Re;Start   作:ぶらまに

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もうこのまま放課後スイーツ部コンプリートまで頑張ろうかな。と言いつつ、複合ネタもいれていく。
『ゴリゴリのタンクだし牛乳飲むとHPとバッステ回復する』ブルアカの仕様を再現しようと設定考えていったら大体こんな感じなりました、ちなみに原作には吸血鬼設定はありません。
なお、作者は真女神転生TRPGの本は持ってないので、実際の吸血鬼のデータはどうなってるのか知らないぞ!

柚鳥ナツ
Lv:58
クラス:吸血鬼
元ネタ:ブルーアーカイブ

概要
吸血鬼こそ正義!真なる貴族!人間は家畜な!という超差別上等世界の『まともな貴族』だった人。
銃と盾を片手に吸血鬼パワーで食らったダメージとバッドステータスをガンガン回復しながら前に立ち続け、味方が敵を倒すまでひたすら殴られるタンクポジ。
ロマンとノブレスオブリージュを追い求めた結果、世界を腐敗させていたガイア再生機構から距離を置いたまま、この世界に来た。
そしてこの世界において、吸血鬼の宿業から逃れる術を見つけた。本人的に、ではあるが。


事例22.クスノキ洋菓子店3 ~ミルク色の誘惑~

まだまだ眠気が強い朝10時。

(ほ、本当にこんなことが許されていいのでしょうか……?)

クスノキ洋菓子店のお持ち帰り用ホールケーキ注文サイトで、わたくしはこんなことをしていいのかと悩みます。

ええ、規約は何度も読みました。問題はないはずなのです。

 

ですが、わたくしの常識ではダメだと警鐘が鳴らされています。ありえない、と。

(ぶ、無礼に当たるとか、そういうことは……)

そう思うと、中々に決断できません。多分、この世界でも非常識だと思うのです。

……わたくしは『吸血鬼』ですからなおさら人間の常識や礼儀作法を理解しきれていないという自覚はあります。

 

はい。わたくしは吸血鬼です。欧州にあったとある吸血鬼の名家の血筋です。真祖でもありますので、支配される恐れはありません。

吸血鬼ですので、わたくしは人間より優れたところがあります。そう教えられましたし、自覚もあります。

 

具体的に言えば、人間よりはるかに頑丈で、バッドステータスに強いのです。

 

……魔術とか剣術とか悪魔の力とか、その辺は、人間でも吸血鬼より優れてる人、この世界だと珍しくありませんし。

むしろ人間の血を吸わないと生きていけないとか、吸血鬼ならではの弱点結構ありますし。でも人間より優れてるのは確かだと。

それで考えていった結果、じゃあ人間に吸血鬼が勝る点がどこにあるかを考えた結果が『防具なしなら人間より頑丈』だったのです。

そうと分かれば、あとは簡単でした。その頑丈さを生かせばいいのです。

人間では手にできないほどの高価な防具を着込み、使い慣れた盾でもって攻撃を受け続ける。まさに貴族ならではでしょう。

 

あとはこう、貴族なんですから下々には優しくするとか、時には人間の手に負えないような悪魔との戦いを代わりに引き受けるとか、

人間でも死ぬのは嫌でしょうから殺すほどには血を頂かないとか、面倒も見れないのに眷属にしないように一度コップに注いでから飲むとか、血を頂いたらきちんとお礼を言うとか、

要望を受けたら物言いが無礼でなければ叶えるかは状況次第でも聞くだけ聞くとか普通にできることはしていました。

 

物語に出てくる貴族って大体そんな感じでしたし、ただ威張り散らすだけの貴族って大体悪役でしたし、ロマンが足りないと思うので。

 

前の世界でも、そんな感じで生きていたのですが、何故か吸血鬼らしくないと言われておりました。

人間より頑丈なのに、むしろ人間を肉壁にするのが吸血鬼らしいというのが、いまいち分からなかったのです。

どう考えても頑丈な方が防御で、頑丈じゃない方が攻撃した方が、強いですよね?そう思ってしまうのです。

 

それでそのままひたすらに生きていて、気がついたらこの世界でした。吸血鬼の貴族の方々と仲良くなされていたガイア再生機構ならなにかわかったのでしょうか?

