わたし(店長)
Lv:1
クラス:お菓子屋さん
元ネタ:人類は衰退しました
この世界でずっと生きてきたごく普通のちょっと悪魔が見える系一般人。
デビルバスターだった祖父とイギリスの白魔女だった祖母の血を引いているが、生まれも育ちも生粋の日本人。両親を悪魔事故で失った後に祖父祖母に引き取られた。
寂れた悪魔召喚系商店街の片隅でお菓子屋に偽装した回復薬店『クスノキ洋菓子店』を営んでいた祖母の店を継ぎ喫茶店兼務のお菓子屋をやっている。
お金自体は祖父がデビルバスター時代に稼いだ遺産まるっと受け継いだので余裕があることもあり、お菓子は滅茶苦茶良心的価格。
祖母直伝のクッキー(200円)は、ナッツとハーブの素朴な風味がある、普通にお菓子として美味しい一品。食べるとMPが5回復するのと一部悪魔への贈答品(弱)になる。
色んな意味でコスパが良いので知ってるデビバスが口コミで買いに来ることが多い。
ちなみにケーキ(300円)と紅茶(200円)は普通のケーキと紅茶であり、特殊な効果は無い。味もプロのパティシエには及ばない『料理上手の素人』レベル。
と言いつつ実はSPが10くらい回復する。真心のこもった品なので。実は贈答品(弱)にもなるのだがナマモノにつき持ち歩きには向かない。
その後商店街はレルム化したが、パソコンには疎いためレルム店舗登録していない。
……その結果、昔かたぎの漂流者のたまり場になりつつある。
わたしの一日は、午前5時に始まります。
顔を洗い、前の日に用意しておいたパンをもしゃりもしゃりと食べたあとはお仕事を開始します。
そう、クッキー生地の仕込みです。
(なんだか最近、妙に売れるんですよねぇ……)
前の3倍くらいの量を、朝と昼で2回仕込んでいるのですが、それでも売り切れる日が多いです。特にあの大体お土産にすると買い込んでいく『ヴィーシャさん』が来た日は。
おばあさんの秘伝レシピで作ったクッキー。生地に秘密の『下ごしらえ』をしたナッツとハーブを混ぜ込むのがコツです。
昔はおばあさんの『お薬』のおまけとして用意していた一品らしいのですが、わたしにつくれるのはこれだけなので、これを商品の一つにしています。
まあ、昔から趣味でお菓子作りはしていましたが、所詮は大学受験失敗してニートよりはマシかなで始めたお仕事で、パティシエの学校に行ったわけでもない素人の手作り感あふれるお菓子なんで、お値段はお手頃に一袋200円です。
そうして生地をこねつつ、今日の日替わりケーキを何にするか決めます。
(さて今日は……この前発掘したジャム使っちゃいましょうか)
基準は思い付きと適当です。いいのです、いわばわたしのきまぐれケーキですので。
今日は3年前に仕込んだっきり忘れてた夏ミカンのジャムが良い感じな状態で発掘されたので、それを使ったレアチーズケーキにします。
爽やかで甘酸っぱいケーキになるはずです。とりあえず3ホールくらいですかね。
(あとは定番枠は……ガトーショコラですね)
本日のきまぐれが甘酸っぱい系なのでショートケーキ、ガトーショコラ、チーズケーキの3択の定番の中からは本日はガトーショコラを選択しました。
3種とも作るのは私がつらいので、しません。こっちも3ホール。
そうと決まってからはだいぶ慌ただしく、クッキーを焼いたりケーキを仕込んだり、調理器具を洗ったりと大忙しです。
(そろそろ一人でやるにはつらい量になってきてるんですよね……)
それでもどうにかこうにかすべてオーブンに入れ終えて、片付けもひと段落したところで自分用におばあさん直伝の紅茶を飲みつつ、ため息をつきます。
ここ最近、寂れた悪魔商店街だったこの辺りは、レルムとかいうのになって急速に発展しています。
外に買い出し(大量に使わない細々した材料は基本スーパーで仕入れてます。特にきまぐれの方)に出るたびに、こここんな都会だったっけ?ってなります。
