GA文庫には、りゅうおうのおしごととほぼ同期に滅茶苦茶売れた小説がある。
失敗した。
どんどんと状況が悪くなっていく中、己のミスへの後悔がどんどん降り積もるのを感じていた。
初めて対峙する【知ってはならない存在】と、これまでの【知ってはならない存在】とキリギリス精鋭の戦闘記録情報。
これまでにキリギリスが戦ってきた【知ってはならない存在】はどれもこれも傲慢なまでに一方的な特殊スキルによる穴だらけのコンボを使って来るか、
同じ行動を繰り返す機械じみた存在か野生の獣のように本能で動く非合理的存在だったと知っていた。
それを知っていたが故に、2回連続で使用された【山津波】という薄い根拠で私は思い込んでしまった。
目の前のクトゥルフもまた過去に討伐された九頭竜と同じで【知ってはならない存在】特有の、機械じみた存在なのだろうと。
己の技術を磨き上げ、仲間と連携を取り、さらには裏をかかんと騙しを仕掛けてくる、魔人の如き一流の戦闘者である可能性を見落としていたのだ。
多仲君を死に体に持って行ったあと、クトゥルフは先ほどまでの山津波一辺倒が嘘のように様々な技を繰り出してくる。
その強靭な肉体を使って【暴れまくり】、魔力と体力を【吸魔】で奪い去り、【テトラカーン】で傷ついた他の仲間を守り、そして当然のように【山津波】を放ってくる。
一手一手を考えて動いているのが分かる……まるで熟練のデビルサマナーが、クトゥルフの皮を被っているのだ、とでもいうように。
先ほどの
次に多仲君がアレを食らえば問答無用で
それを考慮してもこちらにも攻める手段はある。魔法喰いとて貫通持ちの悪魔の魔法は防げないし、ガードキルを使えば通せるようになる。
猛反撃に耐えながら、万が一テトラカーンで反射されても死なない程度に抑えてちまちまと削ることもできるだろう。
……回復されなければ。
そして、クトゥルフの技が繰り出される。
「コオオオオオオ……」
クトゥルフが手を広げると、手のひらに黒い電撃の球が生み出される。
どの魔法かまでは流石に見分けがつかないが、恐らく電撃の何かだろう。
そして充分に威力の高まったそれを、クトゥルフは放つ……自分の胸元に。
電撃がクトゥルフの体内を駆け巡り、その傷を癒していく。
そんなクトゥルフを見てすぐ、アイ君が再び血塗れのデビライザー……恐らくは理事長が言っていた狂死スペシャル専用のデビライザーで新たな弾を撃ちだす。
「弾けて混ざれ! CALL、ライジュウ!」
先ほどのメギドラオンを放つパワーが
デビライザーから放たれた『白い雷の獣』が真っすぐにクトゥルフに着弾する。
クトゥルフに命中した獣の弾丸がはじけ飛び、白い電撃をクトゥルフに走らせ蓄積していたダメージを消し去る。
白と黒。二つの電撃がまじりあって一つとなった直後。
「
「オラ!雷障石!」
多仲君の警告に合わせ、比企谷君が懐から取り出した雷障石を投げる。
その直後に、クトゥルフの体内でまじりあい、白と黒の螺旋となった電撃のビームが私たちに放たれる。
ーーー九頭竜
スキル名は一度ルールー君が教えてくれた。命名したのがルールー君らしい。
一度マカラカーンで跳ね返しては見たが当然のように電撃は全員無効以上の相性だった。
相性は電撃なので雷障石が砕けて出来たバリアで防ぐことはできる。
……さて、比企谷君の雷障石の在庫は後何個あるのだろう?
