不本意ながら女装してダンジョン配信をしてたら、女勇者が厄介ガチ恋勢になっていた   作:こがれ

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第7話

 鳴御(めいご)市。

 東北地方の南部に位置するこの街は、『ダンジョン都市』の異名を持っている。

 

 日本最大のダンジョン密集地帯であり、当然ながら探索者向けの施設や企業も多い。

 

 探索者を育成する探索者大学もひしめいており、その中の一つが詩音の通う学校だ。

 

「スキルとは、魔工学の研究途中に生まれたこのウィルスのようなものによって発生している。これを人体に注入することで、適合した場合にのみスキルが発生する。これは母体の中で胎児に感染することが解っており、君たちのほとんども――」

 

 講義なんて聞いてる場合じゃない。

 詩音の視線は、机の下のスマホに落とされていた。

 

 そこにはハルジオンのチャンネル画面。

 とてつもないほど、チャンネル登録者数が増えていた。

 

 それは望んでいたチャンネルの成長。

 とても喜ばしいことのはず、なのだが。

 

(や、やばい。変な汗出てきた)

 

 小心者の詩音にとって、とてつもないプレッシャーになっていた。

 

 

 

 

 お昼。

 詩音は大学の食堂に足を向けていた。

 

 その進行上の廊下に一組の男女が見える。

 一人は真面目そうだが、オシャレな好青年。

 もう一人は、少し派手な金髪の女性。

 

「えー、流石ですね。また今度、ご一緒したいです!」

「今度と言わずに、今でもいいけど?」

「えー、本当ですかー?」

 

 どうやら男が女を誘っているようだが……

 チラリと、女性の方が周りを見た。

 彼女は詩音を見つけると、ニコリと笑った。

 

「ごめんなさい! この後、友達とお昼の約束してるので!」

「そっか、じゃあまた今度にしようか」

 

 彼女は詩音に駆け寄ると、ささやいた。

 

「助かったわ。顔が良いから話聞いてみたんだけど、なかなか離してくれなくて」

「いや、別に助けるつもりで通ったわけじゃないけど」

 

 彼女は『飯野友歌(いいのゆうか)』。

 詩音の同級生で、数少ない友達だ。

 

 二人は食堂へと歩き出す。

 

「はぁ、私って男運ないのかな。大学入ってからろくな男に会わないし、何だったら最初に声掛けちゃったのが、こんな奴だったしなー」

 

 飯野は詩音を見て、ため息をつく。

 

 入学当初。話しかけてきたのは飯野からだった。

 顔が良いから、という理由で詩音に近づいたが、中身の残念さを知って幻滅。

 しかし飯野自身の、懐に入れた人間を見捨てられない性格によってズルズルと友人関係を続けている。

 

「そういえば、あなた配信やってないでしょ」

 

 飯野は詩音の配信アカウントを知っている。

 ハルジオンではない方だ。

 そもそも、詩音に配信活動を勧めたのが飯野だ。

 

「もしかして私があげた機材、売ったんじゃないでしょうね?」

 

 現在もハルジオンとして使わせて頂いています。詩音は心のなかで感謝する。

 

 詩音が配信用に使っている機材は、安いものでも30万近くするものだ。

 当然ながら詩音にそんなものを買える金はない。

 

『上手く行けば、少しは生活費の足しになるかもよ?』

 

 そう言って機材を与えて、配信をするように勧めたのが飯野だった。

 

「いや、最近はちょっと忙しくて」

「ふーん。まぁ、最初は視聴者つかなくて、やる気そがれるのは分かるけど」

 

 飯野自身も配信をしている。

 カレンのような超人気配信者、という訳では無い。

 そこそこ人気の中堅配信者だ。

 それでも、使い古した機材を詩音に与えられる程度には稼いでいるが。

 

「でも、できる限り続けたほうが良いと思うわよ。今どき、どこで伸びるか分かんないんだし」

 

 飯野は顔をそらして、少し気まずそうに口を開いた。

 

「ま、まぁ? あなたがどうしても配信を続けたくないって言うなら、機材の使い方も覚えたろうし、私のスタッフとして雇っても――」

 

 バッ! と飯野は後ろを振り向いた。

 

「ん? どうしたんだ?」

「いや、なんか最近、嫌な感じ? 殺気? みたいなものを感じるときがあるのよね。こう、肌を火であぶられるみたいな」

 

 そう言って、飯野は不安そうにあたりを見回した。

 特に人の気配はないが。

 

「それ、飯野にヤバいファンが付いてるんじゃないか? ストーカーみたいな」

「……否定できないわね。気をつけよう」

 

 ふと、詩音はカレンのことを思い出した。

 一瞬、自分もつけられているのではないかと不安になったのだ。

 

 しかし、なんだかんだ言ってもカレンは良い子だ。ストーキングなんてしないだろう。

 そもそも詩音とハルジオンは姿が違うのだ。なにも問題ない。

 

 そう結論を出した。

 

「でも殺気なら、あなたのせいかもしれないじゃない」 

「え? なんのことだ?」

「だって――」

 

 その時だった。体が凍てつくような威圧感を廊下の先から感じる。

 

 現れたのは、腰まで髪を伸ばした銀髪の女性だ。

 彼女は『元居紗耶(もといさや)』。

 大学では華恋に並ぶ有名人で、『魔王』スキルの発現者。

 

 普段は眠たげで、涼しい目をしてる彼女。

 しかし現在は、凍りついた氷柱のように鋭く目を尖らせて、詩音を睨みつけている。

 

 そしてカツカツと、『お前に興味なんてない』と言うように、詩音たちの隣を通り過ぎて行った。

 

 そのプレッシャーが遠ざかると、飯野は息を吐いた。

 

「ほら、あの殺気というか、威圧感! あの人が原因の可能性もあるでしょ!」

 

 確かに、紗耶は詩音と会うたびに周囲にプレッシャーをばらまく。

 その恨みのようなものが、飛び火したのではないかと飯野は言いたいのだろう。

 

「そもそも、あなた何したらあんなに怒らせられるわけ?」

「……分からない」

「本当に分からないわけ? じゃあ、なんか接点とかないの?」

「高校が同じだった」

「他には? それが理由なわけ無いでしょ」

 

 しかし、詩音は口をつぐむ。

 明らかに、何かを隠していることがひと目でわかる。

 

「ほら、早く言いなさいよ! これ以上、私の中の、あなたの評価が下がることはないから!」

 

 飯野にせっつかれて、詩音はしぶしぶと言った様子で口を開いた。

 

「付き合ってたんだ」

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