Re:7色のドリフト使い   作:独田圭(ドクタケ)

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第3話どすえ。

ここの霊夢もリメイク前と同じで頭脳チートです(作者が脳みそハゲという事は置いといて)。



ACT.3 結成(仮)Temple Racing Project

 ◇

 

アリスと東京から来た2人のなんちゃってバトルから一夜明けたあくる日のお昼時、武内樹は先日秋名で遭遇した白いS2000の衝撃の走りを彼が勤務するガソリンスタンドの仕事仲間に力説していた。

 

樹「それはもう凄まじいってもんじゃなかったっすよ!上りとはいえ俺のハチゴーターボをあっという間に置いていったんですから」

 

??「そんなに凄かったのか?例のS2000って」

 

やや興奮気味に話す樹の周囲には店長らしき人物と、樹と同じくスタンドの制服を着た男、そして従業員とは関係なさそうな私服の男の計3人が彼の話を興味深そうに耳を傾けていた。

 

この内の1人、樹の職場の良き先輩であり秋名スピードスターズを束ねるリーダー的存在である池谷浩一郎はプロジェクトDでの拓海の活躍から秋名には拓海クラスの走り屋がわんさか居ると勝手に噂が広がり当初は頭を抱えたものの、それに恥じぬドラテクを身に付けようと自身の愛車のS13シルビアを駆り奮闘の日々を送っている。

 

成果の方は……まぁ言わないでおこう(汗)。

 

??「しかもドライバーは女の子だったのかよ。そういえば最近秋名でよく見掛けるレビンとFDも女の子だったし…もしかしたらそのS2000の娘と何か関連性があるかも知れないな」

 

次に口を開いた池谷の横に居る男は、池谷と同じスピードスターズのメンバーでチームのNo.2に当たる人物。苗字は不明だが名は健二と言う。愛車は180SX(ワンエーティ)でモノコックやシャシーの設計が池谷が乗るシルビアと基本的に同じな為、この2台は兄弟車として扱われている。

 

腕の方は……まぁお察しという事で(汗)。

 

そしてもう1人、この場に居る面子の中では年長者にあたりガソリンスタンドの店長とおぼしき人物は「仕事中だぞ」と釘を刺しつつも本人も満更ではなさそうに若者達の会話に参加している。

 

そして店長こと立花祐一は時折感傷に浸るかの様に何度かうんうんと頷いている。

 

池谷「店長、どうかしたんですか?」

 

祐一「…いや何、俺達の時代に比べたら女性の走り屋も随分増えたものだなぁって思ってたんだ」

 

今でこそ女性の社会進出は当たり前になりつつある現代だが、祐一らの時代は『女性は結婚して家庭に入る事』が普通とされており、兼業主婦という言葉だけで色々と騒がれていた。時代は常に変わりゆく物である。その変化に付いていけなければ爪弾きに遭うのだ。

 

祐一「俺達が現役で走ってた頃は女性の走り屋ってだけでやたら注目されていたんだ。それに速さもあったら尚の事な。

 

そんな走り屋が昔居たんだ」

 

祐一はかつて秋名山を走っていた女性の走り屋について自身の思い出を交えて語り出した。

 

祐一「白いコスモスポーツに乗っていたその女性は『秋名の山賊狩り』という二つ名で呼ばれていてな、俺達もまだ若かったからナンパ目的で声を掛けたんだよ。あっさりスルーされたけどな。

 

後から聞いたら俺達みたいにその女性にナンパする走り屋が結構居たらしいんだよ。それでそいつ等全員が女性の対応に我慢出来ずにバトルを仕掛けて負けていったんだ」

 

聞けばその女性はスルースキルに長けていたのか散々はぐらかしていった結果、男の方がしびれを切らして「バトルして俺が勝ったら付き合え」というノリでバトルを行い、そして皆負けていったようだ。

 