 

こちらに来てから参加した先日のレイド戦では、わたくしなりに頑張れたという自覚はあります。最前線に突っ込んでいって、敵の攻撃をひたすら受け続けました。

むしろ人間が攻撃を受けそうなときは貴族らしく代わりに受けたりもしました。反撃とかで攻撃しそうな方は流石に邪魔をしてはどうかと思って避けていましたが。

バッドステータスも結構入りましたが、自身の再生能力を生かせたのと幸い援護や回復も手厚く、最後まで生き延びることが出来ましたし、Lvも上がりました。大成功です。

 

そして、たまには自分にもご褒美を……で、訪れたのがクスノキ洋菓子店のお持ち帰り用ホールケーキ注文サイトだったのです。

そこにはあのお店の定番枠の3つのケーキについて、ホールケーキで注文可能であるという、素晴らしいサイトです。

お値段も3,000円とお得でしたし……で、気づいたのです。ご要望欄という、魔性の誘惑に。

 

わたくし、あのお店のショートケーキが、この世で3番目に美味しいものだと思っております。

 

ですが、このご要望欄を使えば、不動の1位である『処女の生き血』すら越えてこの世で1番に出来るのかも、と思ってしまいました。

そして書き込もうとして、これ、アウトではないのかと思った次第です。

(……あ!本日のご注文締め切り、あと1個!?)

などと悩んでいましたら、本日の受付が残り1個になってしまいました。

1日に10個までしか受け付けてくれないので、結構早い者勝ちなのです。

 

ーーー間が悪かったのです。

 

と言い続けるのだけは二度とご免こうむります!思わず送信ボタンを押してしまいました。

……お、送ってしまいました。

 

こうなってはもう、受け付けてくれるかじっと見守るしかありません……果たして。

あ!?返信が来ました!

 

ご要望:ショートケーキのイチゴ抜きをお願いいたします。

回答 :了解しました。値引きは出来かねますので、その分クリームを増量して対応いたします。

 

……こ、こちらの不躾な要望にたいし、さらに上回る返答を!?

クスノキ洋菓子店の店長様は、もしかして凄い方なのでは?そう思いました。

 

そうと決まれば、夜まで仮眠です。夜型なので、しっかりと寝ます。寝坊だけはしないようにしないと。

そう思い、わくわくしながら、眠りにつきました。

 

 

はい。わたしです。Lvも無事に3になりました。

アイリちゃん、やっぱりSSR枠でした。

お掃除が得意です。というかアイリちゃんが来てから箒とかちっこい妖精さんが勝手に気がついたらお店掃除してるとか普通にあります。魔女ってすごいって思います。

お料理は洋食系が得意ですので、カズサちゃんと一日おきで和食と洋食の日ができました。粉から作ったパンをオーブンで普通に焼けるレベルのガチ勢です。

さらにはなんと……アイリちゃん、クッキー作れます!教えて三日で完全にものにしました!

 

「えっと、こちらのクッキーは白魔女の技術で作れるものでしたので……」

とか言いながら出来上がったクッキー、魔女としての格の違い(Lv3とLv61はもう全然違うのは流石のわたしにもわかります)のせいか、ぶっちゃけわたしのより美味しいです。

効力も前より高いらしく、あの見分けのつかなさに定評ある黒仮面さん曰く、魔力の回復量が以前の2倍になったそうです。

 

これでお値段は据え置き200円です。材料は特に変わってないので値上げする理由がないのです。

それにこう、魔女っぽさ全開というか、奥義として色んな小さい妖精呼び出して色々手伝わせてます。

妖精さんも戦うのは嫌でもクッキーちょっと分けてやるから袋詰めしろなら喜んでやってくれるそうです。

……ときどき祭神様が普通に袋詰め手伝ってたりしてカズサちゃんがビクッてするのはご愛敬です。

 

もういくら作っても作る端から売れる状態らしいです。おひとり様の購入制限つけようかなんて冗談が飛び出すほどです……冗談ですよね?

てなわけでクッキーはもうアイリちゃんに丸投げです。なんか時々発作的にチョコミント味量産する以外は良い感じに回ってます。

 

ははーん?これ、もう教えることないですし免許皆伝で弟子卒業ですね!……と言ったらマジ泣きされました。すいません。冗談です。二度と言いません。

 

わたしもまあ、分かっては来たんですよ。わたしのケーキ、どうもちょっとおかしいって。

いやだってチョコミントスペシャル食べたら祭神様が目からビーム出すんですよ?どう考えてもおかしいじゃないですか?

 

で、最近までずっとLv1だったのが一気に3。これはつまりケーキ作れば作るほど強くなる!

