Re;Start   作:ぶらまに

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久しぶりに本編である。といいつつ外伝と少しだけリンクさせたりもしてる。
まあ、そう言うこともありつつ、今回の主役。

名前:下江コハル
クラス:天使人間
年齢:15
Lv:17
元ネタ:ブルーアーカイブ

設定
とある周回にて東京からほど近い、ツクバにあった『天使人間』を教育するミッション系スクールの元学生。
頭と腰から黒い羽が生えた天使人間で、破魔と回復、そして銃撃が得意というそこそこよくいるタイプだった。
滅びの時に、一人だけ頑丈なシェルターにもなっていた地下書庫に閉じ込められた結果、一人だけ漂流してきた。
異界化していた地下書庫を現地デビルバスターが暴いたときに発見され、筑波にある『退魔図書委員会』の職員になった。

……最近は、暇を見つけては小説を自作している。


事例37 退魔図書委員会 一般職員

ーーーコハル。あなただけでも生き延びなさい。そして後世に伝えるのです。我ら『正義実現委員会』が最後まで勇敢に戦ったことを!

 

それが、なけなしの、そしてありったけの食料と水をわたしに押し付けた副委員長が最後に残した言葉だった。

わたしは、正義実現委員会では一番弱い下っ端で、一年生で、バカで、後方支援しかできなくて、居てもいなくても変わらない。

そんな評価だったからだと思う。そのことを悔しく思いながらも、どこか少しでも長く生きられることになったことを安堵する自分がいた。

 

そこからは、ひたすらに続く真っ暗闇の孤独。

 

核ミサイルにすら耐えるほどに頑丈な、貴重な資料を保管するために作られた地下書庫は、空気穴はあったけど光が入ってこない。

避難した当初はまだ電気がついたので明るかったが、やがて電気の供給が止まったらしく、それからはずっと真っ暗闇だった。

その、何も見えない暗闇の中、わたしはずっと膝を抱えて、ひたすら寝続けて、寝れないときは楽しかったことだけを思い出して過ごしていた。

敬虔なメシア教徒だったお父さんとお母さんの家に天使人間として生まれたこと。お前こそ我が家の誇りだと言って、何不自由ない暮らしをしていたこと。

旅行で北海道や沖縄に行ったときのこと。向こうで知り合って、文通してた友達のこと。

近所の優しかった同じ天使人間だったガブリールお姉さんのこと。小学校で、強くて悪くて威張ってばかりだった悪魔人間から愚者を守ったこと。

産まれて初めて出会った悪魔を、内心おっかなびっくりだったけど生まれ持った破魔の力で倒したこと。それでみんなにありがとうって言われたこと。

 

……そうして正義の味方に憧れたこと。

 

凄く頑張って勉強して、学校に合格した日にお母さんと抱き合ったこと。合格した日に食べたご馳走とケーキのこと。入学してから正義実現委員会に入ったこと。

学園でも一番強いけど、実はとても乙女な委員長のこと。冷静沈着に見えて、実は結構お茶目なところがあった副委員長のこと。

一緒にいつか副委員長みたいになるんだってみんなで頑張ったこと。合宿で行った大洗の海で日焼けでヒリヒリしたこと……真っ黒だって笑いあったこと。

 

そう言うことだけを考えて、どうしても空腹がつらい時だけ、生きるのに必要な分だけ食べ物と水を少しずつ食べて寝て、一日でも長く生き延びることだけを考えてきた。

だってそうしないと心か身体のどっちかが壊れちゃう。そうなったら正義実現委員会のこと、誰も知らなくなっちゃう。

 

それが一番怖くて、辛いから。

 

……楽しかった記憶のあとに続く、ただひたすらに悲しくてつらいことばかりだったことは忘れようと頑張っても、全然頭から消えてくれない。

 

でも、もう何日もそうして過ごしているうちに、どんどんと楽しいことが思い出せなくなってきて、辛いことばかりが頭をよぎるようになった。

 

お父さんが悪魔に食われたこと。お母さんが目の前で瓦礫に潰されたこと。悪魔が暴れてるのはお前らのせいだって石を投げつけられたこと。

悪魔人間が徒党を組んで、私たち正義実現委員会に襲い掛かってきたこと。そして初めて自分で人間を撃ち殺して吐いた時のこと。

優しかったはずの子がだんだんおかしくなって人間なんてゴミだとか言って殺し始めたこと、意見の食い違いで正義実現委員会同士で殺し合いになったこと。

白い羽の天使が黒い羽の生えたお前らは堕天使だとか言い出して殺そうとしてきたこと。そうして殺されたり攫われた子たちのこと……

 

もうこのまま、死ぬのかなって何度も頭をよぎった。むしろ死にたいって気持ちがどんどん強くなった。

 

副委員長が残してくれたセットに自殺に使える道具は無かったし、戦いに必要だからって銃も手榴弾も全部没収されて持ってかれたのは、そういうことだったんだ。

 

そんなことに気づき、しょうがないので寝そべって、もう食べるものもなくなって、死ぬのを待ってたら。

 