祐一「ひとたび走り出せばそれはもうおったまげるぐらい速かったぞ。それに基本的に速い走り屋としかバトルをしなかったから、その速さが余計に際立ったよ。

 

…そして何より、秋名では文太の最強のライバルだったんだ」

 

3人「ええぇ!?」

 

祐一「文太とは二度三度どころか顔を合わせる度にやりあってたなぁ…」

 

藤原文太…プロジェクトDのダウンヒルエース藤原拓海の父にして、秋名最速の走り屋は誰かと聞かれれば今でも真っ先にその名前が挙がる伝説の走り屋。寝ても覚めても秋名を速く走る事だけを考え、ドラテクを追い求めるあまり常人では考えつかない様な型破りなアイデアを実践していたと言われている。

 

その姿から文太を知る者は彼を『クレイジー文太』と呼んだ。

 

その文太と最強のライバル関係にあったのが件の女性である。もうお察しだとは思うが、あえて名前は伏せる事にする。

 

池谷「それで、バトルの結果はどうだったんですか!?」

 

祐一「全くの五分、今度こそ決着を着けようとした矢先にその女性は『子供が出来た』とだけ言い残してを俺達の前から去っていったんだ。

 

それっきり…彼女が秋名に現れる事は無かったよ。

 

確か名前はーー」

 

そこまで話した時、このスタンドに勤める者達のどれでもなく…それでいてやけに特徴的な甲高いエキゾースト音がスタンド内に響き渡った。どうやら客が来たようだ。

 

祐一「おっ、お客さんが来たぞ」

 

池谷「あっはい。いらっしゃいませ…!!」

 

慌てて対応する為に客の元へ駆け寄った池谷はその車を見た瞬間驚きの表情に包まれた。何故なら客として現れたのはつい先程まで樹が話していた例の白いS2000だったからである。池谷の後に駆け付けた樹もかなりオーバー気味に驚いていた。

 

ドライバーが車から降りてくる。当然ながら乗っていたのは、

 

アリス「ハイオク20L(リッター)お願いします」

 

池谷「…はい、ハイオク20L入ります!」

 

アリス「後、お手洗いを貸してもらえますか?」

 

池谷「あ、どうぞ」

 

池谷の了承を耳にしたアリスはトコトコと店舗内へと歩を進める。その後ろ姿を見ながら池谷達4人のヒソヒソ話が始まった。

 

池谷「…樹、あの娘が例の?」

 

樹「そうですよ。一瞬だけ目が合ったけどあの娘で間違いないっす」

 

健二「見た目からはとても想像が付かねーなぁ…」

 

樹「イヤめちゃくちゃ速かったっすよ。あの速さは拓海と同じぐらいだと思う」

 

健二「そんなにか!?」

 

祐一「お前達…仕事中だぞ」

 

そんな会話がなされているなど露にも知らないアリスはお手洗いを済ませて自販機でミルクティーを購入して店舗を出た。その姿を見た池谷達は一旦会話をやめて自分達の作業に戻る。

 

一通り作業が終わり、支払いを済ませて車に乗り込もうとした瞬間、樹が意を決してアリスに話し掛けた。

 

樹「あの、昨日の走り凄かったね!」

 

アリス「え"っ…」ビクン

 

まさかこのタイミングでなあなあ口調で話し掛けられるとは思わなかったアリスは身体を硬直させて、おまけに変な声が出てしまった。

 

実を言うとアリスは、赤の他人との会話が大の苦手な鬼人見知りなのである。これでもまだマシになった方だが、子供の頃は相手と目を合わす事すらも出来なかったという。

 

今でもコンビニやファミレスの店員に注文する時でさえ少し苦労するアリスだが、今の樹みたく予期せぬタイミングでいきなり話し掛けられると、どう対応して良いか分からなくなり思考回路がショート寸前に陥ってしまう。

 

アリス「ええっと、その…」モジモジ

 

樹「(可愛い)」

 

