地球「駆逐してやる」   作:スカウトマニア

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ジオンの人々が可哀そうになるお話です。


こうして地球は決意した

 これは、地球で生まれ育った人類が宇宙へと旅立ち、月、火星、木星とより遠くの星々の開発を始め、さらにはスペースコロニーという人工の大地を宇宙空間に建造し、生活出来るようになった時代のお話だ。

 数十億年を数える地球の歴史の中で、遂に母星から巣立つ段階にまで到達した地球人類の成長を、『地球』はウチの子達もとうとうそこまで育ったか、と感慨深く喜んだものである。

 

 地球にとって人類の騒ぐ環境の変化などは、大した問題ではない。

 気候変動を始めとした諸々の変化は、地球の表皮の上で生きる者達にとって一大事であっても、地球という巨大な生命体からすれば、お肌がほんの少し荒れたかな? という程度の変化だからだ。

 

 だからこそ地球人類を統率する地球連邦政府が、宇宙への移民事業を形骸化させ、地球に住むアースノイドと宇宙に住むスペースノイドの確執が深まろうと、地球は気にしていなかった。

 どちらにせよ、地球(自分)から生まれた生命同士の縄張り争いめいたものであり、例えば他天体から飛来した別種に脅かされているというわけでもないのだから。

 

 だから、地球連邦政府から独立を謳うジオン公国がスペースコロニーを落とし、落下地点であるオーストラリア大陸の一角が消失し、地軸が傾くほどの衝撃が襲ってきた時、地球は大いに動揺した。

 それは地球が久方ぶりに受けた痛みであり、理不尽な暴力であった。宇宙と地上に分かれた人類同士の縄張り争いを傍観者気取りで眺めていたら、いきなりぶん殴られたようなものだ。そりゃあ、地球だって驚くというものである。

 

「は?」

 

 もし地球が人間の言葉を話せたなら、殴られた頬を思わずさすりながら、放心した表情でそう言っていただろう。

 そして随分と長い間、暴力に触れていなかった地球の思考は一気に沸騰した。ジオンの手が逆鱗に触れたと言い換えてもいい。

 

「ふー。……よし、駆逐だ」

 

 久方ぶりの『敵』を相手に、地球が過敏な反応を示してしまったのが、ジオン公国の人々にとって最大の不幸であったろう。この瞬間から、ジオン公国の人々は、『地球』にとってジオン星人──敵対的な宇宙生物として認識されてしまったのだから。

 さて地球が怒り、殺意を固めたからといって、ではどうやってジオン公国にひと泡を噴かせるのか?

 

 この時、既に地球上にはジオン軍が降下し、オデッサやキリマンジャロ、ニューヤークにカリフォルニア、ハワイといった重要拠点がジオンの手に落ち、ミノフスキー粒子と人型機動兵器モビルスーツの威力をいかんなく発揮している。

 地上に降りたジオンを殺す為に地震、噴火、津波、スーパーセルといった事象を起こしても良いのだが、そうすると殺すつもりのない非ジオン人や人類以外の生命体にまで被害が及び、地球のお肌の荒れを更に気にしないといけなくなる。

 

 地球はジオン星人を殺したいのであって、そうではない連邦市民や他の生き物達までも巻き添えにしたいわけではない。

 スペースノイドの解放を謳いながら、味方でないならとスペースノイドを十億単位で殺害し、スペースノイドにとって母なる大地であるコロニーを落とすようなジオン星人とは違って、地球には分別があるのだ。

 

 ジオン星人とそうでない生き物を区別して駆除するとなると、実に細々とした方法を考えなければならないが、この時、地球にはその方法があった。

 地球は惑星という非常に巨大な生命体だが、同規模かそれ以上の生命体はこの広い宇宙にいくらでもいる。惑星や太陽を捕食する生命体も、探せばいくらでもいるだろう。

 

 そんな、いつかやってくるかもしれない宇宙からの脅威に備えて、地球は自らの体内、地下に広がる大空洞の中に防衛機構となる巨大生物をコツコツと育成していた。

 自ら産み育んだ生命を敵対視しなければならない皮肉な状況ではあるが、まさに怪我の功名。地球は、後に人類から“怪獣”と呼称される巨大生物達を地下世界から地上へと向かわせ、そして一斉に地球上のジオン軍へ攻撃を仕掛けさせたのだ。

 