……どこまでLv上がっても結局お菓子作れるだけで終わりそうな気しかしてません。お菓子は戦うのには向かないのです。

 

それにケーキを作るためにケーキを作る。それってすごく不毛じゃないですか?作っても美味しく食べてもらえないの、最悪じゃないですか。

 

などと思いつつ、なんかやることないかな、とパソコンを弄ります。開店後って微妙に暇というか、やることないっていうか。

お皿洗いももうちょっと後です。というかちょっとでも油断するとあっという間にカズサちゃんとアイリちゃんのどっちかが洗い終えてます。

……最近もう、わたしはお店の接客いかないのですよね。アイリちゃんとカズサちゃんで満席状態でも普通に回せますし、むしろこう、二人と比べてトロいので。

 

それでなにもしないでどっしり構えていてください!とか言われてもほら、一人だけサボってるってすごく居心地が悪いですし。

 

なので、パソコンでクスノキ洋菓子店のサイトを見ます。日付別に並んだケーキの写真見て明日何しようかなって考えたりして……こ、これはニートになりつつある?

 

などと思いながら、掲示板を見ます、そこにポツンと『HUGっとな』さんの書き込みがありました。

 

HUGっとな:以前、ここのホールケーキを友人より頂いたことがあります。それで質問なのですが、私でもホールケーキを依頼することは可能でしょうか?

てんちょう:できますよ。おねだんは2000えんでした。

 

ぱっと、回答の書き込みしてみました。ふふふ、これくらいならわたしでも出来るのですよ。現代人なので。

 

……はい。その日の夜の営業時間後に滅茶苦茶怒られました。説教タイム入りました。

 

割と平和だった掲示板が大炎上でした。夕方に来た早坂ちゃんが着た時点でメイドモード入ってたレベルでヤバいそうです。

着た瞬間、制服姿なのに完全メイドモードで『店長、営業終了後、大事なお話があります。お時間を頂きますので、よろしくお願いいたします』とか言われたときはマジビビりでした。

 

えー、その、わたしの書き込みは『公式からの正式な回答』とみなされるので、ものすごく慎重に書くべきだったそうです。

具体的には、掲示板で『クスノキ洋菓子店がホールケーキの予約注文を開始する』という噂になっているそうです。

アイリちゃんとカズサちゃん曰くクスノキ洋菓子店ファンスレ(わたしは見たことありません。いやなこと書いてあったらへこむので)でも大盛り上がりだそうです。

 

「『2000円でした』が『2000円です』だったら、大変よろしくないことになっていました」

ち、違いが判らない!?現代のネット社会だとそれだけでそんなに違うんですか!?

 

最初冗談かな?と思いどう違うのか聞いたら、滅茶苦茶色々言われました。

 

原価率とか、損益分岐点とか、利益率とか、廃棄率を考慮した場合の利益確保とか、顧客から見たコストパフォーマンスとか値上げに対する心象とかなんかこうそういうのにもろ効いてくるそうです。

 

そんなの、高卒のお菓子屋さん(数学はいつも赤点ギリギリでした)に出来るわけないじゃないですか!?……早坂ちゃんが普通にJKだというのをうっかり忘れそうのは私だけでしょうか?

 

ていうかちゃんとわたしだって赤字と黒字くらいは分かりますよ!大体全部奇麗に売れれば結構黒字になるように値段決めてます!

……というと絶対怒られるな。ということで黙っています。というか、反論できない空気、的なものが出来上がっています。

 

そして、お話しあいの結果、こんな感じになりました。わたしはただただ質問に答えるマシーンになっていました。

 

・クスノキ洋菓子店でホールケーキの予約注文はもう、開始せざるを得ない。

・営業日のみ引き受ける。受け取りの時間帯は午前10時、午後13時、夕方6時から選択。

・受け取りに遅れてもいいけどその日の営業時間内に取りに来なかった場合はキャンセルしたものとみなして翌朝廃棄。

・一度でも向こうの都合でキャンセルした客の注文は二度と引き受けない。

・ホールケーキの製造はわたししかできないのでわたしが普通にできる範囲として一日に10個までしか引き受けないし、1人1個しか依頼を受けない。

・わたしが体調を崩すなどしたら、受け付けは中止するし、受けた注文を全部キャンセルする旨を規約に記載する。

・輸送トラブルを避けるため、店舗受け取りのみ。本人確認は、アイリの魔術で行う。嘘つきには魔女の呪いが降りかかる。

・作るケーキは定番3種類のどれか1つだけ、要望は簡単なものだけ聞く。

・値段は一律3,000円にする。サイズはお店で普段出してる6号以外なし。

・予約の管理は杏山カズサが主に担当する。

・わたしはケーキの要望についてはカズサと相談してカズサが回答する。『絶対に』直接には回答しないこと。

 