幸いにも昨日の今日であった事から、ある程度は思い出す事が出来た。一瞬東京から来た2人とのなんちゃってバトルを見ていたギャラリーかなと思っていたアリスはこれ以上樹の顔を直視出来ずに視線を逸らす。

 

しかし、その逸らした視線の先に樹のハチゴーがあった事から全てを思い出した。しかもよく見ると『SPEED STARS』と書かれたステッカーを貼った車がハチゴー含めて3台停まっている。

 

アリス「も、もしかしてここって秋名スピードスターズの…」

 

樹「そうだよ。俺はあの時君が上りで追い抜いたハチゴーのドライバーなんだ。

 

それで君が良かったらの話なんだけど、来週の土曜日秋名の下りでもう一度一緒に走ってくれないかい?」

 

アリス「それってバトルの申し込み…ですか?」

 

樹のテンションにも少し馴れてきた。アリスは確かに人見知りなのだが、ずっと人見知りという訳ではなく一言二言交わせば少しずつ会話出来るようになる。要するに彼女にとって初めの一歩が最大の山場なのである。

 

さてさて、樹からの挑戦状にアリスは返答に困った。特に断る理由は無いが、ぶっちゃけて言うと受ける理由もこれまた無い。

 

昨日の秋名の上りで遭遇した時に樹のハチゴーターボを後ろから見ていたが、足回りがターボ化してパワーアップした車と釣り合っておらずどう見ても危なっかしい状態であったのは前話のアリスのオーバーテイクまでの流れを見れば明らかだった。

 

樹「あっイヤ、そこまで真剣に悩まなくても良いよ。来週土曜までに返事をくれれば良いからさ」

 

空気が読めるナイスガイ武内樹。アリスが悩んでいた理由は別にあったのだが、何はともあれ返事を待ってくれると言うのであれば黙って従っておけば良い。

 

アリス「…分かりました。ではまた日を改めて伺います」

 

樹「おう。俺は武内樹っていうんだ、君は?」

 

アリス「アリス…アリス・マーガトロイドです」

 

祐一「!!……お客さん、少しよろしいですか?」

 

アリス「えっ?…は…はい」

 

帰ろうとしていたアリスを祐一は呼び止めた。その表情は何かハッとした様子にも受け取れる。

 

祐一「今マーガトロイドと言いませんでしたか?もし間違っていたら申し訳ないんですが…

 

ひょっとしてアリシア・マーガトロイドってのは…」

 

アリス「アリシア・マーガトロイドは私のマ…母親ですが、それがどうかしたんですか?」

 

祐一「イヤ、なんでもないさ」

 

アリス「…そうですか」

 

1人納得した様子でうんうんと頷く祐一に頭を傾げながら、アリスは車に乗り込みガソリンスタンドを後にした。

 

池谷「店長、どうしたんですか?」

 

祐一「あぁ、さっき秋名では文太のライバルだったっていう女性の走り屋の話をしただろ?

 

その女性の名前がアリシア・マーガトロイドって言うんだ」

 

3人「えええ!?」

 

樹「じゃ、じゃあ今のアリスって娘は…」

 

祐一「あぁ間違いない、彼女はアリシアの娘さんだ。

 

樹、お前とんでもない娘と出会っちまったな」

 

健二「すげー…そんな偶然ってあるんだなぁ」

 

伝説の走り屋と言われた藤原拓海の父藤原文太の最大のライバルだったアリスの母アリシア・神綺・マーガトロイド。

 

その娘がいつの間にか大きくなって走り屋をやっている事に内心驚きを隠せないでいた祐一であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

アリス「ただいまぁ」

 

アリシア「おかえりなさ~い」

 

アリスが用事を済ませて家に帰ってくる時はいつも決まって玄関先までパタパタとやって来て娘を出迎える神綺ママ。そしてお帰りなさいの抱擁を娘に要求するまでがお約束である。

 

