とにかく登録してくれてあざます!
今回の話では例の奴等が登場しますよ~。物語の構成上、後半彼等のアンチ要素が含まれてるから注意して見て下さいな。
◇
「おい何だあのS2000、コーナーがめちゃくちゃ速いぞ!」
「スピードスターズのハチロクを簡単に抜きやがった…」
「ばーか、あれはハチゴーだっつーの」
秋名山に集うギャラリーは平日であるにも関わらずその数は多い。秋名での楽しみ方は人それぞれで走りを観に来る者、夜景を観る者、ギャラリー仲間と談笑する者と多岐に渡る。スピードスターズはレベルこそアレだが秋名では割と知名度の高いチームであり、中でも樹のハチゴーは目にする機会が多いが故にギャラリー達からも有名だ。
そのハチゴーを上りとはいえあっさりと料理した謎のS2000にギャラリーは興味津々であった。
「そう言えば最近秋名山にちょくちょく現れる走り屋が居るよな」
「あー、赤い86レビンと黄色いFDだろ?今日も来てたよな」
「そいつなら俺も知ってるぞ。しかもドライバーは2人とも女の子なんだぜ」
「マジで!?今からナンパして来よう」ウキウキ
「やめとけよ、俺達じゃシカトされて終わりだよ…」
次の話題に上がったのは近頃秋名山に出没する走り屋について。乗り手が女性だと知りテンションMAXでナンパしようとする者を理性あるもう1人のギャラリー仲間が止める。例え冗談だったとしてもおそらく彼女達は走る事を目的としている為、安易な考えは控えた方が良いだろう。
「それに走ってるとこ見た事あるが2台ともまぁまぁ速いぞ。俺らギャラリー風情がどうこう出来る相手じゃないって」
ギャラリーという存在は全てがそうではないにしろ、残念ながら腕自体はからっきしの者がほとんど。その代わりに情報の収集能力は高く、走り屋関連に関するビッグニュースは主に彼等から発信されていると言っても過言ではない。たった今ハチゴーターボを軽く蹴散らしたアリスのS2000も一晩過ぎれば秋名の走り屋界隈での注目の的になる事間違いない。
走り屋にとってギャラリーとは自分達の気分を盛り上げてくれる単なるガヤ要員という訳ではない。時に重要な情報を提供してくれる情報屋でもあるのだ。
こうして走り屋とギャラリーの関係は成り立っているのである。
◇
??「…アリスの奴遅くないか?」
??「今山登ってる所って連絡が来たわ」
秋名山の頂上にはアリスの友人と思われる2人の少女が道路脇にそれぞれの愛車を停めて彼女の到着を待っていた。
ハイフラッシュツートンの86レビンのボンネットに腰掛けて某チュッパチャプスを咥えてスマホをいじる頭に赤く大きなリボンを付けた少女は、赤いパーカーにデニムのスカート、ニーハイソックスにサンダルという何ともあべこべな格好になっている。片や黄色いFDの前でガードレールを背にしゃがむ金髪少女は黒のTシャツにスラックスにスニーカーというシンプルなコーデだ。
??「…なぁ霊夢、アリスの奴どんな車で来ると思う?私はやっぱり4WDのハイパワー車だと思うぜ」
??「…アリスはアンタみたいなパワー至上主義者じゃないわよ。それにドリフトが好きなアイツが4駆に乗ると思う?私の予想ではS13かFCだと思ってるわ」
??「それもそうだな。…もしFCに乗って来たなら私とロータリーコンビの結成だな」ニカッ
??「…じゃあ私はどうなるのよ」
金髪少女…霧雨魔理沙がニカッと白い歯を見せて笑っておどけてみせれば、対照的にリボンの少女…博麗霊夢は落ち着いた様子で小ボケに対してやや冷ややかに突っ込む。
