かませ犬に転生してしまったのだがどうすればいい?   作:但野ミラクル

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皆様大変お待たせしました。筆が想像以上に止まりまして投稿できませんでした。お待ちいただいた方、本当にすいません。


フィブルクの死闘

 畜生……生きた心地がまるでしない。

 脳内で繋がれる謎技術の掲示板を閉じた俺は内心弱音を吐く。

 

 死にたくはない、だが仲間を見捨てられるほど薄情にもなれきれない。そんな中途半端な人間を応援してくれた皆には悪いが、正直勝ち目が薄すぎる。

 原作ではとんでもなく強い仲間のサポートとかなり強かった主人公がギリギリ自己犠牲をいとわず攻撃したおかげで勝てた。……だが今のクロヒメはまだ発展途上。勝てないだろう。キュリエは今の段階でも強いが四凶災最強のベシュガムを単騎で倒せるほどではない。イムさんも強いが流石に勝てるかと言うと難しいと思う。その他だと学園長のマキナさん、聖騎士団団長と聖騎士団副団長ぐらいか。その戦力ですら勝てるかと言うと分からない。

 

 一応原作よりも優位なところがなくもない。まず、この学園の先輩がいること、原作では学園にいなかったので戦力として一応使えなくもない。問題は四凶災と拮抗できる人物がほぼいない上にできる人ですら目の前にいるベシュガムにはなす術もないことだ。

 次にキュリエが聖魔剣と呼ばれる剣を持っていること。聖魔剣はめちゃくちゃ強い力を持った剣である。聖魔剣ごとに能力は違う。キュリエの場合戦乙女のような姿に変身し、高い身体能力と光る武器を作り出す特殊能力を得る。

 後は聖騎士団の団長、副団長が今王都にいることか。彼らは禁呪世界の中でも最強戦力の一角に入る。ここに来てくれたら俺の生存も現実的になるぐらいは強い。多分今は急いで四凶災を探しているとは思う。憶測だが。 

 

 ……改めて見ると絶望的すぎる。

「おい、遺言は決まったか?」

 目の前にいる絶望、ベシュガム・アルグレンは被っている筒帽のつばを触りながら言った。

 ……遺言なんざ言っても無駄だ。言った相手が後で殺されるだけなのだから。だからこれは強者としての姿勢を見せているだけ。一欠片の善意ですらない。ただの素でこのようなことをいう男なのだ。

「ふん、あまりにも遅い。判断も覚悟も何もかも」

 そう言ってベシュガムは俺に殴りかかる。

 ……そう言われても困る。いきなり死ぬから行動しろなんて言われても行動できるのは一握りの人間だけだ。……まあ――

「させるとお思いで?」

「させません!」

「ふん、フィブルク。下がっていろ」

 ここにいるのはそれができる連中なのだが。

 クロヒメ、キュリエ、イムさん。この三人がいなければ俺は既に死んでいただろう。何せ俺の剣はベシュガムの攻撃を防いだだけで折れてしまった。まあ、ベシュガムが化け物なので一撃を耐えられただけでも剣としては優秀だ。ベシュガムの一撃は大体の物を破壊するし、貫通する。剣で受けて折った勢いで俺の体が貫かれる、とか普通にあり得たのだ。

 俺にできることは……一つだけある。有効性があり、再現性もある、大博打が一つ。

 

 だがそれには時間が必要だ。つまり、目の前にいる三人と回りにいるメンバーにすべてを託すしかない。

 俺は三人の後ろで呟く。

「三人とも、今から大博打を打つ。上手く行けばベシュガムを殺せるかもしれない。少なくとも今よりは状況が好転する、そんな手が一つだけある、ただそれには時間が足りない。……難しいのは分かっているができるだけ時間稼ぎをしてくれないか?」

 俺の言葉にキュリエ、クロヒメ、イムの三人は顔を見合せた後ふっと微笑む。

「やってみろ」

「今より状況が悪くなるとは思いませんし、それに時間稼ぎは私の得意分野です」

「任せてください。といっても私は後方支援ですが」

 

 三人は俺の提案を即断で受け入れてくれた。ありがたい。今は時間がないからな。

 俺は三人から距離を取り近くのできるだけ高い所に移動した。

「行け!」

 そして俺は空に向かって今の俺が撃てる最大の大きさ火の魔術を放った。そしてそれを何回も繰り返した。

 魔術、それは人類が使える物理法則を無視する現象だ。魔力という物を使って術式を描くことで魔術は発動される。魔術には火、水、風、土の属性があり、それぞれ特徴がある。火の場合、主な特徴は色々あるが一つ挙げるとすれば、目立つというのがある。

 赤は目立つのだ。だから戦国時代には目立つために赤色の旗を使うものもいた。

 ……なぜ目立つ必要があるかって?それは――

「……何のつもりだ。意味がないのは分かりきっているだろう? 空に魔術を放っても俺には何にもならん」

 博打だ。大博打、どう転ぶかは分からない。

「……なるほど? そういうことか!」

 ……イムさん、今ので分かったの?頭の回転早すぎでは?

 ほら、クロヒメもキュリエも不思議な顔してるよ?なんで分かるのさ。

「そういうことなら全力で行かせてもらいます。術式魔装!」

 え?え?

