Re;Start   作:ぶらまに

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ネタばれ
メガテニストではない魔王様(愛称)、ガイア再生機構(ランツェナーヴェ)を撃退している東のミカド国っぽい異界神話『ユルゲンシュミット』と、聖華学園(将棋)以外の世界よく知らないので、自分が言うほど変な存在だと思っていない。
理論上は存在するはずレベルの珍種な上に、まいんママのトラウマ直撃存在だなんて夢にも思わなかった。

そして本編に出てこない限りはコイツも出てこない。
優先順位がマイン>>>>>>>>世界なので、まいん次第ともいう。

そして今回は、前々からネタ的には出てたこの子。

九頭竜もも子
Lv:67
クラス:ケガレビト
元ネタ:すもももももも ~地上最強のヨメ~

概要
九頭竜一族最強の脳筋。まいんの双子の妹にしてある意味九頭竜そのもの。

九頭竜技巧(スキル) 九頭竜殺し(ウルトラロマンティック)の一撃で
死に瀕した際九頭竜の魂は滅びに怯え、本能的に生き残る道を選んだ。

もはや残骸と化した肉体を捨て、あの場にいた自らを殺した女の身体に、
魂だけで潜り込んだのだ。
最初は、女の身体を乗っ取るつもりだった。
だが女の魂はあまりに複雑怪奇かつ強力で、九頭竜如きにどうにかできるものではなかった。
そこで、九頭竜は次善の策として女の子供に宿ることにした。
胎児の頃からいずれ自らの肉体に適合する身体に改造しつつ、機を待つのだ。
最初の子で産まれれば怪しまれる。
2番目の子にしようなどと考える程度には狡猾であった。

……九頭竜のもう一つの誤算は、2番目の子が双子であったことと、
片割れが強力無比な【大天使の加護】を受けていたことであろう。

かくてロクに何も出来ぬまま、九頭竜は産まれ、最後の誤算を体験する。

……世界は、九頭竜が知るものよりも温かったのだ。
居心地の良い環境と優しい家族、たくさんの人々に愛された楽しい暮らし。

いつしか九頭竜はこの小さな世界を【壊す】よりも【守る】ことを選んだのである。
破壊の本能と九頭竜としての記憶を捨てた、ただの少女『九頭竜もも子』として。


事例17.ペルソナ使いと海

マインの家族同然なる我が身より、マインの家族たるものたちへ。旅立ちの前に一つだけ警告を残す。

 

逃げよ。お前たちでは、奴らには勝てぬ。お前たちはあのダンケルフェルガー(夜叉)共の如き

戦巧者ではあると認めるが、それでも、だ。

 

故に私はマインを連れて逃げることにする。

すべてが遅きに失したときの絶望は早すぎる決断による後悔よりはるかに深いと、あの時に学んだ。

……もしそれでも挑まんとするのであれば、この『私』を容易く滅せる『程度』には圧倒的な力と知恵をつけることだ。

すべては明かさぬ。あやつらは多くの未知を抱えている。

なればその未知を暴く手立てこそが、奴らを打ち破るのに必要になるであろう。

 

 

ーーークインタが桂馬のCOMPに残した警告

 

 

ーーー行方不明になっていた、九頭竜まいんさんの死亡が確認されました。明日、葬儀を執り行います。ご遺体は発見できませんでしたので、ありません。

 

「うそだ!そんなの、うそに決まってます!」

校内に流れた放送に、もも子はバンっ!と机をたたき割って激高した。

「お、落ち着いてよもも子……確かに、僕もおかしいとは思うけど」

僕はもも子を落ち着かせながらも、混乱していた。ここまでの流れがあまりにも、速すぎる。

 

昨日の夕方、まいんは行方不明になった。実験中、突然クインタが暴走したのだ。

クインタは何が起きてるのか分からないといった顔をしたまいんを抱き上げ、そのまま学園異界の結界を突き破って『外の世界』に姿を消した。

その現場にはもも子に、僕、それから桂馬にシロエが居たが、全員が何が起きたのか分からなかったほどだ。

 

