Re:7色のドリフト使い   作:独田圭(ドクタケ)

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最新話です。タイトルの通りパルスィメインの話です。


ACT.4 パルスィのチューニング哲学

 ◇

 

パルスィ「お断りよ」

 

アリス「デスヨネ~…」

 

オートショップ水橋は通常のチューニングショップと比べて営業時間が随分と長い。その上店主のパルスィの手際がすこぶる良いという事実も手伝って群馬県内のみならず県外からもわざわざ足を運ぶ走り屋は多い。

 

そのパルスィにダメ元でTRPのメカニックの件を頼んでみたものの…結果はアリスの予想通りであった。そこに悩む仕草も無いばかりか間の1つも置かずに即答された事を付け加えておこう。

 

パルスィ「あんたねぇ、そもそも私は社会人なのよ。それなのにたかが1チームの為に店を空けるとでも思ってるの?

 

そうだとしたらその思慮の浅さが妬ましいわね」

 

アリス「ハイ、ゴモットモデゴザイマス…」

 

ぐうの音も出ないというのはまさしくこの事。ド正論もド正論を突かれアリスも機械的な対応をする他無くなる。

 

それにあまりにしつこく食い下がろうものならブチギレて静かな罵詈雑言の嵐が対象者を襲う事になる。以前パルスィにしつこく勧誘し続けた宗教関係者が彼女の逆鱗に触れて大変哀れな目に遭っていた事を思い出した。

 

パルスィは基本的に静かにキレるタイプな為、パッと見た程度では怒ってるかどうかは判らない。しかし()()に気付かず空気の読めない言動を繰り返していると勝手に三行半を下されて気が付けば…なんて事だってあり得る。

 

パルスィ「そういう訳で私はパス、他を当たりなさい」

 

アリス「……」

 

パルスィさん、残念ながらその他が居ないんですよ…とアリスは心中で述べる。

 

そもそも2人の馴れ初めが両者の母親が仲良かった事でありそしてパルスィの母親もまた、かつて栃木を拠点に活動していた凄腕エンジニアであった。

 

どういう繋がりで神綺と接点を持ったかは不明だが、例えるなら初回無料10連ガチャでいきなりSSRを引いてしまった時と同じで、アリス・マーガトロイド最初のお友達が超が付く程の一流チューナーであった事は幸か不幸か。

 

…イヤ、今この状況に限って言えば間違いなく不幸だったと言えよう。パルスィがパーツの調達やら何やらで不在だった時に別のエンジニアの元に母の車の整備を頼んだ事があるが、どうしてもパルスィの手腕が基準となってしまっている為つい無意識の内に比較してしまうのだ。

 

棒立ちのまま帰ろうとしないアリスを見て、パルスィはあからさまに大きな溜め息を吐く。

 

パルスィ「…何、まだ説得を試みるつもり?」

 

アリス「イヤその…ついでにS2000(この子)をアップデートしようと思ってて…」

 

パルスィ「ついでって…普通逆じゃないかしら?

 

まぁ良いわ。何か要望はある?」

 

アリス「ABSを解除して欲しいの」

 

パルスィ「…はぁ?」

 

ABSとはアンチロックブレーキシステムの略称である。ブレーキペダルさえ踏めば車はすぐに停まる…と思っている人も居るかと思うが、ペダルを一気に踏み込むと路面の状態(濡れているもしくは凍結している)によってはタイヤがロックするという現象が起きる。

 

タイヤがロックした状態では制動距離が伸びてしまうばかりかステアリング操作が全く利かなくなるので大変危険である。それにタイヤの寿命を縮めてしまう事にもなるので良い事はほとんど無い。

 

ABSはアンチロックという読み方の通り、これらの現象を防ぐ働きを持つ。元々は鉄道用として開発されたが時代が進むにつれて自動車にも導入され始め、今ではほとんどの自動車に標準装備されている。

 

しかしアリスはそれを解除するよう要求した。しばらく呆気に取られていたパルスィだが、理由を聞いて納得した。

 

アリス「私S2000(この子)を買うまではママの車に乗ってたでしょ?だからなるべくそっちの方の感覚に寄せたくて」

 

パルスィ「…なるほど、そういう事ね」

 

神綺の車にはABSは装備されてはない。コスモスポーツが販売されていた時代のABSはオプションで付ける事は出来たが値段が高かった。お財布に余裕がある者ならともかく、一般庶民がポンと気軽に買える様な金額ではなかったのだ。

 