その正体事態は知っている。電撃に電撃を重ねることで発動する【合体魔法サンダーブラスト】だ。
発動も簡単で、同じ対象に、呼吸を合わせて電撃を2回打ち込めばいい。それで敵全体を焼く雷撃が発生する。
……『同じ対象』にタイミングを合わせて魔法を使うを『電撃吸収できる本人』にして回復と攻撃を同時に行う運用は、ちょっと見たことがなかった。
(合体魔法など、他の周回では秘伝だったはずなのだけどね……)
恐らく自力で編み出したんだろう。そういう子だともう分かってはいる。
そう、火力が足りなければ、倒す前に回復が間に合ってしまう。ボスのくせに全回復を連発してくるのはいただけないと思う。
「ああクソ!先輩!あれ、電撃ガードキルぶち込んだら勝手に感電死してくれませんかねえ!?」
「多分、ガードキルした時点で使わなくなるだけだと思うよ……待てよ」
同じ思いらしい比企谷君に、私はため息と共に答える。
彼女たちの周回にガードキルがあったかは未検証だが未知のスキルを食らえば警戒くらいはする。あれは多分、攻撃と回復が同時にできるから使ってるだけだ。
とはいえ、比企谷君の思い付きは、私にも閃きをもたらしていた。
彼女たちは中々に研究している。だが、それでも必ず通じる手が一つだけある。
……彼女たちが多分『誤解』している技だ。
ふう、と息を吐き、宣言する。
「……諸君、作戦通りにいこう。龍王崩しを、行う」
元は砲撃手……棗副会長対策に用意した策だが、きっと今の状況では最善だろう。
*
「……諸君、作戦通りにいこう。龍王崩しを、行う」
その宣言と共に、教頭先生の動きが変わったのが見て取れた。
全員が連携して、防御態勢を整え、悪魔を引っ込めて、召喚とサバトマを駆使して新たな仲魔たちを召喚する。
「行くぞ君たち!」
「「「ヒーホー!!!!」」」
呼び出されたのは黒いジャックフロスト、例の如く変な格好のジャックフロスト、そして変な格好のジャックランタン。
ヒーホーども!
アイツら、やたらバリエーション多い上にどいつが何してくるかわからない、面倒くさいの筆頭じゃない!
未知の何かをしてくる!
わたしは出来るだけ、広い対策をとる。
「デ・クンダ」
「ラスタキャンディ」
防御力を出来るだけ上げて……虎の子の宝玉輪を地面にたたきつける。
物理ならば、
全員の体力が回復し、穴熊の体制が整ったところで、おかあさんが動く!
おかあさんの山津波が辺りに轟く。
どんな敵でも砕く、万能の一撃。だが。
「……
「「に、忍者のお兄ちゃん~!?」」
その中でも一番弱々しいジャックフロストとジャックランタンだけは忍者先生が【かばう】ことでノーダメージだった。
その代償に忍者先生は死んだ。おかあさんを倒しうる
(どうする!?蘇生できないよう、死体をくだ……)
慌てて思考を止める。これは親善試合だったはずだ。殺し合い抜きの。
そんな当たり前を思い出したことが、隙だった。
「比企谷君!」
林水先輩の言葉と共に、一斉に向こうの第13生徒会が動く!
「了解!先輩、頼んます!ドロンパぁ!」
初手は、比企谷先輩。聞いたことのある魔法……イロハの砲撃対策で使ってた透明になる魔法!
効果は『単体攻撃』を無効化する!
「はん。今更隠れたって、この部屋のどこかに……おかあさん!?」
それは、確かに対象を……部屋の中央にいたおかあさんを透明にした。
万能すら喰らう魔法喰いを抜けたということは
「行け!ジャアクフロスト!」
分かった時にはもう、遅かった。
「やるホー!ヒーホー!愛と怒りと悲しみの【マハブフダイン】だホー!」
山津波で瀕死まで追い込まれてなお止まらないジャアクフロストの、限界まで強化したと察せられる凄まじい冷気が部屋全体に吹き荒れる。
すごい寒さだ。わたしは咄嗟に凍り付いたルールーロボを盾にしつつ、耐える。
「くっ!?ルールー、すぐにメディ……おかあさん!?」
身体が凍り付きそうになるのをなんとか耐え抜いて、ルールーに指示を飛ばそうとして、気づく。
おかあさんが、万能すら通じない魔法喰らいのおかあさんが、氷結魔法でとんでもないダメージを受けた上に、凍り付いている。