今回は休日で給油しに出掛けただけで、それ程長い時間家を空けていた訳ではなかったので抱擁の時間も神綺ママ換算で短めではあるがいつもはもっと長い。すなわち学生であるアリスにとって平日の学校帰りは冗談抜きで地獄でしかない。

 

おまけにメッセージや通話を無視したり素っ気ない態度を取るとお仕置きと称してやけに力の籠った全力抱擁(羽交い締め)を発動させる為、実の親でありながら気を使うポイントが多くて面倒臭いとアリスは思っている。

 

一体いつになったら子離れ出来るのだろうか?これでもし自立するとか言い出したら大変な事になるなと神綺ママの腕の中でそう思うアリス。今のところその予定は無いが。

 

今日もまた『アリスちゃん成分』を補給してルンルン笑顔の神綺ママはそのままリビングへ。やや疲れ気味のアリスも後に続く。

 

夢子「こんにちはアリス、お邪魔しているわ」

 

アリス「夢子さん、こんにちは」

 

夢子「ほら、上海と蓬莱もアリスにちゃんと挨拶しなさい」

 

上海「こんにちは」

 

蓬莱「こんにちわ~」

 

アリス「はーい、2人共こんにちは」ニコッ

 

リビングに居たのは娘に対する神綺ママの玄関での一連の流れを見ていた夢子と、アリスにとって天使of癒しとも言える2人の幼女。この笑顔を見るだけで先程の疲れも吹き飛ぶ。…何故疲れたのか?それは聞いてはいけない(戒め)。

 

さて夢子が連れて来た幼女、上海と蓬莱についてだが3人の髪色からして(蓬莱はややブロンドっぽいが)本当の親子の様にも見えるが実は違う。少し暗い話になるが上海と蓬莱はみなし児の孤児院育ち。その2人を夢子が引き取り育てている。

 

夢子は走り屋時代に先輩の神綺とよく一緒に走っていたが、神綺と共に度々ナンパの被害に遭っていた。神綺は普通に無視出来たが夢子は何度か連れて行かれそうになり、その都度神綺が間に入って止めていた。

 

そういった過去が関係してか、夢子は男に苦手意識を持っている。

 

それでも子供が好きで面倒を見てみたいと思っていた夢子は何年か前に上海と蓬莱に出会い孤児院から連れ帰った。蓬莱の方は割とすぐに懐いてくれたが、反対に上海の方は心を開いてもらえるまで少々時間が掛かったという。

 

そんな性格も真反対な2人が最も楽しみにしてる事がアリスと遊ぶ事である。週末にはこうしてアリス宅を訪れては日が傾く時間になるまで一緒に遊ぶ。

 

アリスもアリスで子供が大好きなので夢子達が来る前日から計画を練っていかに2人を楽しませるか考えているのだとか。その様子はまるで園児を相手にする保育士の様にも思える。

 

アリスが上海達を引き連れ二階の自室に向かったのを横目で見届けると、リビングに残った大人2人による世間話が始まる。

 

夢子「いつもアリスには上海と蓬莱のお世話してもらってすみません」

 

アリシア「あー良いのよ、アリスちゃんは好きでやってるんだから。紅茶淹れたけど飲む?」

 

夢子「頂きます」

 

しかしながら実の親であるはずの神綺ママがアリスの事をちゃん付けで呼ぶのに対して夢子は呼び捨てなのも変な話ではある。普通逆ではないかと突っ込みたくはなるが、何事にも例外は付き物なものだ。

 

夢子「最近の調子はどうですか?」

 

アリシア「自分の車を手に入れて活き活きとしてるわ。おかげで外出が増えて私は寂しいけどね」

 

夢子「いえ…そっちじゃなくてコスモの方です」

 

アリシア「あっそっちの方?」

 

夢子「はい」

 

こればかりは夢子の質問の仕方が悪かったとしか言いようがない。「最近どう?」という質問に対して真っ先に娘の話題から話し始めるあたりは実に神綺ママらしい。彼女と世間話をする場合は必ず固有名詞を付けておく事。でなければ親バカ神綺ママの娘自慢を延々と聞かされる羽目になる。