「……まいんが攫われた!すぐに救援に向かう!もも子、丞太郎。お前たちはかあさんとカズキ兄さんを呼んできてくれ。その後は天衣と一緒に学園に待機。お前の能力は探索には向かないからな」

 

最初に冷静さを取り戻したのは、僕より年下だけど僕よりはるかに強くて冷静だと言われていた桂馬だった。

すぐに学園最強の部隊である『九頭竜一族』を招集し、まいんを探しに行くと決めた。

僕ともも子は手分けしてあい先生とカズキさんを呼びに行って、学園の正門に集合した。

その頃にはあちこちで広まった噂で、理事長他かなりの数の人が集まっていた。

 

「明日までには、まいんが見つからなくても一度戻ってくる……俺たちが留守の間、学園を守ってくれ」

「分かりました!じゃあわたしはまいんが好きなもの!たんとこさえて待ってますから!」

カズキ兄さんに頭を撫でられて、泣きそうになりながらも無理やり作った笑顔で答えた。

(大丈夫。絶対にまいんは無事帰ってくる……)

不安ですぐに泣きそうになるもも子をあやしながら、そう、思っていた……だが。

 

まいんは、あい先生をリーダーにまいんの兄と弟……九頭竜一族が総出で探しに出たはずだ。

それが、一日もしないうちに、死体すら回収できずに死んだなんて報告するのはどう考えてもおかしい。

どうやらそう思ったのは僕だけではないらしい。

 

「……兄さんたちは、何かを隠してる!もう、わたしたちで探しに行きましょう!」

 

もも子はバカだがそういうところは鋭い。僕も同感だったので、僕たちは外の世界に出かける準備をして、こっそりと学園を抜け出した。

外の世界は、18歳で学園を『卒業』するまで出てはいけないことになってたが、桂馬とか年下の『例外』がいるのだからと、冒険気分ですらあった。

……まだ『子供』だった僕は信じてたのだ。世界はこれからもずっと続くし、どんなことだってうまくいくって。

 

そして、僕らは学園の入り口で待ち構えてた、カズキ兄さんたち……九頭竜一族に捕まった。

 

「……正直、もも子ならば絶対やると思ってた。その、ごめんな?」

完全武装に悪魔5体のフル展開。絶対引かないという意思を秘めた格好をしたカズキ兄さんが槍型GUNP『サンライズハート』を抱えたまま正門の前で仁王立ちしていた。

「丞太郎さん。あなたはもうちょっと賢い人だと思ってたんだけど……いや、もも子姉さんに頼み込まれたら折れる、か……」

そのそばでは僕より1つ下だけど既に大人に混じって検証作業をやっているシロエがもも子と一緒の僕を見て、ため息をついていた。

「やはり予想通りだったな……事前に教えなくて正解だったか」

12体の悪魔をフル展開した、この場では誰よりも若いけど、既に次代の九頭竜一族最強と目される桂馬が、殺意すら込めた冷酷な瞳でこっちを見ていて。

 

「……クインタは、追わない。まいんのことは死んだものと思って忘れる。それが私たちの……『九頭竜一族』の結論です」

 

泣いた後がくっきりと残った目で、あい先生がそう告げた。

 

 

……

 

………!?

