既に見慣れた紫色の空の下。校庭で私はスレッタさんから借りた【造魔:カヴン】と共に誰かが来るのを待っていました。
二時間とは伝えましたが、実際は睡眠も食事も必要としない私がしばらく入り口を監視する予定です。
どのみち、偵察が送り込まれた以上は次に斥候か戦力が来るのは間違いないのですから。
私たちの知らない技術と様式で作られている、カメラとマイクがついた偵察用のラジコンをイロハさんが撃ち落としてきたときには本当に驚きました。
未だ感知されぬよう遠目でしか見たことのない平和な時代の人間が、ついに接触してきたのです。
今、校舎内の生徒会室では普段の仕事を休んで生徒会の皆さんが集まり、この時代の人間が来るのをカヴンが撮影した映像を映すモニターの前で待機しています。
旅立ちの前、理事長からは聖華学園がどうなっているのか分からないので慎重に動くように厳命されました。
その一つに、接触をするなら死んでも姫宮様のデビライザーにリターンするだけで済む私を先鋒にせよという指示がありました。
いかにレベルが高くても、人間である以上どこかで不覚を取る可能性はあるし、単純に数の暴力には負ける可能性がある。
被害は最小限になるようにせねばなりません。私たちはもう6人しかいないのですから。
聖華学園と一対である旧校舎異界が残っているのならば、既に学園が破壊されて廃墟になっているということは無いはずだと、理事長はおっしゃっていました。
ですが他の世界崩壊を企む組織に乗っ取られていたり、蠱毒じみた受胎儀式の末に魔神皇のごとき凶悪かつ強力な魔丞と化した生徒の支配下に置かれていたり、
そこまでひどくなくとも、九頭竜に8割がた世界が壊された我々が居た時代のように学園の外の世界が崩壊して組織としての限界を迎えている可能性はある。
そうなった学園をこれまで『死ぬほど』見てきたと理事長は遠い目をしておっしゃっていました。
ここを訪れるのが交渉のできない類の敵であれば振り飛車からの入玉……という御指示はいただきましたが、
もし、聖華学園が私たちと同じ志のままに動く組織のままであったならこちらの親善試合という提案に乗っていただける可能性は高い。そう姫宮様は見ています。
向こうとて、いたずらに消耗するのは本意ではないはずですし、何より私のレベルを明かしました。
聖華学園の生徒会のレベルはその時の状況によってまちまちですがおおよそLv30を越えることは稀で、副会長や第13生徒会でも40~50。
稀に表れるレベルホルダーと呼ばれる規格外の天才でもLv60に達するかどうかで、受胎により生まれた魔丞であってもLv80を越えることは稀。
外の世界の人間の異能者や悪魔も大体そのくらいの実力であるとMicopedia*1には書かれていました。
親の世代から数えて20年間、必死になって
第13生徒会としての連携と文字通りの意味で切り札である『龍王』も考えれば、たとえ相手が魔丞であってもそうそう遅れをとることは無いでしょう。
そう考え、待っていると、旧校舎異界に複数の侵入者の反応がありました。
通達から30分……思った以上に早い。そう思いながら私は彼らの姿を確認しました……通信用のマイク越しに、生徒会の皆様が息をのむ音を聞きながら。
「君が、ルールー君だね?申し訳ないが、アナライズで確認させてもらってもいいかな?」
「……はい。どうぞ。こちらも確認させていただきますがよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
デモニカ越しに聞こえる、先代の姫宮様を陰ひなたに支え続け、多くの生徒に恐れられ、慕われた教頭先生の言葉に、思わず声を詰まらせて頷きます。
脇を固めるのは学園の守護者である花子君に、修復跡のない真っ白なレーヴァテインを纏った相良先生。
我々が生まれる前の九頭竜撃退戦で
そして、私を無言でじっと見つめている、エチェバルリア先生*2と共に私の『親』とでもいうべき存在だった多仲先生。
Micopediaでは第13生徒会に選ばれる可能性が高いとされていた人物が勢ぞろいで姿を見せた。
そのことはいいニュースと言えるでしょう。まだ学園は、その中立を保っているということなのですから。
生徒会室でそんな会話がなされているのをマイクで受け取りながら、私は話を続けます。
「……確認した。造魔ルールー。Lv67。それと造魔カヴン。Lv52。相良君と比企谷君の方はどうだい?」
「自分も同様の結果でした。欺瞞の可能性は低いかと」
「俺もっす」
教頭先生と相良先生、比企谷先輩に確認していただいたところで、深くお辞儀をして、第13生徒会の皆様をお迎えします。
「ようこそいらっしゃいました。この時代の第13生徒会の皆様。改めてご挨拶させていただきます。私は、ルールー。第13生徒会の会計補佐を勤めさせていただいております」
「ああ、よろしく。私は、林水敦信。この聖華学園の『卒業生』だ。かつては姫宮を名乗らせてもらっていた身でもある」