元々が大都会東京だと言っても、再開発の波が着てなかった頃はそんなもんでした。
もうちょっと前の、精々お向かいの悪魔合体屋さんに用事があるサマナーさんが時間つぶしにちょっと寄るくらいだった頃はもう、1ホールずつとクッキーちょっとで一日3,000円も売り上げ行かない、作ったのは晩御飯替わりにわたしのお腹の中に廃棄処分なんて珍しくなかったんですけどねえ。
当然大赤字でしたが、若いころからデビバスでぶいぶい言わせてたおじいさんが残したン億円にも及ぶ遺産があるので、まあそこから賄えば多分末代のわたしが死ぬくらいまでは持つでしょう。
と、思ってたのですが最近ちょっとだけ黒字が出ました。
最近は全部3ホール仕込んでもそれでも売り切れるのが珍しくないとかいう、おかしい売れ行きです。というか喫茶店(笑)が喫茶店になってしまっています。
(……そうだ)
そこでふと思い立ち、わたしはコピー機から1枚A4の紙をちょっぱってきて、ボールペンとサインペン、マッキーを駆使してパパッと一枚の紙を完成させました。
お菓子職人見習い募集!
募集人員1名!(合否は店長との面接の上、その場でお知らせします)
未経験者歓迎!(経験者でも可!むしろ優遇!)
お仕事は簡単!(誰でもできる簡単なお仕事です!)
週休1日!(定休日の水曜日のみ、あと年末年始とお盆、祝日はお休みです)
当社寮完備(洋菓子店2階の客室を1部屋お貸しします)
光熱費無料!(店のお風呂とか台所とか好きに使っていいです。代わりに毎日掃除してください)
一日3食の賄いつき!(たまにでいいのでわたしの分も作ってください。材料は適当に使っていいので)
今なら1日1個ケーキのおやつまでついてくる!
給料は応相談!
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就職希望の方はわたしまでご連絡ください。電話とかめんどいので、直で。
クスノキ洋菓子店店長
……なんかこう、あからさまにダメなブラック企業の募集にしか見えない!?
ノリと勢いで自分なりに誠実に作ってみましたが、思った以上にお向かいさんに相談して募集したときと違い、騙そうとしてる感が出てて怖いです。
やっぱり早坂ちゃん雇った時みたいにまともな業者通じた方がよさそうですね。
(まあ作ってしまったものは仕方ありません)
でもこれで捨てるのも自分がダメ人間と認めることになって悔しいので、とりあえず店の壁にぺたりと張ります。
まあ3日もさらし者にすればあきらめもつくでしょう。
(っと、そろそろですね)
オーブンからケーキとクッキーが焼きあがった甘い匂いが漂ってきたところで、お仕事モードに入ります。
オーブンからケーキを取り出して、切り分け、焼きたてのガトーショコラと、冷蔵庫で奇麗に固まった夏ミカンジャムのレアチーズをひと切れずつ食べます。
(うんうん。これがお菓子屋さんの特権ですねえ)
出来立てのケーキを味見。なんと贅沢なことか。再び入れた紅茶を飲みながらうんうんと頷きます。
この瞬間のためにお菓子屋をやってる気すらします……この後に待ってるアレの前にはこのくらいの贅沢が必須なのです。
(さてと……じゃあ、やりますか……)
次のお仕事はずばり、クッキーの袋詰めです。以前の3倍あるともうこれは工場かなにかでは?となります。
(やっぱり欲しいですよねえ……クッキーの袋詰め代わりにしてくれる人)
後、出来れば重い小麦粉とバターと卵と砂糖を業者から受け取って運搬してくれて使い終わった調理器具洗ってくれて、
簡単なものでいいんで賄い作ってくれて早坂ちゃんが来るまでの接客してくれてお店閉める前に早坂ちゃんと一緒にお掃除してくれる人。
誰でもできる仕事です……全部わたしがやるのめんどいだけで。嘘は言ってない、はず。
……やはりあの募集、ただのブラック企業では?
