なお、プロ棋士の奇行は大体原作通りだ。
えー、作者様本人との協議の結果、一部内容が変わりました。
九頭竜天衣君、もとい夜叉神天衣君については、あの後、調べられる範囲で調べた。
まず理事長にお話を伺ったところ、理事長の過去の記憶から詳しい経歴を知ることが出来た。
夜叉神天衣君は、世界崩壊後、シェルターと化した聖華学園にて、20年後に訪れるというティンダロスの襲来により滅んだ周回の産まれである。
否、これは正確な言い方ではないだろう。
彼らは生徒会長『姫宮』含めて残存6人というごく少数とはいえ、滅びずに漂流者となったのだから、ある意味で聖華学園がティンダロスにより『滅ばなかった』周回と言えよう。
さておき、彼女は九頭竜八一氏と、その妻であるあい氏の間に生まれた6番目の子供である。
末っ子ということで可愛がられていたらしい。特に天衣の名前を付けた長男のカズキ氏と、次女のもも子氏が可愛がっていたらしい。
そして、彼女の主観で一年ほど前にティンダロスが襲来。
その際に滅びの危機に瀕するも九頭竜あい氏の文字通りの意味での捨て身の献身により、ティンダロスを撃退。
その後1年に渡りティンダロスと戦い抜いて、時に囮となり、時に未来を託しながら逝き、時にお母さんと泣きながら死に、時に最後まで抗うことを選んで立ったまま死に、
時に敵に抱き着いて自爆を発動させる……多くの、多くの死の果て、最後に第13生徒会庶務のアズサが「スレッタ、お前が今日から第13生徒会の庶務だ」と言い残し、
校舎ごとティンダロスを爆破して稼いだ時間を使って最低限の戦力である『第13生徒会』を維持したままティンダロスから逃亡。
彼女の言葉を借りれば将棋を引き分けにしてさしなおしにする「入玉」に成功したらしい。
その話をするとき、基本的に過去周回については淡々と話す理事長は感極まったのか少し泣いていた。まるで『感動巨編の小説でも読んだ』かのように。
次に、ご家族について。
ある意味においては現在もご存命(たまに封魔管が生きてることをアピールするように震えたり光ったりするらしい)で、そもそも転生していない九頭竜あい氏については割愛する。
父親の九頭竜八一氏についてはこの周回での彼を知ることが出来た。
というより様々な逸話を持つ有名人であった。現周回での人格と過去周回での人格を同一視することの危険性は重々承知の上だが、参考程度に記す。
九頭竜八一氏は、現代日本において最強のプロ棋士と言われている。今現在ももちろん将棋を指し、立派に竜王を勤めているらしい。
この周回でも史上最年少で竜王戦を制して竜王になったのを皮切りに数々の伝説的な対局を行い、
竜王になって1年後に行われた竜王位防衛戦で挑戦者として挑んできた『名人』を破って竜王位を守り切り、8段から9段に昇格したという。
その後、数々のタイトルを獲得し、あまりの強さと次々に繰り出される新手の数々から他の棋士たちから『西の魔王』と呼ばれている。
つまり天衣君は『竜王Lv0』兼『魔王Lv0』の娘と言うことになるのだなと気づき少し笑った。
また、八一氏は凄まじいまでの負けず嫌いとしても知られており、プロ棋士になって行われた初対局に負けた時には、
負けた悔しさのあまり東京の将棋会館から神奈川県茅ケ崎まで77.6kmを泣き叫びながら走り切ったのち、
衝動的に海に飛び込んで地元のサーフィン店店員に助けられ、そのまま将棋を辞めると言ってサーフィン店の店員になった1週間後、
泣きながら東京から走り去ったのちに一切の連絡を絶っていたことを心配して大阪から探しに来た師匠清滝鋼介氏他に発見され、連れ戻されたという。
またその師匠の清滝鋼介氏についても弟子である八一氏に雑誌の企画で行った本気の対局で敗北した際に錯乱し、『おしっこおおおおお!』と叫びながら
弟子である八一氏の静止を振り切って大阪の将棋会館5階の窓から小便をまき散らす凶行に出たという。
プロ棋士の勝利への執念とは凄まじいものなのだなと思うと同時に天衣君が『龍王:クトゥルフLv97全データ大公開事件』を起こしたのは、
『彼女にとっての
だけではないかという考えが頭をよぎり…………忘れることとした。
それから、私は天衣君に、自らの考えた技術……九頭竜
彼女は、そう、学園という非常に狭い世界で生きてきたので現代の広い世界とは認識に色々と齟齬があるのだ。
そう説明したら納得してくれたことに安堵した。
そして一か月程が立ち。
『新しい九頭竜
そんな知らせが入った。入ってしまった。
*
聖華学園の、貸し切りした談話室で、彼女らは待っていた。
「お久しぶりです。林水先生。本日は私のためにご足労戴き感謝いたしますわ」
「お久りぶりでございます」
テーブルをはさんでちょこんと座った天衣君に、最初に会った時のように秘書の姿で立つルールー君。
それはまるでお嬢様と従者というより、社長と秘書のようだ……ある意味では間違いではないが。
「ああ、久しぶりだね二人とも、相変わらずなようで何よりだ」
今は彼女らも普段は普通の小学生と中学生として遊んだり、友達と異界に行ったりと活動しているという話は聞いている。
……Lv80もある秘神マルバスを倒すどころか限界までいたぶって仲魔に加えるのが普通の小中学生のやることなのかは、省く。
「さて、そろそろ話を聞かせてもらえないかな?」