「な!?」
「おお!?ラッキー!デビルバスターバスターズの、戦場の死神パワーをみせてやる!」
理解が追い付かないわたしをあざ笑うように忍者先生が命を捨ててまで庇ったヒーホーどもが【アイスクラッシュ】を使用し……
ガラス細工が割れるようにおかあさんが砕け散って、氷の破片になったあとマグネタイトに戻って消える。
「……は?嘘、でしょ……一撃……?」
いっそ美しく感じるそれに一瞬、あっけに取られる。
「ま、まだ!ルー……ルー?」
「悪いね。【招来の舞踏】だけは死んでも使わせたくなかった……
そのほんの一瞬で、氷結こそ免れたもののただでさえ先ほどの【マハブフダイン】で大ダメージを受けていたルールーは花子君と教頭先生本人の同時攻撃を受けて倒れた。
もしもここで攻撃を重ねられれば死ぬという状況にも拘わらず自身の回復すら捨てた、見事な寄せだった。
「申し訳、ありません……」
わたしに謝りつつ、ルールーがデビライザーにDead状態で戻ってくる。
わたしはこの状況を打開する方法を必死に考え……
最後に私を守るルールーロボが倒され……
「
「……ありません。お見事です。教頭先生」
だからこそわたしは教頭先生に剣を突き付けられ、一手詰みで、
*
「織莉子。愛を受け入れてくれ。オレはもう、お前抜きじゃ生きてられないんだ……」
朝焼けに染まったホテルの一室で、私を抱いたまま蓮が囁きました。
「嘘つき。私、知っているのよ。アナタに恋人が何人いるか」
そう、それはいつも嘘。魔性の魅力を持つ彼の傍から女が絶えることはないのです。
きっと平凡な私を抱いたのもほんの気まぐれなのでしょう。
「……全員と別れた。だからもう、オレに恋人はいない……オレの恋人になってほしいんだ、織莉子」
「そんな!?浮気性だった貴方がどういう風の吹き回しなの?」
だからこそ、その言葉に驚いて蓮の顔を見ました。
蓮の顔は真っ赤で、まるで17歳の学生のようでした。
「分かったんだよ。この世界に色がついているのは織莉子、君がいて、笑ってくれるからこそなんだ。
君からの真実の愛を得られないのならば、世界は灰色のまま。オレの世界に色を与えてほしい」
蓮は悪い人からしか盗まない怪盗で、年収は3億円くらいあります。
そんなすごい人なのに、私なんかを選んでいいの?
そう、不安になります。
「蓮……」
「織莉子……抱きしめてもいいかい?」
だけど本気なのは目を見ればわかりました。
でもダメ。ダメなのです。だって……
「……ダメよ。だって私にはもう、悠が……」
「織莉子!」
「ゆ、悠!? どうしてここが!?」
そこに現れたのは、私の最愛の夫である悠でした。叔父さんと共にみんなの安全を守る警察官を勤める優しい旦那様。
年収は3000万円しかないけど、それでもささやかに幸せな暮らしをするには充分です。
「……GPSさ。僕の携帯から、君の場所はいつでも把握できるようにしているんだ」
そういいながら見せてくれた携帯の画面には確かに『織莉子。僕の最愛の奥さんはホテルのスイートルームにいる』という言葉が浮かんでいたのです。
「帰ろう。家で冬優子が待っている……ママ、どこに行ったの?って寂しがって泣いているんだ」
「ああ冬優子!私の娘!」
そうだ、結婚した日に誓いました。この人を大事にしよう、子供はあい先生よりも多く、七人作ろうって。
「蓮!ごめんなさい!私、行けない!だって家族がいるんだもの!」
「そっか……家族ならしょうがないな……」
私の言葉に、蓮も分かってくれました。ちょっと寂しそうな少年の笑顔で答えます。
「……織莉子、いつか俺の子供も産んでくれないか?」
「だ、ダメよ。浮気なんてダメ」
その笑顔と言葉に私は思わずときめいてしまいますが、それでも家族を裏切るわけには……
「……一人くらいなら、浮気じゃないんじゃないか?」
そんな臆病な私を優しく押してくれるのはいつだって悠。私の最愛の旦那様です。
「悠!?」
「僕だって、鬼じゃないし、蓮が良い奴だってのは知ってる……僕たちの家族に一人くらい、蓮と織莉子の子供がいてもいい、だろ?」
ああ、悠!優しい旦那様!