「ここか!新しく見つかった謎の影異界の地下書庫!よし、ここの本はすべて退魔図書委員会が持っていく……って、なんか女の子が死にかけてるぞオイ!?」

 

なんか来た。助かった。それだけ分かって、安堵して気絶して……色々あって私は『就職』した。

 

 

私を保護してくれたのは、このツクバの街を拠点にした私設図書館『退魔図書委員会』だった。

「まあ、こういうのも何かの縁です。行く宛も無いのなら、ここで働いてみませんか?高校生として聖華学園に編入したいのであれば、伝手をたどってもいいですが」

ここの社長であり『退魔図書委員会』の委員長でありそして何より筆頭司書である古関ウイさんは、そう言ってくれた。

私と違って、すごい大人の人で、左手の薬指にはお母さんと同じ、結婚指輪が見えた。

 

私は少し悩んだけど……就職することにした。

 

あんだけ頑張って入ったあの学校以外の学校に編入するのはなんか違うと思った。

……聖華学園には『正義実現委員会』はないみたいだし。

 

そうして私は、退魔図書委員会に就職した。一番下っ端の雑用係だけど、それでも寮で、毎日ご飯を食べてお風呂に入れるくらいには不自由のない暮らしは十分にできる。

お給料だって高校生やってた頃の『おこずかい』と比べるとものすごい多い。先輩方も若い人が多くて、色々と相談に乗ってくれる。

私みたいなロクに戦う力が無い『漂流者』にとっては、ものすごいありがたい場所だった。

 

「いやあ最初は私が高校卒業した後、司書の勉強兼ねて『ニコ君』たちと作った会社ですし、資金は趣味としてニコ君が出すからと

『禁書・魔導書・呪いの本専門図書館』という赤字垂れ流し覚悟なオカルト専門面白スポットを目指していたんですが……何故か独立会計で採算取れてるんですよねえ」

 

ウイさんはそんなことを言って遠い目をしていた。

退魔図書委員会は、そういうオカルト系専門の私設図書館だ。入るだけでも結構高めの入場料がいるし、貸出も有料だ。

夕方の五時になったら普通に追い出されるし、許可なしに本を持ちだそうとすると退魔図書委員会の『地下担当』職員一同が丹念に仕掛けた呪いを食らうという、本当に『本物』向けの場所だった。

 

何の知識もない私は、地上にある開架で本の貸し出しやお客様の出迎え、それから帰って来た本を戻したり、破損した本を修復する仕事をしている。お客様は、結構来る。

 

前はもっと閑古鳥が鳴いてて平和だったんだけど、なんかここ最近、やたら色んな所から危ない本が持ち込まれて解呪や解読依頼されたり、ここにしかない本を読みに来る人が増えたんだよねえ……

 

というのがここで2年くらい働いてる最古参の先輩の弁だ。ここ2年で持ち込まれる本も、ほとんどボランティアみたいな報酬で解読と解呪をする専門家の数も増えたらしい。

それで逆に知識無くても普通のお仕事やってくれるような人は不気味がって増えないからコハルちゃんみたいな子が増えたのは本当にありがたいんだよ。って言われてちょっと面映ゆかった。

 

地上部分の『開架』で公開されてるのは『安全なのが確認できた』本しかない。古い本が多いので扱いには充分注意しないといけないけれど、普通に私でも読める。

といっても外国語や古語で書かれてるのが殆どなので、私にはまだほとんど読めない。

最近は翻訳できる人雇って開架にある本でも良いこと書いてあるの中心に現代訳してみようかなんて話もあるらしい。

 

まだ『呪われてるのか確定していない』のや『本当に危険なのが確定してる』本は、地下の『閉架』で修復や解読、解呪をしている。

それが出来るのは専門の魔術知識を有した魔術師や呪いの解呪に強い聖職者、それかウイさんみたいなオカルトに本当に精通したプロだけで、どれでもない私は、それは出来ない。

 

気合の入った人だと、普通の入場料とは桁が違う特別料金払って、アミュレットやタリスマン、各種防備をしたうえで地下に降りていく。

あとはボキョウとか言われてる謎の黒い仮面をつけた人たち。東京から大量にやってきておやおや言いながら降りていくのは大分不気味ではある。

地上の図書は安全が確保されてるけど、地下はまだ呪われてるようなのや素人だと読むだけで発狂したり呪われたりする本が普通にあるので自己責任。そういうルールだ。

……だからと言って、状態異常回復魔法とか予防に特化してる悪魔までわざわざ用意して、閉架で召喚してまで読むのは、ちょっとおかしいと思う。

 

