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吾輩はマスターと共に特異点解決に勤しむサーヴァントである。名前など無い。
現在、私は藤丸と共に三咲町の山の上に有る校舎を目指していた。
魔法使いの夜という物語において、主人公の一人にしてメインヒロインである蒼崎青子が、第五魔法を使用して、自身の姉である蒼崎橙子と戦った舞台。
私達が其処に向かう理由は、単純に一つ―――現地に居るサーヴァントの確保だ。
特異点と異聞帯、その両方には必ずサーヴァントが居る。まぁ、それが絶対という訳ではないのだが。
サーヴァントではなく、あくまでサーヴァントになる前の本人である場合もある。
「でも…本当に大丈夫なの? この特異点じゃあ、サーヴァントも碌に活動出来ないんじゃ…」
「普通のサーヴァントなら、まず無理だろう。だが、私達が探してるサーヴァントは決して普通のサーヴァントじゃない。どちらかと言えば、ORTに近い存在だ」
「え、それって危ないんじゃ…」
「いや、問題無い。『姫様』の方であれ、『淑女』の方であれ、彼女は他のアルテミット・ワンに比べれば接しやすいし、人間らしい。まぁ…過去に地球を支配しようとした事もあるがな」
「やっぱり危ないじゃん!」
「過去の事だ。それに、それをしたのはタイプ・ムーンだ。私達が探すのはタイプ・アース―――いや、アーキタイプ:アースだったか」
「え―――」
アーキタイプ:アース。その単語を聞くと、彼女の足が止まった。
どうかしたか? と一瞬考えたが、すぐに答えが出た。
あぁ、そうだった。そういえば、彼女はあの異聞帯で―――その異聞帯における『アーキタイプ:アース』と出会っているんだったな。
確か、ジュラシック月姫なんて言われてもいたか。まぁ、あの異聞帯には志貴やアルクェイドまんまな存在が居たからな。そう言われるのも仕方がない。
「淑女(笑)の方が良いんだがな…あっちの方が接しやすい。人間社会で暮らしていたらの人格だから、恐らくORTともやりやすい…筈………」
「自信無くなってるじゃん…」
「だってなぁ…親しくない女性が居ると直ぐに不機嫌になるからなぁ、ORTは……未だによく分からん」
「はー、罪な男ですねー、無銘さんは。乙女心を知らないの?」
「女の夫は居る上に恋人も居るし、同属嫌悪の仲間も居る君には言われたくないぞ、英霊たらしの藤丸さん」
「うぐっ……カウンターが強い…」
「……運命力とは、何ら関係無い」
「え?」
荒れた大地を踏み締め、大きな一步で坂を上がりながら、断言する。
君のそれは―――決して、運命がどうだの世界がこうだのしている様な、定められた結果からくるモノではない、と。
「藤丸立香は、そういう人間なんだ。だった、ではなく。最初から、そうなんだ。君が英霊達と仲良くしている現状は、決して君が人理の旅をして変わったからじゃない」
「……」
「君は変わっていない。他人とズレた訳でもない。君は君だ、藤丸立香は一人の『英雄』ではなく、一人の『少女』だ。世界を救っても、それは変わらない。だが、憚れる事もあるかもしれない。周りから、変わったなんて事を言われるかもしれない。もし、そんな事が起きたら―――」
「…起きたら?」
「此処に―――三咲町に来れば良い」
「―――へ?」
「マシュを連れて来ても良い。カドックを連れて来ても良い。カルデアの職員を連れて来ても良い。とにかく、何かがあれば三咲町に来れば良い。あのORTですら受け入れた町だ。一人の少女くらい、直ぐに受け入れるさ」
大人になった訳ではない。成長などもしていない。
藤丸立香は、まだ子供だ。そして彼女の精神は成長したのではなく、悪化したという表現の方が正しい。
まだ未熟な精神に、大人でも経験しない様な苦痛を掛け続けて今に至ったのだから、それは決して成長とは言えない。
例え成長したと言えても、プラス方面への成長ではなくマイナス方面への成長だ。良いものじゃない。
悲しいものだな……子供を導く筈の大人が、子供に世界の命運なんて重苦しいものを丸投げする事しか出来ないなんて。
「…ありがとう、無銘さん」
「感謝される様な事じゃないさ…」
私は大人だが、このザマだ。
英霊にでもなれなければ、共に過ごしてきた家族の一人すら救えない惨めな大人だ。
