エンバンメイズROUND・EX   作:しじみ酢

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第一部最終回です。


ROUND05 南無阿弥陀仏~R.I.P.~

はあ、出口はどこだどこだ。ハあ、オレは迷路に迷った覚えなんて無いのに。はア、壁をすり抜けても、出口が見えないんじゃ意味なんて無いのに。ぐがああああああああ。

 

「あー……今そんな言葉、妄想してたでしょ。エッチだな、烏丸君は」

 

「……へえ、意外なこった。まだそんな余裕があるなんてな」

 

しかしどうちゃぶ台をひっくり返しても、このゲームの敗北を覆す事は不可能。本来ならば、末安は余裕ぶっている場合では無い。今すぐ裸足で逃げ出すか、即座に烏丸の靴を舐めるか、変に捻らず王道の土下座を見せるか、とにもかくにも小物ムーブを披露しなければならないはずだ。

 

だがそれでも彼は未だダーツの矢を握り続けたまま、殺意戦意悪意をお披露目する。

 

「オレの負けなんてどうでもいい。だってさ、オレの目的は……勝つ事じゃないから」

 

「……チッ、そう言う事かよ。あくまでも目的は……オレとの心中って訳か」

 

「そう……ああ、ここに来て解釈一致かあ。はははははは、それじゃあ分かると思うけど……今までのは全部前フリ、だったて事」

 

どこかで聞いた様な言葉を用いて、末安は眼に光彩を取り戻しながら話を続ける。

 

「めんどいけどさ烏丸君を試しちゃった、オレ。一緒に死ぬに値するか、どうか。はは……」

 

だから彼は痛みに耐性があるにも拘らず、直ぐに烏丸へダーツの矢を投げる様な真似はしなかった。

 

「それで……オレは合格したって訳か。ん-……嬉しくないね」

 

「そんな事言わないで。烏丸君は見事、主役になれたんだから。明日のニュースは君とオレの心中で一色だ」

 

と言う事情があったが故、末安自体は勝負に負けようが何だろうがどうでも良かった。

 

今、大事なのは本日の主役改め烏丸をこの舞台から降ろさない事。

 

その為、ダーツの矢は敗北を喫して直、彼の心臓へ楔を打つ様に喰らい続ける。

 

それどころか末安はもう気持ちを抑えられないのか、既に烏丸の元まで歩行を開始してしまう。

 

 

 

 

 

「はは……殺せ、殺せ、殺せ。じゃないと、オレは烏丸君の事を刺しちゃう。キミだけ死ぬより、一緒に死んだ方がすっきりするのに。……あと多分、残りの九本じゃ死なないからさ。オレの分のダーツ、使ってよ」

 

完全に良識をこの世から捨て去った、そんな死んだ魚の様な眼で彼は胸部をポンポンと叩いてみせる。

 

それでも口角は吊り上がった様に上がっているもんだから末安の不気味加減は倍増、まさに死霊としか言いようが無かった。

 

「勝負は終わったんですよね……? ならどうして……」

 

デスゲームと言うよりかはお遊び要素すら無い殺し合いの状況に勿論、美作はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。

 

「あー、めんどいから邪魔すんなよ。オレなら、お前等の心臓に矢ぶっ刺せるんだから」

 

しかしその言葉に絹守は笑みを浮かべながらも、ゴミを蔑む様な瞳を開いて対応する。

 

「大切なお客様に危害を加えると言うのは……ルール違反ですよ、末安さん」

 

「あっそ、だる」

 

そう観客席に居る絹守達を一言であしらって、彼は再び烏丸まで歩を進める。

 

そして二人の間に存在する緊迫感や嫌悪感、距離感などその全てを無視して彼の直ぐ前まで接近してしまう。

 

「……心臓、互いに差し出そっか。ほら、肩の力抜いて」

 

「ああ……オレ、人殺しになりたくねーんだけどなあ」

 

「ムードが足りないと……? 意外とそう言うの気にするタイプ?」

 

「なぁ……。人の話聞いてる?」

 

「そうだね、ならオレを殺したくなる情報を提供するから」

 

「オイ……」

 

もう烏丸が口を開く間すら与えない様に、続けて矢継ぎ早に話を一方的に続けていく。

 

「オレがもし、此処で生き残ったら……美作を刺す。心臓にダーツで一突きして刺す。ついでに目玉も刺す。舌も無理やり伸ばして刺す」

 

 

今まで躁状態だった末安は一瞬で、鬱に似た様な虚無に似た表情へコロコロ変える。

 

