烏丸と末安の二人はまるで、ガンマンの様に構え合う。
しかしその手に握られていたのはピストルでは無く、一本のダーツの矢。
だが烏丸達の手にかかればそんな頼りない矢でも、必ず心臓へ打ち込まれる一撃必殺の殺人兵器と化す。
故に彼等が出す吐息すら小刻みに震えて見える程、場の空気感は緊迫で埋まっていく。
いきなり通常のダーツの試合では見られない様な光景に、美作はひたすらそのヒリついた空気を呑むしか無い。
「あ、あれは……どう言うルールでこんな事になってるんでしょうか……?」
しかし絹守の方はそうでもないどころか、想定内と言った面持ちで涼やかそうに過ごす。
「美作さん。実は、私が説明した一投ダーツは全て前フリに過ぎません」
「そ、そうなんですか……? 私には何が何だか……」
「と言う事で、此処からが本題の説明になります。大丈夫ですよ、思ったより単純ですから。何せ、一投するだけって言うのは変わりありませんので」
この一投ダーツと言うゲーム。実は主役ダーツが一つしかない時点でビーチフラッグさながら、骨肉相食むが如く奪い合うほかない。
ではその主役の座を確実に掴み取るには、一体どうすれば良いのか。
答えはシンプル。傍に置かれた群衆ダーツで、相手を刺せばいい。
動きを封じる為に手足に刺しても良し、ダーツが出来ない様に目玉に刺しても良し、そして相手を殺したいが為に心臓に刺しても良し。
とにもかくにも相手を動けないほど傷付けさせれば、必要不可欠な主役ダーツを余裕で取ることが出来る。それどころか、どうにか再起不能にした時点で勝ちは確定だ。絹守の言う通り、なんて簡単なゲームなのだろう。
しかも幸い、それを咎める審判も実況も観客もルールも今日はお休みらしい。
ならばこのイカれにイカれた所業も迷うことなく、至極全う一直線へまかり通っていく。
まさにダーツの知識は不要。これは誰が何と言おうが、技術的にも物理的にも己のダーツの腕のみが試される真剣勝負の場だ。
「はあ……。だから、最後の晩餐は美味なグミにしとけば良かったのに。もう、遅いから。今更食べたいって言っても。でも、ちゃんとオレの思い通りに動いてくれたら……」
「あー……メンドくせえなぁああ」
雑談しながらも双方は対戦相手と言う名の心臓(マト)目掛けて、一糸乱れぬダーツ投擲フォームを見せつける。
一方は、武者震いしながら今までに無いくらいの興奮をその身を持って感じながら。
そしてもう一方は、相反する様に今までに無いくらいの呆れ顔を一瞬で形造りながら。
「まあ、見えないガラスの謎解きは殺した後にゆっくりすれば良い訳ですからね」
絹守は本題と言うよりかは、このゲームでの生き残るコツの様なものを美作へ伝授する。
「……これが、一投ダーツ」
そして興奮する方のプレイヤーは先程から、何故か既に勝った気で会話を進めていた。
「あー勝っちゃうな、このままだと。まあ、心臓ぶっ刺せるのは嬉しいけど。は、ははははははは」
「……なーんで、まだ何も始まってないのにそんなはしゃいじゃってるのかね。アンタとオレ、状況は変わんないだろ?」
「はあ……。えっと……説明めんどいけど、烏丸君の為に頑張るから。終わったら褒めて?」
テンションが最高潮が故気前がいいのか、ご丁寧にも敵である烏丸に対して末安は自分が勝ち誇る理由を垂れ流し始める。
「あーあー、褒めてやるからさっさと話せって」
「はは……。だってさ、オレは神谷様のお陰で痛みに耐性が出来てるんだから。心臓に八本かな、九本だっけ、矢が刺さってもオレの方は死なない。君はどうせ、一本刺さっただけで泣き喚く。だから……オレの勝ち。分かるかな?」
言葉だけ聞くと根拠が全く皆無な余裕、ハッタリレベルの酷い自信、どこからどう聴いても虚言の一単語で片づけてしまうだろう。
しかし見た目における包帯まみれの姿を見れは、それ等が恐らく嘘では無い事は容易に想像出来る。
さらに彼は続けて、自分の胸部をおもむろに雑ながら撫でまわす。まるで、此処を狙えと誘っている様に。
しかし烏丸は末安の高揚する感情と裏腹に、その表情はずっと呆れ倒したままで変わらない。
「……なんだ、ちょっと期待してやったらこの程度か。手腕でも無ければ、頭脳でも無い。ただの根性論じゃねぇか」
すると軽い煽りにすら弱いのか、末安はその言葉に対抗してさらに煽り返していく。
「だりい……。まじでだりいんだけど……。まあ……そんなつれない事言って、心理を誘導するのが烏丸君のやり口だからね。でもさあ、解釈違いなんだよなあ……はあ……しんど」
「……」
「言っとくけど、オレは迷路に迷わないから。何故かって? 死霊は迷路の壁をすり抜けるもんで。なあ……烏丸」
「……」
「はあ……がっかりだねえ。オレの根性論に君の腕も頭脳も負けちゃうなんて。はあああああああ……」
「……」
――びびびびびびびびびびびびびびび。
「な、何……? 何の音?」
烏丸は数々の軽口に対して、ゴミを見る様な眼で見送る。
最大限の狂気、と言うよりかは最大限の嘲笑をふんだんに使用した狂乱の表情で。
「……なら喋ってないで、さっさと打ったらどうだ?」