 その日、地球各地を占領していたジオン公国の軍人達はこの世の終わりが来たのだと思った。

 黙示録の時、あるいは世界中の神話で語られる世界終焉の日、世界の最後に人類が裁かれる時なのだと。それほどまでに絶望的な光景が各地のジオン基地で広がっていた。

 アフリカ大陸にある鉱山を改築した基地では、出撃した戦車マゼラアタックやJ型のザクⅡ、グフ、戦闘機ドップを始めとした部隊が、受け入れがたい現実を前にしなければならなかった。

 

 ソレはアフリカ大陸の荒塵吹きすさぶ荒野の向こうからやってきた。一歩ごとに大地を震わせ、大気をどよもし、人類の夢想してきた荒唐無稽な想像の産物が、前触れもなく現実になったようなものだった。

 全高50メートルを超える巨体は、金属の質感と光沢を持った分厚い木の根の絡み合っているかのよう。長く伸び、ゆらゆらと揺れる太い尾は、一振りで小さな山など簡単に薙ぎ払えるだろう。

 

 二足歩行の極めて巨大な恐竜を思わせるソレの顔には凶暴さよりも、若々しい哲学者を思わせる知性があり、その瞳には、明確に鉱山基地を目指す意思が宿っている。

 怪獣という名称と同じく、後に地球人類が名付ける怪獣王ゴジラ──の一種、ゴジラ・フィリウスである。

 

 ジオン側からすればゴジラ・フィリウスの意図も目的も、行動原理も生態も、何もかもが意味不明な状況ではあったが、数世紀にわたって制作され続けてきたモンスター映画よろしく、基地の司令官は最悪の事態に備えて、地球連邦軍が襲いくるかの如く、防衛体制を整えていた。

 まったくわけのわからない状況であったが、偵察隊の捉えたゴジラ・フィリウスの威容は見るだけで彼らの本能に、恐怖の一文字を叩きつけるのに十分すぎた。それはゴジラ・フィリウスに宿る地球の怒りもまた、感じ取っていたからだ。

 

 攻撃するべきか、せざるべきか、基地の司令も現場の司令官もかつてない悩みに襲われている中、初手を取ったのはゴジラ・フィリウスだった。

 彼の背中に伸びる立派な背ビレがバチバチと音を立てて光を発し始める。降り注ぐ太陽の光の中でもはっきりと見える輝きに、ゴジラ・フィリウスと対峙していたジオン軍人達は一斉にこの場から逃げ出したい恐怖に駆られる。

 どんなボンクラでも、アレを前にして恐怖を感じずにいられるわけがない! 問題なのは人間レベルで優秀だろうとボンクラだろうと、ここまで来てしまっては逃れようがないことだった。

 

 そしてゴジラ・フィリウスの口から遮光装置も間に合わないくらい強烈な光と共に熱線が発射されて、展開していた部隊を薙ぎ払ってその尽くを消滅させた。

 熱線は大地を融解させ、MSもマゼラアタックもキュイも、もちろん人体も跡形もなく消滅させて、それでもゴジラ・フィリウスの進撃は止まらない。

 この一帯に出現した彼の目標は、鉱山基地の完全破壊並びに基地に居るジオン星人の抹殺なのだから。

 

 そしてゴジラ・フィリウスの襲撃を受けていたのは、この鉱山基地ばかりではなかった。

 北米大陸でも、ハワイでも、ユーラシア大陸でも複数のゴジラ・フィリウスが出現して、地球の命ずるままにジオンの基地をその規模の大小を問わずに襲っていたのだから。

 控えめに言って地獄である。

 ジオン地上軍が大混乱したのは言うまでもない。そして唐突に出現した未知の怪獣群に混乱したのは、地球連邦政府並びに連邦軍も同じであった。

 アースノイドにとっても、まったくの未知の存在である怪獣の進撃は、自分達には一切の被害が生じないという不可思議さもあって、不気味な印象と畏怖、そして畏敬を地球に生まれ育った彼らに植え付けていた。

 

 そして、ジオン地上軍に所属する人々が急速にその生命を散らし始めてから数日、地球はある問題を解決する為に、地球連邦軍へコンタクトを取ることに決めた。

 その為に最強の戦力とこの時の為に用意した特別な個体達を、地球連邦軍総司令部ジャブローへと派遣した。

 

 ジオンが血道を上げてその所在を探るジャブローはあまりに広大で、厳重に秘匿された出入口は複数あるのだが、地球の派遣したエージェント達はレーダーや熱源探知の全てを掻い潜り、メインゲートを目指してアマゾン川から姿を見せた。

 ジャブローの司令部を襲った精神的衝撃は、まさに青天の霹靂、驚天動地、コロニーが直撃コースで落ちてきたようなものだった。

 