2人はアリスの友人であり学校ではクラスも一緒。また2人共アリスの影響で走り屋の世界に興味を持ち、アリスの指導により腕を磨いた者同士でもある。まだまともな対外試合は
当然その中にアリスも含まれる…かと思いきや、実を言うと彼女はこの秋名ではまだ無名の存在である。何故かというと、実はマーガトロイド親子はアリスが中学を卒業するまでは神奈川に住んでいた。群馬に越してきた後に秋名は何度も走っているが、神綺のコスモスポーツを借りて人っ子1人居ない時間帯を選んで走っていた為、現在に至るまで誰からも認知されてこなかったのだ。
…遠くからエキゾースト音がこちらに近付いてくる。その音にイチ早く気が付いた霊夢は持っていたスマホをパーカーのポケットに仕舞いエンジン音に耳を澄ます。
シフトチェンジの際にウエストゲートの抜ける音が聞こえなかった事からどうやらターボは付いていない様子。
霊夢「回転が上がるにつれて甲高くなるエンジン音……これはV-TEC特有の排気音だわ」
魔理沙「という事はホンダの車か。インテRか?NSXか?」
霊夢「アンタねぇ、話聞いてた?NSXはともかくインテRはドリフトに向いてないでしょ」
アリスの腕をもってすればインテグラでもドリフトしようと思えば出来なくはないが、FF車はドリフトの自由度という面でFRと比較してかなり制約がある。その分直進安定性に優れていたり、車内スペースを広く取れるという利点もあるが。
やがてエキゾースト音はこちらに近付くにつれて大きくなり、ヘッドライトの光を視認出来る位置まで近付いてきた。霊夢達の居る場所には一応何ヵ所か街灯があるのだが、生憎LED光源ではない為に広範囲を照らしてはくれない。
しかしそれから程無くして、車は2人の目の前までやって来て停まった。ヘッドライトの光が霊夢達を眩しく照らし、車種を特定するのにしばし時間が掛かった。
車から降りてきたのはもちろんアリス。霊夢がアリスとアリスが乗ってきたS2000を交互に見ている間に魔理沙がアリスに話し掛ける。
魔理沙「よぉアリス、待ちくたびれたぜ」
アリス「ごめんなさい、しばらくママに捕まってたから」
魔理沙「なんだ家に帰ってたのか」
アリスは「そうよ」と答えるとおもむろにスマホの画面を魔理沙に見せた。そこにはアリス宛に送りつけられた神綺ママからのメッセージと着信履歴が夕方アリスが確認した時よりも更に数を増やして埋め尽くされていた。これには思わず「うげっ」と声を漏らしてドン引きする魔理沙。
アリス「霊夢もごめんね、待たせちゃって」
霊夢「別に構わないわ。それより…」
霊夢は途中で言葉を切ってアリスの後ろに佇むS2000に視線を移す。車種が判明してアリスが降りてきたその瞬間から霊夢の顔つきは変化していた。
ドリフトを好むアリスの事だからとてっきり霊夢は比較的ドリフトが容易なシルビアやRX-7に乗ってくるものだと思っていたがその予想は見事に外れ、よりにもよってFRの中では最もドリフトとは縁遠い車を選んできた。故に霊夢はアリスに確認する。
霊夢「…1つ聞くけど、そのS2000って本当にアンタの車だよね?」
アリス「そうよ、夕方納車されたばかりなの」
霊夢「……」
霊夢が怪訝な表情を浮かべた訳はS2000のその特性にあった。その特性を解説すべく霊夢が口を開く。
霊夢「アンタ本当にその車でドリフトするつもりなの?
