲れない。こういう所でも役に立つな、サーヴァントの耐久性は。
混ぜ終えたら、コンロに火を着け、その上にフライパンを乗せ、フライパンにサラダ油を引いてから肉を乗せ、焼く。
肉の両面が焼けて良い色になったなら、混ぜた調味料を掛けて煮詰める。後は味が染みるまで少し待つだけだ。
「………本当に、懐かしいな。」
郷愁に浸る想いで、彼女との日々を思い出す。
まだ機械的な性格だった彼女。感情を表に出す事が無かった彼女。それが、私と暮らし始めてから変わって行った。
そして、私もまた変わっていた。最初は、ただの恐怖心だったにも関わらず、気が付けば私は彼女を家族と同然に扱っていた。
その始まりが、この肉巻きだ。簡単な料理が、彼女との生活の始まりだったと思うと、感慨深い。
「っと。よし、出来たな。」
コンロの火を止め、肉巻きを更に盛り付ける。
米は無いが、まぁ肉巻きだけでも十分だろう。
「藤丸、出来たぞ…って」
リビングのソファの方へと赴いてみると、マスターである藤丸立香はぐっすりと眠っていた。
まぁ、ORTと相対したんだ。きっと疲労が一気に溜まってしまったのだろう。
藤丸の分は取っておくか…。
さて、それじゃあ…
「―――ちゃんと眠っているな…よし。
もう出て来て良いぞ。久しぶりに、一緒に食べよう――――――ORT」
私がそう呼び掛けると、静かにリビングの扉が開かれ、“彼女”が現れる。
腰まで伸びた金色の髪と晴天の空を思わせる群青の瞳。ドレスを思わせるワンピースを纏った少女。
私と藤丸がついさっき逃げた相手―――そして、私の元サーヴァント。
彗星から飛来した究極の単一個体――――――ORT。またの名を、オルト・シバルバーである。
無銘(帰省)
藤丸と共にORTから逃げ(正確には逃げ切れていない)、自分が住んでいた家に取り敢えず身を隠しに来た。
料理を作っている途中からORTが居る事に気が付き、彼女の分も作って後から持っていくつもりでいた。が、藤丸が眠ったので一緒に食べる事にした。
逃げ出したにも関わらず、よくそんな事が出来るな、この人……(by眼鏡の殺人貴)
ORT(成長期突入)
懐かしい鐘の音を聞いて行ってみれば、自分の元マスターが逆NTRされてた。激怒した。それはもう憤怒した。
家で待ち伏せしてやろうと殺意満々だったのだが、懐かしい料理の匂いに敗けた。というよりは、無銘が自分の存在に気付いてくれたのが嬉しかった。
人間の状態は、ちょっと肉体的成長を遂げた沙条愛歌のイメージ。
藤丸立香(爆睡)
疲れ果てたので爆睡した。そのお陰で殺されずに済んだ。