フェルディナンドC
とある街の市場、ルーグとフェルディナンドは軍の備品を購入するべくやって来ていた。
2人の両手には既に袋いっぱいに詰め込まれた傷薬や砥石、干した果物などがある。
「今日はよく買ったな…」フェルディナンドは袋を抱え直した。
「大軍で移動となると、これぐらい欲しくなるんだな」
ルーグは必要な品を記した紙を取り出し、忘れがないか確認し始めた。
「傷薬、砥石、食料…必要なものは揃ったみたいだな…まだ日が暮れるまで時間があるし、何処か見ていかないか?」
「それはいい、気晴らしに寄っていこう」
2人はそう言って市場の奥の方へ歩き始めた。
2人が目に付いたのは、綺麗な刺繍が縫ってある手拭いを売っている店だった。
「折角だ。
「…王女様ならなんでも好むと思うけどな」
彼女、というのはヴァレンティーナのことだ。
フェルディナンドと彼女は幼い頃から婚約が決まっていた。今はまだ王女は幼く、彼も宰相ではない為契りは結んでいないが、何はそういう関係になる。
フェルディナンドは早速気になるものを見つけた。
「ルーグ、これなんかどうだろうか」
そう言って彼が指差したのは真っ赤な太陽が大きく刺繍されたオレンジ色の手拭いだった。
「私の太陽になる人だ。この様な明るいものが相応しい」
自信満々にいう彼にルーグは少々引いた。
「アイツ…じゃなくて王女様は、目立つ様な物は余り好まない。それに真ん中に刺繍がしてあると使い勝手も悪い。それなら、隣の黄色い花が刺繍された白い手拭いの方が喜ぶと俺は思う」
「なるほど、確かにそれも悪くないな…しかし、こちらも似合うと思うのだが…」
悩みに悩む彼に、「そんなに悩むならどっちも渡せばいいんじゃないか?」とルーグは言った。
「そうだな、そうしよう」フェルディナンドはそう決意すると店主に2枚の手拭いを贈り物用に包装してくれと頼んだ。
「しかし、ルーグはこういった物の選びに長けているな…親がその様な仕事をしていたのか?」店を後にしたフェルディナンドはルーグに聞いた。
「ああ、王都の下町で装飾品の商いを手伝ってたからな、母さんもそういった物を作ってたよ」
「なるほど…それで得意な訳か。お父上は何をしていたんだい?」フェルディナンドがルーグの父親の話題を出した途端、彼の顔が少し寂しく見えた。聞くべきじゃなかったかとフェルディナンドは思ったが、気にせず彼は話し始めた。
「父さんは、俺と母さんを捨てた…らしい。俺はまだ幼くて父親のことなんて何も覚えていないけどな。ただ、母さんは俺が父親の事を聞こうとする度に露骨に嫌がっていた」
「…そうだったか…すまない、嫌な事を思い出させてしまって」
ルーグは父親を極度に嫌う母親を思い出し黙ってしまった。
フェルディナンドには憶えていないといったが、実は一つだけ覚えている事がある。それは、紫色の槍を構えている父親の後ろ姿だ。
それが彼にとっての唯一の父親の姿だった。