選択を誤り、こんな惨状を生み出してしまった。私が選択を誤らなければ、こんな事にはならなかった筈だ。
彼女達も、再びORTと戦う事にはならなかった筈なんだ…この特異点における全ては、私が招いてしまった過ちだ。
私には責任がある。だからこそ―――出来る限り、彼女を巻き込まない様にしなければ。
その為にも、まずは仲間を増やさねば。
「よし。着いたぞ―――此処が、目的地だ」
木々を通り抜け、私達はようやっと綺麗な大地を踏み締める。
白く美しい花々が咲き誇る花園。ORTの侵食を一切として受けていない、幻想的な景色を保った一つの世界。
そして―――その中心に、一人の少女が立っていた。
白いドレスに身を包んだ金髪の少女。この地球におけるアルテミット・ワンにしてタイプ・ムーンの後釜を象った存在。
真祖の姫君。現代を生きた箱庭育ちのお嬢様。
「あ、やっと来た! 私を待たせるとか、良い度胸してるわねー、貴方」
「大変申し訳無い。色々とごたついてしまったものでね。なので、菓子や紅茶を自宅に用意してあるよ」
「準備が良い! そういう所もあの子が貴方を好いてる理由なのね。あーあ、あの人にも見習ってほしいなー」
「まぁ、良いや。取り敢えず、お久しぶりね、『IF』の何でも屋さん!」
「あぁ、そうだな。初めまして―――“アルクェイド”」
星の触覚、そのお姫様。月の王様のバックアップ、その最高傑作。
アルクェイド・ブリュンスタッド。
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「何この紅茶…すごい美味しいんですけど。これ、本当に市販されてるものなの?」
「市販の品だよ。午後の紅茶…全く、素晴らしいものを作ったものだよ、日本は」
ティーカップに注いだ午後の紅茶を舌で嗜みながら、私は改めて感動していた。
午後の紅茶。何と素晴らしい味わいだろうか。平民である私は、この紅茶以上に美味い紅茶を飲んだ事がない。
マリアージュ・フレールやロンネフェルトの様な高級品を買える程のお金を持っていなかった私にとって、午後の紅茶ほど嗜める紅茶は無かったのだ。
「クッキーも美味しいよ、無銘さん」
「ありがとう。だが、私は菓子作りに関しては素人だからな。知識と技量で何とかしただけのものだから、大した味わいは出せていないんだよ。それこそ、エミヤやブーティカが作ったものの方が美味い」
「カルデアってすご…私も行きたーい!」
「終わったら、きっと喚ばれるさ……さて」
ティーカップを机に置き、緩んだ気を張り直す。
茶会は勿論良いのだが、私達にはやるべき事がある。いや―――私には、やらなければならない事がある。
「これからの事だが、私達はマシュ達との合流を目的に、魔女の家を目指す」
「魔女の家…確か、蒼崎青子が住んでいた家の事よね? 最後の魔女が居たっていう」
「あぁ。情報阻害も無く、校舎以外でORTの被害を受けていない場所があるとすれば其処以外は有り得ない。もしかすれば、蒼崎が生きている可能性もある」
蒼崎の魔法であれば、ORTの太陽風を先送りにする事も可能の筈だ。
とは言え、蒼崎はORTから恨みを買っているからな…。
可能性があるとは言ったものの、正直、彼女が生きている可能性はかなり低いだろう。
「彼処なら安全だろうし、最初に目指すなら、まずは其処からだ。とはいえ、途中から敵が現れる可能性もゼロじゃないからな。ORTの侵食を受けた敵なら、私達も攻撃を受ければ危険だ。警戒して挑まなければならない」
「侵食固有結界の効力…厄介なものね。それじゃあ、『空想具現化』も碌に使えないじゃない」
「あぁ。最悪、『千年城』まで侵食が行き届く可能性もあるからな」
「面倒ー…貴方、とんでもない能力を与えたわね」
「そこを突かれると、ぐうの音も出ないな…だが、その通りだ。だからこそ、私が片を付けなければならない」
今度こそ、選択を間違わない様に。
無銘(市民)
初めて午後の紅茶を飲んだ時、衝撃を受けた一般人。
高い紅茶は飲んだ事がないが、もし彼が高級品の紅茶を飲んだ場合は気絶する。
アルクェイド・ブリュンスタッド(お姫様)
初めて飲んだ午後の紅茶に衝撃を受けた月のお姫様。驚愕する程に美味しいという訳ではないが、市販の紅茶にしては美味過ぎるとは思っている。
もしまた茶会を開く時は、高い茶葉を持ってこようと思ってる。