卒業……確かに教頭先生が姫宮を勤めた時代は何度かあったとMicopediaにはありましたが、いずれの場合でも世界の崩壊は教頭先生の卒業より早いはず。
世界が崩壊した場合、学園の卒業は無期限延期になるか、教師になるはずなのですが。
気になることはあれど、今はそれを確認している場合でもありません。
「そうなのですか。ご卒業、おめでとうございます。では林水……先輩。先ほどお話した親善試合の件ですが」
「ああ、この場に君とその造魔以外がいないことを察するに、君たちが守るこの学校異界を我々で攻め落とす。といったところだろう?」
流石は切れ者で知られた教頭先生……林水先輩は既に、私たちの要求がどのようなものなのかご理解しているようです。
私は頷き返し、求める条件を説明します。
「お話が早くて助かります。林水先輩。我々はけして数が多いとは言えませんし、我々の得意分野は襲撃の撃退ですので」
実際は私を入れて6人と仲魔が数十程度ということは伏せつつも、頷きを返します。
この時代で活躍するためにはまず、我々の実力を示さねばなりません。となれば、最も得意とする分野を所望するのが当然。
これはお互いの実力を測る機会であると同時に、この時代の理事長に認められるための試験でもあるのですから。
「ふむ、ではお互い、出来る限り殺さない、死体を破壊しない、降参したらそれ以上は攻撃しないで拘束し、決着がつくまで一切の手出し禁止。そんなところだろうか?」
「はい。少々お待ちください……」
どうやらそんな我々の提案に乗ってくださるらしい林水先輩のお言葉に、私は目をつむり、生徒会室での話し合いを聞き取ることに集中します。
時代が違えば人は変わる。特に『黛冬優子』は敵か味方かも一切分からないので注意すべし。
とMicopediaには書かれていましたが、それでもこの時代の林水先輩は我々の知る教頭先生を思い出させるもので、
生徒会の皆様もしんみりとしつつも親善試合の条件を詰めていきます。
やがて話がまとまったところで姫宮様からご指示をいただき、林水先輩に伝えます。
「そちらは学園の理事長室を制圧したら勝ち。あと電算室には手を出さない。その条件でいかがでしょうか?」
「理事長室については了承した。電算室というのは?」
「はい。電算室は我が校の最重要拠点で、生徒会役員の居住空間とリミックスステーション……先輩方にも分かるように言いますと悪魔合体の装置があるのです」
姫宮様が全力で戦えるように『無用な鋭角』が出来ないようにほぼコンクリート打ちっぱなしの何もない部屋である理事長室と違い、電算室には大事なものがたくさんあります。
元は学園の余りに余った教室をそれぞれ私室としていたのですが、今ではみんな睡眠時を除けばほぼ電算室と生徒会室で暮らしています。
電算室はサーバーの維持のためエアコンが常時稼働していて快適なのと……学園はたったの6人で暮らすには広すぎたのです。
「……なるほど、リミックスステーションか。了解した。電算室についてはこちらも攻撃を加えないようにする。それでは、双方準備もあるだろうから、1時間後に開始するとしよう。
今回、こちらはここにいる五人で挑ませてもらおう。それでいいかな?」
「了解しました。よろしくお願いいたします。先輩方」
話が無事まとまり、ほっと安堵しました。
戦いはこれからですし、この時代の先輩方のLvは私たちの知る先生方よりはるかに高く、我々とほぼ同格という問題はありますが、それでも最悪の想定よりはだいぶいい条件の時代に来れたのですから。
そして、一旦姫宮様のデビライザーに
「なあ、ルールー……さんよ」
これまで黙って話を聞くだけだった多仲先生……先輩が私に話しかけてきました。
「はい?なんでしょう?」
「アンタ、その姿と名前が俺たちにはどういう意味があるか知ってるか?」
少しだけ迷った後、多仲先輩は私にそんな質問を投げかけてきました。
私のこの姿が偶然なのか否か、じっと探るように。
「もちろんです。エチェバルリア先生と多仲先生が二人で話し合い、この姿を選んだと聞いております。私も大好きです。ふたプリから
それに対して、私は自信と共に答えます。
この世界に生れ落ちてはや3年。最初から最後まで通しで全部揃っているアニメは大変な貴重品で、学園の生徒なら一度は見たことがあるものでした。
私もいつかは造魔であってもプリキュアのようになって強く優しく、みんなを応援できるようになって欲しい、そんな願いを込められた二人のお父さんの意思は受け継いだつもりです。
「……そうか、アンタの世界じゃあHUGプリで
「……その後も、あるんですね?」
「あとで布教用のブルーレイ貸すわ。もちろん、劇場版も込みだ」
「はい。楽しみにしております」
そして、私の答えに帰って来た答えに心が躍ります。また一つ、新しい時代の楽しみが増えました。
「呼び止めてすまなかった。じゃあな。お前の
別れ際に多仲先輩に不思議なことを言われました。
……マシェリ?確かフランス語で女性の恋人、愛人といった意味合いだったでしょうか?