優しい旦那様のお言葉に、私は感極まって抱き着きます。
「……幸せにな。織莉子」
そんな私たちを祝福しながら、蓮は夜の闇に消えていきました……
戻って来たなんでもない日常の日々。
しかしそんな幸せな日々は長くは続かないのでした。突如空に現れた凶星アリオトによって……
Lighting by O☆ミRi☆ミCo☆ミ MiKu
Thank you for Reading you
(次回に続く)
「ぎ、ぎぎぎ……があああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
衝動的に10億円も払った古びたパソコンごと破壊しそうになり、慌てて抑える。
『気になるアイツは恋怪盗 ~若奥様に忍び寄る危険な香り~ (自作のイラスト入り)』
とりあえずで最初に確認した『一番の人気記事』とかいう名前のかつての自分の渾身の
こんなんで周回終えたら次の周回以降が大変なことになるのでなんとか食いしばって死の誘惑を断ち切る。
……よし、落ち着いた。
ところでマジでこれ、全部私が目を通すの……?
その事実に気づき、私は思わず部屋の入り口を見る。
そこには首吊り用のロープは、まだかかっていなかった。まだ。
聖華学園自称第13生徒会案件について聞き、林水君に思い出した記憶を伝えたのが数時間前。
慌てて出かける準備をしている間に、親善試合とやらは決着がついた。
結果は、双方死者を1名を出しただけでこちらの勝利で無事終了。死者は両方Lvダウンもなく蘇生成功。
……親善試合ってなんだっけ?と思ったのは、私があまり外に出ないからだろう。
そしてそれから、私は向こうの生徒会長(ロリ)と交渉し、パソコンを一台買い取った。
(本当にこれ、10億円と封魔管の価値あるのかしら……)
払った代償は、うちの予算を考えればまあそれほどでもないし、何よりそれで彼らが『買える』なら安いと、林水君も太鼓判を押してくれた。
彼らは聖華学園に編入し、貰った10億円で装備とアイテムを整え、その後は役職こそないが第13生徒会として活動する予定だ。
(でもこれの真贋分かるの私だけで、そのくせ下手に流出させると大変なことになるのよね……)
かつての私の私物だったというパソコンにはとあるデータがぎっしりと詰まっていた。
Micopedia
彼らが言うには過去の周回の自分が書いたという、私の脳内にしかないデータを20年分まとめたもの。
その言葉を確認できるのは私だけな上に考えようによっては『どこよりも正確で詳しい預言書』でもあるのだ。
最初に見たのが特級呪物だったので信用度がアホほど下がったが。
(でもまあ……読むしか……)
そう思い、とりあえずまともそうな項目から読みだして……
熱中する。アツい!これは、すごい。
聖華学園での20年の間に、出来る限り自分の脳内の情報を記すという執念が詰まっている。
可能性の高いルートはもちろん、混乱させるだけだから、と私が誰にも説明していないトンチキな結末まで、出来得る限りひたすらに書いたことが分かった。
中にはティンダロスとの生々しい戦闘記録を筆頭に私が知らない知識、忘れていた知識もあるし、今の私の知識と合わせることによる新たな発見もある。
何かあったらこれを見せればいいだけになる分、関係各所への連絡は一気に楽になるし、本当に信用できる人間にだけなら直接見せてしまうのも手だろう。
そうこれは
(ああ、今度こそ乗り越える。そのために、使わせてもらいます……美国織莉子理事長)
そう、私はあの周回の自分に感謝をしながら……特級呪物をこの世から永久に抹消した。
それはもう、念入りに。絶対に復活しないように、念入りに。
*
「おや。戻って来たのですか。もう少しかかるかと思いましたが」
「はい。思ったよりも早く終わりました。大いに収穫もありました」
「なるほど、それは良かった。ところでそちらは?」
「お土産ですよ。新しい情報です」
「おや」「おやおや」「おやおやおや」
「それで、一体どんな情報なんです?」
「とある漂流者から貰ったデータですね。使い手が少なすぎて検証が進んでいない狂死スペシャルについてです」
「ほう。確かに狂死スペシャルについては謎の部分が多い。なにしろ大正時代に失伝していますからね」
「概要を聞くに、費用対効果が悪すぎたのでしょう。凄まじい威力があるとはいえ、一度使っただけで仲魔がロストでは、愛用するのは狂人と称された葛葉狂死くらいでしょう」