 

「ふざけないで!そんなの、おかしいじゃないですか!?」

そのふざけた結論に、僕が何かを言う前にもも子が吼えるように叫びをぶつけていた。

……そんな僕たちから一切目を反らさずに、桂馬が冷静に、何故その結論に至ったのかを説明する。

 

「あのとき、ボクは咄嗟にアナライズをした。暴走したクインタの仮面に罅が入って、下の顔が見えそうになっていたからな。

データが変わっているかもしれない、と……分かったのはクインタの、悪魔としての名前とLvだけだった」

分かったことは殆どなかったが、それでもクインタはペルソナではなく、まいんに憑いた悪魔だったらしいことは分かった。

……つまり、本体であるまいんとは独立した存在で、倒してもまいんの精神が崩壊するなどの問題は出ない。

 

「そんな!それだけ分かってるなら!桂馬なら、九頭竜一族ならば勝てるはずじゃないんですか!?今の私たちなら九頭竜だって容易く屠って見せるって!」

僕と同じ結論に達したのであろうもも子が血を吐くように叫ぶ。九頭竜一族が全員力を合わせて戦えば、勝てない悪魔などいない。そう、心から信じているのだ。

「……違うよ。もも子。つまり桂馬は、それだけの情報で、勝てないと判断できたってことだ……恐らくクインタは」

だが、僕は気づいた。気づいてしまった。

 

「そうだ。クインタは九頭竜よりもはるかに強い。正直比べ物にならん。ボクは、ボクら九頭竜一族は、全員がそう判断した」

桂馬が冷静に結論を告げた。クインタはこの学園(せかい)に伝わる伝説の怪物よりもなお強いと。

 

「……あいつが、クインタがもし【魔王】だったなら。わたしはすべてをカズキ達に託して旅立ったかもしれません。刺し違えてでも、殺すと決意できたでしょう。

けれど、わたしにはどうしてもクインタが悪い存在には思えませんでした。まいんへの【深い愛】を感じたから、あの子を不幸にはしないと信じられてしまった」

あい先生が少しだけ、笑って言う。学園で一番恋愛に強く、八一先生を誰よりも愛した人がそういうのならば、きっとそれは正しいんだろう。

クインタは、九頭竜よりも強く、まいんを誰よりも愛していた。その結論からすれば、戦ってまで取り戻すのは、悪手にしかならない。そういう意味なのだろう。

 

そして、桂馬がクインタが何者だったのかを説明する。

「……奴の残していったアナライズデータによればクインタは……【Lv120】の【大天使 アザゼル】だ。Lvと【堕天使としてのアザゼル】の伝承から考えて、恐らくは【本体】だろう」

「!?」

もも子は、その正体を聞いただけで絶句した。勝てない。そう思ったはずだ。

それは僕も同じ。それだけ聞けば、悪魔伝承知識の授業をしっかり受けている子供なら、だれしも同じ結論に至るだろう。

Lv100をはるかに超える大悪魔の本体。それは想像の限界を越えている。

 

アザゼルは、人の女と交わるという誓いを立てて地上に降り立ち、地上の人々に神の知識を与えたことで堕天したという伝承があった。

 

堕天する前の、大天使としてのアザゼル。それはつまり、天から降り立った際の神への誓い通りに一人の女性を愛し、そして地上の人々に神の知識を『もたらさなかった』存在だろう……

それはまさに、まいんを心から愛し、ペルソナとして『まいんが出した命令』だけは、どんな願い(スキル)でも叶えたクインタそのものだった。

 

「当時のみんなが命がけで倒した【九頭竜】のLvが97だった。父さんが理事長から与えられた【最終課題】だって全部Lvは100未満だった。

それより強い、Lv100やたとえ120の大悪魔でも、知恵が足りない相手ならば磨き抜いた九頭竜技巧(スキル)とみんなの力で倒して見せる。そう思って鍛え、備えてきた」

シロエがこれまでの、そしてこれからの敵の想定を淡々という……

 

「……戦術戦略(クズリュウスキル)を駆使できる、Lv120の大天使。それに勝つ道筋はいくら考えても見えなかったし、ティンダロスはそれを『程度』と言い切れる存在、らしい」

だがそれは、それでは全く足りないとしか言いようがない甘い想定だった。

 