そもそもこの車はサーキットで走る事を前提として作られた車だからグリップの限界は高いんだけど、こいつが食わせもんなのはその限界地点に近付いた時にタイヤをおいしく使えるポイントが掴みづらいとこなのよ。故にS2000を自分の思うがままに操れるドライバーは限られてくる。
ホイールベースは短くエンジンを含めた重量物を出来るだけ車の中央に低く集める様な構造になってるからステアリングの応答性は良いけど、ドリフトだとそれが逆に仇となって滑り出したかと思えばあっという間にクルンと回るし…
散々長々と喋っておいてなんだけど、一言で言うならこの車でドリフトする事は細いロープを使って綱渡りするぐらい難しい事よ」
アリス「へ、へぇ…」
魔理沙「勉強になるなぁ」
2人共大変感心した様子で霊夢の説明に耳を傾けていた。
博麗霊夢は神社の宮司の1人娘で本人も巫女見習いとして従事している為、車や走り屋事情といった俗物的な事柄とは無縁の生活を送ってると誰もが思うだろう。
しかし友人のアリスと魔理沙が車好きで走り屋をやってる関係で図らずも車と接する機会が増え、そこに自身の知的好奇心の旺盛さも相まって勉強し続けた結果、自動車に関する豊富な知識と優れた観察眼を手に入れた。前述した2つの能力に関して言えば今やアリスと魔理沙以上である。
魔理沙「ともかく、これで私達のマイカーが全部揃ったな。この中でターボが付いてるのは私のFDだけか」
霊夢にパワー至上主義者と揶揄された魔理沙の愛車は黄色のFD3S。元々が赤城レッドサンズの高橋啓介の大ファンであった事から彼が乗っていた車を購入したという逸話がある。
馬力は340ps程と3人の中では最も馬力があるが以前は更に上をゆく400ps超あった。だがパワーを求めるあまり足回りのチューニングが疎かになっていた事と、どれだけ馬力があっても峠で全てのパワーは使えないというアリスの指摘により泣く泣くデチューンする事になったという。
魔理沙曰くターボ車特有の下から突き上げてくるトルクの感じがたまらなく好きなんだとか。
魔理沙「アリスのS2000はまだしも、霊夢のレビンは多少弄ってるとはいっても150ps程度しか出ないんじゃなかったっけ?
いくらなんでも遅過ぎるぜ。車ってのはパワーがあってこそのもんだろ」
霊夢「峠では馬力なんて所詮水物よ。それにアンタみたいに馬力を求めても使いこなせなかったら本末転倒だと私は思うけど?」
魔理沙「うるさいのぜ」
アリス「まぁまぁ」
レビンのパワーアップを求める魔理沙の声を無慈悲な一言で霊夢は突っぱねる。2人の小競り合いが始まりそうな予感がしたのでアリスはそそくさと2人の間を取り持つ。表立った性格は真逆であってもお互い根本は頑固である為か、両者共に主張を押し通そうとする。撤回や訂正という文字は2人の辞書には存在しない。
霊夢「それに私自身走りを極めるつもりは全く無いわ。そりゃあアリスみたいに腕があったら馬力の事も多少は考えるけど」
秋名で最速なのでは?と噂される霊夢だが、自身の走りでもって峠最速になる願望は無い。仮にそれを志したとしても霊夢の場合は残されている時間があまりに少ないのだ。精々多くて後2年ってところだ。
まだ神社の巫女見習いという立場だからこそこうして峠で仲間と遊ぶ時間が確保されているが、後2年…すなわち霊夢が成人する頃になれば巫女としての職務を当代から正式に引き継ぎ多忙な日々が彼女を待ち受けているだろう。神社の娘としてこの世に産まれ落ちたその日から彼女の人生は運命付けられているのである。
一方、魔理沙は魔理沙で峠に来れる日と来れない日がある。彼女が駆るFDのボンネットにマウントされているロータリーエンジンは軽量かつシンプルな構造ながらノーマルでも260psを超すパワーを誇るが、一般的なレシプロエンジンと違って燃焼室が3つ存在する様な構造だからか燃費はすこぶる悪い。
バイトしているものの毎月のバイト代はそのほとんどがガソリン代として消えてゆく為、毎日峠を走る事は実質不可能で3、4日に一度来れればまだ良い方である。アリスや霊夢がパワーを使いこなせていないと指摘したのも、決して魔理沙が下手だからという訳ではなく日にちを開けた事によって生じる感覚の鈍りを戻す作業に時間を取られ中々次のステップに進めない事が原因の1つ。
魔理沙「その点アリスの母ちゃんが羨ましいぜ。なんせ石油会社の株主だもんなぁ」
アリスの母神綺も魔理沙と同様ロータリー使いなのだが、彼女の場合は石油系企業の株を所持しており、その株主優待券を使う事で通常よりも安く給油を済ませる事が出来る。それも1つではなく複数も株を持っている。
娘がS2000を手に入れるまでの間、母の愛車を借りて毎日の様に峠を攻めても咎められなかった理由がそこにあったのだ。
アリス「そろそろ走りましょう。まだ
霊夢「それもそうね、少し立ち話が過ぎたみたいね」
峠に来たのは井戸端会議をする為じゃない。自分達はあくまでも走る事がメインなのだと気持ちを切り替える。そして3人共車に乗り込みさぁ出発!