*
袋詰めを終えていよいよ開店10時……の5分前。
わたしは入り口のプレートをOPENに変えるために外に出ます。
「いらっしゃい。いい天気ですね」
いつものようにお店の前で開店待ちをしていた『常連さん』に挨拶をします。
「……ども」
「もう開店してますよ。入ります?」
「……はい。お世話になります」
滅茶苦茶礼儀正しく挨拶をしてくれる常連さん。10時の5分前きっかりに来るのでもう彼女に合わせてお店開いています。
待たせるのもどうかと思うので。
おかっぱの髪の毛が黒とピンクだったり猫耳生えてたりうっすら頭の上になんか見えたり、基本的には動きやすそうな高校生の制服っぽいのに、
なんか普通に肩にごっついライフルかけてたりするのを除けば、ごく普通の礼儀正しいお嬢さんです。
……まあ、最近のレルムと化した商店街でならそこそこ見るタイプですし?
そんなことを思いながら、お店に招き入れます。
「いつもので?」
「はい。こちらを」
すっと千円札を差し出してくるので、わたしも応じます。
300円の今日のケーキ2つに、2杯分の紅茶ポット1つで200円。お土産にクッキーも200円。
誰が呼んだか1000円セット。結構頼む人が多いうちの定番になりつつある組み合わせです。
「どうぞ」
まあ常連さんは絶対これなので、わたしもすぐ出せるように準備をしておいてます。
常連さんは黙々と奇麗にケーキを食べています。美味しいと思ってはくれてるんでしょう。
定休日以外は毎日着てくれますし、食べるたびに耳がぴくってしますので。
……おや?
「どうかしましたか?」
常連さんが思わず手を止めてじっと壁を見ているのに気づきました。
「いえ、あそこのあれ……」
そう言って指をさした先にあるのは……ああ、さっきわたしがノリと勢いで作った募集広告(笑)ですね。
「……もう、決まったんですか?」
「いやいやいや。ついさっき張ったばかりなので多分見たのすらあなたが初めてですねぇ」
というか見られてたら逆に怖いです。
「そうですか……」
それを聞いて、どこか安心したような顔をして、常連さんは再び黙々とケーキを食べ、紅茶を飲みだしました。
まあ一人静かに、豊かに食べたい人なんでしょう。時々お昼ごろにふらっと現れてホールごと食いつくすサラリーマンの人と同じタイプです。
「おやおやおや。もう空いていますか?」
「はいはい。もう空いていますよ。いつものクッキーで」
「ええ。5袋ほどいただきましょう。それと本日のケーキのガトーショコラに、紅茶で」
そう言いつつ、いつものクッキー目当ての黒仮面さんが姿を見せたのでそれの対応をします。
クッキー、クッキー、時々紅茶とケーキ。
なんかクッキー目当てのお客さん最近多いんですよね。転売ヤーまでいるとかいう冗談みたいな話も聞きます。
良く知りませんが、売れるのはいいことでしょう。
(……おや?あの募集広告(笑)は?)
10時台のお客がひと段落してふと見ると、あの募集広告(笑)が消えていました。
(風にでも飛ばされましたかね?)