「すまないがこのことは、理事長と僕ら、それと承太郎だけの秘密にさせてくれ。今、知ってしまえばきっとみんな戦えなくなってしまうから」

カズキさんが心から苦しそうに言った言葉に、僕は、僕たちは頷くしかなかった。

 

それから、秘密を抱えてこの学園(せかい)は少しずつおかしくなっていった。

 

理事長はすぐに、自分の記憶(Micopedia)を受け継ぐ【完全造魔】を何も知らないエル先生に作らせ始めた。いなくなった【まいんの代わり】を埋めるために。

 

カズキさんは、いつも通りに見えて、どこか無理をするようになった気がする。まだ人間だった頃の蝶野先輩と斗貴子さんが心配しているのが分かった。

 

まいんを失ったもも子は、前以上に強さに、力に執着するようになった。Lv120の悪魔を殺せるようになるのだ。そう言いながら僕を実験台にして【常識】を壊し始めた。

 

シロエは、学園ではすでに忘れ去られていた【旧校舎魔界堕とし計画】を復活させた。なんとしても間に合わせるのだと、顔を真っ青にして呟きながら。

 

桂馬は、自らの手駒12体を【完全な信頼】で縛るのだとご機嫌を取るようになった。【かつての八一先生とあい先生】を参考にしながら。

……死神ペルセポネーの【ハクア】をはじめとして桂馬のただの手駒だった悪魔たちが日に日に強く、賢く、どんどん【あい先生】に似ていくように感じて、怖かった。

 

あい先生は、暇が出来るたびに戦術研究室に行って、そこに飾られている【九頭竜の首】を眺めながら、何かを考えるようになった……ひどく恐ろしい何かを。

 

何も知らない。知らされてない天衣だけが変わらなかった。まいんが死んだと聞かされてすごく泣いたし落ち込んだけど、1か月もすればいつも通りの天衣だった。

 

……そして僕は一人称を【俺】に改めて、より強くなることを決意した。

 

せめてもも子の隣に立てるくらいにはなってやるのだと、身体を鍛え、ニンセン直伝の体術を身につけ、戦うための知識を覚え、俺のペルソナ『ヘラクレス』を磨いた。

それしか俺には思いつかなかったから。

 

 

 

ーーーそして、今に至る。か……

 

「……やれやれだぜ」

あの毎日、誰かが死んで二度と会えないのが当たり前だったティンダロスの戦いの頃と比べれば平和そのものな青い空を眺めながら、俺は途方に暮れていた。

(結局は、八一先生の言ってた俺たちは世間知らずの田舎者だって話が正しかったってえわけか……)

この世界では、18歳までは『子供』扱いだという。天衣とルールーだけじゃなく、第13生徒会には誰一人として『大人』はいねえってことらしい。

 

俺の『故郷』じゃあ、15で『中学』卒業したら一応は『大人』扱いで、それで18までの3年間に『高校』で必要なこと学んで一人前って扱いだった。

15の頃にはもう預言の巫女として大人たちとやりあってたという理事長と、15の時にプロ棋士になったという八一先生。

その二人が俺たちにとっては『大人』の代表格だったから、15になった頃には立派に『大人』として働いていたと言われれば、そういうもんかと受け入れてきた。

 

働く場所こそ学園しかなかったが、それでも、大人と子供はきっちり分けられてた。

ガキの失敗は説教とお仕置きされる程度で済まされたが大人になってからはきっちり『責任』を取るように教えられてきた。

 

八一先生が死んでからの九頭竜一族は色々と『特例』扱いだったが、それでも子供はまだ子供として扱われていた。

……思えばあの日、もも子と俺がまいんを探そうと勝手に学園出ようとしたときに許されたのは、俺たちが『子供』だったからだろう。

 

「俺たちも、第13生徒会も精々こっちの第13生徒会とどっこいどっこいの実力しかなかった……大人なら、こんなもんじゃねえ」

アレは殺し合いじゃなく親善試合(ディッター)だった。だから負けたなんて言い訳は通用しねえのは、天衣ですら理解してるだろう。

 