??「やあやあ、君達って地元の人?」
…といった矢先にアリス達に声を掛ける男が2人。シルバーグレーのS15に乗ったこの男達の外見はオブラートに包んだ言い方をすればふくよかな体型の男と眼鏡を掛けた男、遠慮なくバッサリと言ってしまえばデブとメガネのキモオタコンビが何を目的としてかは不明だが車に乗り込もうとした3人に水を差す様な格好で呼び止めた。
ナンパかと疑う3人。先のギャラリーの発言から察するに走り屋界隈でナンパに遭遇する事はさして珍しくもないようだ。
デブ「僕達東京から来て、速い走り屋がゴロゴロ居るって噂の秋名にやって来たんだけど……
なんか思ったより少ないねぇ、地元の走り屋が」
メガネ「そうそう、もっと賑やかな場所だと思っていたよ」
魔理沙「そりゃ平日の深夜帯に走り屋が居る訳ないだろ」ボソリ
霊夢「速い走り屋が居るかどうかは別にして、土日は結構賑わうわよ。日を改めて出直して来たらどうかしら?」
噂には得てして尾ひれが付くものだが、この秋名の噂に関しては尾ひれのみならず背びれも付いてきてしまっているようだ。霊夢達を除けば秋名最速と言われているのがスピードスターズであり、そのスピードスターズも助っ人の拓海の力を借りなければレッドサンズの高橋兄弟の歯牙にも掛からなかったレベルであった。
デブ「だからそれらしい車を見掛けたらつい嬉しくなって話し掛けてしまったんだ。どれどれ、ちょっと車を見せてくれよ」
アリス「(図々しいわね)」
魔理沙「…こいつ人の話聞いてないのぜ」ボソリ
遠回しに追い払おうとした霊夢の一言も残念ながら彼らの耳には届いておらず、そればかりか了解を得ていないにも関わらずアリスの言う通り図々しい態度で人を車を見始めた姿に3人は不快感を覚える。
そんな3人を他所に車の観察を止めないデブとメガネ。
デブ「うわぁ3台共化石みたいな車、特にこの赤いハチロク。
よくこんな車に乗ろうと思うよねぇ…プププ」
メガネ「そんな事言っちゃ悪いよ、本人も気にしてるみたいだし…クスクス」
魔理沙「なんなんだコイツ等、ムカつくぜ」
霊夢「…別に私は気にしちゃいないわよ」
アリス「(確かS15とS2000ってほぼ同じ時期に出てなかったっけ?)」
失礼極まりない輩の発言に反応も三者三様。魔理沙は自分達の愛車をバカにされた事に苛立ち、霊夢は努めて冷静に対応し、アリスはデブ達の的外れなブーメラン発言に心の中で突っ込んでいた。
走り屋たるもの相手の車と乗り手には一定の敬意を払わなくてはならない。モータースポーツの世界は自分達が直接相対する訳ではない。故に相手同士との信頼関係の構築が他のスポーツ以上に重要になってくるカテゴリーなのだ。『自分が一番速い』と思うのはその者の勝手だが、そこに同じ分野で競う相手が居てこそ認知されるべき物である事を忘れてはならない。
デブ「それにしてもこの辺じゃ僕の遊び相手になる奴を探すのに苦労していてね、サーキットで鍛えた僕の腕を見せ付けてやろうと思っているのに…
そうだ!良かったら君達の中の誰かが相手になってくれよ。僕の『すーぱーてくにっく』を見たいだろ?」
魔理沙「別に見たくもないし興味もねーよ」ボソリ
聞くにどうもサーキットの走行会で腕を磨いたらしく、相当な自信を持っているようだ。外見からはとてもその様な印象を受けないが。
霊夢「…アリス、あんたが行きなさい」
アリス「えっ、私?」
霊夢「ウチ等の車の中でエンジンスペックがイチゴーに一番近いでしょ。ターボとNAという違いはあれど。
私が手に負える相手じゃないわ」
果たして謙遜しているのか皮肉を言ってるのかは不明だが、とりあえず霊夢が名乗り出るつもりは無いらしい。では魔理沙はどうなのか?