アリスはそのコスモスポーツを神綺ママから借りて夜な夜な峠を上り下りしていた。そうした過程の中で知らず知らずの内にABS無しの車でブレーキ性能をフルに使いきる技術を身に付けていた。

 

後余談ではあるが、アリスはドリフトと呼ばれる物は全て使う事が出来る。これも走り込みの最中にどんな種類のドリフトがあるかを遊び半分で研究した事で、初歩的なサイドブレーキドリフトから究極とも呼べる慣性ドリフトまで実戦で使えるレベルで習得してみせた。

 

話を戻すと、この間の東京から来たS15とのなんちゃってバトルの時に感じた違和感の正体がコレであった。ABSが作動するとブレーキペダルから小刻みな振動が伝わってくる。中にはコレを嫌う走り屋も少なからず存在するという(知らんけど)。

 

アリスもその内の1人。そもそも前述の通りABSに頼らずともブレーキ性能を使い切れる彼女にとってABSは邪魔でしかなく、単に車の重量を増やす重り程度にしか考えていない。どうせならABSその物を取っ払ってしまいたいところだが、生憎それをやるには持ち合わせが足りない。

 

パルスィ「それなら今から作業に入るわ。少し時間が掛かるからその辺でゆっくり寛いでなさい」

 

いそいそと作業に取り掛かるパルスィを横目にアリスはそれまでの間店内を見渡す事に。

 

オートショップ水橋は車のチューニングや整備、板金はもちろん、中古車の販売、買い取りも行っている。そして店内には自身のショップを宣伝する意味を持つ所謂デモカーが3台置かれていた。アリスは1台1台じっくりと見て回る。

 

デモカーとして展示されているのはNBロードスター、AW11型MR2、そしてグランドシビックと呼ばれる4代目シビックの3台。駆動方式はそれぞれ異なるものの、いずれも共通している事は軽量コンパクトであるという点。

 

派手な装飾は一切無く、アルミホイールを装着している事を除けば外観はノーマルと大差は無い。パルスィの許可を取りボンネットを開けてエンジンを見たが、3台共大きな改造は施されていない様に見える。

 

デモカーであるならばもう少し手を加えても良いのではないかとアリスは思う。それでもこのデモカー達のシートに初めて座って峠を攻めた時はかなり速い車に仕上がっていて心底驚いた。

 

「チューニングの第1歩は足回りから」これはパルスィがアリスを含めた顧客を相手に口を酸っぱくして言ってきた言葉。彼女曰く、

 

パルスィ「車の足回りに当たる部分は建築工事で言う所の基礎に当てはまるのよ。いくら見栄えを良くしたとしても、いくら装備を充実させたとしても、土台が悪ければその恩恵を預かる事は出来ない。

 

車だって同じ。今のパワーに釣り合うだけの足を作らない者に走り屋を名乗る資格は無い。その辺の一般道でパリパリ言わせてる暴走族と何ら変わりないわ。

 

パワーを10%上げてもその効果は判りづらいけど、足回りを10%改良すればその効果はすぐに形となって現れるわ。覚えておきなさい」

 

との事。まずは足回りを強化して、次に駆動系、軽量化を施した後にエンジンを含めたパワー系に手を付けるべきだと主張する。この時どのくらい馬力を上げるか大まかでも良いので目星を付ける事。それによって前述のチューニング内容も変わってくると言う。

 

パルスィがこの考え方に至ったのには、かつて栃木エリアでその名を馳せていた自身の母親が持っていたエンジニアとしてのこだわりが根幹にある。当時ディーラーを持ちながら走り屋活動をしていたチームのチーフエンジニアとして働いていたパルスィの母親は、チームメンバーが駆る車の整備や点検のみならずチューニングやパーツの開発も一手に任されていた。

 

特にサスペンションを始めとした足回りパーツの開発には余念が無く、その完成度の高さはプロのレーシングドライバーも舌を巻く程であった。その当時はアリスのママ神綺も大変お世話になったと言う。

 

パルスィはパーツの開発という分野においては専門外だがより良い車に仕上げる為には一切の妥協も許さないという考えのもと、顧客が求めるもの以上の結果でもって客との信頼を築いてきたのだ。もちろんその分のお代をきっちり徴収する事も忘れない。

 

パルスィ「…終わったわよ。要望通りABSは無効にしたわ。後足回りのセットを多少見直したわよ」

 

アリス「…えっ。もしかしてパーツ変えたの?」

 

パルスィ「そこまではやってないわ。あんたの懐の状況次第だけどそれはゆくゆくやっていくつもりよ。この車はホンダが細部まで拘って造られたから純正品でも性能は良い方よ」