第13生徒会は、故郷(がくえん)じゃあ最強の代名詞だった。全員が選りすぐりの天才で、全員なら世界を救えるくらい強いか、頭がいいって教えられてきた。

九頭竜一族だって15で『大人』になったらみんな第13生徒会に所属するのが伝統って奴で、どいつもこいつもすごい奴ばかりだった。

 

そしてなにより、あんなにきつい戦いを、天衣に、10歳のガキに一番厳しい役目押し付けながら生き延びてきたんだ。少しくらい『特別』だと思いたかった。

 

けれども、結局は俺たちはただの井の中の蛙だった。小せえ村での『地元では最強』程度に過ぎなかった。

俺たち程度ならその辺にゴロゴロいる。そういう世界だった。

 

この世界の奴らもまた、九頭竜を討伐していた……首1本分なんてけち臭いことを言わず、Lv120の完全体の九頭竜を、だ。

つい最近もレルムにLv90で、この世界のキリギリスでも知らないようなスキルを持つ巨大なユルングが現れたが、至極あっさりと討伐された。

世界にはまだまだ、俺の知らないようなヤバい奴らがひしめいているんだろうが、この世界の連中は、俺たちよりもはるかに強いし、賢く立ち回る。

そういう『本物の天才』がごまんといやがる。

 

恐らくは、Lv120の大天使なんて俺たちではどうあがいても勝てないと思った途方もない代物だって容易く屠れるのだろう。

 

「……やるしかねえか」

やるべきことは分かっている。理事長……巫女様からお呼びがかかるまでレベルを上げて、あの日、もも子が一度だけ見せたテトラカーンをもぶちぬく拳を覚える。

名前は大方『超すごいパンチ』辺りだろう。天衣が一芝居打ってまでノート焼き払ったんだからあるのは間違いねえ。

それさえわかりゃあ後はどこまで自分を信じ、世界を、認知の壁を越えられるかだ。

 

だが、それだけでいいのかという焦りはある。他の第13生徒会は、どんどん『自分にできること』を見つけている。

 

イロハはこの世界の大人や学園に九頭竜技巧を広める仕事をしているし、パピヨンの野郎もスレッタと一緒に、悪魔合体師や技術者たちと何かやっている。

天衣は常識が違う反省室のガキどもと仲良くなり、アホのルールーですら一体何をどうやったのか怪盗とコンタクトを取って怪盗道具を仕入れてきやがった。

 

俺だけが、ただ自分を鍛える以外何もできないでいる。

 

(こういうとき、ペルソナ使いってのは不利だなやっぱ)

 

ペルソナ使いは、技巧に組み込みにくい。故郷じゃあずっと言われてた言葉だった。何せ全員が出来ることも違うし、耐性すらペルソナ次第だ。

一人の『特別』にしか扱えねえ技術は、所詮はどこまで行っても替えもきかねえし技巧の研究も進まねえ『芸術品』扱いだ。

盤面を覆す大駒にはなれても、盤面を整える一枚の駒に使うには使いづらい。そういう評価だった。

中には、ペルソナを最初から捨ててデモニカで戦う道を選んだ奴までいたくらいだ。

 

「……ま、こんなところで油売っててもしゃあねえ。行くか」

だが、俺だってまだ、立ち止まるわけにはいかねえ。そう思い、立ち上がった時だった。

 

「あのう……空条承太郎さん、ですよね? 第13生徒会でペルソナ使いの」

 