 61式戦車からファンファン、フライマンタ、ドン・エスカルゴ、セイバーフィッシュ、更には量産中のMSジムまで、ありとあらゆる兵器を出撃させるべく、混乱のあまりもつれまくった指示が飛ばされる。

 ジオンの特殊部隊が潜入したとしても、ジャブロー司令部はここまでひどい混乱に襲われはしなかったろう。

 

 外部カメラが捉えたゴジラは世界各地に出現した個体の六倍以上、三百メートルに達する巨体を誇り、ゴジラ・フィリウスと同じ、しかし比較にならない量の核エネルギーが渦巻いている。

 更にその肉体内部ではジャパニウムを超合金Zへと精製する過程で得られる光子力エネルギーが常に生み出され続け、金属繊維めいた表皮は地球上のあらゆる鉱物の性質を備えており、そこにはゴジラ自身が体内で精製する超合金Zまでも含まれている。

 

 あらゆるゴジラ・フィリウスの原典にして頂点。

 最強・最大のゴジラ、星の名を冠するゴジラ・アース。

 現在、地球の保有する最高戦力であり、正真正銘、最凶のジョーカーが、ジャブローへと迫っていた。

 今、地球各地で暴れているゴジラ・フィリウス全個体よりもなお強いゴジラ・アースを前に、モニター越しでさえ地球連邦軍の将兵は、階級、経験、気質を問わず、放心していた。

 もしもあれが敵であるのならば、地球に生まれた命ではどうあっても勝てないと、あれは、抗うという感情すら湧かない圧倒的脅威だと、魂から理解させられたのだから。

 

 連邦軍人達にとって幸いだったのは、ゴジラ・アースは地球の意思を受けて、ジオン星人の抹殺に活動はしても、地球人に危害を加える理由が一切なく、ジャブローを攻撃する意図は欠片もない点だった。

 加えてこの世界のゴジラ・アースは、地球のジオン星人以外の地球生命に極力危害を加えないという方針により、放射能汚染を一切発生させないクリーン仕様である。アマゾン川も南米の密林も、そこに生きる命達も、放射能を恐れる必要はない安心仕様だ。

 

 そして幸いだったのはもう一点。今回、ジャブローを訪問したのは、地球の意思との仲介役である端末が派遣されており、ゴジラ・アースはその護衛という脇役という事実。

 ゴジラ・アースの森の老賢人、老いた哲学者を思わせる顔のその鼻先に、いわば地球の巫女、あるいは生体端末である彼女は浮いていた。

 

 闇のような紫、闇のような赤色をした肌は一筋の傷を付ける事さえあまりに罪深い輝きを持ち、その(かんばせ)はあらゆる人種の美点全てを集め、一切の矛盾なく完成させた造形の極致。

 本物の黄金さえ及ばぬ金色の長髪は半ばほどから光り輝き、一切の感情の光を宿していない瞳には、人間的な情動は存在せず、虹色に輝きながらジャブローに存在する全ての人間を同時に認識し、観測している。

 

「地球人類へ告げる。私は地球の代弁者。君達が怪獣と呼ぶ生命を率いる者。地球()は君達に協力を求める。

 全ては忌まわしきジオン星人を、オリュンポスの神々の遺産を、インベーダーを駆逐する為に。私には君達の協力が必要だ」

 

 巫女がジャブローの全人類に一種のテレパシーを用いて語り掛ける姿を、上空で旋回していたバトラ・アースとその眷属バトラ・フィリウスの編隊が見守っていたが、ジャブローの人々がそれに気付いていなかったのは、不幸中の幸いに次ぐ幸いであったろう。

 地球から最も遠いラグランジュポイントに建造されたサイド3、ジオン公国の本拠地である人工の世界を破壊し、ジオン星人を抹殺する為に。

 ゲッター線に寄生して進化・増殖する飢えた破壊魔インベーダーを、古代の地球に飛来して前線基地としていた侵略者オリュンポスの神々の遺産を悪用するDr.ヘルを抹殺する為に。

 地球は地球連邦軍と協力するのが最も効率的だと判断したのだった。

 

 ジオンの人々を含め、侵略者達が地球連邦軍とスーパーロボット軍団と連携したゴジラ、バトラに襲われるまで、後、×××日。




『地球』の保有戦力
ゴジラ・アース   一体
ゴジラ・フィリウス 複数
バトラ・アース   一体
バトラ・フィリウス 複数

フィリウスは増産中。



地球産の存在とかロボットとなるとエルドランと破壊獣くらいしか思いつかないのですが、他になにかロボットとか巨大生物って、なにかいますでしょうか?

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