それと、本の買い取りも行っている。といっても専門の業者からだけど。

「あ、コハルちゃん。さっきロレンスさんから電話があったんだ。15分後につくってさ。出迎えと内容確認、お願いできるかな」

「はい。分かりました。15分後ですね」

そう言いつつ、手早くやってた作業を中断して、駐車場で待つ。

連絡があってから10分後に、一台のオンボロ車が止まって、人が下りてくる。

「やあ、また仕入れてきたよ。当たりだけ選別したけど、外れの分はどうする?」

「一応買い取って、資料館の方に移す方針になったので、ください」

「まいどあり」

そう言って車から大量の本を下ろすのは、悪魔人間の奥さんと一緒に二人で組んでるロレンスさん。

私と同じ漂流者で、元の世界では各地に点在する人間の生き残りの拠点をめぐる行商(トレーダー)をやっていたらしい。

今はこの世界に来た時にも乗ってた車でレルムやシェルターを回って、漂流者から『元の世界の本』を買い取る古本屋をしている。

それを買い上げて解析するのも退魔図書委員会が最近始めた事業の一つだ。

それで、魔導書や呪いの本ならばこのまま閉架送りになるし、そう言うのではないただの本は、全部資料館に送ることになった。

 

「異世界の人が書いた異世界の本、それはそれでワクワクしませんか?それにどれも日本語で書かれてて読みやすいですし」

 

そういう方針になったという。実際、資料館の方も最近は利用者が結構多いらしい。といってもあっちは専門家じゃなくて観光気分の人も多いらしいけど。

あと、資料館の方は魔導書の類が無いので、普通のスタッフを普通に雇えるのもポイントだ。実際あっちでも行く当てのない漂流者雇ってるとは聞いた。

「今回は随分多いですね」

出てきたのが段ボールで5個分に、別分けて厳重に梱包された『本物』が数冊。一応全部確認してから、どっちに回すかを決めるルールだ。

「ああ、群馬の方で漂流者のシェルターが見つかってね。そこの漂流者が今後の生活費代わりに全部売り払ったんだ」

「禁書や魔導書の当たりはほんの数冊じゃったが、普通の技術書と、揃いの漫画のセットが何種類かあるえ。中々に読みごたえがありんす。特に岸部露伴の奴がおススメでありんす」

それを鑑定したロレンスさんの奥さんであるホロさんが読んだ感想を言う。

「……それとな、艶本の類も何冊かありんす。この世界とはまた違う趣あるもので色々とな、ロレンスとの営みに参考にしたぞえ」

ホロさんが耳元に口を寄せてそんなことを言う。

ヨイツの賢狼といいつつ、狐みたいな顔で。

「え、エッチなのはダメです!し……じゃなくて私は確認できません!」

昔の癖でつい『死刑』といいそうになって慌てて誤魔化す。もうお給料貰って働いてる大人なんだから、そういうことを軽々しく口にしちゃいけない。

特に漂流者は、基本的な考え方が違うから、うかつに口走ったことがどんなトラブルにつながるかわかったもんじゃない。

口は禍の元。そう、ウイさんが教えてくれた。

「ほう。そうかそうか。ならば艶本を読めるような大人を呼んできてくりゃれ」

ホロさんにけらけらと笑われながら、私は本館に戻る。艶本はちょっと気になるけど、お仕事に専念することにして、買い取り担当のスタッフを呼ぶ。

「うん。わかった。ありがとうね。コハルちゃんは本当にいい子だね。きっと親御さんと学校の教育がよかったんだねぇ」

呼んできたスタッフの人に頭を撫でながらそう言われて、恥ずかしさに翼で目元を隠す。

なんだか、子ども扱いされてる気はするけど、不思議と嫌な気分にはならなかった。学生だった頃は、とても嫌だったのに。

 

 

一日の仕事を終え、身ぎれいにしたら、私はパソコンに向かう。

やっているのは、小説というか、エッセイの執筆だ。まだパソコンに慣れてないから、ものすごく操作は遅いけど、それでも少しずつ書けてはいる。

内容はもちろん、私の人生の記録。

前の世界であったことを思いつくままに書いていく。忘れないために……忘れられないために。

 

辛かった記憶については後回しにして、とにかく楽しかったことと、正義実現委員会がどんな所だったかだけを描いていく。

だって、誰が死んだとかどんな酷い目にあったか、なんてわざわざ知りたがる人はいない。

だから、楽しかったことだけで埋めていく。読んだ人に、楽しい気分でいてもらえるように。

 

幸い、参考となる資料はあった。

 

……地下書庫の一番奥にこっそりと隠されていた奇麗なノートに奇麗な字で書かれた委員長……ツルギ先輩が残した思い出を描いたノート。

学園最強で、どこの誰からも恐れられてた怖い人だったが、ノートに書かれている内容から見えるツルギ先輩は、どこにでもいる普通の女の子だった。

 

それを読んで決意したのだ。私も、出来るだけ多く残そうと。

 

ーーーコハル。あなただけでも生き延びなさい。そして後世に伝えるのです。我ら『正義実現委員会』が最後まで勇敢に戦ったことを!

 

副委員長の、最後の遺言を果たすために。とても恥ずかしいし、難しい仕事だけど、一生懸命に。

 

出来上がったらウイさんに読んでもらおう。そうして感想を聞くんだ。多分、あの人だったら素人が書いた拙い文章でも、喜んで読んでくれると思うから。

 

そう、決意していた。

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