「精神が汚染されるとも聞きます。断末魔がきついと」
「それについては、自我を剝奪したアプリ式の悪魔ならば、抑えられる可能性はないでしょうか?」
「要検証ですね」「検証です」「検証しましょう」
「話を戻します」
「つまり、その漂流者の周回では、使われていた技術なのですか?」
「はい。狂死スペシャルを使える教師がいたということで、広く広めたようです。そのお陰で彼女の周回では使い手が複数おり、検証もある程度はなされていたそうです」
「おやおやおや?彼女などと言ってよいのでしょうか?情報提供者の個人情報はみだりにだすものではないですよ?」
「……失言いたしました。平にご容赦を。ですがまあ、明かしてしまった以上は彼女で進めさせていただくとしましょう」
「まず、一つ目。狂死スペシャルの習得方法についてです。かなり理論的にまとめてありますので、達人と称されるほどの使い手ならば、相応の訓練で習得できるかと思います」
「なるほど。それならば覚えることは出来るでしょうね」
「それならば、検証が進むでしょう。新しい技術に対しては費用対効果無視で習得するマニアというのはいますから」
「それなのですが、費用対効果についても、一定の効果が得られそうな情報もありました」
「おや」「おやおや」「おやおやおや」
「こちらになります。使用する悪魔と効果の対応表です。使い手が検証してまとめたものです」
「なるほど。こうしてまとめられていると便利ですね」
「無論、こちらでの検証も必要ですが」
「それはそうです」
「表を見るに、おおよそ対象悪魔が使うものから1段階から2段階程度強い攻撃魔法が発動するようですが」
「どこを見て、費用対効果が高いかもしれないとおっしゃるのです?」
「こちらになります」
「どれどれ……ほほう。これは剛毅な」
「魔人ブラックライダーLv52を弾丸にした場合ですか。使用状況が空に向けて無駄撃ちというのが気になりますが」
「効果は相性は万能、弾丸の収束率から考えて対象が単体、撃った後の雲の様子から見て威力はメギドラオンをはるかに上回る……と」
「……それは魔人のマガツヒスキル『至高の魔弾・改』では?」
「おや」「おやおや」「おやおやおや」
「単純に威力がメギドラダイン級だっただけかもしれません。Lv52もの悪魔を使ったのですから」
「他の悪魔で狂死スペシャルを使った効果は、悪魔の種別に関わらず1~2段階の強化のようですが」
「ですがLv50を越える悪魔を使った狂死スペシャルというのは、検証した例がこの一例だけしかないようです」
「それはそうでしょう。現環境でもLv50の悪魔は無駄死にさせるような安物ではありません」
「そもそも一体どう言う状況でそんなものを無駄撃ちしたのです?」
「彼女が言うには、過去の周回の私の仇だったそうです。そして死ぬまで嬲っていたら命乞いをしてきたと」
「それで契約し、仲魔になったところで空に無駄撃ちしてロストさせた、と」
「鬼ですか」「悪魔ですね」「うわようじょつよいというやつでしょうか」
「しかしマガツヒスキルらしきものが発動したとなれば話は別ですね」
「女神で同じ効果が得られるなら、数十、数百単位の軍隊などなら普通に釣り合いますね」
「ストックすべて復活はバランスがおかしいかと」
「……少し知己に相談してみようと思います。どのみち検証はするのですから」
「そうですね検証は必要でしょう」
「おや」「おやおや」「おやおやおや」
「何やらざわついていますが、何かあったのですか?」
「どうやら、祭りの気配がします」
「一体なにごとです?」
「先ほど漂流者向けの掲示板に一つ気になる情報が投下されたのです」
「情報?どのような?」
「スレッド名は『お前の最強の手持ちを晒せ』なのですが」
「普通にクソスレでは?」
「流石に手持ちを明かすのはおかしいでしょう」
「落ちないのが不思議なレベルの過疎スレみたいですね」
「察するに、その最強の手持ちが問題だったのですね?」
「なんでしょう?魔丞でも捕まえたのですか?確か低レベルで初遭遇したときに倒した漂流者がいたと聞きます」
「それが、単発がかき捨てで晒したのですが、龍王:クトゥルフLv97だそうです」
「おや」「おやおや」「おやおやおや」
「流石に釣りでは?」
「ままままだ慌てる時間ではないはずです」
「そもそもクトゥルフとは【知ってはならぬ存在】だったはずでは?」