 

アリシア「まだまだ元気に走ってるわよ。半年に1回はパルちゃんの所でオーバーホールしてるし」

 

夢子「……あぁ、パルスィちゃんの事ですね」

 

余談だが神綺はパルスィの事を『パルちゃん』と呼んでいる。パルスィ本人はその事をとても嫌がっているが。

 

神綺のコスモスポーツは足回りに多少のテコ入れと吸排気系を弄った事以外は手を入れていない所謂ライトチューン仕様である。エンジンそのものや外観には一切ノータッチ。

 

ここに神綺の走り屋としての美学がある。いくらチューニングして車を速く仕上げても乗り手の腕が伴ってなければ意味が無い。それにチューニング次第ではその車が元々持っていた長所を消してしまう事だって考えられるのだ。

 

ならば車の特性を殺さぬようチューニングは程々にして、軽快にダウンヒルを攻めた方が走っていても楽しいしメンテナンスも楽なもの。サーキットと比べてアベレージスピードが断然低い峠というステージで、パワー系にチューニングの焦点を当てるのは非効率だと神綺は考えている。

 

それはそうと登場から約半世紀以上経つ車だがそれでも一切のガタ無く元気に走っていられるのは、ひとえに凄腕チューナーのパルスィの整備の賜物である。その車が現在抱える問題点を理路整然と指摘して速やかに最適解を提示してくるパルスィの手腕にはマーガトロイド家の母娘共々厚い信頼を置いている。

 

時に神綺の相棒として秋名を駆け、また時にアリスのドラテクの練習に駆り出されとコスモスポーツは密なスケジュールをこなしてきた。だがそれも神綺は走り屋を引退し、アリスがS2000を購入した事でその役目を終えようとしている。

 

アリシア「たまには峠を走る事もあるだろうけど、そろそろあの子にも安息の日を与えるべきだと思うの」

 

夢子「…そうですか」

 

しかし役目を終えても売り払うつもりは無い。きっと動かなくなるその日まで、コスモスポーツはマーガトロイド家の駐車スペースに残り続けるだろう。

 

アリシア「この車に乗って秋名を走れば誰も相手にならなかったわよ。……あの男を除いてね」

 

夢子「…藤原文太」

 

今でも鮮明に覚えている。秋名では相手に影すら踏ませなかった神綺が唯一負けた相手。その後神綺もリベンジを果たし何度もバトルをしたが、最後の大一番を迎える前に神綺は走り屋を辞めてしまった。

 

アリシア「…私ね、たまに思うの。もしあの時妊娠せずに文太とバトルしたらどっちが勝ってたかって。

 

…まっでも、結果アリスちゃんが産まれたから良いけどね♡」

 

後悔は無いとウインクを決める神綺。それは間違いなく本心から出た言葉でありアリスに注ぐ愛情の多さからもその様子が分かる。

 

だが伝説の走り屋神綺としてたった1つやり残した事があるのもまた事実。もしあの時、あの夜、あの秋名で文太と最後のバトルをしていたら…勝ったのか負けたのか、それは今となってはもしもの話であって憶測の域を出る事は無い。

 

夢子「いつか、アリスも出会うんでしょうか。宿命のライバルと呼べる存在に…」

 

アリシア「出会うわ。私と文太がそうであった様に、アリスちゃんにもきっと」

 

当人達は気が付いてないが、上海と蓬莱のジュースのおかわりの為に一階に降りてきていたアリスが聞き耳を立てていた。

 

神綺が走り屋をやっていた事は勿論の事、秋名最速だった事も知っていたがライバルが居たという話は初耳であった。

 

アリス「ライバル…か……」ボソリ

 

峠のデビュー自体が12歳とかなり早いアリスだが、正式な走り屋デビューはつい先日果たしたばかり。ライバルという存在自体をまだ考えた事も無いアリスには遠い未来の出来事の様に感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

