私、最近一押しのスイーツ店のケーキを持ちながらシャーレの廊下を歩く。
先生と食べたいという気持ちもあるけど、先生は休むという事を知らない。
シャーレの仕事は激務であるという事は知っているけれど、朝からずっとご飯も碌に食べず仕事に取り組んだり、三日三晩、最大五日間睡眠も仮眠程度しか取らず机に向かい続けていたこともある
途中で勿論倒れ、たまたまシャーレにいたらしい救護騎士団に運ばれた。
そんな人だからこそ私みたいな人が監視をしなければならないのだ。
「先生、ケーキ持ってきたよ。」
執務室の扉を開けると返事は無かった。
不思議に思って中に入ると、机の上に突っ伏しながら寝ている先生の姿があった。
「先生、そんな所で寝てると風邪ひくよ、ちゃんとベットで寝なよ」
肩をトントンと叩きながら呼びかけるけど、反応は無かった。余程疲れているのだろう。
仮眠室から毛布を一枚取り掛けてあげた。
ケーキは悪くならないように冷蔵庫に仕舞うと、私は手持ち無沙汰になった。
このまま帰るのはもったいないと思った。
先生の隣の椅子、当番の人が座る椅子に座ると私は先生の顔を眺める事にした。
いつもの大人として先生として見せるキリッとした顔ではなく、子供みたいにあどけない顔についドキドキしてしまう。だからついスマホのカメラ機能に手を伸ばしてしまった私は悪くないはずだ。
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気がついたらあれから2時間程時間が経っていた。
流石にそろそろ起こした方がいいだろうと判断して、肩を優しく叩く。
「んー」
「先生、そろそろ起きた方がいいよ」
寝ている先生を見た事のある人はこのキヴォトスの中で何人いるだろうか。私は何処か特別感に浸りながら肩を揺すっていた。
暫く揺すると、やっと起きたのか目を擦りながら身体を起こした。
「ふふぁー、アズサ……?」
その時、ぴしりと私の額に青筋が走るのが分かった。
先程までの幸せな感情は霧のように粉々になって消え、怒りだけが存在していた。
「わ た し、カズサなんだけど?」
頬をつねりながら言うと、先生は慌てたように「ご、ごめんね、カズサ」と言い直した。
「さっきまで補習授業部に行ってたから……」
「だからって名前間違う?普通」
自分の事ながら面倒臭い女だなと思う。
先生は寝ぼけていていた、そして私は別に先生の恋人でもない。だからこんなに元カノの名前と間違われたみたいに怒らなくていいはずなのだ。
でも、先生から他の子の名前が出るとどうしても自分が抑えられなくなるほどイライラする。
それが2人きりであれば尚更。
「また女の子引っ掛けてきたの?」
「いや、そんなつもりは……」
「先生っていっつもそうだよね、私達に餌をやるだけやって甘い言葉で囁いて暫くしたらポイッとするんだもん。」
「少し語弊がある言い方の様な……」
「私の名前を間違うくらい濃密な時間をアズサさんと過ごしてきたみたいだし」
私がそう言うと、先生は項垂れるように下を向いた。
「……それは、本当にごめん。」
これ以上は私が自分のことを嫌いになりそうだった。自己嫌悪を必死に押しとどめ私は先生ににっこりと笑いかけた。
「許して欲しい?」
「そりゃあ、もちろん」
先生は即座に顔を上げ私の目をじっと見つめるものだから私はつい目を背けてしまった。
「……ケーキ、持ってきたから一緒に食べよう。」
「そんな事でいいの?」
「んじゃ、食べ終わったら一緒に出掛けること。最近気になってるお店あるから」
「どっちも私にとってはカズサと一緒に過ごせるからご褒美みたいなものだね」
「……本当にそういうとこ、治した方がいいよ。勘違いする子も出てくるから」
「わかった、気をつけるよ」
「……でも、私にだけなら許す」
「それじゃ、カズサにしか言わないようにするね」
「……!!///」
本当にこの人には勝てない。これは罰なはずなんだ。
人の名前を間違える様な先生には私みたいな面倒臭い女と一日過ごす罰がお似合いなんだ。