「では【一投ダーツ】の説明から始めましょう。ちなみに実況慣れもダーツ慣れもしてませんのでご容赦下さい」
そう軽薄そうに言って観客席から絹守は立ち上がって、ステージ上まで移動を開始。
「それでは私では無く、このダーツ台にご注目下さい」
プレイヤーである烏丸と末安の前へそれぞれ置かれているのは、円盤だけが綺麗にくり抜かれた二つの奇妙なダーツ台。
彼等とダーツ台の距離を数値化して見せると、約1,5m程。
ちなみにだが右ダーツ台が烏丸専用、左ダーツ台が末安専用で用意しているものとする。
「これからあなた方は特殊ガラスで出来た、特製ダーツ盤で試合を行って貰います」
すると二人のすぐ傍へそれぞれ、白色の小型テーブルがこれまた下からせり上がって来る。
そしてそのテーブルに用意されているのは、透明なケースに入った沢山のダーツの矢であった。
「これは【群衆(モブ)ダーツの矢】。十本セットです。妙な名前が付いていますが、通常時に使用するダーツの矢とは何ら変わりません。……さらに言えばあのガラス盤も、得点の度合い、得点の位置など、通常のダーツ盤とは何も変わらないです」
しかしそれを聞いた美作は、頭に浮かんだあまりに素朴過ぎる疑問を絹守へ呈する。
「つまりダーツ盤がガラス製で出来ている事以外、特に普通のダーツとは変わらないって事で良いんですかね……? あ、あれ……間違ってます?」
殺し合いのダーツ等、さぞかし恐ろしいゲームが出て来るのだろうと不安気だった彼女。
しかし実際に現れたのは、ダーツ盤の材質が異なるだけの殺しにもデスにもならない単純なゲーム。色んな意味で不安気が襲うのも納得だ。
「いえ、大丈夫ですよ。大体合ってますから」
しかしその「大丈夫」に反して烏丸末安コンビは決して、油断する様な真似はしない。
「ただ……ちょっとした仕掛けがありましてね。実際にガラス盤が置かれているのは、円盤を均等な二十等分に切り分けた一枚のパネルのみとなっております」
要するにピザの一切れみたいに一部分だけが、ダーツ盤として置かれていると考えれば分かりやすいだろう。
「そんな訳で、この一枚に上手くダーツの矢を当てる事で得点が入ります。常に百発百中のあなた方ならば、簡単な勝負でしょう? さらにこのゲームに関して言えば、ダーツの知識さえ要りません。美作さんの様な初心者も安心して見れます」
すると今までずっとルール説明を律儀に聞いていた末安は、ようやく口を開く。
「はあ……説明足りてないけど、大丈夫? いや、もう……肝心のガラス盤が、オレ達から見えてないじゃん」
ガラスは透明だとしても反射性が高い為、人の眼から認知する事は可能だ。
だが絹守が言う円盤には、ガラス特有の反射性はどこにも見られなかった。
「ええ、ですのでこの盤は反射の関係等を駆使して人の眼では絶対に分からない様に設計されてます。さらに、ちょっとした特殊ルールも搭載されていまして……」
すると何の脈略も無く絹守は思い立った様に、ダーツ台の前まで動き出す。
「このガラス盤が“割れた”場合、その得点は無効になります。例えば地震で倒れた場合、乱入者が壊した場合等々、如何様なアクシデントであっても例外は受け付けておりません」
そう言うだけ言うと、付近のガラス盤をいつの間にか持っていたトンカチで叩き割ってしまう。
「ちなみに、皆様がお持ちいただいている【群衆(モブ)ダーツの矢】も刺さってしまうと、確実に盤は割れます。そしてパネルは一枚のみですので、割れた時点でゲームは続行不可、その時点で終了とさせて頂きます。ですので……軽はずみに、その矢は投げない方が宜しいかと」
「……じゃ、じゃあ……誰も勝てないじゃないですか!?」