「はい。姫宮様にはよろしくお伝えしておきます」
何故フランス語なのかと戸惑いながら、とりあえず答え、私は帰還しました。
*
戦いが始まる1時間前、理事長室に移動した姫宮様の手により私は再召喚され、生徒会の会議に参加することになりました。
「ご苦労様。ルールー。向こうの第13生徒会は全員一度撤退したわ……みんなはどう思う?」
ねぎらいの言葉もそこそこに、姫宮様は全員の顔を見渡して意見を求めます。
「いやまさか全員Lv70前後とは……耐性はどうせ装備で弄ってくるでしょうし、スキルも抜けませんでしたし、理事長情報、意外とあてにならないかもしれませんね」
最初に口火を切ったのは、副会長であるイロハ先輩でした。
棗イロハ副会長は生徒会の最年長者であり、先代の第13生徒会から戦い続けている古参の役員でもあります。
龍王とマシンを合体させて作られた第13生徒会伝統の【悪魔戦車:超無敵鉄甲虎丸】の乗り手であり、
純粋な召喚術の腕前なら姫宮様をも上回る悪魔召喚師であり、当生徒会の戦術の要でもあります。
本人がやる気さえあったならば、姫宮を名乗っていたのはイロハ先輩だったかもしれません。
「やれやれだぜ……
空条君が、少しだけ嬉しそうに、多仲先生と戦うことを告げます。
書記の空条承太郎君はどんな敵をも打ち砕く最強の拳を持つ【星:ヘラクレス】のペルソナ使いです。
近接戦の技術を多仲先生から直々に教わったこともあり、ことお互いの攻撃が届く接近戦においては当生徒会最強と言って差し支えないでしょう。
「で、でもよかったです。相良先生も、多仲先生も、教頭先生も、花子君もみんな生きてて……アズサちゃんも、生まれ変わって学園にいるのかな……」
スレッタさんは少しだけ遠くを見る目をしながら、先日お亡くなりになった白洲アズサ庶務のことを思い出して涙ぐみました。
庶務補佐のスレッタさんは世界崩壊後の何かの研究施設らしき建物の廃墟の中で冷凍睡眠状態で発見された、強化人間です。
出自について詳しいことは本人も知らなかったため分かりませんが、より強力なデモニカの使い手を目指して作られたようで、デモニカを使いこなす能力は当生徒会でも随一です。
少なくとも【専用デモニカ:エアリアル】を使用して一度に最大12体もの造魔カヴンを制御操作できるのは、彼女だけです。
「問題は比企谷とやらか……オレたちが生まれる前に死んだ先輩となると、Micopedia以外は情報が全くないな。オレは複数の女を恋人にしてた女好きだったって話を聞いたことがあるくらいだ」
そのような感傷に浸らず、冷静沈着にこれから戦う相手のことを考えているのがパピヨン様。
当生徒会のマッカと各種物資の管理調達を担当する会計にして、妖精オベロンと悪魔合体することで病弱だった人間の身を捨てた【悪魔人間】であり、会計補佐を務める私のもう一人の上司でもあります。
戦闘スタイルが爆発魔法による広域殲滅を中心としていることから今回の戦闘には向きませんが、エチェバルリア先生の直弟子として技術をおさめられた悪魔合体師であり、
デモニカをはじめとした機械の整備士でもある彼なくして当生徒会は成り立たないと言っても過言ではありません。
全員の簡単な感想を聞いたところで、姫宮様が最終的な決断をくだします。
「……まずは相手の出方を見る必要があるけれど、スレッタと承太郎が先輩方と一当たりして、イロハはいつも通り、状況に応じ臨機応変に対処。私とルールーは理事長室の防衛。パピヨンは壊されないように電算室でオペレータをお願い」
「おう」「わ、分かりました」「了解」「了解しました、姫宮様」「うむ、それでいいだろう」
「よろしい。では50分後に理事長室に集合。それまでは各自準備をしていてちょうだい。解散」
姫宮様の言葉を最後に、全員がそれぞれに動き出します。
……私も電算室でMicopediaを再確認することにしましょう。今回の面々について。
そして1時間後。
「来たぞ……」
理事長室にフル装備で集まった私たちは先ほどとは装備が違う、準備を整えた5人が学園に再び入ってしてきたのを確認し、試合が開始されました。
事前に偵察用に仕込んでおいたカメラやカヴンを使い、正面玄関から校舎に入って来た先輩方の様子を、電算室にいるパピヨン様が伝えてきます。
「入口のトラップは相良と比企谷に解除された……二手に分かれたぞ。相良と忍者で1チーム、他3人でもう1チームだ」
どうやら先輩方は二手に分かれたようです。一か所に集まって全体攻撃の連打で一網打尽にされるのを警戒しているのでしょうか?