「仲魔になど、出来るものなのですか?」
「晒されたのが詳細なアナライズデータ付きなのです。仲魔にしたか、複数回撃破しないと集まらないレベルの情報量ですね」
「おや」「おやおや」「おやおやおや」
「漂流者が続々と集まっていますね」
「悲鳴がここまで聞こえてくるようです」
「魔法喰いにテトラカーン持ちとはまた厄介な」
「山津波はともかく、電撃は少しショボいと思いませんか?」
「それは本当に漂流者なのですか?クズノハキョウジとかではないのですか?」
「漂流者向け掲示板ですがなにか?」
「鎧の人も集まってきてますね」
「検証が始まりましたね」
「おやおや、非漂流者向け掲示板にも転載されたようです」
「そちらも祭りになりつつありますね」
「報告します。特別警戒対象『ティンダロススレイヤー』が漂流してきた可能性があります。以上」
「おやおやおや。一体どこにご報告を?」
「おや」「おやおや」「おやおやおや」
「……どうやら間抜けは2人見つかったようだ」
*
私がようやく見れたHUGプリ最終回、はなの出産に感動の涙を流していた頃、キリギリス掲示板は大騒ぎになっていました。
「よろしかったのですか?天衣様」
「何が?」
その状況を作り出した天衣様は、不思議そうに聞かれます。
まるで、その辺のコンビニでお菓子を買ったとかそれくらいの気楽さしか感じませんでした。
「その、おかあさまの情報を晒したことです。手札を晒すなど、大問題では?」
「……やると決めた理由は3つあるわ」
私の疑問に天衣様はピッ、と指を三本上げて言いました。
「3つ、ですか?」
「1つ目。明かした情報には九頭竜
不思議そうにしている私に、天衣様は一つの書き込みを指さします。
『え~、物理弱点なんてさあ、テトラカーン張ってないとき狙って祈って撃てば楽勝じゃ~ん☆』
「……なるほど。これは死にますね」
私にもわかります。これは完全に死亡フラグというやつです。
「そう、死ぬのよ。ティンダロス相手に散々使ってきたからおかあさんまず失敗しないし」
確かに少なくともここ半年くらいは、おかあさまが
これもまた研鑽の結果というものなのでしょうか?
「で、2つ目。これはこっちの掲示板って文化を利用するためね」
「どういうことです?」
私の質問に、天衣様は掲示板を指さします。
「ほら、見なさい」
「これは……おかあさまの攻略方法が次々と考案されている!?」
そこには流れるようにおかあさまの攻略法が書き込まれています。
曰く、物理弱点でテトラカーン持ちは嫌な予感しかしない
曰く、物理攻撃はむしろ罠。ここはガードキルで行くべき
曰く、それならもう最初から貫通持ちで揃えておけよ
曰く、だったら闘気とか100%相性でもいいだろ
曰く、ドロンパとか、どうかな?
「一人でできる研究なんてたかが知れてる。だけどこうして人が集まれば勝手に攻略方法考えてくれるのよ。まあ
それらを眺めて天衣様は考えています。おかあさまの攻略方法をどう返していくかを。
その目つきは鋭く、これからを見据えたものでした。
「これも九頭竜
「どっちかというと、お父さんから聞いた将棋の手法ね」
天衣様は掲示板を見ながら、それだけ言いました。
「将棋?」
「プロ棋士の世界では新手ってのは大事な対局で披露して、相手に研究されて、その研究を別の対局を通して盗み、さらにそれを研鑽して研究を重ねることで新しい新手を産んで進化していくものだったらしいわ」
お父さんはそういう世界に生きていたのよ、と続けます。
「……2歳でよくそこまで理解できましたね」
「違うわ。雑誌の受け売り」
「雑誌?」
「そうよ。将棋部の部室にあった、お父さんがどっかのインタビューだか講演会だかで言った言葉。将棋の世界だと常識だったみたいだけど」
……ああ、そういえばありました。聖華学園の将棋部の片隅に、八一様が表紙になった古い雑誌が。
天衣様はそれを読んだようです。
「……だけど、ちょっと流れがよくないわね」
掲示板から目を離さないようにしつつ、天衣様はぽつりとつぶやきました。
「流れ、ですか?」
「そう。流れ。これ、例えるなら道端でばったりおかあさんと出会った時にどうやって攻略するか?の話になってるわ。こっちは最強の手持ちってスレに書き込んだのに」
……確かに、言われてみれば掲示板の書き込みはどれも、おかあさま一人を相手にする前提で書いているように見えます。