まあわたしが社会人経験0の証なアレがこの世から消えてくれたのなら、それはそれでめでたいのでヨシとします。
「おーい。まだ売ってる?」
「あ、はいはーい。おいくつですか?」
まあアレのことは忘れましょう。そう思いながらわたしは接客を続け、ケーキ屑一つなくきれいに食べていただいた常連さんのテーブルを片付けました。
*
クッキーが売り切れるとあからさまに客足が悪くなります。なんかこう、畜生って感じです。
(とはいえおばあさんみたいな白魔女の知識もないので、ああいう類は作れないんですが)
と思いつつもわたしは手早くお昼を済ませた午後1時ごろ、もうすぐクッキーの仕込みのために夕方まで閉店ってときに、最近よく来る常連2号さんと3号さんから相談を受けました。
「はあ。わたしの、ケーキを、ホールで……おおう?」
びっくりしました。ホールケーキの注文なんて初めてです。
というか普通のパティスリーに行くべきでは?(名推理)
「そうなんだ。ルールーさんには世話になりっぱなしだからな。そろそろ、取引ではない、純粋なお礼がしたいと思っているんだ……師匠とも再会できたし」
ごく普通の女の子っぽい恰好をした常連2号さんが言いました。
「それでね、ここのケーキなら絶対喜んでくれると思うんだ!ずっとお世話になって来たもん!」
ちょっと動きやすさを意識した、猫耳と尻尾が生えてる以外はごく普通の女の子っぽい常連3号さんも言いました。
(ああ、なるほど、ルールーさんとやらのお陰でしたか……)
それで大体わかりました。このお二人がどんな人にお礼がしたいと思っているのか。
常連さん2号さんと3号さん、最初はもっとこう……
虐待から逃げてきたのかな?(精一杯のオブラート)って感じの格好してました。
一度だけ利用してくれたのですが、手づかみですごい勢いでケーキを食べた後、お金を置いてそのまま恥ずかしがるように姿を消してしまいました。
……次に来たときは、ジャージ姿で、それから徐々に女の子っぽい格好になっていきました。フォークも普通に使えるようになっていました。
多分それがルールーさんとやらのお陰なんでしょう……これで夜の女っぽい格好(隠語)になってたらこう、色々辞めとけというところでしたが。
「師匠がな、言ってたんだ。一度結ばれた
「その人が好きなものを送るともっと仲良くなれるんだって!それでルールーさん食べるの大好きだし、
『きらきらるー?』が入ったケーキを一度でいいから食べてみたいって言ってたから、ここのケーキが良いと思ったの」
ほう、きらきらるー?それがわたしのケーキにはあるらしいです……
なんかこう、昔どっかで聞いた覚えがうっすらあるのですが、なんだったのか……
「それで、引き受けてはくれないか?」
「……分かりました。どのようなケーキを」
そう言われてしまってはお菓子職人(素人)としては断れません。全力で行きましょう。
「えっとね、ショートケーキ!いちごの!いつも売ってる奴!」
ほう、あえてのド直球にしてド定番、日本人がケーキと言われたらほぼアレを思い浮かべるというイチゴのショートケーキですか。大したものですね。
……あの、やっぱもっとこうちゃんとしたパティスリーの品送った方がよくありません?
そう思いながら、私はメモ帳を取り出して言います。
「分かりました。それではお受け取りの日にちと、連絡先とお名前を。お値段は2,000円になりますのでよろしくお願いします」
1ホール8ピースで2,400円なので、ちょっとお勉強して2,000円。流石にプロと同じ値段は取れないので多分あってるはず。
「……ふっ、取引成立だな」
「おねがいね!」
さらさらと、メモ帳に必要なことが書かれていきます。
常連2号さんが雨宮アマネさん、常連3号さんが雨宮ユニさん。
わたしはこうして初めて常連2号さんと3号さんの名前を知ることになったのです。
*
2時にお店を閉めたらそこからは休憩タイムではありません。クッキータイムです。
無心にクッキーを仕込みます。これ目当ての客多すぎなんですよ!?
とブチ切れつつも焼き上げたところで、助っ人の登場です。
「やっほ~☆きたよ。店長さん☆」
そう、頼れる現代ギャルJKメイド、早坂愛ちゃんです。
「よく来てくれました! 夕方の開店まで時間がありません! わたしは休みますので!」
「りょ。しっかりやすめ~?」
早坂ちゃんが来てくれたので、あとは丸投げしてのんべんだらりと仮眠します。
最近この店忙しすぎなんですよ!?