覚悟は決めた。私は、しっかりと聞く体制を整えて。
「……実は新しいお友達であるレンに『カジュアル』になってもらったんです」
傍らにいつものようにルールー君を侍らせた天衣君は、そう言った。
「……………ふむ、その、レンという友達に、その、普段着を着てもらったと?」
意味合いが分からず、思わず聞き返す。いったいそれがどう九頭竜
だが、私の問いかけは間抜けに過ぎたようだ。天衣君とルールー君は顔を見合わせて困惑する。
「……? あの、齟齬があってはいけないと思うのであえて説明させてもらうのですが、この周回では『アプリ型悪魔召喚プログラムの使い手』のことを『カジュアル』というのではないのですか?」
「いえ、掲示板の記載からすると、アプリ型召喚プログラム使いかつ悪魔召喚士としての技量の低いものが『カジュアル』と称されると思われます。
悪魔召喚士として充分な技量を有していればアプリ型悪魔召喚プログラムを主に使うものでもカジュアルとは呼ばれないかと。一種の蔑称と思われますので」
二人そろって重ねた言葉で、ようやく理解する。なるほど、キリギリス掲示板を主に見ているのならそういう認識にもなるか。
「いや、すまない。理解した。なるほど、カジュアルか……」
気を取り直して、再度尋ねる。
正直私は、カジュアルという存在には、色んな意味で良い印象がない。
カジュアルとは比較的容易に手に入るアプリ型とされる簡易の悪魔召喚プログラムを使って、現代社会の裏で悪魔を使役する素人の総称である。
大体が悪魔の力を悪用して手軽に欲望を満たす悪党と同義の存在となっており、善性のカジュアルもいないではないが、総じて力不足。
現代の悪魔相手の戦場で戦うには覚悟も経験も足りていない。それが、現場での一般的な評価だった。
「それで、どのようなコンボなんだね?」
だが、悪魔を玩具か何かのように扱うカジュアルは三人寄れば文殊の知恵というものなのか、時に凶悪なコンボを編み出して悪用することがある。
天衣君もその類を見つけたのだろうと『当たり』をつける。キリギリス掲示板でもたびたび話題になるものだ。
……思えば私は少し天衣君を侮っていたのかもしれない。色んな意味で。
「理解されたようですので、説明をさせていただきますね。まずはレンについてですが」
「簡単なプロフィールについて、まとめてあります。これを」
そう言ってルールー君が一枚の書類を私の前にそっと出す。
「ふむ……なるほど。大体理解した」
レンという少女は、文明が崩壊し、悪魔その他の危険な生物や機械が跳梁跋扈する社会で育ち、殺人を初めとした犯罪行為に一切の躊躇がなく、
剣や銃器の扱いに長けるが魔法はほとんど使えない。
10歳の女児という点を除けば、漂流者には珍しくない、いわゆる『モヒカン』などと呼ばれる類の人物の典型であった。
「つまり、このレンという少女に召喚アプリを与えて、悪魔召喚士の見習いのようなものにした、と?」
私の問いかけに天衣は首を横に振る。
「いえ、それは第三段階まで行ってからですね」
「第三段階?うん?つまりどういうことだね?」
私の確認に、天衣君は丁寧に説明を始めた。
「はい、まずですね。レンのスマホに悪魔召喚アプリを入れました」
「うん。それは分かる。それで?」
「はい、その後……」
私の問いかけに、可愛らしい笑顔で答えてくれる。
「旧校舎異界の第一階層から適正Lv50までの階層にいる悪魔のスキルを片っ端から『スキルクラック』しました」
「……うん?」
困惑する私に追い打ちをかけるようにルールー君が解説してくれる。
「この新手が完成したときの『効用』を説明したところ、反省室の皆様が快く協力してくださいました。
生きたまま瀕死にして捕獲し、レン様の目の前に連れて来てスキルクラックしながら殺すことで効率上昇する『九頭竜
どうやら特別保護教室、通称『反省室』にいる子供たちの力を借りたらしい。
基本的に以前の周回の文明に染まりすぎて、たとえ非人道的であっても矯正しなくては現代文明社会では生きていくことが困難だと判断された子供たちのはずだが……
そういえば先日、大量の銃器を売り払って金を得たと聞いた。それを使ったか。
いや、確かに理事長は普通の学級では絶対持て余すから、と初手で天衣君を反省室送りにすることを決めてはいたが。
……そういえば最近、異界攻略などでたまに姿を見せる、異能者の子供の集団が『反省室』なる組織の一員らしいという未確認情報があったような。
そして彼らはどこを根城にしているのか、目撃証言からすると数十人はいる規模なのにいくらレルムや街中を探しても見つからない……と。
「そうね。次やるときはもっと楽に行けるわ。反省室のみんなも色々考えてくれたし……アズサが居た頃を思い出したわね」
「天衣様の次に九頭竜技巧を編み出すのがお上手でしたからねアズサ様。ティンダロス襲撃前はもも子様と天衣様とアズサ様がよくベッドの中でパジャマ技巧談義しているのをほほえましく見ていました。
まるで、プリキュアのパジャマパーティー回のようだ、と」
私の困惑をよそに、話がどんどん進んでいく……どうやら今は彼女らの第13生徒会で最後に散ったというアズサという少女の思い出話でしんみりしているらしい。
というか普通にかなり残酷なことしてないか君ら?