 ちょっと待て?イムさん?術式魔装できるの?え、うわめっちゃ体光ってる。……まじで術式魔装してる。

 ……術式魔装、それは聖魔剣と呼ばれる剣を使い極々一部の者がとんでもなく強い装備を纏えるようになる代物、めちゃくちゃ強い力だがその代わり術式魔装の難易度はとんでもなく高い、はずである。

 あれ?めちゃくちゃできる人が限られていたはずだよね?なんでできるの?原作でもキュリエしかできてなかったぐらいレアな存在のはずだ。

「なんだ、こいつは」

 内心俺はベシュガムの言葉に同意する。

 なんだよ、この人。

 

 ベシュガムが拳を振るえば避け、蹴れば避け、突進すれば避ける。え?なんで全部避けれているんだ?あのベシュガムの攻撃をまるで先読みしているように対処している。蝶のようにヒラヒラと、柳の木のようにしなやかな動きで全てを回避している。

 ……嘘だろ?まじで?

「……こんな強者がいるとは、驚きだ。とはいえ流石に息が上がってきているな」

「……ふぅー、さて?何のことでしょう?」

「その強がりはいつまで持つかな?」

「いつまでも」

「やってみろ!」

 イムさんはニヤリと口角を上げベシュガムを挑発する。

 ……イムさんの強さは正直想定外のものだったが、それでもいつまで持つか。早く来てくれ、頼む。

「我、禁呪ヲ発ス、我ハ――」

「私たちを忘れていないか?」

 クロヒメは禁呪、キュリエは剣でイムさんを援護する。しかも若干不意打ち気味の攻撃。それでもベシュガムはあまり気にせずイムさんを攻撃し続ける。

 まだか、まだか?

「ぐうっ、くっ」

「ようやく動きが鈍くなってきたか」

「イム!」

「イムさん!?」

 ヤバい、イムさんの動きが捉えられてきた。何発かかすっただけみたいだがベシュガムの攻撃が当たり始めている。

「もう諦めろ、お前たちが俺に勝つことはできないのだ」

「……それはどうですかね?」

「何?」

 ベシュガムの言葉にイムはまるで絶望をしていないかのように答えた。

「クカカカカ!!」

「おや、大当たりのようですね?」

「ん?」

「なっ!? お前は!?」

 そいつは変わった格好をしていた。着流しを纏い、長くうねる髪を後ろで結んだ無精髭の男。その名は――

「ヒビガミ!?」

 キュリエが思わずといった様子で叫ぶ。

「何でここに!?」

「クカカカカ、いや何、お主らを探して王都に来たら四凶災が来ている。しかし四凶災がどこにいるか分からんという状況で赤い光が見えてな。この状況で何の意味もなくこんなことは起こらないと思って来てみたらこれよ。来て大正解だったな」

 ヒビガミの言葉にイム、キュリエ、クロヒメは俺の方を見た。そういうことだ。まあ、何でヒビガミを知ってたかとかは言えないので後で思いっきり嘘をつくことになると思うが許してほしい。流石に正直に転生したとは言う訳にはいかないのだ。

 

 そんなことはさておき、俺ができることは終わった。作中最強と言われるベシュガムとヒビガミを引き合わせた時点で俺の企みは完了したと言っていい。何せヒビガミは戦闘狂。ベシュガムなんていう現時点で最強の存在に興味を持たない訳がないのだ。

「さあ、死合おうか?」

「……なんだ? 貴様、俺と同等、いや……いいだろう。今ここでお前を殺す、光栄に思え」

「クカカカカ!」

 今ここで行われるのは最狂と最凶の戦い。どちらが勝つか、それは神のみぞ知る。

「……とりあえず皆撤退! 死にたくなければ全力で逃げろ!」

 俺は声を張り上げて皆に勧告した。

 

 

 

 

 

 

「フィブルクさん、あの男以外の四凶災は討伐終わりました」

「……やっぱり騎士団長と副団長、キュリエ、クロヒメ、イムさんがいたら流石の四凶災も負けるよね、戦力ひどいもん」

「……あれを除けばの話でしょう?」

「もちろん、あれは今のクロヒメたちじゃ無理です、せめてもう少し時間がないとね」

 俺とイムさんははベシュガムとヒビガミの方に視線を向ける。

「クカカカカ!!!楽しかったぞ、四凶災!!!!」

 ヒビガミはベシュガムの切り離された首を見て心から愉快そうに笑った。

 

 ……なんとかなったか。賭けには勝った。しかしこの後の展開次第ではかなり困ったことになるな。

「なんだ。そこの髪の赤い男、どうやら己に怯えているらしいな。クカカ、己を味方ではないと気づいているようだな、が今は何もする気はない。安心しろ」

「……そうだと助かるな」

 ヒビガミがいないと死んでいたがいても困るのも事実なのだ。何せ分別があるとはいえ戦闘狂だからな。

「ではな。イム、キュリエ、そしてそこの髪の黒い娘と赤い男、また機会があれば仕合おうぞ」

 そう一方的に言うとヒビガミは一瞬でその場から去ってしまった。

 た、助かった……。

「……なんとかなりましたね」

「し、死ぬかと思、アバババ」

「おい!? クロヒメ!?」

「気絶しましたか。凄いプレッシャーの中で戦ってましたからしょうがないですよね。むしろ今までよく持ったというべきですね」

 倒れたクロヒメにイムさんは穏やかな笑みで見つめた。

「……生き残ったのはいいが復旧とか大変そうだな」

「ええ、でも命あっての物種ですから」

「そうだな、……?」

 なんか今の言葉、違和感があったような?……気のせいか?

 まあ、いいか今は生き残れたことを喜ぼう。色々困難はあるだろうができることをまずはやろう。

 ……とりあえず掲示板で生存報告しないとな。

 

 




一応これで完結です。後日談は思い付いたら書こうと思います。ここまでお読みいただいた方ありがとうございました。
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