サマナーの仲魔の一人という考えで書いていないのです。
「……ルールー。一つ書き込みお願い」
「はい。内容をどうぞ」
身バレを防ぐため、普段天衣様は掲示板に直接書き込むことはしません。
私が代わりに書くのです。だからこそ、天衣様の書き込みに気づかなかったのですが。
『でもさあ、これって最強の手持ちだって話だろ?まあ間違いなくコイツがメインだとは思うけど、他の手持ちはどんな構成してるんだろ』
「書き込みました……本当に流れが変わりましたね。こんなのを持ってるはず、で色々な悪魔が書き込まれています」
その書き込みに触発されたように、様々な悪魔が書き込まれます。
中にはスキル指定や装備との連携まで考えたものまであり、更には有名コテハンの方々も自分の意見を書き込んでいるように見えます。
「ルールー、記録しておいて。Lv81で扱える悪魔で使えるやつを後で洗い出すから……イロハのLv75とスレッタのLv69向けも別にお願い」
「かしこまりました」
……部屋にいながら、情報を集め、更には仲間たちの装備や仲魔まで考える。
天衣様はやはり今でも第13生徒会会長に相応しい方だと思います。
それから数時間、とてつもない集中力でじっと見た後。
「まあ、しばらくは情報集めね……で、最後。これが一番大事なんだけど」
流れがループしてきた辺りで天衣様は掲示板から目を離し、なんでもないことのように宣言しました。
「しばらくおかあさんを封印するわ」
「な!?」
その言葉に、私は絶句してしまいました。
これまで、天衣様と共に戦い続けた1年。ティンダロスとの戦いは常におかあさまと共にありました。
その大前提が覆ろうとしているのです。
「前の時代だったら、おかあさんがいないとどうしようもなかったけど、この時代では違うでしょ?
「それは、そうですけど……そうなるとおかあさまはどうするんです?」
「これを使うわ」
私の質問に天衣様は懐から何かを取り出しました。
「これは……封魔管ですか?」
それは、イロハ様が使っているのと同じような封魔管。
ですが、イロハ様が使っているものよりはるかに強い霊気が宿っているように見えました。
「そうよ。織莉子ママからゆす……貰った特別製。理論上は核ミサイル直撃でも壊れない代物らしいわ」
「それをどうするんです?」
不穏な言葉を聞き流しつつ、尋ねます。
天衣様は一つ頷いて答えました。
「これの中に、おかあさんを封印する。林水先生にも相談して、呪いや汚染が漏れないよう封魔して……わたしがLv97になるまで開けられないようにするつもり」
「Lv97!?」
その遠大な目標に悲鳴を上げました。
今の天衣様のLvが81ですから、そこから16も上げないといけないのです。
そこまで上げられるなら天衣様ならティンダロスを倒し、世界を救ってしまうかもしれません。
「そうよ。おかあさんと同レベル。林水先生によれば、この時代にはLv97以上の人も何人かいるみたい。どこの誰かまでは教えてもらえなかったけど、デビルサマナーもいるらしいわ」
ですが、それすらも決して高望みではないというのです。
どうなっているのでしょう。この世界。
「……まあデビライザーに死んだまま入れておくよりは、封魔管の中で生きたまま隠居してもらう方が、おかあさんにもいいでしょ」
……ああ。そこで気が付きました。
これは天衣様なりの……
「これからは、他の子たちと連携するんだもの。一緒に歩めない悪魔はもう、使えない。少なくともわたしがLv97になって完全に使役できるようになるまではね」
おかあさまとの、九頭竜一族との決別の決意の表れなのです。
「これが、わたしなりの親離れ……なのかもね」
そう言って天衣様は少し寂し気に笑いました。
その後、天衣様は戸籍登録を期に名を改めました。
悪魔業界で使うにはあまりに目立ちすぎる『九頭竜』という苗字から『夜叉神』と。
……本当は、愛崎とかもっと可愛い苗字が良いと思うのですが、天衣様が言うのでしたら仕方がないのでしょう。
そう、私ことルールー・アムールは思うのです。
くぅ疲れました以下略
というわけで完結です。
……おかしい、ふゆといっしょにミラクルライトを振り回す予定はどこへ……
氷結状態の魔法喰い相性にアイスクラッシュが決まるかはいまいち分からなかったのですが、まあ美しさ優先の法則ですね。
……どのみち誰かアイスクラッシュで砕かれて死んでいけば崩れるので。