絶対に、を滅茶苦茶強調されました。というか、わたしカヤの外で色々仕様が決まりました。

ちなみに注文サイト部分は、早坂ちゃんが知り合いに依頼して一晩で作ってくれるそうです。

え?出来るの?って思ったんですが、本当に翌日にはサンプルサイトが出来てました。すごくちゃんとした普通の通販サイトっぽいのです。

 

代わりの対価として、お店の売れ残りは全部、早坂ちゃんが値引き一切なしでお買い上げすることになりました……それって対価になるんです?

と思ったのですが、売れ残りを引き取りに来た早坂ちゃんの『お友達』のピンクの髪の人曰く、

『大丈夫です!この品質のケーキならいくらでも使い道がありますよ!』だそうなので、もうそれでいいんでしょう。

 

というわけで、クスノキ洋菓子店でホールケーキの予約注文が開始されました。

……なんかこう、毎日10個は絶対売れます。早いと午前中には予約完売になったりします。

取りに来るの、結構面倒だと思うんですけど、そうでもないみたいです。

まあ、わたしにもこうしてひたすら一日中ひたすらケーキを焼き続けるという素晴らしい仕事が発生したわけですよ。

……うん、まあ何もしないでぼーっと一日が過ぎるのひたすら待つより大分建設的かなとは。

まあケーキ作るの普通に好きですしね。

 

クスノキ洋菓子店に引きこもっていたわたしには、世の中が分からない……

 

などとブルーになっていたある日のこと。

 

「店長、ちょっといい?変な注文が来てるんだけど……」

カズサちゃんがちょっと怒ってる感じで、わたしに聞きに来ました。

(おやおや?なんか珍しいですね)

そう思いつつ、依頼を見ます。

 

ふむふむ。ショートケーキのイチゴ抜きですか。

 

「え?別に普通の依頼では?」

「え!? そうなの?」

わたしの感想に、何故かカズサちゃんが驚いていました。

 

……ああ、なるほど。分かりました。カズサちゃん、お菓子屋さん事情に詳しくないのですね。

 

というわけで先輩風びゅーびゅー吹かせながらお菓子屋さんの『常識』を教えます。

「いいですか?こういう、注文受けてから作るケーキというのはですねえ。お客様の無茶ぶりを出来るだけ聞くものです」

「……そうなの?」

いやだって、日本で一番売れるホールケーキってつまり誕生日ケーキかクリスマスケーキですし?

どっちもネームプレートから何からお客様のご要望受けまくるのが当たり前の世界です。

まあ絶対無理だなってご要望はきっぱり断るのも必要ではあるのですが。

「そうです。それにそもそもイチゴ嫌いな人だっているでしょう?あとはアレルギーとか」

わたしがイチゴ好きでもイチゴが嫌いな人はいますし、イチゴのアレルギーは業界的にそこそこメジャーです。

 

……というか世の中、小麦粉とか牛乳とか卵使わないで美味しいケーキ作れるとかいうすごい人がいるわけですよ。

 

わたしも一度、レシピ通りに自分で作ってみたことはありますが、なんかこういまいちにしか作れずがっくりしました。

この条件で普通に美味しいレベルのケーキ作れるプロのパティシエの人ってすごいなとか思います。

「全然、知らなかった……」

「ふっふっふ。これでも大都会東京でお菓子屋さんをやろうと思うなら常識です。覚えておいてください」

まあほんの1年くらい前までおじいさんの遺産なかったらあっという間に潰れてたであろうお店だったことは言いません。恥ずかしいので。

わたしにも見栄というものはあるのです。

「というわけで回答は『その分クリーム増やしときますね』になります。それが正解です」

「分かった。それで返しておくね」

素直に聞いてくれるカズサちゃん。そういえば15歳とか言ってましたっけ?滅茶苦茶大人びてるので、うっかり忘れていました。

これでも一応はカズサちゃんにとっても師匠になるわけですから、良いところを見せないとならないのです。

 

というわけで、作りました。ショートケーキのイチゴ抜きこと『クリームケーキ』を。

甘いスポンジ!そして生クリーム!以上!という生クリーム好きにはたまらない一品です。

普通に店頭で売ってることはまずありませんが、注文すれば多分作ってくれます。

 