こうして休まないと夜まで身体が持ちません。そもそもわたしにまともな社会人なんて無理なんですよ!?
などと怒りつつ、寝ます。体力を少しでも回復しておきたい。
「店長。袋詰め完了しました」
「んあ?」
そして開店の30分前に優しく起こされて目を覚ましました。
「本日の天候は晴れですので、客足はやや多めと思われます。それと珈琲の準備に入ってよろしいでしょうか?」
「あー、あー、はい。おねがいしまふ」
早坂ちゃん、普段は普通のギャルなのに仕事モード入ると完璧なメイドになるんですよね。
後、珈琲入れるのが無茶苦茶上手いです。飲むとすごい勢いで心のパワー的なのが回復するの感じます。
高校生のバイトなんて当たりはずれデカいガチャだからとは言われてたのですが、どうやらわたしはSSRを引いたようです。
「では、開店いたします」
「おやおやおやおや……」
夕方の開店後は、基本わたしはクッキーの売り子です。レジの横に座ってひたすらクッキーを売ります。
接客はパーフェクト接客してくれる早坂ちゃんに丸投げです。夕方からの客はここをメイド喫茶かなんかと勘違いされてる方もいらっしゃいます。
普通に客同士でも会話してたりしますし、何というかノリがメイド喫茶っぽいんですよね。
適当接客のわたしではアカンというつもりですか!?……アカンでしょうなあ……
などと思っていますと。
「ん?」
「おや……?」
ほぼ同時に珍しい客と珍しい客の組み合わせが来店しました。
「ひぇ!?」
「……失礼。このご時世か連れがちょっと『普通のピクシー』を見慣れていなかったものでね。いやはや困ったものだ」
よく来てくれる常連4号のヴィーシャさん(本名は一度伺ったのですがアホかと思うほど長いので覚えられませんでした)に連れられた金髪の幼女が悲鳴を上げたヴィーシャさんをフォローしていました。
「はあ……まあ店長、どう見てもピクシー詐欺ですからねぎゃあ!?髪の毛引っ張らないでくださいよぉ!?」
「お前なあ、サマナーが軽々しく情報明かしてどうするつもりだい?ったく、そんなんだから何でもしますので個室ください。雑魚寝部屋だといじめられるんですぅとか言う羽目になんだよ」
よく来てくれる常連5号の、駆け出しサマナーな不知火カヤさんと仲魔?のピアスじゃらじゃらでエロエロボンテージなピクシーであるアロエさんが朗らかに挨拶をかわします。
(昨今はピクシー連れのサマナーもほとんど見かけませんからねえ)
手だけは止めずに動かしながら、わたしはちょっと懐かしく思いました。
悪魔合体のできる雑貨屋さんが向かいにある関係上、ここにはサマナーのお客さんも多くいました。
それで連れてる悪魔の定番がピクシー。弱い安い使い勝手色々と便利さを追求しているので本当に基本でした。
が、ここ1年くらいでだいぶ見かけなくなりました。
やっぱあの、宇宙怪獣騒ぎとかやたら多い見分けのつかなさに定評ある黒仮面さんとかレルムの誕生とかが影響してるのかな?