「ふむ、つまり、どういう?」
やっと話に割り込むことが出来たところで、天衣君に説明をしてもらう。
「はい。それでまずレンに『自分が欲しいと思うスキルのセット』を選ばせてスキルクラックしたスキルをつけさせるのが第一段階ですね」
「【物理激化】、【物理貫通】はともかく、攻撃スキル捨ててでも【三分の活線】と死なない、もとい【食いしばり】を選ぶあたりはやはりレン様にはセンスがあると思います」
「残りの体力や魔力気にしなくていい通常攻撃強化と前衛が死なないで耐えるのは基本だものね」
そこまで聞いて、ようやく理解が及んできた。
「……つまり、とりあえずスキルクラックでつけられるスキルを全部『自己強化』に回している?」
修行等の一切をすっ飛ばして。
「非悪魔召喚士が比較的お手軽に必要なスキルが生えてくるだけで本当に便利かと思われます」
私の確認に、ルールー君が頷く。
「……なるほど、理解した。それが第一段階で、察するに普通に悪魔召喚士として悪魔を使役出来て第三段階、か……となると第二段階は?」
少しずつ理解が及んできたが……さて、どう言ったものか。
彼女らにとって、カジュアルは『スキルクラック出来る、入れ替え自由なスキルの詰め合わせを新たに覚えた異能者』扱いで、
悪魔召喚アプリと言っても今までやってこなかったのに悪魔を使役する必要なくない?というのが彼女らの意見らしい。
そして、その技術には一つ、先がある。
「相手の特性に合わせて自己強化の方向を変えるのが第二段階です。それはこっちの言葉で言うと確か……メタゲーム?闘技場系のスレでよく使われていますよね?」
「検証したところ、付け替えに必要な時間は平均5分程度でしたので、一度逃げて再戦までに付け替える訓練もいりますね」
そんなことまで試してたのか君ら。将来が今から怖いような、楽しみなような。
「今はまだレンだけだけど増えていけばパーティー単位でのメタもはれると思います。クラックしたスキルの共有はしないから、全員全部使い放題ですもの。
それに【アギ】一つだって【合体魔法発動のトリガーの一つ】として使えますから一通り揃えておけば合体魔法のかなりの部分カバーできると思います。呼吸併せる訓練はまた別ですけどね」
「あとはシロエwiki眺めてクラック先を検討して、旧校舎異界で獲れないスキルのクラックを増やす必要もありますね。
林水先生、さしあたりは【全門耐性】が欲しいところですが、野良でLv60前後のアバドンがいる異界、ご存じないでしょうか?」
つまり第二段階では『5分でお手軽にスキルがガラッと入れ替わる一人の戦士や異能者』が出来るらしい。
もはや変幻自在という領域すら越えた存在。それが一つのパーティーを為していたり、合体魔法を簡単に使い分けられるらしい……理論上は、だが。
「Lv50までだとどこまでなら通じるかしら?MP切れさえなければほぼ大体の状況には対応できるスキルは揃ってると思うのだけど」
「全門耐性が取れればしぶとさだけは行けるのですが、見つかりませんでしたしね。準貫通や貫通が普通になるレベルになると少々苦しいですが、そこまで行ったなら普通にアプリ悪魔なら使いこなせるでしょう」
「呼び出して適当なスキル脳死で連打してくれるだけでもありがたいものね」
そのうえ、どうも彼女にとって、悪魔は本当に手駒でしかないらしい……多分、ルールー君とクトゥルフ以外は平然と使いつぶすだろう。
私はこの前彼女に捕獲された秘神マルバスに少しだけ同情した。
「あ、ごめんなさい。わたしたちだけ話して。それで、一応、レンが第二段階まで実用化できたので九頭竜
「レン様の見た目と、この周回に伝わる愛らしい見た目で敵を油断させて容赦なく首を跳ね飛ばすという兎の怪物から私が考えました」
ここまで悟ったところで、ルールー君がどや顔でスキル名の由来を説明し……
「そ、そうか……」
私はそう答え、考え、そして……
「いいだろう。まずは掲示板にでもスレ立てして反応を見てもらうといい」
そう告げる。
これも教育というものだろう。大いに学んでくれたまえ。
向こうの私は、君の教師だったらしいからね。
生徒に現実を教えるのも勤めの一つだろう。
というわけで続きは本編で!
天衣さんが天ちゃんになってしまったよ……