そして、注文した『柚鳥ナツ』さんが来るまで、冷蔵庫の中に眠らせておきました……

夕方6時になっても7時になっても取りに来てくれないので、静かに焦りました。

 

 

閉店まであと10分。クソ、アイツ冷やかしだったのか!?と思ってたころ、一人のお客様がお店を訪れました。

「やあやあ。待たせてしまったね。柚鳥ナツだよ。注文したケーキを受け取りに来た」

「「……いらっしゃいませ」」

あ、ヤバいです。なんかカズサちゃんとアイリちゃんがちょっと怒ってる感じです。すごい事務的に挨拶してます。

いやまあ、閉店時間までならOKで閉店寸前に来るのと、それで悪びれる様子もないのはわたしもちょっとこうどうかと思いますが……

「店長。こちらを。お客様にお出しするのをお願いできますか?……あの立ち振る舞いからして、恐らく店長が御対応すべきかと」

……早坂ちゃん!ナイス!わたしはすっと差し出された予約分のケーキを受け取り、お客様にお渡しすることにします。

「いらっしゃいませ!柚鳥ナツ様!お待ちしておりました!……その、一応ご注文にお間違いないか、確認いただけますか?」

「うん。頼むよ……今回は、無理な注文をしてしまった。すまなかったね」

……ああ、もしかして、閉店間際にきたの、変な注文のケーキを他のお客様に見せないためでしたか。

確認無しで渡して間違ってましたはどっちにとっても不幸ですし。このお客様、かなりいいところのお嬢さんかもしれません。

お気遣いのレベルが高いです……それを一瞬で見抜く早坂ちゃん、本当にJKですかね?

そう思いつつ、御開帳です。

「こちらがご注文の、ショートケーキのイチゴ抜きとなります」

そう言って見せたケーキは、白オブ白。

スポンジをひたすらに白いクリームで覆ってデコレーションしたクリームケーキです。

「……うん。正直期待以上の出来だ。素晴らしい」

「いえいえ。中々に通な選択だと思いました。生クリーム、お好きなんですね」

誉め言葉に調子に乗り、そんなことを思わず言ってしまいます。生クリームとか牛乳系大好きっこですよねこのチョイス。

「うん。そうだね。これを家で食べるのを楽しみにしていたんだ。この時間まで待ち遠しくてね」

「なるほど、ケーキには牛乳派ですか」

「驚いたな。分かるのかい?」

そりゃお菓子に関してなら分かります……まあ、普通に消去法です。

ケーキに合わせる飲み物と言えば、珈琲、紅茶、そしてこのお店では出してない牛乳。あるあるって奴です。

「ええまあ。一応、このお店の店長なのですよわたし」

本当に一応なんですけどね。でもこう、そういう種明かしはせず、かっこつけておきます。見栄をはりたいお年頃なのです。

「……実はね、わたしはこの世界で素晴らしい発見をしたんだ」

「ほほう。どんな発見です?」

「この世界の、本当に丁寧にお世話をされた牛の出す牛乳はね、

 世話をした人間の愛情がそのまま素晴らしいマグネタイトになって宿るんだ。

……牛の乳は、牛の血から出来ている。だからわたしにとっては『代用品』になるようなんだよ」

……わお、めっちゃオカルト方面に話が飛びました。まぐねたいとってなんです?ってレベルです。

辞めてください!お菓子に関しては一応プロの端くれのつもりですが、オカルト方面は素人なんです!

「な、なるほど……つまり、めっちゃお高い牛乳ですねわかります」

なので適当に話を合わせます。丁寧にお世話された牛の牛乳。つまりめっちゃお高い牛乳です。

瓶1本で1,000円とかするやつ。一度好奇心に駆られて買ってきて飲んでみて、確かに味が違うなって感動した覚えがあります。

「……すごいね。これだけで分かるなんて」

お客様も驚いてます。ふふふ、これでもLv3なんですよ。

Lv3がどれくらい凄いか分かりませんが!

ついでに、素晴らしい新メニューを思いつきました!簡単で、すぐに出来て、失敗とか技術とかいらない奴です!

「それに、おかげで新メニューも思いつきました」

お菓子職人としてはまだまだ素人レベルのカズサちゃんでもできるし、しかもすごく楽です。素晴らしいと思います。

「新メニュー?いったいどんなの?」

そお、乗ってきましたね。口調もちょっと砕けて来てます。そう、ずばり。

「ずばりアイスミルクとホットミルクです!1リットルで1,000円くらいするお高いのを200mlのコップに注いで出すだけ!原価200円!これをなんと300円で売ります!」

1リットル1,000円の牛乳が1,500円になります。右から左に流すだけで大儲けです。まさに悪徳商法!