 

「……どうやら、アンタはオレが正義感溢れるヒーローに見えてるらしいな。オレがそんな脅しに乗るとでも?」

 

「はは……」

 

実は末安は今は亡き塚本に烏丸の情報を収集、さらに知識として記憶させており、彼が美作について何やら気になっている行動を起こしているのを聞いていたのだ。

 

実際、絹守も異変に気付いていたため美作について烏丸へ直接尋ねていた程だ。

 

「素直じゃないねえ。まあ、烏丸君がどんなにあの子を裏の世界から遠ざけても……オレが憑りつく。だから……此処で殺せ、殺せ、殺せ。安心しろって。一緒に死んでやるから」

 

彼は200%瞳孔がひん剥いた瞳で、美作の方向へ気味の悪い笑みを浮かべながら直視する。

 

 

 

「ふ、二人は何を話してるのでしょう……?」

 

「ええ、本編のダーツより二次会のお喋りの方が長い気がしますね。二人共」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッ。何言ってんだか。オレは……これ以上、被害を出したくないだけだ」

 

「……?」

 

「しらばっくれるなよ。面倒なだけだ。……教えてくれ。アンタが居た地域、いや“施設”について」

 

 

 

 

 

 

するとそれを聞いた末安は、ただでさえ絶望的な顔付きだったのにさらに廃人レベルにまで急激に落ちぶれてしまう。

 

「はあああああああああああああああ。聞きたい事あるなら、オレの事殺せないじゃん。解釈違うなあ……。あーあーあー、もう頭使うのやだ。殺そっと」

 

 

 

 

 

 

 

急に何かの糸がブチっと千切れたかの様に、彼は烏丸に対して急激に想いが冷め切ってしまう。

 

それを意味するかの如く手に持つ矢を冷血さと共に添えながら、力強くグーの形で握る様な持ち方に変える。

 

そして感情の赴くまま、烏丸の心臓へ一寸の戸惑いも無く一直線。

 

「はあ……」

 

そしてため息一つ交えた後、末安の矢が振りかぶるその瞬間――。

 

 

 

 

 

 

「本当、どこまでも残念だな。アンタは」

 

 

 

 

 

 

烏丸はゴミを蔑む様な瞳で見下しながら、真後ろに歩を下げる。

 

代わりに観客席の絹守が、歩を進めるどころかその場から立ち上がる。

 

「はあ……。心中誘いの邪魔すんな」

 

絹守が不審な動きを取ったのを視認したタイミングとほぼ同時に、末安の矢は既に彼の心臓目掛けてロックオンしていた。

 

「……わざわざ、オレの領域まで近づいてきてくれるなんて。キミも一緒に心中したくなったか」

 

そして彼が観客席から降りてステージ上まで訪れたその刹那、末安の矢は既に彼の心臓まで向かって飛んでいた。

 

「これは……ルール違反ですね、末安さん」

 

しかし涼やかな顔の彼は、矢を素手で強引にキャッチしたまま――末安の顔面へ飛び蹴りを繰り出す。

 

 

 

 

「あ……あ……あごっ、あごが……」

 

 

 

 

そして見事、絹守の足先は寸分の狂いも無く彼の下顎へクリティカルヒット。

 

その為、話す事すらろくにままならないレベルで彼の顔が物理的に大きく歪んでしまう。

 

・案その1。ダーツの矢を素手でキャッチする。

 

「な、なん、でっ……」

 

「私はただ、試合は既に終わったのにも関わらず、みっともなく駄々を捏ねる末安さんを……説得しようと思っただけなのですがね」

 

「……は、はア? なにをっ」

 

残念ながら、絹守にいつものにこやかな笑顔は上にも横にもひっくり返してもどこにも無い。

 

「試合中ならともかく試合終了後……ギャンブルの勝者が敗者に殺される等、胴元の立場として避けなければならない行為です。信用問題に関わりますから。この賭場で勝っても殺されるなんて呪われた噂、私は御免です」

 

「はア……ハあ……ハぁ……」

 

「そして末安さんはあろう事か、ルール違反を行ってしまった。なので即座に制裁しただけですよ」

 

有るのは末安がルール違反で再起不能にさせられて終わると言う、あまりに拍子抜けな現実だけ。

 

ダーツプレイヤーとしても失格、人間としても欠落、ギャンブラーとしても降格、あまりにみっともない事実だけ。

 

「あ……ァ……。こ、ろせ。オれ、ヲころせ……。ころせ、はあ……コろせ、ハあ……こロセ……!」

 