「……ん!?」
そんなことを考えていると、パピヨン様が予想外の出来事があったかのように警告の声を上げました。
「なに?どうしたのパピヨン」
「教頭たちが、消えた」
それから、何事かを問う姫宮様にパピヨン様が焦りながら答えを返してきます。
「え?え?」
「どういうことだ?」
「消えたって、トラポートでも使いましたか?相手の座標は?」
突然の状況変化に戸惑うスレッタさんと空条君に対し、イロハ先輩が冷静に問い返します。
その様子を見て、浮足立った二人も落ち着きました。
「ちょっと待て……エネミーソナーの反応ではほとんど移動していない?……光学迷彩の類か?」
「……ルールー。比企谷先輩について、思い当たることはある?」
次いで明かされた情報に対し、姫宮様は最も繋がりが薄い比企谷先輩について問うてきました。
確かにこの状況を引き起こすとしたら、犯人は私たちがよく知らない比企谷先輩の可能性が高い。そう考えながらMicopediaの記述を思い出します。
「少々お待ちください……比企谷先輩は、隠密と補助を得意としていたようです。まるで『透明になったかのように』姿を隠して敵陣のど真ん中すら駆け抜けられる能力の持ち主だと」
……そして、その記述の中から忍術やカルトマジックか何かで自分にしか使えない類の技術だろう。そう思っていた一文を口にします。
「まるで暗刃のねえニンセンみてえな奴だが……その透明化が『他人にも付与できる魔法かスキル』だった*3っつうことか?」
「そ、そんな魔法やスキル聞いたことないですよ!?」
空条君が素早く私と同じ結論に至り、スレッタさんが驚きの声を上げます。
「……いや、あり得るな。ティンダロスどもの使ってきたスキルはどれもこれも1年前まで俺たちの知らないスキルだらけだった」
「手段はさておき事実として教頭先生たちは透明になりました。そういうスキルなりアイテムがあると考えて動くしかないでしょうね……面倒な」
この生徒会の頭脳担当でもあるお二人も、その推測を肯定しました。
それは、我が生徒会にとっては凶報と言えるでしょう。
「姿が現れた。恐らく有効な時間は30秒といったところか。要所要所で使われたら狙うのは難しいだろう」
教頭先生のチームは、消えたり現れたりを繰り返しているようで、やはりそういうスキルのようです。
「イロハ、ちなみに聞くけど、おおまかな座標自体は分かってる透明な相手を砲撃して撃破を狙える?」
「無理ですね。その辺の雑魚ならともかくLv70前後はまぐれ当たり狙いで闇雲に砲撃して倒せるほど弱い相手じゃありません。
そもそも連携もなしに一発や二発当てた程度であっさり沈むとも思えませんし、仮に倒したところで速攻蘇生されて終わりです」
姫宮様の質問に、イロハ先輩は首を振りながら一応答えます。
「でしょうね。つまりこっちの
恐らくイロハの
整理するように、姫宮様は自分たちの不利となる情報を説明していきます。
私たち第13生徒会の相手もまた、第13生徒会である。
今更ながら、その事実に思い当たります。
「参りましたね。こっちの勝ち筋はあんまり多くないんですが、もう
「つまらない冗談ね。まだ序盤も序盤よ?その程度で諦めてたら聖華学園はとっくに滅んでいるわ」
おどけたように言うイロハ先輩に、ふんと鼻息を一つ吐いて、姫宮様は答えました。
「魅せてやろうじゃない。今代の姫宮を……『竜王Lv0』の娘って奴をね」
そう、姫宮様は……
初期のものは報告書のようなお堅い文書だったが、後半に書かれたものほど内容が荒唐無稽だったり、小説風味になっていたり、巫女様自作イラストがついていたりする。
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