それと流石にそれだけでお金を取るのは良心が咎めるので、同じ値段でホットミルクも出します。普通にお鍋で温めるだけですし。

わたしの経験ではケーキと一緒に牛乳飲みたいって人、結構いるはずですし。

「……安すぎない?」

な、なんですと!?いやだって200円が300円になるんですよ!?技術とかいりませんよ!?

「この世界の相場だと、原価率30%で600円とか700円くらいが普通のはずだよ?」

……いやいやいや。わたしのケーキ2つより牛乳一杯のが高いとか、おかしいでしょう?

そんなん誰が頼むんだよ、って奴です。とはいえまあ、お客様の意見は大事にして。

「……じゃ、じゃあ特別に400円にしちゃいます!」

500円まで行っちゃうと、ケーキ頼まずあれだけ飲みに来るファンが普通にいる早坂ちゃんの珈琲と並んじゃうので、ダメです。そこは譲れません。

「……うん、いいんじゃないかな。それならちょっと気になって飲んでみて、驚くことになるかなくらいになる」

く、お客様、経営とか絶対得意な奴です。頭の、頭の良さが違いすぎる……というか単にわたしがバカなだけ?

「というわけで、今回はご注文、ありがとうございました。気に入っていただけたら、またのご利用をお待ちしております」

と思いつつ、定型文なお礼をします。いいですよね、定型文。先人たちの知恵が詰まっています。

「うん。きっとまた、利用させてもらうと思う。ここのショートケーキ、大好きなんだ……だからこそ、イチゴ抜きで食べてみたかった」

だろうなと思いつつ、ニコニコ笑って、ケーキの箱をお渡しします。

 

「それじゃあ、また……あ、そうか」

最後に、何か大事なことを思い出したかのように、大事そうにケーキの箱を抱えながら言いました。

 

「今のわたしは柚鳥ナツだ。断じてハンネローレ・フォン・ダンケルフェルガーじゃない……そうだね、もうこの世界に来たんだから」

 

……?

なにかこう、クイズかなにかっぽいですが、まあ満足そうなのでヨシとします。

他の人にはどうでもいいことでも本人にとってすごく大事なことってあると思いますし。

そう思いながら、見送ろうとしたところで、一度だけ振り返ります。

 

「ねえ店長さん……次着た時からは、ナツって呼んでくれないかな?そう呼んで欲しいんだ」

 

ああ、フレンドリー対応ご希望のお客様……もといナツちゃんというわけですね。

「はい。またのお越しを……ナツちゃん」

まあ、お客様は神様とも言いますし、そういうフレンドリー対応希望なら答えるべきでしょう。うん。

 

こうして、クスノキ洋菓子店に新しくアイスミルクとホットミルクがメニューに加わりました。

まあ正直あんまり売れるとも思えませんが、ナツちゃんが頼んでくれればそれでいいかなとは思っています。

 

それと、クリームケーキはなんとかご好評を頂けました。

ナツちゃん的には『世界一美味しい食べ物』だそうです。

 




お、おかしい……基本アホの子のはずの店長が途中から普通に頭良くなってしまったぞ……?
コイツ、Lvアップボーナスを知力に振りやがったな!?(言いがかり)
というわけでネタばらし。

ざっくりとした立ち位置は店長さんは現代東京のお菓子屋、早坂ちゃんはプロメイド、カズサちゃんは礼儀作法だけ叩き込まれた下人、アイリちゃんは田舎のお姫様ポジです。

そして、ナツちゃんは、バリバリに貴族でした。本好きの下剋上はいいぞ。
『史書』になるために本当に手段を選ばなかった平民スタートの主人公が頑張った結果、無事『女神の化身』になるまでの物語だ。

ハンネローレ・フォン・ダンケルフェルガー
Lv:58
クラス:吸血鬼
元ネタ:本好きの下剋上(第4部、第5部)

柚鳥ナツの、本来の貴族としての名前という設定。欧州に住まう、吸血鬼の一族だった。
どこぞの異界神話の姫様の転生体なので、すごく貴族っぽくないし、すごくダンケルフェルガーしていた。
異界神話において、二番目に姫様らしくない姫様だった。

一番が誰だったかは、原作読めばきっとわかるよ!(2回目)

ちなみにナツちゃん的にはミルク販売のイメージ画像は下になります。量ではなく、質的な意味で。

ttps://togetter.com/li/2234261
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