壊れかけのオモチャが如く、末安は似た様な言葉を何度も何度も何度も唱え続ける。

 

「言ったはずだ。殺すのは趣味じゃないって。……だから、アンタはずっと、生き恥晒してろ。誰にも敬える事無くな」

 

それは絶対に烏丸は殺さない事、そして自分は殺されない事を意味する悪魔の囁き。

 

「はああああああああああああああ。な、何で……労わっ、てくれ、ないん、だあ。敬、ってくれ、ないんだあ。はああああああああ。……何で、何で、何で、だ。さっきのは……ちょ、っと、いじわ、るしたくなった、だけで」

 

 

どんなに泣き媚びても、どんなに悔い改めても、どんなに叫び喘いでも、悪魔の瞳の色は何も変わらない。

 

しかし目を逸らす様に末安の目線に入るのは、未だ観客席でオドオドを続ける美作だ。

 

「“施設”なん、て……ハッタ、リ。あの、子、を矢で、殺せば……まだ」

 

この期に及んでさらに重ねられるルール違反だが、その行動に絹守は何も動かない。

 

「……オイ、止めとけ」

 

代わりに美作の盾の様に立ち塞がるのは、珍しく真剣な表情を形成する烏丸であった。

 

「や……っぱり、あの子には、優しく……するよねえ」

 

 

「違えよ。ただ……あの子を、行き止まりには向かわせたくねーんだ。もう、あんなのは御免だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、たしかに……もう、歌姫(セイレーン)みたいな、悲劇は……御免だよねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると突如、黒のガスマスクを顔に付けた連中が虚無だったはずのこの会場へ押しかける。

 

しかも今度は一人一人がダーツの矢どころでは無い強力な武器、機関銃を装備している。

 

「これは……末安さんが呼んだのですか?」

 

「オ、レは……末。安、正輝(すえや、すま。さ……き)、。通り、名……は。死、霊(レギオ、ン)。神、谷様。のかか。りつ・け。闇医。何……故、死、、、霊(レギオ・ン)と、呼……ば。。。れ・てい、るか。……と言うと……」

 

しかし彼は心が折れてしまったのか、現実逃避が如く脈絡もなく自己紹介を始める。

 

「無駄口を叩いて濁すな。答えろ」

 

「何で……オ、レは君と、心中を考え、た? ダーツの、腕が、いいから? 憎き、神谷様を、倒したから?」

 

「答えろ。末安」

 

「オレは……闇、医者。死¥体【あれ】と……手を「」取り。^合^いた*いから、闇●医者に!なっ>たんだ。“施設”の医者にも!なった。……は、はははは???はは。まだ、分かんないのか?」

 

「……」

 

「オレ、死霊?の声が……聞こえるんだ。烏丸君も、敬えば、聞こえた、かもな。死んだ親友の声も」

 

もはや原型の無い下顎を必死に動かしながら、末安は必死に笑いを堪える。

 

続けて彼が勢いよく右手を真上に掲げると、ガスマスクの全員が機関銃を四人に向けて構える。

 

「……流石にこれは、末安さんに従う他ありませんね」

 

「……」

 

美作は身体の髄から怯えていた。

 

末安と言う男から放たれる、この世の闇の深さに。

 

そして彼だけでは無い、このダーツの矢だけで生死が決まるイカれた裏の世界に。

 

「安心しろ。絶対、見つけてやるから。此処からの出口を。だから……オレが案内してやるよ」

 

「ええ……。私どもが全員、地獄へガイドを務めてあげましょう」

 

されど烏丸や絹守は機関銃の銃口が辺りに埋め尽くされても、決して諦める事は無い。

 

「烏丸さん、絹守さん……」

 

そして、今までずっと観客の一人に過ぎなかった美作も遂に決意する。

 

自分も二人と同じステージに立つと言う決意を――。

 

「わ、私も……一緒に

 

 

 

 

だが僅かながら希望が差した空気を、末安が目一杯ぶち壊していく。

 

 

 

 

「いや、迷路の出口なんて……探さなくてもいい。此処でお陀仏だ」

 

 

 

 

――これでようやく、オレ達心中出来る。

 

 

 

 

 

このステージの最後に響いたのは、歓声でもため息でも無く、大量の銃撃音であった。

 

 

 

 

第一部死霊編。完。




とんでもなく打ち切り感満載ですけど、第二部を予定してます。次回から再誕(リバイバル)編になります。ただ書く時期は未定です。
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