日付は更に過ぎて月曜日の昼過ぎ。この時間の学校は昼休みに入ったばかりで、食堂は腹を空かせた食べ盛りの学生達の巣窟と化す。

 

いつもアリスは神綺ママお手製の愛情弁当なる物を持参して教室で食べるが、この日に関しては神綺ママが寝坊してしまい弁当は無しになった。そういう訳で今日はアリスも食堂で昼食を摂る事に。どこに座ろうかと思案していると…

 

魔理沙「おーいアリス、こっちだぜ」

 

魔理沙が大きく手を振りながらアリスを呼び寄せた。ちなみに魔理沙と霊夢の2人も弁当組ではあるのだが、何故か食堂までわざわざ足を運んでそこで食べている。

 

霊夢「あんたが食堂を利用するなんて珍しいわね」

 

アリス「ママが寝坊したの」

 

本音を言うとアリスはこの学校の食堂で出される食事があまり好きではない。何故かというと、まず質より量を重視しているのは良いが油物のメニューが多過ぎて食べきれない事と、早く提供する事を意識し過ぎなのか味付けがテキトーな為である。

 

随分前に一度食堂を利用した時にとんかつ定食を食べたのだが、かさ増しの度合いが酷過ぎて油まみれの衣を食べている様な感覚であった。おまけにその後胃もたれを起こして早退した挙げ句、親バカブースト全開の神綺ママに心配されてしまった。

 

アリスが食堂を利用するのはそれ以来である。今回は当たり外れの無さそうなうどんを頼んだ。

 

アリス「それでね、2人に相談があるんだけど…」

 

アリスは土曜日のガソリンスタンドで起きた出来事を霊夢達に話した。そこで働いていた者達が秋名スピードスターズのメンバーであった事、そのメンバーの1人である樹にバトルを挑まれた事を。

 

魔理沙「で、どうするんだ、受けるのか?」

 

アリス「…正直言ってあまり乗り気じゃないかも。車の戦闘力も大体分かってるし、昼間はバイトだし…」

 

霊夢「……アリス、そのバトル受けなさい」

 

アリス「?……どうして?」

 

アリスが話をしていた間ずっと相槌を打っていた魔理沙とは対照的に一言も話さず物思いに耽っていた霊夢からの発言にアリスは素直に疑問を口にする。

 

先日の樹の走りが全力であるならば、余程自分が油断しなければ負ける事はまず無いだろう。そんな相手とバトルした所でワンサイドゲームになる事は目に見えているし、何よりアリス自身がその展開を好まない。弱い者いじめになる気がして嫌だからだ。

 

それでも霊夢は受けろと言う。

 

霊夢「自称秋名最速と言ってる走り屋はその辺にゴロゴロ居るし、この際ハッキリさせておいた方が良いと思うの。

 

それに…こっちがメインの理由になるけど、良い機会だから私が温めてた計画を実行に移そうと思ってて」

 

魔理沙「それってどんなのだ?」

 

霊夢「関東統一プロジェクトよ」

 

アリス・魔理沙「!!」

 

要約すると、今この場に居るメンバーでチームを組んで関東各地の峠に遠征してバトルを仕掛けようという計画だ。以前同じ事をしたプロジェクトDは拓海以外赤城レッドサンズの面々を中心として結成されたが、今回はその秋名バージョンに当たる。

 

霊夢「まずは秋名を始めとした県内各地の峠を私達が総ナメにして、ついでに有望な人材を引き抜こうと思ってるわ」

 

アリス「でも、ドライバーはどうするのよ?」

 

霊夢「それは勿論あんたに任すわ」

 

アリス「待って霊夢、いくら私でも上りと下りの両方はこなせないわ」

 

霊夢「分かってる。だから下りはアリスに担当してもらって上りの担当はこれから探すわよ。

 

一応聞くけど魔理沙、あんたはどう?」

 

魔理沙「私をドライバーにってか?私じゃあ力不足だろ。霊夢がやれば良いじゃないか」

 