「あん?」

後ろから声を掛けられた。

「いやーどもども。えっとその、実はわたし漂流者で、それでちょっと特殊なペルソナ使いで、それでイロハ先輩に相談したら、ペルソナなら空条さんのが詳しいって……」

「イロハの紹介か……分かった。話を聞かせてくれ……っと、名前は?」

そこに立ってたのは、一見するとごく普通に見えるタメくらいの女だった。筋肉はそれほどでもねえが、体幹がしっかりしている。

動きにも隙がねえが、剣術家や武術家の動きじゃない。足場が悪いところで戦い続けてきた軍人の類だろうとアタリをつけつつ、何者か尋ねる。

イロハの野郎面倒くさがって押し付けやがったなと思うが、まあ、イロハの紹介なら悪い奴ではないはずだ。

俺は『異世界での過ごし方のプロ』だったまいんの残したノートの内容を思い出しながら、目の前の女と話すことにする。

 

「はい、重巡(じゅうじゅん) 鈴谷(すずや)です!」

「……スズヤが名前か?」

俺の常識では奇妙だと思った名前でも、普通に接すること。テメエの名前を笑われていい気分になる奴はまず居ない。

九頭竜まいんの残した九頭竜技巧(スキル)のノートに書いてあった。

 

「いえ違いますよ!?重巡洋艦の鈴谷ですよ!?す・ず・や!最上型3番艦の! こっちにもあったって!知らないんですか!?人間としての名前は、その……あったはずなんですけど思い出せません」

すまん。正直聞き覚えがねえ。多分お前の世界だと『常識』だったんだろうが……しかしなるほど、ペルソナに魂が浸食されて自我が薄れるタイプか。

シャドウの方に人間をあわせる憑依型の人造シャドウ使いだな。察するに、その『重巡 鈴谷』ってのがシャドウの名前か。

「ああ、悪かったな。そうか、じゃあ鈴谷って呼ばせてもらうぜ。で、相談ってのは……ペルソナの制御か、進化、どっちかか?」

「分かるんですか!?」

「ペルソナについて、別の系統のペルソナ使いに相談するなら、大体その二つだろうからな」

ペルソナってのは、大体が自分(テメエ)にとっても未知の力だ。

操るのも本能というか、勘でやってるところがあって抽象的で分かりにくく、きっちりと理論立てて説明できるペルソナ使いはほとんどいねえ。

だから、こうして相談に乗ることは大事だ。分からんなりに色々話せば、本人の中でしっくりくることも多いからな。

「で、どっちだ?」

「あの、実は両方……なんですけど」

少し言いづらそうに言った鈴谷の言葉の意味を考えて、次の発言をする。

「制御と進化両方……ペルソナが強くなって、制御しきれずに困ってるってところか?」

「ええっ!?なんで分かるんですか?」

「俺にも覚えがあるからだ」

あのティンダロスとの戦いの最中、俺のペルソナは『サカタノキントキ』から『ヘラクレス』に進化した。

その時に、随分と力が強くなり、スキルも強化されてしばらく扱いに困った記憶がある。

「……実は、こっちに来てから私の『鈴谷』が『鈴谷改』になったんです。ようやくLvが足りて」

「そうか」

とりあえず頷く。鈴谷が鈴谷改になるの意味は恐らくペルソナが第二ペルソナになったという意味で言っているんだろう。

鈴谷の世界じゃあペルソナがLvが上がると進化するらしい。正直初耳だが、向こうにとってはそれが常識なんだろう。

 

誰しも『知ってて当然』のことを『相手が知らない前提』で説明するのは難しいもんだ。そのせいでかみ合わないこともある。

 

だが、今は話の腰を折らないことが大事だと判断した。

「それで、強くなったんですけど、前より色々と、人間だった頃のことが思い出せなくなってて」

「思い出せない?それは記録とか写真を見てもか?」

シャドウによる人間性の侵蝕はよくある話だったらしいが、それで記憶障害が起きるのはあまり聞かない。

 

そういう意味でも俺の知ってるペルソナとは違うようだ……どっちかというと神降ろしに近い能力か?

