さて、今回の事件について話しちゃいましょうか。
まずは、事件の概要についてです。
事件が起こったのは、十月一日月曜日午前十一時半以降のことでした。事件現場は英ヶ野女學校学生寮二年棟、澪様の自室がある敷地ですね。
被害者の名前は『萬年 妃乃』。英ヶ野女學校工廠科の二年生で、レギオンまたは予備隊への所属経験はありません。ここに入学してからは、マディックとしてアンチヒュージウェポンを用いて戦っています。その傍ら、一流のアーセナルを目指して勉学に励んでいたと聞きました。
時間的には、本校舎にある学食へと向かう途中だったのでしょう。彼女の武器であるアンチヒュージウェポンは持っていませんでした。
次は、死体の発見についてです。
これは新聞にも載っていたことかと思いますが、発見したのは『頓宮叶愛』教導官と、他数名の生徒とのことでした。
死体の胸にはCHARMでつけられたものとみられる大きな刺し傷があり、出血多量による失血が死因と思われます。まだ検死が行われていないので、詳しい状態までは分かりません。
発見時は既に血溜まりのような状態となっており、生徒達にとってはショックの大きい光景だったそうです。頓宮教導官は他の生徒を現場から離れさせた後、英ヶ野女學校の理事長、経営本部へと通報を入れています。その後、警察への通報が行われたそうです。
「……ここまでで何か、質問はありますか?」
「何故茅ノ間さんは、これほどまでに詳しい状況を知っているのでしょうか?」
「ああ、その事ですか。私、少し調べたんです。実はあの日、被害者の方とすれ違ったんですよね。バスの欠便でたまたま二限目に出れなくて、借りてある寮室から荷物だけとって本校舎に向かうところで、事件の被害者────妃乃様を見かけました」
「待ってください、何故二年棟なんですか? 唯姫さんは一年生でしょう。そこは一年棟に行くところでは……?」
「澪様には言ってませんでしたっけ? 私が寮室を借りているのは二年棟なんですよ。というのも、本来英ヶ野女學校は全寮制ですから、寮はとならきゃいけないんです。でも、入学するときに事情を話して、二年棟にある小さな部屋を特別に貸してもらったんです」
「茅ノ間さんが妃乃さんとすれ違ったときには、何も異変はありませんでしたか?」
「ええ、特に何も。私も話を聞くまでは、事件のことなんて一切知りませんでしたから」
「もう一度聞きます。何故茅ノ間さんはそれほどまでに詳しい状況を知っているのでしょうか?」
「……頓宮教導官に直接聞きましたから」
「直接?」
「はい、直接。それだけの話です。まあ、英ヶ野上層部はだいぶごたついてるって感じはしましたね〜。なんせ、英ヶ野女學校で殺人事件なんて、十年来ですから」
「十年……来?」
「そうですよ? あれ、結構有名な話だと思ってたんだけどなぁ……」
「……私は知りませんでしたが」
「ほら、呪いのスポットなんて、子供っぽい呼ばれ方をするようになったキッカケの事件です」
「呪いのスポット……ですか。犯人は何故この場所で殺人事件を起こしたのでしょう?」
「さあ。犯人の検討もついていない状況ですから」
「犯人の……検討がついていない? どういうことですか?」
「ん? そのまんまの意味ですよ?」
「しかし茅ノ間さんは、殺人犯から私を護るためと……」
「あれは嘘です」
「嘘……何故そのような嘘をつく必要があったんですか?」
「だって、その方が澪様に危機感を与えることができるじゃないですか。まあ、そうじゃなくても澪様が危ない状況なのは変わりませんが」
「危ない状況というのは?」
「さっき私、頓宮教導官と直接話したって言いましたよね。その時に聞いたんです。澪様が殺人犯の第一候補として挙げられている……と」
「……っ!」
「でも、この部屋は何があっても絶対に安全です。捕まる危険性は一切ありません」
「何故そんな事が言えるのですか?」
「それは話せません」
「どうしてですか?」
「……話せません」
「分かりました。無闇に詮索はしません」
「ありがとうございます。さて、困りましたね。今分かっている情報だけじゃ、犯人の検討のつけようがありません。そこで澪様の出番です」
「私……ですか?」
「はい。私は情報を集めます。それを元に考察するのが澪様の役目です」
「情報を集めるといっても、警察の調査が入ると手を触れられなくなってしまうのではないでしょうか?」
「そんなのどうとだってなりますよ。こ〜んな古い建物の敷地、侵入する経路なんて山ほどありますから。夜中にでもちょちょっと入っちゃいますよ〜?」
「……唯姫さんは何故そこまでして私を助けようとするのですか……?」
「当たり前じゃないですか、大切な……大切な先輩なんですから」
「……正直、私は嫌われる側の人間だと思うのですが」
「確かに、周りから見たらそうなってしまうかもしれません。でも、私は澪様のことが大好きですから」
「そう……ですか」
「はい。それで、今の話を聞いて、何か気がついたこととかはありませんか?」
「いえ、特に。強いて言えば、CHARMの刺し傷がある────ということは、犯人は少なくともリリィである可能性が高いですね。しかも斬撃タイプのCHARMじゃないと刺し傷にはなりません」
「確かにそうですね。英ヶ野女学校で扱っているのは『フンアフプー』『イシュバランケー』『グングニル』の三種類です。そして、澪様だけの特別な機体『シバルバー』もあります」
「そうですね。そのうち斬撃モードがあるのは『イシュバランケー』『グングニル』『シバルバー』。つまり、リリィではあっても『フンアフプー』を用いている人は犯人の候補から外れると考えていいでしょう。勿論私も候補に含まれるという訳です」
「じゃあ、外部犯の可能性はあります?」
「ええ。その可能性も無くはないでしょう。しかし、この地域でリリィとしての活動を行える学校は、英ヶ野以外にありません。英ヶ野のリリィ以外が此処に来るなんて相当珍しいと言っても過言ではないでしょう」
「じゃあ可能性としては、英ヶ野のリリィである可能性の方が断然高い……ということですね。他に何か分かることはありませんか?」
「……当たり前のことですが、殺人事件が起きた時間帯に、講義に出ていた人は犯人の候補から外れますね」
「澪様は?」
「出ていません。その時間帯は寮室で寝ていましたから」
「あちゃー、これは真っ黒ですね。周りから見たら怪しすぎます。私から見ても怪しすぎます。でも、澪様はそんなことしないって私は知ってますから。それで、なんで講義に出ていないんですか?」
「サボりました」
「随分とハッキリ言いますね。しかも、その出ていなかった講義って確か……」
「頓宮教導官の講義です」
「澪様、やっぱり疑われても文句言えないですよ? でも、こうやって今、安全な場所に居られるのはラッキーなものです」
「……ラッキー?」
「私がたまたまショッピングモール内のバス停で出会ったから、この場所まで誘導できたんです。もし出会ってなかったら、今ごろ澪様の自室で、私が必死に説得しているところでした」
「そうなったら私は、多分動かないでしょう」
「そこは自覚あるんですね。私と幸運さんに感謝してくださいよ〜?」
「ありがとうございます、か……唯姫さん」
「どういたしまして! 後はまた明日考えることにしましょう」