 

アリス「へ…へぇ、そうなんだ…」

 

パルスィ「…何か言いたげな目ね」

 

アリス「へっ?そ…そんな事無いよ~…」

 

パルスィ「バレバレよ。何年あんたの友達やってると思ってんの。

 

大方(おおかた)さっきの話の事でしょ?」

 

アリス「は…はい」

 

目は口ほどに物を言うとはまさしくこの事。パルスィの性格をよく知るアリスは彼女を怒らせない様に上手い事はぐらかそうとしたがあっさりと見破られた。元々アリスは嘘を付く事が特段苦手としているという性分もプラス(もしくはマイナス?)に働いたとも言えよう。

 

パルスィは先程の大きさとはいかないまでも溜め息を吐いた。今までならこちらがNOと言えば割とすぐに引き下がっていたアリスがここまで食い下がろうとする姿勢を見せるのは初めての事だった。

 

少しだけ興味が湧いてきた。もっとも2つ返事で入るつもりが無い事には変わりないが、アリスの言う走り屋チームに自分を引き入れて一体どうしたいのか。具体的に話を聞いてみるだけならやぶさかではないだろう。

 

パルスィ「…どうせ足回りの確認の為にあんたに付き合うんだから、()()()()話ぐらいなら聞いてあげるわ」

 

アリス「…ありがと」

 

「ついでに」の部分をやけに強調された気もしたが今は気にしない事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

パルスィは足回りの設定を変更した時限定で助手席に乗り込み、パーツは正常に働いているか?自身のセッティングに不備は無いか?を確認する。それはアリスに限らず全ての客に対して等しく行っているチューナーとしてのいわば恒例行事なのである。

 

始めは車内で話を聞こうと思っていたパルスィだったが、アリスに「今は感覚を掴む事に集中したいから本題は山を下りてから話す」と言われたので大人しく待つ事に。だがそれも秋名を走り始めてしばらく経つ頃にはある程度コツを掴んだ風にパルスィには見えたが。

 

パルスィは何事も無くアリスの横に乗っている様に見えるが、実は峠を攻めている時のアリスの助手席には座りたくないと友人達は口を揃えて言っている。魔理沙は余程のトラウマがあるのかアリスの横に乗る事を頑なに拒み、多少の事では動じない霊夢であっても「『ここが秋名で今ステアリングを握っているのがアリス・マーガトロイドである』と脳内で念仏の様に唱えなければ神経が持たない」とまで言われる始末である。

 

良く言ってしまえばキレっぷり旺盛な走り、逆に悪く言ってしまえば頭のネジが数本外れていると形容されるアリスのドラテク。ならば何故パルスィは平気なのか?

 

それは一言で言えば慣れたからである。パルスィも初めてアリスの横に乗った時は母親譲りのグレイシー感満載(本人は無自覚)な走りに悲鳴を上げない事に意識を持っていかれパーツの動作確認どころの話ではなかった。しかし何回も乗っていく内に嫌でも慣れたとの事らしい。

 

それにバトルに発展した場合は話は変わるが、そうでない限りはアリスの走りが破綻する事は絶対に無いという確信がある。その為パルスィも安心してアリスにステアリングを任せている。

 

パルスィの目から見てアリスのドラテクの中で最も評価しているポイントは『ブレーキングポイントを間違わない所』である。

 

コーナーを速く回る技術も全てはブレーキという前段取りを無駄無く済ませてこそ。ここで言うポイントというのは踏みどきと抜きどきの双方を意味する。上手い者とそうでない者との差はコーナー進入時のアプローチのやり方で大きく出る。

 

ブレーキを踏んで車が曲がる事の出来る限界の速度に落としてからブレーキを離す……字面にすると簡単な様にも思えるが、これは相当に奥が深い。何故ならブレーキングポイントは一定ではないからだ。

 

路面が濡れている、砂が浮いている、タイヤの性能、追い風向かい風等々……ブレーキングポイントが常に同じ位置になる事は無い。故に目印になる様な物を定めて…なんてやっているようではコンマ1秒を争うモータースポーツの世界では到底間に合わないのである。

 

パルスィが思うにアリスのドラテクがクレイジーと評されるのは走りにおける考え方ではなく、車を操るセンスがずば抜けていて常人の理解には遠く及ばない位置に居るからであろうと勝手に推測する。

 

走り始めたばかりの頃はやや探り探りの様に見えたアリスの走りも少し経てば最適解を見出だしたようで、迷いの無くなった様子のアリスを横目で見てそろそろ話し掛けても良いかと思ったパルスィが口を開く。