魔理沙「おい霊夢、なんで私じゃないんだ?」
霊夢「あんたは感情的になり過ぎてるのよ。喧嘩売ってきた相手ほど冷静に物事を対処しなくてはならない。あんたにそれが出来るかしら?」
魔理沙「グヌヌ…」
霊夢「それにああいう相手は負けた時に『FDのパワーに負けた』とか言い訳並べて収集が着かなくなるわ。
言い訳の材料を徹底的に潰して相手に絶対的な敗北を味わせる。その為のアリス起用よ」
魔理沙「……なるほどなぁ、言ってる事は理解したぜ」
観察眼に優れた霊夢なだけあって、先程のやり取りからデブとメガネのおおよその性格に当たりを付けた。物事を自己中心的に捉えて相手を見下して、サーキットを走った事があるという理由だけで自身の優位性を主張する勘違い野郎。それ故に無駄にプライドが高くて三の矢四の矢と言い訳を展開して意地でも負けを認めない面倒臭い人間…
と、霊夢はそういう判断を下した。
その後3人は改めてデブとメガネの方に向き直り、対戦相手がアリスである事を伝える。ついでにアリスのS2000がドノーマルであり納車したてである事も。その事に始めは難色を示していたデブ達だったが…
霊夢「貴方達が負ける要素は何も無いはずよ。
…それでも不満かしら?」
という発言にデブ達2人は折れた。途中機嫌を悪くして「怒ったぞぉ」などと言っていたが、今の霊夢の発言のどこに怒る要素があったのか……。人間誰しもどこに怒りのスイッチがあるかは分からないが、こやつ等に関しては通常とは随分とズレた場所にスイッチがあるみたいだ。
アリス「うーん…あまり気が進まないけどやるしかないみたいね」
霊夢「まぁインプレッションがてらアイツ等の遊びに付き合ってあげなさい。どこで勝負を掛けるかはアリスに任すわ。
あぁ、後コレを車に着けて頂戴」
そう言って霊夢がアリスに渡した物とは、
アリス「…トランシーバー?」
霊夢「そそ、情報をウチ等で共有する為にね」
ここだけの話、このトランシーバーは霊夢と魔理沙がたまたま寄ったゲームセンターのクレーンゲームで魔理沙が獲得した商品であり、試しに使ってみたら思いのほか性能が良かったので運転時の交信などに使えるとして取っておいていた物だ。ちなみに2つ入りであった為もう1つ余っているんだとか。
本当だったら1人でのんびりと走りながらS2000の挙動や限界を探りたかったらしく、言葉は悪いがそれを邪魔された形になってしまった為いまいちやる気の出ないアリス。納車初日にバトルとか聞いた事が無いとアリスは思う。
霊夢「もうそろそろ時刻が11時になるから電話の時報を合図にスタートしましょう」
魔理沙「アリス、私達も後ろから追いかけるからな。絶対勝てよ!」
アリス「…はいはい」
落ち込んだやる気を無理矢理奮い立たせてS2000のシートに乗り込む。アリスも母親と同様に強い者としかバトルをしたくない考えの持ち主ではある。はっきり言ってしまえば彼らからは強者が放つ雰囲気をまるで感じない。爪を隠しているという考え方も出来なくはないが。
そんな自身の気持ちを蓋をしてサイドブレーキを解除してスタートの時を待つ。
『ただいまより11時丁度をお知らせします。ピッ…ピッ……ピッ………ピーン』
クラッチを離してアクセルオン。アリスのS2000は程よくホイールスピンをさせながら、一方東京から来た2人はやや長めのホイールスピンでスタートを切った。S15のホイールスピンの時間が長かった事もあり、スタートからアリスが先手を取る形となった。
魔理沙「霊夢、私達も後を追うぜ!」
霊夢「はいはい、分かったわよ」
スタート地点を過ぎたタイミングを見計らって、霊夢のレビンと魔理沙のFDは2人の追走を始めた。S2000とS15から少し距離を取り、間隔を開けながらの走行となる。
