「生きている」という事実に違和感を抱く────
それは、興味をそそられない講義を聞き流している最中。
それは、数少ない友達との他愛もない世間話の最中。
それは、目を瞑り、夢の世界へ入ってしまうまでの物思いの......最中。
込み上げてくる不安は言語化できず、それでも湧き出てくる焦りは留まるところを知らず。
逃れられる結末など存在しないこの世の理は、何時誰が見つめても自明でありながら、その陰をこれでもかと主張する。
────もし、この世界の摂理に抗うつもりがあるのなら。
「ねえ」
「……何?」
「あなた、────し────の?」
「……はあ?急にどうしたのよ」
「────、──────のね」
「……っ! それが──────」
「私は、──────ってだけ」
「どうして……どうして──────ことっ!」
「待ってよ、──────?」
「えっ……」
「とにかく──────でしょ?」
「──────でもっ!」
「──────かしら」
「……え?」
「それじゃあ、あなたには消えてもらうことにするわ、永遠に────ね」
【十月一日水曜日午後五時半 英ヶ野女學校第一訓練場入口】
太陽が姿を消し、垂れこめる雲に覆われた地上は、暗く、それは誰かに見られるのを拒んでいるようだった。
その日もまた、七つ下がりの雨が優しく大地を濡らしていた。
今日、薄い闇と湿気に包まれた私立英ヶ野女學校は、まるで降る雨全てを吸い込んだかのような重苦しい気が溢れていた────
「勘解由さん、少し、いいですか?」
私────京極澪は気づかれないよう後輩の背後にまわり、表情から僅かばかりの怪訝を悟らせ、口調にもこれまた僅かな怒気を孕ませ、前触れもなく話しかけた。
「はっ、はい! 何でございましょうか、澪様!」
悪くない、いや、これは上出来だ。
話しかけた相手は同じレギオンの後輩────勘解由ななだ。
「先程の訓練、全く身が入っていなかったみたいだけれど。……」
言葉を繋ぐような素振りを見せて、わざと繋がない。ここで、一切動かず相手の反応を待つ。
「えっ……えっと、その、はい……」
何を、どう言えばいいのだろうか、分からない────おそらくそんな感じだろう。
「だから、何故ですか? 集中力を欠いていた理由です。今後の訓練に支障が出るかもしれません。隠すことなく全て話しなさい」
「はあ……えっと、はい。さっき? 学校の敷地内で殺人事件があったじゃないですか。ちょっと怖いかな〜って、あはは……なんて。澪様は特に怖くないみたいですね……」
初耳だった。怖いも何も知らないことだもの。しかし、口振り的にはみんな知っている事なのだろう。
怖いというのが本当なのか、ただ興味があっただけなのか……そんなことはどうでもいい。
「ええ、そうですね。しかし、いつも通りでないのは貴女だけ。他の皆さんはいつも通り訓練に励んでいましたが?」
知らなかったということは、決して態度に出さない。
「はい……そうでしたか……? ごめんなさい……」
やはり、だ。事件があったということはみんなが知っていることらしい。私だけが知らないということは、テレビなどで報道されているものでもなく、単なる『噂』に過ぎないのだろう。
この学校の誰かが死体でも発見したのか、それとも────
「……反省しなさい。たっぷりと」
数秒の間を取り、顎を引き、一瞬だけ目を睨めつけ、言葉を発する。
そして、返事を聞く前に、早足でその場から立ち去った。