 

パルスィ「…ねぇアリス、あんたこれからS2000をどうしてゆくつもり?」

 

アリス「それってチューンアップの事?」

 

パルスィ「そう」

 

アリス「うーん…」

 

確かにこれからTRPとしての活動が本格化してくると今の戦闘力では心許ない部分が出てくるであろう。群馬県内のみで活動するならともかく、特に走り屋のレベルが全体的に高い神奈川に遠征する頃には今の状態のままという訳にはいかない。現実的な問題として車の性能差をドラテクでカバーするにしても、ある程度のレベルまで行くと通用しない上に限界がある。

 

それ故に車のアップデートは行って然るべき必須課題。パルスィがこの手の話題を振ってきたという事は、すでに彼女の頭の中には明確なプランがあるのかも知れない。

 

アリス「…正直まだビジョンが浮かんで来てないのよねぇ。パルスィには何か考えがあるの?」

 

パルスィ「ええ」

 

パルスィが助手席に座るのにはもう1つの理由がある。それを一言で言えばドライバーの特性や現時点でのレベルを把握する為である。

 

人間の成長速度には差がある。上りか下り、どちらか一本アタックしただけでコツを掴む者も居ればその逆も然り。更にコツだけでなく車の乗り方も人によって随分と違う。アクセルの開け方、シフトの入れ方、ステアリングの切り方、ドリフトかグリップかetc…軽く挙げただけでもこれだけの項目がある。細かな部分を挙げていけばキリがない。

 

そうしたドライバーの癖とレベルを把握した上でパルスィは全体的なチューニングプランを練っている。彼女は段階を踏んだチューンアップを行う為、最初は必然的にライトチューン仕様となる。ABSの解除がライトチューン扱いかどうかはひとまず置いておくとして。

 

アリスのS2000も彼女本人のお財布事情が解決出来ればチューニングの段階を幾らかすっ飛ばす事が出来るのだが。それを可能とするだけのセンスが彼女にはある。

 

アリス「ねぇパルスィ。前々から聞こうと思ってたんだけど、パルスィが手掛けた車って言い方悪いけど結構見た目が地味だよね?」

 

パルスィ「…は?どういう事よ」

 

アリス「だってディーラーのデモカーを見てもGTウイングといったエアロパーツが付いてないし…」

 

パルスィ「…あぁ、そういう事。…あれは私なりの『意思表示』といったところかしら」

 

アリス「…どういう意味?」

 

パルスィ「まぁ、峠向けの車作りにおけるチューナーとしての考えの具現化みたいなものね」

 

先程パルスィは足回り系のチューニングに対する独自のこだわりがある事が判明したが、彼女のこだわりポイントはそれだけに留まらない。むしろ今から語る内容の方が自身のチューナーとしての存在意義をより確固たるものとしている。

 

パルスィ「今時の走り屋ってのはサーキット仕込みのドラテクを峠にそのまま持ち込む人が多いでしょ。それ故に車もサーキット走行に適した改造を施すのは自然な流れだと思うの。その象徴がカナードやGTウイングといった空力パーツね。

 

だけど峠というステージに限定するならばそうしたパーツを付けたところでその性能を充分には発揮しない。

 

考えてもみなさい、峠はサーキットに比べたらアベレージスピードが格段に落ちるのよ?スピードが落ちれば車体に掛かるダウンフォースも当然減る。つまり峠レベルのダウンフォースに空力パーツは不要よ」

 

ただそういう要望があれば話は別だけどと締めくくった。

 

先にも言ったがパルスィ自身はパーツの開発は全くしない。しかし彼女の母親が元エンジニアであった関係上、パーツ開発のノウハウはしっかりと持っている。つまるところ『やろうと思えば出来るがただ単にやらないだけ』なのだ。

 

何故しないのかというと、自動車業界のパーツの開発競争が激化している今この状況で自身が参入しても儲かる見込みが無いからである。勝ち目の無い戦いは最初っからやらないのがパルスィ流なのだ。

 

パルスィ「まぁ1番は車を2台所持して片方をサーキット、もう片方を公道仕様にするのが理想でしょうけど莫大な税金を持っていくこの国じゃあ難しい話ね」

 

パルスィには政治は分からない。しかし1台の車に長く乗れば乗るだけ多額の税金を支払わなければならないシステムに対して思うところは多々ある。

 

アリス母の神綺がそうなのだが、走り屋の中にはハコスカや2000GTなどといった旧車をこよなく愛する人も居る。こうした車は古過ぎるが故に交換パーツがほとんど残っていない事が多い。すなわち故障すれば即廃車となるリスクを常に背負いながら走っているのだ。