とは思いますが、おじいさんの遺言で悪魔業界にはこうして表面を舐めるようにしか関わらないようにしているので、詳しくは知りません。
「いらっしゃいませ。お席にご案内します」
早坂ちゃんが席に案内しています。さりげなく、あえてお互いに遠い席に。ああいうの出来ちゃうのがマジメイドだと思うんですよね早坂ちゃん。
「最近社員の間で流行っている『極めて優秀な携行食』の出所を探りに来てみれば……やはりネットを眺めているだけでは分からん世界もあるということか」
「……カヤ、ここにいる連中の顔、覚えておきな。今、ここにいる連中は、プロだよ」
それからお互いにパートナーと普通に会話していたようです。ここからでは何話しているのか分かりませんが。
「驚いた。ここの珈琲は絶品だな!ナツメから紹介されたルブランにも匹敵すると見ていい。ケーキもまあ、悪くない……なるほど『会食』には使えんが『世間話』をするにはもってこいだなココは」
「……アンタね、ちょっとは遠慮ってもんは無いのかい?それで5杯目だろ……まあこんなに美味い珈琲はアタシも久しぶりだけどさ。ケーキも真心籠ってて、アタシは好きだね」
よく聞こえたのは早坂ちゃんの淹れた珈琲の評価でした。
あれだけ他より高い1杯500円お替り不可なのに、普通に売り上げめっちゃいいんですよね。そしてわたしのケーキの評価の微妙さよ。
……もういっそ、ちゃんとパティシエの学校通った方がいいんでしょうか?
そう思わされる一幕でした。
*
ケーキもクッキーも売り切れて長かったいつもの一日も終わりかけた頃、一人のお客さんがやってきました。
「申し訳ありませんお客様。本日はすべての商品が売り切れてしまいまして……」
「あ、あの、これ……」
ちょっと息を弾ませながら、どっかで見た気がする手書きの紙と一緒に『履歴書』と書かれた封筒を取り出したのは、常連さん。
毎日毎朝来てくれる、可愛い女の子です。
「え?履歴書……ああ」
なんのことやらと思ったら、思い出しました。アレです。一瞬の思い付きで出したお菓子職人見習いの募集。
常連さん、まさかのお菓子職人志望でした。
「まあ、あの条件でいいというならさ「それでは、面接を開始させていただきます」」
わたしなんかの下でいいのかなと思いつつ即採用しようとしたらものすごい勢いで早坂ちゃんがインターセプトしてきました。
「店長。もし、仮に、彼女が採用されるのであれば、それは私と同僚になる、ということです。でしたら私の意見もお聞き願えませんか?」
「……はい。そうですね」
ぐうの音も出ない正論を言われたので、黙りこくります。
というか早坂ちゃん、本当にJKです?
そう思いますが、最近のJKは賢いんだなと思って黙っていることにします。
私はもうJKやめて5年以上たつので。
早坂ちゃんは面接をすると言いながら、常連さんが出してきた履歴書には目もくれません。
真っすぐに常連さんを見ながら、言います。
「……漂流者の方とお見受けします。そして、京の香りと血の臭いも感じます……さて、教えてくださいませんか?野良猫をやめて飼い猫になる気があるのなら」
「……分かりました。私は……」
ひょーりゅーしゃ?
なんかこう二人の間でだけ通じる会話の後、常連さんは滔々と語りました……『どこの映画の話ですか?』と言いたくなるような壮絶な人生を。
……そして2時間後、わたしはクスノキ洋菓子店にとって初めての社員となる常連さんこと『杏山カズサ』ちゃんを迎え入れたのです。
というわけで新キャラ2号の紹介。
杏山カズサ
Lv:45
クラス:獣人系暗殺者→お菓子職人見習い
元ネタ:ブルーアーカイブ
旧周回に置いて存在した八咫烏系暗殺機関『彼岸花』で育った暗殺者。
名家の生まれではあったが悪魔の血が強く出た猫耳で産まれてきたために名家から捨てられそのまま彼岸花で育てられた。
彼岸花で鉄砲玉同然の殺し合いを淡々とこなして生き延び、彼岸花が崩壊した後は流されるようにヤクザの用心棒をやっていた。
その頃の戦いっぷりからヤクザ時代には『キャスパリーグ』という二つ名を持っていた。
世界崩壊の際に、そのまま死ぬつもりが死にきれずにこの周回に流れて来て、そのまま物理系デビルバスターをやっていたが、
行きつけのお店がものすごい好条件の募集をしてたので速攻で応募してお菓子職人見習いになった。
彼岸花時代の訓練のお陰で炊事洗濯家事房中術は一通りこなせるが、お菓子にかんしては素人。