 

それならLvが上がることで進化するのも納得がいくし、人間性が薄れるってのも神降ろしで悪魔に近づいた異能者には聞く症状だ。

「……こっちに来た時、みんな海の上で、余計な装備とか全然なくて、ペルソナも大破した状態で保護されて……」

その話からすると、思い出の縁になるものがないのも原因の一つだろう。

ただでさえ、殺伐とした戦いを続けていれば人間性ってのは簡単に薄れるし壊れるのは、体験済だ。

「そうか……大変だったんだな」

自分たちのことを思い出せば、その辛さは理解できる気がする。断言はできねえが。

「うん……こっちのこと、全然分からなくて……あたしら『艦娘』だからみんな死ぬまで戦うって言ったのにまだ子供だからって言われて学校入って……

でもみんなと話合わなくて……夕立とか、『改二』になったとたんに性格まで変わっちゃうし……」

ただの相槌だったが、どうやら当たりだったらしい。ボロボロと今の辛さを吐き出していく。

(コイツも、元の世界じゃあ『大人』だった『子供』なわけか……)

その内容に、俺は共感した。恐らく他の仲間くらいしか共有できない悩みなんだろう。俺たちと同じく。

しかも着た時に海の上ってことは、恐らく、本来は水上戦特化型。そんな代物、この学園には恐らく他にいないはずだ。

「……なるほどな」

そこまで聞けば、どうすればいいか。大体わかる。九頭竜技巧(スキル)世界鑑定(ワールドアナライズ)の応用でいける。

大事なのは想像力。相手が何を考えてるのかを想像して、その上でどう対応すればいいかを考えていく。

「……一度、俺と一緒に海を見に行くってのはどうだ?」

「海?なんで?」

そして考えた俺の提案に、鈴谷は首をかしげる。意味が分からないって顔だ。

「ああ、こっちに来てすぐ学園に来たんなら、もうしばらく見てねえだろ。海」

「あ、うん……そうだね。海、こっちに来てから全然……学園から出ないし……」

最初に保護されたのが海で、水上戦特化のペルソナ使い。間違いなく鈴谷の主戦場は海だったはずだ。

ならば、海はコイツにとって故郷そのものと言ってもいいはずだ。俺にとっての学園のように。

……それに、前々から興味もあった。

「それにだ。実は俺は、海って奴を見たことがねえ」

「え!?」

俺の発言に、鈴谷は心底驚いた声を上げた。そんな奴いるのか!?って顔だ。

……もしかしたら、Micopediaにあった滅亡パターンの一つ『大洪水』の後の世界の生まれなのかもしれねえな。

「俺の産まれは、ちいせえ村みたいなところでな。周りに海は無かったんだよ。だから俺は絵とか写真でしか海を見たことがねえ」

「うっそ、マジで!?ありえないんですけど!?」

驚きながらも、敬語が崩れる、多分こっちが鈴谷の素なんだろう。

(なんだ……笑うと可愛いじゃねえか)

そう思えるくらいには奇麗な笑顔だった。

「なんで水が青くて、しょっぱくて、風がなんか潮とかいう変な匂いがするのは知ってる。だがそれが本当にそうなのかは、知らん。

……ここまで相談に乗ってやったんだ。案内くらいしろよ鈴谷。今度の日曜日にでもよ」

「あはは!なんだそれ……でも、うん。りょーかい。せっかくだし、隊の……友達みんな誘っていこ?ジョウタローも一緒にさ」

……なんか、増えてないか?俺は鈴谷だけ誘ったつもりだったんだが。

 

「……ところでさ、ジョウタローは水着はどんなのが好き?」

「あん?水着?……分かんねえな。泳いだこともねえ」

学校にもプールはあったがもっぱら生活用水の雨水貯めておく貯水池扱いで泳ぐのは厳禁だったし、農地用のため池はそもそも近寄るなって教えられてた。

水着なんざ……図書室にちょっとだけあったグラビアくらいでしか見たことがねえ。

 

「そっかそっか。じゃあさ、今度の土曜日、水着買いに行こ?