霊夢「残念だけどそっち方面の才能は無いわ。裏から支える方が私の性に合ってると思うの」

 

この自己分析はあながち間違いではない。今でこそ走り屋をやっているが、始めた当初から自身の才能には限界を感じておりアリスの走りを間近で見続けていく内にそれは確信へと変わっていった。

 

霊夢は走り屋としての自分に見切りをつけて、自分より遥かに才能溢れるアリスのサポートに回る決心を割と早い段階で固めていたのである。

 

霊夢「欲を言えばメカニックとコースマーシャルも欲しい所なのよ。私も手当たり次第探してみるけど、あんた達も心当たりがあれば声を掛けてくれないかしら?」

 

魔理沙「了解したぜ」

 

アリス「……」

 

マーシャルの方は魔理沙に任せるとして、メカニックと聞いてアリスの脳裏に浮かんだのはいつも無愛想で気難しく「妬ましい」が口癖ながら仕事は完璧にこなすあの少女の姿。頼めば受けてくれるだろうか?

 

…イヤ、全く想像が出来ない。いくら友人の頼みと言えど、社会人である彼女が仕事をほっぽり出してまで受けてくれるとは到底思えない。それに彼女は特定の勢力に肩入れする事を極端に嫌がる。それはそれでチューナーとして信頼出来るからまぁ良いとして。

 

昔馴染みであるが故にその性格を知り尽くしている。その為どうするべきかと悩むアリスを見た霊夢が口を開く。

 

霊夢「…アリス、どうかした?」

 

特別隠す必要も無いので正直に話す事にする。

 

アリス「あのね…メカニックの方で1人心当たりがあるんだけど、聞き入れてくれそうに思えなくて…」

 

霊夢「…何か複雑な事情でもあるというの?」

 

アリス「別に複雑ではないんだけど、なんと言うか……1つのチームを贔屓する様な性格じゃないから…

 

一応話はしてみるけど、あまり期待しないでね」

 

霊夢「…分かったわ」

 

アリスの口振りからして大変気難しい性格の持ち主なのだろうか?だがそれ以上に霊夢はそのメカニック候補の存在に興味が湧いた。

 

霊夢「(…出来る事なら直接会ってみたいわね)」

 

魔理沙「なぁ霊夢、そこまで計画を立ててるならチーム名も決まってるのか?」

 

霊夢「…うん?えぇ、すでに決めてあるわ。

 

Temple Racing Project(テンプル レーシング プロジェクト)』これで行こうと思ってるわ。どうかしら?」

 

アリス「良いと思う」

 

魔理沙「私も文句は無いがTempleって寺って意味じゃなかったっけか?」

 

霊夢「一応神社でも意味は通るらしいわよ。それにShine(シャイン)だと語呂が悪いからTempleにしたの」

 

魔理沙「なるほどな。さしずめ略称は『TRP』って事か」

 

今はまだ仮結成の段階だが、ここにTemple Racing Project(以下TRP)が産声を上げた。今回霊夢がアリス宛てのバトルを受けさせたのは、このTRPを群馬県内に宣伝する事が大きな目的であった。

 

そしていずれは埼玉、東京、千葉、神奈川等へと乗り込んで地元の走り屋達にバトルを仕掛けてゆく。

 

これから彼女達が歩む道の先にはどんなシナリオが用意されているのか。そしてどんなライバルが立ち塞がるのか。

 

TRPの歴史のページは今、捲られたばかりである。

 

【完】

 




本文中に誤字及び脱字があれば感想欄で遠慮なく報告して下さいな。もち極力自分で見付けて修正はしますが。

上海と蓬莱の年齢を下げました。それはこの先の物語に繋がる伏線でもあるんすよ。そこまで続けばの話ですが((殴

あとパルスィの肩書きをエンジニアからチューナーに変更しますた。勿論コレにも後の話の伏線です。そこまで続けば以下略。
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