観客が誰一人いないせいで、美作の透き通った美声が綺麗に会場へ響く。
「あ、すみません……」
「良いんですよ。驚かない彼等が異常なだけですから」
「へっ、よく言うよ。こっちは真剣に聞いてやってるって言うのに」
烏丸は退屈そうに煙草に火を点けて、絹守への当てつけの様にわざと吹かし始める。
「では説明を続けましょう。……と言う訳で、必要不可欠なのが【主役(ヒーロー)ダーツの矢】です」
彼の言葉に合わせて、再度せり上がるのは白ミニテーブルに乗る一本のダーツの矢。
しかし今回のダーツは先端に吸盤が付いているという、明らかにふざけたものだ。
さらに出現したのも、二つのダーツ台の合間と言う妙ちくりんな位置と来た。
「吸盤があればガラスも割れる事は無いでしょう? この一本を二人のどちらかが手に入れて一投する事で……初めて得点になります」
と言う事で、このゲームの名前は【一投ダーツ】。
一度投げるだけだと言うのに、面倒な手順を踏まされる変則的なこのダーツルール。
しかし二人は、このゲームの全てを理解したつもりでしたり顔を披露する。
「ったく、もうダーツでやる理由無えじゃねーか」
「……まあ、及第点かな。胴元君」
無論、美作だけは相変わらずのきょとん顔のまま。すると、説明役と言う役割を終えた絹守が関係者席に戻ってくる。
「な、何が何やら……覚えきれなくて……」
「ああ、安心して下さい。美作さんの為に、ルール表をまとめておきました。他にも分からなかったら、直ぐに言ってくださいね」
「あ、ありがとうございます……!」
そんな訳で彼から、一投ダーツのルールを事細かにまとめた用紙が渡される。
「それでは……早速、ゲームを始めましょうか。烏丸さん、末安さん」
こうして、一見デスゲームとは到底思えない一投ダーツが開始される。
「あー……やっぱり、こうなっちまうか」
「はは……。何だ、オレの勝ちじゃないか」
だがプレイヤーの二人が向けた矢の先は、ガラスの的でも主役ダーツでも群衆ダーツでも無い。
二人が向けた矢の先、それは――お互いの心臓(マト)であった。
一投ダーツルール説明表。
・最初にプレイヤー(烏丸と末安)には、十本の「群衆(モブ)ダーツの矢」が配布される。
・群衆ダーツの矢は、通常時に使用するダーツの矢とは何ら変わりないものとする。
・プレイヤーは透明な特殊ガラスで出来た、特製ダーツ盤で対戦を行って貰う。
・ダーツ盤は透明なものの、盤自体の点数の場所は同じ。
・ただし実際に盤が置かれているのは、それを均等な二十等分に切った一枚のパネルのみ。それ以外は全て取り外されている、つまり何も無い。要はピザの一切れみたいに、一部の盤だけが置かれていると想像すれば分かりやすい。
・その一枚にダーツの矢を当てれば勝利となる。
・しかしこのガラス盤は、光にほぼ反射しない特殊ガラス。故に、人の眼では絶対に分からない仕組みになっている。
・さらに特殊なルールとして、この盤を割った場合その点数は無効になる事。と言うのも、このガラスのダーツ台はかなり脆い。
・どのくらい脆いかと言うと、ガラス盤に「群衆ダーツの矢」を刺すと直ぐに割れてしまう程だ。
・つまり「群衆ダーツの矢」では得点は取れないと言う事になる。所詮モブ。
・よって必要不可欠なのが「主役(ヒーロー)ダーツの矢」と呼ばれるもの。烏丸と末安から丁度、同じ距離で良い感じに一本だけ置かれている。
・ちなみに主役ダーツの矢は先端に吸盤が付いている。
・この「主役(ヒーロー)ダーツの矢」をどちらかのプレイヤーが手に入れた後、ボードが割れない様に一投する事で初めて得点になる。
・以上。
見落としとか矛盾点とかございましたら、見なかった事にして頂けると幸いです。