 榛名さん免許取って中古だけど車買ったって言ってたからそれでさ」

「おいおいおい……そんないきなり進めて大丈夫なのか?確認とか」

どんどん勝手に話が決まっていく……そのことに焦る。どうする?こっちも天衣とルールーでも誘うか?

いや、だめだ。ルールーは日曜の朝8時半から9時は絶対にTVの前から離れねえし、そもそも車が何人乗りか分からねえ。

 

「大丈夫!大丈夫!この鈴谷さんに、任せておきなってね!」

 

その日一番の笑顔で、鈴谷は俺にウィンクしてきた。顔が赤かった。

 

……それから数日後、デカ目の車に乗せられて俺は、ショッピングモールに行くことになった。

俺以外全員、女の子で次から次へと話しかけられて何をどうすればいいのか分からなかった……

 

……もしかしてこれ、桂馬の時と同じ状況なのでは?そう気づいたときには、もう遅かった……

 

 

……『文明が崩壊している世界の女性』や『戦いに日常的に身を置いてきた女性』は、基本的に『肉食系』です。

『恋人候補』とみなされたらあいママくらい熱烈に迫ってくるので注意しましょう。八一パパみたいになります。

 

                                                  ーーー九頭竜まいんの残した九頭竜技巧集ノートより




まあ元々イケメンで偉丈夫で強い上に頭良くてとなれば、ね?

空条承太郎
Lv:73
クラス:シャドウ使い(P4式)
元ネタ:ジョジョの奇妙な冒険

過去に九頭竜もも子への憧れから『獣のように荒々しい自分』を受け入れたことで発現したP4式のペルソナ使い。眼鏡は無いのでTVの中に入ったことは無い。
本来は文武両道の優等生よりの性格だが、生活がすさんでいたのでそっちがメインになっている。
戦闘能力は前に出て物理でぶん殴る!以上という脳筋タイプに見えて物理貫通かつプレロママシマシだけどテトラカーンは貫けない拳と、
テトラカーンに引っかからない万能相性だが火力は低い忍者直伝の雲鷹の手刀を使い分けるクレバーさがある。
また、人間ながら獣の眼光で一手増やせるのも特徴。その増やした一手を状況に応じて使い分けることが出来る。
独学ながらペルソナについてはかなり研究をしている学者肌。学園のペルソナ使いのまとめ役として相談にも乗っていたりした。
もも子への淡い恋慕もあるせいか、割と硬派な草食系。

鈴谷
Lv:35
クラス:シャドウ使い(艦娘型)
元ネタ:艦隊これくしょん 艦これ

最上型重巡三番艦のシャドウ『重巡 鈴谷』を装着したシャドウ使い。
大洪水により海抜が1,000m上がったあと、わずかに残った陸地で細々と暮らしていた日本の鎮守府所属だった。
主な任務は海上に現れる数十億人の大洪水の死者から産まれた【悪霊 デプス(真2)】の変異体『深海棲艦』と海上で戦うこと。
Lvが高い(基礎Lv15+30で『45』が基本値となる)上に幽霊相性なので物理兵器は大体無効化される。
海上での戦闘能力を得るために作られたのが最も新しい伝説である『第二次大戦時の艦』を付喪神(シャドウ)化させて適合する巫女に降ろす『艦娘』システムだった。
基本的な攻撃相性は人間とマシンに優しい『破魔相性』であり、その特性上、海上での歩行と走行が可能であるが、Lvが上がるほど艦そのものになっていき、人間だった頃の自我が薄れる。
エースだった夕立(Lv55)とか浸食が進んで改二で性格まで変わった。

最後は巨大深海棲艦『姫級』に命がけの特攻を掛けて、負けたはずだが気がついたら6人の艦隊全員が大破状態でこの世界の海上に浮いてて海上保安庁に拾われた。
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