魔理沙の前を走る霊夢は先程のスタートダッシュからデブとS15の戦闘力を推測。スタートの切り方を見るに馬力は若干S15の方が上か。
霊夢「(…だけどあのホイールスピンを見た感じだと腕の方は素人に毛が生えた程度かしら。クラッチの繋ぎ方もアリスの方が断然上。
本当にサーキットを走った事あるのかしら?)」
仮にサーキットでの経験が事実だったとしても、どちらかというと草レースへの出場やタイムを削る走りなどではなくただ遊び感覚で車を転がしていたのだろう。よくもまぁあれだけの大口を叩けたものだと逆に感心すら覚える霊夢。
第1コーナーが近付いてきて両車共ブレーキング体勢へ。上りでのS2000の特性はある程度掴んだアリスだが、下りはまだ未知数であるが故にとりあえずは神綺のコスモスポーツで走らせていた時と同じ感覚で走らせてみる事に。
床まで踏みつけていたアクセルを一気に放してブレーキを踏む。元々オープンカーでありながら優れたボディ剛性を有するS2000だが、それはブレーキも例外ではない。軽く踏んだだけでも充分な効き目を発揮し、ABSの性能の良さも相まってブレーキを残しながらのコーナリングも容易だ。
アリス「!?」
だがアリスはこのブレーキに一種の違和感を覚えた。同じFRレイアウトだがコスモスポーツとは全く異なる特性が早くも顔を覗かせた瞬間でもある。
一方のデブもブレーキングをしてコーナーへと進入する。しかしこの時、アリスのS2000のテールが少し離れてしまう。
この光景を見て呆れ返っていたのは、後ろからその走りを見ていた霊夢と魔理沙である。
霊夢・魔理沙「(いやいやブレーキ早過ぎよ(だろ)…)」
自分達が思う1コーナーのブレーキングポイントより随分早い段階でのブレーキに違う意味で慌てた2人。危うくオカマ掘るところであった。サーキット経験者だから多少は出来るだろうと踏んでいた霊夢の評価は最初のコーナーで一気に下方修正された。
霊夢「(…こいつはダメ、話にならないわね)」
秋名の峠に慣れていないと言えばそれまでだが、それを抜きにしてもこのパフォーマンスはあり得ない。『すーぱーてくにっく』など勘違いも甚だしい。魔理沙も同じ事を思ってたようで…
魔理沙「なぁ霊夢、あいつサーキットで鍛えたんだよなぁ?それなのにコレはちょっと…」
霊夢「…まぁ、世の中色んな人間が居るものよ」
霊夢自らが指名したとはいえ、対戦相手となったアリスが可哀想に思えてきた。ついでにあのデブに運転されているS15にも…
デブとメガネ?ママンのお腹の中から出直してこい。
◇
序盤のダブルヘアピンを抜けた2台はこのコース最長の全開区間へと突入する。先頭は変わらずアリスのまま。
デブ「ぐぬぬ…サーキット仕込みの僕のブレーキングが、峠だけの走り屋に負けてる…」
デブの頭の中では中盤あたりでS2000を華麗に抜き去り、その勢いのまま突き放す予定だったがはっきり言ってそんな未来なんぞ来るはずも無い。天地がひっくり返ってもあり得ない。
ダブルヘアピンでアリスのS2000に離されてしまったがパワーは霊夢の推測通りS15が上。今こうしてデブが妄想してる間も徐々にその差が詰まってくる。
本来ならこのなんちゃってバトルの勝負はすでに決まっていても何ら不思議ではないが、ここまで長引いた(?)のはアリスがS2000の特性を掴むのに少し苦労したからである。
そのアリスはバトルが始まって最初の方はバックミラーを確認しながらの運転だったが、割と早い段階でアリスは後ろを見るのを止めた。簡単に言えばデブのテクニックに見切りを付けたのである。