 

加えて車に掛かる税金も高い。旧車マニアの中には生活費を削ってでも車の維持費用に充てる人だって少なくはない。

 

車を知らない、興味が無い人からすれば「お金の無駄使いだ」と鼻で笑うかも知れないが、こうした無駄使いのお陰で世の中の経済は回っている事を今一度忘れないでいて欲しい。

 

アリス「パルスィ、もうすぐ下りきるよ。感想はその時に伝えるわ」

 

パルスィ「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

インプレッションを終えて麓の駐車スペースに車を停めた後、2人は近くの自販機で飲み物を買って少しの間くつろぐ事に。アリスはミルクティーを、パルスィは緑茶を買った。

 

セッティングの内容や結果について、一言で言えば文句無しであった。流石は県内の峠小僧の車のチューン及びセットを一手に引き受けているだけあって公道向けのチューンというものを知り尽くしている。無論心配などしていなかったが純正のサスであっても、やり方1つで見違えるほど車は速くなる事を再認識させられた。

 

…やはり他を当たる事など出来ない。なんとしてでもTRPに欲しい人材であるとアリスは思う。

 

そこまで考えていた時ふと視線を感じたので顔を上げると、ペットボトル片手にジト目でこちらを見るパルスィの姿があった。

 

パルスィ「…アンタって昔からそうだけど、本当考えてる事が顔に出やすいよね」

 

アリス「うぐっ」

 

育った環境か、はたまた生まれつきか。いずれにせよアリスは隠し事を隠し通す事が致命的に下手くそであるという事は知り合い達の共通認識である。きっとアリスはババ抜きで最後まで残りそうな性格なのだろう。

 

パルスィは本日何度目になるか分からない溜め息を大袈裟に吐いた。

 

パルスィ「…まったく、そう思い詰めなくても話ぐらいは聞いてあげるって言ってるでしょ。

 

…で、そのTRPとかいうチームのリーダーさんは誰なのかしら?少なくともアンタではないのは確かだと思うけど」

 

アリス「グサリ……ええっと、チームリーダーはーー」

 

確かにアリスは自らが率先して行動するタイプではないが、リーダーの資質が無い事を正面きってから言われると心を抉られる。友人であるが故の遠慮の無い指摘に冷や汗をかきながらアリスは説明する。

 

チームリーダーとなる博麗霊夢とメンバーの霧雨魔理沙の事。その2人の大雑把な素性と具体的な活動方針。そして自分以外に魔理沙がメンバー集めを行っている事を。諸々の説明を聞いている間もパルスィの顔色が変わる事は無かった。

 

パルスィ「…つまりアンタの言う霧雨魔理沙とやらはコース攻略兼マーシャル担当で、博麗霊夢とやらがリーダーで私に興味を持ったって事ね」

 

アリス「そういう事よ」

 

パルスィ「…アンタ、迂闊に口を滑らせ過ぎよ」ハァー

 

アリス「だってメカニックって聞いて真っ先に思い浮かんだのがパルスィだったから…」

 

パルスィ「…信頼の証という意味で受け取っておくわ」

 

敏腕チューナー水橋パルスィとて1人の人間である。メカニック担当の候補としていの一番に浮かんだのが自分だという事はチューナーとしての腕を高く評価しているという事の表れなのだろうとパルスィは思う。それについては嬉しくもあり誇らしくもある。

 

…もっとも、それと依頼を受けるかどうかは別の問題ではあるが。

 

パルスィ「…お腹が空いたわね。今夜はパスタの気分かしら?」

 

アリス「……はいはいそういう事ね。場所はファミレスで良い?」

 

パルスィ「構わないわ」

 

遠回しに飯を奢れと言うパルスィに肩を竦めつつも話を聞いてくれたお礼にと食事に連れて行く事に。奢って欲しいなら正直に言えば良いのにとも思うが気にしたら負けなのだろう。

 

それはそれとしてふとスマホに目をやると神綺ママからの鬼の不在着信が十数件連投されており、頭を抱えつつ折り返し電話を掛けるとクドクドと文句を言われたが、必死の説明の甲斐あってなんとか分かってもらえた。

 

ちなみにその際の代償として『全力抱擁5時間コース』を要求され、更に頭を抱える事となったアリスを見てパルスィは色々と察したという。

 

【完】

 




リメイク前の作品では活動報告で東方キャラの募集をしてましたが、登場キャラを絞る事にした為今回はしません。
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