今のアリスには霊夢と無線で話す余裕すらある。
アリス「ねぇ霊夢」
霊夢「…どうかした?」
アリス「私ね、
霊夢「…そ、気を付けなさい」
普通原作のバトル内で勝負を掛ける時は「勝負を決めよう」などといったカッコいい台詞が散見されるが、今の会話の流れでS15の事について全く触れなかったのはもはやコレをバトルとは思っていないのか、たまたまなのか、それは当人達にしか分からない。
そんなやり取りがされているとは露にも知らず、デブ達2人はスケートリンク前の直線で前を走るS2000に追い付いた事でテンションが最高潮に達しようとしていた。もちろんテクニックは一切関係なく単に車がお利口さんである事を付け加えておこう。
メガネ「もしかしてやる気だね、アレを」
デブ「あぁ…やるさ」フンス
久しぶりに口を開いたメガネの言葉に対して、鼻息荒く何かやる事を宣言したデブ。我々は一切興味は無いが仕方がないから見届けてやろう。
デブ「まだだ…まだまだ」
コーナーが近付くにつれて増すデブの独り言。隣に座るメガネは何故か歯を食い縛りながら迫り来るコーナーに目を向ける。
ところでこのメガネはどうして隣に乗っているのか?ラリーの世界ではパイロットの隣にナビゲーターが座る事は特別珍しい事でもないのだが、この男はナビをしている様子も無くただジッと隣に座っているだけ。
他にも自分の車は持っていないのか?とか突っ込みたい事は山程あるが、いずれにせよ今この場所に必要な存在であるかという事には疑問符が付くのは確か。
やがてコーナーが目前にまで迫りメガネが恐怖のあまり目を瞑った刹那、デブの咆哮が炸裂する。
デブ「今だ!!」
全体重を右足に乗せ、ブレーキペダルをへし折りそうなまでの勢いでフルブレーキング。というか本当にペダルが折れそうで怖い…
デブ「行くぞぉ!必殺のぉ……
ちょーぜつ!!ウルトラスーパーレイトブレーキnーー」
きっとオーバースピード寸前の超レイトブレーキでS2000のインを差し、そのままオーバーテイク!というプランをデブの頭の中で描いていたのだろう。
しかし現実は無情である。アリスのS2000のテールはこの時点ではまだブレーキランプを点灯させておらず、ノーブレーキで突っ込んだ事でS15との差を一気に広げる。
デブ「ってええ!!まだ突っ込むのぉ!?」
驚愕するデブの声はもちろんアリスの耳には届くはずもなく、これ以上は曲がれないといったギリギリのタイミングで本当の意味での超レイトブレーキを決める。
その際リアが流れてガードレールに接触しそうになるところをギリギリの所でコントロールしてみせ、結果的にコース幅を目一杯使った形でコーナーをクリアした。
茫然自失となるデブとメガネ。しかしこの2人に更なる追い討ちが…
霊夢「…邪魔よ、退きなさい」
魔理沙「お先に失礼するZE☆」
デブ・メガネ「うええ!?」
もうこれ以上はお前等の後ろに付く意味は無いと言わんばかりにがら空きになったインからレビンとFDが立て続けに追い抜いていく。アリス程ではないにしろ、テクニックでは2人共デブの上をゆく。
デブのS15がコーナーを立ち上がった時には3台の車の姿はすでに消え、デブの断末魔だけが秋名山に虚しく木霊するのであった。
デブ「どっひやああああああああああ!!」
メガネ「(うわ…カッコわる)」
ついには仲間であるはずのメガネからも見放された哀れなデブなのであった。
【完】
まずそもそもリメイクするに至った理由の1つとして、リメイク前の作品で東京から来た2人と神綺ママの絡みを匂わす描写があったけど、よくよく考えたら時代が違うなと思ってボツにしようと決めた次第でございまする。
次回の話もほどほどに期待しながら待っててね。